技術試験隊斯ク戦ヘリ 作:ザクスキー2世
エル・アラメインの戦いを書いていたのは存在しない記憶で、そのままアレクサンドリア攻略に移っている…だと?なんてこった!
という事で、文字数を書きすぎて書いた気になっていた大ボケかましております…
今回はアレクサンドリア攻略戦でした…
あと、今回は注釈はありません。
宇宙世紀0079年5月23日
アレクサンドリアへ続く道路で先遣隊の車列がまた止まり、私はフォレス大尉のザクの横へ機体を寄せて前方の建物を見た。21日に前哨陣地を抜けてから、もう2日になる。
あの日も前哨陣地の先には連邦軍が放棄した車両が残っていて、道路から半分だけ外れたトラックの横をヴィーゼルが抜けていった。降りた兵が調べる間、フォレス大尉のザクはその先へザクマシンガンを向け、私も右側の起伏を見張っていた。荷台には木箱が積まれていたが、人影はなかった。
何度も同じように止まり、確かめてからまた進む。日が傾いた頃には道路を離れた場所で推進剤の補給を受け、そこで夜を越すことになった。
操縦席から降りると砂混じりの風が吹きつけ、足元では食事を済ませた歩兵たちが空の容器を重ねていた。装甲兵員輸送車の屋根で、片腕を吊った兵が仲間に手伝わせて機関銃を外していたのを覚えている。昼間の損害で乗り込む兵も使う車両も変わり、私の機体だけ点検が済んだからといって、すぐに先へ行けるものでもなかった。
昨日の22日も敵の後衛と小競り合いを繰り返した。道路を塞ぐ戦車を排除し、砲弾が飛んでくる集落を迂回する。装甲兵員輸送車を先へ通せるまで待っていると、ようやく姿を見せた弾薬車が途中で止まった。故障かと思ったが、その前で工兵が道路へ降りていた。地雷だという。
私も機体を止め、手前へ戻ろうとする車列のために道を空けた。足の速い機体を貰っても、こういう確認を飛ばせば私が一番高価な地雷探知機になりかねない。
前方の砲声に意識を戻し、建物の間から出てきた61式戦車へ撃ち込む。その横を抜けようとしたところで爆煙の向こうに2本の砲身が見え、私は足を止めた。RTX-65 ガンタンクだ。咄嗟に壁へ寄せた機体のすぐ脇を砲弾が抜け、撃ち返そうと砲口を向けた時には敵はもう土塁の陰へ下がっている。昨日の後衛とは違い、手前の車両を追い払っても奥の砲座がこちらを狙っていた。
説明会で見た写真には、これほどの陣地は写っていなかった。撮影後に増設されたのか、隠れて見えなかっただけなのか。道路の両側に掘り下げた砲座があり、その間を低い土塁がつないでいる。近づく歩兵にとっては、土塁の途中にある銃眼が厄介だった。
ザクが銃眼へ射撃を集中し、重迫撃砲弾が壕の奥へ落ちると、伏せていた歩兵がようやく腰を上げた。その背後で地面が膨れ上がり、装甲兵員輸送車が横倒しになる。両足から突き上げる衝撃に奥歯を噛み締める間にも砂煙が車列を呑み込み、走り出したばかりの兵たちまで見えなくなった。
戦車砲の着弾とは桁が違う。左にも落ち始めたので機体を低くして壁へ寄せると、その上半分が爆風に崩れて肩から背中へ瓦礫が降った。MS用バズーカC1型を抱えるように持ち上げ、土へ沈みかけた足を踏ん張らせる。
前へ出た歩兵たちは伏せたまま動かなくなっていた。死んだのかと思って画面を拡大すると、1人が両腕で頭を覆い、その隣の兵が窪みへ転がり込む。
『砲撃!後ろだ、後ろにも落ちている!』
『車両を動かせ!道路を空けろ!』
『降りろと言ってるだろうが!機関が止まってるんだ!』
