技術試験隊斯ク戦ヘリ 作:ザクスキー2世
ついでに、本来の歴史では存在しない架空バリエーション機も登場します。
有りそうで無い機体を妄想するのは二次創作の醍醐味ですよね。…ですよね?
宇宙世紀0079年4月7日
結果から言って、特別義勇兵のMSパイロット達はヨーツンヘイムのクルー達に半分受け入れられて、半分は受け入れられなかった。
何故このように中途半端になってしまったのかと言うと、危惧していた通りモニク大尉がライヒ中尉達のデータを調べていたらしく、わざわざ挨拶の後にライヒではなくライチェと連邦訛りで呼んだのだ。
それでブリッジに居た察しの良いクルー達は理解してしまったようで、新しく入ってきた若い女性士官に鼻の下を伸ばしていた癖に、すぐに怪訝な顔をしてライヒ中尉達を見始めてしまった。
ライヒ中尉は一瞬返答に詰まったものの、名前を訂正することもなく質問に答えていた。彼女が声を発するたび、後ろに並ぶ5人の緊張まで強くなる。オキノトリシマで一度は解れた肩に、また余計な力が入っていた。
第603技術試験隊は私の指揮下ではない。モニク大尉の職務上の質問を、気に入らないからと止めさせるわけにもいかなかった。
だが、それなら事前に書類で済ませれば良かったはずだ。わざわざ人の集まるところで、本人が名乗ったものとは違う名前を使う必要があるのか。
またライチェと呼ばれ、私は口を開きかけた。だが、ライヒ中尉は姿勢を崩さずに返答を始めていた。私の方を見ようともしない。
出掛かった言葉を呑み込み、手元の配属書類へ目を落とした。そこには、本人が名乗った通りの名前が書かれている。モニク大尉だって同じものを読んでいるはずなのに。
それでも、プロホノウ艦長は出自のことを容易に割り切って見せ、彼らを歓迎してくれた。クリューガー副長も同じく歓迎を表明し、今後の艦内での手続きや整備班との顔合わせについて話を進めてくれたので、いつまでも気まずいまま立たせておかずには済んだ。
53歳の艦長にしてみれば、護衛に来た者達をわざわざ居心地悪くさせる方が理解し難いのかもしれない。少なくとも、副長と二人で話している間のライヒ中尉は、普通の新任士官として応対されていた。
艦の上に立つ二人がこうであれば、表立って酷いことにはならないだろう。それを頼みにするしかなかった。
ちなみに、ミナミトリシマのクルー達も特別義勇兵で構成されており、使い道の少なかった元連邦の艦艇乗組員達を纏めて配置したようだ。
元が連邦の艦である以上、船体側の設備に馴染みのある者が乗ること自体は都合が良い。ジオン式に換装された艦橋機器には慣れてもらわなくてはならないが、配管を辿るところから全員が初めてというよりは、まだ話が早いだろう。
艦長と副長だけ旧ダイクン派の人間を据えるのは、特別義勇兵の部隊ではよくあることらしい。監督役を置きたい事情は分かるが、よりによって軍内部で冷遇している者達にそれをさせるのだから、人事を考える側にも余裕がないのだろう。
私としては、命令を理解して艦を動かし、隣を航行する味方へ砲を向けなければ構わない。ジオンはただでさえ人が居ないのに、出身や派閥で使える人間を選り分けていては、いつまで経っても艦が埋まらないのである。
もっとも、同じ命令でも連邦とジオンで言い回しが違うことはあるらしい。聞き慣れない号令を前に一瞬考え込むようでは困るので、当面はオキノトリシマと並べて基礎の艦隊運動から始めるつもりだった。
政治的な背景がどうであろうと、急に回頭しろと言われた時に動けなくては弾除けにもならない。まだ襟に輝く金ピカの座金の方が、権力が付いてくるだけ役に立つというものである。
「少佐、運び込まれたMSの件で少しお話が…」
ライヒ中尉達の面通しを終えたところで、マイ中尉が後ろから近付いてきて耳打ちをした。
何事かと思ったが、彼はパイロット達へ目を向けてから声を落としている。どうやら、ここでは話しづらい内容らしい。
私は6人に副長から艦内の説明を受けるよう伝え、マイ中尉についてブリッジを出た。そのまま連れて行かれた先は格納庫だった。
