技術試験隊斯ク戦ヘリ 作:ザクスキー2世
私は道路を横切り、見たことのない形のガンタンクが降りていった建物へバズーカを向けた。着地する前に横から狙えないかと足を速めたが、機体は屋根に隠れ、切り離された落下傘だけがまだ宙を漂っていた。
建物の向こうで地面が揺れ、屋根へ落下傘の布が覆い被さった。その裾がまだ風にはためいているうちに、砂漠迷彩の車体が土煙を蹴立てて道路へ飛び出してくる。速い。壕の中を這っていたような旧型とは違う。履帯を滑らせながら車体を振り、両肩の主砲を後続のマゼラ・アタックへ向けた。
「戦車隊、下がりなさい!」
警告を言い終える前に主砲が火を噴き、先頭のマゼラ・アタックが爆発して砲塔が真上に吹き飛んだ。隣の車両は履帯を失って横を向き、道路脇へ飛び降りた歩兵を追って今度は新型ガンタンクの腕が下がる。その正面へバズーカを撃ち込むと、爆炎が車体を包み、引っ掛かっていた傘の切れ端まで燃え上がった。
それでも新型ガンタンクは止まらず、爆炎を突き破って出てきた。正面の装甲は浅く抉れているだけで、その上ではもう主砲がこちらを捉えている。足止めできたと思って次を狙いかけていた私は、慌てて機体を捻り道路の脇へ跳んだ。胸のあった場所を砲弾が抜け、背後で砕けた壁の破片が肩を叩いた。足元に瓦礫が降る中でも新型ガンタンクの砲口はまだ私を追っている。
横からザクマシンガンの弾列が走った。フォレス大尉だ。新型ガンタンクの上体に火花が連なり、ようやく主砲が私から逸れる。だが、機体側面を捉えた弾も装甲の表面を削るだけで、悉く弾かれて道路へ跳ねていく。
『マシンガンが効いていません!少佐、あれは……』
「新型でしょうね。迂闊に近づかないで下さい」
フォレス大尉へ向きかけた右の主砲を狙い、その付け根へ次弾を撃ち込む。ダストカバーは吹き飛んだが、砲の基部には傷もなく、旋回する勢いすら鈍らなかった。爆煙を抜けた車体は道路を外れ、主砲を右側のザクへ向ける一方で、腕の機関砲はフォレス大尉を追い続けている。1機が引きつけたところで、残る砲は別の相手を狙えるらしい。
『先遣隊は足を止めるな!正面は抜けられないのか!?』
先遣隊長の通信へ私は割り込んだ。
「こちらメテオ01。空中投下されたガンタンクの新型と思われる機体*1を押さえます。フォレス小隊をこちらに残して下さい。先遣隊は右の倉庫沿いなら通れます」
『倒せるか?』
「お任せ下さい」
返事を待つ間にも新型ガンタンクの主砲がこちらを向き、私は倉庫の角から機体を離した。砲弾が壁を突き破ると建物の奥で何かが倒れ、屋根から埃が落ちてくる。
『分かった。少佐とフォレス小隊は新型を足止めしろ。他の部隊は右へ迂回。本隊には正面からの攻撃を続けるよう要請する』
フォレス大尉が呼び戻すと、右側を進んでいた小隊のザクIIJ型2機もこちらへ寄ってきた。2番機も3番機も、大尉の機体と同じくザクマシンガンを持っている。
「正面から突っ込まず、遮蔽物を使って射線を切りながら攻撃して下さい。私が近づく間、新型ガンタンクの主砲と腕の機関砲を引きつけてもらえれば」
『こちらレティ01、了解。02は右、03は俺と来い』
短い返事が続く。右の道路では装甲車が向きを変え、その後ろへ先遣隊の車列が連なっていた。マゼラ・アタックが倉庫の向こうへ撃ち込み、奥へ逃げようとしていた61式戦車を爆煙が包む。
新型ガンタンクをここで止めなければ、倉庫沿いに進む車列の横腹を撃たれる。私はバズーカで新型ガンタンクを狙ったまま左手を右腰へ伸ばし、ヒートソードを引き抜いた。赤熱し始めた刃を低く構えて倉庫の角へ出ると、新型ガンタンクは機関砲をこちらへ向けたまま後退に移った。砲弾は平気で受けていたが、ヒートソードをまともに食らうつもりはないらしい。
倉庫を離れて横へ走ると、新型ガンタンクの砲口が追ってきた。フォレス大尉が横から砲の基部へザクマシンガンを撃ち込み、新型ガンタンクの片腕がそちらへ向く。その隙に近づこうと、私は進路を折った。
正面から殺気が膨らむ。向きを変えたのは腕だけで、主砲はこちらを向いたままだった。踏み出した左足で舗装を蹴り返し、機体を横へ投げ出す。右腿のすぐ脇で砲弾が炸裂し、座席が衝撃で激しく揺れた。滑る足を踏み直しても右膝に遅れはなく、次の壁の陰へ駆け込むと背中に砂利が降り掛かった。
