技術試験隊斯ク戦ヘリ 作:ザクスキー2世
それと、イグルー2を真似して重力戦線の見せ場を一つ作りました。
アレクサンドリアを離れる前に、壊れた左手首の野戦修理が済んだ。整備車両の脇でシュペーア技師に見てもらいながらヒートソードを握り、ゆっくり刃を返す。指も手首も動き、狙ったところで切っ先を止められた。右脚の出力制限は残るが、武器を両手で扱えるようになったのはありがたい。
動作の確認を終えると、シュペーア技師から通信が入った。
『使えるようにはしましたが、あくまで野戦修理です。全力で押し込めば、また手首の方が負けてしまうかもしれません』
「分かりました。重々気をつけます」
隣ではフォレス大尉のザクも右肩の修理を受けていた。半分を失った盾が吊り下ろされ、代わりの1枚が取りつけられる。新しい盾だけ、まだ砂埃を被っていない。大尉は腕を何度か回してから、こちらへ頭部を向けた。
『上手く肩は直りました。少佐の方は?』
「こちらも何とか使えます。次はもう少し装甲の薄いところを狙わないとダメそうですね」
『またあの新型のガンタンク野郎が出てきたら少佐にお任せします。こちらの弾では歯が立ちませんので』
修理を済ませたばかりで、もう次に斬り込む相談をしている。下で聞いていたシュペーア技師がこちらを見上げたので、私は足元へ視線を戻した。作業員たちが退いたのを確かめてから機体を立たせる。
先遣隊の編成も変わっていた。走れなくなった車両を置き、負傷者を後送し、別の部隊から回された兵を乗せる。フォレス小隊は右足を失った2番機を後方へ残し、大尉と3番機の2機で同行することになった。その整備が済む頃には、私たちにも出発の命令が届いていた。
26日、カイロを攻略した別働隊と合流した。彼らの車列にも戦闘の跡が残っていた。装甲兵員輸送車には車体の外側へ鉄板を溶接したものがあり、車体の上に括りつけた荷物の間に兵が座っている。荷台全体を布で塞いだトラックが通り過ぎた時には、隙間から包帯を巻いた腕が見えた。
カイロでは、市街へ通じる道で撃ち合った後、退く敵を追って入った部隊が建物の間で足を止められたという。港から撃ってくる艦がなかった分、こちらより早く片がついたらしい。それでも、合流した将校が最初に求めたのは弾薬と衛生兵だった。
両隊の車列を一つにまとめ、私たちはスエズへ向かった。後ろで車列の順序を整える間にも先頭は進み、集結を終えた部隊から次々に追いついてくる。ようやく落とした街で休んでいられる者は、占領のために残された部隊だけである。
スエズの手前でも連邦軍は抵抗した。堤の陰から砲身を出す61式戦車へ撃ち返し、道路脇の壕へ歩兵を入れる。運河に近づくほど、車両を止めるための溝と残骸が増えた。私が跨いだ場所で後続の戦車が止まり、その後ろでは弾薬車まで立ち往生していた。
工兵の車両を通すために引き返した時、フォレス大尉のザクが対岸へザクマシンガンを撃っていた。水際にあった砲座から土煙が上がり、その間に架橋地点へ走り込んだ兵たちが身を伏せる。私は大尉の横へ入り、対岸の砲座の奥で向きを変えようとする戦車を狙った。
運河を押さえたという報告が入っても、渡れる場所がすぐ増えるものではない。工兵の架けた橋を車両が間隔を空けて1両ずつ渡っていく。私の番になると足元の鋼板が撓み、下を流れる水が画面の端に見えた。敵の砲を先に潰しておいてよかった。こんなところで跳べと言われても、後ろの連中まで一緒には連れていけない。
運河の制圧は、海上部隊にも道を開いた。トライデント作戦に参加した艦艇がスエズを通過し、ゴッグを伴って紅海へ進出する。陸の補給路を切るだけでなく、南から中東へ入る船も押さえるという。
その艦隊は後にアデン湾を抜け、インド洋方面でも連邦軍の水上艦艇や潜水艦と交戦した。エルサレムへ送られる増援と補給を海上で断つための作戦は、私たちが運河を渡った後も続いていたのである。
