技術試験隊斯ク戦ヘリ 作:ザクスキー2世
以前とは異なり、大規模部隊同士の戦闘なので、かなり無線やら情景が入り乱れて読みづらいかも知れませんが、ご容赦願いたく思います。
砲弾が土塁の縁を抉り、その奥で炸裂した。
噴き上がる土砂の中から砲身が跳ね、炎に包まれた砲塔が横倒しになる。その砲塔にはもう1本の砲身が残っていた。
61式戦車か。
撃破を告げるより早くその右手でも砲口が光る。左へ踏み出して砲弾を躱し、次の土塁へ砲口を振ったが相手はもう砲塔を引っ込めていた。
すぐに上体を戻して正面を押さえる。肩の遅れはない。これなら敵の動きに合わせて振り回せる。
「正面の戦車1両を撃破。右の土塁にも1両、後退しています」
『こちらレティ01、確認。押さえます』
フォレス大尉のザクが膝を曲げてザクマシンガンの銃口を向ける。放たれた弾列が土塁の上を削り、その間にフォレス小隊の後続機も道の脇へ展開していく。
車両の列が左右へ分かれた。マゼラ・アタックが窪みの手前で一旦止まり、車体の上にしがみついていた歩兵たちが飛び降りる。タンクデサントでここまで運ばれてきた連中だ。彼らが窪みへ走り込むと、身軽になった車両は車体を敵陣へ向けて前進を再開した。
右手では水陸両用装輪偵察警戒車PVN.44/1 ヴィーゼルが低地を走り、後続へ通れる場所を知らせていた。その誘導を受けた装甲兵員輸送車の列が道路を離れて速度を上げる。マゼラ・アタックが敵の砲座へ撃ち込む間に斜面の陰まで進み、次々に歩兵を降ろしていく。
こういう時にはあの足の速さがありがたい。MSと戦車だけで先へ進んでも、壕に残った敵兵までは片付かない。
その後方では小型の装軌車が斜面の陰へ分かれて止まった。車体上面のハッチが開き、中に収めていた砲身が立ち上がる。歩兵に随伴してきた自走重迫撃砲も射撃の準備に入ったらしい。
先ほどまで聞こえていた発進の連絡に代わり、敵を見つけた位置と被弾の報告が回線を行き交い始めた。
『各隊、道路上に止まるな。後続は間隔を開けろ。戦車隊、右の高地を確認せよ』
先遣隊長の指示を聞きながら地図と正面の映像を見比べる。
本音を言えば、マゼラ・アタックには自走砲としてもう少し後ろから火力支援に徹してもらいたい。砲塔を旋回させることもできない車両を敵戦車との撃ち合いにまで付き合わせたくはないのだ。
だが、これもジオンにとっては貴重な装甲戦力である。MSだけで前線の全てを埋められる訳ではなく、歩兵に随伴して敵の火点を潰す車両も要る。代わりの戦車を揃えもせず、後ろへ下がっていろとは言えまい。
改めて敵陣へ目を戻す。エル・アラメイン方面に設けられた連邦軍の前哨線はアレクサンドリアへ続く道を押さえ、左右の高まりには車両を隠すための陣地が掘られていた。
ここに敵がいることは事前の偵察で分かっていたが、地図に記されたものより砲座が多い。戦車を引き込むために掘り下げた道も見え、同じ車両が幾つかの射撃位置を使い分けているようだ。
僅かな起伏の向こうへ下がるだけで、MSから見下ろしても車体が見えなくなる。こちらの背の高さまで計算して掘ったのであれば、なかなか念入りな仕事である。
「フォレス大尉、左へ出ます。正面を押さえて下さい」
『了解。手前の戦車は見ています』
イフリートを走らせて土塁の脇へ回る。撃破した車両の後ろから延びる道を追えば、先ほど引っ込んだ砲塔がもう別の砲座から顔を出しかけていた。
ザクマシンガンの弾がそこへ降り、砲身が再び沈む。下がる先は見えた。次に顔を出す前に横から捉えようとさらに速度を上げる。
その時、右の画面で地面が大きく膨れ上がった。
マゼラ・アタックの前方だった。土煙の端から主砲が突き出し、その下の車体が急に左へ向きを変える。履帯を引きずったまま止まると、続いていた車両がその後ろを回り込んだ。
『右前方、ガンタンク!稜線の下、2本の砲身が出ている!』
戦車隊からの声に映像を切り替える。
離れた土塁の上に長い砲身が並び、その下では機関砲を備えた腕が動いている。説明会の写真にあったRTX-65 ガンタンクだ。履帯を備えた大きな車体は斜面の陰へ隠れ、こちらへ上半身だけを晒していた。
