技術試験隊斯ク戦ヘリ 作:ザクスキー2世
たぶん私的には最長になります。
それと、初めての連邦側視点での話になるので、楽しんでいただけたらと思います。
宇宙世紀0079年4月23日
「クソ!とんだバケモンだ!」
砂煙の向こうでザクの上半身が吹き飛んだ。
バズーカの初弾を躱し、着地したばかりの機体だった。踏ん張った両脚を残して胸部が爆炎に呑まれ、マシンガンを握っていた右腕が砲身ごと宙を舞う。千切れた動力パイプが火を噴き、胴体の重みを失った下半身だけが遅れて砂の上へ崩れ落ちた。
脇を回り込もうとしていた61式の車長が身を竦ませる。ハッチ越しに見えていた味方の機体が突然消え、代わりに黒煙と焼けた破片が降ってくる。肩に当たった小さな欠片を払い落とす間にも、操縦手が車体を止めかけていた。
「止まるな!そのまま右へ出ろ!」
フェデリコの怒声に操縦手がアクセルを踏み込む。斜面を下りながら砲塔を左へ回し、砂煙を引いて後退する敵機へ狙いをつける。連装砲が相次いで火を噴いたものの、照準器の中で新型機は砲弾の間を抜けていた。
太い脚が地面を滑っている。右へ流れたかと思えば足を踏み替えることもなく左へ戻り、今度は正面を向けたまま遠ざかっていく。胴体の向きを頼りに進路を読もうとしても、機体が移動している方向とまるで合わない。
砲手は舌打ちして照準をずらす。故障しているのではないかと距離表示まで確かめたが、数値は変わらない。次弾の装填を待つ間に新型機はまた砲口の前から滑り出していた。
『右へ逃がすな!そっちから撃て!』
『撃ってる!さっきから撃ってるんだよ!』
クルスのザクがマシンガンを連射しながら前へ出る。砲弾を避けた敵の行く先へ120mm弾を送り込み、稜線の張り出しを回って追いすがる。
その胴体を横合いから大口径砲弾が貫いた。胸部と腰が引き千切られ、片腕を投げ出した上半身が斜めに転がる。通信に乗った短い声を最後にクルスの回線は途切れ、残った両脚が地面へ突っ伏した。
『クルス!?おい、今のは……!』
隣のザクが砲撃の来た方角へ頭を向けた。シールドを立てて下がろうとしたところへ次弾が飛来し、左腕を付け根から奪う。操縦席が激しく傾き、パイロットは身体をシートへ押しつけながらペダルを踏み直す。
まだ脚は動く。後ろの窪みへ入れば隠れられる。
しかし、姿勢を立て直すために捻った胸部へ新型機のバズーカが向いていた。銃を構えようとした右腕もろとも爆炎が呑み込み、叫び声が耳障りな雑音へ変わる。
「稜線の影へ入れ!戦車を先に下げろ!」
フェデリコは指揮官機の頭を引っ込め、まだ撃ち続けている部下へ怒鳴った。新型機を追って前へ出た機体から狙われている。退路を塞がれる前に戦車を通さなくてはならない。
後退するザクの足元を61式が抜けていく。クルスの機体へ近づこうとした部下を呼び止め、フェデリコはその背後の斜面を指示する。今さら手を伸ばしても引き起こせる状態ではない。それでも部下は一度だけ頭をそちらへ向け、ようやく後退を始めた。
「連中のスーパーエースとカチ当たるとは、ついてねぇ……!」
吐き捨てながら味方の表示へ目を走らせる。あの新型機から逃げれば大砲へ晒され、大砲を気にすれば新型機に撃たれる。つい先ほどまで応答していた機体の番号が幾つも消えていた。
教える人間まで使い潰す気か。
あの時、机の向こうにいた将校へ投げつけた言葉が、今さらのように頭を過ぎった。
「それで、今度は俺にザクに乗れってか?」
机の向こうで将校が頷いた。フェデリコ・ツァリアーノの前には新設部隊への配属命令と、撃破された味方の61式戦車の写真が並べられている。砲塔を潰されて焼けた車体の脇には、回収を待つ乗員の遺体まで写っていた。
次の写真も似たようなものだった。横倒しの61式に引き揚げ用のワイヤーが掛けられ、その向こうに別の車両が踏み砕かれた姿を晒している。
フェデリコは写真を机へ戻した。説明されなくても、ザクが何をしたかは分かる。戦車の中から見上げたことも、砲を向けるより早く頭上へ飛び込まれたこともあった。
その機体へ、今度は自分が乗れというのだ。
「敵の兵器を使った戦技研究です。いずれ我が軍にもMS部隊ができます。その時になって、操縦法から調べ始めるわけにはいきません」
「そりゃそうだろうよ。だが、機械の扱いなら開発屋の仕事だろうが」
「動かすだけなら、です」
将校は別の資料を差し出した。
連邦軍でもMSの開発は進んでいた。鹵獲したザクと、裏ルートでジオニックから手に入れた部品を基に開発された初期の試作機、ザニー。その写真には、見慣れたザクとは異なる頭部を持った機体が写っている。
技術者たちは敵の機械を分解し、自分たちの手で動くものを作るところまで漕ぎ着けていた。しかし、操縦席でレバーを動かせるようにしただけではジオンのMS部隊と戦えない。戦車や歩兵を伴って前進し、敵を発見してから射撃位置につくまでの手順さえ、これから決めなくてはならなかった。
将校は訓練予定の欄を開いた。自軍製のMSが揃う前に戦技を纏め、次に乗る者へ教えられる人間を育てる。そのために使えるのは、今ある鹵獲ザクと集められた兵だけだった。
「実戦を知る士官に入って頂かなければ、試験場の中だけで通用するものになります。戦車部隊から人を出して頂くのも、そのためです」
将校はそこで言葉を切り、フェデリコを正面から見据えた。
「いずれ我が軍が反攻に転じれば、ジオンの拠点を攻略しなければなりません。その時、新たに編成されるMS部隊をどう戦わせるか。攻略の成否は、貴官らが確立する戦技に大きく左右されます。そのことを忘れないで頂きたい」
フェデリコは配属命令を手に取った。
セモベンテ隊。戦技教導を担うその部隊には、鹵獲ザクが回されるという。パイロットになる者も集め始めており、機体の整備と並行して訓練を開始する予定だった。
写真の中の61式へもう一度目を落とす。
あれに乗っていた連中だって、初めから負けるつもりで戦場へ出たわけではない。敵の脚を狙えと言われ、背後へ回れと言われ、それでも間に合わずに踏み潰された。次に戦う者へ渡せるものがあるなら、作っておかなくてはならなかった。