後日読んだ記録では、ゴッグの損失はごく少なかった。だが、ユーコン級潜水艦や水上艦艇の欄には、撃沈と大破の文字が幾つも並んでいた。新しい水陸両用MSがよく働いても、それを運んで共に戦った船まで無事に戻れたわけではない。
シナイ半島では、ほとんど敵に出会わなかった。連邦軍は運河を失った時点で砂漠の陣地を捨て、兵をエルサレムへ集めていたらしい。先遣隊は夜も前進を続け、車両への給油と点検は車列の脇で順に済ませた。
27日、シナイ半島を抜けたところで、北からも味方が接近中だと知らされた。
ガルシア・ロメオ少将のロシア方面軍ではない。マ・クベ中将が欧州方面軍から抽出した部隊だった。中将は21日、ロシア方面軍が予定の攻勢に出なかった時点で派遣を命じ、足の遅い大型陸戦艇を先に出していたという。私たちが北の停滞を知らされるより、3日も前のことである。
最新の大型陸戦艇ダブデが2両。後からMSを搭載して出発したギャロップは16両に上る。履帯で進むダブデをホバーで走るギャロップ隊が追い、エルサレムの北方でようやく隊形を整えたらしい。
先遣隊長の中佐は、地図へ書き足された部隊符号を私たちに見せた。北から延びてきた線は、初めの説明会で見たものより細い。
「ロシア方面軍の穴を埋めるには圧倒的に数が足りん。だが、敵を誘引し釘付けにするには充分な戦力だ。ようやくこれで敵の後ろへ回れる。明日の攻撃には間に合うそうだ」
「北側の敵はどう動いていますか?」
「敵主力はほぼ全てこちらへ回されていたらしい。慌てて配置転換を始めたそうだな。我々のお陰というのも変な話だが、欧州の部隊はここまで大きな抵抗を受けていないそうだ」
私たちがアレクサンドリアで足を止められていた間、連邦軍は南へ兵を集めていたのだ。北からも来ると知って慌てて向きを変えたところで、既にこちらと撃ち合っている部隊までは簡単に抜けない。
もっとも、敵はエルサレムそのものへも部隊を集め続けていた。退いてきた戦車と歩兵を陣地へ入れ、運び込めるだけの弾薬を積んでいる。私たちをここで止められなくても、次の進撃を遅らせることはできる。こちらの車両を1両焼くごとに、ジオンはどこかから代わりを持ってこなくてはならないのである。
中佐が広げた写真には、基地の建物と並ぶ大きな影が2つあった。ビッグ・トレー。連邦軍の大型陸戦艇だ。正面から突き出した大口径砲と、その上に並ぶ3連装主砲塔は、写真の中でも見間違えようがない。
「こいつらが陣地の間を動いて撃ってくる。それをダブデとギャロップが北からの砲撃で押さえる。陸戦艇同士が撃ち合っている間に、MS部隊が突入する」
写真の一角へ指を置くと、そこに写った61式戦車が妙に小さく見えた。今度は主砲を斬り落とし、そのまま背後へ抜ければ済む相手ではない。
私たちは担当する進路を確かめ、夜のうちに弾薬と推進剤を補充した。休むよう言われて操縦席を降りても、北の部隊が到着したという連絡や、砲兵の移動を知らせる声は止まない。地面へ敷いた布に横になると、遠くを通る車両の振動が背中へ伝わってきた。
北側の道路を欧州方面軍が押さえ、東西へ回った部隊からも配置完了の報告が入る。南にはアフリカ方面軍の主力がいた。地図上の敵基地は、ようやく味方の符号で囲まれた。
宇宙世紀0079年5月28日
エルサレム基地への攻撃は、頭上の戦闘から始まった。
欧州方面軍とアフリカ方面軍から集められたドップが、連邦軍の戦闘機を迎え撃つ。私は低い尾根の陰で待機し、雲の下を横切る機影を見上げた。2機が急に離れ、その間を白い線が抜ける。片方が煙を引き始め、追って頭部を向ける間にも高度を失っていく。遠すぎて敵味方のどちらかまでは分からない。
回線には敵機の進入方向と、味方を呼び戻す声が続いた。地上部隊へ向かってきた連邦機がドップに追われ、機首を上げる。落とされた爆弾は車列の手前へ散り、私たちにも散開の命令が来た。
空が静かになったわけではない。それでも、上へ目を向ける度に見えていた敵機が減り、今度は高高度を進むガウ攻撃空母の編隊が現れた。機体の腹から爆弾を落としながら、基地の外縁に沿って飛んでいく。