歩兵隊の声に戦車隊の通信が重なり、語尾が途切れて誰を呼んでいるのか分からない怒鳴り声だけが続く。左の画面を切り替えると建物の屋根越しに細長い煙が立っていた。その向こうが港のはずだ。
『全隊、敵艦艇からの砲撃だ!密集を避けろ。MS隊は歩兵の後退を援護せよ』
下がり始めた歩兵を追うようにガンタンクが土塁を越え、主砲を下げてくる。私は壁から上体を出してMS用バズーカC1型を撃ち込み、砲座の縁を崩した。破片の中で敵の砲身が跳ね上がる。狙い直される前に、兵をあの窪みから出さなくてはならない。
その間にフォレス大尉のザクが右へ出た。右肩のフレキシブルマウントアームを動かし、傷ついた盾を機体の前方へ回す。その陰からザクマシンガンを撃ち、窪みに残った兵たちを後退させた。
次の砲弾は私たちのさらに後方へ落ち、弾薬を運んできた車列の辺りで黒煙が上がった。補給車両を下げろという声も爆発音に掻き消される。歩兵も弾薬も届かないところへ私が飛び込めば、今度はこちらが囲まれる。
「フォレス大尉、下がって下さい。こちらで押さえます」
『了解。左の兵を収容したら後退します』
ザクの左側では2人の兵が負傷者を抱えて走っていた。後ろをついてきた兵が転び、銃を拾うより先に仲間から襟を掴まれる。
建物の角から出た61式戦車へ狙いを移し、車体が止まる瞬間に砲塔の付け根へ撃ち込む。噴き出した炎と黒煙に車体の陰へ逃げ込もうとした敵兵も呑まれ、もう1両は撃たずに壁の向こうへ下がっていった。その履帯を追うのをやめ、後退するザクと歩調を合わせる。
港を残して使うという話だったが、あそこから撃たれている間はこちらが街に入れない。随分と都合のよいところに砲台を置いてくれたものだ。
宇宙世紀0079年5月24日
翌朝も同じ陣地の手前で止められた。前日に壊した砲座には土が盛り直され、銃眼の位置まで変わっている。崩れた壁から砲身を出した戦車を撃退すると、海側から飛んできた砲弾がその壁を跡形もなく吹き飛ばした。
MSは散開して逃れても、砲弾が落ちる度に兵が伏せ、車両の列は止まる。起き上がった頃には敵が別の砲座へ移っていて、また最初からやり直しだった。
午後、指揮用回線に先遣隊指揮所の通信担当が本隊司令部を呼び出す声が入った。
『こちらCP!HQ、我が戦力被害甚大。現状の戦力では突破困難につき、至急応援乞う!』
被弾した装甲兵員輸送車の陰で衛生兵が担架を引いている。一緒に運んでいたはずの兵が見当たらず、1人で端を両手に持って踵を地面へ食い込ませていた。
CPとHQの交信は部隊指揮に関わる佐官以上にも聞こえる。私も小隊の配置を確かめながら返答を待ったが、その間にもう1発が道路へ落ちた。
『こちらHQ。本隊到着まで現在の戦力で対処せよ。なお、本隊到着以降の増援はない。全戦力をもって敵縦深を突破し、市街地を掃討せよ』
私は残弾の表示から顔を上げた。本隊が来れば部隊を交代させられるが、ここで減らし過ぎれば街へ入ってから持たなくなるだろう。
CPの通信担当が短く了解を返した。その交信が終わると、今度は先遣隊長の声が入る。
『全隊、現在の陣地を維持せよ。本隊の到着を待て』
無理に前へ出る必要はなくなったが、敵の砲撃まで止まってくれる訳でもない。
「こちらメテオ01、右側の火点を押さえます。負傷者を下げて下さい」
『こちらCP、了解。右へ衛生兵を送ります。重迫の支援も手配します』
