技術試験隊斯ク戦ヘリ 作:ザクスキー2世
ありがとうございます!ありがとうございます!
今回は、ワシヤの勇姿が見れるはず…!と言う回です。
あとは試作機とご対面ですね。
宇宙世紀0079年5月15日
「俺が、少佐のヅダを?」
ワシヤ中尉は私を見てから、MS用ラックに収まった機体へ顔を向けた。もう一度こちらへ戻った目には、先ほどまでの眠そうな様子が残っていない。
格納庫では発進前の点検が進んでいた。機体の足元にいた整備兵が端末を持って離れ、開いた胸部の脇ではミアがマイ中尉へ確認済みの項目を示している。
「ええそうです。私が地上へ行っている間、よろしければ使って頂けませんか?プロホノウ艦長には話を通してあります」
「そりゃ、俺にとってはありがたい話ですけど……本当にいいんですか?」
「格納庫で腐らせておくより、乗れる方に使って頂いた方がよいでしょう。ただ、操縦系は随分と私に合わせてあります」
ワシヤ中尉を操縦席へ案内し、ペダルと操縦桿の調整箇所を指す。身体を支えるベルトまで私の寸法*1になっていたので、そこは先に直してもらった。
腰を下ろしたワシヤ中尉がペダルへ足を乗せ、軽く踏む。
「……これ、もう動いてます?」
「入力は入っています。今は機体へ伝わらないようにしてありますから、踏み加減を確かめて下さい」
「随分軽いな。こっちのボタンもですか?」
「ええ。指を置いたまま力を掛けると、押したことになります*2」
ワシヤ中尉は指を浮かせ、今度は一つずつ押し直した。足元の表示にも目を配りながら操縦桿を僅かに倒す。
この機体を初めて動かした時には、私も入力と反応を何度も確かめた。その後、動き始めるまでの僅かな間が気になり、調整を頼むたびに今の状態へ近づいてきた。*3
「標準の設定へ戻せますが、先に変えておきますか?」
「いや、まずは今のままで。どのくらい違うか、実際に動かしてみないと分かりませんからね」
ワシヤ中尉は操縦席の側面へ手を掛けて身体を起こすと、外で待っていたマイ中尉に声を掛けた。
「マイ、最初は姿勢を変えるくらいで試すよ。推力の上限もさっきの通りで頼む」
「分かった。こちらでも数値を監視しておく」
ヅダの限界については昨日のうちに資料を渡してある。装甲を換えたからといって、際限なく速度を上げられるわけではない。ワシヤ中尉もその辺りはよく承知しており、加速試験まで一度に済ませるつもりはなさそうだった。
私は操縦席から離れ、最後に確認した表示をマイ中尉へ伝えた。
艦橋へ戻る途中、ララァに会った。ヅダが出ると聞いて、窓のある場所へ行こうとしていたらしい。
今日は私が乗らないと伝えると、彼女は少し意外そうな顔をする。
「では、今日は一緒に見られるのですね?」
「ええ。ですが訓練中ですから、クルーの邪魔にならないところでお願いします」
頷いた少女を伴って艦橋へ入ると、モニク大尉が既に窓際で待っていた。こちらを見てから私の隣へ視線を落とす。
「今日は見物か?」
「私も操作を見ますよ。ワシヤ中尉が慣れるまでは説明することもあるでしょうから」
モニク大尉の隣に場所を取り、ララァを窓の見える方へ通した。
プロホノウ艦長に報告を済ませたマイ中尉もやってくる。手元の端末には格納庫から送られてきた確認結果が並んでいた。
『ワシヤ、ヅダ出ますよ!』
艦橋のモニターに灰色の機体が映る。慎重に噴射を使いながら艦から離れ、手足を少し動かしたところで一度止まった。
ワシヤ中尉からは異常なしとの報告が入る。私も画面を確かめ、次の動作を待った。
ヨーツンヘイムから十分に離れたところで、ヅダが両腕を開いた。片脚を引き、AMBACで向きを変える。
肩が回り、こちらへ胸を向ける。そのまま止まるかと思った機体が、脚まで頭上へ持ち上げた。
『おっ、と……!?』
ヅダが1回転した。
