技術試験隊斯ク戦ヘリ   作:ザクスキー2世

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第3話

 

 

 宇宙世紀0079年1月7日

 

 

 ヨーツンヘイムのブリッジの片隅で、私たちは壁掛けのモニターを囲んでいた。

 プロホノウ艦長にモニク大尉、ヘンメ大尉、ワシヤ中尉。そこへ私まで加わると手狭で、隣の肩を避けながら画面を覗き込むことになる。

 映っているのは格納庫へ搬入された部品の立体図だ。分かれていた砲身が繋がり、支持架や動力部が所定の位置へ収まっていく。その横に添えられた人影を見て、私はようやく全体の大きさを掴んだ。

 電子ボードを手にしたマイ中尉が、完成した図をこちらへ向ける。

 

「QCX-76A試作艦隊決戦砲ヨルムンガンド。破壊力の秘密は核融合プラズマビームです。出力150,000kW。アシスト・インジェクターを設置した全長200mの砲身から噴出させます。ミノフスキー粒子散布時の最大有効射程はおよそ300km。射程限界でも、大型艦砲の10倍以上の破壊力を持つと予測されています」

 

 こちらへ来るムサイの中で概要は聞いていたが、組み上がるところを見ると印象が違う。あの長い砲身を敵へ向けるだけでも相当な手間だろう。

 それに300km先へ撃つなら、その距離で敵艦を捉え続ける者が要る。私に任されているのはその役目だ。

 敵を見つけて位置を送れば終わりというわけにはいかない。ヨルムンガンドが照準を合わせている間に相手も動くし、こちらを狙ってくる者もいる。画面上の砲は滑らかに向きを変えているが、敵が都合よく待ってくれるはずもなかった。

 

「なるほど。これなら本国も期待するわけだ。よろしく頼むぜ、技術屋さんたちよ!」

 

 ヘンメ大尉は嬉しそうに笑い、マイ中尉の背中を叩いた。

 中尉が短く声を上げて前へ流れる。電子ボードを取り落とすまいと抱え込んだせいで、手すりを掴むのが一拍遅れた。

 私は肘へ手を添えて止めたが、ヘンメ大尉はもう画面へ向き直っている。

 

「ありがとうございます、少尉」

 

「いえ。大尉も、もう少し手加減を」

 

「おう、悪かったな」

 

 あまり悪かったと思っている顔ではない。それでもマイ中尉が姿勢を戻すのを待ち、説明の続きを促す辺りは律儀だ。

 私は手を離してモニターへ目を戻した。威力の話は分かったので、今度は観測情報を送ってから発射するまでの手順を聞きたい。

 その時、ブリッジに警報が鳴った。

 艦長はすぐにモニターから離れ、支柱を蹴って指揮区画へ移る。私たちも通路を空けて後を追うと、副長が受信した電文を読み上げていた。

 

「至急伝、進路変更勧告です。発、第2艦隊。宛、ヨーツンヘイム。機動作戦宙域につき、速やかなる変針を望む」

 

「取舵、左8点!」

 

 操舵手が復唱し、船体から微かな振動が伝わってくる。姿勢制御の噴射に合わせて窓外の星が動き、私たちは艦隊の進路から外れていった。

 最初に見えたのはムサイの艦影だった。1隻が通り過ぎるとその後ろからまた数隻が現れ、さらに遠くにも推進器の光が続いている。

 ワシヤ中尉が窓へ寄ったので、私もその隣から外を見た。

 艦隊の後ろに何かがある。

 初めは端だけが見えていた。それが窓を横切っても終わらず、視線を移した先でようやく円筒形の外壁だと分かる。見慣れたはずの形なのに、艦艇の列と一緒に動いていることがすぐには飲み込めなかった。

 スペースコロニーだ。

 外壁には巨大なブースターがいくつも取り付けられている。今は噴射していないが、コロニーはそのまま艦隊に伴われて進んでいた。

 護衛のムサイが外壁を背にすると、艦の輪郭を見失いそうになる。先ほどまで窓を埋めていた艦隊が急に小さく見えた。私は表示盤へ目を移して距離を確かめ、もう一度外を見る。近すぎるから大きく見えるのだと思いたかったが、読み違いではない。

 外へ出て自分の機体で横を飛んだとしても、端へ着くまでには時間が掛かる。そんなことを考えてしまうのは、ほかに大きさを測る物差しがないからだろう。あれを動かすために取り付けたブースターまで、見ているうちに小さく思えてくる。