左右の主砲が続けて火を噴く。ザクの足元で土砂が跳ね、続く砲弾は歩兵のいる窪みの縁へ落ちた。伏せかけた兵が横へ弾かれ、その後ろを走っていた兵も倒れる。土煙が薄れても2人は起き上がらない。
歩兵を降ろして下がろうとしていた装甲兵員輸送車にも破片が浴びせられた。車体の側面で火花が散り、斜面へ片側を乗り上げて止まる。開いた扉から乗員が転がり出たが、続く者は仲間に肩を貸されていた。
『輸送車が動かん!負傷者がいる、衛生兵を寄越してくれ!』
窪みの兵が這い戻り、倒れた仲間を引きずっていく。1人は脚を抱えて身を捩っていたが、もう1人は腕を引かれても反応がない。後続の歩兵まで救護のために足を止め、前へ出ようとしていた列が崩れた。
戦車だけを相手にしている暇はない。私は進路を変え、ガンタンクへ砲口を向けながら近くの窪みへ入る。
その時、胸の内側を抉られるような痛みが走った。息が詰まり、口の中へ血が溢れるような感覚に奥歯を噛み締める。右後ろ、先ほど止まったマゼラ・アタックの方からだ。
『擱坐車の乗員を収容中。撃っている車両を押さえてくれ!』
「あのガンタンクですね?こちらで引き受けます」
短く息を吐き、主砲をこちらへ向ける敵を睨む。負傷者を運び出している最中にもう1発撃ち込まれては堪らない。
照準の中に2本の主砲を捉え、1発撃ち込む。ガンタンクが後退し、砲弾は土塁の上で炸裂した。噴き上がる土砂に紛れて砲身も消える。
『各隊、前進を止めろ!偵察中隊、ワッパ10機を出せ。敵の火点と陣地の奥を確認する。強行偵察だ。MS隊、重迫小隊は援護せよ』
歩兵隊と輸送車の被害を聞いた先遣隊長が矢継ぎ早に命令を下した。見えている砲だけを追っていてはその横から撃たれる。このまま兵を送り込む気はないらしい。
私はフォレス大尉へ手前の火点を押さえるよう伝え、ガンタンクの砲座を引き受けた。
フォレス大尉のザクが手前の稜線へ寄り、深く膝を折った。機体の大半を斜面の陰に収め、頭部と高く構えたザクマシンガンだけを稜線の上へ出す。後続のザクも少し離れた位置へつき、正面の戦車陣地を狙った。
『こちらレティ01、小隊全機、援護位置につきました。偵察中隊、出られます』
後方から飛び出した10機のワッパが何組かに分かれて左右へ散り、地面すれすれの高さで敵陣へ向かっていった。私は土煙の薄れていく砲座を狙う。ガンタンクが下がった跡には履帯の溝が残り、奥の土塁へ続いていた。
右へ出た組が低い起伏を越えると、斜面の途中で機関銃が火を噴いた。先頭の操縦者が機体を傾け、地面を走る弾列から逃れる。その外側を後続が抜け、銃眼の横へ回り込んだ。
『右の土塁に……機関銃!もう1か所、奥にも……』
ワッパからの無線に雑音が被さり、語尾が消えた。ミノフスキー粒子の影響だ。先ほどまで聞こえていた声が肝心のところで途切れる。
『奥にも火点があるのか?もう一度送れ』
『機関銃だ!手前の銃眼から……右奥に、もう1か所!』
聞き取れた報告を基に地図へ印が入る。MSからは土にしか見えなかった場所だ。フォレス大尉のザクが手前の銃眼へ撃ち込み、土煙で包んだ。歩兵隊の前進観測員も奥の火点を捉えたらしく、重迫小隊を呼び出す。
『重迫小隊、こちら前進観測。即時制圧、グリッド2861、6154』
『即時制圧、グリッド2861、6154。了解』
復唱を終えた声に続き、後方の画面で自走重迫撃砲の砲口から白煙が噴いた。ザクの射撃が移る度に撃ち返していた火点も、土塁の奥へ重迫撃砲弾が落ちると弾列が途切れる。
左から入った組はその間に土塁を越え、砲座の後ろを横切っていく。引っ込んでいた戦車が向きを変えるが、小さな機影を追っている間にザクマシンガンの弾が砲塔を叩いた。
『土塁の裏に車両の通路……砲座をつないでいるぞ!』
『歩兵の壕はその内側だ!奥の……高まりまで続いている!』
受信側が聞き取れた内容を復唱し、途切れた箇所を聞き返す。別々の方向から入る報告を拾ううちに地図の線が少しずつつながった。正面から見えていた砲座の後ろにも射撃位置があり、掘り下げた通路で行き来できるようになっている。その脇には交通壕が走り、歩兵の火点も1列では済まない。