姿勢を戻そうと動いた腕が大きく振れ、今度は斜めに傾きながら2回転目へ入る。ワシヤ中尉の操縦席を映す小窓では、窓外のヨーツンヘイムが上から下へ流れていた。
「ワシヤ中尉!何をやっている!?」
隣で見ていたモニク大尉が通信へ割り込んだ。
『止めようとしてるんですよ!こっちは!』
脚部の噴射が短く光る。回転が緩みかけたところで反対側の噴射も加わり、ヅダは頭をこちらへ向けたまま横転し始めた。
『少佐、これ、本当にいつも使ってる設定なんですか!?』
「ええそうですよ。腕を戻すのが少し大きかったですね」
『少し動かしただけなんですって!ボタンもペダルも軽すぎるんですよ。押したつもりになる前に、もう動いてる!』
マイ中尉が操作記録を呼び出す。姿勢を戻すための入力は間に合っていた。ただ、その量が大きい。逆へ修正したところでも同じように入力が跳ね上がっている。
『いやこれ、とんでもないですよ!常人じゃ使えませんって!』
「……私は普段使っていますが」
『だから困ってるんじゃないすか!?こんなっ……!』
言い返している間にもヅダの脚が画面を横切る。
私には深く踏み込むまで待つ方がもどかしい。指先や足首を僅かに動かすだけで機体が応じるからこそ、次の操作へすぐ移れる。
だが、ワシヤ中尉がいつもの加減で踏めば、それだけで私の数倍は入力されてしまうらしい。
「ワシヤ中尉、一度レバーとペダルを中立へ戻して下さい」
『戻してます!でも、これ……!ちょっ!』
手足の動きは止まった。噴炎も消える。
それでも、既に回り始めた機体は止まらない。頭、背中、足裏と順にこちらへ向け、また同じ姿勢へ戻ってくる。
『誰か、止めてくれー!』
情けない声が艦橋へ響いた。
私について見学に来ていたララァが口元を押さえている。画面の中で回り続けるヅダを見ながら小さく肩を揺らし、クスクスと笑っていた。
その声に艦橋内のクルーまで口元を緩める。隣の者と目が合った途端に吹き出すと、堪えていたらしい笑いがあちこちから漏れ始めた。
マイ中尉も顔を伏せ、口元を手で覆っている。
モニク大尉だけが片手でこめかみを押さえていた。痛みを堪えるように目を閉じ、長いため息をつく。
『笑ってないで、早く〜!』
ララァが両手で口を覆った。その隣でまた誰かが吹き出す。
私は苦笑しながら通信機へ顔を寄せた。
「そのまま、余計な操作はしないで下さい。今から迎えに行きます」
ライヒ中尉へ機体を借りると伝え、格納庫へ向かう。
艦橋を出る間際にもワシヤ中尉の情けない催促が背中を追いかけてきた。
ザクⅠQ-2型*4の操縦席へ収まり、発進の許可を待つ。正面モニターへ送られてきた映像では、私のヅダがまだ律儀に回り続けていた。
固定が解かれると、私はゆっくりとペダルを踏み込んだ。
思ったよりも踏み応えがある。機体が動き始めてから一度足を戻し、ライヒ中尉の設定に合わせて踏み直す。先ほどのワシヤ中尉とは逆で、こちらは少し深く踏まなくてはならない。
『少佐ー、まだですかね……?さっきから同じ星ばっかり見てるんですけど』
「今、近づいています。こちらから掴みますから、機体を動かさないで下さい」
距離を詰めながら回転の向きを確かめる。腕や脚が届くところまで不用意に入れば、こちらまで蹴られてしまう。
ヅダの胴体へ寄せるように進み、ザクにもゆっくりと同じ向きの回転を与えた。正面の機体の動きが小さくなったところで右手を伸ばし、その左腕を掴む。
シートへ軽い衝撃が伝わる。すぐには押さえ込まず、肘を曲げながら機体を寄せ、空いた左手も添えた。
「掴みました。そのままで」
足裏と背部の噴射を短く使い、2機の回転を少しずつ落とす。モニターの端を流れていたヨーツンヘイムが、ようやく同じ場所へ留まった。
『……止まった?』
「止まりましたよ。こちらは見えますか?」
『見えます。ああ、もう動かなくていいです。そのままで』
私は笑いを堪えながら帰投を報告した。通信の向こうでモニク大尉が何か言いかける。