右腿の外装に損傷の表示が出ていた。右脚の出力は制限したままだが、今のところ動きに支障はない。あと一歩深く入っていたら、この脚で砲弾をまともに受けていたところだ。ヒートソードを嫌って下がっても、こちらへ隙を見せた訳ではなかった。
『こちらレティ02、右から撃ちます!』
「撃ったらすぐに隠れて下さい。狙いをつけられる前に」
2番機が建物の端からザクマシンガンを撃つと、新型ガンタンクは弾を浴びながらそちらへ進み始めた。壁を回り込んで撃つ気だ。私も壁の陰からバズーカを突き出したが、新型ガンタンクの主砲が一瞬早く光った。
2番機の足元が爆煙に隠れ、上体が横へ傾いた。私の撃った砲弾が車体の端で弾けても新型ガンタンクは止まらず、倒れかけたザクへ砲口を向ける。2番機は壁へ背中をぶつけ、片脚で立ち直ろうとしてまた沈んだ。足首から先を失った右脚のそばに、ちぎれた足が転がっている。
『こちらレティ02、右脚をやられました!』
「怪我は!?」
『無事です!ですが機体が……!』
「這いずってでも壁の陰へ入りなさい!とにかく上体だけでも隠すのです!」
左手を地面についたザクが残った脚で地面を蹴り、壁の陰へ這いずる。とどめを刺そうとした新型ガンタンクの頭部へフォレス大尉と3番機が撃ち込み、新型ガンタンクがそちらへ向き直った隙に私も壁の反対側へ回った。2番機はどうにか上体を隠したが、右からの射撃は途絶えている。囲んでいるつもりが、1機ずつ潰されかねない。
新型ガンタンクの後ろへ延びる道路に目を移すと、先遣隊の先頭は倉庫の並びを抜けていた。道を塞ぐ61式戦車にマゼラ・アタックが撃ち込み、歩兵が左右へ散って近づいている。もう少し先へ通せれば、新型ガンタンクが追いついても建物が射線を遮ってくれる。
「CP、こちらメテオ01。新型はこちらを狙っています。今のうちに右の道路へ車列を通して下さい」
『こちらCP、了解。先頭は市街入口へ向かっています。そちらに損害はありますか?』
「ザク1機、脚部損傷。操縦者は無事です」
『回収隊を手配します。遮蔽物の陰へ入れたら、そこで待機させて下さい』
通信の間にも新型ガンタンクの機関砲弾がフォレス大尉のザクを捉えた。右肩のマウントアームが盾を胸の前へ回して操縦席を庇うが、削れた縁から破片が飛んで胸元を叩く。私は建物の反対側からヒートソードを構えて近づき、新型ガンタンクが主砲をこちらへ戻す間に大尉が下がった。その向こうでは、先遣隊の車列がまだ道路を渡っている。
新型ガンタンクはこちらへ砲を向けたまま、少しずつ右へ寄っていた。私を退けて車列の方へ抜ける気か。だが、新型ガンタンクの斜め後ろには崩れた建物の基礎が突き出している。そこへ押し戻せれば、今のように下がって避けることはできまい。私はヒートソードを構え直し、新型ガンタンクと建物の基礎を見比べた。
「フォレス大尉、私が出たら頭部と主砲を狙って下さい。装甲は抜けなくても構いません。近づく間だけでも狙いをつけさせないで下さい」
『了解。03、頭部と主砲へ集中しろ。少佐の進路には撃ち込むな』
『こちらレティ03、了解』
右側の画面で壁へ背を預けた2番機がザクマシンガンを持ち上げた。
『こんなのでもコイツは撃てます。少佐、やらせて下さい!』
「では頼みます。その位置から撃って下さい」
道路脇の土塁の切れ目へ出ると、2本の主砲が揃って私を追った。砲口を正面に捉えたままさらに踏み込み、背筋に殺気が走るのと同時に新型ガンタンクの手前へバズーカを撃ち込んで左へ身を沈める。コンクリート片が砕けて白い粉塵を噴き上げ、頭部のすぐ上を新型ガンタンクの砲弾が抜けた。
その粉塵を3方向から弾列が横切る。フォレス大尉と3番機が頭部と砲の周囲を叩き、壁に背を預けた2番機もこちらへ向く新型ガンタンクの腕を追って撃っていた。私はバズーカを手放すなりヒートソードを両手で握り、瓦礫の手前で背部の推進器を吹かして地面を蹴った。
低く跳んで土塁の先の壕を越えると、粉塵の中から機関砲の火が見えた。盾のように構えた腕の装甲を弾が叩くが、避ければ主砲を下げる暇を与えてしまう。刃を構えたまま被弾の衝撃を堪えて踏み込むと、下がろうとした新型ガンタンクの履帯が建物の基礎へ乗り上げた。