着弾は遅れて始まった。低い建物の列を端から土煙が覆い、その奥にも新たな爆発が並ぶ。掩蔽壕の屋根が跳ね上がり、車両を隠していた林が幹ごと傾く。手前の爆発が収まる前に次の爆弾が落ち、基地の輪郭は煙の下へ隠れてしまった。
私は画面の明るさを落とした。あの下にも兵がいる。喉を締められるような感覚が幾度も重なったが、どこから来るものか一つずつ拾っている余裕はない。奥歯を噛みしめ、地図へ目を戻す。
『陸戦艇各隊、砲撃開始。地上各隊は予定位置まで前進せよ』
砲撃に合わせて進む私たちにも、陸戦艇の射撃指揮を聞くための回線が開かれた。私から見て手前のビッグ・トレーが第一目標、奥が第二目標として地図に記され、ダブデ1番艇から号令が流れる。
『主砲、第一目標に指向。徹甲弾、一斉撃ち方!』
『主砲射撃用意よし!』
『撃ち方始め!』
爆撃と重なるように、北方からの砲弾が基地へ落ち始めた。ダブデとギャロップの射撃だ。煙の端から姿を現したビッグ・トレーが車体を振り、その上の3連装主砲塔が一斉に火を噴く。まだガウが通り過ぎていないのに、地上の撃ち合いはもう始まっていた。
フォレス大尉のザクが尾根を下り、私もその右へ出る。正面の壕から撃ってきた銃口へザクマシンガンの弾が走った。私はMS用バズーカC1型を肩へ担ぎ、崩れた土塁から後退しようとする戦車へ照準を合わせる。
前へ進むほど、爆撃を生き残った敵の姿が目についた。土の下から砲身が現れ、壊れた建物の裏から歩兵が撃つ。爆弾を落とすだけで片がつくのなら、私たちはここまで来ずに済んだだろう。
陸戦艇同士の砲撃は、私たちが外側の陣地を抜ける間も続いていた。
ダブデの連装大型砲は1両につき2基。2両を合わせても、ビッグ・トレー2両の砲身の数には届かない。火力の差を補うようにギャロップが展開し、艦尾の連装砲から射撃を加えていた。撃つ位置を変えながら、左右へ広がっていく。
空には味方の観測機がいた。各艇が知らせる発砲時刻を頼りに着弾を追い、土煙が薄れるとすぐに報告を送ってくる。
『観測機よりダブデ1番艇、全近!』
ビッグ・トレーの手前に4本の土柱が立ち、1番艇から修正の号令が返った。
『高め300!』
『高め……』
復唱の末尾が雑音に潰れ、射撃を待たせる声が割り込む。私は壕の脇へ機体を寄せた。数字を聞き返している間にもビッグ・トレーは動き、砲弾の掘った穴を避けて向きを変えていく。
『高め300、復唱!』
『高め300!』
次の斉射は車体の向こうへ落ちた。全遠の報告を受けるなり下げ150と号令が飛び、今度はすぐ同じ数字が返る。その次の砲弾が手前と奥に分かれて落ち、巨体が土煙の間へ挟まれた。
『夾叉!』
『本射に移れ。撃ち方続け!』
砲声の間隔が詰まり、次の着弾を待つ間にも新たな発砲の報告が届く。ビッグ・トレーが車体を振る度に観測機から進路の変化が伝えられ、その側面で大きな火花が弾けた。
連邦軍の観測も止まってはいなかった。前へ出た味方の歩兵から、崩れた建物の上で光学器材を覗く敵兵を見つけたとの報告が入る。別の場所では高速で飛び込んできた偵察機がジオン側の射撃陣地を横切り、ドップに追われながら離脱した。その後で、ギャロップのいた辺りへ着弾が集中する。
建物の切れ目から、ちょうど射撃を終えたギャロップが見えた。連装砲を敵へ向けた姿勢から車体を返し、土煙を引いて動き始める。その中央で閃光が膨らんだ。
艦橋も後部の砲も、一度に炎の中へ消えた。爆煙から飛び出した大きな板が地面へ突き刺さる。煙が薄れた時には、船体はもう原形を留めていなかった。
ビッグ・トレーの主砲弾だった。どこへ命中したのか、見極める間もなかった。1発であれだ。直撃を受けてからでは、乗員が脱出する暇もなかろう。
北側からは別の損害報告も入った。ギャロップは既に4両が失われている。それでも射撃は止まらず、ダブデの砲弾が敵の大きな車体を叩いた。
手前のビッグ・トレーでは、側面の3連装主砲塔が斜めを向いたまま動かなくなっていた。大型艦橋の下から煙が漏れ、後部にも火が回っている。残った主砲塔がなお北へ撃ち返す度に、その煙が押し広げられた。
