技術試験隊斯ク戦ヘリ   作:ザクスキー2世

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第5章も終盤に差し掛かりました。
今回は遂に主人公の居ない宇宙戦です。
一体みんなはどうなってしまうのか…

三人称視点なので、コロコロスポットが当たっている人物が変わります。
もしかしたら読みにくいかもしれませんが、ご容赦願いたく思います。


第40話

 

 

 宇宙世紀0079年5月23日

 

 

「順調だな」

 

 マルティン・プロホノウ艦長は航路図で各艦の位置を確かめ、窓の向こうへ目をやった。ヨーツンヘイムの前方には複数のパゾクが進み、少し離れてパプアが並んでいる。サイド3を出た輸送艦隊はグラナダへ向けて予定の航路を辿り、加速を終えた今は各艦の間隔も一定に保たれていた。

 先ほど僅かに遅れていた輸送艦も、今は指定された位置に戻っている。操舵席では、3等航海士ドメニコ・マルケス*1が針路の表示を確かめていた。脇の筆記具が紐の先で浮き、姿勢制御の噴射に合わせてゆっくり壁へ寄った。

 

「次の変針まではこのままでいけそうです」

 

 マルケスの返事に頷き、艦長は2等航海士ジーン・ザビエル*2へ顔を向ける。彼女の前の画面に並ぶ艦隊各艦からの報告を見て、針路に変更がないことを確かめると、今度は通信席へ声を掛けた。

 

「護衛からは?」

 

「オキノトリシマより周辺に異常なしとの報告です」

 

「了解した。こちらも変わりなしと返しておけ」

 

 艦隊の外側を守るのは、ヌエ戦隊の旗艦オキノトリシマとミナミトリシマの2隻だった。アスカが地上へ降りている間は、副隊長のガネバン中尉が戦隊長代理を務めている。

 通信員が応答を返す間にプロホノウ艦長は積荷の一覧へ目を落とした。試験用の器材に加え、グラナダの造船所や整備施設へ届ける建造用部材、艦艇やMSの交換部品が並んでいる。普段は埋まらず空いているような区画にも、今回はそれらの荷がギッシリと積み込まれていた。

 

「着いてからもこうすんなりいけばいいがな」

 

 隣で書類を確認していたモニクが顔を上げる。

 

「荷役の順序は先方に伝えてあります。変更があれば入港前に知らせてくるでしょう。何をそんなに心配されているのですか?」

 

「ところが着いてみたら話が違う…ということもままある。特務大尉にも、そういった覚えはありませんかな?」

 

 モニクは返しかけた言葉を呑み、書類をもう一度見直した。艦長もそれ以上は言わず、窓の向こうを進むパゾクへ視線を戻す。

 モニクは書類を抱え直して艦橋を出ていった。

 

 

 居住区から通路へ出ようとしたララァは、不意に手すりを掴んで身体を止めた。前を行くミアは曲がり角を回りかけている。その背中へ声を掛けようとして口を開いたが、何と言えばよいのか分からなかった。

 誰かがこちらを見ている。

 振り返った先には照明のついた通路が続くばかりで、開いた扉の奥にいる乗員もこちらを見てはいない。机から浮いた紙を掴み、書類を留め直しているだけだった。

 もっと遠い。冷たい視線を辿って意識を広げると、岩塊やコロニーの残骸が漂う宙域に幾つもの気配が重なっていた。

 

「ララァさん?」

 

 ミアが戻ってきて隣の手すりを掴んだ。ララァはその顔を見たものの、すぐに通路の奥へ目を向ける。艦橋へ知らせに行きたいが、窓から見たわけでも誰かに聞いたわけでもない。あそこに人がいるとどう説明すればよいのだろう。

 こんな時にアスカさんがいてくれたら…

 そう思う間にも冷たい視線は離れず、ララァは背中を強張らせた。相手は残骸の陰で息を潜め、こちらが近づくのを待っている。

 

「ミア……私たち見られているわ」

 

「誰かいるんですか?」

 

「船*3の外よ。軍艦やコロニーの残骸があるところに、たくさんの人がいるの」

 

 ミアはすぐには答えず、ララァが見つめる方へ顔を向けた。そこには区画番号の書かれた壁と消火器材を収めた扉があるだけだった。

 

「外って…護衛の人たちじゃないんですか?」

 

「違うわ、もっと遠く。隠れて私たちが来るのを待っているの」

 

