技術試験隊斯ク戦ヘリ   作:ザクスキー2世

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今回で戦闘は終わりになります。
決着ですね。



第27話

 

 煙幕を突き破ったザクがヒルドルブのいる窪みへ銃撃を浴びせていた。

 その下へ2機が走り込み、こちらから逃れた最後の1機も合流していく。4機に囲まれる前に援護へ向かわなくてはならない。そう思って脚部の噴射を強めた途端、目の前の斜面が爆ぜた。

 土砂の向こうへ引っ込む61式の砲塔を追って照準を向けると、今度は右から砲弾が飛んでくる。

 

「ええい!邪魔立てするな!!」

 

 左手のザクマシンガンで撃ち返しても、弾着は土手の縁を削るばかりで、戦車の車体はもう隠れていた。

 先ほどまでザクの後ろから撃っていた連中が、今は私の進む先へ回り込んでいる。1両を追えば別の車両が横から撃ち、ヒルドルブへ向き直ればまた顔を出す。倒せなくとも、私がここを離れられなければよいのだろう。

 

 それだけなら強引に振り切る手もある。だが、私を追うのをやめた戦車がコムサイへ向かったらどうする。不時着して身動きの取れない機体では逃げられないし、マイ中尉たちにこの数を相手にしろとは言えない。

 

 もう弾を惜しんではいられない。腰のバズーカを抜いて右肩へ担ぎ、砲塔が出てくるのを待たずに車体の隠れた土手へ1発を撃ち込んだ。

 爆煙の脇から後退する61式の横腹へ次弾を叩き込み、上がった炎を横目に進路を変える。

 

 隣の車両は逃げなかった。

 こちらの砲口が仲間へ向いている間に斜面を登り、車体を晒して2本の砲身を据えてくる。私は機体を横へ流し、足元を抜けた砲弾を見送ってからバズーカを振った。

 敵はその場に留まり、砲塔を回して次を撃とうとしていた。

 照準の中でこちらを追う2本の砲身の間へ、残った弾を放つ。

 最後の1発が車体の正面へ当たり、砲身が根元から折れて跳ねた。

 

 残弾表示はゼロ。撃ち尽くしたバズーカを手放し、そのまま次の戦車へ向き直った。

 これで2両。まだ9両もいる。

 

「ミア、しっかり掴まっていなさい!」

 

「はい!」

 

 返事を聞きながら手近な1両へ突っ込む。戦車は後退しつつ砲塔を回したが、私はその正面を横切って側面へ回り込んだ。脚を伸ばし、履帯の上へ足裏を叩きつける。

 足元へ鈍い抵抗を返しながら車体が斜面へ押し出され、ちぎれた履帯が砂の上へ伸びた。

 

 それでも砲塔は回り続け、車体が傾いた分だけ砲身を下げて私の脚へ向けようとしている。動けないと分かっているはずなのに、誰もハッチを開けようとしない。

 私はもう一度その正面を横切った。ここしかない、と砲手の意識が膨れ上がる。噴射を切り替えた直後、砲弾が機体の脇を通り抜けた。

 その上からマシンガンを撃ち込むと、砲塔がびっくり箱のように跳ね上がった。

 

 残骸から離れる間にも砲弾が追ってくる。撃破された車両が私を引きつけていた間に、別の2両が左右へ回っていた。

 片方へ機体を向けると、背後へ残した車両も前へ出て退路を塞ぐ位置に停止し、砲塔をこちらへ回す。

 

「かっ、囲まれました!」

 

「安心なさい!この程度でやられるものですか!」

 

 言ったからには、その通りにしなくてはならない。

 撃つ気配が重なる寸前に速度を落とし、前を横切る砲弾を見送ってから機体を右へ流す。背後の地面が砕けた。今度は進行方向へ別の砲口が向くので、膝を折って機体を低く沈め、その射線の下へ潜り込む。

 頭の上を砲弾が抜けると同時に、半身を捻った。

 有線式大型誘導弾が白煙を引き、横へ流れた08Bを追って曲がってくる。

 

 戦車のさらに後ろでは、散り散りに逃げたと思っていた歩兵が、運び出した発射器を三脚に据えてこちらを狙っている。砲撃に意識を向ければ撃ち、歩兵へ向き直れば戦車が顔を出す。

 

 全く、よく躾けられた連中である。

 誘導弾を躱して向き直ると、先ほどまで見えていた発射器はもう岩陰へ隠れていた。代わりに戦車の砲口が増え、歩兵を探す暇すら与えてくれない。

 

 私はヒートサーベルを抜き、右前方の土手へ向かう。向こう側から近づく気配に合わせて斜面の肩へ乗り上げると、61式の砲身がすぐ足元へ出てきた。

 その根元へ刀身を振り下ろす。砲塔の天板が裂け、刃が車体まで食い込んだ。引き抜く時間も惜しく、そのまま腕を横へ払って残骸を溶断して押し退けた。

 

 開けた射界の先へマシンガンを掃射する。射手が照準器から顔を上げた直後、土嚢が崩れて発射器が傾いた。隣の陣地にも銃口を振り、弾倉に残った弾を撃ち尽くす。

 

 空になった銃を一度腰へ預け、機体を滑らせながら最後の未使用弾倉を装着した。少しだけ弾の残った使いかけも、もう1つある。捨てずに持っておいて正解だった。

 

「後ろ、2両来ます!」

 