主砲の下へ潜り込んだところで味方の弾列が途切れた。迫ってきた右腕の内側へ身体を入れ、腰を回しながらヒートソードを横に薙ぐ。首を断つ手応えが両腕へ伝わり、頭部が配線を引きちぎって飛んだ。それでも履帯は舗装を掻き続け、胴体の中にはこちらを殺そうとする気配が残っていた。
頭部が落ちるのを待たず、脚部と背部のスラスターを一瞬だけ噴かせた。横向きの加速で身体をベルトへ押しつけられながら新型ガンタンクの右腕の外を回り、車体の側面へ出たところで噴射を切る。振り抜いた刃を引き戻しながら着地し、その踏み込みで胴体の操縦席へヒートソードを突き立てた。
刃先が装甲を噛んだところで止まり、両腕が押し返された。私は両脚を踏ん張らせて操縦桿を押し込み、イフリートの腰を落としてさらに体重を掛けた。足元で舗装が砕け、刀身の周囲で装甲が赤熱する。金属が溶けて流れ落ちても、切っ先はなかなか進まない。
左手首に負荷の警告が点き、なおも押し込もうとした途端に柄を握った左手が外へ折れた。装甲の継ぎ目から金属片がこぼれ、手首を戻そうとしても反応がない。私は左手の指を開いて柄から離し、右手でヒートソードを支えながら機体ごと押し込んだ。
ようやく装甲が溶け切って刃が深く沈み、新型ガンタンクの主砲と履帯が止まる。接触回線から男の悲鳴が響いた。
『ああああッ!熱い、熱いッ!助け』
押し込んだ刃の先で気配が消え、悲鳴も途切れた。右手だけでヒートソードを引き抜いて後ろへ跳ぶと接触回線の表示が消え、首の切断面と胴体の傷口から炎が噴き出す。
ーージオンなんかにぃぃぃ!!
回線は切れているのに、男の声が頭の内側で叫び続けていた。私は奥歯を噛み、右手のヒートソードを構え直す。火の回った車体はもう動かないと分かっていても、砲口から目を離せなかった。
『……やっと止まりましたね』
フォレス大尉の声に、ようやく息を吐いた。
「ええ」
応じてから指揮用の回線を開く。まだ車体のあちこちから炎が噴いていた。
「こちらメテオ01、新型ガンタンクを撃破しました。残骸が燃えていますから、回収隊はまだ近づかないで下さい」
『こちらCP、了解。残骸には近づかないよう周囲の部隊へ伝えます。先遣隊は市街外縁に到達しました。損傷機を回収隊へ引き渡したら合流するよう、隊長からの指示です』
右手にヒートソードを握ったまま左腕を上げると、手首の裂け目が広がり、手が自重で外へ垂れた。もう一度動かそうとしても警告が点くだけである。私は手首の駆動を切り、左腕を身体へ寄せた。
ガンタンクを蹴って右脚を痛め、今度はヒートソードを押し込んだだけで手首が折れた。この機体は関節の構造そのものが脆いのだ。装甲で砲弾を受け止めても、中から壊れていては世話がない。
「レティ03、02の収容を手伝って下さい。フォレス大尉、私の機体も左手首が壊れました。整備員を呼びますので、正面の警戒をお願いします」
私はヒートソードの加熱を切り、バズーカを手放した場所へ戻った。刃の熱が下がるのを待って右腰の固定架へ収め、空いた右手でバズーカを拾い上げる。左手を添えることはできないが、肩へ担げば照準は合わせられた。
新型ガンタンクの残骸をもう一度見る。バズーカの砲弾が当たった正面の装甲には穴が開いていなかった。表面が剥がれ、その周囲が黒く焼けているだけだ。あれをまともに受けて、よく耐えたものだ。
「CP、新型の装甲を回収して頂けますか?バズーカを当てても抜けませんでした。技術者に調べてもらいたいのです」
『了解しました。人員の収容を済ませてから回収班を向かわせます』
「お願いします」
3番機が2番機の脇に膝をつき、その腕を肩へ回して支えていた。右足を失ったザクの上体が起き上がると、装甲に溜まっていた砂が落ちる。2番機の操縦者はまだ喋っているものの、返事が段々短くなってきた。尋ねると、倒れた時に頭をぶつけたのだという。機体を降りたら衛生兵に診てもらうよう告げると、少し遅れて了解が返った。
フォレス大尉のザクにも新しい損傷があった。盾の半分がなくなり、肩の外側が剥き出しになっている。大尉が立っていた場所の壁にも機関砲弾の穴が並んでいた。