「分かった。で、俺の乗る機体はどこだ?」
最初にザクを動かした時、フェデリコは脚の長さを持て余した。
戦車なら車体が隠れる窪みでも、ザクは胸から上が丸見えになる。いつものつもりで土手へ身を寄せ、正面の映像から敵が消えたので隠れたつもりになっていると、観測員から頭が出ていると注意された。
膝を曲げれば、今度は手にしたマシンガンの銃口が土手に引っ掛かる。そこから身を起こして射撃しようとすると、肩と腰が動き、止めたはずの照準がずれた。
「面倒臭えな……戦車なら止まれば撃てるぞ」
『機体の姿勢が落ち着くまで待って下さい。先に上半身を捻ると、その分だけ照準も動きます』
「撃つまで待ってくれる敵なら苦労せん」
その一方で、戦車では越えられない土手を跨げた時には思わず身を乗り出した。道路を回らずに砲撃位置へ入れる。頭を出せば向こう側を覗ける。モニターに映る61式は記憶にあるよりずっと低く、自分たちが砲塔を回していた時にザクからどう見えていたかも分かってきた。
足元へモノアイを向けると、隣の窪みへ入った戦車が見えなくなった。車長から位置を告げられ、カメラを振っても岩が邪魔になっている。
「おい、今の位置を覚えておけ。明日はそこから撃ってみろ」
訓練では何度も戦車兵を相手にした。ザクへ乗り換えた連中は操縦に慣れるにつれて大胆になり、フェデリコが止める間もなく土手を越えて追いかける。
ある時はペンターがその勢いのまま囮の61式を追い、横から脚へ模擬弾を貰った。機体を止められたことに文句を言っている間に、後ろから来たボロゴロフのザクも胸部へ命中判定を受ける。
『ペンター、右脚使用不能。ボロゴロフは撃破だ』
『待てよ!正面の2両は躱したぞ!』
『だから横から撃ったんだろうが』
戦車の中からミッチェルが返した。してやったりという声が、指揮車両のスピーカーにも聞こえる。
『随分追いかけてくるんで驚いたぜ。あそこに待たせてるのは知ってたろう?』
『場所を変えたんじゃなかったのかよ!』
『変えたさ。反対側にな』
フェデリコが鼻を鳴らした。普段、自分たちがジオンのザクへ使っていた戦法だというのに、乗る側へ回った途端に引っ掛かる。囮を追えば側面から撃たれると承知していても、次の一歩で追いつけそうになると足を止められなくなるのだ。
「ペンター。お前、戦車に乗ってた時に何を撃ってた?」
『……ザクです』
「そのザクと同じことをしてどうする。ボロゴロフもだ。2人して同じ奴を追ってりゃ、脇を見る奴がいなくなるだろうが」
返事が途切れ、モニターの中でザクの頭が揃って横を向いた。その先でミッチェルの61式が砲塔を振って見せたので、ボロゴロフが何か言いかけたが、フェデリコが先に訓練の再開を命じた。
撃つ側と撃たれる側を入れ替え、配置を変えて繰り返す。今度は歩兵も混ぜる。正面のMSへ気を取られている間に足元へ潜り込まれ、ペンターがまた機体を止められた時には、僚機の操縦席から遠慮のない笑い声が上がった。
もっとも、その僚機も無傷では済まなかった。
「笑ってる暇があったら見てやれ。お前の背中にも来てるぞ」
戦車や歩兵を相手にするだけでは、訓練は終わらなかった。
ジオンの拠点へ攻め込めば、そこを守るザクと戦うことになる。自分たちがMSへ乗り換えても、倒さなくてはならない敵まで変わるわけではない。
フェデリコはザクを6機ずつの2組に分け、マシンガンにペイント弾を装填させた。自身の指揮官機は両隊を見渡せる位置へ置き、研究担当の士官とともに交戦の様子を確かめる。
「相手も同じザクだ。機械のせいにはできんぞ。始めろ」
最初に顔を出したのは、ペンターの機体だった。
土手の肩からマシンガンを突き出すと、向かいのスチュアート機が膝を曲げる。頭のあった場所をペイント弾が通り過ぎ、背後の岩へ色が散った。
ペンターは銃口を下げて追う。ところが、スチュアートは屈んだ姿勢のまま横へ踏み出し、土手の反対側から銃だけを先に出してきた。
『そっちへ行ったぞ!ボロゴロフ!』
呼ばれたボロゴロフも上半身を捻り、同じ相手へマシンガンを向ける。その横腹で塗料が弾けた。別の窪みから射撃したクルス機が、すぐに頭を引っ込める。
スチュアートのザクは撃ちながら退き、追おうとしたペンターの盾にも続けてペイント弾が当たった。
『ボロゴロフ、撃破。射撃をやめてその場で待機しろ』
『また横かよ……!』
「見えてる奴へ全員で銃を向けるからだ。向こうにも、お前らと同じ数がいるんだぞ」
フェデリコは残る機体へ目を向けた。別の組では、互いに盾を向けたまま撃ち合っている。肩の装甲ばかりが派手に染まり、どちらも胸部へ射線を通せない。
片方が堪りかねて横へ走り出すと、相手は脚を動かさず、腰と腕を回してその動きを追った。走っている側は足を運ぶたびに照準が揺れ、撃ち返す弾が敵の脇へ逸れていく。
戦車の砲塔が回るのを待っていた時とは違う。MSは銃を持った腕だけでも狙いを変えられる。側面へ走ればそれだけで有利になると思っていると、こちらが撃つ姿勢を整える前に胸を染められた。
逆に、相手の銃口から逃げようと大きく跳んだ者は、着地して膝を伸ばす間に撃たれる。機体を動かせるようになったことと、敵を撃ちながら動けることは別だった。
組み分けと配置を替え、何度も戦わせた。フェデリコも部下と交代して片方へ入り、銃を向けられる側から動きを確かめる。
撃破判定を受けた者は、残った味方がどう戦うかを最後まで見なくてはならない。自分が抜けた側へ敵が回り込み、僚機まで背中を撃たれる。その記録を見せられると、単独で前へ出た者も口数が減った。
やがてペンターは、スチュアートの姿を見つけてもすぐには撃たなくなった。
右へ開くボロゴロフ機を確かめ、短く位置を告げる。向こうから返事が来たところで、ようやく土手から上半身を出した。
『こっちを見てる。回れるか?』
『もう少し。……いいぞ、撃て!』