 ララァは手すりを握り直した。話している間にも気配は近づいてくる。早く伝えなければと思うほど、言葉が出てこなかった。

 ミアはしばらくその顔を見ていたが、やがて格納庫へ続く通路へ目を向けた。

 

「……まずはマイ中尉に話してみましょう。今なら格納庫にいるはずですし…」

 

「でも、何て話せばいいのかしら?……ミアには感じられないのよね?」

 

「私には分かりませんが、マイ中尉なら何か調べてくれるかもしれませんよ。一緒に行きましょう」

 

 ミアが手すりを押して先に進み、曲がり角で振り返った。ララァも後を追い、通路の手すりを掴んで向きを変える。何度か後ろへ目をやったが、そこにいるのは今しがた通り過ぎた乗員だけだった。

 

 マイは右舷格納庫の作業区画で端末へ記録を入力していた。その向こうには固定架に収まったヅダがあり、ワシヤが操縦席の脇でハッチの縁を掴んでいる。整備兵の差し出した端末を覗き込み、点検項目を確かめているところだった。

 ミアが作業区画へ近づいて声を掛けると、マイは振り向いて入力の手を止める。

 

「マイ中尉、もしかしたら敵が近くにいるかもしれません」

 

「敵?何を言っているんだい?艦橋から連絡があったのか?」

 

「いえ、実はララァさんがそう言うんです。私には、その…よく分からないんですが……」

 

 マイはミアの後ろにいるララァへ顔を向けた。

 

「ララァ、窓の外に何か見えたのかい?それとも誰かが話していたのかな?」

 

「いいえ、目で見たわけではありません。ただ、遠くで大勢の人が息を潜めているのが分かるんです」

 

「その人たちがこちらを狙っているのかい?」

 

「はい、怖がっている人もいます。でも私たちを襲おうと、遠くで隠れて待っているんです」

 

「その君の言う隠れている方向というのは分かるかい?」

 

「はい、あちらの方にたくさんいます」

 

 ララァは顔を上げ、艦の左前方に当たる方角を指さした。

 

「残骸の陰に大勢隠れています。もうだいぶ近づいてしまいました……」

 

 手を下ろしても、ララァの目は格納庫の壁の向こうを見つめていた。マイはその横顔を見てから、壁の通信器へ手を伸ばす。

 

「艦橋取れますか、マイ技術中尉です。艦長へ報告があります」

 

 応答を待つ間にミアがララァの隣へ寄り、点検を終えたワシヤも操縦席の脇から降りてきた。何か言いかけたが、マイが通信器を耳に当てているのを見て口を閉じる。ヅダの足元では、整備兵たちが工具を収めていた。

 

『私だ。マイ技術中尉、どうした?』

 

「艦長、ララァがこの艦隊を狙う敵の気配を感じると言っていますが…」

 

『なにぃ?……それは一体どこにいる?方角は分かるか』

 

「本艦の進行方向、向かって左前方です。残骸の陰に大勢いると言うので、進路近くの残骸群かもしれません」

 

 回線の向こうで紙の擦れる音がし、マイは通信器を耳に当てたまま艦長の返答を待った。

 

『……分かった、こちらでも調べる。ワシヤ中尉はそこにいるか?』

 

「はい、すぐそばにいます。ヅダの点検も済んでいます」

 

『念のため搭乗待機だ。格納庫の通路も空けておけ』

 

 通信を切ったプロホノウ艦長は、艦橋の前方へ顔を向けた。

 

「副長、対空警戒を厳とせよ。見張りを増やして左前方の残骸群を確認しろ。総員第二種戦闘配置」

 

 傍らのエーリッヒ・クリューガー副長が、艦内放送の送話器を取った。

 

「はっ!総員第二種戦闘配置!!対空警戒を厳とせよ!見張り員は左前方の残骸群を重点監視!」

 

 ヨーツンヘイムの艦内に警報が鳴り、クリューガー副長の声が放送で響き渡った。ノーマルスーツの着用も命じられ、乗員たちは支度を整えて各部署へ向かう。艦橋へ戻った要員は、命令と復唱を直接聞き取れるようヘルメットを外して席についた。モニクも顔を顰めながら、ヘルメットを脇の固定具へ収める。

 

「艦長、敵影を認めたのですか?」

 

「いいやまだですが、どうも気になる報告がありましてな。何もなければそれでよい」

 

