技術試験隊斯ク戦ヘリ 作:ザクスキー2世
史実のジムよりもジェネレーター出力が高く、推力もあって足が速く、重装甲で生半可なマシンガンが効かないヤバいMSが六月あたりに量産されるらしいですよ。
ヒルドルブ回がドムに食われる…!
あと、今回は某女の子部隊のキャラが登場します。
広大なキャリフォルニアベースの実験場には、鈍い金属の駆動音と吸気口が空気を吸い込みジェットエンジンが吐き出す甲高い音だけが単調に響き渡っていた。
私はYMS-08Bのコックピットに座り、ひたすらに反復作業に没頭していた。己の出来る限りの動きをモーションパターンとして入力し、AAMCとツィマット側のコンピュータで最適化する。そして、その洗練されたデータを再び機体の制御システムへと同調させていく。稼働するザク中隊を相手取った本格的な対MS模擬戦を要求した私であったが、その実戦形式のテストへ移行する前に、まずはこの機体のシステムにより多くの選択肢を与えることは決して悪い事ではない。やればやるだけ、戦闘中の私が楽になるのだから。
その後もヒートサーベルによる斬撃や構え、武装を持った状態での最適な姿勢などを繰り返し、08Bに搭載されたAAMCと基地側のコンピュータにモーションパターンを蓄積し続けた。
よく読み物に出て来る剣術の達人が静寂の中でひたすらに素振りを繰り返す様は、傍から見たらこのような感じなのだろうかと思いつつ、滑稽なほど地味で地道な作業を繰り返す。
右脚のホバーユニットに機体の全重心を乗せ、スラスターの噴射角を微調整しながら、右腕の巨大なヒートサーベルを袈裟懸けに振り下ろす。機体の姿勢制御バランサーが重量移動に反応して姿勢を崩しかけるのを、私はフットペダルと操縦桿の細かな入力で強引にねじ伏せ、そのまま手首を反転させて下段からの斬り上げへと移行する。
次いで、背面に設けられたハードポイントからMS用バズーカB2を引き抜き、仮想の敵機に向けた射線に対して最も反動を殺せる角度で砲身を固定し、静止する。また別のモーションでは、土塁の陰から身を乗り出して射撃姿勢を取り、すぐさまホバーの推力を吹かして死角へと滑り込む回避機動へと移行する。
何十回と繰り返される、単純と複雑を織り交ぜた機動とポージング。関節の連動、負荷の掛かり方、入力から反応するまでの流体パルスシステムのトルク伝達の遅延具合。それら全てが数値化され、膨大な生データとしてAAMCとツィマットのコンピュータへと吸い上げられていく。
すぐにツィマットの技術者チームが反復したモーションの中から最も無駄の少ない動きを選び出し、関節への負荷や姿勢の安定性を確認しながらシステムに反映させていく。最初は斬撃のたびに私が補正しなければならなかった脚部の踏ん張りも、今ではサーベルを振り始めるのに合わせて機体側が先回りして調整してくれる。先程まで操縦桿を握り直していた箇所をそのまま淀みなく通過できるようになるのはなかなか気持ちの良いものだ。
今では操縦桿のスイッチを決められた手順で押すだけで、私がマニピュレーターの動きを一つずつ指定しなくとも登録されたパターンから状況に合うものが選ばれ、最短距離で攻撃へ移行してくれる。その分私自身は相手の動きや次に抜ける方向へ意識を向けられる。特に攻撃と同時に自機の姿勢まで大きく変わるヒートサーベルや素手での近接格闘では、この違いが馬鹿にならない。
機体の手足をどう動かすかに追われるのとそれを動かして敵をどう仕留めるかに集中できるのとでは、同じ機体でも戦い方そのものが変わってくるのだから。
長時間に渡る泥臭い作業を終えて機体を格納庫に戻し、空いた腹を摩りながら夕食を求めて士官食堂へと向かっていた時のことだった。
赤茶けた荒野に沈むキャリフォルニアの夕日が、連邦から接収した無骨な軍事施設に長く濃い影を落としている。宇宙の完全な暗闇と人工的な照明に慣れきっていた私の目には、この地球の夕暮れという自然現象がどこか毒々しく、そしてひどく感傷的なものに映った。