右の画面でワッパの1機が大きく傾き、下側から煙を引いて起伏の向こうへ落ちていく。
『被弾、不時着した!機体からは……離れた。撃たれて動けん!』
『重迫小隊、右奥の火点へ射撃を継続!偵察中隊は離脱。得た情報を送れ』
『同一目標、射撃継続。了解』
重迫撃砲弾が土塁の裏へ落ち始めた。奥からの銃火が途切れると、帰り道を塞がれていたワッパが窪みを抜ける。ザクは稜線から機体を出さず、ワッパを狙う敵の火点へ頭部とザクマシンガンを向けた。再び火を噴いた銃眼へ弾列が突き刺さり、砂煙の中からさらに数機が抜け出す。だが、その後が続かない。
最後に戻った1機は煙を引いていた。機銃弾を受けたらしく、側面には幾つもの穴が開いている。高度を保てないのか、地面へ触れそうになる度に機首を持ち上げてどうにか味方の稜線を越えた。
後方の画面でそのワッパを追い、斜面の陰へ降りたところを拡大する。操縦者はハンドルを握ったまま動かなくなった。軍服は脇腹から腿まで血に染まっている。近くの兵が駆け寄ったところでようやく手が離れ、降りようと片足を動かした途端に横へ崩れ落ちる。
『衛生兵!こっちだ、早く!』
兵が操縦者の身体を受け止め、機体から離れた地面へ寝かせた。衛生兵が鞄を抱えて走り込み、その傍らへ膝をつく。
正面の土塁の端で砲身が動き、そちらへ目を戻すとガンタンクは左へ移っていた。マゼラ・アタックの砲弾がその脇を叩く間に次の砲座へ砲口を振る。敵は上半身を土塁の陰へ戻したが、主砲の先はまだ見えていた。
後方の画面へ目を走らせると、衛生兵が操縦者の軍服を開いていた。傷へ当てた包帯がすぐに赤くなる。
『ここを押さえていろ。担架を持ってこい!』
衛生兵に手を導かれ、兵が傷口を押さえる。私は正面へ目を戻し、砲身の動きを追った。回線には担架を呼ぶ声が続いている。
次に後方を見た時には操縦者は担架へ移されていた。傷を押さえた衛生兵が脇につき、担ぎ手と足を合わせながら後方へ下がっていく。
『帰投5機、未帰還5機。不時着した1機の位置を送ります。残る4機は応答なし。右の窪みは陣地の側面まで通じていますが、奥からも狙われます』
『了解。乗員の救出は歩兵隊へ引き継ぐ。MS隊は火点を押さえ続けろ』
10機を送り出し、戻ったのは半分。その5機のうち1機も操縦者が担架で運ばれる有様だ。未帰還のうち不時着した1機を除く4機とは連絡も取れない。回線では呼び出しが続いていたが、返事はなかった。陣地の形が書き加えられた地図を一瞥し、私は砲座へ目を戻す。ガンタンクが再び主砲を持ち上げていた。
MS用バズーカC1型を撃とうとしたところで左から殺気が迫った。上体を捻ると白煙を引く弾が胸の脇を通り抜け、後方の地面が爆ぜる。
発射された辺りには崩れた石積みがあり、その裏で人影が身を屈めて長い筒を引き込んでいた。
そこにもいたか。
砲口を落として撃ち返すと、石積みが砕けて発射器ごと吹き飛んだ。その間にガンタンクは後退を始め、向き直った時には主砲の先まで隠れつつある。
砲撃で足を止め、近づくMSは歩兵に狙わせる。アリゾナの連中も似たような手を使っていた。
「左前方の石積みに対MS火器。今の発射器は潰しましたが、奥にも陣地があります」
返答を待つ間もなく別の男の怒鳴り声が割り込んだ。
『奥の塹壕にまだいるぞ!重迫で炙り出してくれ!機関銃に押さえられて、こっちは頭も上げられん!』
歩兵隊の無線が混線し、戦車隊の報告まで重なって、その後は半分ほどしか聞き取れなかった。
『射撃要請中だ。回線を空けろ』
割り込んだ声で報告が止み、前進観測員の呼び出しが通る。
『重迫小隊、こちら前進観測。効力射を要請する』
『こちら重迫小隊、効力射。送れ』
『グリッド2846、6173』
『グリッド2846、6173』
数字を1桁ずつ区切る声を聞きながら地図へ目を落とす。新たに付いた印は石積みの奥、機関銃が撃っている塹壕と重なっていた。
『塹壕内の歩兵と機関銃。榴弾、準備でき次第撃て』
『塹壕内の歩兵と機関銃、榴弾。準備でき次第射撃する』
『味方は石積みの手前だ!まだ取りついていない!』
『歩兵隊、その位置で待て。着弾終了まで頭を出すな』