ワシヤ中尉の返事は、その声が届くより早かった。
『戻ったら聞きますから。今は勘弁して下さい……うぷっ』
ヅダを格納庫へ戻すと、ワシヤ中尉は操縦席の縁を掴んだまま、暫く降りてこなかった。
私も借りたザクから降り、マイ中尉の端末を覗き込む。
「今の設定は保存しておいて下さい。その上で、一度初期状態へ戻しましょう」
「分かりました。少佐が戻られた時には、同じ設定を呼び出せるようにしておきます」
マイ中尉が設定一式を保存し、内容を確かめてから操縦系の初期値を読み込ませる。ボタンの押し応えやペダルの踏み応えも整備兵に標準の状態へ合わせ直してもらった。
「ワシヤ中尉。調整が済んだら、もう一度確かめて頂けますか?」
「今度は、ちゃんと人間が使えるやつでお願いしますよ……いやホント」
念を押され、私は苦笑しながら頷いた。
ミアが調整後のペダルを押し、端末の数値を確かめる。私が覗き込むと、保存した設定*5には私の名前を付けてあると教えてくれた。
「間違って呼び出さないように、分かるところへ書いておきました」
「頼むよ、本当に。出撃してから気づいたんじゃ洒落にならないからさ」
ようやく操縦席から出てきたワシヤ中尉が、手摺を伝って隣へ来る。端末を受け取って名前を確かめ、自分でも設定を切り替える手順を聞き始めた。
先ほど回っていた時にも直そうとする操作そのものは間違っていなかった。私が少し違う程度だと考えていた設定は、ワシヤ中尉にとってはまるで別物だったのだろう。
「初めから戻しておくべきでしたね。失礼しました」
「俺も試してみたいって言いましたからね。まあ、これでよく分かりましたよ。アハハ」
ワシヤ中尉は端末をマイ中尉へ返すと、もう一度操縦席へ向かった。
今度は座った状態で手足の動きを何度も確かめ、整備兵へペダルの位置を少しだけ変えてほしいと頼んでいる。最後にこちらへ手を上げ、ハッチを閉じた。
2度目の発進では、ヅダは1回転もしなかった。
腕と脚を動かして狙った方向へ胸を向け、僅かな噴射で残った動きを止める。反対へ向き直ってから短く加速し、今度は機体の向きを変えて減速した。
私はライヒ中尉のザクで少し離れて見ていたが、通信へ口を挟む必要はなかった。
『こっちなら大丈夫です。少佐の設定より遅いんでしょうけど、俺にはこのくらいがちょうどいいですね』
「問題ありません。今のところ、操作していて迷う箇所はありますか?」
『姿勢を戻す時に、脚が思ったより効きますね。ザクと同じつもりで動かすと、ちょっと行きすぎる。ただ、さっきみたいにはなりませんよ』
返事をしながら、ワシヤ中尉は同じ動作をもう一度試す。今度は脚の振りが小さく、止まった姿勢も先ほどより正確だった。
機体を並べて艦への帰路を取ると、ヅダの頭がこちらへ向いた。
『お借りしておきます、少佐。帰ってきたら返しますから』
「ええ。よろしくお願いします」
隣を飛ぶ自分の機体を見るのは、何とも妙な気分である。
ワシヤ中尉はもう無闇に手足を動かさず、こちらと速さを合わせて進んでいた。私は艦橋へ収容を頼み、彼のヅダを先に通した。
宇宙世紀0079年5月16日
出発の朝、持っていく荷物は思ったよりも少なかった。
軍服と着替え、身の回りの品。それにマイ中尉が纏めてくれた操縦記録がある。機体も武装も現地で受け取るので、格納庫へ積み込みの様子を見に行く用事もない。
それでも通りがかりに足を止めると、ヅダの脇ではミアと整備兵が昨日の点検を続けていた。
「こちらをお願いします。ワシヤ中尉が困っていたら、マイ中尉と相談して下さい」
「はい。アスカさんも、新しい機体の記録を送って下さいね」
「送れるものは送ります。まずは、私が乗ってみないことには始まりませんが」
ミアが笑って頷く。その傍にいたララァも作業の邪魔にならないところへ寄り、私へ顔を向けた。
「いってらっしゃい、少佐」