軍服の下は汗で張り付き、連続した高Gの機動と精神的な集中によって、私の肉体は鉛のように重かった。早くまともな食事を胃袋に詰め込み、自室のシャワーをゆっくりと浴びて寝たい。
そんなことを考えながらコンクリートの通路を歩いていた私の視界の端に、ふと異物のようなものが映り込んだ。
少し離れた北米方面軍の格納庫付近。荷物を胸に抱え、猫背気味にトボトボと歩く小柄な人影に気がついた。
周囲を行き交うのは、筋骨隆々とした整備兵や体格の良い前線のMSパイロットなど、大半が男性である。その中にあって、小動物を想起させるその人影は軍の重いブーツと無骨な作業着に身を包んでいるものの、骨格が華奢で基地内には全く似合わず、明らかに周囲から浮いて見えた。
強い既視感に囚われた私は、思わず駆け寄って確かめようとした。足音に気づいたのか、相手が顔を上げる。
「ミア、やっぱりミア・ブリンクマンじゃないですか!何故キャリフォルニアベースなんかに居るのですか!?」
「えっ?……ア、アスカ、さん?どうして?」
「それはこっちの台詞です」
思わず呆気に取られてしまった。
油汚れで黒く煤けた作業着の襟元から覗く、眼鏡をかけたまだあどけなさの残る幼顔が、こちらを認めて驚愕したように目を大きく広げている。
間違いない。その濃いブラウンの髪と知性の光る大きな瞳は、私が開戦前からよく知る少女のものだった。
ミア・ブリンクマン、MS開発におけるツィマットの幼き天才の1人だ。
ジオニック社にメイ・カーウィンあれば、ツィマット社にミア・ブリンクマンありと謳われた*1ほどの、公国のMS開発史において双璧をなす天才少女。
私の愛機の原型機、EMS-04ヅダの開発にも深く関わり、機体構造や木星エンジンに使われる流体力学において、大人顔負けの数式を並べ立てていたあの彼女が、何故安全な本国のツィマット本社でMS開発の最前線に立っているのではなく、こんな血と泥に塗れた埃臭い地球の基地で、埃と機械油にまみれた作業着を着ているのか。
私よりも5歳年下なので、彼女はまだ弱冠15歳のはずだ。
いくら国力と絶対的な人口に劣るジオン公国とはいえ、そしていくら本人が愛国心から志願したものであったとしても、14や15そこらの未成年の少年少女を正規兵として採るほど、ジオン軍は終わっていないはずだ。それなのに、彼女の作業着の襟元には尉官の階級章がしっかりと縫い付けられ、夕陽を浴びて鈍く輝いている。
作業着を着ていることから、整備少尉か技術少尉といったところだろう。
実家がダイクン派であるため政治的粛清の煽りを受け、外人部隊に放り込まれたと言われるジオニックのメイ・カーウィン嬢も、目の前のミアとほぼ同年齢だ。だが、向こうはあくまで軍属であり、こちらは正規の軍人とは…
この異常な事態の裏には、間違いなく醜悪な大人の事情が蠢いている。アイヒマン主任技師の首根っこを掴んででも、事の真相を吐き出させる必要があるだろう。
聞けば夕食もまだとのことだったので、仕事が残っていると遠慮がちに断るミアの手を強引に掴み、私は有無を言わさず士官食堂へと連行した。こういう時こそ、階級という名の権力がモノを言うのだ。
「…なるほど、私が士官学校に行っている間にそんなことが……」
「はい…」
佐官用の少し高級な夕食、真空パックに入った味付きの合成タンパク質ではない本物の牛肉のステーキと瑞々しいサラダを2人で取りながら、一体何が起きて彼女が正規の軍人になってしまったのかという話を聞き出した結果、私は思わず頭を抱えそうになるのを堪えなければならなかった。
社運を懸けたコンペティションでヅダがザクに敗れ、開発陣の社内における政治的立場が危うくなったのは事実だ。主力MSの受注を逃した責任を問われれば、誰かがその矢面に立たされることもあるだろう。だがツィマット社の上層部が何を血迷ったのか軍部の歓心を買うためにこの天才少女を人身御供として売り渡したとは。