前進観測員の警告を聞きながら、私はガンタンクの砲座を押さえたまま左下へ目を走らせた。石積みの手前で兵たちが身を伏せている。
『発射』
『発射、了解』
短い交信が終わっても機関銃は撃ち続け、兵の頭上を弾が通る。やがて土塁の裏に土煙が上がり、続く砲弾が塹壕の縁を崩すと銃火が途切れた。
煙の端から人影が飛び出す。銃を抱えて奥の壕へ走る者もいれば、崩れた土へ這い戻る者もいる。土塁で正面を固めたところで、上から落ちてくる弾までは防げまい。
『重迫小隊、最終弾発射』
最後の着弾が壕の縁を叩いた。前進観測員が着弾終了を告げると、歩兵隊から号令が飛ぶ。
『今だ、前へ!』
声を待っていたように歩兵たちが起き上がり、そこへフォレス大尉の通信が入る。
『少佐、もう少し下がれますか?今の隙に歩兵を前へ入れます』
「分かりました」
機体を数歩戻して道を空けると、ザクが石積みの奥へ銃撃を加え、その足元から歩兵が進み出た。先ほど装甲兵員輸送車から降りた連中も窪みを伝って右へ回り、崩れた陣地へ左右から取りついていく。
石積みを越えようとした兵が1人、銃を放して崩れ落ちた。すぐ後ろの兵が襟を掴んで引き戻す間も奥の壕から銃火が続く。ザクがそちらへ射撃を集中し、伏せていた別の分隊が右から詰め寄った。
私は彼らの頭上越しにガンタンクの陣地を狙う。土塁の向こうで砲身が持ち上がったが、こちらの砲口に気付いたのかすぐに下がった。
そのまま引っ込んでいろ。負傷者を引き戻しているところへ、主砲まで撃たせる訳にはいかない。
『石積みの陣地を確保。右へ交通壕が延びている。奥はまだ掃討できていない』
ワッパの報告にあった壕だ。歩兵隊が確認した位置と重ねれば、ガンタンクのいる高まりまでつながっている。戦車の通路とは別に歩兵もこちらから見えないところを行き来していたのである。
正面から突っ切れば私が通り過ぎた後でまた頭を出してくる。後続へそいつらの始末を押し付けては先遣隊へ入った意味がない。
「先遣隊長、こちらメテオ01。右からガンタンクを叩きます。正面への支援射撃を要請します」
『よし。正面は歩兵と戦車に任せる。回り込めるか?』
地図を拡大し、ワッパが抜けてきた右の窪みを示す。途中まで機体を隠せればよい。最後は飛び越え、上から叩く。
「この窪みを使います。敵が正面を向いている間に取りつきます」
先遣隊長に進路を伝え、小隊の回線を開く。
「フォレス大尉、支援できますか?」
『こちらレティ01、支援できます。ただし右の窪みは途中から浅くなります。そこを越える時には反対側の戦車陣地からも見えます』
フォレス大尉の報告と共に地図へ別の印が付いた。私からは高まりの裏になる場所だが、向こうのザクからは砲身だけが見えているという。
その戦車に横を撃たれてはガンタンクへ近づく前にまた足を止められる。
「ではそちらを押さえて下さい。越える時に知らせます」
『了解。合わせます』
『戦車隊もその陣地を撃つ。少佐、右側を空けておくぞ』
「お願いします。突入前に合図しますので、その時にガンタンクへの射撃を止めて下さい」
機体を右へ向けると、フォレス大尉のザクが銃撃を再開し、マゼラ・アタックも射撃位置を移って車体ごと敵陣へ向き直った。私はその後ろを抜け、窪みへ駆け下りる。
背後で主砲が火を噴いた。相手をしてくれる者がいるのだ。敵もそう簡単にはこちらへ砲を向け直せまい。
窪みの底は石だらけだった。砂の下から露出した岩を避けて走るうち、左足の下で地面が崩れる。沈んだ分だけ膝を曲げ、そのまま次の足を踏み出した。姿勢制御が上半身を支え、右肩へ担いだMS用バズーカC1型の砲口も狙った方角から外れない。
前方では味方の砲弾が稜線を削っていた。ガンタンクは主砲を出さなくなったが、黒煙も炎も見えない。車体を隠し、こちらの砲撃が止むのを待っているのだろう。
ならば待っている間に済ませてしまえばよい。
私は速度を保ったまま窪みの浅くなるところへ向かい、支援を求めた。
「こちらメテオ01、通過します。援護を!」
『了解。撃ち方始め!』
左前方で土煙が立ち、その中から砲口が突き出した。撃たれる寸前に進路を内側へ振ると、窪みの縁へ砲弾が突き刺さり、破片が左肩を叩く。