ペンターの連射を受け、スチュアートが盾を立てる。その脇へボロゴロフのザクが現れた。盾を向け直そうと胴体を捻ったところへ、ペンターがもう一度引き金を引く。
胸部へ広がった塗料を見て、フェデリコは撃破を告げた。
『よし!見たか!』
『分かったから下がれ!クルスが出てくる!』
ボロゴロフに急かされ、ペンターが土手へ身を沈める。その頭上をペイント弾が抜けた。今度はボロゴロフが撃ち返し、僚機が隠れるまで敵を押さえている。
フェデリコは口元を僅かに緩めた。1機を倒した後にも、次の敵を見ていた。
もっとも、同じ手がいつまでも通じるわけではない。次にはスチュアートもクルスの援護が届く場所まで下がり、回り込んできた機体を先に狙った。攻め方が変われば、守る側も変える。正面からの撃ち合いだけだった演習場で、ザクが互いの射線を避け、僚機へ敵を追い込むようになっていく。
帰投の指示が出ても、誰が先に撃つべきだったかと回線で言い合っていた。
帰投すると研究担当の士官が待っていた。機体の整備記録と操縦記録を回収し、降りてきた連中をそのまま映像の前へ座らせる。食堂へ逃げようとしたペンターも呼び戻され、不満そうな顔で椅子を引く。
今日、何機倒したかでは終わらない。脚を出した時に照準がどれだけずれたか、上半身を先に回したのはなぜか。操縦した本人も覚えていない操作まで聞かれ、ボロゴロフが困ったようにフェデリコを見た。
「俺を見るな。動かしたのはお前だろうが」
「でも、そこは勝手に機体が……」
「それなら、そう言って下さい。こちらで動作を確認します」
口を挟んだ技術者がその場面を戻した。画面の隅には細かな数値が並び、別の士官が手元の資料へ何かを書き加えている。黙って見ていたフェデリコも、次に自分の映像が出たところで椅子へ座り直した。
土手から頭を出したまま撃たれている。部下に散々言ったばかりの失敗だった。
隣でペンターが口元を押さえる。
「……言いたいことがあるなら言え」
「いえ、何も」
こうして集めた記録から射撃や移動の手順を直し、次の訓練で試す。機体側を調整しなくてはならないものもあれば、乗っている人間が覚えるしかないものもある。ザクの扱いは少しずつ馴染み、フェデリコも土手の高さを測るのに戦車の感覚を使わなくなった。
部下を呼んで機体を動かさせる時にも、返事から実際に動き出すまでの間が短くなっていた。
アリゾナへの潜入命令が下ったのは、そうして訓練を重ねてからだった。
敵の後方へ入り、補給拠点を襲撃する。鹵獲ザクを用いてジオン軍の警戒を潜り抜け、地上部隊の補給を乱すのだ。同時に、これまでの研究成果を実戦で確かめ、その記録を持ち帰るよう求められていた。
説明を続ける参謀将校の指が、集積所へ続く道を辿った。先行するザクが補給を求め、守備隊を引きつけている間に戦車と歩兵を配置する。合図とともに通信設備と守備機を叩く手筈だった。
フェデリコは地図から顔を上げる。
「待て。ジオンの味方だと思わせて近づいて、そのまま撃つんだろう。条約違反はいいのかよ」
「問題になるのは、それが明らかになった場合です」
参謀将校は手を止めたが、説明していた時と声は変わらなかった。フェデリコが片目を細め、その顔を見据える。
「……皆殺しにしろってことか」
「目撃者が残らなければ、問題が表面化することもありません」
「随分と都合のいい話だな。しくじった時はどうなる?」
「本作戦に参加するセモベンテ隊は秘匿部隊として扱われます。公式記録上、我々にそのような部隊は存在しません」
「捕まっても知らん顔ってわけか」
「そのような事態は避けて頂きたい、と申し上げています」
フェデリコは鼻を鳴らした。戦技の記録は持ち帰れと言い、何かあれば部隊ごと知らぬ存ぜぬで済ませるつもりらしい。参謀将校は視線を逸らさず、机に広げた資料へ手を置いたままでいる。
フェデリコは作戦地域の地図を睨んだ。集積所の印は、北米の内陸へ広く散っている。1か所を襲っただけで終わる仕事ではなさそうだった。
「どれだけの期間、アリゾナで狐の真似事をさせる気か知らんが、教える人間まで使い潰す気なら後が続かんぞ。戦車がいる、歩兵もだ」
「参謀本部も承知しています。もちろん戦車と歩兵も付けます。それに陸戦艇も……MSだけで戦えという命令ではありません」
参謀将校は手元の編制表を取り上げた。
「今回の派遣では、MSを含む諸兵科連合部隊の運用も検証します。戦車と歩兵をどう組み合わせれば、MSの機動力を生かせるか。逆に、MSの援護があれば、戦車や歩兵に何ができるか。それを実戦で確かめて頂きたいのです」
「撃ち方から下がり方まで、こっちで使える形にしろってわけだ」
「その通りです。各兵科の連携要領を纏め、後続部隊の教育に使えるだけの資料を持ち帰って下さい。通用しなかった戦法も含めて、今後の戦技研究に必要になります」
渡された編制表をフェデリコは指で辿った。
指揮官機を含むザク13機、61式戦車15両、対MS特技兵1個中隊。部隊を格納しての移動と、後方で補給を担う拠点として機能する大型陸戦艇*1も付く。
これはかなりの戦力だ。だが、編制表に機数と人数を並べただけで、部隊として動くわけではない。ザクの連中がようやく手足の扱いを覚えたところへ、今度は戦車と歩兵を組み込むのだ。どれほど腕のいい者を集めても、互いの動きが分からなければ足を引っ張る。
フェデリコは歩兵の指揮官を呼び、続けて戦車隊へ話を通した。出発までの訓練予定を組み直すためだった。
初めの合同訓練では、ザクが先へ出すぎた。
足の速さに任せて土手を越えたところで、戦車の援護が途切れる。歩兵はさらに後ろに取り残され、ようやく追いついた時には、先行したザクが待ち伏せの餌食になっていた。
次には戦車が前へ出るのを待たせた。ところが、今度は歩兵の展開が終わる前に砲撃が始まり、伏せている兵の頭上を味方の射線が通る。フェデリコは演習を止め、3つの兵科の指揮官を同じ地図の前へ集めた。
「自分のところだけ準備が済めば撃っていいと思うな。前にいる歩兵をどうするつもりだ」