ヨーツンヘイムの広い格納庫には、新たに3台のMSラックが設置されており、それぞれに機体が固定されている。
入り口からはラックの裏側しか見えず、機種までは分からない。隙間から覗くバックパックの形を見るに、多分ザクであろう。私のように、とんでもない試作機を押し付けられたわけではなさそうだ。
だが、整備兵達は早速作業に取り掛かるでもなく、ラックの前で資料を見比べていた。工具を持ったまま待っている者までいる。
「マイ中尉、こんなところまで連れてきて、何かあったのですか?」
「それが、サイド3で運び込まれたMSの程度が問題なんです」
「程度?」
彼は説明するより見てもらった方が早いと思ったのか、ラックの正面へ回るよう手で示した。私は手摺りを伝って機体の足元を回り込み、その姿を見上げる。
最低でもザクⅡのC型あたりが来るだろうと踏んでいたのだが、目の前にあるのはMS-05ザクⅠだった。しかも、前期生産型のA型である。
胸部装甲には見覚えのある角張った部分が残っていた。後のB型とは違うその形を眺めながら、私は一度、隣のラックへも視線を移した。
そこにあるのも同じだ。最後の1機まで見て、ようやく全部がA型だと諦めが付いた。
教導機動大隊でとっくに全機使い潰されていたと思っていたのだが、どうやら残っていたものを引っ張り出してきて使わせていたらしい。要らないところで妙に物持ちが良い。
古いだけなら、まだ我慢もできる。だが、彼方此方に傷やへこみが目立ち、剥がされた装甲の下からは、色も太さも不揃いな配管が覗いていた。
整備のために開けた箇所かと思ったものの、外したはずの装甲が足元にない。剥き出しの縁には古い補修跡があり、その上から何度も工具を当てた傷が付いている。どうやら、最初からこの状態で運ばれてきたようだった。
「B型やQ型であれば、まだ予備パーツを手配出来るのですが、A型となると…戦技研究のために作られたと言っても過言ではないので、B型と互換性のないパーツも多く使われています。以前彼らのMSの整備を担当していた整備兵達は、足りないところを有り合わせのもので修理していたようです。同じことをここでするのは難しいかと」
マイ中尉が開いた整備記録には、交換した部品の番号だけでなく、加工方法らしき手書きの書き込みまで残っていた。
同じA型でも3機で使われている代用品が違う。1機は輸送艦用の耐圧ホースを加工して取り付け、別の機体は繋ぎ手を作り直して違う配管を通しているという。元の規格が分かったところで、今付いているものと同じとは限らないのだ。
「この関節のシーリングも、専用品ではありません。実物を外して寸法を取るところからになります。交換するだけで済むつもりで分解すると、組み戻せなくなるかもしれません」
「…つまり、私はほぼスクラップ同然のMS3機を押し付けられたということですか?」
マイ中尉が気まずそうな顔をして頷いた。
ドズル閣下の仰った貧乏籤には、こちらも含まれていたのだろうか。古い機体を寄越されることまでは覚悟していたが、動くかどうかから心配することになるとは思わなかった。
「そうですか。1機をパーツ取りにして、共食い整備で2機を再生することは可能ですか?」
「いえ、全機消耗が激しいので、共食いも殆ど意味がないと思われます。現状で稼働していること自体が奇跡ですね」
彼は記録の同じ欄を順に指した。どの機体にも似たような不具合が並び、点検のたびに調整して使い続けていたことが分かる。比較的ましな部品を集めたところで、すぐ次の交換時期が来るという。
よくこんな状態のザクⅠを使って、今まで戦闘を行っていたものだ。この有様では、セイバーフィッシュやレパント級を相手にするのにも苦労しただろう。
いっそ新しい機体を要求したいところだが、ソロモンでそれが無理だと言われたばかりである。予備パーツの補給枠を確保して得意になっていた自分に、この光景を見せてやりたくなった。
部品さえ来ればどうにかなると思っていたのに、その部品が合わない。あの窓口でもぎ取った補給枠が、ここまで来て役に立たないとは思いたくなかった。