敗北の責任を取らせるために次の機体を生み出せる人間を手放す。それで一体誰が得をするというのか。軍に恩を売ったつもりかもしれないが、代わりに会社が失うものの大きさを本当に理解していたのだろうか。
私には全くもって理解不能だ。
ツィマットには、あのコンペティションの敗北で窮地に陥った頃でも、私の実家であるナカノミヤ家から資金援助と政治的庇護がなされていたはずだ。主力MSとしての座は逃し、ジオニック社の後塵を拝したとはいえ、彼らは艦艇用の巨大な推進器製造や、H&L社*2やラインメタル社*3からMS用武器や艦艇火器の委託製造にも引き続き従事しており、会社の経営自体には全く問題がなかったはずである。
それに、ツィマットがジオニックからザクのライセンス生産を請け負うことは、コンペティションに負けた時点での*4既定路線なので、経営が立ち行かなくなることも本来はおかしい。
軍需産業特有の派閥争いか、あるいは企業内の醜い権力闘争のスケープゴートにされたのか…。何か私の知り得ない裏の取引があったに違いないが、既にミアは書類上、正規の軍人として地球攻撃軍ひいては突撃機動軍の軍籍に組み込まれてしまっている。一度軍人になってしまった以上、除隊するには死ぬか再起不能の怪我を負うか、この泥沼化しそうな戦争が終わるのを待つしかないだろう。
「しかし、MS開発が専門のはずなのに、何故ただの整備科に?」
「それは…私が、カーウィンさんに負けたから…MS開発に携わっても、役に立たないだろうって…思われてる、からだと思います」
途切れ途切れに、自信を喪失しきった声でそう言った。
彼女は完全に俯いてしまい、せっかくの温かく美味しいステーキに向けられていたフォークも、ピタリと止まってしまった。
何故いつもいつも、こんな理不尽で腹立たしい厄介ごとが私のもとに舞い込んでくるのだろう。何処かの誰かに呪いでもかけられているとでも言うのか?
ミアがまだあどけない10歳頃から、私は家の都合でツィマットの研究所を訪れるたびに、彼女を自分の妹分のように可愛がってきた。こんな重力下の劣悪な環境で、才能を持ち腐れにされ、単なる整備兵として冷遇されている彼女を見付けてしまったからには、私の矜持が許さない。可愛い妹分を絶対にこのまま見捨てておくわけにはいかないのだ。
もしこのまま見て見ぬ振りをしたら、それこそナカノミヤ家の名が廃るというものだ。父も母も、私を決して許さないだろう。
「ここが貴女を必要ないとするのであれば、私の隊においでなさい」
「えっ?」
「これでも少佐ですよ?私だって部隊を率いています。ちょうど私の愛機は整備兵泣かせですし、ヅダの開発にも関わっていた貴女であれば好都合です」
「えっ?えっ?」
「ここの人事部には、私から言っておきます。今ツィマットの試作機のテストパイロットをしていますから、明日からツィマットの格納庫にいらっしゃい」
「え〜!!」
あまりにも強引すぎる私の即決の提案に、状況が全く飲み込めていないのか、目を白黒させてアワアワとしているミアの愛らしい様子を眺めながら、私はグラスの赤ワインを少し口に流し込んだ。
これでいい。彼女の才能を埋もれさせるのは、ジオン公国にとっても重大な損失だ。大人の勝手な都合で子供が犠牲になるなど、許される事ではない。
宇宙世紀0079年4月21日
キャリフォルニアベースの人事部と、ミアが所属していた前線の北米方面軍の整備部隊との間で、予想通り激しい抗議と煩雑な手続きがあったものの、階級のゴリ押しと独立戦隊に付与されている裁量権を最大限に行使して、私の部隊に出向という形で彼女を無事に引き抜いた。