 ミアの声に合わせて機体を回すと、潰れた戦車の横を抜けた2両がこちらの背中へ砲口を向けていた。

 先頭の1両はほとんど減速せず、私が銃を持ち直す間にも距離を詰め、砲口をこちらへ向けてくる。

 私は逆に踏み込み、その砲身の脇を抜けた。砲塔と車体の間へヒートサーベルを通し、引き抜きながら後続へ目を向ける。2本の砲身が倒れる味方越しにこちらを追っていた。

 

 先頭の残骸へ片足を掛けて補助スラスターを噴かすと、飛び越えた足元で砲弾が残骸を砕いた。

 着地に合わせて次の狙いが迫る。私は地面へ触れる直前に噴射角を変え、車体の横へ滑り込む。

 ザクマシンガンを腰へ戻して左手を空け、反動で上がった砲身を掴んで捻ると、砲塔ごと車体が傾いた。露出した底面へ刀身を通し、手を離してすぐに離れる。

 

 残る5両は距離を取り始め、1両が停止して砲塔を向けている間に残りが低地へ入る。砲身は私を追ったままだ。

 

 ヒルドルブの方から重い砲声が響いた。

 振り向きたいのを堪え、私は戦車を追う。焦って一直線に進もうとする手を抑え、土手から十分に離して機体を滑らせた。縁に寄りすぎれば、顔を出す砲口を避ける余地がなくなる。

 

『その先の窪みは、左へ続いています!奥へ入られると見えなくなります!』

 

 マイ中尉の声とともに更新された地図を見て、私は窪みを追いかけるのをやめ、縁に沿って加速する。

 ザクマシンガンを抜き直し、低地を進んでいた先頭の戦車へ短く撃つと、機関部から火を噴いた車体が道を塞いだ。その脇へ後続が乗り上げ、燃える残骸越しに砲身を上げてくる。

 私はその頭上へ飛び降り、ヒートサーベルで砲塔を割った。着地の勢いを横へ逃がすと、次の車両が撃った弾が左腕の脇を抜ける。引き戻した刃で、その砲身ごと前面を叩き斬る。

 

 斬撃の抵抗で機体が揺れ、ミアが私のシートへしがみつく。すまないと思ったが、今は止まれない。

 

 最後の2両は左右へ分かれ、片方が後退射撃を繰り返す間にもう片方が土手を登る。

 私は撃っている方へ機体を向け、砲弾を避けるたびに僅かずつ距離を詰めた。相手が後退をやめたところでマシンガンの引き金を絞ると、前面装甲に弾着が並び、歪んだ砲塔から閃光が消える。

 

 その直後、土手の上で最後の61式が止まった。車体の腹まで晒し、こちらへ砲を向けている。

 死を恐れているのは伝わってくるのに、こちらへ向けた照準は外れなかった。

 

 私も死ぬつもりはない。

 射撃の寸前に進路を振り、追って曲げられた砲口の外へさらに機体を滑らせる。砲声を背に土手へ駆け上がり、後部へヒートサーベルを突き立てると、最後まで私を追っていた砲塔が止まった。

 

 刀身を抜いた先で炎が車体を包み、戦車砲の音が途切れた。

 ミアに周囲の映像を確かめてもらいながら、私は足元の残骸から距離を取る。数え違いでなければ11両とも動かなくなったはずだ。

 あれだけ撃たれても、08Bの装甲に新しい損傷はない。それを確かめたところで、身体に入っていた余計な力が少し抜けた。

 

 それでも歩兵からはまだ撃たれる。有線式大型誘導弾を避けて発射位置へ数発返すと、今度こそ生き残りが窪みへ逃げ込んだ。三脚に据えた発射器を置き去りにする者もいる。

 

 重い機材を担いで何kmも追ってくることはできまい。足となる戦車とMSを失った以上、連邦軍の支配地までこの荒野を歩いて帰れるとも思えない。

 

 それに、全員を殺してしまうわけにはいかなかった。ジオンの部隊を装って集積所へ入り、守備隊を殺して回っていた連中だ。南極条約に反するこの襲撃を、誰が命じたのか。生きて口を割ってもらう必要がある。

 

 身柄を押さえるのは後だ。今はヒルドルブへ行かなくてはならない。

 機体をそちらへ向けたところで、鋭い殺気が突き刺さった。

 

 煙の切れ目から飛び出してきたツノ付きのザクが、ヒルドルブへ向かっている。

 上半身を別の方角へ向けていた巨体へ、マシンガンの弾が次々と叩き込まれる。周囲には砕けたザクが転がっている。残っていたのは、この1機だけだ。

 私はスロットルを押し切った。

 

「ソンネン少佐!横です!」

 

 警告に反応したのか、ヒルドルブの上半身が回る。だが、長い砲身を向けるより早くザクが取りついていた。撃ち込まれるたびに装甲から火花が散り、車体の後ろから黒煙が上がる。

 ヒルドルブが左腕を振るい、前腕のアームバケットで銃身を横から叩いた。押しのけられたザクマシンガンから円形弾倉が外れ、砂の上を転がる。

 敵は撃てなくなった銃をすぐに捨てて腰へ右手を伸ばし、刃を赤熱させながらヒートホークを引き抜く。

 

 私は手前の窪みを避け、斜面の肩へ08Bを乗り上げさせた。地形図を見る暇も惜しく、足元とヒルドルブの拡大映像を交互に確かめながらさらに推力を掛ける。

 

 ヒルドルブが後退を始め、右手の105mmザクマシンガンで敵を追う。ザクはそれに盾を向け、車体の脇へさらに踏み込んだ。銃口が下がりきるより早く、右前側の履帯へヒートホークが振り下ろされる。