壁の残った方へザクマシンガンの射撃が集中する。私はその援護を受け、崩れた土塁へバズーカを撃ち込んだ。担架を引いていた衛生兵のところへようやく別の兵が駆け寄る。2人で担ぎ上げた担架が車両の陰へ消えるまで待ち、私も砲口を向けたまま機体を下げた。
その日の夕方、本隊の先頭が集結地へ入り始めた。道路を譲っていた私の横を見慣れない部隊章のザクが通っていく。その後ろにはグフもいた。MS-07Bという型式番号を地図上の味方識別表示で確かめていると、さらに後ろから砲を牽いた車両と歩兵の輸送車が続く。待っていた兵たちが手を振った。増援の車両が来ると、空いている場所へ誘導する者と、自分たちの部隊を探して走る者が交差する。
私は交代のザクへ正面の状況を伝えて補給車両のところまで戻り、バズーカを架台へ預けてイフリートを屈ませた。作業員が冷却剤の注入口へホースをつなぎ、別の者が推進剤の補給に回る。シュペーア技師は関節部へ照明を向けていたが、私に気付くと操縦席の脇まで上がってきた。
「先遣隊長に呼ばれています。機体の方は?」
技師が顔を上げた。片頬に油がつき、襟元まで埃で白くなっている。
「右膝の固定に緩みはありません。出力は今のままで、補給が済めば出せます」
梯子を降りたところで水を渡され、そのまま先遣隊の指揮車両へ向かう。中佐は車体の側面に広げた地図を押さえ、到着した本隊の将校と話していた。私を認めると、地図の北東側を指で叩く。
「北方の軍が動いていない」
「ロメオ少将の部隊ですか?」
「そうだ。予定されていた攻勢が始まっていない。理由はまだ伝わっていないが、北へ向けるはずの兵を連邦はこっちへ回せたらしい」
こちらは予定どおりカイロへも兵を分け、2つの都市を同時に攻めている。北方から回せる兵まで加わったのなら、敵はあの陣地を埋める兵にも事欠かなかったわけだ。
私は地図の南側へ目を移した。
「カイロへ向かった部隊は?」
「向こうも交戦中だ。ここほどではないが、楽な相手ではないそうだ。今から呼び戻せば、両方とも止まる」
地図の上で部隊を引き返させるのは簡単だが、実際に動かすのは道路上の車列である。カイロの前にいる敵が黙って見送ってくれるはずもない。
「作戦司令部からは、アレクサンドリアを半包囲し、連邦軍の増援を遮断するよう命じられている。圧力を掛けながら前進せよとのことだ」
中佐は地図の脇に留めてあった書類へ目を落とした。本隊を加えて攻撃した場合の予想損害が部隊ごとに記され、その数字を追っていたペン先が止まる。両手で握り直した軸を折って脇へ置くと、中佐は私を見た。
「明朝、本隊の火力を加えて攻撃する。少佐には引き続き、MS隊の先頭を頼みたい」
「承知しました。港からの砲撃については?」
「海上部隊が動いている。こちらは予定どおり攻撃を始める」
返事はそこまでだった。私は自分の担当する進路を確かめて指揮車両を離れる。北で何が起きているにせよ、明日あの陣地へ入るのは私たちである。
補給車両の脇へ戻ると、作業員がイフリートからホースを外していた。シュペーア技師から補給完了を知らされ、技師の端末で機体の温度と推進剤の残量を確かめる。
「明日は朝から出ます。本隊と一緒に市街へ入ることになりました」
「分かりました。出る時刻が決まったら教えて下さい」
「ええ、それと水をもう1本頂けますか?」
技師が空の容器を受け取って作業台へ向かうのを見送り、私は足元の箱へ腰を下ろした。靴を脱ぎたいところだが、脱いだらもう履く気がなくなりそうである。作業灯を避けるように顔を伏せると遠くでまた砲声がしたが、今度は胸に響くほど近くはなかった。
