技術試験隊斯ク戦ヘリ   作:ザクスキー2世

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本日1回目の投稿になります。
18時に報告書をもう一枚投下するので、よければそちらもご覧ください。


第28話

 

 

 宇宙世紀0079年4月25日

 

 

 あの戦闘の後はミノフスキー粒子の濃度が下がるのを待つこともなく、皆を連れて引き返すことになった。

 コムサイへ戻ってミアを再び08Bのコックピットに収容し、マイ中尉とモニク大尉、それにソンネン少佐の3人は手のひらへ。元いた第45物資集積所まで戻れば連絡もつけられるだろうが、さすがに人を乗せたまま普段の速度で飛ばすわけにはいかない。路面の凹凸を避けながらの帰り道は、戦闘中とは別の意味で気を使う。

 

 もっとも手の上からは乗り心地への文句まで聞こえてきた。それだけの元気があるのなら、迎えに戻った甲斐もあるというものだ。

 

 集積所では屋外に積み上げられた物資の脇へ機体を止め、3人を降ろしてからキャリフォルニアベースへ連絡を入れた。不時着したコムサイと私たちの回収を頼み、併せて戦闘地域に残っているかもしれない敵歩兵の捜索も要請する。

 あの時私は歩兵まで全員を掃討したわけではない。大型誘導弾を撃ってきた連中の中には敵陸戦艇の砲撃範囲から外れた場所にいた者もいるので、今もどこかに身を潜めている可能性はある。

 

 結局今回の戦闘では捕虜を1人も確保できていない。あれだけの戦力を送り込んで何を企んでいたのか、誰の命令で補給拠点を襲っていたのか。生き残りが見つかれば、少しは聞き出せるかもしれない。

 

 ルッグンやワッパを使って周辺を調べてもらえないかと伝えると、基地側はすぐに手配すると返してきた。連邦軍が鹵獲したザクで味方を装い、騙し討ちを繰り返していたという報告をかなり真剣に受け止めたらしい。

 08Bごと私たちを回収しに来たファット・アンクルと共にルッグンも飛来し、その後は現地で入念な捜索が始められたそうだ。

 連邦兵が見つかったかどうかまではまだ聞いていない。そのうち続報が来るだろう。

 

 ヒルドルブは現地での回収が困難と判断され、遺棄するほかなかった。砲撃で大きく壊された車体の上には、外から見る限りまだ原形を留めた主砲が残っている。あれまで使い物にならないと決めるには早いものの、まずは回収手段がなければどうにもならない。

 その辺りも含めて記録を整理するマイ中尉は、帰還してからも忙しそうだった。

 翌24日、ソンネン少佐との約束を果たそうと将校クラブへ誘う際には、中尉にまで声を掛けるべきか少し迷った。とはいえ、あの場にいた者同士で飲む方が、少佐も話しやすいだろう。モニク大尉にも声を掛けてみると、2人とも時間を作ってくれた。

 

 キャリフォルニアベース内の将校クラブで、勘定は約束どおり私持ちだ。

 ソンネン少佐は席につくなり酒を選び始め、私が支払うことを遠慮する様子など欠片もなかった。好きに飲んでくれと言ったのはこちらなので、その辺りについて異論はない。

 ただモニク大尉と顔を合わせると、少しばかり様子が変わる。

 どうやら2人は以前からの知り合いらしい。昔の話になるとモニク大尉の口調が硬くなり、ソンネン少佐のグラスも止まった。何やら因縁がありそうだが、私にはさっぱり事情が分からない。

 

 そこでマイ中尉がうまく間に入り、今回ソンネン少佐が何をしてくれたかをいつもの真面目な調子で話し始める。どちらかを責めるような口振りでもなく、私も口を挟まずに聞いていた。

 やがて大尉が短く何かを言い、少佐が気まずそうに頬を掻いた。その後は2人とも、先ほどよりずっと気楽に言葉を交わしていたので、どうやら和解できたようだ。

 