「ねぇ、大尉!新しくMSが来たんすよねぇ。自分に1機くらい貰えないんですか?貰えますよねぇ」
「残念だけど、今回運び込まれたのは全部ヌエ戦隊のものよ」
「えぇ!いやあの、3機有るんですから、1機くらい良いんじゃないですか?」
後ろからモニク大尉とワシヤ中尉の話し声が聞こえた。どうやら、二人はこのMSの有り様を知らないらしい。
私は彼の方へ振り返り、ラックの上を指差した。
「ワシヤ中尉、こんなのでよかったら欲しいですか?」
「えっ!?マジですか!はーい、要ります!要る要る…ってなんじゃこりゃ!?」
ニコニコしていた顔が、機体の正面を見た途端に引き攣った。少しだけ近付いて胸部を見上げ、次に足元の配管を覗き込む。それから私とマイ中尉の顔を交互に見た。
「あ、あの〜…これって動くんですかね」
「奇跡的に稼働はしているみたいですよ。動くだけでしょうが」
「…あ、あははは…今回は遠慮しようかなって思いますぅ」
これを見たら誰だってそう言うだろう。立場がないので、黙ってこれに乗り続けていたライヒ中尉達の苦労が偲ばれる。
さっきの挨拶で、誰も機体の不調を訴えなかったのが余計に気になった。来たばかりで言い出せなかったのか、それとも言ったところで仕方がないと思っていたのか。あとで整備の話をする時には、本人達からも普段の扱いを聞いておく必要がありそうだった。
「これは……随分と酷いわね…」
隣へ来たモニク大尉も、流石に言葉を失っていた。ラックの前に置かれた記録へ手を伸ばし、交換部品の欄を黙って読み始める。
そこで、私は思いついたことをマイ中尉に提案してみることにした。このまま見ていたところで、ザクが直るわけではない。
「マイ中尉、提案があるのですが」
「はい、少佐。なんでしょうか?」
「ソロモンの需品部から送られてくる予備と整備パーツはザクⅡの物になると思うので、それを使ってQ型をでっち上げられませんか?」
ザクⅠの近代化改修型とも言えるQ型は、ザクⅡの部品も使いつつ性能向上を図ったものだ。ジェネレーターや流体パルスシステムなどが主な換装品である。
古い部品を探して元の状態へ戻すのが無理なら、今手に入るものに合わせてしまえば良い。少なくとも、直した次から部品がなくて困ることは減るはずだった。
「無茶ですよ。Q型は本来B型をベースに改修が施された機体です。A型ですと、B型と同じようには改修できません」
「ですから、でっち上げると言っているのです。Q型と全く同じものではなく、それに準じたようなものであれば良い」
「なるほど、なんちゃってQ型…いえ、言うなればQ-2型ということですか…」
マイ中尉が考え込む。彼がこうなると、その余地があるということを、私はここ3ヶ月ほどで学んだ。
もちろん、私に分からない問題も山ほどあるのだろう。新しいジェネレーターが収まるか、取り付ける場所が荷重に耐えるか。出力が上がっても、古い関節が先に壊れるようでは意味がない。
「装甲まで一度に替えるのは難しいですね。モノコック構造ですから、外側だけ剥がして新しいものを被せるわけにはいきません。取り付け部も違いますし」
そう言いながらも、マイ中尉は端末にQ型の資料を呼び出していた。隣の整備兵を呼び、A型のジェネレーター周辺を開けて寸法を確認するよう頼んでいる。
ワシヤ中尉まで覗き込んできたが、画面に並ぶ数値を見てすぐに顔を離した。
「あの、結局これ、直るんですか?」
「直すというより、作り替えることになりそうです」
マイ中尉は答えながら、二つの図面を並べた。Q型では内部に収めている配管を指で辿り、A型の図面の外へ線を引く。
「収まらない部分は外へ逃がすとして、関節の補強が必要です。今のまま出力だけ上げるわけにはいきません。それと、冷却系も一緒に替えないと」
「3機とも、同じやり方で直せそうですか?」
「中を開けてからでないと断言はできませんが、できるだけ揃えます。1機ずつ整備の手順が違うのでは、今と変わりませんから」
それは大変ありがたい。機体ごとに使える部品を覚え、工具まで選び直すような仕事を、これからずっと続けさせるわけにはいかない。
