技術試験隊斯ク戦ヘリ 作:ザクスキー2世
MS-08TX-P 地上試験・実戦運用報告
イフリート納入機への改修反映及び追加検証に関する申請
社外秘・開発関係者限り
提出日:宇宙世紀0079年6月1日
宛先:ツィマット社 専務取締役 技術開発本部長 殿
提出部門:第二開発局
提出者:主任技師 ヴァルター・シュペーア
1. 報告の要旨及び承認申請事項
第二開発局より、MS-08TX-P プロトタイプイフリートの地上試験及びアフリカ・中東方面における実戦運用について報告する。
本機は火器と近接兵装を併用する機体として有効に働いたが、右膝駆動部の固定が緩み、左手首支持部には破断が生じた。応急処置と出力制限によって運用を継続できたものの、納入機に求める信頼性の確認には至っていない。
納入日程への影響はできる限り抑えたいと考えている。しかし、同じ不具合を納入先で繰り返すことは避けなければならないため、下記について承認をお願いしたい。
(1)損傷箇所の分解検査並びに各関節及び接続構造部材の強度再計算、材質の見直し、再設計を進めること。
(2)0号機と共通の関節部品及び支持構造を用いる納入予定機について、対策の要否を確認するまで該当部分の仕様確定を保留すること。
(3)現地運用に必要な交換部品及び整備支援を確保し、原因調査、改修及び追加試験に必要な人員と費用を手配すること。
(4)新型流体パルスシステムの当社製MSへの継続採用に向け、各機種との適合確認を進めること。
(5)搭乗者の要望に基づき、軟目標用固定機関砲及び電撃兵装の搭載案を検討すること。
申請の中心は、既定の納入機へ問題を持ち越さないための検証と改修である。生産規模の拡大について判断をお願いできるだけの資料は、まだ揃っていない。
2. 開発経緯と今回の評価範囲
イフリートは、地上での近接戦闘を重視した高性能機として開発している。軍から調達要求のあった1号機から8号機までの8機には、既に配属先が定められている。今回の0号機はこの8機とは別に当社の予算で製作し、納入前に基本構造と操作上の問題を確認するために用意した。得られた結果は、納入機の製作及び調整へ反映する。
本報告は機内記録、現地整備記録及び作戦終了後の搭乗者への聞き取りに基づく第一次報告である。対象は5月16日及び17日にトリポリで行った基本動作・射撃試験と、その後の先遣隊での運用である。実戦記録は5月21日以降の交戦から、アレクサンドリア攻略とスエズ方面への前進を経て、5月28日のエルサレム制圧によるジャベリン作戦終了までを扱う。主たる搭乗者はアスカ・ナカノミヤ少佐であり、私も整備員と共に現地で点検及び調整に当たった。
作戦中は同一条件での反復試験を行う機会が限られ、出撃の合間に不具合を確認して処置することが多かった。今回の継続運用は、こうした整備と調整を挟んで成立したものである。分解検査が未了の箇所については、外観及び作動の確認結果に限って記載する。
行軍中には運搬車を使用し、戦闘の合間に推進剤及び冷却剤を補給している。進軍日数や移動距離をそのまま本機単独の無補給行動能力を示す資料にはできない。
また、今回得られた戦闘上の成果はナカノミヤ少佐の技量に強く依存する。同少佐が機体の遅れや損傷を補いながら戦えたことと、納入先の搭乗者が同じ条件で使用できることは、分けて検証する必要がある。
3. 機体情報及び試験結果
3-1. 機体構成及び動力・推進系
本機はグフと同じ出力1072kWのジェネレーターを使用し、スラスターの総推力は67000kgである。装甲には超硬スチール合金を主体とする複合装甲を使用する。
駆動系に採用した新型流体パルスシステムは、ヅダS型に搭載された試作流体パルス・アクセラレーターの試験データと知見を基に開発した廉価版である。これにより、ジェネレーターの出力を増すことなく、駆動系の発揮馬力はグフ比約1.25倍となっている。この比較値は動力伝達を経て得られる機械出力を示す。
YMS-08Bとは異なり、本機は同じく08のナンバリングであるものの関連は無く、ホバー走行機構は備えていない。地面に足を置いて荷重を支え、歩行、走行及び踏み替えを行い、背部及び脚部のスラスターを接近、跳躍、回避等に併用する構成である。
0号機と納入予定機の基本構造はほぼ共通であるが、0号機には頭部バルカン砲及び肩・肘のスパイクを装着していない。白と黒の塗装も当社の試作機用である。
3-2. 関節部及び接合構造の剛性