本当ならば、地球攻撃軍の上位組織である突撃機動軍の管轄から、私が所属する宇宙攻撃軍へと軍籍ごと完全に移動させたかったのだが、軍内部の縄張り争いや様々な政治的兼ね合いもあり、書類上はあくまで「特別任務のための出向」という形に収まったのだ。
ともあれ、相変わらず自分に自信がなく周囲の視線にビクビクしているミアを引き連れて、ベース奥のツィマット社専用区画である格納庫へ向かう。機体の調整をしていた主任技師は、大袈裟なほど目を丸くして二度見し、工具を放り投げて駆け寄ってきた。
「ミア君じゃないですか!!デュバル少佐を含め、ヅダの開発陣はみんな心配していたのですよ!」
「あっ、アイヒマンさん…その、私は元気です」
主任技師の大声を聞きつけて、他の08Bの開発技師達も足場から降りて集まり、小さい頃から知っているミアとの思いがけない再会を心から喜んだ。
理不尽な配置で冷遇されていたミアも、かつての仲間たちの変わらぬ温かい言葉と気遣いに、思わず眼鏡の奥の瞳を涙ぐませている。
場もいい感じに温まったところで、私は本来の目的に意識を戻し、ツィマットで起きた事の詳細を聞くのは一旦後に回して、アイヒマン主任技師に昨日要求していた模擬戦用の稼働状態にあるMS部隊は用意できたのかと尋ねた。
「申し訳ありません。本来であれば用意できたはずなのですが、急に軍事作戦が入ったとかで守備隊以外は出払ってしまいました。守備隊は守備隊で、模擬戦の影響でMSやパイロットが使用不能になるのは戦略上困ると言われてしまい…」
「つまり、相手が居ないということですね。さて、それは困りましたね」
主任技師のことなので、あれこれなんとかしようと動いたのであろうが、世の中上手くいかないものだと私は深くため息を吐いた。
私がこの地上基地に滞在できる時間も、スケジュール上そこまで多くはない。なるべく早く実戦を想定した対MS戦闘の生データを得たいのだが…なんともタイミングが悪い。
いくらAAMCが優秀でもこちらの都合どおりに置いた標的ばかりを相手にしていては、生きた敵への対応までは詰められない。斬り込もうとした瞬間に後退されたらどうするのか。回避先に別の機体が射線を通していたら、どこへ逃げるのか。私が考え付く動きだけを教えていては、私自身が見落としている穴もそのまま機体に覚え込ませてしまう。
だからこそこちらの思惑など知ったことではない相手に実際に動いてもらう必要があるのだ。
今日も私一人で、的当てのような単調なモーションパターンの最適化に一日を費やすのかと思った時、ふと、隣で顔色を窺うようにオドオドとこちらを見ているミアと目が合った。
そう言えば、彼女は幼少よりMSの開発に従事しており、MSの複雑な制御機構や機体構造には誰よりも詳しく、現在技術少尉の階級を持っている。
正規のMSの適性検査や操縦訓練を受けているかは不明なものの、宇宙にいるマイ中尉を見る限り、技術士官というのはMSの歩行や基本的な兵装の操作なら、問題なく出来ることは知っている。何せ、彼女は機体の内部構造とOSを隅から隅まで知り尽くしている専門家なのだから。
おお、なんと素晴らしい事に、私の目の前には企業間のしがらみに縛られず、MSを理解している大変優秀な技術士官が居るではないか。
「ミア貴女、MSを操縦してみたら如何かしら」
「ふぇぇ!?私ですか!?む、無理無理無理!無理です!」
両手と首を別々の方向にブンブンと振りながら、涙目で全力で否定するが、私は知っている。
この娘が、類まれなる天才であるということを。
人間、死ぬ気でやればできないことは少ない。彼女ならば、今は無理でも教えればすぐに出来るようになるだろうと思うのも、決しておかしなことではない。
「やってみなければ分からないではないですか。アイヒマン主任技師、シミュレーターの準備を」
「お任せください!!お前達、今からジオニックの格納庫に行って、シミュレーターを一つ掻っ払って来い!呉々もあの女狐に見つかるんじゃないぞ!!」
「「応!!」」