宇宙世紀0079年5月25日
朝の出撃準備を終える頃には本隊の砲兵が射撃を始め、先遣隊の調べた陣地へ砲弾を送り込んでいた。崩れた集落の向こうへ続けて上がる土煙は、前日までより遥かに多い。
私はバズーカを右手で受け取って装填を確かめ、左手で右腰のヒートソードへ触れた。抜く際に引っ掛かりはない。右脚の出力は制限したままだが、機体を立たせても膝は滑らかに動く。
「こちらメテオ01、準備完了しました」
『こちらCP、了解。予定どおり先頭へ進んで下さい。歩兵と戦車が続きます』
フォレス大尉のザクは既に前にいた。盾の交換は間に合わなかったらしく、曲がった縁を切り落とした跡が見える。だが、ザクマシンガンを構える右腕は昨日と変わらず動いていた。並びかけた私へ頭部が向く。
『本隊のMS隊も右から入ります。こちらは昨日の道を使いますか?』
「ええ、途中までは同じです。最後は左の砲座から潰します」
『了解。途中まで前に出ます。左はお任せします』
ザクの後ろへ入り、砲撃の煙へ向かう。昨日まで砲を据えていた建物は壁だけになっていた。その手前で工兵の車両が止まり、兵たちが道へ走り出す。MSが通った後でも履帯車両には邪魔な瓦礫が残る。彼らが大きな塊を脇へ退ける間、私は建物の奥を見張った。
工兵たちの向こうで煙を抜けてきた61式戦車が砲塔を回す。足元の兵を避けて半歩左へずれながら正面へバズーカを撃ち込むと、砲塔が火に包まれた。その陰から走り出しかけた連邦兵もフォレス大尉のザクマシンガンに押さえられて壕へ戻り、工兵が最後の瓦礫を脇へ転がして後ろの車両へ腕を振る。
『先頭、進めるぞ!後ろを詰まらせるな!』
『右に対戦車砲!車体を向けろ、右だ!』
車体を旋回させたマゼラ・アタックが道を離れ、瓦礫を踏む度に前部を大きく上下させた。車長がハッチの中へ身を引っ込めるのと同時に主砲が火を噴き、敵の砲座から土が吹き出す。もう1両も横へ出て同じ場所を撃つ間に、歩兵が壁際へ取りついていく。
今度は進める。前へ踏み出しかけたところで頭の奥が鈍く圧迫され、私は機体を右へ逃がした。背後で建物が崩れて爆風に背を押され、次の足を踏み出す間にも肩を叩いた破片が視界を横切る。せっかく工兵が通した道に大穴が開いていた。まだ港の砲が生きている。
後続のマゼラ・アタックが急に止まる。その後ろで歩兵が車体へ身を寄せたが、車長らしい声が無線へ割り込んだ。
『離れろ!車両へ集まるな!』
次の着弾でその車両の姿も消えた。私は歯を食いしばって首を振る。左肩を強く押されたような痛みが走ったが、機体の損傷表示には何も増えていない。どこかの誰かが受けたものだ。
艦砲の着弾で伏せた歩兵へ、正面のガンタンクが砲身を下げてくる。こちらは足を止める度に狙い直される。私が撃ち込むと、敵は土塁の陰へ引っ込み、爆風が抜ける頃には横の砲座から主砲を突き出した。車体を見せるのはほんの僅かだ。後退路まできれいに掘り込んである。これほど砲と陣地に恵まれていれば、さぞ仕事もしやすかろう。
「正面のガンタンク、砲座の中を移動しています。歩兵は左の壁から出ないで下さい」
『分かってる!その壁の裏にも撃ってきやがる!重迫を頼む!』
『前進観測、こちら歩兵……奥の交通壕だ。頭を出した奴が……』
最後は甲高い雑音になった。別の回線で弾薬を求める声が続き、数字の途中へ怒鳴り声が重なる。