「助かりました。援護がなければ、あそこまで近づけませんでしたよ」
『こちらこそ。あれ以上撃たれていたら、この盾もなくなるところでした』
フォレス大尉のザクが傷ついた肩を少し動かす。
『こんなのが何台も降りてきたら、たまりませんね』
「ええ、今のうちに降ろす場所をなくしてしまいましょう」
返事をしながらも私は一度だけ空を見た。輸送機の姿はもうなく、海側へ立ち上がる煙の奥からはまだ砲声が続いている。
損傷したザクを回収隊へ渡す頃には先遣隊から市街へ入ったとの連絡が来ていた。追いついてきた補給車両を倉庫の陰へ迎え、イフリートを屈ませてバズーカを架台へ預ける。弾倉を交換してもらう間に予備の弾倉も機体へ取りつけられ、作業員が冷却剤と推進剤の補給を始めた。
手首のカバーを外した整備員が、割れた部品を取り出して見せた。駆動軸を支える部分が破断しているという。ここでは交換できないため、左手を元の角度へ戻して固定してもらった。左手で武器を持たないよう念を押されて頷くと、右腿の方は装甲の傷だけで済んでいると知らされた。
点検の結果と、ヒートソードを押し込んだ瞬間に壊れたことをシュペーア技師へ送ってもらう。ホースが外されてからバズーカを右手で受け取り、固定された左手首を確かめて機体を立たせた。
戻ってきた3番機によれば、2番機の操縦者は自分で降りられたそうだ。衛生兵へ引き渡したとの報告を受け、私はCPへ合流に向かうと知らせた。前へ進むのはイフリートとザク2機だけになった。
倉庫の間を抜けると、道幅が急に狭くなる。壁から突き出した鉄材へ肩をぶつけないよう身体を斜めにし、先に入ったフォレス大尉のザクを追った。右側の建物には歩兵が入っていた。窓から腕を出した兵が私たちへ進んでよいと合図する。
フォレス大尉の横から通りを覗いた途端、左脇へ針を押しつけられるような感覚が走った。マンションの3階で白煙が膨らみ、窓から飛び出した誘導弾がこちらの胴体へ向きを変える。私は機体を半歩引いて建物の角へ右肩を寄せた。追って曲がった弾が壁へ突き刺さり、胸の前を破片が流れる。剥がれた外壁に混じって窓枠が道路を転がっていく。
煙が薄れると、窓の奥に三脚へ据えた発射器が見えた。アリゾナでも相手にした有線式大型誘導弾の発射器だ。別の窓にも兵が屈み込み、さらに上の階からは足元の歩兵へ小銃弾が降ってくる。右奥の建物からも銃撃が加わり、通りを渡ろうとした味方が伏せた。
「フォレス大尉、左のマンションを押さえて下さい。レティ03は右奥の建物を」
『了解。少佐、正面のビルにも敵がいます!上です!』
頭部を向けるより先に膝を折ると、正面のビルから飛び出した弾列が頭上を掠め、背後の壁へ大きな穴を並べた。5階の外壁が広く取り払われ、その奥で対空機関砲が動いている。身を屈めたこちらの頭部を追い、砲身が下がってくる。メインカメラを潰す気か。
私は左肘を曲げて前腕で頭部を覆い、固定した手首を装甲の陰へ入れながら右手のバズーカを持ち上げた。機関砲弾が前腕を叩く間にも、足元の歩兵は道を引き返して3番機の陰へ駆け込んでいく。
「歩兵隊、正面のビルから離れて下さい!」
『下がった!撃ってくれ!』
ビルとの間には通り1本しかない。私は左腕で頭部を庇ったまま砲座に照準を重ね、バズーカを撃った。開いた外壁の奥へ砲弾が飛び込み、同じ階の窓という窓から爆炎が噴き出す。機関砲の砲身がちぎれた窓枠と一緒に外へ押し出され、下の階の外壁を削って落ちていった。
その下でも発射炎が閃いた。まだいる。私は砲口を下げてもう1発撃ち込み、爆風に備えて頭部を左腕の陰へ寄せた。ビルの正面が大きく膨らみ、壁も床も通りへ噴き出す。支えを失った上階が傾いて下の階を押し潰し、揺れる画面の中で屋上まで沈んでいった。足元へ砕けたコンクリートが押し寄せ、最後に残った壁も粉塵の中へ崩れる。
左ではフォレス大尉のザクマシンガンがマンションを横に薙いでいた。窓の間の壁に穴が連なり、室内を貫いた弾が奥の壁を吹き抜ける。発射器へ駆け寄ろうとした兵ごと部屋が煙に隠れた。さらに上の階へ銃口を振ると、張り出したバルコニーが手すりもろとも落下する。外壁は蜂の巣になり、その奥から撃ってくる者はいなくなった。
『右奥の建物、歩兵が入る!MS、撃つな!』