 そう答えると、艦長は通信席へ顔を向けた。

 

「通信員、護衛へ今の話を伝えろ。他の輸送艦にも警戒を知らせるんだ」

 

「了解!艦隊各艦へ警戒通報を発します!」

 

 呼び出しにはオキノトリシマが先に応じた。報告を受けたガネバン中尉はミナミトリシマにも左前方の残骸群への光学監視を強めさせる。輸送艦から届く受信確認に続いてヌエ戦隊のMSを待機させるとの連絡も入った。ヨーツンヘイムの通路では、対空砲座へ向かう兵と格納庫へ急ぐ整備兵がすれ違っていた。

 マイから搭乗待機の命令を伝えられたワシヤは、ララァの顔を一度見てから頷き、ヘルメットを取りに向かった。

 ミアもノーマルスーツを着込み、ララァには予備の1着を渡した。着方を教えながら手を貸し、ヘルメットと手袋の接続を確かめてから、気密の表示を一緒に確認する。

 

 左前方の残骸群を監視していたヨーツンヘイムの見張りが小さな移動する光を捉えた。残骸の隙間で瞬いた光は星の並びから離れ、すぐに消えたかと思うと、その脇でもまた幾つかが瞬き始めた。

 見張りが拡大映像を艦橋へ送る間にも、別の方角から噴射光が現れた。正面の画面が切り替わり、報告の声が飛ぶ。

 

「左前方、接近する機影複数、まだ増えています!」

 

「識別は?」

 

「IFF応答なし!映像解析の結果、機影は戦闘機と思われます!」

 

 プロホノウ艦長は椅子の肘掛けを掴んだ。

 

「総員第一種戦闘配置!!各艦へ敵襲を知らせろ!ヌエ戦隊へ映像を送り、MS隊の発進を要請しろ!」

 

「第一種戦闘配置!!第一種戦闘配置!!対空戦闘用意!!」

 

「オキノトリシマ、ミナミトリシマより入電!MS隊、発艦を開始します!」

 

「ワシヤ中尉も上げろ!」

 

 再び警報が艦内へ鳴り渡る中、副長は艦長の脇で各部署の配置報告を受け始めた。モニクは前方の画面を睨みながら格納庫を呼び出し、ワシヤの発進を急がせる。

 上部の対空砲座では要員が座席へ身体を固定し、照準器に機影を捉えようと連装の銃身を旋回させていた。

 

『オキノトリシマより艦隊各艦。直ちに最大出力で救難信号を発せよ。全方位へ現在位置と敵襲の状況を知らせろ。送信終了後にミノフスキー粒子を戦闘濃度で散布する』

 

 ガネバン中尉の指示を受け、通信員は送信機の出力を最大へ上げた。ザビエルから受け取った現在位置と針路に艦隊の識別符号と敵襲の状況を添えて全方位へ送信する。周囲の輸送艦もミノフスキー粒子で遠距離通信が妨げられる前にと救難信号を繰り返していた。

 だが、返信を待つ余裕はなかった。

 機影の一つが短く光ったかと思うと、少し遅れて先頭のパプアの周囲に閃光が走った。艦体から離れた細かな破片が後方へ広がっていく。

 

「パプア被弾!敵機、艦隊へ侵入します!」

 

「対空戦闘、撃ち方始め!味方艦への誤射に注意しろ!」

 

 砲術士のゼン・ワーテルロー少尉が艦長の命令を各砲座へ伝えると、ヨーツンヘイムの上部で機銃が火を噴き、外の様子が見えない通路にも断続的な振動が伝わってきた。

 ララァを連れて居住区へ戻る途中、ミアは通路を急ぐ兵に道を譲った。兵が行き過ぎると同時に隣のララァの肩が跳ね、手すりから指が離れる。

 

「ララァさん?」

 

「……なんでもないわ。行きましょう」

 

 ミアはその手を掴んで引き寄せた。

 

「手を離さずこっちへ来て下さいね。中へ入ったら扉を閉めます」

 

 ララァは頷いたが、視線はミアの顔を通り越していた。遠くに重なっていた気配が今は一つずつ離れ、艦の周囲へ広がっていく。ミアに手を引かれるまま進みながらも、その動きから意識を離せずにいた。

 

 