 裂けた履板を引きずり、履帯が車輪から外れて砂の上へ垂れ落ちた。砕けた覆いが転輪の間へ噛み込み、車体の右前が大きく沈む。

 

「履帯が……!」

 

 ミアの声に返す余裕がない。

 ヒルドルブはなおも残った履帯で砂を掻き、斜めに向きを変える。敵から少しでも離れ、主砲の正面へ引き出そうとしているのだろう。上半身も回り、長い砲身がザクの頭上を横切った。

 相手もその場には留まらない。壊した履帯を跨ぎ、車体の右側に沿って後ろへ回っていく。

 

 もう一度振り込まれた左のアームバケットを、ザクは足を止めて盾で受けた。盾の表面が凹み、巨体が横へ押し出されても、半歩退いて衝撃を逃がし、ヒルドルブの腕が戻るところを追って再び踏み込む。

 ヒルドルブが右手の105mmザクマシンガンを持ち上げる。

 

 銃口が相手の胸を捉える寸前、ザクの左手が銃身を掴んだ。

 そのまま押し下げられた銃から弾が走り、足元の砂が跳ねる。ヒルドルブが銃を引き戻そうと右肘を曲げた時には、敵はもう右後側の履帯へヒートホークを向けていた。

 斜めに打ち込まれた刃が転輪へ巻き付く履帯を断ち切り、引き戻す動きで転輪の縁まで割れた。外れた履帯が車体の下へ巻き込まれていく。

 

 右側は前も後ろも潰された。

 ヒルドルブの車体ががくりと傾く。左側の履帯は回り続けていたが、引きずられる右側では破損した覆いが砂へ食い込み、先ほどまでのようには動けない。車尾が僅かに振れるばかりで、ザクとの距離は開かない。

 あれだけの砲も、正面へ捉えられなければ撃ちようがない。

 

 斜面を滑り下りるとようやく進路が開け、私は機体を前傾させてまっすぐヒルドルブへ向かう。

 間に合ってくれ。膝の横でスロットルを握る手に余計な力が入った。

 

 それでも、ソンネン少佐は抵抗をやめない。

 敵に掴まれた105mmザクマシンガンから指を離して右腕を突き出すと、アームバケットの縁がザクの脇腹へぶつかり、白い装甲が凹んだ。銃を引っ張っていたザクがよろめき、片足で砂を掘る。

 ヒルドルブは上半身を回して主砲を向けようとするが、敵は奪った銃を放り、今度は前へ踏み込んで砲身の下へ潜った。

 近すぎる。砲口はザクの背後まで突き出している。

 

 ヒルドルブは上がったヒートホークへ左手を伸ばし、敵の右手首を掴んで止めた。

 両機の腕が押し合い、傾いた車体がさらに揺れる。ザクが足を開いて踏ん張ると、ヒルドルブの右側が砂へ沈み、伸ばした左腕まで引き下ろされていく。

 胸へ叩きつけられた右のアームバケットも、ザクは肩を入れて受け止め、左手をヒルドルブの指へ掛けた。

 

 握りが崩れた。

 掴まれていた手首を捻り抜き、ザクがヒートホークを振るう。引き戻しかけたヒルドルブの左手を刃が掠め、指が何本か飛んだ。そのまま車体へ届くかと思ったところで、右のアームバケットが間へ入る。

 赤熱した刃が縁へ食い込み、分厚い金属がめくれる。押し返そうとした腕は途中で止まったが、それでも下がらずに敵のヒートホークを受け止め続けた。

 

 私はザクマシンガンを腰へ戻してヒートサーベルを構え直し、機体を横へ振って斬り込む角度を取った。その間にもザクはヒートホークを引き、傷ついたアームバケットを支える右腕ごと外へ開かせている。

 もう主砲を向ける間も、敵から逃げる足もない。少佐が残った左手を伸ばしても、欠けた指はザクの腕を滑るばかりだ。

 

 ザクが車体へ片足を掛けて食い込んだヒートホークを捻ると、傷口がアームバケットの付け根まで広がり、支えていた金属が裂けた。

 切り落とされた右のアームバケットが砂の上へ落ち、ヒルドルブの腕が跳ね上がる。

 その内側へ身を寄せかけたザクのモノアイが、こちらを向く。

 

「そこまでです!」

 

 横合いから飛び込み、ヒートサーベルを振り抜いた。

 ザクはヒルドルブに掛けた足を引き、ヒートホークを立てて刃を受けた。噛み合った刃の間から火花が散るが、押し合うより早く敵は後ろへ跳び、ヒルドルブの車尾を回って私の正面から外れる。

 今のを受けるか。

 私は進路を振り、巨体の後ろへ回り込むザクを追った。

 

 追いついたところへ、今度は相手が踏み込み、私の右腕を狙ってヒートホークを振るってきた。私は肘を引き、斜めに差し出したヒートサーベルで受け流す。

 刃が擦れ合う間にザクの脇へ抜けようとしたが、相手も腰を回し、盾のある肩をこちらへ寄せてくる。

 ぶつかる前に噴射を変えて距離を開くと、敵もヒートホークを引き戻した。こちらの剣先だけを追っているわけではないらしい。

 

 ヒルドルブの後方へ出れば、少佐の機体を巻き込む心配はない。私は一度ヒートサーベルを低く構え、ザクの肩口へ斬り上げた。

 敵は右腕を下げてヒートホークで刀身を外へ押し、弾いた勢いのままこちらの胸へ刃を返してくる。

 これで3合。操縦も刃を合わせる間合いも悪くなく、先ほどまでの部下たちより明らかに手強い。

 