『第一目標、主砲塔に命中!艦橋下にも火災!』
『同一目標、射撃続行!』
私は砲声の間を縫って前へ出た。崩れた陣地へ歩兵が入り、フォレス大尉のザクがその先を押さえる。大尉の向こうで、ビッグ・トレーの前部大型砲が揃って火を噴いた。上の3連装主砲塔も続く。
直後、大型艦橋の根元に砲弾が飛び込んだ。既に焼けていた区画が内側から膨れ、上部構造が持ち上がる。火柱の中で砲塔が傾き、巨体の側面から炎が噴き出した。
倒した。そう思った時には、北の丘陵にも大きな閃光が見えていた。
『ダブデ1番艇に直撃!艦内で誘爆!』
『1番艇、応答せよ!1番艇!』
先ほどビッグ・トレーが斉射した砲弾は、敵が燃え始めた後も飛んでいたのだ。回線へ転送された観測映像の中で、ダブデの甲板が裂け、連装砲塔の一方が炎に押し上げられる。画面が途切れる前に艦橋まで白く光った。
私は前へ出しかけた機体を止めた。胸の奥に熱い塊が生じ、それが一度にいくつにも分かれる。息を吐いても薄れなかった。今の爆発で、あの大きな車体の中にいた者がどれだけ死んだのか。
『こちらダブデ2番艇、被弾!第一砲塔使用不能、第二砲塔は射撃可能!』
もう1両も中破していたが、2番艇からはすぐに次の目標を求める声が上がった。
『各艇、第二目標へ砲火を集中せよ!ギャロップ隊は左右から接近!』
『2番艇、第二目標に変更。第二砲塔、一斉撃ち方!』
残ったビッグ・トレーが向きを変えた。燃えている僚艇の脇を抜け、まだ動いているダブデへ砲を揃える。こちらの重砲を先に黙らせる気らしい。
だが、その側面へギャロップが回っていた。弧を描いて進み、敵へ連装砲を向けて撃つ。射撃を終えるとまた転針する。ビッグ・トレーも距離を開けようと車体を滑らせ、主砲塔だけはギャロップへ向けてくる。
単に追いかけているだけでは近づけない。ギャロップ隊は別々の方向から進み、一方へ敵の砲が向けば、その間にもう一方が距離を詰めた。連装砲の着弾が、少しずつ車体下部と主砲塔の基部へ集まっていく。
敵の3連装主砲が火を噴いた。先頭のギャロップが急に進路を変える。その後ろで地面が爆ぜ、続く1発が船体へ入った。炎が車体を呑み込み、連装砲も艦橋も破片となって散る。
後続はその煙を避けて通った。退くどころか、爆煙の脇を抜けてもう一度砲を向ける。ビッグ・トレーに狙いをつけられる前にもう1発撃ち、すぐに向きを変える。見ているうちに握る力が強まり、レバーが指へ食い込んだ。
『ギャロップ隊、敵の後部へ射撃を集中!』
この接近だけで、さらに4両のギャロップが失われた。応答する艇は減っていたが、残った連装砲はなお火を噴いている。繰り返し浴びせた砲弾が、とうとうビッグ・トレーの後部を砕いた。車体の下から噴き上がっていた砂煙が片側だけ薄れ、車体が大きく振れる。続く着弾で推進部に火が入り、巨体は進路を外れて地面へ沈んだ。
『観測機より各艇!第二目標、推進部に命中!行き足が止まった!』
車体の前で土が盛り上がり、長い跡が地面に残る。擱坐したビッグ・トレーは僅かに傾いていた。砲撃を受けた右舷の3連装主砲塔は、基部から煙を漏らし、北へ向いたまま止まっている。だが、残る主砲塔はまだ動いていた。前部の大型砲が撃ち、頭上を砲弾が抜けていった。
機体を低くすると、今度は地面に近い弾列が前を横切る。車体の各所にある対空機関砲座が、こちらへ砲身を下げていた。大型砲と主砲塔が陸戦艇を狙い、その周囲に並ぶ機関砲がMSを追う。動けなくなったからといって、後は乗り込むだけとはいかないらしい。
『各MS隊、近接戦に慣れた者を突入に回せ。残りは歩兵の前進を援護せよ』
指揮用回線で部隊の割り振りが始まった。中破したダブデが残る砲で援護し、ギャロップ隊も射撃を継続する。その間にMSが接近し、対空機関砲座を潰して甲板へ上がる。主砲塔と大型艦橋は、そこから叩く。