私の指示を受けた主任技師のまるで盗賊の親玉のような号令に、ほかの技師や整備兵達がゾロゾロと格納庫から出て行き、外に出た途端一斉に駆け出して行った。
どうやらツィマット側の施設にはシミュレーターが無かったらしい。実機でモーションを取れるとはいえ、制御の検証まで何でもかんでも現物頼みで済ませるつもりだったのだろうか。
それに私が頼んだのはシミュレーターの準備であって、競合他社の備品を強奪して来ることではない。呼び止めようと口を開いた時には、既に最後尾の整備兵まで格納庫の外へ消えており、主任技師は当然のような顔で設置場所を指示し始めている。
後でエメリッヒ技官が怒鳴り込んで来たら、誰が説明するつもりなのだ。まさか私が準備を命じたから私の責任だなどと言い出すのではあるまいな。
無いなら有るところから持って来れば良いというその迷いの無さに頭が痛くなる。
ミアは主任技師と他の技師達の荒っぽい行動に対して、完全に呆気に取られてポカンとしている。
ツィマットのノリとしては昔からこの様な、狂気というか手段を選ばないMAD系のような感じであったが、ずっとアウェーな環境で一人置かれた彼女にとっては久々の事なので、気が抜けているらしい。
暫くして、外の方からエッホエッホと言う野太い掛け声と共に、30名ほどの野郎どもがまるで祭りの神輿の様に、大きなシミュレーター筐体を担いで戻ってきた。
確かあれは、油圧シリンダーやモニター機材を含めると1トン近く重量があったと思うのだが、よく誰にも見つからずに人力でここまで持って帰ってきたものだ。
「エメリッヒの女狐に見つからなかっただろうな!?」
主任技師が少し血走った目で帰ってきた息の上がった技師達を睨め付ける。
「大丈夫です!アイツら、グフのバリエーション機開発に夢中で、シミュレーターが埃をかぶってましたぜ」
「よしよし、でかしたぞ!ささ、ミア君も早く支度をしなさい」
真っ黒い笑みを浮かべた主任技師が、ミアの華奢な肩を掴んでクルリと向きを変え、更衣室の方へと強引に促す。
「えぇ…これ本当に大丈夫なんでしょうか…?」
「案ずるより産むが易しって昔から言うでしょ!少佐が待っているよ!」
「それは意味が違う…はぁ、が、頑張りますぅ」
何を言っても無駄だと思ったのか、ノーマルスーツに着替えるために、ミアが半泣きになりながら更衣室の方へと駆け出して行った。
その間に、主任技師達がジオニックから強奪してきたシミュレーターのログやら機体データを洗い浚い引っこ抜いてから、中身のOSを完全にフォーマットして、ツィマット製MSの制御データを落とし込む作業を行っている。
それと同時に、ザクのコックピットを模している内装を、08Bの製造に使っているグフの予備パーツを使い、08Bと全く同じ仕様のものに手際よく組み替えも行っていた。
どうやら、アイヒマンはミアには扱いやすいザクではなく、いきなりこの試作機である08Bをシミュレートさせる腹積りらしい。
私は私で、実機の08Bのコックピットに入り、システムモードを実稼働からシミュレーションモードへと切り替える。
MSラックには駐機してあるMSの機体状態などを確認できる様に有線の接続端子があり、現在それに駐機している08Bはこの格納庫にあるツィマット側のコンピュータと太いケーブルで繋がっている。
そこから更に配線を伸ばし、先程技師達がジオニックから奪ってきたシミュレーターと連結することで、外部の軍事ネットワークに通信が漏れない完全なクローズド状態を保ちながら、仮想空間での相互通信と対戦が可能になるのだ。
最初から自前のシミュレーターがあれば、こんな泥棒まがいのことしなくてもよかったのだが、ツィマットもあの08Aの盛大な失敗のこともあり、この局地戦用MSの開発チームは少し本社から予算面で見放されつつあるのかもしれない。*5