 だが、受けた後の切り返しは大きい。

 私は押された刀身を力任せに戻さず、いったん下へ逃がした。追ってきたヒートホークが胸の前を掠める。踏み込みに合わせて機体を僅かに沈め、その柄の下へヒートサーベルを滑り込ませる。

 

 ここからの動きは、何度も繰り返したものだ。

 手首を返して下段から斬り上げると、私がAAMCへ覚えさせた剣術の動きに従い、08Bの肘が先に入って腰と脚が続く。以前なら一つずつ補正していた姿勢を機体が保ってくれるので、私は相手の右手と刃の角度に集中できる。

 

 ヒートホークを下から掬い上げる。

 敵は柄を引こうとしたが、もう遅い。伸びた右腕が頭上へ持ち上がり、脇が開いた。

 胴体は斬らない。こいつにはまだ聞くことがある。

 私は刀身を返して晒された右肘の上へ振り下ろし、右腕をヒートホークごと斬り落とした。そのまま掴みかかってきた左腕も肘から断ち、機体を低く滑らせてヒートサーベルを両脚へ通す。

 膝の下が離れた。

 

 支えを失ったザクが地面へ突っ伏し、胸部の下から砂が噴き出した。こちらを追おうと頭が動いたが、もう起き上がるための手足はない。

 私はヒルドルブへ目を戻し、ようやく息を吐いた。

 

 まずはソンネン少佐だ。ヒートサーベルを戻し、ヒルドルブの上部へ手を添えて接触回線を開いた。

 

『た、助かったぜ……』

 

「無事ですか」

 

『俺は無事だが、ヒルドルブはかなり悪い』

 

 口調はいつもの少佐だったが、言葉の合間に荒い息が混じる。無事という言葉をそのまま信じてよいものか。

 

 近くで見ると、前部装甲は大きく抉られ、上半身側面の防楯も穴だらけだ。右側の前後の履帯が切れて転輪まで歪み、左手は指を失っている。右のアームバケットに至っては付け根からなくなっていた。

 これだけ壊されても、少佐は最後まで敵を押し返そうとしていたのだ。機体の惨状を見ていただけに、生きて返事をしてくれたことが何より有難い。

 

 倒れたザクへ向き直ると、切断された腕の付け根が僅かに動いている。

 肩の下へ足を差し込んで胴体を仰向けに返し、胸部を手で押さえてこちらにも接触回線を繋ぐ。

 

「貴様には色々と聞かなくてはなりません」

 

『女に負けるなんざ、俺もヤキが回ったもんだな』

 

 返ってきた男の声には自嘲するような響きがあるが、命乞いをするつもりはないらしい。

 

「このような卑劣な行為はすべて明るみに出るでしょう。覚悟なさい」

 

『ハッ、そいつはどうかな』

 

「なんですって?」

 

 押さえていた胸部でハッチが動く。降りてくるのかと手をずらすと、開いたコックピットの中に眼帯をした男が見えた。

 空へ向けられた手から小さな火が射出され、頭上で赤い光に変わった。

 

 信号弾か。

 そう気付いた時、男から伝わってきた思いに背筋が冷えた。恐怖よりも強い決意と、こちらの終わりを見届けようとする期待がある。

 まだ何か来る。

 私はザクから手を離し、ヒルドルブへ触れ直した。

 

「ソンネン少佐、まだ動けますか!」

 

『だめだ、さっきので駆動系がイカれちまってる』

 

「なら、早くこちらの手に乗り移ってください!」

 

『落ち着け!どうした』

 

「説明している暇はありません!急いで!」

 

 少佐は一瞬黙ったが、すぐにコックピットのハッチが開く。

 縁へ掛けられた手が赤い。続いて現れた略帽も、左側が血を吸って赤く染まっている。少佐は片手で頭を押さえ、もう片方の手を突いて身体を外へ引き出した。

 略帽の縁から覗く額が切れ、そこから流れた鮮血で左側の顔面まで染まっている。顎から軍服へ血を滴らせたままこちらへ顔を向けると、その拍子に足がもつれ、身体が横へ傾いた。

 

「少佐!」

 

 慌てて左手を差し入れ、その身体を掌で受ける。

 少佐は膝をついたまま頭を押さえ直したが、その指の間にも血が滲んでくる。

 何が無事だ。あの声だけで安心しかけた自分にも腹が立つ。

 今は傷を確かめている暇もない。私は左手を胸の前へ寄せ、空いた右手をザクの胴体へ伸ばした。こいつも連れて行かなくてはならない。

 

 モニターを拡大したところで、手が止まった。

 男はもう別の拳銃を握り、銃口をこめかみに当てていた。こちらを見上げ、笑っている。

 唇が短く動いた。

 

――あばよ。

 

 止める間もなかった。

 男の頭が傾き、ハッチの縁へ手が落ちる。そこにあった意識が途切れた直後、遠方から幾つもの殺気がこちらへ向いた。

 私はザクの回収を諦め、スロットルを押した。

 

「少佐、掴まっていて下さい!」

 

 外部スピーカーで叫び、左手の指を少し曲げる。少佐は掌へ伏せ、指の付け根に身体を押しつけた。

 

 地面が持ち上がった。

 左右を映すモニターが真っ白になり、遅れて追いついた爆風が08Bの背を押した。機体を横へ流して踏み止まると、今度は右側の土手が消し飛ぶ。

 