「いってきます。ララァ、留守の間も困ったことがあれば皆さんに相談するのですよ」
昨日、ワシヤ中尉の声に笑っていた少女は、今は静かに頷いた。私は2人へ手を上げ、通路へ戻る。
艦長への挨拶は済ませてある。次に戻った時には茶を用意しておくと言われたので、今度こそ冷める前に飲み終えたいものだと返しておいた。
輸送便へ乗り移り、座席のベルトを締める。
端末へ呼び出した行き先はトリポリ。地上での受け入れと機体の準備は済んでおり、到着後はツィマットの担当者が案内するという。
アイヒマン主任技師から送られた名前をもう一度確かめた。
ヴァルター・シュペーア。第二設計局でイフリートの開発を担当する技師である。
降下中は振動のたびに端末から手を離さなくてはならなかった。
結局、資料を途中で閉じ、端末を収納へ戻す。シートへ身体を預け、地上へ降りてから確認したいことを頭の中で並べ直した。
機体の姿は見せてもらったが、操縦席も装甲の内側もまだ知らない。08Bの続きというつもりで話を始めれば、今度は第二設計局の者を困らせることになるだろう。
大気圏突入の案内を聞くと、あの白鳥のララァがまた現れるのではないかと身構えた。ヨーツンヘイムに残してきた少女とは別に、あちらにも聞きたいことはある。
ところが、待っていても何も起こらない。揺れが収まっても聞こえるのは機内の物音ばかりで、やがてトリポリへの到着を告げられた。
何事もないのが一番なのだろうが、少々拍子抜けである。私は座席のベルトを外し、足元の荷物へ手を伸ばした。
トリポリで輸送機から降りると、地面が妙に近く感じられた。
荷物を提げた腕が重い。歩くたびに靴底へ返る感触を確かめながら、私は迎えの車へ向かった。乾いた風に軍服の裾を煽られ、開けた襟元へ砂が入り込む。
また暫くは、これと付き合うことになる。
基地の中では積み荷を載せたトラックが続けて走っていた。待機している車両の脇には木箱が積まれ、兵たちが番号を確かめて荷台へ上げている。
車はその列を避け、格納庫の並ぶ区画へ入った。
開いた扉の前に背の高い痩せた男が立っている。こちらの車を見つけるとすぐに歩み寄り、私が降りるのを待って頭を下げた。
「ナカノミヤ少佐ですね?お待ちしておりました。ツィマット第二設計局のシュペーアです」
「アスカ・ナカノミヤです。本日からお世話になります」
差し出された手を握り返しながら私は相手の顔を見た。
細い顔に切れ長の目。笑うといっそう細くなり、何を考えているのか窺いにくい。アイヒマン主任技師がタヌキなら、こちらはキツネだろうか。
そんなことを考えているうちに相手の笑顔が曇った。
「あの、私、何かしましたでしょうか?」
「いえ、失礼しました。アイヒマン主任技師からお名前だけ伺っていたものですから」
「ああ、そうでしたか。あちらからは外観図しかお渡しできなかったと聞いております。詳しい資料を用意していますので、こちらへどうぞ」
ほっとした顔で手を離し、シュペーア技師は格納庫の中へ案内してくれた。
作業台の横を通り抜けたところで、私は足を緩める。
整備架台の中に、白と黒に塗り分けられたMSが立っていた。
肩から胸、腰へと目を下ろし、そのまま脚の先まで辿る。08Bで見慣れた太い脚とはずいぶん違う。膝や足首の位置が分かりやすく、腰の周囲にも手足を動かす余地がある。
それでも、ただ細いだけではない。胸部と肩の装甲には厚みがあり、横へ回れば背部の推進器が見えた。
機体の脇に置かれた表示板にはMS-08TX-P*6と記されている。
「プロトタイプイフリート。少佐に乗って頂く0号機です。軍から調達要求のあった8機に先立ち、当社の予算で製作しました*7」
軍へ納める1号機から8号機までは、既に配属先が決まっているという。搭乗者や部隊の要求に合わせて仕上げる高性能な試作機で、数を揃えるには高価すぎるらしい。
シュペーア技師は機体を見上げ、言葉を続けた。