 ワシヤは操縦席へ身体を収め、ヘルメットの接続とベルトを確かめた。整備兵が離れたところでコックピットハッチを閉めると、足元の作業員も外部の接続を外して退いていく。起動した画面には自分に合わせて設定された数値が並び、座席もペダルも調整した位置に収まっていた。

 各部の点検表示が緑に揃うと、バックパック上部を保持した搬送装置が動き出した。発進位置へ送られたヅダにザクマシンガンが渡され、ワシヤは残弾の表示を確かめる。

 

『ワシヤ、機体に異常はない。推進剤も補給済みだ』

 

「こっちも確認した。マイ、外は何機いる?」

 

『まだ数え切れていない。セイバーフィッシュが残骸群から次々に出てくる』

 

「おいおい、何個飛行隊いるんだ?見えてる分だけでも知らせてくれ」

 

 ワシヤが話す間にも、開き始めたハッチの向こうで砲火が交わされていた。訓練では帰投するまでずっと標的の位置を教えてもらえたが、今は画面の端へ入る機影の一つ一つを自分でも確かめなくてはならない。

 

『ヅダ、発進準備完了。進路上、障害物なし』

 

「了解、ワシヤ出るぞ!」

 

 発進装置の噴流偏向板*4が、ヅダの背後で立ち上がった。メインスラスターを全開にすると、推進炎が板に沿って逸れた。ランプが赤から緑に変わり、固定を解かれたEMS-04Sが勢いよく滑走して宇宙へ放り出される。ワシヤは艦外へ出てから姿勢を直し、ヨーツンヘイムとの距離を取ったところで噴射を弱めた。

 発進前には正面に見えていたパゾクが、今は斜め下にある。その艦首すれすれを小さな機影が横切り、上方のパプアから伸びる機銃弾を避けて向きを変えた。ワシヤが銃口を向けようとしたところへ、ガネバン中尉からMS隊への指示が入る。

 

『ライヒ中尉、パゾクへ向かう敵を優先して落とせ。ヨーツンヘイムはワシヤ中尉に任せる!』

 

『了解、こちらは前へ出ます。ワシヤ中尉はヨーツンヘイムの左側をお願いします。追い過ぎないで下さい』

 

「了解、左側は引き受ける」

 

 護衛艦から出た3機のザクI Q-2型が、艦隊の前方へ散っていく。ライヒ中尉が前方のパゾクへ迫るセイバーフィッシュを撃つと、スミス少尉とヘルベルト少尉も左右へ開き、別のパゾクへ回り込もうとする敵に銃口を向けた。

 救難信号の送信を終えたオキノトリシマに続き、ヨーツンヘイムも各艦の送信終了を確かめてミノフスキー粒子を散布した。索敵画面の反応が不安定になり、艦橋から届く敵機の位置情報も途切れ始める。ワシヤは最後に受信した位置を確かめ、正面の映像に機影を探した。

 画面の左上を流れる噴射光へ銃口を向けると、先頭のセイバーフィッシュが機首を振り、その後ろの1機が横へ開いた。先頭を狙い続ければ、後続に側面を取られる。ワシヤは回り込んでくる機体へザクマシンガンを短く撃ち、ヅダを下へ滑らせた。

 敵の射撃は頭上を抜けたが、こちらの弾も当たらなかった。先頭のセイバーフィッシュは既に遠ざかり、後続も大きく弧を描いて離れていく。

 

「よく動くな、おい」

 

 ワシヤは踏みかけたペダルから足の力を抜いた。ヅダなら追いつけるかもしれないが、敵機を追って艦から離れれば、左側へ来る次の相手を止められなくなる。

 銃口を戻し、艦体の向こうへ消えかけた別の機影を探していると、前方からライヒ中尉の通信が入った。

 

『02より全機、深追いはしないで。艦へ向かってくるのを先に落とすわよ』

 

『こちら03、了解!前からまた来るぞ!』

 

 前方に噴射光が一つ増え、すぐその横にも現れた。先ほどの組はまだ横の画面で旋回しており、こちらへ向かってくるのは別の敵だった。

 数えている間にも増えていく。ワシヤは正面へ向き直り、操縦桿を握る右手に力を込めた。

 

 

 オキノトリシマの見張りは、戦闘機が現れた方角を引き続き監視していた。残骸群の端に大きな艦影を認めて映像を拡大すると、その後ろからも巡洋艦が続いている。3隻とも艦首をこちらへ向け、残骸の陰から出てくるところだった。

 