私は端末の補給品目を開き、請求できる部品と入荷予定をマイ中尉へ送った。実物を見ずに要求した時には渋られたが、この惨状の写真も添えておけば、少しは話が通じるだろうか。
「Q型の設計図を参考にしつつ、A型の消耗しやすいところとジェネレーター周りを改修する形にしてみると、案外いけるかもしれません。少し検討してみます」
マイ中尉は一つ頷くと、早速設計に取り掛かると言って格納庫を出て行った。
その背中を見送ってから、私はラックの前に残った整備兵へ、ライヒ中尉達を呼んで使用中の不具合を聞いてほしいと頼んだ。記録にない癖があれば、乗っていた者に聞くのが一番早い。
私の方も、機体が直るまで手を拱いているつもりはなかった。6人の訓練記録を確かめ、シミュレーターで腕を見せてもらおう。部隊を任されて最初にする仕事が機体の再生になるとは思わなかったが、ここで躓いたままというわけにもいかないのである。
宇宙世紀0079年4月10日
漆黒の宇宙を、4筋の噴射光が駆け抜ける。
3機のザクⅠが先行する1機を追い、近付いたかと思えば離され、時折模擬弾の火線を伸ばしていた。遠目には踊っているようにも見えるが、追う側のコックピットにその余裕はない。
「
アスカは通信機に叫びながらフットペダルを踏み、ヅダを横へ転がした。エンマ機の放った120mm模擬弾が、機体のいた場所を抜けていく。
射撃する時だけエンマの機動が直線になる。狙いを定めることに意識が向き、後ろの2機との距離も開いていた。アスカはロールの途中でマシンガンを向け、短く引き金を引いた。
エンマ機の胸に紫色のペイントが弾ける。
スミス機が横へ出て援護しようとしたが、既に遅かった。エンマ機を庇うつもりで移った先へ、ヅダの銃口が向いている。その胸にも模擬弾が命中し、最後に距離を取っていたヘルベルト機が続いた。
被弾を知らせる表示が3機のモニターに灯り、無線が一瞬静かになる。
「全く、こんな為体では困ります。貴女達は、ヨーツンヘイムと他2隻を護りながら戦わなくてはならないのですよ?ライヒ中尉、敵機を追い掛けるのは良いですが、直線的に追い掛けてはこうなります。分かりましたか?貴女は小隊長になるのですから、早々に落とされてはいけません」
「はい少佐!すみません!もう一度お願いします!」
「威勢だけは大変結構。では、先程と同じように追撃して来なさい。次はオキノトリシマとミナミトリシマの援護射撃が有りますから、誤射に気をつけること」
アスカが機体をAMBACで翻し、金星エンジンを吹かした。ヅダの背中が急速に小さくなっていく。
被弾判定の解除を確かめたエンマ達も、機体の向きを揃えて追い縋った。今度はエンマが加速する前に僚機の位置を見て、短い合図を入れる。スミスは右後方、ヘルベルトは左後方。先ほどより間隔を詰めた3機が、揃って噴射を強めた。
少し離れた宙域では、ヨーツンヘイムが観測ポッドから送られてくる映像を解析していた。
マイはブリッジの端末に向かい、自分が設計したザクⅠQ-2型とも言うべき機体を逐一監視している。映像よりも長く目を留めているのは、各部の温度と負荷の表示だった。
サイド3の技術本部でCAD/CAMシステムを使うため、シャハト少将に頼み込んだのが3日前。そこから設計と部品の手配を並行して進め、整備班と交代で機体を開けてきた。
ソロモンの需品部を泣かして*1得たザクⅡのパーツは、図面の上で収まったからといって、そのまま古いザクへ入るものではなかった。
1機目の取り付け部を調整している間に、残る2機から傷んだ部品を外す。配管の取り回しを決めたら、同じ箇所を開けた隣の機体へ寸法を渡す。元の応急修理が違うため、図面にない加工が見つかるたびに作業が止まった。
交換した箇所の整備記録には、加工方法の代わりにザクⅡの部品番号が並んだ。次からは、その番号で請求すれば済む。
艦内での作動確認と低出力での試運転は済ませていたが、小隊を組んでの全力機動はこれが初めてだった。マイはエンマ機が姿勢を変えるたび、負荷の跳ね上がる場所を確かめている。