「8機とも完成してから、同じ箇所を直すことになっては困りますからね。こちらで不具合を洗い出して、1号機以降に同じ問題を残さないようにしたいのです」
「これから製作する機体とは、どの程度違うのですか?」
「基本的な構造はほぼ同じです。ただ、この0号機には頭部のバルカン砲と肩や肘のスパイクを取り付けていません。白と黒の塗装も当社の試作機用です」
私は頭部から肩へ視線を移した。砲口も突き出したスパイクもなく、三面図で見た時よりすっきりして見える。
手にした武器を持ち替えずに撃てる頭部バルカン砲は欲しいところだが、今はこの機体に慣れる方が先だろう。
シュペーア技師が端末を操作し、機体の諸元を表示した。
「ジェネレーターはグフ用を改修したもので、出力は1072kWです。装甲にはグフと同じく超硬スチール合金を主体とする複合装甲を採用しています」
「推進器の方はいかがですか?」
「スラスターの総推力は67000kgです。08Bのようなホバー走行はできませんが、踏み込みや跳躍に使う推力は十分に確保しています」
「陸戦機*8にしてはなかなかいい数字ですね。ただ、08Aのようなことにはなりませんか?」
「その心配には及びません。同じ轍を踏まないよう注意を払いました」
私は端末から目を上げ、背部の推進器を見直した。足の運びに噴射を合わせれば、相手との間合いも一気に詰められそうだ。
「では、用意して頂いた武装も見せて下さい」
「はい、こちらです」
機体の横には武器の架台が並んでいる。使い慣れたザクマシンガンの隣に、MS用バズーカC1型*9が載っていた。
ただ、見覚えのある形とは少し違う。私は砲身の下へ目を向けた。
「前の握りを外したのですね。片手で扱うことを考えて?」
「ええ。ヒートソードと併用する際の取り回しを優先しました。今日は構えた状態で向きを変え、砲口の振れを確かめたいと思っています」
「それなら、肩へ担ぐところから続けて試しましょう。構えてしまえば扱えても、持ち上げる途中で腕に引っ掛かるようでは困りますから」
「そうですね。持ち替える動作も見ておきましょう」
シュペーア技師は端末へ短く書き込み、最後の架台へ私を案内した。
横たわっていたのはグフのものより少し長いヒートソードだ。刀身まで形を備えた実体剣で、08Bのヒートサーベルとは形状が違う。
私は柄から切っ先まで目で辿り、機体の右腕を見上げた。
「こちらも持たせられますか?振った後、どのくらいで構えを戻せるか試したいのですが」
「もちろんです。加熱せずに使えるよう用意してあります。こちらでは腕を止めた時の上半身の揺れを見ます。少佐には次の動作へ移りにくいところがないか確かめて頂ければと」
ヒートホークを掬い上げた後、刀身を返してザクの右腕を斬った時のことを思い出す。振り切るたびに構え直していては、あそこまで続けて斬れなかっただろう。
「分かりました。足を止めた時と動きながら振った時で比べてみましょう」
シュペーア技師が傍にいた技師へ声を掛ける。技師は武器の番号を確かめ、試験区画へ運ぶ手配を始めた。
私たちはその横を通り、操縦席へ続く足場を上がる。
「姿勢制御には08Bの記録も使っています。この機体にもAAMCを搭載しておりまして」
「どの辺りの動きを使われたのですか?」
「腕の返しとそれに合わせた上半身の動きです。08Bで得られた試験や実戦のデータは、社内の各開発部門へ提供されていますので、そこから使えるものを選びました」
足場で立ち止まったシュペーア技師が端末をこちらへ向けた。再生されたのはヒートサーベルを振るう08Bの映像である。
見慣れた動きだった。私が何度も機体に覚えさせたものだ。
「脚の動きはそのままでは使えないでしょうね?」
「ええ、08Bは滑りながら姿勢を変えられますが、こちらは足を踏み替えなくてはなりません。腕を同じように振れても、その先まで同じ動きになるわけではありませんから」