『射撃要請を送る。回線を空けろ』
前進観測員が二度呼びかけてからようやく重迫側の返答が通った。
『重迫小隊、こちら前進観測。効力射を要請する』
『こちら重迫小隊、効力射。送れ』
『グリッド5432、6816』
『グリッド5432、6816』
『交通壕内の歩兵と機関銃。榴弾、準備でき次第撃て』
『交通壕内の歩兵と機関銃、榴弾。準備でき次第射撃する』
私は表示された目標を確かめて少し砲口を右へ振り、土塁の上に主砲を出しかけたガンタンクへ撃ち込んだ。砲身の根元近くで炸裂すると、敵は片方の砲だけを高く向けたまま後ろへ下がっていく。
『発射』
『発射、了解』
自走重迫撃砲のいる方角で白煙が立つ。私は壁の下にいる味方を一瞥し、正面へ視線を戻した。ガンタンクの背後にはまだ別の砲身が見えていた。
『着弾まで5秒』
予告を聞いた兵たちが頭を下げる。間を置いて土塁の奥に土煙が並び、射撃を続けていた銃眼の前にも破片が散った。
『目標付近に着弾。機関銃の射撃停止。同一目標、射撃継続』
『同一目標、射撃継続。了解』
左の歩兵が少しずつ位置を変え始め、先頭の兵が腕を振ると後ろの兵が壁の切れ目を渡った。その横へ出たマゼラ・アタックが車体ごと向きを変え、ガンタンクの砲座へ撃ち込む。
続いてもう1発を撃つ寸前、足元で炸裂した砲弾にマゼラ・ベースが大きく揺れた。外れた右の履帯を引きずって車体の前部が土へ突っ込み、主砲も斜めに下がる。
私は援護に入ろうと砲口を向けた。だが、その車両から飛んできたのは後退の要請ではなかった。
『分離する!車体から離れろ!』
擱坐した車体からマゼラ・トップが土砂を巻き上げて離れ、土塁すれすれに敵へ迫った。ガンタンクが主砲を持ち上げるより早くその頭上へ抜け、機首を下げて撃ち込んだ1発が剥き出しの車体上面を貫く。内側から炎が噴き出し、揺れた2本の砲身が別々の方角へ垂れた。
「見事!!」
思わず声が出たが、マゼラ・トップは炎上する車体を越えても速度を緩めず、さらに奥のガンタンクへ機首を向けた。向こうも既に両腕を持ち上げ、4連装機関砲で上空を追っている。
「機関砲に狙われています!離れて下さい!」
敵の腕へバズーカを向けて撃つのとほとんど同時に弾列が空を横切り、マゼラ・トップから破片が散った。片側の噴射が途切れて機体が傾き、こちらの砲弾が砲座で炸裂しても戻らない。機首を振りながら高度を失って崩れた建物の向こうへ落ち、私は立ち上る煙を見つめたまま無線で呼びかけたが返事はなかった。
足元のマゼラ・ベースでは、生き残った乗員が開口部から這い出している。近づいた歩兵に腕を引かれ、斜面を転がるようにして退いた。
『あれで上を取れるぞ。後続、俺たちも分離する!』
『勝手に飛ぶな!MS隊、奥の対空火器を押さえろ。援護が入ってから飛べ!』
戦車隊の将校が割って入り、私もフォレス大尉へ奥の砲座を示して射撃を指示した。ザクの弾列がガンタンクの腕へ集中すると、後続の車体からマゼラ・トップが離れ、少し離れた車両からも噴射炎が上がる。
土塁に隠れていた61式戦車が慌てて車体を動かし、横を見せたところへフォレス大尉が銃口を移した。その砲塔をザクマシンガンの弾が叩く間にマゼラ・トップが頭上を抜けて奥の砲座を撃ち、その下では残されたマゼラ・ベースが遮蔽物の陰へ退いていく。
近くの兵が拳を振り上げていた。だが、その少し先へ艦砲の砲弾が落ちる。土砂の塊が空を塞ぎ、マゼラ・トップの1機が急に高度を上げた。前へ走り出していた歩兵たちも伏せ直す。せっかく潰した砲座まで、あと数十歩というところで進めない。