 どこから撃っている。

 振り向いた映像の中で、ヒルドルブの砲身が空へ跳ねた。続けざまに着弾し、車体もザクの胴体も土砂の中へ呑み込まれていく。射撃はその周囲にも広がり、荒野を端から掘り返す。

 遠くの稜線に、4か所の光が見えた。砂煙の上に低い影が浮かび、次の発射炎は先ほどより僅かに西へずれている。

 

「ミア、発射位置を記録!コムサイまでの道も!」

 

「は、はい!」

 

 普段のように跳んで避けるわけにはいかない。掌の人間を振り落とせば、それで終わりだ。

 私は左腕を胴体へ寄せたまま低地へ入り、稜線から姿を隠す。爆発が追いかけてくるたびに進路をずらし、ミアの示す窪みを渡った。砂煙を高く上げないよう速度を抑えなくてはならないのが、こんなにももどかしいとは。

 

『何があったんです!こちらからも着弾が見えます!』

 

「新手の大型砲です!ソンネン少佐は救出しましたが、頭を負傷しています。手当の用意を!今からそちらへ戻ります!」

 

 マイ中尉へ返し、もう一度後ろを確かめる。

 砲撃は先ほどの戦場に向けて続いていた。着弾はヒルドルブの周囲から離れ、ザクが倒れた斜面へ、さらに歩兵の逃げ込んだ低地へと広がっていく。あそこには、まだ生きている連邦兵もいるはずだ。

 

 捕まるくらいなら、味方ごと消すというのか。

 眼帯の男の笑みが頭から離れなかった。

 

 

 コムサイへ辿り着くと、マイ中尉とモニク大尉が外で待っていた。

 機体を膝立ちにして掌を地面へ下ろすと、ソンネン少佐は指の付け根へ手を掛けて立とうとしたが、膝が折れた。マイ中尉が肩を支え、指の間から少しずつ地面へ下ろしていく。

 モニク大尉も手を貸し、2人で少佐を座らせた。マイ中尉が背中を支える間に、大尉が救急箱を開く。略帽を外される間も、少佐は顔を顰めている。

 頭へ当てられた布に血が広がっていくのを見て、私はモニターから目を離せずにいた。

 

「ミアも降りなさい」

 

「アスカさん!私も連れて行ってください!」

 

 振り返った顔は青白かった。それでも、私のシートを掴んだ手は離れない。

 

「ここまでよく手伝ってくれました。ですが、今度の相手は大物です。あの砲撃を掻い潜るには、貴女の身体にまで気を配っていられません」

 

「でも……!」

 

「貴女を乗せたままでは、私も無茶ができないのですよ。…お願いします」

 

 唇を噛むミアの手はまだシートを掴んでいる。私はそこへそっと自分の手を重ねた。

 

「ミア、ソンネン少佐を頼みます。私が戻るまで、傍についていて下さい」

 

 彼女の目がモニターへ向いた。少佐はマイ中尉に背中を支えられ、モニク大尉がその頭へ布を当てている。

 ミアはしばらくその姿を見つめ、やがて私のシートから手を離した。

 

「……分かりました。少佐は、私が見ています」

 

 マイ中尉は少佐をモニク大尉に任せ、ハッチの下へ回った。地面へ降りたミアは、すぐにソンネン少佐の傍へ駆け寄った。モニク大尉に何かを言われて頷き、少佐の脇へ膝をついて肩を支える。

 それを見届け、私は弾数を確認した。

 

 装着している弾倉の残りと使いかけの予備を合わせれば、少しは撃てるだろう。ヒートサーベルも使える。

 

「少佐、こちらから引き続き地形をお伝えします」

 

「お願いします。位置を掴まれないよう、皆さんも機外では気をつけて」

 

 マイ中尉へ返すと、ミアに肩を支えられたソンネン少佐が顔を上げた。左の頬には、拭いきれていない血が残っている。

 

「死ぬなよ少佐!まだ酒を飲んでねえ!」

 

「ええ。奢ると言った約束は、忘れていませんよ」

 

 ハッチを閉じる。背後の補助シートに、もう人の気配はない。

 私は機体を起こした。

 

 

 発射位置として記録していた稜線へ真っ直ぐには向かわなかった。

 コムサイを出る前から、遠方の砲口の光は少しずつ場所を変えている。最初は4門を順に撃っているだけかと思ったが、着弾の間隔が空くたびに光は遠ざかっていた。

 

 逃げながら撃っているのだ。

 砲弾は私が離れたヒルドルブの周辺だけでなく、歩兵が逃げ込んだ窪みやザクが倒れた斜面にも落ちている。誰がどこに残っているか確かめるつもりもなく、戦場を端から潰して回っているようだった。

 

 ジオン軍を装っていた証拠を消すなら、ザクとその搭乗員を狙えば済む。61式や歩兵の遺体まで消してどうする。

 いや、あそこに生き残った者がいれば、尋問で何を話すか分からない。だからまとめて撃っている*1のか。

 

 そこまで考え、私は口の中を噛んだ。

 私が尋問しようとしていた連中が味方から撃たれている。全員が死んだかどうかは分からないが、今から戻って探しても、砲撃が続く限り救い出せるとは限らなかった。

 

 まず、撃っている奴を止める。

 私は噴射を強め、地形図の上で次の稜線を確かめた。

 

『発射地点が西へ移っています。次の高地を越えれば、見通せるはずです』

 

「了解。そちらは救援の手配を続けて下さい」

 