関節部及び各機体部位をつなぐ支持構造は、グフ比約1.2倍の剛性を目安に設計した。比較に用いた荷重条件では、概ねこの水準を確保している。この比較値は変形に対する抵抗の大きさを示し、耐弾性能や破断強度の倍率とは区別する。
新型流体パルスシステムによる駆動力の増加もあり、従来機より強くした構造であっても、実際に受ける荷重に対する余裕が十分とは限らない。蹴撃時の衝撃と、刃先を拘束された状態での押込み荷重は、初期の動作試験だけでは十分に検証できていなかった。
今回の損傷から、従来機を上回る剛性を確保していても、実戦で生じる荷重に対する強度には不足があったと判断する。
3-3. 歩行、停止及び切り返し
トリポリでの初期試験では、両脚への荷重移行、歩行、走行からの停止及び左右への切り返しを確認した。最初の停止時には目標位置を越えたが、搭乗者が減速を早めた再試行では所定位置に停止している。08Bの滑走に慣れた操作から、足を踏み替えて止まる操作へ合わせる必要があった。
一方、左へ切り返す際に肩の動きが脚に遅れる現象は、同じ動作を繰り返しても発生した。搭乗者の補正操作と機体の応答を記録で照合して調整し、翌日の試験では遅れが小さくなった。ただし、兵装や姿勢を変えた全ての条件で解消したかどうかは、まだ確認できていない。
短い跳躍と着地では、脚部の屈伸と推力調整によって姿勢を回復し、初期試験時に足首及び膝の警告は生じなかった。実戦でも起伏や壕を越えて接近する動作に使用している。ただし、後述する右膝の異常が発生した後は出力制限を維持しており、それ以前の記録とは条件を分けて扱う。
3-4. 右膝駆動部の異常
5月21日の交戦では、敵ガンタンクへの右脚による打撃の後、同脚へ荷重を移した際に膝の振動と沈み込みが発生した。駆動系の警告が点灯し、屈伸の途中にも引っ掛かりが残ったが、踏み込みを抑えることで歩行は可能だった。
現地点検では駆動部の固定に緩みを認め、締め直した上で屈伸及び荷重を掛ける動作を確認した。警告と振動は収まったものの、右脚の出力を制限し、再度の蹴撃は行わないよう搭乗者へ伝えている。その後の点検でも固定状態を確認し、エルサレム戦まで制限を継続した。
固定の緩みは確認済みの事実であるが、その原因を組付けの不備だけに限定することはできない。締結部、支持構造及び打撃時の荷重を照合し、部材の変形や強度不足の有無を調べる必要がある。
近接戦闘用機である以上、武器を使えない場面での打撃も避け難い。1度の蹴撃後に脚の機能を制限しなければならなかった点は、開発側の課題として受け止める。搭乗者の操作が急激だったとの説明だけでは、納入機の適否を判断する根拠にならない。
3-5. 装甲及び被弾後の作動
従来型ガンタンクとの交戦では左腕等に機関砲弾を受けたが、近接兵装の操作を継続できた。帰還時の腕及び肩の傷は浅く、関節内部への弾片の侵入も認めなかったため、その時点では装甲交換を見送った。これは予備部品の消費も考慮した現地判断である。
アレクサンドリアでは右腿の外装に損傷が生じたが、現地点検の範囲では、この被弾による新たな作動不良は認めなかった。右脚に対する既存の出力制限は継続している。エルサレム戦後には胸部と左腕に機関砲弾の跡、肩部に破片の刺入を認めている。交戦中に左腕の警告は出たものの、搭乗者は武器の保持と操作を続け、帰還後も左手及び手首の動作を確認した。
これらは被弾部位と条件の異なる実戦例であり、耐弾性能の評価には弾種、命中角度及び損傷深さの確認を要する。装甲の内側、関節周囲及び配線類は継続して点検する。装甲が機能したことは評価できるが、近接動作によって駆動部や支持部が損傷した問題とは分けて扱う必要がある。
4. 兵装及び動作制御の評価
4-1. 携行火器と近接兵装の併用
初期試験ではザクマシンガン及びMS用バズーカC1型の保持、構え、持ち替えと、上半身を回した際の干渉を確認した。今回使用したMS用バズーカC1型は、ヒートソードとの併用を考慮して前方の握りを外した仕様である。
実戦では右手にMS用バズーカC1型を保持し、左手で右腰からヒートソードを抜く運用が多かった。射撃から斬撃へ移る際に火器を手放さずに済む点は有用である。一方、両手でヒートソードを押し込む際には火器を一度手放しており、全ての近接動作を片手のまま行えるわけではない。
左手首の損傷後も右手だけで火器を構えて射撃を続けたが、市街地では僚機に弾倉交換を援助してもらう場面があった。片腕損傷時の兵装運用は再装填まで含めて検討し、予備弾倉の取付位置、火器を一時保持する方法及び整備時の受け渡しを確認する必要がある。