 私もようやく腰を据えて飲み始めると、戦闘の話はいつの間にか終わってしまい、後はどうでもよい話ばかりだ。

 ソンネン少佐は酒が入るほど口数が増え、モニク大尉も負けじと言い返す。マイ中尉だけは最後までいつもの調子だったが、グラスそのものはきちんと空にしていた。

 空いたグラスへ私が手を伸ばすと、ソンネン少佐が笑いながら声を掛けてくる。

 

「何だ、少佐。もう飲まねえのか」

 

「飲みますよ。ですが、少佐のお相手をしていたら、明日の仕事に差し支えそうですね」

 

「そいつは俺のせいじゃねえだろう」

 

 ごもっともである。自分の杯に何をどれだけ注ぐかは、自分で決めているのだから。

 マイ中尉が時計に目をやり、モニク大尉に何か尋ねている。そろそろお開きかと思いながらも、戻ってきた給仕にはもう1杯だけと頼んでしまう。目の前では少佐がまたグラスを空けているのだから困ったものだ。

 付き合って随分と杯を重ねたのだから、翌朝のことまで少佐のせいにはできない。

 

 そして現在、私は二日酔いで痛む頭を抱えてツィマットの占有格納庫へ向かっている。

 昨夜最後の1杯を断っておけばよかったと、歩くたびに響く頭痛に何度目かの後悔を覚える。酒の席では大した量ではないと思っていたのだが、どうにも当てにならないものだ。

 主任技師から呼び出しがなければ、もうしばらく部屋で休んでいたかった。

 

 格納庫へ入ると整備架台に収まった08Bの前に、ヨーゼフ・アイヒマン主任技師の白衣が見えた。少しばかり腹の出た中年男が技師たちと機体を見上げ、何やら話し込んでいる。

 足音に気づいた主任技師が顔をほころばせると、隣の技師まで同じように笑い出す。

 全員、こちらを見ている。

 背筋に怖気が走って思わず腕を擦ると、制服の下に鳥肌が立っているのが分かる。朝から男たちに揃って笑顔を向けられるというのは、正直気味が悪い。

 

「お待ちしておりました、少佐!」

 

「……何かあったのですか」

 

「ええ、ありましたとも。今回の実戦で実に多くの生データを得ることができまして。成果も期待以上です」

 

 主任技師が持ち上げた端末は、今にも私の鼻先へ突きつけられそうな勢いだ。こちらが画面を覗き込むより早く説明が始まる。

 よく通る声が頭に響いて頭痛が一段酷くなったような気がし、思わず眉根に皺が寄ってしまう。

 そんな私の様子などお構いなしに、主任技師は08Bを示して声を弾ませる。

 

「これで新型機ドムの開発が一気に進みます」

 

「もうそこまで進んでいるのですか」

 

「ええ、機体の大まかな設計はほとんど終わっています。懸案だった反応炉もようやく目処が立ちましたので」

 

 YMS-08Aに使っていた試作反応炉は性能こそ良かったものの、製造費用が問題だった。あれからも改良を続け、今では安価な代替素材を使って安定して製作できるようになったという。

 

「出力を落としたわけではありません。定格1200kWを維持できています」

 

 そこだけは聞き違えるなとでも言うように、主任技師が胸を張る。

 その拍子に白衣の前が左右へ開き、少し出た腹に押し上げられたシャツの裾から、白い下着がわずかに覗いた。

 私は黙って08Bへ視線を逃がす。

 ……見なかったことにしよう。

 かつて08Aの費用について聞かされた身としては、確かに喜ばしい話である。あれほどの性能を持ちながら値段のせいで数を揃えられないのでは軍としても扱いに困る。

 残る大きな課題はドム専用のモーションパターンと技術実証を固めることらしい。そこへ今回、08Bが実戦で動き回った記録が持ち帰られた。

 主任技師の指が画面を滑ると見覚えのある地形が現れ、こちらへ砲塔を向ける61式戦車まで映し出された。

 

「試験場では相手もこちらの都合に合わせてくれます。実戦ではそうはいきません。予定した動作の繰り返しでは得られない記録ばかりです」

 

