技術試験隊斯ク戦ヘリ   作:ザクスキー2世

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ルウム戦役続きです!


第5話

 ルウムの宙域に、チタンシルバーとサフグレーの装甲を纏ったヅダが漂っている。

 EMS-04S。そのコックピットでアスカは操縦桿を握り直した。指は動く。だが、次の艦影へ視線を移そうとするたびに胸が詰まり、息を吐くのが遅れた。

 初弾で沈んだマゼラン級の残骸は、もう画面の中央にはない。それでも死の間際の恐怖が離れず、口の中には噛み傷の血の味が残っている。額の汗を拭おうにもヘルメットが邪魔だった。

 

 後方では次弾の準備が進んでいた。砲術科と管制のやり取りが聞こえる。誰も彼女を急かしてはいない。それがかえって、観測を止めている時間を意識させた。

 アスカは一度だけ目を閉じ、長く息を吐いた。薄く開けた視界に照準枠を入れ、そこへ近づいてくる艦影を追う。まだ気分は悪いが、相手がどちらへ進んでいるかは分かる。

 それを後ろへ送ればいい。次の一隻だけを見ようと決め、観測画面を拡大した。

 

 初弾の爆発を避けた連邦艦が、左右へ針路を変えている。隊列の間隔が広がる一方、その後ろでは先行艦に進路を塞がれた艦が重なっていた。皆が同じ方向へ逃げられるほど、広く展開してはいない。

 手前のマゼラン級が艦首を振った。アスカの目は、その動きより先に奥のサラミス級へ移っている。

 

 艦影と噴射炎を見ているはずなのに、どの艦が待ち、どれが前へ出ようとしているのかが妙にはっきりと感じられた。躊躇する気配の中へ別の焦りが割り込み、艦列が詰まる。彼女はそこへ予測位置を置き、センサーが示す速度と突き合わせた。

 自分に流れ込むもの全てが邪魔なわけではない。その区別を考える余裕はなく、使えるものへ意識を寄せてデータをまとめる。

 

「メテオ01より管制。次目標、サラミス級。観測情報を送ります」

 

 声が掠れた。言い直さずに送信を続けると、150km後方のヨーツンヘイムから受信確認が返った。

 マイ中尉は二隻の位置を照合し、ヨルムンガンドへ射撃諸元を転送する。手前のマゼラン級と、奥の巡洋艦二隻。その位置関係を見たヘンメ大尉は制御席で身を乗り出した。

 

「なるほどな。手前の奴じゃねえのか」

 

 部下が読み上げる照準値に合わせ、砲身が僅かに向きを変える。大尉は接近していく二隻の予測位置を見据え、射撃の瞬間を待った。

 発射可能の表示が点く。

 ヨルムンガンドの第二射が、長さ200mの砲身から放たれた。

 

 アスカは上方を抜ける閃光に目を細めながらも、観測画面から顔を背けなかった。光量補正の働いた映像の中で、マゼラン級の側面が白く光る。

 掠めたのだ。旋回中の艦体から装甲片が剥がれ、赤熱した箇所を残して戦艦は射線の外へ流れていく。

 

 その奥にサラミス級がいた。

 一隻目の艦首が光の中に消える。艦橋まで続いていた輪郭が途切れ、そこから抜けたビームが後続艦の中央を貫いた。二隻目は艦体を傾け始めていたが、船尾だけが動いたように見えた。前と後ろを繋ぐ部分が既に失われている。

 先に爆発したのは後続艦だった。広がる光に隠れて一隻目が見えなくなり、やがて別の位置から破片が飛び出してくる。

 アスカは映像を引き、二つの識別枠を追った。どちらにも艦の形は戻らなかった。

 

「サラミス級二隻を……一発で!?」

 

 ヨーツンヘイムのオペレーターが叫んだ。歓声が上がり、隣の席から肩を叩かれてもマイは画面を見ている。射線と命中位置を記録し、掠めたマゼラン級の情報を残してから、次の受信欄へ目を移した。

 そこにはもう新しい観測値が届いていた。

 前方のアスカは、二隻が沈んだ場所を長く見なかった。胸の奥にまた何かが入り込んでくる。喉が引きつるのを堪え、別の艦へ照準を移す。

 混乱の中でも、周囲の艦が動きに合わせて針路を変えるマゼラン級がある。あれを残せば艦列はまとまり直す。彼女はその位置を記録し、ヨルムンガンドには別の戦艦の観測情報を送り続けた。