 マイ中尉へ返して斜面を斜めに駆け上がると、頂上へ出る前に薄く流れる砂煙が見えた。風に散らされても向こうからまた新しい煙が上がるので、私は稜線に頭だけを出してカメラを拡大する。

 

 戦車とは比べ物にならない大型の陸戦艇だった。

 船体を地面から僅かに浮かせ、下部から砂を吹き払いながら進んでいる。上部の4門の大型砲は後方を向いたままで、そのうちの1門が火を噴いた。かなり大口径に見えるが、発射の反動にも船体は小揺るぎもしない。

 

 あれでザクも戦車も運んできたのか。歩兵もここへ戻るつもりだったのだろうに。

 その迎えが、頭の上へ砲弾を降らせている。

 

 私は見通しの悪い低地へ入り、陸戦艇の進路と並ぶように加速した。船尾から追えば、後ろを向いた主砲の正面へ出てしまう。少し余計に走ってでも横へ出たい。

 

 低地の縁が途切れた。地表を滑る08Bの姿を、相手も見つけたらしい。

 船腹に並んだ砲塔が向きを変えてこちらへ砲口を揃え、上部に置かれた砲座まで動き始める。

 

 思ったより数が多い。

 最初の射撃を避けたところへ、隣の砲が撃ってくる。地面に弾着が並び、曲がろうとした先からも砂が噴き上がった。90mmか100mm級だろうか。対空射撃にも使うのか、砲身を大きく持ち上げられる構造をしている。

 

 跳んで越えようとすれば、上からも横からも狙われるだろう。

 私はそのまま地表を走り、砲手たちの注意が集中したところで急に減速した。前方を弾が束になって通り過ぎる。続けて後ろから追ってくる射撃へ機体を捻り、腰のザクマシンガンを左手で抜いて構える。

 

 船腹へ弾着が並ぶと外板が裂け、何枚もの金属片が飛び散った。それでも奥の機関までは届いていないらしく、陸戦艇は排気の勢いを変えずに走り続けている。

 

 こんな豆鉄砲では、埒が明かない。

 

 無意識に銃口を上げかけ、私は押し戻した。艦橋なら狙えるが、そこにいる人間を殺しては何のために追いかけてきたのか分からなくなる。

 艇長*2には生きて答えてもらわなくてはならない。

 

 その迷いを狙うように、主砲の1門がこちらへ回った。

 砲口の光を待たず機体を左へ流す。すぐ脇の地面が大きく抉れ、飛び散った岩を避けてさらに進路を変えた。

 

 地面が抉れた跡を見ながらマシンガンを握り直す。まずはこちらを向いている銃口を減らすしかない。

 

 陸戦艇の側面へ進路を取り直し、先頭寄りの副砲へ射撃を集中した。砲塔の装甲へ弾着が集まり、根元から火が噴く。

 垂れ下がる砲身を追い越して銃口を次の1基へ振ると、そちらの砲身も私を追う。噴射を切り替え、胴体のあった場所を弾列が抜ける間にも滑走を保って撃ち返す。

 120mm弾が砲の側面を砕き、装甲の内側で何かが弾けて砲塔の継ぎ目から黒煙が上がった。船腹では効果の薄かった弾も、ここなら仕事をしてくれる。

 

 上部の砲座が船体の縁からこちらを覗き込み、さらに船尾側からも撃たれる。先ほど黙らせた砲の死角へ入ろうとすると、船体そのものが向きを変え始めた。上甲板の向こう側にあった砲座まで見えてくる。

 私は速度を上げて旋回の内側へ入り、巨体が持ち上げた砂の帯を突き抜けた。残る側面の副砲へ短く連射すると、折れた砲身が地面を跳ねる。

 もう1基。

 砲塔へ弾が吸い込まれたところで、銃が止まった。

 

 空の弾倉を外す間にも射撃は続く。私は船体から離れて砲弾が掠めた土手の向こうへ身を沈め、腰に残しておいた使いかけを取り出して装着する。

 表示された弾数は、予想通り少なかった。

 これで船体の穴を増やすわけにはいかない。覗き込んでくる上部の副砲を止めたら、あとは刃で片付けるしかなさそうだ。

 ヒートサーベルの柄を握る。

 

 土手を越えると、私が隠れた間にも逃げ続ける敵の船尾が見えた。しかも、まだ1門の主砲が遠くの戦場へ向いている。

 

 そこまでして消したいものがあるのか。

 私は歯を食いしばり、追いすがった。

 

 再び姿を晒した08Bへ、残る砲座が射撃を始める。

 船体の陰になっている側面を目指したが、敵はその進路も読んでいた。上の砲身が先に動き、私が通ろうとした地面へ弾を並べる。

 

 急に止まる代わりにさらに加速し、射線が脚の後ろへ抜ける間に上部の砲座へマシンガンを向け、最後の弾をまとめて撃ち込んだ。銃口の閃光が消えたところで船腹へ片足を掛ける。

 

 そのまま跳んだ。

 補助スラスターを噴かして船体の縁を越え、主砲が並ぶ上甲板へ着地する。足元の装甲が凹み、下に残した副砲の弾は機体の背後を抜けていく。

 

 休む間もなくヒートサーベルを振るう。

 後方を向いていた最寄りの主砲がこちらへ引き戻される前に砲身の下を潜り、旋回部へ刃を叩き込む。装甲はめくれたものの砲塔は止まらず、私は空のマシンガンを腰へ戻して両手で柄を握り、さらに押した。

 