「こちらは予定どおりに済んでくれた方がありがたかったのですが」

 

「ええ、それはもちろん承知していますとも」

 

 返事だけは早いが、画面を見る主任技師の顔は相変わらず緩んだままだ。

 私は額に触れていた指を下ろした。ドムの設計が固まりつつあるのなら、伝えておくべきことがある。

 

「でしたら、今回08Bを使ってみていくつか意見があります」

 

「ぜひ伺いましょう」

 

「まずコックピットの機器類や内装はできるだけザクと共通にしていただきたいですね」

 

 主任技師は画面から顔を上げ、わずかに首を傾げる。

 

「操作系を、ですか」

 

「ホバー機ですから、動かし方が多少違うのは仕方ありません。しかしそれ以外まで一から覚え直す必要はないでしょう。計器やスイッチの配置が同じなら、ザクから乗り換える者もその分だけ機体の動きに慣れることへ時間を使えます」

 

 私も08Bへ乗った当初は機器の位置を一つずつ確かめていたが、動かし始めれば今度はホバーの慣性に気を取られる。乗り換えたばかりの兵士に両方をまとめて覚えろというのは酷だろう。

 主任技師の隣で端末を操作していた技師が、私の話を書き留めながら口を開く。

 

「表示する項目まで同じにはできませんが、配置は検討できます」

 

 技師の指が止まり、こちらを窺う。

 

「ホバー関係の表示は、別にまとめる形でも?」

 

「ええ。必要なものが増えるのは構いません。慣れた位置にあるはずのものを探さずに済めば」

 

 技師がこちらへ向けた端末には配置図が開かれていた。私は一歩近づいて画面を覗き込み、覚えのある機器を目で追っていく。主任技師も横から口を挟みかけるが、私がまだ話したそうにしているのを見ると先を促してくれる。

 

「それから大型バックパックをそのまま採用されるのかは存じませんが、今回取り付けたプロペラントタンクの具合はかなり良かったです」

 

「航続時間についてはこちらでも確認しています」

 

「戦闘中に燃料を気にして速度を落とさずに済みました。せっかく足の速い機体なのですから、その速さを使うたびに残量を心配しなくていいのは助かります」

 

 08Aで推進剤を使い切った時のことは今でもよく覚えている。墜落する機体をどうにか受け止め、泥に埋まりながら敵機へ銃口を向け続けた経験など、そう何度もしたくはない。

 今回も戦闘は長引き、最後には陸戦艇を追いかける羽目になった。それでも速度を落とさず動き続けられたのだから、追加したタンクにはずいぶん助けられている。

 

「ヒートサーベルも強力でした。取り回しは少々悪いですが、この機体にはよく合っています」

 

 私は08Bの背部へ目を向ける。

 長い得物は狭い場所では扱いにくい。しかし機体の重量と速度を乗せて叩き込めるなら話は別だ。今回もザクや陸戦艇を相手に十分な威力を発揮してくれた。

 

「連邦軍が自前のMSを出してきたとしても、このリーチは役に立つと思います。相手の間合いへ入る前にこちらから斬りつけられるかもしれません」

 

「速度を活かした踏み込みと、あの攻撃範囲ですね」

 

「ええ。それと、グフのように頭部へバルカン砲を仕込めませんか」

 

 主任技師の返事が遅れた。隣の技師と顔を見合わせ、手元の端末を操作する。

 呼び出されたのは頭部の断面図だった。

 

「頭部に、ですか……」

 

「武器を持ち替えずに撃てるものが一つあれば、初めて相対する敵は手にした得物ばかりを見ます。その隙を突けます」

 

「仰ることは分かります。ですが、あの中にはもう隙間が無いのですよ」

 

 技師が画面を拡大し、モノアイのレールに沿って指を滑らせる。駆動部、通信系、冷却の経路。細かな箱と管が並び、私が思っていたよりずっと詰まっていた。

 

「ザクやグフに比べ、この機体は頭部へ収めているものが多いのです。地上では、まず敵を見つけること自体が難しいものですから」

 