私は土塁の陰で左膝をついてバズーカの弾倉を交換し、外したものを回収車両の荷台へ置いた。誘導していた補給兵が身を縮め、次の砲声が遠くで響いてから車両の陰へ駆け戻っていく。
海の方へ撃ち返したところで、ここからは艦の姿さえ見えない。
地図上の港へ目を移そうとした時、砲弾の落ちた場所より遥かに奥で大きな光が膨らんだ。海側の市街地から火柱が上がり、屋根の並びを越えて黒煙が広がっていく。そちらへ頭部を向けると遅れて爆発音が届き、別の場所にも煙が上がって背の高い建物を半ば隠した。火元は建物に遮られ、何が爆発したのかまでは分からない。
前方のガンタンクが撃ってきたので、私は機体を左へずらした。主砲弾が土塁を削り、足元に細かな破片が降る。
撃ち返しながら、私は足元へも目を配っていた。いつもなら、この辺りでまた艦砲の砲弾が落ちる。だが、後方の道路にも歩兵の伏せた窪みにも新たな土煙は上がらなかった。正面のガンタンクが撃ち、建物の間から61式戦車が応じる。その合間に、伏せていた兵が1人、顔を上げた。
私は土塁から頭部を出したまま戦車のいる建物へ砲口を移し、撃った後も下がらずに狙い続けた。
『艦砲が止まったぞ』
『まだ動くな、止まっただけだ!上を見ておけ!』
歩兵隊の交信が聞こえる。私は左の煙へ視線を戻した。そこでHQからの通信が入った。
『こちらHQ。トライデント作戦により、地中海の連邦海軍戦力を撃滅。ゴッグ隊がアレクサンドリア港内に突入し、湾内を制圧。現在、市街地へ侵攻しつつあり』
ようやく来てくれたか。海側の市街へ目を凝らしたが、ゴッグの姿を探す間もなく先遣隊長の声が入った。
『本隊が正面を押し上げる!先遣隊各隊は攻撃を継続せよ。敵が退く隙を逃すな!』
フォレス大尉のザクが土塁から立ち上がって射撃を始め、敵が頭を引っ込める間に私は左から砲座へ踏み込んだ。61式戦車がこちらへ砲塔を回しながら車体を返そうとするが、履帯は崩れた土を掻いている。晒された側面へ撃ち込み、爆煙が広がる前に次の砲座へ砲口を振った。
私が次のガンタンクを押さえている間に、マゼラ・アタックが脇を抜けた。砲座へ向けていた車体を正面へ戻し、履帯で土を掻いて進む。
歩兵たちも起き上がり、その後ろへ続いた。頭を低くしたまま走る列が先ほどまで越えられなかった場所へ入っていく。敵の砲弾が1発落ちたが、列の端が伏せただけで、他の兵まで止まらなかった。私はペダルを踏み込み、最初の砲座を越えた。
土塁を越えた足元に、深い壕が続いていた。曲がり角ごとに銃座があり、その奥には掩蔽壕も口を開けている。私が跨いだ途端、その一つから銃火が噴き出した。狙われたのは後ろの歩兵だ。先頭が伏せ、続く兵が土塁へ身を投げる。私は砲口を下げかけたが、敵の銃眼と味方が近すぎた。
右から来たザクが、歩兵の下がるのを待って塹壕へ足を載せた。踵と爪先で両側の土を踏み、脚部のスラスターを全開にする。噴射炎が壕へ叩き込まれた。土砂を噴き上げた曲がり角から炎が走り、まだ撃っていた銃眼も黒煙に消える。ザクが噴射を止めても煙は収まらなかったが、足を退けた下から撃ち返す者はいなかった。
少し離れた場所でも同じように煙が上がった。本隊のグフが土塁を跨ぎ、次の壕へ足を置いている。その向こうのザクも身を屈め、下方へ向けた噴射で足元を白く煙らせた。次々と噴き出す煙を辿ると、MSの陰に隠れていた塹壕がどこへ続いているのか分かった。