地図へ引かれた線を消し、進出の順序と合図を決め直す。歩兵から見えないザクの位置を誰が伝えるか。戦車が射撃位置を変える間、どの機体が敵を押さえるか。通信が途切れた時に、どこまで進んでよいか。
部隊を戻し、同じ場所からやり直した。うまく通れば、次は敵役の配置を変える。昼間にできたことを夜にも試し、陣地を取った後には、追撃を受けながら退くところまで続けた。
訓練を重ねるにつれ、回線から怒鳴り声が減っていった。
歩兵の通報でザクが向きを変え、その背後を61式が抜ける。戦車が砲口を据える頃には、ザクはもう射線の外へ出ていた。ペンターも、退いた敵を追う前に僚機の位置を確かめるようになっている。
後退の演習で1両に走行不能の判定が出た時には、フェデリコが指示するより早く別の戦車が牽引に向かった。ザクが前へ出て敵役を牽制し、歩兵が退路の脇を押さえる。予定していた道を塞がれても、誰かが援護を放り出して逃げることはなかった。
彼は回線を開きかけ、そのまま部下たちに任せた。
編成されたばかりの頃は、確かに寄せ集めだった。
だが、今なら戦える。誰が何をしているかを分かった上で、自分の仕事を果たせる連中になった。機械に不慣れな者を怒鳴りつけ、同じ失敗を何度もやり直させた甲斐はある。
ザクから降りてきたペンターたちが、戦車兵と先ほどの退却経路について話している。研究担当の士官に呼ばれても、今日は途中で話を切らず、そのまま連れ立って記録室へ入っていった。
フェデリコは、その後ろ姿を見送った。
装備の出所がばらばらだろうが、他所の部隊に引けを取るつもりはない。自分の手で、一流と呼べる部隊に仕上げた。その自負は、もうあった。
ジャブローを発ち、北米で作戦を始めると、ザクの外見は思った以上に役立った。
物資集積所の見張りは、接近する機体を見て警戒を緩める。補給を求める通信にも応じ、ザクが進入できる道まで教えてくれた。
フェデリコはその案内へ短く礼を返し、後続へ進路を伝えた。味方の戦車は離れた地形の陰で待機し、歩兵が先に周囲へ散る。集積所側が不審を抱いた時には、ザクの銃口が守備機と通信設備へ向いていた。
反撃しようとした守備機が倒れ、物資の山から火が上がる。積み出せるものを回収し、残りを焼く。追手が来る前に部隊を纏め、次の地形へ消えた。
ミニ・トレーの整備区画では、夜になっても作業灯が消えなかった。回収した敵の部品でザクを直す横を、戦車の弾薬を運ぶ兵が通っていく。操縦席から降りたばかりのパイロットを研究担当が捕まえ、食事の皿を持ったまま映像を確認させていた。
翌朝もペンターは整備兵に呼び止められた。操縦記録の提出を忘れていたのだ。先に乗り込んでいたクルスが通信越しに急かし、スチュアートからは置いていくぞと声が飛んだ。
「騒ぐな。出るぞ」
フェデリコの声で各機が動き出した。小言を言われていたペンターもすぐに所定の位置へ入り、隊列の脇を61式が進んでいく。
その機体を送り出した整備兵たちは、次の帰投までに片付けておく仕事へ戻っていった。
『歩兵隊より!敵がこちらへ向き直った!援護を!』
悲鳴じみた通信が、フェデリコの意識を戦場へ引き戻した。
モニターの向こうで新型機が腰からマシンガンを抜く。右腕にバズーカを抱えたまま左手の銃口を下げる。その先には砂を被せた偽装網があり、まだ退避していない兵がいた。
陣地の中には、三脚に据えられたM101A3リジーナがあった。装填を終えた兵が射手の肩を叩き、次の予備弾へ手を伸ばす。射手は照準器を覗き込み、発射筒を敵へ向け直した。初めの射撃を躱された後も、三脚ごと運び出して陣地を変える余裕はなかった。
「早くしろ!こっちを見てるぞ!」
「分かってる!伏せろ!」
射手が照準を合わせるより早く、銃口が閃いた。
120mm弾が陣地の縁を砕き、積み上げた土嚢を内側へ押し込む。偽装網を支えていた杭が折れ、リジーナの三脚が傾き、照準器に取りついていた射手も、次弾を抱えていた兵も、巻き上がる土砂の中へ消えた。
数十メートル離れた窪みで別の班の射手が息を呑む。
射手は偽装網の下でリジーナの照準器へ顔を寄せた。自分の陣地はまだ撃っていない。三脚に支えられた発射筒を旋回させ、反対を向いている敵の背中へ狙いをつける。僚兵が肩を叩くのを待って引き金を引く。ところが、発射と殆ど同時に新型機が速度を落とした。
リジーナの弾頭が狙った位置を通り過ぎる。射手は歯を食いしばって誘導を続け、横で顔を上げた僚兵にも伏せていろと怒鳴った。まだ曲がる。少し戻せば背部に届くはずだったが、照準器の中で敵の左腕がこちらへ伸びてくる。
「何で……!」
銃口の閃光が視界を埋めた。
フェデリコの耳に通信機が地面へ叩きつけられるような音が届く。すぐに別の兵が応答を求めたが、その回線から人間の声が返ることはなかった。
今の班は射撃を待たせていた。発射煙を見られたはずもなく、他の陣地からも離してある。それでも撃つ寸前に躱されるのだから、伏せて待たせるだけでは兵が死ぬ。フェデリコは応答を求め続ける歩兵の指揮官を遮った。
「残った歩兵を下げろ!ザクは頭を出して撃て。連中から目を離させるな!」
稜線からザクの上半身が現れ、マシンガンの弾列を新型機へ叩きつけた。敵が横へ流れたところへ、今度は低い位置から61式の砲弾が飛ぶ。
ようやく新型機の銃口が歩兵から外れた。
崩れた陣地から兵が這い出し、窪みに沿って走り始める。リジーナを三脚ごと陣地に残した兵が、脚を負傷した仲間の襟を掴んで引きずっていく。後ろから別の兵が加わり、2人掛かりで土手の陰へ運び込む。
フェデリコは退避を確認しながら、自分のザクも別の切れ目へ移した。斜面に胴体を隠し、マシンガンの銃口だけを持ち上げる。
フェデリコは敵の移動先へ銃口を据え、こちらへ流れてくるのを待って撃った。しかし、新型機が逆へ滑り、連射した弾は何もいない地面を掘り返すばかりだ。敵のモノアイがこちらへ向きかけたので射撃を切り、肩まで斜面へ沈めた。
「……冗談じゃねえぞ」