 技師が別の色で示された区画を順に指した。

 宇宙ならば、遮るものは残骸くらいしかない。ところが地上では、丘の陰にも林の奥にも敵が隠れる。雨や霧が出れば見通しは利かず、晴れていても遠方は陽炎に揺れ、砂を巻き上げれば自分の周りさえ見えなくなる。

 そうした中で先に見つけられなければ、撃たれるまで相手がどこにいるのかも分からない。

 

「ですから、陸戦用の機体には現行機より多くのセンサーを積む必要があります。どれも外せるものではありません」

 

 アリゾナで、余熱に白く潰れた画面を思い出す。

 あの時は目の前の焼け跡すら見通せず、風に揺れる覆いを人影と見間違えた。土煙の中では敵の位置を感覚で補っていたが、それを一般の搭乗者に求めるわけにはいかない。

 

「砲だけなら何とかなりましょう。問題は給弾部と排莢です。この容量で新たに収めるとなると、どれかを外すほかありません」

 

「センサーを削るわけにはいきませんね」

 

「無理に押し込めば、整備のたびに頭部を全部降ろすことになります。前線で弾を込めるだけの作業に、そこまでさせるわけにはいきますせん。本末転倒になりかねませんよ」

 

 もっともである。

 私のヅダにも、コックピットの右上に30mmを1門だけ増設してある。あれも本来の設計にはなかったものを無理に押し込んだ格好で、整備兵には随分と手を掛けてもらった。あれを量産機で毎回やれというのは無茶だろう。

 引き下がろうとしたところで、主任技師が顎へ手を当てた。

 

「新しく入れる余地はありません。ただ、ザクに使えるR6パッケージ*1であれば、こちらでも装着できるようにしておくことは可能です」

 

「既にあるものを、そのまま?」

 

「ええ。取付部と制御の接続を合わせておけば済みます。新規開発ではありませんから、量産にも響きません」

 

 なるほど。頭の中を作り替えずとも、外から足せばよいという話か。

 技師が別の図を並べ、取付位置に印を付けていく。既存の装備なら補給の系統も変えずに済むし、扱いを知っている整備兵もいる。

 

「常時取り付ける形にはできませんか」

 

「重量と整備の手間が増えます。必要な部隊だけが選べる方が、こちらとしてもありがたいのですが」

 

 主任技師の言い分も分かる。市街地で使う者と、砂漠を走り回る者とでは、欲しいものも違うだろう。

 

「分かりました。選べるのであれば、それで結構です」

 

「装着時の重心と、射撃の反動については確認しておきます」

 

 技師が書き留めるのを見ながら、私は頭部の断面図へもう一度目を戻した。

 握った得物しか見ていない相手の顔を、正面から掃射できる。使う機会は多くないかもしれないが、あるとないとでは踏み込み方が変わる。

 

 ひととおり聞き終えると主任技師は顎へ手を当て、急に黙り込んだ。

 隣の技師が端末を差し出してもすぐには受け取らず、しばらく08Bを見ている。やがて画面へ目を落とし、何かを確かめ始めるまで誰も口を挟まない。

 私はその間にこめかみを軽く押さえる。

 

「現状でもドムとザクの部品共用率は5割5分に達しています」

 

 ようやく顔を上げた主任技師はまずそう答えた。

 

「反応炉、熱核ジェットエンジン、タービン、装甲。そうしたドム固有の部分を除けば、かなり共用化が進んでいます。コックピットくらいは専用にしようと考えていたのですが」

 

「乗り換える方としては、慣れたものの方がありがたいですね」

 

「なるほど……機種転換に要する手間まで考えれば、考慮する余地はありますね。貴重なご意見です」

 

「……いや、そちらの方がコンペティションでの受けはいいか……」

 

 主任技師は何やらぶつぶつと呟き、一人で頷いている。何を言っているのかよく聞き取れないが、正直薄気味悪い。

 返事を待つべきか迷っている間に、彼は再び端末へ目を落としてしまう。周りの技師も顔を寄せ始め、もう私を見ている者はいない。一言断ってその輪から離れると、背後では早くも何かの数値を読み上げる声がしていた。