 

 大砲の次弾を待つ間に、自分も撃てる。

 連邦艦隊は既に砲撃を受けて散開を始めており、目標が重なって見える時間は短くなっている。観測に専念して砲へ全て任せるか、手元の火力も使うか。アスカは対艦ライフルの残弾表示を見た。

 五発ある。

 彼女は280mmMS用対艦ライフルASR-78を構え直し、自分で狙うマゼラン級へスコープを合わせた。

 

「管制、送信中の目標はそのまま追跡します。こちらも別目標へ射撃します」

 

「了解。観測の更新を確認している」

 

 マイの返事を聞いてから、アスカは引き金へ指を掛けた。

 

 距離はおよそ150km。艦は動いている。目に見える今の艦橋へそのまま撃っても、弾が届く時にはそこにいない。

 アスカが照準を置いたのは艦影から外れた場所だった。マゼラン級は旋回を続け、その先で針路を固めようとしている。彼女には、散った僚艦を呼び戻そうとする焦りまで感じられた。

 砲口を僅かに送る。最初の一発を放つと、座席の背へ衝撃が伝わった。

 ヅダの肩に掛かる負荷が上がる。アスカは発射に合わせて推進器を働かせ、後ろへ流れ始めた機体の姿勢を整えた。機体そのものの移動は止めず、照準だけを次の位置へ持っていく。

 

 二発目。排出された薬莢がモニターの端を横切った。

 反動のたびに腕の痛みまで増すような気がしたが、握り締めれば精度が上がるわけではない。アスカは指に掛ける力を緩め、三発目、四発目と続けた。

 

 残弾表示は一発。

 弾はまだ到達していない。彼女は銃を下ろさず、目標を追いながら後方へ送る観測値も更新した。撃ち終えた途端に胸の苦しさが戻ってくる。待つ間だけ息を浅くし、マゼラン級の動きを見据えた。

 

 艦橋の基部で小さな光が弾けた。

 その直後、艦橋が傾いて船体から外れる。艦の向きはまだ変わり続けていたが、続いて後部から破片が噴き出し、推進器の光が途切れた。

 三発目が船体へ潜り込む。少し遅れて内部から装甲板が押し上げられ、離れた箇所にも亀裂が走った。最後の一発は燃料タンクのある区画を捉え、そこから白い噴出が広がる。

 

 マゼラン級は姿勢を立て直さないまま、船体の中央から折れた。

 連続する爆発の中へ艦首が沈み込み、残った船尾も別の向きへ飛んでいく。アスカは命中時刻を記録へ残し、戦艦の識別枠を撃沈へ切り替えた。

 口の中へ唾が溜まる。飲み込むと吐きそうだった。彼女は顎を引き、どうにか次の呼吸を通した。

 

 ヨーツンヘイムのブリッジでは、マイが射撃記録を見直していた。

 艦橋、機関部、弾薬庫付近、燃料タンク区画。着弾位置を艦の構造図と重ねると、四発がそれぞれ別の場所に入っている。最初の命中を確認する前に、アスカは四発目を撃ち終えていた。

 途中で狙いを直した結果ではない。

 

「あの距離で、四発とも……」

 

 発射時の姿勢データへ戻る。反動は記録されている。ヅダの機体も動いていた。それでも次弾を撃つ時には銃口の向きが整っている。

 

 マイは数値を見比べかけ、次の観測情報を知らせる表示に手を戻した。今調べ始めれば射撃が滞る。記録には印だけを付け、ヨルムンガンドへ転送する。

 アスカが対艦ライフルで狙った戦艦とは別のマゼラン級。その位置は狙撃の間も更新されていた。

 

「ヨルムンガンド、次目標の諸元更新。受信を確認してください」

 

「届いてる。こっちはいつでもいいぞ」

 

 ヘンメの声が返る。マイは射線を確かめ、発射準備の完了を艦長へ報告した。

 第三射が放たれる。

 

 前方のアスカは一発を残した弾倉を抜きながら、その光を横目で追った。次の交戦に備え、今のうちに五発入りへ交換する。標的のマゼラン級は船体を捻ろうとしていたが、砲撃は中央を捉えた。光の広がりに艦影が隠れ、追跡表示がばらばらに分かれる。

 また沈んだ。

 次に来るものへ身構えてしまい、予備マガジンへ伸ばしたヅダの手が一瞬止まる。アスカは唇を結び直し、左肩のシールドへ取り付けてあった弾倉を掴ませた。

 