改修前に繰り返していた圧力の低下は出ていない。古い継ぎ手から漏れていた分を無理に補う必要もなくなり、3機とも操作に対して素直に推力が立ち上がっていた。
「脚部の小型スラスターを増やした分、回避性能はザクⅡよりも高いかもしれません」
ただし、乗っている者達はまだその応答に慣れていない。少し機体を傾けるつもりで吹かしたものが、思った以上に回ってしまう。慌てて反対側を噴射し、ようやく戻したところでヅダに撃たれる。先ほどの模擬戦でも、そんな動きが何度かあった。
マイはその区間に印を付けた。機体側で調整すべきものか、パイロットの習熟で収まるものかは、映像と操作記録を突き合わせなくては分からない。
推進器系と冷却系をザクⅡのものへ置き換えた結果、加速は従来のQ型より良好だった。だが、外から見れば随分と不格好な機体になっている。
内部に収まらなかった動力パイプは剥き出し*2のままだ。整備の時には触りやすいが、機体を捻った際に周囲へ当たらないよう、固定位置には最後まで手が掛かった。
バックパックには放熱用のフィンが2本追加されている*3。ヅダを追って前傾するたび、その先端が肩の向こうへ顔を出した。
関節は旧式のまま残っている。ザクⅡ用の超硬スチール合金製部材で補強を施したものの、新しいジェネレーターの出力を際限なく掛けて良いわけではない。スラスターの応答が良くなった分、機体の向きを戻す時に無理な荷重が掛かっていた。
帰投後には、補強部材の取り付け箇所を開けて見るつもりだった。数字が許容範囲に収まっていても、今までとは違う力が何度も加わった後でどうなるかは確かめておきたい。
「よもや旧式のザクⅠがこれほどまでに動けるようになるとは、な。…案外古いからと馬鹿にできないものだ」
プロホノウ艦長がヅダを追い掛ける3機を見て、顎を摩りながら唸った。
「ザクⅡのパーツで近代化改修されていますので、見た目はザクⅠからそう外れてはいませんが、中身はザクⅡに限りなく近いです」
「うぅむ、それにしてもライヒ中尉達もなかなかどうして…ナカノミヤ少佐が手加減しているとしても、予想より喰らい付けている」
モニターの中で、エンマ機が進路を変えた。ヅダの後ろをそのまま追うのをやめ、片側へ寄って射撃を始める。スミス機が反対側へ広がり、その間にヘルベルト機が距離を詰めていた。
同時に追えば遅い者から離される。速く出られる者が先に撃ち、相手が避けている間に残りが追い付く。まだぎこちないが、単機ずつ追い掛けていた時よりは火線が繋がっている。
「一番追従率の良い
手元のタブレット端末を見ながら、モニクが言った。
ライヒの回避は大きい。弾を避けること自体はできても、小隊へ戻るために再び推進剤を使っている。ヘルベルトはその逆で、必要な分だけ動こうとするために、ヅダの速度が変わると追従が一拍遅れた。
指摘を聞いていたプロホノウは、端末から顔を上げたモニクを一瞥する。
「キャディラック特務大尉、そのだな…良い加減ライヒ中尉やヘルベルト少尉と、ジオンの名前で呼んでやれんのか」
モニクは視線を真っ直ぐプロホノウへ向け、唇の端を歪ませた。
「艦長、私は区別しているに過ぎません。それに、親から貰った立派な名前があるのですから、キチンとそちらを呼んであげた方が良いのでは?」
「それだとしても、特務大尉の呼び方は少し含みがあるように聞こえるのだがね」
「気のせいですよ。艦長」
近くの通信士が端末へ目を落とした。プロホノウは何か言いかけたが、そこでモニターの警告表示が切り替わり、マイが顔を上げる。
「02の推進剤がそろそろ切れそうです。これが終了次第、訓練を終了することを具申します。機体の損耗度も検査しなければなりませんし、やることが山積みですね」
「だが、これで漸く戦力化出来たわけだ。マイ技術中尉、よくやってくれた」
「いえ、自分の仕事をしただけです」
マイは視線を端末へ戻し、帰投までに必要な推進剤が残るよう終了の時機を測った。整備班へ3機分の点検箇所を送り、帰投したらまず股関節の補強箇所を開けてほしいと付け加える。
エンマは急加減速に歯を食いしばりながら、アスカのヅダに喰らい付こうとスロットルを押していた。