 

 整備架台の反対側へ回ると、作業台に端末を置いて働いているミアの姿が目に入った。

 08Bから引かれたケーブルの先で何かを調べているらしい。機体を見上げては画面へ目を戻すので、私は邪魔にならないところまで近づいて声を掛けた。

 

「ミア、こちらにいたのですね」

 

「あ、アスカさん。おはようございます」

 

 手を止めてこちらを向いたミアへ、私は軽く手を上げた。

 

「私はこれからインド方面へ向かうつもりなのですが、ミアも同行しますか?」

 

「インド、ですか?」

 

「ええ。少し会っておきたい人がいるのです」

 

 ミアの視線が私から08Bへ移る。すぐには返事がなく、私は作業台の脇で待つことにした。

 

「すみません。もう少しこの機体について私も調べたいことがありますので」

 

 断ってもよいのかと窺うような目つきではあるが、言葉に迷いはない。作業台の端末には機体の記録がいくつも開かれ、書きかけのメモがその横に並んでいる。

 

「そうですか。ではそちらを続けてください」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 ほっとした顔で頭を下げるミアに頷き返すと、彼女はもう端末へ向き直って先ほどの記録を呼び出している。こちらから言わずとも調べたいことがあるらしい。

 それでいい。私は少しばかり満足しながら格納庫を後にした。

 

 

 宇宙世紀0079年4月26日

 

 

 ミアも今では多少なりともMSを動かせるようになっている。私がいなくとも、技師たちと一緒に機体を調べ、動作を確かめる程度ならできるだろう。

 08Bのテストパイロットとしての仕事をいったん離れ、今日はインドへ向かう。そのために用意されたドップを前にして、私はしばらく機体を眺めていた。

 機体には大型増槽が2本、いささか無理やり取り付けられている。長い海の上を渡るには必要なのだろうが、見るからに重そうだ。

 これで太平洋を渡り、日本で給油した後はアジアの基地を経由してインド亜大陸へ向かう予定になっている。

 航路の大半は既にジオンの勢力下にあり、高高度を飛行している限りは基本的に安全とのことだった。

 

 大気圏へ突入する際に出会ったララァと名乗る少女。

 あの時は、降下を終えればすぐ試験が待っていた。彼女の言葉をゆっくり考える間もなく、08Bに乗り、ミアを連れてアリゾナまで出向くことになったのだ。

 今なら、少しは時間を取れる。

 私は機体の脇に掛けられた梯子を上り、コックピットへ身を収めた。

 

 太平洋を越える間はどこまで行っても海ばかりだ。

 日本へ着くなり地上へ降りて脚を伸ばせば、まだ先は長くとも窮屈な姿勢から解放されるだけでありがたい。給油を終えると再び飛び立ち、その後もおよそ3000kmごとに基地へ降りては燃料を補充する。

 給油のための寄り道を挟み、飛んでいた時間だけでも7時間。

 途中で何度か地上へ降りられたとはいえ、ほとんど丸一日を移動に使ったような気分だ。ようやくインドに着く頃には、もう当分飛行機には乗りたくないと思っていた。

 

 着陸したのはデリー近郊の前進航空基地である。

 地上へ降りると、長い間同じ姿勢で座っていた身体が強張っている。私は邪魔にならない場所まで歩き、肩を回してから基地の者に市内への足を頼んだ。

 まずはアジア方面軍のデリー基地へ赴き、司令に挨拶をしておこう。知らない土地で人を探すのだから、車両と護衛くらいは借りておきたい。

 

 市街へ近づくにつれて道路の両脇が建物に埋まっていく。

 低い屋根の上にまた小屋が載り、壁と壁の間には人が1人通れるかどうかという隙間が続いている。軒先から張り出した店に人が集まり、荷を積んだ車が止まるたびに周囲の流れまで詰まった。