『噴射止め!歩兵が入るぞ!』
『右の壕を押さえた。次は建物の裏だ!』
待っていた歩兵が土塁の縁へ走り寄って手榴弾を投げ込み、爆発を待って壕へ飛び降りた。小銃を構えた先頭の兵が腕を振ると、続く兵たちの背中も順に土の下へ隠れ、少し先の曲がり角から銃声と共に煙が上がる。
MSの足元を離れたところでは火炎放射器を背負った兵が走っていた。前を行く兵が身を伏せると、その横から長い炎が延びる。土塁の裏へ流れ込んだ炎に照らされ、灰色だった壁が赤く染まった。
壕を進む兵の背中を見送ったところで奥のガンタンクが主砲を下げ、私は崩れた壁へ寄って砲弾を躱すや上体を戻して撃ち返した。腕の付け根を抉られた敵は小さな爆発を続けながら後退したが、退路へマゼラ・アタックの砲弾が落ち、傾いた車体が土塁へ乗り上げて止まる。先ほどまで足元にいた戦車が、もう私の横から撃っていた。
『少佐、奥はこっちで叩く。射線を空けてくれ!』
「了解しました。左を空けます」
戦車隊へ道を空けると、コンクリートの塊にしか見えなかったものから機関銃が撃ってきた。土を被せたトーチカだ。正面を削られても銃眼は生きていて、通ろうとした歩兵がまた足を止める。砲口を向けた私へ、近くの兵が待てと叫んだ。既に後ろへ回った味方がいた。
私は砲口をその奥へ振り、トーチカへ近づく兵を下方の画面で追った。仲間に背中を押された火炎放射兵が入口へ身を寄せる。流し込まれた炎が奥を照らし、遅れて銃眼から黒煙が噴き出した。機関銃の射撃が途切れると、正面で伏せていた兵たちが起き上がった。
トーチカの脇から延びる塹壕で、全身に火の回った人影が跳ね上がった。肩に残った軍服の形で辛うじて連邦兵だと分かる。両腕を顔の前へ上げて塹壕の縁を越えたが、2歩ほど走ったところで膝が折れて地面へ崩れ落ち、背中から炎を上げたまま動かなくなった。
喉の奥が焼けつくように痛み、私は息を止めていたことに気付いた。ペダルに乗せた右足が僅かに強張る。操縦席に熱が入ってきた訳ではないのだが、舌を上顎へ押しつけても痛みは残っていた。
足元から味方の識別信号が上がってきた。火炎放射器を担いだ兵が仲間に肩を叩かれ、次の壕へ向かっている。私は彼らを踏まないよう機体の足を止め、進路を空けた。
その先にもまだ敵がいた。建物の窓から撃ってきた銃口へフォレス大尉のザクがザクマシンガンを向ける。外壁が崩れ、その隣を別の部隊のグフが抜けていった。重い足が地面を叩く度に塹壕の縁から土が落ちる。
『敵が降伏している!撃つな、手を上げている!』
無線の声を聞き、下方の映像を拡大する。壕から連邦兵が出てきていた。先頭の男が小銃を足元へ置き、両手を上げる。次の男は銃を持っていなかったが、腰の拳銃を指さし、ジオン兵の合図を待ってからゆっくり外した。ジオン兵が小銃を向けたまま連邦兵を下がらせ、別の兵が置かれた武器へ近づいていく。土塁の外へ集められた連邦兵は何度も頷き、両手を上げたまま立っていた。
彼らから砲口を外して建物の奥を見た途端、背筋に冷たいものが走り、私は咄嗟に外部スピーカーを入れた。
「伏せて下さい!」
アレクサンドリア側から飛んできた榴弾が武装解除の最中だった兵たちの間へ落ちた。ガンタンクの砲撃と思われるその1発で、両手を上げていた連邦兵も、小銃を向けていたジオン兵もまとめて爆散した。土煙が画面を覆い、その中を破片が飛ぶ。私の声に身を伏せた兵が壕へ転がり落ちたが、その隣にいたはずの兵はもう見えなかった。