だが、開発環境においてケチってはいけないものまで削ってしまえば、良いものなど尚更出来るはずがない。上層部は一体何を考えているのだろうか。
早速、体型に合うノーマルスーツに着替えたミアがシミュレーターに乗り込み、仮想空間でもう一機の08Bを操縦し始める。
最初こそ、既存のMSや作業用機器とは異なるホバー特有の滑りや反応の繊細さに戸惑っていたものの、移動と簡単な戦闘のモーションパターンは昨日私が構築してOSに組み込んである。マニュアル操作の必要は殆どなく、彼女はすぐに慣れて色々な機動を取り始めた。
「ミア貴女、意外にもMSの操縦センスが良いわね」
『ほ、本当ですか?』
「ええ、初めて乗る機体をそこまで動かせるのであれば、パイロットとしても十分以上です。…さて、そうと分れば次は模擬戦ですね」
『………えっ?』
「戦いは、身体で覚えた方が早いのですよ」
仮想空間での1対1の戦闘。
最初こそ、実戦経験や技量の差、そして何より私が戦場の空気や人の思念を感じ取れる事もあって、彼女の機体は私の駆る08Bの好きな様にされていた。
だが、何度か撃墜判定を受けるうちに、どう立ち回れば攻撃を受けずに済むか、どのタイミングで武装を切り替えれば隙が減るか、どうすれば自分の射線が通せるか分かってきたのか、少しずつ彼女の機体の動きは改善されていった。
天は二物を与えずとはよく言うが、ミアに関してはそうではないらしい。
何度も私に撃破されながらも、彼女は外部の主任技師に技術的な問い掛けを続けた。この制御技術をOSに取り入れた方が良いのではないか、ホバーのオート制御をこうすればもっと踏み込めるのではないかなど、機体制御の抜本的な改善点を次々と見つけ出していくのだ。
これには、モニターの前で腕を組んでいた曲者揃いのツィマット技術者達も、唸らざるを得ない。
こちら側には私の育てているAAMCがあり、向こう側には常に技師達が張り付いてモーションパターンを取り続けている。昨日からのたった二日間で、このホバー機を次期主力コンペティションに出しても通用するほど、機体の機能と制御ソフトウェアは飛躍的に充実した。
もっとも、シミュレーション下で取った無茶なモーションについては、後ほど実機において物理法則上本当に可能なのか、関節や装甲に無理が無いかを調べる必要があるのだが。
宇宙世紀0079年4月22日
キャリフォルニアベースの司令部に入った一報は、基地全体を静かに、だが確実に不安の渦に引き摺り込んでいた。
アリゾナの広大な荒野に幾つも配置されている、ジオン軍の物資集積所。
これらは、宇宙の衛星軌道上からアリゾナの荒野を狙って投下されるカプセル型の補給物資を回収し、北米各基地に安全に移送されるまでの一時保管や、作戦中の行動部隊への簡易補給基地としても機能している重要な戦略拠点だ。
その内の第128物資集積所が、何者かの手によって突如襲撃され、全て破壊されたという最悪の一報だった。
文字通り、全てだ。
そこに居た守備隊の人員も残らず殺され、護衛のザクⅠも保管されていた軍需物資ごと何らかの兵器で入念に焼却されていた。目撃者も証拠も何一つ残っていないという、単なる連邦の残党やゲリラにしては異常な徹底ぶりである。
定期連絡が無かったことと、確認のための通信が全く繋がらないことを不審に思ったキャリフォルニアベースが偵察機のルッグンを飛ばし、空からの映像で集積所の壊滅が発覚したのだ。
入念に付近の荒野を航空偵察したものの、他の物資集積所と行動中の友軍部隊以外には不審なものも見つからず、誰がどの様な兵力でやったかも不明である。
航空偵察の結果、襲撃は二日程前に行われたものと判明。さらに本日の明朝に行った確認連絡で、今度は第103物資集積所が応答しないことも発覚した。
こちらは昨日の夜明け前に襲撃されたらしく、連日の被害ということになる。