 

「これは……!これはなんですか!これは!!」

 

 マイ中尉が振り返った。モニク大尉は窓の外を見たまま唇を引き結び、少し間を置いて答える。

 

「ブリティッシュ作戦……」

 

「ええっ?」

 

 大尉はマイ中尉から視線を外した。正面のスクリーンには進路図と、その先にある地球が表示されている。

 

「地球への落着まで……おそらくあと72時間」

 

「地球へ!?」

 

 マイ中尉が手すりを蹴り、モニク大尉の肩へ掴み掛かった。

 

「あのコロニーに暮らしていた住民はどうなったんですか!?2000万人がいたはずだ!……いや、あんなものを地球に落としたら!!」

 

「離しなさい、バカ!!」

 

 大尉が中尉の腕を取って身を捻る。足を固定具へ掛けた彼女を支点に中尉の身体が回り、背中から床へぶつかった。

 息の詰まる音が聞こえ、私は近くの手すりを掴んで足を止める。

 モニク大尉は乱れた襟を直そうとして、その手を下ろした。

 

「奇襲は……戦端を開く際の定石である!」

 

「特務大尉は、いろいろとご存じのようですな」

 

 艦長席から声が掛かる。

 大尉はそちらへ顔を向けたものの、すぐにまた窓外へ目を戻した。

 

「私も……作戦の詳細など、総帥部から聞かされているはずがないではないか!」

 

 マイ中尉は床から身を起こしていた。何か言いかけて息を吸い、そのまま口を閉じる。モニク大尉も答えを続けなかった。

 住民はどうなったのかという問いには、誰も答えていない。退避させたという一言を待っていたのは私だけではないはずだ。マイ中尉はまだ大尉の方を見ている。さっきのように詰め寄りはしないが、窓へ向き直る気にもなれないらしい。

 聞かされていないのであれば大尉にも答えようがない。そう思っても、私は何も口を挟めなかった。住民をどこへ移したのかと尋ねることさえ、その移動があったものとして話を進めるようでためらわれる。

 外壁には補修された跡があり、区画を示す番号が並んでいた。サイド3でも見掛けるものだ。あの番号を頼りに持ち場へ向かった作業員もいただろう。

 私は窓へ顔を寄せた。人の姿が見える距離ではないと分かっていても、目を離せなかった。

 やがて側面に記された文字が読める位置へ来た。

 

「アイランド・イフィッシュ……」

 

 都市の名前だ。あの筒の中には道路や建物があり、家が並び、店も学校もあったはずだ。2000万人という数字を聞いても実感が持てなかったのに、その名前を読むと急に喉が狭くなった。

 何も感じない。

 これだけ近づけば誰かの恐怖くらいは伝わってきそうなのに、待っても何も来ない。目の前にあるブースターや外壁は見えているのに、その内側だけが抜け落ちているようだった。

 自分が何を探ろうとしているのかもよく分からない。人がいないと決めつけられるような証拠は何も見ていないのだ。

 それでも、あそこにはもう誰もいないと思った。

 

「もう……みんな死んでる」

 

 口に出してから気づいた。ブリッジが静かなせいで、思った以上に声が通ってしまっている。

 艦長とモニク大尉がこちらを見ていた。

 

「それはどういうことだ、少尉」

 

 私は窓枠を握り直した。何かを知っていると受け取られたのだろうが、説明できることは何もない。

 

「いえ……そんな気がしただけです。確かめたわけではありません」

 

 大尉の視線はしばらく外れなかった。私はそれ以上言葉を足さず、ただ首を振る。

 艦長が正面へ向き直ると、大尉も窓の外へ目を戻した。問い返されずに済んだことに安堵するより先に、あの影を見続けなければならないのがつらかった。

 コロニーは巨大な棺桶に見えた。

 敵の拠点へあれを落とす。威力を考えれば、並の艦砲とは比較にもならないだろう。あれだけの質量を狙った場所へ送り込むために、どれほどの準備をしたのかも想像できる。

 だが、その先はどうするのだ。

 地球へ落ちた時に何がどこまで壊れるのか、私には見当もつかない。軍の施設だけで済むはずはなく、そこから離れて暮らす者まで巻き込まれるだろう。

 それで敵が降伏するなら戦争は終わる。そう考えて始めた作戦なのかもしれないが、終わらなかった場合はどうなる。

 これだけのことをされてなお戦う相手が、こちらへ何を返してくるか。

 私は寒くもないのに襟元へ手をやった。窓の向こうにはまだ外壁が続いており、その最後の端が見えなくなるまで誰も説明会を再開しようとはしなかった。

 ブリーフィング用のモニターにはヨルムンガンドの図が残っている。説明を途中で切られた砲身の横で、射程を示す数字が点滅していた。聞きたかったことはまだある。手元の電子ボードにも書いてあるのに、マイ中尉を呼び止める言葉が出てこない。私は質問を消さずに画面を閉じた。