3番機の射撃が止まり、足元から兵たちが走り出した。入口へ投げ込まれた手榴弾が炸裂し、先頭の兵が煙の中へ駆け込んでいく。左腕を下ろして確かめると、メインカメラは生きていた。白く濁った映像の向こうで味方の兵が腕を振るのを見届け、崩れたビルの瓦礫へ足を掛ける。車両を通すには、また工兵を呼ばなくてはならない。
角から61式戦車の主砲が覗いた。履帯が姿を見せるまで狙いを動かさず、車体が半分出たところで側面へ撃ち込むと、こちらへ向きかけた砲塔が炎に呑まれる。狭い通りを爆風が抜けて隣の窓から硝子が降り、下士官が兵を壁際へ押し戻すのを見て私も半歩退いた。
その隙に残骸の向こうの窓から銃火が走り、足元の兵が伏せた。フォレス大尉がザクマシンガンで窓枠ごと銃座を潰す間、私はその奥から出てくる敵がいないか見張る。下士官が腕を振ると歩兵が1人ずつ通りを渡り、最後の兵が角の陰へ身を滑り込ませるまで私たちは狙いを外せなかった。
『CPより各隊。港側の味方が南下している。接触した部隊は現在地を報告せよ。敵味方の識別を徹底しろ』
私は地図へ目を移した。港側の部隊を示す印は前衛のすぐ近くまで来ているが、間にある建物まで確保されているとは限らない。歩兵がどこまで入っているかも確かめなくては。
角を一つ曲がる度、歩兵の報告を受けた。味方が入った建物へ印を付け、まだ確認できない場所は砲口で押さえる。上から飛んできた弾が肩を叩いた時には敵を探すより先に足元の兵へ伏せるよう告げた。
彼らの無線は相変わらず騒がしかった。
『敵が裏へ回ったぞ!そっちを押さえろ!』
『こっちも撃たれてるんだ!階段に……』
『負傷者を外へ出す!車両を寄こしてくれ!』
他の部隊からの呼び出しまで重なり、最後には誰の応答も聞き取れなくなる。私は回線を切り替えてCPへ現在地を送り直し、フォレス大尉に先を見てもらいながら建物の陰へ入った。右手でバズーカを支え、3番機に弾倉を交換してもらう。
広い交差点の手前で前進がまた止まった。通りを横切るように残骸が積まれ、その向こうの車庫からRTX-65 ガンタンクが撃っていた。旧型だったが、こちらが出てくる場所を絞って待ち構えている分だけ厄介である。左手が使えない以上、あの射線へ無理に飛び込むのは避けたい。私はフォレス大尉に右の通りを警戒してもらい、正面の車庫の位置を地図上に示した。
「前進観測、こちらメテオ01。交差点の奥にガンタンクがいます。車庫に隠れているので、後ろの陣地を砲撃して追い出せませんか?味方の歩兵は手前の建物まで来ています」
歩兵隊の観測員から、こちらでも見えると返事があった。建物の上階からは車庫の後ろに集まる車両まで見えるらしく、それもまとめて撃たせるという。
射撃要請の座標が読み上げられ、受信側が復唱する。一部が雑音に消えたので観測員が最後の数字を送り直すと、今度は同じ数字が返ってきた。私はそれを聞きながら味方を手前の建物の陰へ退かせ、港側の部隊とも位置を確認した。
『発射』
『発射、了解』
ガンタンクが車庫から砲身を突き出した。脇の柱へバズーカを撃ち込むと屋根の一部が崩れ落ち、敵は瓦礫を避けて奥へ下がる。私は車庫の入口へ照準を据えたまま、もう一度出てくるのを待った。
『着弾まで5秒』
車庫の向こうに土煙が上がった。次の砲弾がさらに手前へ落ちて屋根越しに破片を撒くと、ガンタンクが前へ飛び出してくる。正面へ撃ち込んだ砲弾が車体上部を吹き飛ばし、ちぎれた砲身が道路へ落ちた。その脇から走り出した敵兵もフォレス大尉の射撃に遮られ、元の壕へ引き返していく。
『目標に命中。車両の炎上を確認。敵兵は建物へ退避。射撃終了』
観測員が効果を報告する。残る砲弾の着弾を確かめてから歩兵隊へ前進が命じられた。
工兵の車両も上がってくる。私は砲口を上げたまま残骸へ近づき、通りを塞いでいた戦車の後部へ左足を当ててゆっくり押した。焼けた履帯が舗装を擦って車体が横へずれ、工兵の合図に従ってもう少し押すと、ようやく車両の通れる隙間が出来た。私が足を退けるのを待って装甲兵員輸送車が入り、負傷者のいる建物へ寄っていく。
建物の向こうに丸い頭が覗き、私は反射的に砲口を向けかけた。ゴッグだと気づいて砲口を下げ、識別表示を確かめる。