フェデリコは脚部ミサイルを装備した機体へ一斉射撃を命じた。敵を見通せなくても、動き回れる場所には限りがある。大砲のいる一帯にも撃ち込み、少しでも陣地を離れさせたかった。
稜線の向こうへ幾筋もの白煙が伸びる。
弧を描いたミサイルが落下し、地面を次々に爆炎で覆う。新型機は砂の厚い斜面を掠め、大量の土煙を巻き上げながら加速する。追いすがった弾頭はその中へ消え、直前まで敵のいた場所に火柱を立てる。
もう一方の弾着は稜線に隠れて確認できない。
『大砲の方はどうなった!』
『見えん!煙で何も……!』
返事を待つより早く、頭上を砲弾が越えた。
後方で炸裂した榴弾が、身を伏せていたザクの背へ土砂を浴びせる。斜面に停車していた61式が急発進し、その跡へ次の爆発が広がる。
フェデリコは地図へ目を落とし、左右の低地を確かめた。固まっていては、いずれどこかへ直撃を貰う。だが、何も考えずに稜線から出れば、新型機と大砲の両方から狙われる。
「二手に分かれる!左はあの新型を押さえろ。右は大砲へ回る。奴らを離せ!」
ザクが走り出す。
戦車が土手の低い場所を選んで先へ進み、その後ろをMSが追う。フェデリコは両隊の間へ続く窪みに入り、指揮官機の姿勢を低くした。地形越しに見えるのは部下の頭や肩だけだ。
その最後尾でモノアイが急にこちら側へ振れた。
『左から来た!』
バズーカ弾がザクの脇腹へ突き刺さった。
側面装甲が内側へ押し潰され、反対側から火と破片が噴き出す。爆発した機体が進路へ倒れ込み、隣を走っていたザクが慌てて足を開いた。
土手の上には既に新型機がいた。
撃ち尽くしたバズーカを投げ捨て、背から赤熱した刃を抜き放つ。爆風に煽られたザクがマシンガンを向け直そうとした時には、敵はもう目前まで来ていた。
パイロットが反射的に差し出した左手を切っ先が貫き、そのまま胸部へ入り込む。装甲の縁が赤く焼け、刀身が根元近くまで沈んだ。右手のマシンガンが持ち上がりかけたまま止まり、ザクの膝がゆっくりと折れていく。
『畜生!離れろ、撃てねえ!』
残った機体が左右へ開く。
だが、倒れる味方が邪魔になり、銃口を向けられない。片方がその頭越しに撃つ頃には、新型機は既にヒートサーベルを抜いて斜め後方へ滑っている。追撃弾が土手を削る中、敵の姿は爆煙に隠れていった。
フェデリコの位置からも射線は通らない。低地を抜けて頭を出すまでに、新型機は稜線の向こうへ消えていた。
しかも通りすがりにバズーカを拾い直している。その腕を狙って撃ったザクが後を追い、弾幕を避けて下がった新型機へ再び銃口を向ける。
「追うな!そいつを越えると……!」
制止を聞くより早く稜線へ上がったザクがマシンガンを浴び、上半身を仰け反らせた。そこへ横合いから大口径砲弾が飛び込み、胴体を引き裂く。
上半身は向こうへ落ち、片脚がこちら側の斜面を滑り下りてきた。千切れた足首が岩へぶつかり、フェデリコの機体の前で止まった。
「左の2機は出るな!顔を出して撃つだけでいい。右は煙幕を張れ!」
返ってきた声は、どれも息が荒かった。
通常型のザクは残り5機。指揮官機を含めても6機だった。61式は11両残っていたが、大砲の射線を横切って前へ出るわけにはいかない。
フェデリコは操縦桿を握り直し、右翼のスチュアートを呼んだ。
左の2機が交互に顔を出して撃つと、新型機は進路を変えて向き直る。背後を取られる位置に、動けるザクを置いていきたくないらしい。その間なら、右の3機を大砲へ近づけられる。
「スチュアート、煙幕が広がったら跳べ。上から車体を撃て。ペンターとボロゴロフは着地に合わせて詰めろ!」
白煙が地形に沿って広がった。
フェデリコは、低地を進んだ先にある斜面へ目を向けた。部下の突入方向から少し外れているが、そこを越えれば大砲の脇へ出られる。右の3機へ自分の回り込む方角を伝え、指揮官機を歩かせた。
長い砲身を持った車両だ。遠くから撃たせるから厄介なのだ。懐へ入り、砲口をあちこちへ向けさせれば、撃てる相手は限られる。
その頭上をスチュアートのザクが跳び越えた。
煙の膜を突き破った機体が両脚を前へ出して上体を起こし、手にしたマシンガンから稜線の向こうへ弾列を撃ち下ろす。
『見えた!窪みにいる!』
車体の装甲へ火花が散った。
大型車両はすぐに煙幕を展開し、後退を始めた。着地したザクがその煙へ銃口を向けたまま進み、後続の2機が左右へ広がる。
フェデリコが速度を上げかけたところへ、左翼から悲鳴が入った。
『来るぞ!こっちへ……!』
新型機が再び稜線を越えようとしていた。
牽制していたザクの銃口へバズーカを向け、身を晒すと同時に発砲する。狙われたパイロットは土手から飛び退き、直撃を免れた。爆発で吹き上がった砂がモニターを覆う。
砂煙を赤い刃が横切り、回避先へ回り込んだ新型機が姿を現した。肩を土手へぶつけて動きを止めたザクの胸へヒートサーベルが薙ぎ込まれる。胸部装甲が裂け、コックピットの奥から炎が噴き出した。
残されたジャクソンが後ずさり、援護射撃を続けようとしたが銃が止まった。残弾表示を見た途端に空の弾倉を捨て、予備を引き抜く。急いだせいでマニピュレーターの指が弾倉の縁を滑り、ジャクソンは舌打ちしながら掴み直す。
「ジャクソン、もういい!右へ抜けろ!戦車隊、新型の進路へ撃ち込め!」
待機していた61式が砲塔を揃える。
新型機の前へ戦車砲弾が落ち、地面を爆炎と土砂で覆う。続けて別の車両が撃ち、回り込もうとした進路にも弾着が並ぶ。
直撃はしていない。それでも、新型機が左の生き残りを追うには、砲撃を横切る必要があった。
ジャクソンは弾倉を押し込んで稜線裏へ走った。振り返ったモニターに新型機が映ったが、その銃口は砲撃を続ける61式へ向いている。彼はさらにスラスターを吹かし、味方の煙幕へ飛び込んだ。
『合流する!俺もそっちへ行く!』
フェデリコはジャクソンの合流を伝え、大砲へ向かう4機を確認した。続けて戦車隊と歩兵隊の回線を開く。
「戦車隊、新型をこっちへ寄越すな!歩兵も残ってる奴は全部そっちへ回せ!」