 

 

 宇宙世紀0079年1月8日

 

 

 機材ラボへ入るとマイ中尉はすでに端末へ向かっていた。

 昨日の続きをと言われて持ってきた電子ボードを固定し、隣の画面にヨルムンガンドの照準補正データを開く。中尉の手元には別の計算結果が並んでいて、こちらへ渡す条件を選んでいるところだった。

 

「まず粒子濃度の低い方から確かめよう。観測位置はこの条件で」

 

「分かりました」

 

 私は渡された数値を入力し、用意していた計算を走らせる。途中の値に大きなずれがないことを確かめてから結果を送り返すと、中尉がこちらを向いた。

 

「もう終わったのか」

 

「この範囲の条件なら事前にパターンを組んであります。入力値を入れ替えて確認しました」

 

「なるほど。途中の計算も見せてもらえるかな」

 

 画面を共有すると中尉は順に数値を辿り、1か所で指を止めた。

 

「ここは実測値で更新する必要があるね」

 

「はい。現場で同じ値になるとは限りませんから」

 

 それからは互いの端末へ結果を送り合い、条件を変えて同じ手順を繰り返した。

 数字を追っている間の中尉は落ち着いている。昨日モニク大尉へ掴み掛かった時の声を思い出すと、目の前の横顔と結びつかないほどだった。

 ただ、一区切りついても休もうとはしない。結果を保存すればすぐに次の条件を開き、こちらが電子ボードを置く前に作業を始めてしまう。

 

「中尉、少し休みませんか」

 

「そうだね。これを確かめたら」

 

 そう言ったきり、中尉は次のデータを開いていた。私は飲み物を手元へ寄せておく。自分の分もまだ残っていたが、もう冷めている。

 あのコロニーの話はせず、私たちは夕方まで計算を続けた。

 

 照準補正だけなら計算の中で話が済むが、私が前へ出た後のことになるとそうもいかない。

 通信が乱れた場合の扱いを確かめようとすると、中尉は開いていた画面を閉じてこちらを見た。

 

「更新が止まったら、最後の情報だけで撃つことにはできませんね」

 

「うん。敵がそのままの進路を保っている保証はないからね」

 

「では、こちらが再び捉えてから送り直します。撃つのを待ってもらうことになるかもしれませんが」

 

「そこはヘンメ大尉にも伝えておく。少尉も無理に同じ位置へ留まらなくていい」

 

 撃つ寸前で待てと言われれば、ヘンメ大尉もいい顔はしないだろう。だからこそ今のうちに伝えておきたい。私は通信が途絶えた場合の手順を書き加え、中尉へ送り返した。

 

 

 宇宙世紀0079年1月10日

 

 

 落着が予定されていたその日、私はブリッジにいた。

 直接コロニーが見える位置ではない。正面の画面にもあの円筒の姿はなく、通信士が届く電文を選り分けている。

 私は手すりの脇で報告を待っていた。何かを言いかけた副長の方へ顔を向け、その声が途中から分からなくなった。

 耳は聞こえている。目の前で誰かが話しているのも分かるのに、別の声が重なって言葉を拾えない。

 息を吸おうとすると喉が詰まった。

 

「あぐっ……」

 

 手すりを握っていたつもりの指が離れている。握り直そうにも腕がどちらを向いているのか分からず、視界の端にコンソールが迫った。

 肩を掴まれ、身体が止まる。

 

「っと、危ねえ」

 

 ヘンメ大尉の腕に支えられていた。大尉は片手で手すりを掴み、もう片方の腕で私を抱えるようにして機器から離してくれる。

 

「どうした、お嬢ちゃん。顔が真っ白だぞ」

 

「いえ……少し、目眩が……」

 

 自分の声がひどく遠い。

 誰かが何かを叫んでいる。助けを求めているのか怒鳴っているのか、それさえ聞き分けられないうちに次の声が押し寄せる。そこへ恐怖が重なり、目の前の大尉の顔まで見失いそうになる。