ネプチューン隊01、操縦者の階級は大尉と出ている。肩の大きな機体が角を曲がり、爪の先から水とも油ともつかないものを垂らしながら通りへ入ってくる。近くで見ると、装甲には砲弾を受けた跡が幾つもあった。表面が剥がれたところへ煤がつき、腹部にも黒い筋が走っている。その後ろにも2機のゴッグが続き、同じネプチューン隊の識別表示が並んだ。
『こちらネプチューン隊01。そちらは先遣隊でしょうか?』
「こちらメテオ01、先遣隊のナカノミヤ少佐です。工兵が通路を開けました。車両も通せます」
『了解しました。こちらも港からここまでの道は確保しました。奥の白い倉庫にガンタンクが何台か入りましたので、これから叩くところです』
「承知しました。艦艇はどうなりましたか?」
『まだ浮いている艦もありますが、砲は黙らせました。降伏した艦の乗員は収容中です。あの倉庫を片付けたら、こちらも南へ進みます』
通信の間にも、ゴッグは奥の倉庫へ頭部を向けていた。脚を動かす度に道路へ重油混じりの黒い水が落ちる。
第三設計局もよい仕事をする。戻ったらアイヒマン主任技師にも伝えておこう。あの艦を陸からどうにかしようとしていたら、いつまで砲撃に付き合わされていたか分からない。
フォレス大尉が港側の部隊との合流をCPへ報告する。港側から来た歩兵が交差点の向こうで手を振り、こちらの下士官が腕を上げて応じた。
ネプチューン隊を追って交差点の先へ出ると、白い外壁に背の高い搬入口が並ぶ建物が見えた。脇にある低い付属棟にも見覚えがある。説明会で隣の准将が指していた建物だ。壁があるから中まで見えんぞと言われたことを思い出し、開け放たれた搬入口へ目を凝らした。
搬入口から2本の砲身が突き出し、その後ろにもガンタンクが並んでいた。見渡すと全部で6両いる。壁際には交換用の履帯が積まれ、車体の脇には砲弾を載せた台車が寄せてあった。取り外された主砲が天井のクレーンに吊られ、奥には給油ホースをつないだ車体も見える。ここで修理と補給を済ませ、また陣地へ戻していたのだろう。
その1両がホースを引きちぎりながら向きを変え、作業服の兵たちが壁際へ逃げ出した。
「こちらメテオ01、白い倉庫にガンタンク6両を確認。整備拠点のようです。ネプチューン隊と制圧します」
『了解。歩兵は外で待機させる。裏へ抜ける車両にも注意しろ』
『少佐、正面の2両はこちらでやります。02、03は右の入口から入れ』
ネプチューン隊01が正面の搬入口へ進むと、手前のガンタンクが主砲を揃えた。2本の砲口が光り、ゴッグの胸と肩で続けざまに砲弾が炸裂する。爆煙に丸い頭まで隠れたが、重い足は一度も止まらず、煤に汚れた装甲が煙を割って出てきた。
直撃したはずの胸にも肩にも穴はなく、ゴッグはそのまま主砲の下まで迫る。ガンタンクが慌てて後退を始めたところで、ゴッグの腹部で拡散ビーム砲が光った。
扇状に広がった細い光線の粒がガンタンクを正面から貫き、胸から砲の基部にかけて無数の赤い穴が開く。穴開きチーズのようになった車体から炎が噴き、両肩の主砲が前へ垂れた。
ゴッグは炎上する車体の横を抜け、隣の1両へ腕を伸ばす。至近距離から撃たれた主砲弾が腹で炸裂しても構わず、長いネイルクローを振り下ろして機関砲の腕から胴体まで切り裂いた。裂け目から内部が覗くところへ反対の腕を突き込み、操縦席を貫いた爪が背中へ抜ける。ゴッグが腕を引くと上半身が崩れ、床へ落ちた砲身が転がった。
奥のガンタンクへ砲口を振ると、右の搬入口から入ってきた別のゴッグが射線を横切った。残る1機もその奥へ進んでいる。この距離でバズーカを撃てば、味方へ当てずに済んでも爆風を浴びせてしまう。
私は入口脇へバズーカを下ろして手放し、右手でヒートソードを抜いて加熱した。旧型の装甲を斬るのに両手までは要るまい。
「フォレス大尉、入口を警戒し、歩兵は外で待たせて下さい。ネプチューン隊、左の2両はこちらで引き受けます」
『了解、左側はお任せします』
右側でもゴッグの胸で砲弾が炸裂したが、その機体は足を止めずにガンタンクを整備台の横へ追い詰め、腹部の拡散ビーム砲で胴体を撃ち抜いた。車体の穴から火が噴く間に、その隣のゴッグは逃げるガンタンクへ両腕のネイルクローを突き立てた。左右へ引き裂かれた胴体が崩れ、履帯を回し続ける車体から上半身が落ちる。