 窓の外では誰かが声を張り上げ、それに別の誰かが怒鳴り返している。道路の端には片づけられていないごみが溜まり、人々はそれを避けながら当たり前のように歩いていた。

 何ともごみごみした街だ。

 サイド3のマハルを見た時には、まるでスラム街だと思ったものだが、今目の前に広がっている有様はそれよりもひどい。

 

 デリーは人口が多く、周囲にも大きな経済圏を抱えているという。確かに人も物も嫌というほど目に入る。ただ、これだけ人がいると別の問題がある。

 さて着いてみたはよいものの、どうやってララァを探せばいいのだろう。

 顔と名前は覚えているが、居場所といえばインドというだけだ。

 この街だけでも、目の前を行き交う人の数にうんざりする。それをインド亜大陸全体へ広げて、その中から少女を1人見つけ出せと言われても、どこから手をつければよいものか。

 軍の情報部へ頼むことも一瞬考えたが、ララァについて説明できることがあまりにも少ない。名前と顔、それに私にしか説明しようのない出会い方だけでは捜索を頼む側としても心許なかった。

 考えながら外を眺めているうちに、車は基地の検問へ着いていた。

 

 デリー基地には各地の部隊へ送り出す物資が集められている。

 門を通ると、市街とは違って道路が広く取られ、その先に物資を保管する建物と荷役用の区画が並んでいる。車両の出入りも多く、私を乗せた車は荷を満載したトラックを先へ通すため、一度脇へ寄った。

 何とか車両と人員の都合をつけてもらえるとよいのだが。

 案内された建物で身分を告げ、しばらく待った後、私は基地司令の執務室へ通された。

 

「宇宙攻撃軍所属、現在は第603技術試験隊へ出向しております、アスカ・ナカノミヤ少佐です」

 

 机の向こうから立ち上がった中佐へ敬礼する。

 答礼した中佐に勧められた椅子へ腰を下ろし、私は早速訪問の目的を切り出した。

 

「こちらで人を探したいと考えております。つきましては、移動用の車両と護衛をお借りできないでしょうか」

 

「車両と護衛兵なら、こちらで用意できる。捜しているのは軍の関係者かね」

 

「いえ、少女です。ララァという名前にお聞き覚えはありませんか」

 

「ララァ?」

 

 中佐が聞き返すので頷き、褐色の肌をした少女であることも伝える。だが思い当たる相手はいないらしく、少し考えた末に首を横に振られてしまった。

 

「いや、聞き覚えはないな。住所やほかに何か分かることは?」

 

「残念ながら、まだそこまでは」

 

 自分で答えていても、何とも心許ない。

 中佐も返答に困ったのか机の書類へ一度目を落とし、それからこちらへ向き直る。

 

「そうか。力になれず申し訳ないが、名前だけではな。ともあれ、足と護衛は貸し出せる。手配させよう」

 

「ありがとうございます。それだけでも助かります」

 

 知らない土地で、車両まで自分で探さずに済むのはありがたい。私は立ち上がって礼を述べ、退室しようとした。

 扉へ向き直ったところで、背後から声が掛かる。

 

「そういえば」

 

 足を止めて振り返ると、中佐は何か言いかけた口を閉じてしまう。どうしたのかと待っているうちに椅子へ座り直したが、どうにも居心地が悪そうだ。

 

「女性である貴官にはあまり耳当たりのよい話ではないと思うが」

 

「……何でしょうか」

 

「マンガルールの方にカバスの館という場所がある。高級将校だけが利用できる高級娼館だそうだ」

 

 思いがけない言葉に、私は一瞬返事を忘れた。

 その間を何と受け取ったのか、中佐が少し身を乗り出す。

 

「もちろん、私はそんなところを利用したことはないが」

 

「ええ。それで、その館が?」

 

 曖昧に笑って先を促すと、中佐は軽く咳払いをした。利用したかどうかを確かめるために来たわけではないので、そこは安心して話してほしい。

 

「そこに人気の少女がいるという話を聞いてね。何でも占いまで随分よく当てるらしい。その娘の名が確かリラだったか……ララァだったか。そのような名前だった気がする」

 

「占い、ですか」

 