「敵巡洋艦3隻、サラミス級です!接近してきます!」

 

「敵先頭艦、主砲の有効射程に入ります!」

 

 ガネバン中尉は測距の表示を確かめた。この距離なら、サラミス級が有効な砲撃を始めるまでに先手を取れる。

 

「主砲、目標は敵先頭艦!ミナミトリシマも同一目標へ集中しろ!」

 

「目標、敵先頭艦!主砲射撃用意よし!」

 

「一斉撃ち方、撃ち方始め!」

 

 ムサイ級から移設した連装メガ粒子砲が火を噴いた。艦隊の脇から伸びる光がサラミスの艦首を掠め、針路を変えようとするその前方をミナミトリシマの砲撃が横切る。

 オキノトリシマが艦首を振って舷側を向け、片舷へ指向できる4基8門を敵へ揃えた。

 

「主砲、照準よし!」

 

「撃て!」

 

 斉射を避けて転針する先頭艦の進路へ、ミナミトリシマの射撃が重なった。サラミスの前部で閃光が膨らみ、上甲板から剥がれた砲塔の一部が白い噴出と共に艦の後方へ流れていく。

 

「敵先頭艦、前部主砲に命中!砲塔の破損を認めます!」

 

「撃ち方続け!後ろの2隻も見失うな!」

 

 先頭艦の脇から別のサラミスが出ようとしていた。ガネバン中尉がそちらを指すと、砲術担当も敵艦の位置を確かめる。

 

「目標変更、先頭艦の左へ出た艦!」

 

「左の艦へ目標変更!」

 

 主砲が向きを変え、輸送艦へ近づこうとするサラミスに斉射を浴びせた。その間に輸送艦も次々と推進器を噴かし、指示された針路へ転じて増速する。護衛の2隻は輸送艦と敵巡洋艦の間に留まり、射撃を続けていた。

 

 

 連邦軍のサラミス級3隻は、砲撃位置へ向かう途中でジオン側の先制射撃を受けた。その後方には航空機を発進させたコロンブス級3隻が留まり、攻撃隊からの報告を待っている。

 コロンブス2隻から発進したセイバーフィッシュは4個飛行隊56機に上った。母艦の警戒に残る直掩機を除き、後続の編隊も輸送艦隊へ向かっている。母艦の格納区画には10機ずつの予備機が収められ、整備兵たちは帰投機の収容に備えて弾薬と推進剤を補給する場所を空けていた。

 残るコロンブスから出たパブリク10機は、戦闘機とは少し違う進路を取っていた。姿勢を変える度に、艇体の下部に抱えた大型対艦ミサイルが噴射炎に照らされる。

 この襲撃もジオンの補給航路を断つヘリオン作戦の一部だった。目標の輸送艦はなお攻撃隊の前方を進んでいる。護衛のMSが出てきても、引き返す命令は出なかった。

 

「敵MS4機を確認。輸送艦の周囲から離れません」

 

 報告を受けたサラミスの指揮官は、ジオン艦隊の外側から撃ち続ける2隻へ目を向けた。先頭艦からは既に前部主砲の使用不能が伝えられ、回避に転じた僚艦の後方をまた別の斉射が抜けていく。輸送艦へ砲を向ける前に、こちらが叩かれている。

 

「護衛艦へ砲撃を集中しろ。攻撃隊を通すんだ」

 

「パブリク隊への指示は?」

 

「予定どおりだ。戦闘機隊の後から突っ込ませろ」

 

 サラミスは回避を挟みながら距離を詰め、有効射程へ入った艦から主砲を発射して、オキノトリシマとミナミトリシマへ撃ち返した。その前方では、既に砲戦の宙域を抜けたセイバーフィッシュの編隊が、輸送艦を狙って大きく広がっていた。

 

 

 サラミスの反撃がオキノトリシマの脇を抜けた。

 ガネバン中尉は転舵を命じた。前部主砲を失った先頭艦も残る砲で撃ち返し、その両脇から僚艦が進み出てくる。左右へ広がる2隻を見て、ミナミトリシマを呼び出した。

 

「ミナミトリシマ、右へ出た艦を押さえろ。本艦は左を撃つ。艦隊の外側を維持しろ!」

 

 オキノトリシマの主砲が左へ回り込むサラミスを追って斉射を浴びせると、敵艦は傾き、こちらへ向けていた砲口を逸らした。右側でもミナミトリシマが射撃を続け、もう1隻に針路を変えさせていた。