私は左の壁沿いを走り、手前のガンタンクが向けてきた機関砲の腕をヒートソードで斬り払った。返す刃を胴体へ斜めに叩き込み、止まらず横へ踏み込みながら薙ぐと、装甲が幾つもの塊になって剥がれ落ちる。さらに主砲の基部から操縦席まで斬り下ろし、崩れる車体の脇を抜けて次の1両へ向かった。
最後のガンタンクが台車を押し潰して向きを変え、2本の主砲がこちらを追ってくる。短く推進器を吹かしてその横へ飛び込み、左足で着地を受けながらヒートソードを下から振り上げた。機関砲の腕が床へ落ちるより早く、返した刃を肩口へ叩きつける。
後退する車体へもう一歩詰め、胴体を横に薙いだ。そのまま返す刃で胸から腰へ斬り下ろし、まだ動く砲の基部へも続けざまに打ち込む。切り刻まれた装甲が床へ散り、ガンタンクは炎を噴きながら沈んだ。
足元へ転がってきた砲身を避け、ヒートソードを引き戻す。倉庫の中から砲声が消えていた。ゴッグがネイルクローに絡んだ装甲片を振り落とし、その向こうでは台車の陰にいた兵が這い出して両手を上げる。
『こちらネプチューン隊01、4両撃破。奥の出口を押さえます』
「こちらは2両です。フォレス大尉、投降兵の収容をお願いします。中には砲弾も燃料もありますから、すぐ外へ連れ出して下さい」
フォレス大尉の返事に続いて歩兵が入口を越え、連邦兵を外へ誘導していく。私はヒートソードの加熱を切って道を空け、刃の熱が下がるのを待って右腰の固定架へ戻した。入口脇のバズーカを拾い上げると、ネプチューン隊のゴッグは奥の出口へ向かっていた。
倉庫を押さえても攻略完了の報告はまだ来ない。先遣隊は港へ向かう道を確保し、本隊はその南側の区画へ入っている。私はフォレス大尉と3番機を連れて、掃討の済んでいない通りへ向かった。
フォレス大尉のザクが角を曲がると、頭上のビルで幾つもの窓が光った。ザクが上体を引き、右肩に残った盾を前へ回す。盾の上端が削られ、モノアイのすぐ横を弾が抜けた。今度も対空機関砲だ。向かいのマンションからは白煙を引いた誘導弾が飛び出し、下がろうとするザクの腰へ向きを変えた。
私は誘導弾の出た窓へバズーカを向け、フォレス大尉が射線を抜けたところで撃った。窓の奥で炸裂した砲弾が隣の部屋まで壁を吹き払い、発射器を操作していた兵も見えなくなる。誘導弾がフォレス大尉の脇を通り過ぎて通りの奥で爆発する間に、3番機のザクマシンガンが機関砲のあるビルを叩いた。
『こちらレティ03、正面の機関砲を押さえます!歩兵隊、今のうちに負傷者を下げて下さい!』
ガラス張りだった壁面が、端から順に砕けて落ちる。窓の奥まで弾を送り込む3番機の足元で、負傷した兵が仲間に引きずられて戻ってきた。別の兵が建物の入口へ取りつき、身を伏せて腕を振る。フォレス大尉がザクマシンガンを上階へ向け直した。砲座の周囲に次々と穴が開き、機関砲の射撃が途切れた。
そのビルの脇を抜ける時、壁の大穴から対空機関砲の台座が見えた。傾いた砲身の下に薬莢が積もり、床の端から道路へこぼれている。歩兵から階段を確保したとの声が届いたが、さらに奥の部屋ではまだ小銃が鳴っていた。私はフォレス大尉に入口を見てもらい、3番機と共に次の曲がり角を警戒した。
港の方から逃げてきたトラックが交差点へ出たところで止まった。運転席から飛び降りた男が両手を振り、後ろの兵たちも荷台へ小銃を置く。今度は投降した兵をすぐ建物の陰へ移すよう歩兵の下士官へ頼んだ。下士官はトラックの見張りを残し、部下と共に連邦兵を誘導していく。トラックの荷台には弾薬箱と血の染みた担架が積まれている。まだ負傷者が乗っているとの報告を受け、衛生兵へ場所を知らせた。
通りの奥へ向き直ると建物の上に白い布が出ていたが、さらに向こうからはまだ銃声がする。武装解除を済ませた区画に見張りを置き、歩兵隊は抵抗の続く建物へ進んでいった。
左側では工兵が道へ降り、地面に埋められた導線を辿っている。彼らの作業が終わるまで私は機体を動かせなかった。市街へ入ってからも、やることは前哨線とそう変わらない。
フォレス大尉のザクが弾倉を外した。新しい弾倉を取りつけようとして一度止まり、左手で押し直す。傷ついた肩が僅かに下がっていた。