残る61式11両が稜線に沿って展開する。先に停止した車両が砲撃を始め、その脇を別の車両が走って射撃位置へ入った。新型機が砲口へ向き直ると、今度は横から砲弾が飛ぶ。
退避してきた歩兵たちも窪みの中で足を止めた。運び出せたリジーナを岩陰へ据え、三脚の脚を砂へ押し込む。機材を失った兵は負傷者を土手の裏へ運び、撃てる陣地へ残った弾薬を集めていった。
ミニ・トレーの砲撃を呼ぶには、敵と味方が近すぎた。今から射撃位置を変えさせていては間に合わない。
フェデリコは主隊と別の斜面へ機体を寄せ、肩を地形の下へ沈めた。煙の向こうでは履帯が砂を掻く音が続いている。
「来やがったか……!」
ヒルドルブの操縦席でソンネンが側方モニターを睨む。煙を割ってザクが迫り、その後ろからも別の機体が銃を構えて近づいてくる。高く跳んで撃ち下ろしてきた1機を含め、4機が陣地を捨てたヒルドルブを取り囲もうとしている。
主砲の脇に火花が散った。続けて車体を叩く振動が伝わり、機外装備の警告が点灯する。ソンネンは舌打ちして警告を消すと、後方へ向けていたカメラを隣の画面へ移した。まだ下がれるが、このままでは左右へ回ったザクから履帯を狙われる。
操縦レバーを倒し、変形機構を作動させた。
「APFSDS装填!次弾も同じだ!」
弾種表示が切り替わり、車内で装填機構が動き始める。ソンネンはその振動を背中で感じながら、迫ってくるザクへ上半身を向けた。
「近づきゃ勝てると思ったかよ!」
ヒルドルブの上部装甲が動き始める。砲を支える中央の構造がせり上がり、低く伏せていた車体から上半身が起き上がる。左右へ展開した腕が煙を払い、長大な主砲が地面から遠ざかっていった。
ペンターは思わず照準を上げた。さっきまで戦車のように地面へ這いつくばっていたものが、こちらを見下ろすように上半身を向けている。
『なんだ!?起き上がったぞ!』
モビル形態へ移行したヒルドルブの右手に105mmザクマシンガンが握られていた。銃口がペンターを捉え、頭部と肩へ連射を浴びせる。モノアイを覆う装甲の縁に弾が当たり、操縦席の映像が細かく揺れる。
ペンターはシールドを前へ出し、脇から銃を突き出して撃ち返す。だが、下げた照準の中に車体がいない。ヒルドルブは後退をやめ、彼の足元へ突っ込んでいた。
「左右へ開け!正面に立つな!」
フェデリコの怒声とともにボロゴロフが外へ踏み出す。ペンターもスラスターを噴かし、巨体を横へ逃がそうとする。その間を突破するようにヒルドルブが車体を振り、掘り返された砂がザクの膝まで噴き上がった。
距離はおよそ100m。装填完了の表示を確かめたソンネンが引き金を引き、主砲が火を噴いた。
ペンターの腰部装甲を徹甲弾が貫き、持ち上がりかけた巨体を引き裂く。バックパックの噴炎だけを残して上半身が後ろへ折れ、地面へ叩きつけられた。マシンガンが右手から抜け落ち、砕けた腰の脇を滑っていく。
『ペンター!』
ボロゴロフが叫んだ時には、ヒルドルブが残骸の前を横切っていた。銃口を下げて撃ち込むと、車体の上へ火花が並ぶ。だが、敵は止まらず、左腕を地面へ伸ばして落ちた銃を掴んだ。
「良いもん持ってんじゃねぇか」
ソンネンは拾い上げたマシンガンを持ち直す。銃床に砂を噛んでいるが、給弾部は潰れていない。指を掛けると握りの中で機構が動き、120mm弾がボロゴロフのザクへ飛んでいく。
105mmと120mmの弾幕が左右へ伸びる。ボロゴロフは肩で受けながら後退し、反対側のスチュアートは岩陰へ身を寄せた。着地したばかりの脚で斜面を踏み直し、腰を落としてマシンガンを構える。
『あの野郎、ペンターの銃を……!』
「銃なんぞ見てる場合か!横へ回れ!足を止めるな!」
フェデリコも主砲の付け根へ短く撃った。目立つ砲身に狙いをつけても、ザクを追って回る上半身が射線から外れてしまう。数発が装甲へ当たったところでヒルドルブは窪みへ入り、今度は地形に遮られた。
低い車体を持つ兵器へ、高い位置から撃ち下ろしている。地面の僅かな起伏が邪魔になるのは、訓練で61式を相手にした時と同じだった。
彼は指揮官機を前へ出し、土手の向こうへ回ろうとする部下へ位置を伝えた。真正面から追わせるわけにはいかない。左右に開いた連中が間に合うまで、敵をその場へ押し留めたかった。
『ジャクソン、そっちは空いてる!もっと前へ出ろ!』
スチュアートの呼びかけにジャクソンが応じた。土手沿いにザクを走らせ、逃げていく車体の脇へ回る。ボロゴロフは後ろからマシンガンを撃ち続け、ヒルドルブが銃口をこちらへ向けるたびに盾を前へ出す。
ペンターの機体を跨いだ時には見ないようにした。崩れた上半身にコックピットの形が残っていなかった。
『スチュアート、早くしてくれ!こいつ、全然止まらねえ!』
『分かってる!撃ち続けろ!』
ヒルドルブの上半身が後ろへ回り、マシンガンでボロゴロフへ撃ち返す。その瞬間を狙ってスチュアートが岩陰から出た。胴体の下にある旋回部分を狙い、地表を掠める弾幕を浴びせる。
車体の側面で金属片が跳ねる。ソンネンの足元へ細かな振動が伝わり、右側のモニターにザクが映り込む。さらに前方の土手からもう1機の頭が見え、そちらへ銃を向けると側面からの射撃が激しくなる。
「ちっ、鬱陶しい連中だ!スモーク散布!」
発煙装置が作動し、車体の両側へ煙が広がる。
ソンネンは右手の105mmを撃ちながら片側の履帯を絞った。車体が大きく旋回し、後部から噴き上がった砂が追撃するザクへ押し寄せる。上半身はその場に残すように向きを保ち、横へ流れた車体の上で主砲だけがスチュアートを追っていく。
狙われたスチュアートが後退する。土手へ寄ろうとした足元を105mm弾が掘り返し、彼はさらに外へ機体を振った。
『砲をこっちへ向けてる!ボロゴロフ、後ろだ!』
ボロゴロフは砂煙へ銃を突き出して進む。マシンガン越しに車体の後部が見え隠れしている。弾を集中させると装甲が捲れ、何かの部品が千切れ飛んだ。もう少し近づけば履帯を真横から撃てる。
ところが、巨体がその場で向きを変えた。