私の機体番号も呼ばれた。フォレス大尉が自分も出ると答え、3番機には歩兵の援護を命じる。補給車両の陰へ一度戻ると、ザクやグフが次々に集まってきた。バズーカの弾倉を換える者、ヒートホークを手に取って確かめる者。それぞれ別の部隊章を付けている。
「フォレス大尉、右側から入りましょう。先ほど止まった主砲塔の下を使います」
『了解。こちらで援護します。少佐が進んだら続きます』
大尉のザクが右肩の盾を動かした。アレクサンドリアで交換したばかりの表面にも、既に細かな傷が増えている。
私は新しい弾倉を確かめ、機体を屈ませた。遠くの大型艦橋へ照準を合わせても、近づく途中の対空機関砲座までは消えてくれない。射撃を続ける機関砲座に画面上で印を付け、大尉と狙う場所を分担した。
『突入隊、前へ!陸戦艇各隊は照準を奥の主砲塔へ移せ!』
『2番艇、照準変更。奥の主砲塔を撃つ!』
背部と脚部のスラスターを噴かせ、窪みを飛び出した。地面へ足をつけると同時に走り、射撃を始めた対空機関砲座へバズーカを向ける。右から来たザクの弾が手前の砲盾を叩き、その向こうで別の銃口が光った。
弾列が低く延びてくる。横へ踏み出しながら撃つと、私のいた場所から連続して土が跳ねた。砲弾は車体側面の機関砲座へ入り、折れた砲身が外へ倒れる。だが、その隣の火は消えない。私は崩れたコンクリートへ寄り、上体を低くした。
大きい。近づいて初めて、地図で一つの印になっていた相手の幅が分かる。左端の機関砲座を撃っても、右端からはこちらが見えている。頭上の3連装主砲が撃つと、その爆風で車体に残った土まで吹き飛んだ。
『右の機関砲座を押さえます。少佐、出て下さい!』
フォレス大尉のザクが盾を前へ出し、ザクマシンガンを撃ち込む。火花の向こうで砲手らしい人影が伏せた。
私はその間に次の窪みへ向かった。長く跳べば上からも狙われる。推進器を短く吹かし、着地した足でまた地面を蹴る。弾列が足元へ寄る前に進路を変え、機体を沈めてからバズーカを撃った。車体の角にある機関砲座が火に包まれる。
「今です。こちらで押さえます」
大尉のザクが動いた。右肩の盾を斜めにしたまま加速し、私の左へ着地する。その後ろを別の部隊のザクが抜けようとした時、大型艦橋の向こうに見える3連装主砲塔がこちらへ向いた。
後続のザクが足元の起伏ごと爆煙に消え、片腕が離れた地面へ転がった。その後ろの機体が踏み止まったところへ、対空機関砲座の弾が集中した。胸から肩へ火花が走り、片脚を引いた姿勢のまま倒れ込む。
『止まるな!横へ散れ!』
誰かの声に重なって、残ったダブデの砲弾が敵の上部へ落ちた。こちらを向いていた主砲塔の周囲が煙に包まれる。ギャロップも反対側から撃ち続けていた。砲撃の目標が奥へ移る度にMSが進み、味方が射線へ近づき過ぎれば射撃中止の声が飛ぶ。
私は一段高い対空機関砲座を狙った。ここからなら砲盾の上が見える。引き金を引くと、砲口の並んでいた場所へ爆煙が広がった。フォレス大尉がその下へザクマシンガンを撃ち込み、別の機関砲座の射撃を途切れさせる。
『あの穴を越えれば取りつけます。私が先に出ます』
「お願いします。上は見ています」
大尉の背部から噴射炎が延びた。ザクが前へ傾き、砲撃で出来た穴を低く越える。私はその先の機関砲座へ照準を置き、砲身が動き始めたところへ撃ち込んだ。
爆煙の左側で、もう一つの対空機関砲座が光った。
フォレス大尉のザクが仰け反った。胸の下に火花が弾け、前へ出ていた右肩の盾が跳ねる。まだ噴射は続いていた。機体が傾いたまま横へ流れ、着地しようとした足が地面を削る。
「大尉、左から!」
声を掛ける間にも、別の弾列がザクへ届いた。盾の外へ出た胴体が次々に抉られ、左腕が肩から外れる。大尉は残った腕でザクマシンガンを向けようとしていた。銃口が持ち上がる前に、胸の中央が内側へ潰れた。
私の胸にも、押し潰されるような痛みが走った。背中へ冷たいものが抜け、息を吸おうとしても空気が入ってこない。正面のザクにはまだ頭がついていた。モノアイがこちらへ動きかけ、その下で炎が噴き出す。
――少佐、あとは頼みます!!