「ああ。ただ、私も人伝に聞いただけだ。占いなどというオカルトは全く信じていないのでね。その時も軽く聞き流した程度で、確証はない。手掛かりくらいにはなるかもしれんが」

 

 私は扉から離れ、中佐の机へ戻った。

 ララァに似た名前で、占いがよく当たる少女。あの少女なら、他人には占いとしか思えないことを口にしていても不思議ではない。

 別人かもしれないが、訪ねてみる価値はありそうだ。

 

「ありがとうございます、中佐。その話をもう少し詳しく伺ってもよろしいでしょうか」

 

「私が知っているのはその程度だよ。ただ、そちらへ行くのであれば、ちょうど輸送計画にマンガルール方面へ向かう便がある」

 

 中佐が机の端末へ手を伸ばす。しばらく予定を確かめていたが、該当する便はすぐに見つかったらしい。

 

「ファット・アンクルに乗っていくといい。便乗できるよう話を通しておこう」

 

「お手数をお掛けします。よろしくお願いいたします」

 

 私は改めて頭を下げた。

 カバスの館。まずはそこを訪ねてみることにしよう。

 

*1:
ジオリジン版のザクの装備。オデッサ戦やア・バオア・クー戦の描写で確認することができる。ザクの腕部に20mm機関砲ユニットを搭載可能にしたもの。




ご高覧ありがとうございます。

これで第4章としては終わりになります。
今回フェデリコ中佐をカッコよくかけていたようで、大変安心しました。
12日間ほどでしょうか。毎日投稿にお付き合い頂きありがとうございました。たくさんのご感想を頂けて、お返事するのも楽しいので充実しておりました!
引き続き執筆を続けますので、この作品をどうぞよろしくお願いします。

さて、ドムですがどんな仕上がりになりますかね。勝手になんちゃって統合整備計画みたいなことになり始めて、企業側が勝手に軍のロジスティックスのことまで考慮し始めました。
史実でも、ドムはザクのとパーツ共有が進んでいて、整備しやすいと整備兵からは好評だったらしいです。なので、ジオン残党はザクとドムの組み合わせが多いのかも知れませんね。
正確な共有率は不明だったので、当作ではとりあえず5割5分と言うことにしました。外装がまるっと違うので、まあこんなものかと…
いよいよ、ホワイトベース隊にジムが居ようとも勝てるのかこれってなって来ますね。
『グフとは違うのだよ、グフとは!』って言っているランバラルが見れるかも知れませんね。で、実際に乗ってるのは08Aで落下死するみたいな…
冗談はさておき、こいつもかなり面倒な仕上がりになると思います。楽しみですね。

大気圏突入時のフラグも回収しに向かいます。
この世界のララァは第5章から本格的に関わるようになる予定です。
カバスの館は、この世界でもバッチリありますので、皆さんもモッコ…ニッコリですね!!
ちなみに、わたくしザクスキー2世は厄介カプ厨オタクなので、ジークアクスで恋人さん(殺)とエチチしたんや!って感じの下着丸見えスケスケネグリジェを着ていたララァを見た時はのたうち回って無事憤死しました。最後で救われたけど、それでもNTRは憤死案件ですね。ウワーーー!!ってなります。
というわけで、安心してください。ララァは『まだ』無事です。
早く迎えに行け(行け)

それと、アンケートへのご参加ありがとうございました!
賛成多数で、ジークアクスキャラも問題無さそうな人物は出そうと思います。ラシット中佐とかは、出て来ても問題無さそうですしね。
マチュは出てこないと思います。

今のところ、第5章は上手に進行しないプロットの半分くらいは書けてますので、半月から1ヶ月くらいで出せると思います。
なので、遅くとも10月中に更新します。(頑張ります)

前書きにも書きました通り、18時に報告書を一枚投稿して
第4章を締めます。
ありがとうございました!!

高評価、ご感想お待ちしております!!

登場させるとしても大分先になりますが、ジークアクスのキャラを出すのはアリかナシか。(出るならニャアン)

  • アリ
  • ナシ
  • どっちでも良い
  • 早く書け
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