噴き上がる砂の壁から履帯が突き出し、ザクの脚へ迫る。ボロゴロフは慌てて左へ跳んだ。着地と同時に撃とうとした銃口の前をヒルドルブの車体が掠めていく。
ソンネンはスチュアートへ向けていた主砲を引き戻した。ボロゴロフのザクが足を開き、左へ流れた重心を戻そうとしている。
砲内には先ほど指示したAPFSDSが入っていた。車体を走らせて100mほど離したところで照準が重なり、砲声とともにボロゴロフ機の胸部が弾けた。
その光景がスチュアートのモニターにも映る。今まで自分へ向いていた砲口が振れ、次の瞬間には僚機の背中から破片が噴き出していた。ボロゴロフのザクが両膝をつき、ヒルドルブの走り去った跡へ倒れ込む。
『ボロゴロフ!応答しろ!』
呼びかけても返事はなかった。スチュアートは銃を向け直したが、味方の機体から上がった爆煙がヒルドルブを隠してしまう。煙の薄い場所を撃った直後、反対側からマシンガンの弾が飛んできた。
その中をジャクソンが進んでいた。砲声を聞いても足を止めず、土手を回って車体の進路へ銃口を突き出す。ヒルドルブの前を120mm弾が横切り、履帯の先端へ火花が散る。
ソンネンは車体を斜めに振り、連射される弾の向こうへ左手の銃を撃った。ザクが土手へ引っ込むとすぐに向きを変え、追ってきたスチュアートにも105mmを浴びせる。
主砲の後ろで薬莢が転がり出る。ソンネンは次弾をまだ指定せず、両手のマシンガンで左右のザクへ撃ち返した。
フェデリコはその動きを歯を食いしばって見ていた。近づけば長い砲身が邪魔になると思ったが、敵は自分からザクの間へ入り込んでいる。あの車体を追って回っていては撃たれるばかりだ。
「ジャクソン、その先へ回せ!俺が脇から撃つ!」
指揮官機を前へ進め、フェデリコは低い土手へ寄った。向こう側へヒルドルブが出れば側面を撃てる。部下には追うのをやめさせ、こちらへ向きを変えさせたかった。
遠方でも戦車砲の発射炎が連なっていた。新型機がその脇を抜けかけると、岩陰のリジーナが白煙を噴く。射手が照準器越しに追う先で太い脚のMSが横へ滑り、弾頭は背後の斜面へ突き刺さった。
新型機の左腕が上がる。
「伏せろ!」
射手は照準器から顔を離し、陣地の底へ転がり込んだ。頭上を120mm弾が叩き、岩の破片が背中へ降ってくる。その間に61式が砲塔を向け直し、新型機の進路へ続けて撃ち込んだ。
土煙を抜けた新型機が再び大砲の方角へ向く。戦車隊はそちら側の車両を下げつつ射撃を重ね、隣の窪みでは別のリジーナの射手が発射筒を旋回させていた。
スチュアートがマシンガンの弾倉を捨てる。新しい弾倉を押し込む間にも、ジャクソンがヒルドルブへ撃ち込んでいる。敵の上半身がそちらへ向いたので、彼はバックパックの推進剤残量へ目を落とした。
最初の跳躍では上から車体を撃てた。あの長い砲を横から追うくらいなら、もう一度頭上を取った方が早い。
『上からやる!下を押さえてくれ!』
スチュアートのザクが地面を蹴った。バックパックと脚部の噴炎が砂煙を引き裂き、巨体を上空へ押し上げる。ジャクソンはその影の下を進み、ヒルドルブの履帯と砲の付け根へ交互に射撃を加える。
ソンネンは105mmでジャクソンへ応射しながら、上方の映像へ目を走らせた。煙を突き抜けてザクが上昇している。
「TYPE3装填!信管ゼロ距離!」
弾種表示が切り替わり、装填機構が動き出す。ソンネンは地上のザクをマシンガンで押さえながら車体を切り返した。頭上のザクが両脚を開いて銃口を下げ、上と横から120mm弾が降り注ぐ。
被弾に揺れる操縦席へ砲尾の閉じる振動が伝わり、TYPE3の装填完了が灯った。
「次弾、HE装填!」
頭上の奴を落としても、地上の1機が残る。次弾の指定を済ませたところへ被弾の衝撃が走った。左前方の映像に雑音が混じり、上半身を支える装甲の縁から破片が飛ぶ。ソンネンは左手の銃も地上の敵へ向け、引き金を引きながら履帯を切り返す。
スチュアートの足元で長大な砲身が持ち上がる。
彼はペダルを踏み直した。もう1度噴かして横へ逃げようとしたが、降下の勢いが残っている。両脚の間に見えていた砲口が大きくなり、操縦席の正面へ重なってくる。
「そこだ!」
至近距離から対空散弾が放たれた。砲口を出たところでラッパ状に拡散した散弾がザクの腹へ叩き込まれ、腰から胸部にかけて装甲が内側へ潰れる。頭部カメラの映像は地面を捉えたままだったが、その下のコックピットまで無数の金属が貫いていた。
右腕がマシンガンごと外へ飛び、脚部の噴炎が横へ流れた。胴体を折り曲げたザクが制御を失って落下し、ヒルドルブの脇へ叩きつけられる。
砲が後座から戻ると、空の薬莢に代わってHE弾が装填機構へ送られた。
その残骸の向こうから、ジャクソンが飛び出してきた。
『くそったれがあっ!』
スチュアートの機体が落ちるより先に走り始めていた。砲口はまだ上を向いている。地面を転がる腕を避けながら前へ出て、主砲の付け根へマシンガンを押しつけるように撃つ。
ヒルドルブの肩に着弾が並び、厚い装甲で弾が砕ける。捲れた外装が腕に引っ掛かった。警告が響く操縦席でソンネンが左の銃を振ったが、数発撃ったところで止まってしまった。
拾った銃の弾倉が空になったのだ。
ソンネンはマシンガンを放り、右手の105mmを向けた。ジャクソンはその銃口を避けてさらに踏み込み、前部装甲のすぐ脇まで入ってくる。主砲を下げようとしても、長い砲身が敵の肩に触れかけていた。
ジャクソンは銃を左手へ持ち替え、ヒートホークを抜き放つ。さっきから装甲に弾かれてばかりだったが、刃なら叩き込める。あの回る上半身ごと車体へ縫い付けてやるつもりで右腕を振り上げた。
『もらった!』
振り下ろされたヒートホークが前部装甲へ食い込んだ。赤熱した金属が飛び散り、ソンネンの身体をシートごと揺さぶる。彼は衝撃に顔を歪めながらもレバーを離さず、左右の履帯を回す。
ヒルドルブは斜め後方へ滑り、振り切られた刃が装甲の端を削って外れた。ジャクソンが斧を引き戻して追おうとする。その頭部へ105mm弾が集中し、モノアイの周囲を叩き割る。