 動く砲塔に腕を横へ持っていかれそうになる上、船体も急に旋回し、踏ん張っていた脚の下から甲板が逃げる。慌てて足を開き、噴射で姿勢を戻しながら刀身を捻る。裂け目の奥から火が噴いた。

 砲塔が止まり、ようやくヒートサーベルを抜くことができた。

 

 すぐにその陰へ入った。反対側の副砲から撃たれた弾が、今壊したばかりの装甲を叩く。甲板へ跳ねた破片が足元を滑った。

 

 船体が大きく傾いた。

 踏ん張っていた左足が縁へずれ、カメラの下に流れる地面が映る。私はヒートサーベルを甲板へ突き立てる。刃が装甲を裂きながら滑り、腕が伸びきる寸前で引っ掛かった。

 左脚の噴射を強めて身体を戻す。足元の破片だけが船外へ落ちていった。

 

 今度は右へ揺り戻される勢いを使い、砲塔の陰から出る。隣の主砲が向きを変える前に踏み込み、先ほど斬り開いたものと同じ旋回部の継ぎ目へ切っ先を合わせた。

 今度は刃が入った。甲板を蹴り、刀身を差し込んだまま砲塔の脇を駆け抜ける。腕を引っ張っていた抵抗が抜け、背後で金属の砕ける音がした。

 

 振り返った映像では、砲身が横を向いたまま動かなくなっている。

 

 息をつく前に後ろから強い殺気が迫り、振り向いたカメラに3門目の砲口が映った。

 間にある残骸ごと撃つ気か。

 私は慌てて機体を甲板へ伏せさせた。

 砲声が頭上を叩き、壊した砲塔の上部が吹き飛ぶ。煙と破片の中で機体を起こすと、後座した砲身が元へ戻り始めていた。

 

 その下へ潜り込み、仰角を変えて私を追おうとする砲塔に左手を掛けて、右手のヒートサーベルを天板へ振り下ろした。

 1度では抜けない。食い込んだ刃を引き、同じ傷へもう一度叩き込む。刀身の半ばまで沈んだところで横へ倒すと、装甲が裂けて内側から火が噴いた。

 砲の動きが止まるのを確かめて左手を離し、足元を走る炎から跳び退く。

 

 残る1門は艦橋のすぐ手前だ。突き抜けば、あそこまで巻き込む。

 

 面倒なところに。

 私は甲板を横へ走り、砲口を引きつけた。艦橋が刀身の延長から外れるまで、まだ斬れない。

 そこへ反対舷の副砲が撃ってきた。

 足を止めて躱すと主砲が追いつく。私はそのまま膝を曲げ、甲板へ片手をついて機体を捻った。弾列が背中の上を抜ける間に低い姿勢のまま主砲の脇へ入り、ヒートサーベルの切っ先を下げる。

 

 狙うのは弾の入っている砲塔の腹ではない。甲板との境を走る旋回部へ刃を当て、船外へ向けて引き切る。

 大きくぶれてなお動こうとする砲身を左手で押さえ、開いた裂け目へ刃を入れ直す。歯車のような部品が甲板へ転がり、砲塔は斜めを向いたまま止まった。

 

 艦橋の窓に人影が見えるが、ここまで壊しても止めるつもりはないらしい。背景の荒野がまだ流れる中、足元が傾き、私はその場で脚を踏み直した。

 

 主砲4門は潰した。次は足だ。

 副砲の止まった側の縁から地面へ飛び降り、脚部の噴射で着地を支えて、そのまま陸戦艇と並んで走る。

 下部から噴き上がる砂を見る限り、装甲の覆いの奥に船体を浮かせる機構があるはずだ。

 速度を合わせて近づいた途端、こちらへ船腹が寄ってきた。

 私は噴射を強めて前へ抜け、押し寄せる船体の端を躱して斜め前から再び側面へ回る。足元の砂が排気で吹き払われ、低く唸る音が装甲越しにも聞こえた。

 

 ヒートサーベルを水平に構えて外側の覆いへ切っ先を突き入れ、並走しながら奥へ押した。何かが刀身へ当たって右腕が大きく跳ねたが、刃を支え直すと装甲の隙間から金属片が噴き出し、排気の流れが乱れる。

 船体の片側が沈み、地面へ触れた端から砂が盛り上がる。少し遅れて浮き直し、向こう側からの排気が一段強くなった。

 

 私は少し後ろへ下がり、噴き出す砂がまだ強い場所へ刃を入れる。覆いが裂け、奥で何かが砕けた。黒煙を噴きながら、船体が大きく横へ滑ってくる。

 危うく巻き込まれそうになり、慌てて距離を取る。

 巨体は片側を地面へ擦りつけ、長く砂を押しながら向きを変えた。もう片側ではまだ排気が続いているが、それだけでは支えきれないらしい。船尾が振れ、最後に大きく傾いて止まった。

 

 まだ撃ってくる副砲がある。

 私は止まった船体の陰へ回り、地面に近づいた砲座を下から斬った。砲身が折れて砂へ落ちる。さらに向こうから狙う気配は残っていたが、間に挟まった船体を越えては撃てない。

 

 ここなら話ができる。

 私は外部スピーカーと通信を開いた。

 

「連邦軍の陸戦艇へ告げます。直ちに射撃を停止し、投降しなさい」

 

 返事はない。

 副砲の銃口が一度動いたが、船体に阻まれたまま止まった。私はヒートサーベルを構え、艦橋へカメラを向ける。

 