 

 砲撃の合間に輸送艦の位置を確かめると、左側のパプアが取り残され始めていた。先ほどの攻撃で艦体後部と推進器を損傷し、増速できないと報告してきた艦だ。その周りにはもう戦闘機が集まっている。

 

「ライヒ中尉、遅れているパプアへ援護を回せるか?」

 

『こちらから1機回します。ただ前方も敵が増えています』

 

「長くは留まらせるな。こちらからも近づく」

 

 オキノトリシマがパプアへ近づこうと針路を変えたところで、敵の一射が艦首を掠めた。艦橋が激しく揺れ、前へ投げ出されかけたガネバン中尉の肩にシートベルトが食い込む。

 前部外装に損傷はあるが、主砲と機関に異常はない。報告が終わる前にオキノトリシマは次の斉射を放ち、左のサラミスの艦腹を捉えた。装甲が内側へ裂け、噴き出した炎と共に破片が散っていく。ガネバン中尉は操舵手へ針路を指示し、砲術担当にはそのまま撃たせた。

 ミナミトリシマの上方では、セイバーフィッシュの一群が主砲の射線を横切り、輸送艦へ迫っていた。護衛艦が巡洋艦を押し戻している間にも戦闘機は艦隊へ入り込み、パプアの周囲でまた小さな光が連なる。

 

 パプアへ向かったヘルベルト少尉は、艦にまとわりつく2機へザクマシンガンを撃った。セイバーフィッシュは上下へ分かれ、片方を追う射線の先に損傷したパプアが重なる。少尉は引き金を戻し、ザクを横へ滑らせて狙い直した。

 もう一方のセイバーフィッシュがザクの背後へ回ろうとした。ヘルベルト少尉が反転してそちらへ銃口を向ける間に、パプアの後部で新たな光が膨らむ。

 

『後部区画、火災発生!隔壁を……』

 

 途中で声が途切れた。

 裂けた外板の間から白い噴出が広がり、その中を細かな破片が飛んだ。ヘルベルト少尉は位置を変えながら撃ち返し、艦尾へ近づこうとする敵機を退かせる。

 パプアはなお機銃を撃ち続けていたが、推進器の噴射は戻らなかった。元の進路を漂う艦を残し、針路を変えた輸送艦隊は次第に遠ざかっていく。

 

『ヘルベルト少尉、戻れ。次の敵が来る』

 

 答えかけたヘルベルト少尉の目に、パプアの艦体を離れようとする小さなランチが映った。

 

「待って下さい、ランチが出ています!艦を離れるまで援護させて下さい!」

 

『ランチはこちらで援護する。君は後退しろ』

 

 ザクの向こうでオキノトリシマの砲塔の一部が向きを変え、パプアへ迫る敵機の進路をメガ粒子砲の光が横切った。セイバーフィッシュが上下へ散る間にランチが艦を離れ、ヘルベルト少尉もその後を追うように機体を下げる。サラミスへは残る砲塔とミナミトリシマが撃ち続けていた。

 ヘルベルト少尉は遠ざかるパプアへもう一度目を向けた。まだ出てくるランチがあるかもしれないが、戻れという命令に従うしかなかった。

 

 ヨーツンヘイムの左側では、ワシヤが艦へ迫るセイバーフィッシュを追っていた。先頭機が機首を上げてザクマシンガンの弾列を越える。ワシヤはそれ以上銃口を上げず、後続が射線へ入るのを待って再び引き金を引いた。

 翼の付け根で光が散り、旋回しかけた敵機が傾いた。噴射の途切れた胴体へさらに弾が食い込み、内側から膨れ上がると同時に折れた翼が飛んでいく。

 落とした。だが、先頭はまだいる。

 先頭機へ銃口を戻すより早く、ヨーツンヘイムの機銃弾がその進路を横切った。艦から離れる方へ向きを変えたところへワシヤも撃ち込み、さらに遠ざかるのを見届けて周囲へ目を配る。

 

「左の敵、1機撃墜!もう1機は外へ逃げた!」

 

『確認した。ワシヤ、上方にも敵が来ている』

 

「見えてる!そっちは艦の機銃で頼む!」

 

 雑音の混じる返事を聞きながら、ワシヤはヅダを艦首寄りへ移した。艦体後方を掠めたセイバーフィッシュが向きを変え、追いすがる機銃弾の下へ潜り込む。ザクマシンガンを向けた時には、もうヨーツンヘイムの艦腹に遮られていた。