 あのコロニーを見た時には何も来なかった。それなのに今は、手を伸ばして探るまでもなく入り込んでくる。

 もう止めてほしい。

 額を押さえて目を閉じても変わらず、私は大尉の袖を掴んだまま息を吐いた。

 

「少尉。こっちを見ろ」

 

 近くで呼ばれて目を開ける。ヘンメ大尉は何かを確かめるように私の顔を覗き込み、手すりへ私の手を添えた。

 

「掴めるか」

 

「……はい」

 

 指を曲げることだけを考える。手の中に硬い感触が戻り、そこでようやく自分の身体の向きが分かった。

 その直後、メインスクリーンの映像が乱れた。

 

「通信に障害発生!複数の回線で受信状態が悪化しています!」

 

 通信士が呼び掛けを繰り返している。返答を待つ間にも別の表示へ切り替え、確認できたものから副長へ伝えていた。

 コロニーが落ちたのだと思った。

 報告はまだ来ていない。私が感じたものと、この通信障害が同じ出来事によるものなのかも分からない。それでも今どこかで大勢が死んでいるという思いだけは離れなかった。

 私は手すりへしがみつき、吐き気が引くのを待った。

 

 落着地点が本来の目標であったジャブローから大きく外れ、オーストラリアのシドニーになったと知らされたのは、それからしばらく後だった。

 私はブリッジの端で身体を固定していた。ヘンメ大尉が様子を見に戻ってきた時には返事をするくらいには落ち着いていたが、立ち上がる気にはなれない。

 

「水は飲んだか」

 

「少しだけ。ご迷惑をお掛けしました」

 

「頭をぶつけられるよりましだ」

 

 大尉はそう言って正面の画面を見た。地名と位置が表示され、周囲では届いた情報の確認が続いている。

 昨日までだったら何か大きな声で言っただろうか。大尉はしばらく黙り、手すりの上で指を動かしていた。

 

「とんでもねえことをしやがる」

 

 低い声だった。

 

「俺は砲術屋だ。敵の戦艦をぶち抜くのが仕事だ。だが、街を丸ごと潰してどうする」

 

 私は答えられなかった。大尉も返事を待たず、こちらへ顔を戻す。

 

「医務室へ行け。1人で動けねえなら誰か呼んでやる」

 

「少し休めば大丈夫です」

 

「その顔で言われてもな。仕事の話は後にしろ」

 

 確かに、今の私が砲の調整へ戻ったところで役には立たない。私は頷き、手すりへ腕を伸ばした。

 大尉の手がもう一度肩を支える。身体が流れないのを確かめてから離してくれたので、私は礼を言って出口へ向かった。

 通路へ出ても声は途切れず、艦内放送が入るたびに身構えてしまう。いつもの報告だと分かってから、ようやく手すりを掴む力を緩める。その繰り返しで医務室へ辿り着くまでにもずいぶん時間が掛かった。

 

 

 宇宙世紀0079年1月12日

 

 

 2日経っても食欲は戻らなかった。

 食堂の隅でチューブの中身を少しずつ飲み込んでいると、隣にトレイが置かれる。ワシヤ中尉が座席へ身体を固定し、私の手元を覗いた。

 

「おや、ヨーツンヘイムのマスコットガールは食欲がないみたいだね」

 

「いつからそんな役を任されたのですか」

 

「今。俺が任命した」

 

 中尉は自分の食事を開けながら平然と言う。返事をするのも面倒になってチューブへ口をつけると、今度は脇からチョコバーが出てきた。

 

「半分いるか?そればっかりじゃ飽きるだろ」

 

「ありがとうございます。でも今は結構です」

 

「そっか。後なら食えそう?」

 

「後でいただいてもよろしいですか」

 

「もちろん。取っておきなよ」

 

 中尉はチョコバーをこちらへ寄せ、自分の食事に戻った。私も話の合間に少しずつ流動食を飲み込む。黙って残量を眺めているよりは、いくらか減りが早かった。

 食堂にはほかにも何人かいて、席を立つ者と入ってくる者が交代している。隣の卓から明日の作業時間を確かめる声が聞こえ、ワシヤ中尉も一度そちらへ顔を向けた。

 ヨーツンヘイムはルウム宙域への移動準備で忙しくなっていた。廊下を歩けば機材を運ぶ者に道を譲り、ラボへ寄ればマイ中尉が端末の前にいる。私が休んでいる間にも予定表の項目は一つずつ埋まっていく。

 