警告は点いたが腕は動く。止まらずに駆け抜ける私を戦車の砲塔が追い、もう1本の砲身を向けようとしたところへマゼラ・アタックの砲弾が飛び込んだ。
被弾した砲塔が揺れ、続けざまにザクマシンガンの弾が土塁を抉る。敵は後退し、こちらを狙っていた砲口も消えた。
『少佐、抜けられます!』
稜線へ目を向けると背筋を冷たいものが撫で、正面のガンタンクとは別の殺気がその奥から迫ってきた。1機だけではないらしいが、私はペダルを踏み込んだまま通信を開く。
「こちらメテオ01、稜線を越えます。ガンタンクへの射撃を止めて下さい」
『射撃中止!少佐が入るぞ!』
味方の砲撃が止むと同時に地面を蹴り、背部の推進器を吹かして稜線を越えた。手前のガンタンクの奥にも2機が並び、左右から主砲を回してくる。
推力を絞って着地するなり眼前の車体へ撃ち込み、片側の履帯がちぎれて斜面につかえたところへ走り寄った。MS用バズーカC1型を右手に保持したまま左手で右腰のヒートソードを抜くと、こちらを追う機関砲から弾列が伸びてくる。
あの機関砲にこの装甲は抜けない。左腕の装甲で弾を受けながら斜面を駆け上がり、赤熱したヒートソードで機関砲の腕を付け根から斬り上げた。
火花を散らす左腕を返して懐へ踏み込むと頭上で主砲が動いたが、砲口が下がりきる前に右足を引いて肩口へ刃を叩きつける。刀身が主砲の根元まで食い込み、裂けた装甲から炎を噴いて車体が沈んだ。
傾く車体の向こうで左奥の砲口がこちらを向き、私は刃を引き抜きながら燃えるガンタンクの陰へ身を伏せた。砲声と共に残骸の肩が弾け、頭上を越えていく装甲片を横目に左へ回り込む。
端から半身を出しかけて砲身を誘い、踏み込んだ右足で地面を蹴って逆へ切り返した。背部の噴射を加えて反対側から飛び出すと主砲が追ってきたが、戻りきる前にその下へ潜り込んでヒートソードを横薙ぎに払う。
腕を振り抜きながら車体の脇を駆け抜けると、断ち割られた胴体から炎が噴いて上半身が傾き、2本の砲身が地面へ突き立った。
右から迫る殺気に目を向けると、2機目の陰を抜けてきた最後のガンタンクが至近距離で主砲を揃えていた。
私は右腕を引いて両膝を一気に折り、頭部すれすれを砲弾が抜ける間に左足を踏み込ませた。下がってくるもう1本の砲身へ身体を寄せながら左足を軸に腰を回し、持ち上げた右脚を胴体へ叩き込む。
横殴りの衝撃にシートが軋み、蹴られた上半身が傾いて2発目が空へ逸れた。右足を踏み下ろしながらヒートソードを肩口へ叩きつけ、そのまま斜め下へ振り抜くと赤く溶けた装甲の間から炎が噴き出す。
私は刃を返して飛び退き、背後で弾薬が誘爆するのを聞きながら機体を反転させた。主砲を載せた上半身がずり落ちていくのを見届け、燃える3機を前にヒートソードを引き戻す。
次の砲座へ向き直ろうと右足へ荷重を掛けた途端、膝が細かく震えて機体が沈みかけた。踏み込みを緩めると揺れは収まったが右膝の表示は警告色に変わり、曲げ伸ばしの途中にも一度引っ掛かる感触が残っている。
この程度で脚に異常が出るとは、近接戦闘用にしては少々脆くないか。私は舌打ちを呑み込み、右脚の駆動系の表示を呼び出しながら通信を開いた。
「こちらメテオ01、ガンタンク3機を撃破。陣地の裏へ出ています。右膝に異常が出ましたが、歩行は可能です」
『3機いたのか?了解。正面からも前進する。少佐はその場で後退路を押さえろ。フォレス小隊、合流を急げ』
応答を返し、後退路の見える土塁の切れ目へ数歩寄る。左下から殺気が迫り、左脚で地面を蹴って横へ退いた。白煙を引く弾が足元を抜け、背後の土塁が崩れる。右膝を深く曲げずに着地し、機体を起こした。
発射位置へ向き直ると、壕の縁にいた射手が筒を抱えて逃げようとしている。その背後から銃撃が浴びせられ、追いついたジオン軍の歩兵が壕へ飛び込んだ。
私は引き金から指を離し、車両の逃げる方へ機体を向ける。
『こちら歩兵隊。少佐の左下は味方です。壕へは撃たないで下さい!』
「了解しました。車両の方を見ます」
砲弾の箱と燃料缶を放り出し、陣地の裏からトラックが逃げ出している。その脇を戦車が追い越し、1両だけが途中で止まってこちらへ砲塔を向けた。