 

 ワシヤがヅダを横倒しにして艦底へ回り込むと、視界の端でセイバーフィッシュの発射炎が閃き、ヨーツンヘイムの外板がめくれ上がった。攻撃を終えて離脱しようとする敵機へザクマシンガンを撃ったが、セイバーフィッシュは弾列を避け、噴射を強めて艦尾側へ逃れていく。

 外板の破口から白い噴出が一筋延び、やがて細くなった。ワシヤは離脱する敵機へ銃口を向けたまま、マイを呼ぶ。

 

「艦底に被弾!敵機が下を抜けたぞ!」

 

『被害は確認した。ワシヤ、左前方へ戻れるか?別の編隊が入ってきた』

 

「離れたら今のがまた来る!」

 

 返してから、ワシヤは舌打ちした。マイへ怒鳴ったところで機体は増えない。ヅダを上方へ戻そうとすると、離れたはずのセイバーフィッシュが再び機首を向けてきた。

 別の1機も加わり、ヅダがヨーツンヘイムへ寄れば左右へ開き、艦底を離れようとすれば距離を詰めてくる。残弾は少なく、次に長く撃てば弾倉の交換が必要だった。ワシヤは艦体との間隔を保ち、接近してくるのを待つ。

 

 格納庫の管制席で、マイはヅダの映像と各砲座からの報告を照らし合わせていた。上部の機銃4基は頭上の敵を追えても、側面へ向けられるのは片側の2基だけだ。艦底に入られると、射線が自艦の艦体に遮られてしまう。

 ワーテルロー少尉は左側の砲座へ射撃を続けるよう指示していた。だが、ヅダが艦底に回った今は側面の敵も機銃だけで防がねばならず、応援を求める声が重なる。ライヒ中尉の小隊にも余裕はない。パプアから戻ったヘルベルト少尉も、艦隊の前方を抜けようとする敵の迎撃に加わっていた。

 艦隊にはヨーツンヘイムの他にも守らなくてはならない艦があった。

 

「マイ中尉、あのザクを出せないか?俺が乗る!」

 

 オッチナン・シェル中尉が指さした先には、部品の適合確認用に積み込まれたJ型のザクがあった。固定架に収まる機体の肩の脇には、搬入時の札がまだ付いている。

 

「あれは地上用のJ型だ!AMBACも使えないのに、一体どうやって戦うつもりだ!?」

 

「ならヨーツンヘイムに掴まっていればいいじゃないか!下まで行ってそこから撃つ!」

 

 機銃の振動が足裏へ伝わってくる。マイはヅダの映像から開いた格納庫ハッチへ目を移し、ザクへ向かおうとするオッチナンを呼び止めた。

 

「待て、そのままでは撃った反動で艦から離れてしまう!ワイヤーをつけるまで外へは出るな!」

 

「分かった、早く頼む!」

 

 マイは艦橋を呼び出し、J型を艦底に固定して機銃の死角を補うつもりだと伝えた。途中で被害報告が割り込み、マイは通信器を握ったまま艦長の返事を待つ。

 

『技術中尉が使えると言うなら任せよう。こちらも砲撃を避けて艦を動かすから、振り落とされるなよ』

 

「分かりました。その間は機体を止めますので、針路や速度を変える前に一報を下さい」

 

 通信が終わるのを待たず、ユルゲン・ヘプナー甲板長が作業員にワイヤーを巻いたリールを運ばせた。整備兵がザクの外部電源をつなぎ、オッチナンが操縦席へ入る。機体の腰では、作業員たちがワイヤーの取りつけを急いでいた。

 閉じていたザクの指が開き、操縦席から腕の固定を外せという声が飛んだ。

 マイは艦体の構造図を開き、整備兵と共に固定箇所を探した。ザクを繋ぎ止めて射撃の反動にも耐えられなくてはならない。外板の縁ならどこでもよいわけではなく、艦底まで移動するための手掛かりと足場も確かめていく。

 

「ハッチから少し遠いが、艦底のこの補強材なら足を掛けられる。途中の足場も送るから順に辿ってくれ」

 

『頼むぞ。外へ出てから探していたらやられちまうよ』

 