以前の機体なら、ここまで踏み込んでも同じ速度にはならなかった。推力が上がる前に別の警告が点き、加速を緩めるしかなかったのである。今は警告こそ出ないが、代わりに自分の身体が追い付かない。
シートに背を押し付けられたまま、横へ動くヅダに顔を向ける。機体を追い過ぎて照準が行き過ぎ、戻した時には相手がもう別の場所へ移っている。
「速すぎる!同時期に開発された機体だとは思えん!!…うわっ!?」
ヅダのマシンガンがこちらを向いた。エンマは反射的に機体を右へ転がす。
その背後に張り付いていたスミス機へ、模擬弾が命中した。
彼も避けようとしていたが、エンマ機が前を塞いで射撃の瞬間が見えていなかった。紫色の塗料が首の付け根に広がり、撃破判定を告げる音が鳴る。
『03、被弾!離脱する!』
「すまない、私が…!」
『02、そこで止まらない!』
アスカの叱責と共に、また模擬弾が飛んできた。エンマは姿勢を戻し切らないまま左脚のスラスターを噴かし、辛うじてそれを避ける。
後ろを庇おうとして寄り過ぎたのだ。追従しろと言われたからといって、同じ射線へ重なってどうする。スミスが離れた場所へ目を向けかけ、エンマはすぐにヅダへ視線を戻した。
だが、一度大きく避けた分だけヘルベルト機との距離も開いていた。隊形を戻すためにそちらへ向かえば、アスカにも行き先を読まれる。
ヅダが追ってきた。
エンマはマシンガンを向けて撃ったが、相手は速度を落として弾の通過を待ち、すぐに横へ抜ける。その切り返しを追おうとしたところへ、短い射撃が返ってきた。
胸部に衝撃が走り、モニターへ撃破の表示が重なる。
「02、被弾しました…」
『了解。射界の外へ出て待機なさい。今の回避の記録は、あとで見てもらいます』
エンマはマシンガンの引き金から指を離し、指定された方向へ機体を流した。向こうではスミス機も姿勢を整えている。近付いてきた彼の機体を見て、ようやく一息吐いた。
残ったヘルベルト機は、二人を追って前へ出ることをやめていた。ヅダと距離を取り、僚艦からの射線が通る方へ相手を向かわせようとしている。
オキノトリシマとミナミトリシマが、MSとの連携と対空射撃訓練を兼ね、アスカのヅダへ訓練出力のメガ粒子砲を放った。
ヘルベルトのマシンガンで横への移動を制限し、その先を艦砲で塞ぐ。狙い通りなら、ヅダは速度を落とすか、大きく進路を変えなくてはならない。
アスカは迫る火線の間を見て、スロットルを戻した。少し前を光が横切る。通り過ぎるのを待って噴射を強めると、今度は後ろへ別の光が抜けていった。
艦からの射撃とヘルベルトの動きが、まだ合っていなかった。片方がヅダの進路を塞いでも、もう片方はさっきまでいた位置へ照準を向けている。
それでも、初めから1機で撃ち合うよりは厄介だった。アスカは艦側へ回ろうとするのをやめ、ヘルベルト機の下へ潜るように進路を取った。ザクが射線を追って胴体を傾ける。その背後にヅダが重なり、僚艦の射撃が止まった。
『04、艦から離れなさい!その位置では味方が撃てません!』
ヘルベルトは慌てて横へ噴射したが、動いた先へヅダも付いてきた。距離が縮まる。彼はマシンガンを構え直し、迫る機体へ連射を浴びせた。
模擬弾はヅダの肩を掠めて後方へ流れる。アスカは小さく機体を転がしながら銃を避け、空いた手で訓練用ヒートホークを抜いた。
ヘルベルト機がシールドを向けるより早く、ヅダが懐へ入った。アスカは相対速度を落とし、胸部へ刃を当てる。命中を記録したところで腕を引き、相手を押し倒すことなく脇へ抜けた。
ヘルベルトのモニターにも、撃破判定が灯った。
『訓練終了、全機帰投せよ。繰り返す、訓練終了、全機帰投せよ』
マイの声が通信機を通じて訓練の終了を告げる。
エンマ達はそれぞれ荒い息を吐き、シートに背中を預けた。止まってからも、次の加速に備えて身体へ力を入れ続けていたことに気付く。エンマが操縦桿を握り直すと、手袋の中で指が強張っていた。
「ハァハァ、隊長は…化け物だぜ…」
「一度も、追いつけ、なかったわ…」
スミスとエンマが、ヘルメットの中に汗の粒を浮かばせながら言った。