第128物資集積所と第103物資集積所間は、大凡150kmは離れた地点なので、歩兵による小規模なゲリラ戦ではなく、航空機によるピンポイント攻撃或いは高機動の複数部隊による組織的な襲撃と考えられている。
破壊痕の状況から、ビッグトレーのような陸上戦艦の主砲によるものでは無く、61式戦車か対MS特技兵、RTX-65等を含むそこそこの規模の機動部隊によるものと推測されたが、生憎各集積所に配置されているザクⅠが一、二機程度では、到底抑え込めないだろう。
キャリフォルニアベース所属の正規部隊は、現在別件の掃討作戦で活動中につき即時出撃可能部隊は居らず、他方面で作戦中の部隊を回すにしても距離が遠過ぎて、派遣と次の襲撃に対する即時対応は物理的に難しい。
ギャロップと呼ばれるホバー推進のMS搭載可能な大型陸戦艇は現在量産の最中であり、絶対数が無くそれらの部隊に配備されるのはまだ時間がかかる。
そこで白羽の矢が立ったのが、現在技術実証試験中の高機動ホバー機、YMS-08Bだった。
正確には、アイヒマン主任技師が基地司令部に対して「現在我々の元に、巡航速度250km、最高速度350kmで不整地を走破し、襲撃にも即時対応可能な新型MSがある」と、勝手に手を挙げてしまったというのが正しい。
話を聞いた北米方面軍司令官のガルマ大佐が即座に許可してしまったらしく、その為の改造も既に始まっていた。
出来ると言ってしまったからには遅く、私が反対する前に外堀を完全に埋められていた形になる。
話を聞いて呆れながら格納庫に来た時には、既に08Bの各関節部に防塵遮熱用の分厚いダストカバーが被せられ、脚部やバックパックの吸気口には砂詰まりを防ぐ防塵フィルターが無理矢理括り付けられ、極め付けはバックパックの上部に大型のドラム缶のようなプロペラントタンクが横向きで無骨に取り付けられていたのだ。*6
「ああ、少佐!これで砂漠地帯への対応は完璧な筈です!最高のデータ取得機会ですよ?さあ、これで行って来て下さい!!」
「……私になんの相談もなくよくも…はぁ…」
思わず、頭にくる満面の笑顔を浮かべた主任技師の胸ぐらを掴みそうになったが、グッと踏み止まって理性を総動員する。
しかし、一旦止まって冷静に考えれば、ここでアリゾナ方面の荒野に向かうのも悪く無いかもしれない。
確か明日23日に、あの試作巨大戦車ヒルドルブに乗るソンネン少佐が、二度目の技術評価試験のために『第67物資集積所』の周辺に降下してくるという話だった。
ヒルドルブはザクよりも車体が大型のため、HLVではなく大気圏突入カプセルのコムサイ等で直接降下してくる筈だが、いずれにしても降下直後の無防備な状態では機体に搭載されたバルカン砲程度の兵装でしかなく、本格的な敵兵器への有効な対抗火器は有していない。
アリゾナ州の索敵と警護に託けて、共に降下してくるであろう第603技術試験隊のスタッフ達の安全な降下を先行して確保するのも良いだろう。
「それで、このプロペラントタンクで活動時間はどれだけ伸びたのですか?アリゾナの荒野は広大ですが」
「ええ、時速250kmであれば2倍の20時間は行動出来ます。時速350kmでは、半分の10時間程度でしょうか」
「それだけあれば、一応移動後も戦闘は可能でしょうね。ところで、08Bの推進剤は物資集積所で補給可能なものを使っているのですか?」
「陸戦用MSでは一般的なものを使用しておりますので、地球向けの補給物資の中にも有る筈ですよ」
「分かりました。それではミアを連れて行きますので「えっ!?」補助シートを増設して下さい」
「お任せ下さい!」
私の突然の指名に驚くミアを他所に、主任技師は実戦でどんな貴重な生データが得られるのかと思っているらしく、機嫌良くスキップをしながら08Bのコックピット改修に向かって行った。
ミアが青い顔をし、胸の前で不安そうに両手を組みながら私に近づいて来る。
「あ、あ、あの!なんで、私も行くんですか…?」
私はミアに向き直る。