苦痛と驚きが一度に押し寄せて途切れ、胸の奥が急に空いたようになった。レバーを握る手に力を入れ直しても、指の感覚がすぐには戻らない。
『衛生兵!こっちにも来てくれ!』
『陣地の奥から撃っている!MS、頭を押さえろ!』
「こちらメテオ01、確認します。兵を固めないで下さい」
建物の間を探す。屋根越しに砲身が引っ込むのが見えたが、今の砲撃をした機体かどうかまでは分からなかった。砲座の位置を送ると、右側のMS隊から了解が返る。そこへザクマシンガンの弾列が集中した。
兵が降伏しているのを向こうの砲手は見ていたのだろうか。煙に隠れた壕を見下ろしても、確かめる相手はいない。次を撃たれる前に進むしかなかった。
前方の道路へ出た頃には本隊の戦車が私たちの右まで上がってきていた。取り残された61式戦車が後退しながら砲を撃つ。その横から出たグフがヒート剣を振り下ろし、砲塔へ深く刃を食い込ませた。
ガンタンクの砲座にも歩兵が回り込みつつある。敵は主砲を撃つより先に後退を始め、掘り下げた通路で車体同士がつかえていた。
先遣隊長から右へ寄るよう指示が来た。本隊がこのまま正面を押し上げる間、こちらは市街へ通じる道を先に押さえる。私はフォレス大尉のザクと共に進路を変えた。
前方には倉庫らしい建物が並び、その間を舗装された道路が走っている。道路の端は壊れた車両で塞がれていたが、MSが通るだけなら問題ない。
そこへ入ろうとした時に上を見ろという声が飛び、頭部を上げると煙の向こうに輸送機の腹が見えた。ジオンの機体ではない。
『上空から敵機侵入!東から来る!』
『各機対空射撃!!ミデアだ!』
細い弾列が空へ伸び、その上を飛ぶミデア輸送機から大きな荷が離れた。遅れて開いた幾つもの落下傘の下に、幅の広い履帯と2本の砲身が見える。
見慣れたガンタンクとはどこか車体の形が違う。荷を支えていた枠が傾き、建物の向こうへ降りていった。
ご高覧ありがとうございます。
はい、という事で大ボケをかましつつも泥臭い地上戦をかましております。
中々ほかの二次小説でも、ゴリゴリの地上戦闘&大規模野戦と市街地占領を書いている作品は少ないのでは?と思っていたりいなかったり…
塹壕制圧に、MSの脚部スラスターを使うというのはずっと前からやりたかったので入れました。
歩兵を真っ先に突っ込ませるよりも、こっちのほうが被害が少なそうと思ったからです。
即席のなんちゃって火炎放射器ですね。
ちなみに、23日の艦砲射撃開始から24日のゴッグ隊突入までに、先遣部隊は保有戦略の1/5を喪失しており、本隊も少なく無いダメージを負っています。
大半の原因は、『ロシア方面軍が動いていない』からです。
連邦軍は前哨拠点を複数構築し、時間を稼いでいる間にヨーロッパ方面から部隊を引き上げてアフリカ方面に差し向けました。
ジオンはアラビア半島の制圧も出来ていないので、完全に制海権を持っていない紅海やアラビア海を通りクェートやオマーンあたりから海中輸送なりで部隊をどんどん送り込んでいます。
なので、こんな大量のガンタンクがバカスカ弾をぶち込んできて、歩兵や61式がウジャウジャ居るわけですね。
連邦軍は損害覚悟で、とにかくジオンの消耗を強いるためにどんどん今ある戦力を投入しているということもあります。
ジオンに兵なしですからね…
さて、次回予告としては、ミデアは一体なんなんだ…という感じです
次回もお付き合い頂けたら幸いです。