フォレス大尉の声が、通信を通さず頭の奥へ届いた。
次の瞬間には、大尉の気配が消えていた。ザクは背中から炎を噴き、膝から地面へ崩れ落ちる。右肩の盾が一度だけ跳ね、そのまま動かなくなった。
「フォレス大尉!!」
返事はない。分かっていた。それでも呼ばずにはいられなかった。
大尉を撃った対空機関砲は、もう私の方へ向いている。砲身の脇で人が動き、次の弾を送り込んでいた。私はレバーを握り直し、顎が痛むほど奥歯を噛みしめた。
「おのれぇぇッ!!」
機関砲座へバズーカの砲弾を叩き込んだ。砲盾が砕け、飛び出した砲身が車体の縁へ引っ掛かる。左へ機体を倒して奥からの弾列を躱し、ペダルを踏み込んだ。噴射の勢いで大尉のザクの脇を抜ける。
土に刺さった盾が画面の端へ流れる。つい先ほどまであれを前へ回し、何度もこちらを通してくれた。今はその陰から撃ってくれる者がいない。
車体下部の機関砲座がこちらを追う。私は砲口を向けたまま近づき、その奥へもう1発撃ち込んだ。噴き出した炎と破片が胸の装甲へ当たる。そのまま左手を右腰へ伸ばし、ヒートソードを抜いた。
上から撃ち下ろす弾が左腕を叩く。警告が点いたが、手は動く。赤熱した刃を構え、砲撃で裂けた車体の側面へ右足を掛けた。背部の推進器を吹かして上体を持ち上げると、甲板の対空機関砲座が目の前へ出る。
機関砲の砲身が下がってきた。その根元へヒートソードを振り込み、砲架ごと押し倒す。返した刃で隣の機関砲の砲身も断つと、砲座の奥から火が噴いた。操縦席まで熱が届いた気がしたが、私はまだ次の銃口を探していた。
『少佐、頭を下げて下さい!右の砲座を撃ちます!』
声に反応して機体を沈める。後ろから飛んできたバズーカの弾が、こちらを狙っていた機関砲座へ入った。爆発で頭部の映像が白くなり、戻った画面の中へザクが上がってくる。反対側にはグフもいた。ヒート剣が振り下ろされ、上を向いていた機関砲の砲身が甲板へ倒れた。
別々の方向から上がったMSが、それぞれ目の前の火点を潰していた。だが、左奥のザクは撃とうとしたところで腹を貫かれ、甲板から落ちていく。大型艦橋の下に、まだ機関砲が生きていた。
私はバズーカをその機関砲座へ向け、撃ち込んだ。隣のザクも続き、吹き飛んだ砲盾の奥へ2発目が入る。今度こそ弾列が途切れた。だが、その奥では左舷の3連装主砲塔が、私たちのいる甲板へ砲身を回し始めていた。
正面の防楯へバズーカを撃つ。爆炎が3本の砲身を包んだが、煙を押し分けて旋回は続いた。分厚い装甲には黒い傷しか残っていない。アレクサンドリアの新型ガンタンクと同じである。正面から何発撃っても、こちらの弾が減るばかりだ。
『陸戦艇各隊、撃ち方待て!MSが甲板へ上がった!』
『2番艇、撃ち方待て!』
ギャロップ隊からも射撃を止めたとの報告が続いた。
私は機関砲座の残骸に沿って甲板を走り、主砲の下へ潜り込んだ。防楯の脇を抜けたところで甲板を蹴り、背部の推進器を吹かして砲塔の上面へ跳び乗る。足の下でなお旋回しようとする振動が伝わってきた。
左手のヒートソードを逆手に持ち直し、足元の装甲の継ぎ目へ突き立てた。今度は無理に押し込まず、刃先の周囲が赤く溶けるのを待って膝を曲げる。手首の負荷を確かめながら少しずつ機体の重みを掛けると、刀身が砲塔の内部へ抜けて足元の振動が止まった。
ヒートソードを引き抜くと、開いた穴から炎が噴いた。私は砲塔の後ろへ跳び下り、右手のバズーカを大型艦橋へ向ける。後部の3連装主砲塔もまだ動いていたが、その背面へグフが回り込んでいた。振り上げたヒート剣を後部の装甲へ突き立て、そのまま横へ引く。裂け目から黒煙が漏れ、主砲塔の旋回が止まった。
前部大型砲の後ろにもザクが取りついている。ヒートホークで後部の覆いを割り開き、退いたところへ別のザクがバズーカを撃ち込んだ。砲を支える構造物の内側で爆発が続き、車体の前へ突き出していた太い砲身が下がる。隣の大型砲にも、もう1機が上がっていた。