画面の中で08Bが横へ流れていく。あの時、私は足を置く場所よりも刀身をどこへ通すかを考えていた。
イフリートで同じことをしようとすれば、踏み込むところから変える必要がありそうだ。
「自分で覚えさせた動きですから、違うところは分かると思います。余計に操作しなくてはならなかったら、その場でお伝えします」
「助かります。機体の動きは記録できますが、少佐がどこで動かしにくいと感じたかは、伺わないと分かりませんので」
そこはマイ中尉からもよく聞かれたものだ。
私は持参した記録を渡し、08Bで変更した箇所も見てもらうことにした。シュペーア技師は資料を開き、先ほどの映像と見比べ始める。
番号を取られたと悔しがっていたアイヒマン主任技師の顔が、ふと頭に浮かんだ。あれほど騒いでいても、成果はこうして第二設計局でも使われている。今の説明を聞かせたら、どんな顔をするだろう。
「少佐?」
顔を上げたシュペーア技師が私の顔色を窺っていた。
「いえ、あちらで苦労した甲斐もあったと思いまして」
「はい。おかげさまで随分と参考になりました」
シュペーア技師は素直に頷くと、操縦席の縁へ手を掛けた。
「まずは標準の設定で歩行からお願いします。武器を使うのは機体の動きに慣れてからにしましょう」
「そうですね。操縦系の調整はひととおり動かしてからにします」
昨日は私に合わせた設定でワシヤ中尉を散々な目に遭わせてしまった。今回は初めから自分の加減を押しつけず、機体の応じ方を確かめることにしよう。
私は開いたコックピットへ身体を入れた。
座席の位置を合わせると、膝の前には思っていたより余裕があった。
ペダルを奥まで踏み、操縦桿を倒した時に腕がつかえないかを確かめる。脇から覗いていた技師へ頷くと、ベルトの固定を確認してから外へ退いてくれた。
計器の配置は見慣れたものと違う箇所もある。教わった順に表示を呼び出し、元の画面へ戻す操作まで一度ずつ試した。
『機体側の電源へ切り替えて下さい。確認でき次第、外部電源を切り離します』
「了解。切り替えます」
表示が変わり、足元から低い振動が伝わってきた。
反応炉の出力が落ち着くのを待ち、各部の状態を順に確かめる。正面の映像では、作業台を押す技師が扉の脇へ退いていった。
ハッチを閉じると外の声が遠のき、代わりにシュペーア技師の通信が近く聞こえる。
『架台の固定を解除します。まずはその場で両脚に荷重を掛けて下さい』
両足の接地を確かめ、膝を僅かに曲げた。胴体が下がり、左右の脚へ重さが移る。上半身を前後へ少し傾けても、足裏は浮かなかった。
右足を上げ、ゆっくりと前へ出す。
着地の振動はあるが、座席を突き上げるほどではない。続けて左足を運ぶと、モニターの中で格納庫の扉が大きくなった。
「歩行に問題はありません。外へ出ます」
扉を抜けたところで立ち止まり、頭部のカメラを左右へ振る。
基地の建物から離れる方向へ試験用の通路が延び、その先には標識を並べた広い区画が見えた。シュペーア技師たちの観測車は既に所定の位置へ入っている。
私は示された道を歩きながら腕を軽く振った。肩を回し、肘を伸ばして戻す。操作に対して機体がどこまで動こうとするかを順に確かめた。
標識の手前で停止する。
試験区画には他の機体も人もいない。シュペーア技師から開始の連絡を受け、私は前へ踏み出した。
初めは歩幅を広げる程度にし、足の運びが落ち着いたところでさらに速度を上げる。
膝が持ち上がり、次の足が地面を捉えた。足裏を伝う振動が短い間隔で続き、正面の標識が近づいてくる。
ここで止める。
重心を後ろへ戻す操作に合わせ、機体は歩幅を詰めた。最後の一歩で砂を掻き、上半身が前へ振れる。私は操縦桿を引きすぎないよう力を緩めた。
白い膝が沈み、視界の揺れが収まる。
停止した位置は狙った標識より僅かに先だった。