殿を務めるつもりか。ならば他の車両を追う前に片付けておこう。
ヒートソードの加熱を切って右腰の固定架へ戻し、右手のMS用バズーカC1型を戦車へ向ける。相手も砲身を揃えてくるので、私は近くの残骸へ機体を寄せた。
撃つ気配が膨れ上がる。腰を引いて残骸の陰へ入ると、砲弾が目の前を抜けた。右膝を庇いながら左へ1歩ずれ、残骸の脇から砲口を出す。もう1本の砲身がこちらを捉える前に撃ち込むと、砲塔の付け根が裂け、黒煙に包まれた戦車が止まった。
これでガンタンク3機と戦車2両。だが、正面で撃っていた戦車はまだ残っている。
残る砲座へ目を向けると、フォレス大尉の声が入った。
『少佐、左奥の戦車がそちらへ下がります。追い込みますので、今の位置で押さえて下さい』
「了解しました。見ています」
示された方へ砲口を向けると、土塁の陰から別の61式戦車が姿を現した。
砲塔は後ろへ向いている。ザクと撃ち合いながら下がってきた車両が、その先にいるイフリートを見つけて急に向きを変えた。履帯が土を大きく掻き、車体の片側が盛り土へ乗り上げる。
私はその進路を塞ぐ位置へ入り、砲口を向けたまま待ち構えた。向こうからは新型がまた1発撃つところに見えるはずだ。
敵は無理に車体を旋回させ、砲塔もこちらへ回す。その動きで晒された横腹へマゼラ・アタックの砲弾が突き刺さった。
砲塔の下から炎が噴き出し、後ろのザクも射撃を止める。
『命中!撃破したぞ!』
よいところへ撃ち込んでくれた。私は砲口を下ろし、戦車隊が撃破した旨を先遣隊長へ報告する。
こちらが何をしてほしいか、あの戦車隊の将校は分かっているらしい。新型の背中に穴を開けられる心配も今のところはなさそうである。
正面で続いていた砲声が少しずつ疎らになっていく。
敵のいた土塁へザクが上がり、その足元を歩兵が越えてくる。車体を隠すために掘られた窪みは思いのほか深く、後ろから来たマゼラ・アタックはその縁で進路を変えていた。
道の方では兵が腕を振って車両を止めている。
撃破した戦車が斜めに道を塞ぎ、脇には浅い溝もあって荷を積んだトラックを通すには狭いらしい。先遣隊長から工兵を前へ出す指示が飛び、代わって戦車隊には陣地の東側を警戒する命令が下る。
『歩兵隊、陣地の掃討を続行。武器を捨てた者は集めておけ。MS隊は追撃するな。まず通路を確保する』
私は東へ砲口を向け、退いていく敵を見送った。逃げるトラックはまだ見えるが、その先の起伏に別の陣地がないとは限らない。こちらを追撃へ誘い出してから横を叩く手もあるだろう。
背後では歩兵が壕を調べ、工兵が道に掛かった残骸へ近づいている。ここの警戒を放り出してまで今の連中を追うことはない。
『少佐、こちらへ寄れますか?次の高まりまで右側を見て頂きたいのですが』
「分かりました。今そちらへ」
フォレス大尉のザクへ近づくと、右肩の盾に大きく抉れた跡が見えた。縁が割れて曲がり、その下の腕にも土がこびりついている。
損傷箇所の映像を拡大すると、フォレス大尉が先に口を開いた。
『腕は動きます。盾だけです』
「先ほどの戦車ですか?」
『ええ、引っ込んだので次も同じ場所から出ると思っていました。もう一つ横に砲座がありました』
こちらを抜けさせるため、砲座を移る相手と撃ち合っていた時だ。ザクは盾のある右肩を前へ向け、ザクマシンガンを構え直す。今の動きなら肩の関節まではやられていないだろう。
あの撃ち合いの間に、私は窪みを抜けた。盾一枚で済ませたのは大尉の腕だ。
『……置いていかれませんでしたね』
「そう言いましたから」
少し間を置いて、短く笑う声が回線に混じった。
『ガンタンクが止まって、戦車隊も動けるようになりました』
フォレス大尉のザクが道の方へ頭を向ける。陣地へ入り始めたマゼラ・アタックは、車体の正面を東へ向けて止まり、続く車両を先へ通していた。
私はザクと間隔を開け、右側の高まりを押さえる。右膝の警告は消えていないが、ゆっくり歩く分には支障がなかった。ガンタンクの機関砲弾を受けた左腕も狙ったところで止まる。撃たれた腕より、蹴った脚の方が先に音を上げたわけだ。