「大型艦橋を撃って下さい!手前の砲座はこちらで押さえます!」
隣のザクたちがバズーカを構える間に、私は手前の砲座へ狙いを移した。ザクの撃った砲弾が窓の並ぶ区画へ飛び込み、外壁が内側へ折れる。爆発が収まる前にもう1発が内部で炸裂し、大型艦橋の前半分が支えを失って傾いた。
足元からも火が上がり始めており、私はヒートソードを構え直し、甲板の縁へ機体を向ける。前部大型砲の方で火柱が上がり、取りついていたザクが砲架から飛び下りた。後部の主砲塔から離れたグフも、大型艦橋の脇を抜けてくる。
『離脱!車体から離れろ!』
地面へ跳び下り、膝を深く曲げて着地する。続いたザクを避けて走ると、背後で大きな爆発が起きた。振り返った先では大型艦橋が炎の中へ沈み、車体の継ぎ目からも黒煙が噴き出している。
砲声は戻らなかった。大きな砲身が斜めを向いたまま止まり、私たちを追っていた対空機関砲座も動かない。
私はヒートソードを下ろせずにいた。刃先の向こうでビッグ・トレーが燃え続ける。地図上では、フォレス大尉の識別表示が私の後方に残ったままだった。
基地の奥から、また砲弾が飛んできた。
土砂を浴びて機体を屈ませると、歩兵隊から火点の位置が送られてくる。陸戦艇を2両潰しても、壕と建物に残った兵までは消えていない。私はヒートソードの加熱を切り、歩兵が指し示した方へバズーカを向けた。
レティ03から呼び出しが入った。こちらへ進んでよいかと尋ねる声に、足元を確かめてから答える。
「来て下さい。大尉の機体はこちらの後方です。回収隊へ位置を送っておきます」
『大尉は……?』
私は一度、唾を飲んだ。口の中が乾いていて、喉がうまく動かない。
「操縦席に直撃を受けました」
返事までに少し間があった。了解と答えた声は、先ほどまでより低かった。
3番機が歩兵を伴って進んでくる。私は左手のヒートソードを固定架へ戻し、バズーカの弾倉を交換した。まだ弾薬は来る。回収車両も来る。私たちは道を空けて、次の陣地へ向かうことになった。
地上の司令施設を占領したとの報告は、午後に入ってから届いた。建物の入口へ歩兵が取りつく間、私たちは周囲の砲座を押さえていた。最後は中から出てきた士官が、小銃を向けられたまま両手を上げたという。
その士官の階級は大尉だった。基地司令官と主だった幕僚は、ビッグ・トレーへ移って指揮を執っていた。その2両が失われた後、地上の司令施設に残った将校のうち最も階級が高かったのが、この大尉だったと後の報告で知った。
通信室に残った兵たちも、切れた回線をつなぎ直しながら各陣地へ命令を送っていたらしい。陸戦艇を失っても、地上の指揮は途切れていなかったのだ。
捕らえられた大尉が残存部隊へ射撃中止を命じると、返答のあった陣地から少しずつ銃火が途切れた。無線の通じない場所へは、白い布を持たせた連邦兵を歩兵隊が連れていく。私も砲口を上げ、壕から出てくる者が武器を置くまで待った。
夕方までには、基地内でまとまった抵抗を続ける部隊はいなくなっていた。エルサレム制圧。HQからの通信を聞き、私はようやく機体を補給位置へ向けた。
3番機が少し後ろからついてくる。曲がり角へ入る時、私は左側を空けたまま一度待った。前へ出てくるザクはいなかった。
シュペーア技師は、戻ったイフリートの胸と左腕を見上げた。装甲には機関砲弾の跡が並び、肩にはビッグ・トレーから飛んできた破片が刺さっている。左手を開き、手首を返して見せると、技師は一度だけ頷いた。
『手首は動いていますね』
「ええ」
『後は記録を見ながら点検します。少佐は降りて休んで下さい』