「艇長、聞こえているはずです。これ以上の抵抗は無意味です。乗員を外へ出しなさい」

 

 砲撃の記録は取ってある。ここにいる人間を捕らえれば、何を命じられていたかも分かるはずだ。

 私は息を整え、汗で滑る操縦桿を握り直しながら待った。脚部の温度表示も上がっていたが、止まっていれば少しずつ下がる。

 

 やがて回線が開いた。

 

『我々は降伏しない』

 

 短い返答に問い返そうとしたが、船内から伝わるものが変わり、私は口を閉じた。

 怯える者や何かを止めようとする者に交じって、先ほどの眼帯の男とよく似た決意がある。

 

 またか。

 私はペダルを踏み込み、機体を後ろへ押し出した。

 

 船体の奥が光った。

 外から撃ち込んだ時とは違い、内部から装甲が膨れ、甲板のあちこちを突き破って炎が噴き上がる。砲塔が傾き、次の爆発で船体の中央が大きく裂けた。

 爆風へ背を向けて加速する。最後に見えた艦橋も炎に沈み、通信は途切れた。

 

 少し離れた窪みへ機体を止めると、荒い自分の呼吸がやけに大きく聞こえた。

 コムサイからの呼びかけに一度唾を飲み込み、送信のスイッチを押した。

 

「敵陸戦艇は自爆。こちらは無事です。帰投します」

 

 安堵の滲む返事を聞きながら、私はモニターに映る08Bの右手を見た。まだヒートサーベルを握っている。操縦桿から自分の指を離そうとしても思うように緩まず、余計な力が入っていたことにようやく気付く。

 

 証言を取るはずだった人間は、またいなくなった。

 戦場に残した歩兵なら、まだ間に合うかもしれない。マイ中尉へ、救援部隊に生存者の捜索も頼んでほしいと伝える。もう、捜索中の頭上へ砲弾が降ってくることはない。

 通信の向こうから、ミアの声が聞こえた。

 私はヒートサーベルを背へ戻し、コムサイへ進路を取った。

 

*1:
死人に口なし。と言うのもあるが、対MS特技兵はある意味愚連隊や特赦目当ての犯罪者が行き着くような部隊なので、そんな連中が幾ら死のうがどうでも良いと思われているため。そもそも、同じ連邦軍人だと思われているのかすら怪しい。

*2:
陸戦艇なのに連邦軍としては大型車両扱いなので、艦長でも艇長でもなく本来は車長(なんで?)。けど、連邦軍のシステムは不明なので、主人公は艇長だと思っている。




ご高覧ありがとうございます。

これで戦闘はお終いです。
ザクでヒートホークを使い、主人公と短時間とは言え切り結んだフェデリコはかなりツヨイ…
個人的には、執筆中最後までフェデリコを生かすか殺すか悩んだのですが、今回はソンネンを生かしてフェデリコに死神とダンスをしてもらうことにしました。自分の顳顬を撃ち抜く時は、きっと抱擁しに来たロン毛の女を見たことでしょう。まだ重力に負けて干物女化はしてないはず…
やはり無理にフェデリコを生かした場合、様々な要因によって面倒なことになると思ったので、退場してもらう事になったわけです。
その代わりとして、なるべくカッコよく書いたつもりではあります。
私はフェデリコの生き様を上手に書けていたでしょうか?

ミニトレーの最後もジオリジンチックに書いてみました。
連邦軍の軍人がザクに乗っているのがバレるとまずいですが、連邦軍が連邦の兵器に乗って敵地にいる分には問題無いので捕虜となっても良かったはずですが、死人に口なし。誰1人として全貌を知るものが居なければ、真実は闇の中です。全滅していないはずの歩兵隊はその後どうなったかは、歴史の狭間に呑まれて消えることでしょう。

ただし、YMS-08Bのカメラに記録された戦闘データから、最後コックピットから出てきたフェデリコの姿が映っていたので、これを証拠としてギレンザビは連邦に対してプロパガンダ作戦を展開。連邦側はジオンの自作自演であり、証拠として映し出されている人物は連邦軍には存在しないとして反論します。双方はプロパガンダ合戦の後、再度(きちんと守るつもりかどうかはさておき)南極条約の遵守を確認しあった上で矛を収める事になります。
ギレン側は最初から連邦側の動きを分かった上でプロパガンダを発しています。連邦はそんな人物もこんな部隊も居ないと存在を否定しましたが、フェデリコ〝中佐〟を知っている人物はもちろん連邦軍内に複数人は居るわけで、彼と関わった人物たちは皆理由を察して口を閉ざしたものの、連邦軍に対して心のどこかに不信感という名の楔を確かに打ち込まれたのです。そしてその芽は一年戦争では芽吹かないものの、デラーズフリートやグリプス戦役と呼ばれる大きな戦いで成長して花となり、この後も続く長い戦いの歴史に成長した花は結実し、世界中に反連邦の種をばら撒くのでした。(という流れ、になるかもしれない)
少なくとも、私がギレンならハラスメント狙いでやります。
費用対効果は怪しいですが、メリットしかないのでやらない手はないですね。


さて、後書きに1,000文字以上費やしましたが、予定としては明日報告書回をしてから明後日に第28話を投稿して、第4章は終わりになります。
あと2日お付き合い頂けたら幸いです。
ご感想、お待ちしております。

登場させるとしても大分先になりますが、ジークアクスのキャラを出すのはアリかナシか。(出るならニャアン)

  • アリ
  • ナシ
  • どっちでも良い
  • 早く書け
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