土塁の陰から出てきた歩兵が頭の上で腕を振った。追って現れた連邦兵は武器を持たず、両手を上げている。味方の兵がその後ろへ銃を向け、壕から離れたところへ集めていく。
陣地を捨てて逃げた者もいれば、逃げ遅れた者もいるらしい。指揮官まで捕まっていれば、先の配置について聞けるかもしれないが、尋問は後続に任せることになるだろう。
近づいてきた回収車両へ道を空けると、未帰還のワッパを捜索するよう指示が飛んだ。不時着の報告があった地点へ歩兵が向かい、残る機体も最後に連絡の取れた位置から探すという。未帰還機の乗員を発見したとの報告は、まだない。私は再び東を向いた。
工兵が道を開け、後続の部隊が陣地へ入り始めたところで、先遣隊にも短い停止が命じられた。
その間に弾薬を補充し、機体を確かめる。警戒をフォレス小隊に任せて整備車両が来られる位置まで戻ると、シュペーア技師はもう作業員と一緒に待っていた。
右膝の点検を求められ、武器を預けてから機体をゆっくり屈ませる。作業員が脚部へ支持具を入れると、技師は左腕と肩の傷も確かめ、操縦席の脇へ上がってきた。
ハッチを開けても入ってくるのは熱い風ばかりだった。ヘルメットを外すと汗のついた髪が頬へ張りつき、払った指先まで濡れる。
シュペーア技師から水を受け取って喉へ流し込む。ようやく一息ついたが、膝の点検口を覗いている作業員はまだ工具を手放さない。口の中に血の味は残っていなかった。
「膝は直りそうですか?」
「駆動部の固定が緩んでいたそうです。再度締め直していますから、もう少しお待ち下さい」
「近接戦闘用の機体でしょう?一度蹴っただけでこうなっては困ります」
シュペーア技師は口を結んで下を見た。作業員が奥へ差し込んだ工具を回すのを暫く見つめてから、こちらへ顔を戻す。
「仰る通りです。組付けの不備だけならよいのですが……強度も調べ直します」
下では弾薬の補充も進められていた。私も残弾の表示を確かめて使った分を記録へ残す。対MS火器の陣地にまでMS用バズーカC1型を撃ち込んだので、歩兵相手に使う武器としては随分贅沢なものになった。
だが出し惜しみしたところで敵の砲弾が減るわけではない。こちらの車両にもう1発貰うよりは弾薬を使った方が安く済む。
下から声が掛かり、私は水の容器を置いて操縦桿を握り直した。工具と作業員が離れるのを待って膝を動かすと、先ほどまでの引っ掛かりが消えている。
「もう一度、同じくらい曲げて頂けますか?」
言われた通りに曲げ伸ばしを繰り返し、最後に支持具を外してもらって右脚へ重さを掛ける。揺れは出ず、警告の消えた表示を見た技師もようやく息をついた。
「ひとまずこれで動かせます。ただ、右脚の出力は少し落とします。格納庫へ戻るまでは蹴らないで下さい」
「分かりました。次は手持ちの武器で済ませます」
設定を変更する手元を見ていると、足元で金属の触れ合う音がした。肩から外された破片が箱へ落とされ、掌ほどもある一片が縁に引っ掛かっている。
「腕と肩の装甲は交換しますか?」
「いえ、傷は浅いのでこのままで。関節には入っていませんし、予備はまだ取っておきたいのです」
私は頷いて水をもう一口飲んだ。技師は降りかけたところで足を止め、操縦席の縁から顔を覗かせる。
「また膝が揺れたら、すぐ呼んで下さい」
「ええ、その時はお願いします」
技師が降りた後も暫くはハッチを開けていた。
斜め前にあるマゼラ・アタックでは、車体から外した履帯を兵たちが引いている。別の車両の陰では担架が並べられ、衛生兵が膝をついていた。
運ばれていく兵の腕が担架から垂れている。ついて歩いていた仲間がそれを戻し、胸の上に置いてやる。その手が離れる前に担架の兵が僅かに指を動かした。
あの車両にいた者だろうか。顔を見ても分からないが、ついていた衛生兵が何かを尋ねると兵は頷いて応じていた。
その隣を運ばれていく担架には顔まで覆いが掛かっている。
視線を止めていると下から声が掛かり、戦車隊の将校が車両の間からこちらを見上げていた。
「少佐、こっちは補給が済んだ。先ほどの戦車はいいところへ追い込んでくれたな」
「追い込んだのはフォレス大尉です。私は待っていただけですから」
「なら、あの大尉にも言っておこう」