 抜いた弾倉を放し、新しいものを280mmMS用対艦ライフルASR-78へ差し込む。装填の完了表示を見て銃を戻すと、戦艦を失ったサラミス級二隻が左右へ離れ始めていた。

 一隻は針路を保ち、もう一隻はその後ろを横切ろうとしている。照準を振り回すより、艦影が離れるところを待った方が早い。

 

 彼女は先行艦へ二発を送った。続けて機体の向きを変え、さらに二発を後続艦へ放つ。

 先行艦の前部が崩れた時には、後続艦も横腹から破片を噴き出していた。二隻の推進器は別々の時刻に消え、一方の船尾が傾いたところへ、もう一方の爆発が重なる。

 アスカはそれぞれの残骸を区別して撃沈を報告した。

 

 ライフルには一発が残っている。シールドに残る予備マガジンは二つ。まだ撃てるが、手当たり次第に使えばすぐになくなる。

 彼女は弾倉交換を後回しにして、艦列の奥へセンサーを向けた。

 戦艦や巡洋艦の後方に、幅の広い艦影が見える。コロンブス級だ。開かれた発進口の付近から小さな熱源が離れ、次の機体がその後へ続いている。

 

 航空戦力を出そうとしているのだと分かる。その手前にはマゼラン級が一隻、発艦する機体の進路を空けるような位置を取っていた。

 アスカは二隻を同じ観測画面へ収めた。

 

 こちらからは離れて見えるが、ヨルムンガンドからならどうか。砲の位置を基準に表示を変えると、マゼラン級の進む先にコロンブス級の船体が重なった。

 すぐには揃わない。前の戦艦は針路を変えているし、後ろの空母も機体を出しながら移動している。アスカは両方の動きを追い、射線が通る位置と時刻を送った。

 

「管制、航空戦隊と思われる艦列を捕捉。手前のマゼラン級と後方のコロンブス級、両方の位置を送ります」

 

 マイの手元で二つの予測位置が近づく。彼は意味を理解すると、ヘンメへ一式を転送した。

 開放式の制御席でそれを受け取ったヘンメは、口元を緩める。二隻を一発でというだけなら先ほどもやった。今度は動く艦同士が重なる、短い間を撃てという注文だった。

 

「ハッハッハッ、面白え……俺に勝負を挑むって腹づもりだな?乗ってやろうじゃねえか、お嬢ちゃんよ!」

 

 砲術科の兵士が照準を読み上げる。ヘンメは表示から目を離さず、更新される数値に合わせて砲身を送った。

 まだだ。今撃てば手前の戦艦だけで終わる。

 

 後方のコロンブス級から一機が離れた。続く機体が発進口へ進む間に、予測線が船体を横切る。ヘンメはそこで引き金を引いた。

 ヨルムンガンドの第四射がマゼラン級を斜め前から捉えた。船体に開いた穴から光が抜け、その先でコロンブス級の発進口が白く染まる。

 出かけていた戦闘機が横へ弾かれた。空母の船体側面が内側から裂け、開口部に沿って小さな爆発が走る。それらが一つに重なる頃には、手前のマゼラン級も艦首と後部を別々の向きへ散らしていた。

 

 コロンブス級から先に発進していた機体が、爆発から離れるように進路を変えていく。次の編隊は出てこない。

 アスカは二隻の撃沈を伝えた。ヘンメが何かを叫び返す。言葉は聞き取れなかったが、笑っているのは分かった。

 

 その声に応じかけて、彼女は口を閉じた。艦列の端から、こちらへ向きを揃えた小さな光が四つ出てくる。

 戦闘機だ。

 これまで横へ動いていた艦載機とは違う。四機は間隔を保ったまま接近し、途中で左右と上下へ分かれた。アスカが動けば、その先を別の機が塞げる配置だった。

 相手は観測手を見つけたらしい。

 

「メテオ01、敵戦闘機四機が接近。迎撃します」

 

 アスカは観測情報を最後に一度送り、後方へ向けていた通信の追尾範囲を確認した。次の砲撃より、まず自分の機体を残さなくてはならない。

 

 接近する四機はFF-3Fセイバーフィッシュだった。

 先頭の二機がミサイルを放つ。上下へ離れた残りの二機は機関砲を撃ち、ヅダが逃げ込める範囲を狭めてきた。

 