「腕の調子が悪いのですか?」
『少し動きが重くなってきました。まだ使えます』
「本隊に交代を頼みます。ここを抜けたら下がって、整備を受けて下さい」
『少佐もご一緒に』
「右手はまだ使えますよ」
フォレス大尉のザクがこちらへ頭を向けている。私は苦笑し、分かりましたと付け加えた。
午後になって、港へ続く道路を補給車両が通り始めた。同じ道を負傷者を載せた車両が反対向きに走っていく。交差点に立った兵が腕を振り、先へ通す車を決めていた。少し離れた建物には衛生兵が出入りし、入口の脇へ担架が並べられている。
私たちは後続のMS隊へ担当区画を引き継いだ。傷の少ないザクが私たちのいた角に立ってザクマシンガンを構える。敵が撃ってきた窓と味方の入った建物を伝えると、操縦者は復唱しながら地図へ印を付けていた。
海の見える道路まで下がったところでHQから通信が入った。
『こちらHQ。アレクサンドリア守備隊の降伏を確認。港湾および主要交通路を確保した。各隊は引き続き担当区画を警戒し、残存部隊の武装解除と負傷者の収容を進めよ』
私は機体の足を止めた。誰かが短く叫び、続いて別の回線でも声が上がる。フォレス大尉のザクがザクマシンガンの銃口を下げ、3番機もようやく壁から離れて両脚を真っ直ぐにした。
アレクサンドリアは落ちた。
海側へ頭部を向けると、岸壁の一角からまだ煙が上がっていた。傾いた艦の上に人影が見え、小さな艇がその脇へ寄っている。もうこちらへ向けて火を噴く砲はなかった。遠くから煙を眺めていた時には、誰がそこで戦っているのかさえ分からなかったのだ。
私は右手のバズーカを少し下げ、道路へ視線を戻した。工兵に呼ばれた車両が前へ出ていく。歩兵は銃を担ぎ直し、壊れた建物の裏側へ回っていた。港の使用に向けた点検もこれから始まるという。
街の修復が済むまで、ここにいられる訳ではない。カイロへ向かった部隊と合流し、再編を済ませればスエズ、その先にはエルサレムがある。壊れた左手首は、次の戦闘までに交換してもらわなくてはならない。
「シュペーア技師、こちらメテオ01。前線から戻りました。左手首の交換をお願いします」
『分かりました。整備車両と向かいます。場所を知らせて下さい』
私はCPに整備車両を入れられる場所を確かめ、技師へ位置を送った。港へ向かう車列が途切れるのを待ち、合流場所へ機体を向けた。
ご高覧ありがとうございます。
はい、ということでアレクサンドリア陥落です。
史実であると、このアレクサンドリア攻略戦でジオン軍は多大な損害を受けつつも攻略し、戦力が低下しつつもエルサレムを攻略して勝利します。
まぁ、とにかく人がいないジオン軍にとっては試合に勝って勝負に負けた状態。つまり戦略的敗北になったわけです。
ここから、ジオンの地上侵攻速度は一気に低下してほぼ完全に停滞してしまいます。
さて、本来なら指揮官がガルシア君では無いはずのロシア方面軍はなんで動かなかったんですかね?
あと、こう最後に読み直して校正していると、重迫撃砲使うよりもMSにハングレなりクラッカーなり持たせて投げ込ませれば良かったと思いました。(呆れ)
なんでその時思いつかなかったのかと…
それと、新型ガンタンクについてですね。
これはジオリジン版のRX-75ガンタンクの増加試作機と言った感じで作った機体です。本作独自のMSVで、コアブロックシステムは採用されていないのは同じで、装甲厚を従来機の2倍に増加させて特徴的なオニギリ履帯を前後で2/3と1/3に分割させて4つに分割しているような感じの機体です。
片側を破壊されても動けなくならないようにするため、ヒルドルブ(コイツは片側3つに履帯が独立している)と同じような設計思想になっています。そのため、接地面積を大きくするために幅広履帯を採用しています。
一応、これがこの世界での強襲型ガンタンクの分割履帯に繋がっていくと思ってください。
なお、この機体に多くのジオン軍機はやられているらしいです。
今回はまぁ、相手が悪かったとしか…
あと、ゴッグは「さすがゴッグだ。なんともないぜ」をしたかっただけです笑
さて、次回はパッと時間を進めてエルサレム攻略戦になります。
また明日もお付き合い頂けたら幸いです。