「ワシヤ中尉。食事が済んだら最終チェックを手伝ってきなさい。担当者が探していたぞ」

 

 入口からモニク大尉が声を掛けた。

 ワシヤ中尉は口の中のものを飲み込み、空になった容器をまとめ始める。

 

「了解であります、特務大尉殿。じゃあ少尉、これは置いていくから」

 

 中尉はトレイを抱えて席を離れた。

 モニク大尉は入れ替わりに向かいのバーを掴む。何か話があるのかと思って顔を上げると、私の手元を見ていた。

 

「まだ気分が悪いのか」

 

「少し。ですが、食べられないほどではありません」

 

「そうか」

 

 大尉は腰に下げた端末を確かめ、そのまま閉じた。目の下に疲れが見える。私ばかりが寝不足というわけでもないらしい。

 

「大尉も少しお疲れのようですね」

 

「特務機関の仕事は多い。それだけだ」

 

「そうですか」

 

 大尉はそのまま私の作業予定へ話を移した。

 

「作業の予定は聞いている。無理なら担当者に申し出なさい。途中で倒れられると、そちらの方が困る」

 

「承知しました。明日の作業までには整えます」

 

「間に合わせるために無理をするなと言っている」

 

 私は頷き直し、大尉が通路へ出ていくのを見送る。

 卓にはワシヤ中尉の置いたチョコバーが残っている。今すぐ食べる気にはならなかったが、後で持っていこうと制服のポケットへ収めた。

 それから流動食の残りを飲み切った。味は相変わらずよく分からない。それでも容器を空にできたので、今日はそれでよしとする。

 

 

 宇宙世紀0079年1月13日

 

 

 カーゴベイでは翌日の搬出準備が進んでいた。

 ワイヤーとクランプで固定されたヨルムンガンドの部品が並び、その間に作業用の通路が確保されている。照明の落ちた区画には立入禁止の表示が出ており、私は明るい方の手すりを伝って目的のユニットへ向かった。

 照準制御とプラズマ誘導を担うコア・ユニットに身体を固定し、端末を接続する。マイ中尉から届いた補正データを転送すると、画面の表示がゆっくりと進み始めた。

 

「転送後の照合はこちらでやる。少尉は接続部を確認してくれ」

 

「了解しました」

 

 昨日よりは身体も軽い。頭の奥に残っていた騒がしさは薄れ、中尉の声もきちんと聞き取れる。私は端末を脇へ留め、接続部に緩みがないか確かめた。

 

「おい、お嬢ちゃん。そんなところで何をしてる」

 

 声の方へ顔を向けると、工具箱を抱えた初老の整備兵が近づいてきた。ユニットの端へ手を掛け、私の端末を覗き込む。

 

「マイ中尉の指示でソフトウェアの最終同期をしています」

 

「そうか。こっちは射出用スラスターとパージボルトの点検が終わったところだ」

 

 整備兵は手袋でユニットを軽く叩き、隣の部品へ目をやった。

 

「明日はこれを全部外へ出す。出した順に繋げるようにしてあるから、順番だけは間違えてくれるなよ」

 

「そんなに違うものですか」

 

「後で要るものが手前へ出てきたら邪魔になるだろう。このでかさじゃ、ちょいと脇へ置くのもひと苦労だ」

 

 言われて周囲を見ると、似たように見えた固定具にも番号が振られている。整備兵は手元の作業表と照らし合わせ、そのうちの1つへ印をつけた。

 

「こちらのケーブルは作業が済んだら外します。接続口も閉めておきます」

 

「頼む。外へ出してから忘れ物に気づくのは勘弁してほしいからな」

 

 整備兵が次の固定具へ移ったところで、マイ中尉から通信が入った。

 

「照合完了。ケーブルを外して構わない」

 

「了解しました」

 

 私は接続を解除して保護蓋を閉め、作業終了を報告した。向こうでは整備兵たちが次の固定具を調べている。帰り道を塞がないように工具箱を寄せてくれたので、礼を言って通路へ戻った。

 




今回は、なるべく作中で発言されたセリフも交えて書いてみました。
如何だったでしょうか?
これからも新しい要素と元からのものをミックスして行くと思いますので、よろしくお願いします。

次回は、遂にルウム戦役が始まります!

良かったら高評価、お気に入り、ご感想お待ちしてますね!!

登場させるとしても大分先になりますが、ジークアクスのキャラを出すのはアリかナシか。(出るならニャアン)

  • アリ
  • ナシ
  • どっちでも良い
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