真っ暗になった正面モニターを見て、ジャクソンは咄嗟にサブカメラへ切り替える。眼前には敵の車体があるはずだ。ところが、映し出されたのは少し離れた地面と、こちらへ向き直った砲口だった。
ソンネンの目の端で装填完了の表示が灯る。
「くたばりやがれ!」
ソンネンはそう吼えながら引き金を引いた。ザクの胸部で榴弾が炸裂し、コックピット周辺の装甲が吹き飛ぶ。ヒートホークが手から離れ、上半身を砕かれた巨体が仰向けに倒れ込んだ。最後まで左手に握られていたマシンガンが、その脇へ落ちた。
4機とも、やられた。
フェデリコは誰も答えなくなった回線を見た。ジャクソンが近づいた時には射線に入らないよう機体を止め、次に頭を出した時にはその胸が爆炎に包まれていた。
土手の向こうで黒煙が上がっている。つい先ほどまで怒鳴り合っていた連中の声が、もう聞こえなかった。
訓練の映像を見せられたペンターが隣で笑いを堪えていた顔を思い出す。叱りつけても翌日にはまた同じ顔をしていた。機体が止まったところで席を降り、散々文句を言ってからやり直せたあの頃とは違う。
フェデリコは唇を歪め、吐く息と一緒に言葉を押し出した。
「……よくもやってくれたな」
残弾表示を確かめて機体を斜面の下へ伏せる。1弾倉ある。もう少し低地を進めば、砲を撃ち終えた車体の側面へ出られる。
遠くでは61式の射撃が続き、窪みからリジーナの発射煙が上がる。新型機はまだ戦車と歩兵の間を走っているが、いつ抜けてくるか分からない。フェデリコはマシンガンを胸の前へ据え、崩れた岩の間へザクを押し込んだ。
ソンネンは右側のモニターで、倒れたザクが動かなくなるまで見届けた。長く息を吐き、マシンガンを下げる。手袋の内側が汗で滑っていた。
車体の警告は幾つも点いている。それでも履帯は回り、主砲の装填機構も止まっていなかった。操縦レバーを握り直したソンネンの頬が緩んだ。
「ハハッ……惜しかったなぁ」
車体前部装甲にヒートホークの傷を残したまま、ヒルドルブはザクの残骸を迂回した。上半身を前へ戻し、車体の速度を緩める。ソンネンは横で燃えている機体から目を離し、新型機のいる方角へカメラを向けかけた。
その脇で砂が崩れた。
フェデリコのザクが土手の低い切れ目へ進み、地形に隠れていたマシンガンの銃口を突き出した。ヒルドルブの主砲は逆を向いている。先ほどまで忙しく動いていた腕も下がっている。
終わったつもりか。
フェデリコはペダルを踏み込んだ。指揮官機が斜面を蹴り、砂を崩しながら前へ出る。肩越しの長い砲身が僅かに動く。それがこちらへ向くより先に、照準の中へ車体が広がった。
「まだ終わっちゃいねえぞ!」
指揮官用のブレードアンテナを備えたザクが煙の中から躍り出た。
フェデリコはマシンガンの引き金を絞り、ヒルドルブへ襲いかかった。
ご高覧ありがとうございます。
如何だったでしょうか?
本当は8千文字くらいで分割したかったのですが、せっかくのテンポが悪くなると考えて繋げた結果、18,511文字になりました。
ほぼ2話分ですね。
長えよ…読者の皆さんに長文を押し付けるホセになりました。
強化セモベンテ隊はMS13機(指揮官含む)、61式戦車15両、対MS特技兵1個中隊、移動補給を兼ねた拠点としてのミニトレーによって構成されています。24話で61式の轍が途中で消えていたカラクリは、物資集積所を攻撃してジオン兵を排除した後に物資を積み込み、残りを焼き払った後にミニトレーに部隊を格納して移動したからになります。
ビッグトレーと同じくホバークラフトなので、周囲の轍も風で吹き飛ぶしその後は航跡が残らない(残り辛い。砂が押し分けられてそこだけ少なく見えるくらいかな?)とこの作品ではしました。実際はどんな感じになるのか分からないので、なんともですが…
YouTubeに、ガンダムの登場兵器を3DCGで製作している方がいらっしゃるのですが、そちらでビッグトレー、ヘビーフォーク、ミニトレーを解説されている動画があり、それを見ると大変面白く、MS対比などを考慮すると全長120mとかなり馬鹿でかい(ミニとはなんだったのか)ことが分かります。
ビッグトレー自体も戦車大隊を丸ごと収納して移動出来るらしいので、ビッグトレーともそこまで全長が短すぎるわけでもなく、箱に近いミニトレーもそのくらいは運べそうという独断と偏見により、セモベンテ隊の移動手段としました。ちなみに、たぶんMS13機も格納し切れないかもという時は、上甲板に膝をつかせて駐機させるというソロモン戦のサラミスみたいなことをさせていると考えていたりします。
それと、セモベンテ隊の隊員は大幅増加してますが、ネームドは原作に名前が出てきたキャラだけにしました。多過ぎても私が混乱しますので…
最後に、昨日のご感想にもフライングで書いてしまいましたが、最終的はオデッサ攻略には行き着くものの、それ以前に地上反攻作戦でのMSを含んだ諸兵科連合における敵基地攻略の実践練習と言った感じです。MSが居たところで一機二機の物資集積所なら簡単に襲えますし、ミニトレーでミノフスキー粒子を散布してから強襲したり騙し討ちしたりとノウハウや戦訓を蓄積させながら、ジオンにハラスメント攻撃ができるという一石二鳥の作戦なのでした。(当初は)
彼らはどうやってかコムサイが飛んできて、地上で試作機をテストするらしいと言う情報を得たので、ついでにそいつを囲んでフルボッコにして撃破なり鹵獲してやるぜと二兎三兎を追ってしまった結果、彼らを探していたヤベェ奴に捕捉されてしまったという…ツイてないですね。
決着は明日になります。
明後日ヒルドルブの報告書回があって、明々後日の第28話で第4章は終わりになる予定です。
よかったら、最後までお付き合い頂けると幸いです。
よろしくお願い致します。
登場させるとしても大分先になりますが、ジークアクスのキャラを出すのはアリかナシか。(出るならニャアン)
-
アリ
-
ナシ
-
どっちでも良い
-
早く書け