将校は短く笑い、それから担架の方へ目を向ける。
「最初にやられた車両は回収できる。だが、車長は駄目だった」
「……そうですか」
「残った連中は連れていく。乗れる車両にはまだ余裕があるからな」
将校は手にしていた紙を折り、胸元へしまう。私も担架を見送ったが、布の下に隠れた顔は見えなかった。
あの時、胸を抉ったのはこの男の痛みだったのか。
つい先ほどまで砲を撃ち、一緒に前へ進んでいたはずの男である。その名前も知らないまま、私はまた彼の仲間へ援護を頼むことになる。
将校がこちらへ向き直ったので私も視線を戻した。
「次も援護をお願いします。こちらから取りつく時は知らせます」
「分かった。射線だけは空けてくれよ」
「ええ、頼りにしています」
将校が頷き、待っていた部下のところへ戻っていく。やがてマゼラ・アタックの機関が動き始め、点検を済ませた車両から前へ出ていった。
掃討を終えた歩兵たちのところへも装甲兵員輸送車が戻り、負傷した者を衛生兵へ引き継いでから残った兵を乗せていく。車両を失った分隊はそのまま乗り込むこともできない。下士官が各車の空きを確かめ、兵と装備を振り分けていた。
砲撃を受けた輸送車は斜面に止まったままで、回収は後続へ任せるという。ヴィーゼルはもう道路へ出ていた。先遣隊長の命令を受け、東の高まりへ向けて走り去る。
私もヘルメットを被り直す。
ハッチを閉じると、歩兵隊からの損害報告が入った。戦死者と後送する負傷者の数が読み上げられ、輸送車1両が走行不能として報告される。歩兵の乗車が済むまで待つよう指示があり、私は弾薬の補充を終えたMS用バズーカC1型を右手に持たせた。残弾の表示とヒートソードの固定を確かめ、右膝の応急処置と出力の制限を先遣隊長へ報告して待機する。
やがて再編完了の報告が届き、先遣隊長の通信が入る。
『前哨陣地は後続へ引き継ぐ。先遣隊は前進を再開せよ。敵の後退は続いているが、無理に追うな。偵察の報告を受け、次の集結地点まで進出する』
画面の地図へ新しい指示が加わる。
エル・アラメイン方面の前哨線に開いた突破口を後続の車列が通っていく。その先へ延びる進路を辿ると、アレクサンドリアの文字があった。
説明会で見た写真には建物の間から突き出した砲身が幾つもあった。今日逃げた連中も次はあの中へ入るのだろう。
港を使うために占領する以上、敵ごと街を吹き飛ばして済ませるわけにはいかない。マ・クベ中将も、随分と注文の多い仕事を任せて下さる。
イフリートの前へフォレス大尉のザクが出てくる。傷ついた盾を付けたまま頭部をこちらへ向け、小隊の準備完了を報告した。私も先遣隊長へ応答する。
「こちらメテオ01、前進できます」
フォレス大尉にも前進を指示し、右はこちらで受け持つと伝えた。
『了解。右はお任せします』
ザクが東へ向き直るのに合わせ、私も機体をゆっくり立ち上がらせた。右膝に荷重を掛けても揺れないのを確かめてから、道の脇へ足を運ぶ。横を通るマゼラ・アタックの車長が開けたハッチから手を上げてくる。
イフリートの左手を上げて応じ、ザクの右へ出る。背後では先遣隊長の指示に従って車列が組み直され、マゼラ・アタックも車体を東へ向けた。
先に見える高まりへ目を移し、私はペダルを踏み込んだ。
ご高覧ありがとうございます。
はい、ということでまずはアレクサンドリアとトリポリの中間くらいに設けられた前哨陣地との戦闘でした。
ここからエル・アラメインへと向かい、ここを叩き潰した後にアレクサンドリアを攻略します。
アレクサンドリアを無視して行くことは補給線の維持上不可能であり、同時に人口密集地であるカイロを同時に叩かなければ挟撃の恐れがあると、ジオンにとっては二拠点は必ず同時に攻略又は圧力をかけ続けなければならない面倒な場所になっているのです。
戦力が分散するので、主攻側であるジオン軍も保有全戦力で事にあたれず、厳しい戦いになるでしょう。ちなみに、TRPGのジャベリン・トライデント作戦はこのアレクサンドリア攻略戦を遊ぶゲームになっているとかどうとか…
次回予告としましては、また『戦い戦い!戦いこそがジオンそのものなのである!』って感じです。
また明日もお付き合い頂ければ幸いです。