 アスカはすぐには加速しない。ミサイルの軌跡と敵機の位置を見比べながら、進路を決めた者の気配を拾う。右から来る一機だけが、ほかより早く旋回を始めていた。

 そこへ誘い込もうとしている。

 彼女は逆側へ足を向け、スロットルを踏み込んだ。

 金星エンジンが推力を上げる。通常の土星エンジンに対して1.5倍の推力が機体を押し出し、アスカの背中が座席へ沈んだ。胸を膨らませにくい。短く息を継いだまま操縦桿を倒す。

 

 追って曲がるミサイルの外へ、ヅダは横向きに流れた。敵の機関砲弾がその先を横切り、彼女は進行方向を変える前に機体だけを傾けた。肩のシールドを引き、弾道に晒す幅を狭める。

 近くを抜ける曳光が視界を埋めた。装甲への直撃はない。だが、遅れて回り込んだミサイルが後方に残っている。

 アスカは速度を保ちながら噴射の向きを変えた。ミサイルが追うために膨らんだところで、今度はセイバーフィッシュの一機へ近づく。敵機が射線を避けようと機首を振り、その外側をヅダが抜けた。

 

 四方向から来ていた攻撃が、一度に届かなくなる。

 彼女は開いた間へ機体を滑り込ませた。次の射撃が来る前に敵機との位置を入れ替え、正面の映像を広げる。艦隊の識別表示は遠くへ流れていた。元の観測位置へ戻るには、まずこの四機を片付ける必要がある。

 

 ヨーツンヘイムのブリッジでは、ヅダから届く映像と機動記録がメインスクリーンに並んでいた。

 光条の間を機体の軌跡が曲がり、敵機の前から消えたかと思うとその側方へ出る。向きを変える時にも速度が途切れず、次の噴射がその動きを引き継いでいた。

 

「なんて、綺麗な……」

 

 モニクの声は小さかった。艦長席の脇でスクリーンを見上げたまま、彼女は続く言葉を失っている。

 マイは機体の姿勢と推力の記録を見比べていた。噴射の強弱は激しい。それなのに、外から辿る軌跡には急な引っ掛かりがない。回避の後で姿勢を直すはずの操作が、その前から始まっていた。

 

「あの出力で……次の動きまで繋げているのか」

 

 機体に無理が掛かっていないわけではない。負荷の表示が跳ねるたび、座席にいる者も同じ加速を受けている。

 

 マイはアスカへ声を掛けかけた。だが、その間にも敵機の位置が変わる。今は返事を求める方が邪魔だと思い直し、受信と記録を維持した。

 モニクも口を閉じていた。画面の中で次のミサイルがヅダを追って曲がる。彼女はその光が機体から離れるまで、目を動かさなかった。

 

 アスカは残弾一発の280mmMS用対艦ライフルASR-78を放した。

 予備弾倉は残っている。しかし、一発撃てば再装填が要る。長い銃身を振り向ける間にも、敵機はまた上下から寄ってくる。彼女は背面ラックからザクバズーカA-2型を引き抜き、接近する一機の進路へ加速した。

 

 敵はヅダが離れるものと思っていたらしい。機関砲の射線が後ろへ流れ、機首を修正する間に互いの機体がすれ違う。

 アスカは腕と脚を動かして機体の向きを返し、前の速度を残したまま後方へザクバズーカA-2型を向けた。

 セイバーフィッシュの噴射炎が見える。

 一発目を放った時、僚機がその横へ入ってきた。二機が別々の方向へ離れ切る前に、彼女は銃口を送ってもう一度引き金を引く。

 

 最初の機体は後部を撃ち抜かれた。胴体が横へ折れ、追い越すように飛び出した破片の向こうで二機目も爆発する。

 ヅダの装甲に細かな衝撃が走った。アスカはシールドを向けて破片の広がりを抜け、残る二機を探す。

 

 一機が上方から降りてくる。先ほどの二機へ向けたザクバズーカA-2型を戻すには、相手が近い。

 アスカは右手の武器を射線から退け、機体の胸を敵へ向けた。コックピット右上に増設された一門の30mmバルカン砲が連射を始める。

 セイバーフィッシュの機首から翼の付け根へ着弾が走った。敵機は機関砲を撃ち返しながら横へ滑ろうとしたが、アスカは胴体の向きを追わせて射線を重ねた。

 

 風防が砕け、片翼が外れる。姿勢を崩した機体はヅダの横を抜けていった。後部から漏れる推進剤が白く広がり、その中で小さな光が弾ける。

 