私は武器を預け、操縦席のハッチを開いた。梯子へ足を掛けると膝が少し震えたが、手すりを掴めば降りられた。技師は何も尋ねず、水を渡してくれる。
先遣隊の指揮車両では損害の集計が続いていた。ダブデは1両撃破、1両中破。ギャロップは16両のうち8両を失った。最後のビッグ・トレーへ突入したMSだけでも、撃破されたものは十数機に上る。帰ってきた機体も、すぐ使えるものばかりではなかった。
欧州方面軍の援軍がなければ、あの陣地へは南から押し込むしかなかっただろう。これだけの損害で済んだと書く者もいるのかもしれない。私は渡された名簿から目を離し、脇に積まれた空の弾薬箱を見た。
フォレス大尉の戦死も確認されていた。名前の横に、機体が撃破された位置と時刻が記されている。
私は自分の記録と照らして、その時刻を確かめた。大尉と最後に交わした通信も残っているはずだ。上は見ています。そう答えた私の声も。
「少佐、確認を」
中佐に声を掛けられ、私は名簿を返した。間違いありません、と答えると、中佐は受け取った紙へ目を落とす。次の報告を持ってきた兵が、その横で待っていた。
外へ出れば、負傷者を載せた車両が通っている。損傷したザクを引く回収車もいた。私はそれが過ぎるまで道の端に立ち、整備車両へ戻る代わりに、休憩に使うよう言われた建物へ入った。
部屋には連邦軍が置いていった机と椅子が並んでいた。窓の硝子は割れていたが、壁も屋根も残っている。椅子へ腰を下ろし、ヘルメットを机へ置いた。水の残った容器を両手で持ち、長く息を吐く。
次の出撃時刻は告げられていなかった。外を通る車両の音を聞いていても、もう立ち上がる必要はない。肩から力が抜けると、椅子の背が思っていたより硬いことに気づいた。
戸口で兵が立ち止まった。私の階級章を確かめてから敬礼し、手にしていた書類封筒を差し出す。
「ナカノミヤ少佐。宇宙からの報告です。司令部経由で届いています」
作戦が始まってから、ヨーツンヘイムからの報告は届いていなかった。受領した機体の記録を送り、その後はこちらの移動先を知らせるばかりである。
軍機とスタンプの押された封筒の差出人欄には、第603技術試験隊専属護衛独立戦隊とあった。私は水の容器を机の端へ寄せ、報告書を受け取った。
ご高覧ありがとうございます!
陸戦艇同士の陸上艦隊決戦というパワーワード。
大変素晴らしいと思います。
それにしても、ビッグ・トレーの主砲はデカ過ぎる、デカ過ぎます!
大きさから推定されている大型砲の口径が1mを余裕で超えているって、もう意味不明なんですが…
どんな破壊力になるんですかねぇ(呆れ)
それと、一応イグルーと言うわけで、オリジナルキャラクターであるフォレス大尉は戦死しました。
歴戦のベテランと雖も、一瞬の油断で戦死してしまうのがこの世界の共通事情ですね。
行き足の止まったビッグマートトレーに対して、そのまま艦隊決戦でトドメを刺せばええやんと思いますが、ジオン側も陸上戦闘のドクトリンが完全に確立しておらず、宇宙戦のノリで艦隊同士の撃ち合いの間にMSを突撃させるというのを陸でやってしまったと言う感じをやりたかったので、MS隊による突撃と大尉の戦死を同時に行わせました。
ジオン側は陸上戦をやるつもりは本当は無く、その準備を入念にする時間も無かった感じが出せていたら良いのですが…
エルサレム基地攻略の様子に関しては、アレクサンドリアの二番煎じになりそうな感じにだったので、文字数のこともありましたし今回は省略しました。
地上戦闘はこれで終わりになります。
如何でしたでしょうか?ご満足頂けていたら幸いです。
さて、今章は題名の通りもう一つの戦線を抱えています。
それは主人公の居ない宇宙での出来事。
宇宙では連邦軍がジオンの補給線を叩くべく、ある作戦が決行されようとしていました…
尚、アスカの渡された封筒の中身は、1番最後の方にやります。