『最後の一歩でかなり前へ傾きましたね。止めようとしても、機体に引かれる感じがありましたか?』
「いえ、私が減速を始めるのが遅かったのです。もう一度、同じ速度で走ります」
08Bなら脚の噴射を変えて滑らせていた。そのつもりで足元の距離を測ったせいで、一歩分だけ余計に進ませてしまったらしい。
機体を戻し、同じ区間を走る。
今度は早めに歩幅を詰め、最後の足を置くところまで正面の映像を見続けた。上半身の揺れは小さく、足元の標識も狙った位置に収まっている。
「今度は狙ったところで止まりました。次は左右の切り返しを試します」
右へ踏み出し、腰を回して走る向きを変えた。数歩進んでから今度は左へ切り返す。
脚はすぐに応じたが、肩が少し遅れてついてくる。私は上半身を回す量を抑え、次の一歩で残った捻れを戻した。
停止してから肩に残った動きをシュペーア技師へ伝える。
『最初に右へ向いた時からですか?それとも、左へ戻した時だけでしょうか?』
「左へ戻した時ですね。脚に対して肩が遅れるので、上半身を回す操作を少し抑えました」
『その箇所を見ます。次も同じように動かして、操作を抑えたところで声を掛けて頂けますか?』
私は脚と腰の向きを揃え、走り始めた位置へ戻った。今度も右へ向き、それから左へ切り返す。
同じように肩が遅れた。
「今です。ここで抑えています」
『確認できました。今の2回分を比較します』
シュペーア技師が記録を確かめる間、機体を止めて待った。次へ進んでよいとの返事を受け、私は跳躍用の区画へ向かう。
短い跳躍では背部の推進器も使う。
膝を曲げて地面を蹴り、噴射を加えると身体がシートへ押しつけられた。足元の砂が遠ざかり、低い標識がカメラの下へ消える。
私は推力を絞り、着地点へ脚を向けた。
地面へ触れる直前に姿勢を整え、膝で受ける。足裏が砂を押し、機体は一歩進んで止まった。警告は出ていない。
『足首と膝は正常です。座席への突き上げはどうでしたか?』
「気になるほどではありませんでした。次は着地してから、右へ切り返してみます」
もう一度跳び、今度は両脚へ重さが戻ったところで右へ踏み出す。推力で前へ押されていた上半身を起こし、腰を回して次の標識へ向かった。
地面を踏むたび、機体の重さを足元で受け止めている感触がある。滑り続ける08Bとは違い、その一歩をどこへ置くかで次に出られる方向も変わる。
何度か繰り返すうちに足を運ぶ間隔が掴めてきた。
基本動作を終えると、武器の架台が置かれた区画へ戻った。
先にバズーカを右手へ持たせ、腕を下げたところから肩へ担ぐ。左腕には触れずに収まり、そのまま腰を回しても砲口は狙った方へついてきた。
シュペーア技師に頼まれ、今度は左腕を前へ出した状態で持ち上げる。ヒートソードを構えているつもりで角度を変え、干渉しない範囲を確かめた。
ザクマシンガンに持ち替えてからも左右へ振り、手元だけでなく肩や腰まで余計に動いていないか見てもらう。
銃を架台へ戻し、最後にヒートソードを右手へ取る。
柄を握った指の位置を確かめ、架台から刀身を持ち上げた。機体の脇へ下げても切っ先は地面に触れない。肘を曲げ、胸の前へ構えるところまで動かしてみる。
グフのものより少し長いが、腕を引く時に大きく持て余す感じはなかった。
「ヒートソードの動作を試します。加熱はしていません」
『了解しました。記録しています』
右脚を引いて構え、踏み込みながら下段から斬り上げる。
肘が入り、刀身を追って上半身が回った。振り切る手前で腕を返すと、戻した刃が胸の前へ収まる。
……これは、覚えがある。
08Bで何度も繰り返し、あの指揮官機を相手にした時にも使った動きだ。刀身を返すところで僅かに重く感じるが、私が姿勢を補正しようとする前に、機体は腕の動きを受け止めている。
「なるほど、ここですか?刃を返した後、胴体を押さえる操作がほとんど要りませんね」