相手の正体も戦力も分からず、既に守備隊が皆殺しにされている。そのような場所へ連れて行くと言われて恐れない方がおかしい。先程まで画面の中で何度撃破されようと、現実の彼女には傷一つ付かなかったのだからなおさらだ。
だがこの戦争は未成年だからと見逃してくれるほど甘くは無い。
「…ミア、よくお聞きなさい。ジオンはこれから更に過酷な消耗戦に突入するでしょう。物はあったとしても、我々には人が居ない。そうなると、今は良くともいずれなりふり構っていられなくなるでしょう。私ですら士官学校の繰り上げ卒業があったのですから、その内に学徒動員ということもあり得るでしょう。特に貴女はMSを操縦する技術とセンスが有ることが分かったのですからね。そうなる前に、本物の戦場を経験しておくことは決して悪い事ではありません」
「うぅ…わ、分かりました…」
納得したというか、私の理詰めの前に納得せざるを得なかっただけなのだろうが、ある程度彼女の中で覚悟は決まったようだ。
「夜から出発します。今のうちに寝ておきなさい」
「はい…」
ミアは項垂れたまま、兵舎の方角に向かってトボトボと歩き始めた。
本来であればいくら天才としてツィマットに出入りしていたとはいえ、まだ学校に通っている普通の少女の年齢だ。戦争は子供を子供のままにしておけない、なんと残酷なものであろうか。
そう憤りかけて私は口を引き結ぶ。その少女を戦場へ連れて行くと決めたのは、他でもない私自身ではないか。
いつか顔も知らない上官に使い潰されるくらいなら、私の目が届くうちに生き残るための経験を積ませたい。それは嘘ではない。だが彼女のためになると決め付け、怖がる本人を理屈で押し切ったことまで正当化できるのだろうか。昨夜ツィマットの上層部に対して腹を立てていた私が、今日は彼女に命令する側に立っている。
スペースノイドの自治独立を掲げて私のような軍人や大人が血を流して戦う分には良い。だがこんな幼い子供を使い捨ての駒として戦場に立たせるようになってしまえば、この国は終わりだ。そして私も連れて行った後の責任を戦争や人手不足のせいにした瞬間、彼女を売り渡した連中と同じになる。
経験させると言った以上、生きて連れ帰らなければならない。彼女の才能を惜しんだからでもナカノミヤ家の名を守るためでもなく、私が自分の意思で連れて行くと決めたのだから。
遠ざかっていくミアの小さな背中を、私は怒りと憐憫だけでは片付けられない思いで見送った。
ご高覧ありがとうございます!
はい、と言うことで今回は注釈がたくさんある回でした。(そうじゃない)
ガンダム世界は武器メーカーの設定もきっちりあるので、調べるとかなり面白いですね。そんなことするより、ジッコやパブリクとかの補助兵器の機体設定をして欲しかった…大きさ不明は使いづらい…
さて、以前ご感想でコードフェアリーのキャラ出して!というご要望を頂いておりましたので、ノイジーフェアリー隊設立前ということもあり、ミア・Oπ・ブリンクマン技術少尉を登場させました。ツィマット社出身なので、大変使いやすいですね!妹属性も生やせますし、MS開発の天才なので603に加えてもあまり負担にならず、Q-2のように捏造MSVもやり易くなります。
まぁ、ノイジーフェアリー隊はミアが参入しなくなると多分詰むので、ダメージを少なくするために先にネタバレしておきますが、期間限定参入キャラです。ヒルドルブ回があるからミアをここで出してきた、と言えばガノタの皆さんならお察しがつくはず。(…流石につきますよね?)
エースに鍛えられてコンプレックスを克服済みのミアが最初からいるノイジーフェアリー隊は、一体全体どうなってしまうんだ…
ご感想、お気に入り登録、高評価お待ちしてます!
登場させるとしても大分先になりますが、ジークアクスのキャラを出すのはアリかナシか。(出るならニャアン)
-
アリ
-
ナシ
-
どっちでも良い
-
早く書け