 格納庫へ戻ってきたミアは、ララァを内側の区画へ連れていき、そばにいた乗員へ付き添いを頼んだと報告した。何を手伝えばよいかと尋ねられ、マイは構造図を開いた端末へ彼女を招く。

 

「ミア、僕がワイヤーを見るから、シェル中尉に足場を教えてここまで誘導してくれ」

 

「分かりました。足場の印をカメラの映像に重ねられますか?」

 

「ああ、重ねられるが印がずれることもある。掴む場所は映像でも確かめてくれ」

 

 ミアが隣の席につく間に、整備兵がザクマシンガンを2丁運んできた。艦外で受け渡さずに済むよう機体の両脇の固定具へ収め、予備の弾倉も銃の脇に留めていく。

 オッチナンはザクの手を伸ばし、銃と弾倉に届くか確かめた。どちらも固定具に留めたまま腕を戻し、移動に備える。

 外部電源と点検用のケーブルが外されると、ヘプナー甲板長は作業員を退避させた。固定架の拘束が解かれ、ザクが動き出すのに合わせて腰のワイヤーも少しずつ送り出される。

 

 ヨーツンヘイムの下を横切ろうとするセイバーフィッシュの進路へワシヤが弾列を置くと、先頭が外へ逃れ、後続も間隔を広げた。ワシヤは追い払った方へ銃口を向けたまま、マイの呼び出しへ答える。

 

『ワシヤ、今からシェル中尉のザクを出す。ハッチの周りを頼む』

 

「あのザクを?部品試験の機体だろう?」

 

『艦底に固定して撃たせる。そこまで移動する間は両手が塞がるから援護してくれ』

 

 ワシヤは艦底から右舷側へ回った。ハッチの内側で動くザクの頭部に一瞬目をやり、すぐに敵機へ銃口を戻す。

 

「分かった、こっちもそろそろ弾倉を換えたいから急いでくれよ」

 

 ヅダをハッチの外側へ寄せながら、ワシヤは再び近づいてくる敵へザクマシンガンを向けた。横の画面には後方へ離れていくパプアが映っていたが、その機銃はもう光っていない。

 その手前に戦闘機より大きな噴射光が現れ、少し離れたところにももう一つ続いた。映像を拡大すると、細い艇体の下部に大型対艦ミサイルが2本抱えられている。2機ともヨーツンヘイムへ向かってきていた。

 

「マイ、パブリクだ!下から入ってくる!」

 

 その声が艦橋にも届くと、プロホノウ艦長は転舵を命じ、マルケスが操舵装置を動かした。艦首が向きを変え始めたところで、ハッチの内側にいるザクが片手を伸ばす。

 

『シェル中尉、待て!転舵が終わるまで動くな!』

 

 マイの声にザクの腕が止まった。ハッチの向こうではヅダが射撃を始め、2機のパブリクが弾列を避けて左右へ分かれていく。

 転舵完了の連絡が艦橋から届くと、ミアは構造図と外部カメラの映像を確かめ、ザクへ足場の位置を送った。

 

『右手側の白い線の下です。張り出しているところを掴んで下さい』

 

「見えた、あそこだな」

 

 オッチナンはザクの指で艦体の縁にある補強材を掴み、腕を引きつけて機体をゆっくりハッチの外へ出した。腰から続くワイヤーが伸び、格納庫の光に照らされた脚が艦腹へ隠れていく。

 艦底の向こうでヅダの射撃がまだ続く中、オッチナンは次の足場へ手を伸ばした。

 

*1:
黄色のレンズのゴーグル型サングラスをしている、オレンジヘアーの男。軍属で階級は曹長相当官

*2:
黒人の女性航海士。ドメニコと同じく、イグルー本編でヨーツンヘイムの舵輪を握っている。同じく軍属で階級は曹長相当官

*3:
ララァは船と艦の違いが分かってないので、誤字では無い。

*4:
ジェット・ブラスト・ディフレクターのこと。




ご高覧ありがとうございます!

はい、ということで連邦側作戦名〝ヘリオン作戦〟の開始です。
今回はワシヤ中尉だけではなく、漫画版ですら影の薄過ぎたもう一人のテストパイロット、オッチナン・シェル中尉にも活躍してもらう予定です。
活躍、出来るかな?
あと、ララァは相変わらず動かし難い…口調とかも頭捻りますね…
今回に関しては、特に多く語れるわけでもないのでこの辺で…

次回予告としては、宇宙戦『中』になります。明後日が『下』ですね。
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