 残り一機。

 アスカが探すより早く、相手の怒りが来た。前へ出るという意志が強すぎて、その先に何をするつもりなのかが感じ取れない。ただこちらを見ている。

 最後のセイバーフィッシュが機首を揃え、ほとんど正面から突っ込んできた。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 受信機から叫びが割り込んだ。混線なのか、相手が回線を開いたのか。アスカは確かめず、左手を機体の大腿部へ伸ばした。

 ヒートホークを抜く。刃が赤くなっていく間にも、敵機は正面の画面で大きくなる。

 

 今かわしても追ってくる。

 アスカは金星エンジンの推力を一瞬だけ上限まで引き上げ、機体を斜め前へ押し出した。敵の射線から胸を外しながら、左腕を振る。

 ヒートホークが胴体へ掛かった。刃を通して機体へ抵抗が伝わり、ヅダの肩が引かれる。彼女はその動きに合わせて身体を回し、切り抜けた腕を引き寄せた。

 

 後方の映像で、セイバーフィッシュが二つに分かれる。

 前半部と後半部はしばらく並んで進み、やがて間隔が開いた。そこへ漏れた推進剤が発光し、二つとも爆発の中へ隠れる。

 

 アスカは機体を返した。四機の位置にあった識別枠が消えている。追加の機影を探そうとした時、今度は受信機を通さずに声が来た。

 

ーーバ、バケモノめッ……!

 

 手の中に、まだ切った時の抵抗がある。

 アスカはヒートホークを握る左手の表示を見た。機体の指は閉じている。震えているのは操縦桿を握る自分の手だった。

 敵機が消えた場所を見まいとしても、先ほどまでこちらへ向けられていた怒りが離れない。それが恐怖へ変わった瞬間まで分かってしまう。

 

 叫んだ相手の顔は見ていない。声だけが残り、途切れた後にも胸の中で響いていた。

 アスカは息を吸った。途中で引っ掛かり、咳のような音になる。口の中に残る血の味がまた濃くなった。

 

 機体は動かせた。ミサイルも避け、四機を撃墜した。それなのに安全になったと分かった途端、指先の震えが大きくなる。

 

 ヒートホークを戻そうとして、アスカは一度操作を止めた。この手で細かく動かせば余計なものまで触りそうだった。右手を操縦桿から離し、震える左手へ重ねる。

 強く握ってもすぐには収まらない。爪の当たる感触を確かめながら、彼女は短く吸って長く吐いた。数えるつもりだった呼吸は、二度目で分からなくなる。

 

 後方からヨルムンガンドの準備状況が聞こえる。

 戻らなくてはならない。

 

 アスカは手を分け、ヒートホークを大腿部へ戻した。固定を確認してから敵艦隊の方へモノアイを向ける。画面の端には遠ざかる残骸が残っていたが、倍率を変えて艦影を探した。

 

 最初に捉えた光は、もう沈んだ艦の破片だった。次は味方の識別信号が重なる。アスカは送信せずに両方を外し、もっと奥へ視線を移す。

 遠くでマゼラン級が針路を変えている。彼女はそこへ観測枠を重ねた。

 

「こちらメテオ01……敵戦闘機四機、撃墜。観測を再開します」

 

 返事を待つ間、右手を膝へ押しつけていた。まだ指は震えている。左手だけで追跡を続け、次の位置情報を後方へ送った。

 




ちょっと長くなりそうだったので、分割したら短くなってしまいました…

ちなみに、この間にもジオン軍艦隊と連邦軍艦隊は艦隊陣形を保ったまま同行戦で撃ち合っています。

ドズル艦隊は、前回の終わりの方で技術試験隊とすれ違ったあと、ジオン軍主力艦隊から離脱して、連邦軍主力艦隊の侵入方向を調節、地球連邦最強艦隊であり前衛艦隊を務めるティアンム提督率いる連邦軍第二艦隊を誘引、拘束するために激突。
然るのち反転して、ミノフスキー粒子の影響でティアンム艦隊はドズル艦隊を見失い、ドズル艦隊は作戦通り灯火管制を行いながら隠密機動を取っています。

良かったらご感想、高評価頂けると幸いです!

登場させるとしても大分先になりますが、ジークアクスのキャラを出すのはアリかナシか。(出るならニャアン)

  • アリ
  • ナシ
  • どっちでも良い
  • 早く書け
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