そこへ遅れてヘルベルトが合流し、3機は一度隊形を整える。彼も何か言いかけたが、息を整える方を先にしたらしい。無線には短い呼吸音だけが入った。
エンマは帰投先のヨーツンヘイムを確かめ、推進剤残量へ目を落とした。ヘルベルト機の残量を共有表示で見れば、自分よりまだ余裕がある。
撃つことに夢中で吹かし続け、避ける時にも余分に使った。改修で速くなったことを喜ぶばかりで、帰るための分まで使い切っては笑い話にもならない。
「こちらメテオ01、3機ともお疲れ様でした。反省会は後ほど行いますが、一先ず良くやりましたと言っておきましょう」
『ありがとうございます!』
「さて、明日も訓練を続けますから、帰投したらしっかり身体を休めて下さい」
3人の返答を聞きながら、アスカは記録に付けた印を見直していた。
口では労ったものの、技量には少しも満足していない。小隊を組んでいるのに、1機が狙われると残りが同じ方へ寄ってしまう。助けようとする気はあっても、それで味方の射線を塞いだり、纏めて撃たれる位置へ出たりしては困る。
だが、二度目にはヘルベルトが艦の援護を使おうとした。ライヒも撃破されるまでは、最初より僚機の位置を気にしていた。しかし、僚機を見ろと言えば敵から目を離し、敵を追えと言えば小隊がばらける。どこから手を付けたものだろうか。
明日は追撃だけに絞るべきか。それとも、今日の失敗を忘れないうちに艦との連携を繰り返した方がよいか。残る交代要員3人の顔も浮かび、アスカは明日の訓練予定に割り込ませる時間を考えた。
帰投するザク達へ目を向けると、今度は隊形を保ったまま飛んでいる。追い回されなければできるのだ。それを撃たれながらでも続けてもらわなくては困る。
アスカは部下達の後ろへ付き、記録の再生画面を閉じた。どう鍛えたものかと頭を悩ませても、結局は明日も乗せて、駄目なところをその都度直していく他に思い付かなかった。
ご高覧ありがとうございます!
マイも活躍してくれる回でした。
補給されたパーツを組み合わせれば、正規のザクⅡ一機は作れたのでは…?と思ったのですが、3機は揃えられなさそうだし面白くなかったので
こうなりました。買ってて良かったMSV。ザクⅠQ型なんやそれって思ったのがキッカケですが、意外にザクⅡとほぼ同等の性能で使い易かったとかなんとか書いてあったので、ビビビと来たんですよね。
ちなみに、A型はモーションパターンの蓄積とMSの戦術やドクトリンを作り出す為に、キシリアが主導した教導機動大隊で使用されていたMSになります。昔の公式設定では、これにシャアや黒い三連星やランバラルetcが乗り込んで、只管に戦技研究をしていたとか。
先行量産機として27機ほどが生産されて、それから正式量産機のB型に取って代わられたのですが、そのA型がその後どうなったかと記されていないので、正史では大半は徹底的に教導機動大隊で使い潰されたのだろうと推測しています。
漫画版ではマジでオンボロのザクⅠに特別義勇兵が乗せられていて、整備不足で動けなくなったところをボールやられて、今回出てきたスミス含め2機墜とされているので、オンボロ具合からみて使い古しのA型でもおかしく無いと思いました。B型はまだ(現役で)使っていますしね…
ちなみに、特別義勇兵の6名の名前は原作同様
エンマ中尉
ヘルベルト少尉
スミス少尉
マクリーン曹長
マイク(階級不明。だだし、軍服は下士官)
ジョージ(階級不明。ただし、軍服は下士官)
になります。
今まで限界まで機体をぶん回せなかったので、MSパイロットの練度としては下の中くらいですが、これからスパルタで鍛えられる予定です。(カワイソウ)
彼等は第5章の裏側でワシヤと共に活躍してくれる…はず
皆さんのご感想お待ちしてます!
登場させるとしても大分先になりますが、ジークアクスのキャラを出すのはアリかナシか。(出るならニャアン)
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アリ
-
ナシ
-
どっちでも良い
-
早く書け