『ええ、そこに08Bの記録を使いました。腕を返す途中はどうでしょうか?』
「少し重く感じます。ただ、足の置き方もありそうです。踏み込みを変えて、もう一度やってみます」
今度は踏み込む幅を変えた。
足裏が地面を押し、シートへ振動が伝わる。08Bではそのまま横へ流していたところだが、こちらは足を置く位置を決めなくてはならない。腰を回す操作を少し早め、ヒートソードを振り抜く。
砂を蹴った左足が止まり、刀身が狙った位置へ戻った。
返した刃の先が小さく揺れた。私は眉をひそめ、足を止めたままもう一度ヒートソードを振る。今度も最後に手首の角度を直すことになった。
「手首が少し柔らかいような気がしますね」
『刃を返した直後ですか?』
試しにゆっくり返してみると、切っ先は素直に止まった。だが、実際は敵の前でこんな悠長な振り方をするわけにもいくまい。
「ええ、腕を止めても切っ先が落ち着きません。次に振る前に一度押さえ直したくなります」
『分かりました。手首の保持力と制御の設定を確認します。次も同じ感じがあれば教えて下さい』
腕の動きには馴染みがあっても、足の使い方まで同じにはできないらしい。
私は正面の空いた区画へ目を向け、ヒートソードを構え直した。
「次は走り込んでから試します。今の記録と比べてみて下さい」
返事を待ってペダルを踏み込む。
白い脚が交互に砂を蹴り、機体が速度を上げていった。標識の脇へ出るところで一歩を大きく取り、右腕を振るう。
刀身が正面を横切る。私は止まらずに腰を回し、踏み替えた足で機体を反対へ向けた。戻したヒートソードの切っ先が今通り過ぎた場所を捉えている。
口元が緩んだ。
まだこちらが合わせてやらなくてはならないところはある。それでも、思った場所へ足を置き、振った刃を戻せるようになってきた。
『少佐、今の切り返しをもう一度お願いできますか?』
「ええ。同じところから入ります」
元の位置へ戻り、ヒートソードを低く構える。私は先ほどの標識へもう一度機体を走らせた。
ご高覧ありがとうございます。
はい、という事でワシヤ中尉の勇姿(?)はいかがだったでしょうか?笑
アムロはガンダムにマグネットコーティングを施して反応速度の遅延を解決しましたが、こちらは操作側の入力速度と感度を高めて対応した感じですね。多分シャアが乗っても乗りこなせなさそうなジャジャ馬です。
シュペーア第二開発局主任技師は、アイヒマンほどタヌキ親父ではなく、胡散臭い狐のような詐欺師みたいな見た目で損するタイプです。
本人は至って気が弱い方だけで、優秀な技師です。
外見のイメージ的には、髪の毛と鼻があるお辞儀様みたいな感じですかね?あと、多分モノクルしてそう。
イフリートに関しては、チキチキ自作MSV(n回目)によって実質九機目の機体です。
一応高級機なので、本格製造して納入した後に不具合が見つかり、リコールなり不具合修正をするよりは、新しく一機作ってデバックした方が安いということで産み出されたプロトタイプですね。ドノーマルです。
機体性能は正式生産機とほとんど一緒ですが、固定武装が違う感じですね。
色々調べた結果、まだMMP社のマシンガン系列が開発されていないことがわかったので、初期生産型のジャイアントバズを渡すよりも既存兵装での対応としました。
イフリートの象徴的な武器の一つとして、ケンプファーも持ってるショットガンを出そうとも思いましたが、アレは対MS用目的の武器だと思ったので、まだ陸ジムやら陸ガンが出てこない以上は開発されていないだろうとして、登場を見送ってます。
今回はこういう感じで、専用機じゃないのも良いかなと思いました。
まぁ、それでも推力がバカ高い強化版グフみたいなのは否めませんですが…
次回予告として、次回は作戦ブリーフィングと戦闘に入ります。
お待たせしました。
引き続き、明日もお付き合い頂けたらと幸いです。