また、陣地や歩兵火器への攻撃にもMS用バズーカC1型を使用した。0号機には頭部バルカン砲がないため、軟目標に対しても携行火器を向ける必要があった。搭乗者からは固定機関砲の追加を求められており、納入機では固定火器を含めた目標の分担と弾薬消費を別途評価する。
4-2. ヒートソードと手首の保持力
ヒートソードは、従来型ガンタンクの機関砲、砲の基部及び胴体への斬撃に有効だった。右手に火器を保持したまま左手で扱うことができ、左手首損傷後には右手のみで使用している。左右いずれの手でも扱えることは確認できたが、保持する腕や握り方によって手首に作用する荷重は変わる。
初期試験では、右手で刀身を返した後に切っ先の揺れが残り、搭乗者から手首が柔らかく感じられるとの申告があった。ゆっくり返した場合には止まっても、速い動作では角度を補正し直している。この段階で保持力及び制御設定の確認を要する所見を得ていた。
アレクサンドリアで新型ガンタンクの側面装甲へヒートソードを突き立てた際、刃先が止まり、搭乗者は両手で柄を保持したまま機体の重みを掛けて押し込んだ。左手首の負荷警告に続いて同手首が外側へ折れ、角度を戻す操作に応じなくなった。現地の整備員がカバーを外して確認したところ、駆動軸を支える部分が破断していた。
その場では交換できず、左手を所定の角度に固定して武器の保持を禁止した。搭乗者は右手で戦闘を続け、前線から戻った後、アレクサンドリアで野戦修理を行って左手首の使用を再開している。
初期試験の揺れと実戦時の破断は、発生した側と荷重条件が異なる。同じ原因と断定することは避けるが、共通する構造を確認せずに別件として処理することもできない。保持力、制御の応答、駆動軸支持部の強度及び組付け状態について、左右併せて調査する。
初期の申告を受けながら、実戦で支持部の破断を防げなかった点は重く受け止めている。現在の検証だけで、手首の強度が近接戦闘に十分だと判断することはできない。
4-3. 野戦修理後の使用条件
野戦修理後は、ヒートソードの把持、緩やかな手首の返し及び狙った位置での停止を確認した。ただし、本来の強度まで回復したとは保証できないため、全力で押し込めば再び手首側が負けるおそれがある旨を搭乗者へ説明した。
エルサレムでは大型陸戦艇の砲塔上面へ取りつき、装甲の継ぎ目へ刃を入れ、周囲が溶けるのを待ちながら徐々に機体の重みを掛けている。手首の負荷を確かめながら操作し、砲塔を停止させた後も刀身を引き抜くことができた。
帰還時にも手首は動いていたが、これは荷重を抑えた条件での結果である。破断時と同じ負荷を掛けた試験ではなく、強度の回復を確認したものではない。
搭乗者の加減に依存した運用を敵前で続けることには無理がある。損傷前の仕様を含め、手首が所定の角度を保持できる荷重の範囲を試験で確かめ、機体側の強度と制御の双方へ反映する必要がある。
4-4. AAMC及び他機種の記録の利用
本機のAAMCには、社内に提供されたYMS-08Bの試験・実戦記録から、腕の返しとそれに伴う上半身の姿勢変化を選んで反映している。初期試験では、刃を返した後に胴体を押さえるための追加操作が少なくなったとの評価を得た。
この成果は第一設計局と試験搭乗者が蓄積した記録によるものであり、本機の調整にも役立った。一方、08Bは滑走しながら姿勢を変えるため、脚部の動作をそのまま移すことはできない。本機では足の置き方、接地時の荷重及び上半身との連動を改めて調整している。
記録した動作の使用に当たっては、対象とする目標、動作の方向及び実行の時機を搭乗者が判断する。また、動作が滑らかに見えることと、その際に関節へ掛かる荷重が許容範囲内にあることは別である。制御の調整は姿勢の収まりだけで評価せず、手首、肘、肩、腰及び脚部の記録を併せて確認する。
5. 実戦運用及び搭乗者への聞き取り
5-1. 前哨陣地及びアレクサンドリアでの交戦
5月21日には、味方の支援射撃が停止した後に稜線を越え、従来型ガンタンク3機を近距離で撃破した。接近して敵の砲の向きを外し、火器とヒートソードを併用する能力は示されたが、最後の1機への蹴撃後に右膝の異常が発生した。この交戦では、近接戦闘能力の有効性と機体支持部の問題が同時に表れた。
アレクサンドリアでは、空中投下された新型ガンタンクに対し、MS用バズーカC1型による正面及び主砲基部への攻撃で有効な損傷を与えられなかった。フォレス小隊の射撃支援を受けて接近し、ヒートソードで頭部を切断した後、側面装甲を貫いて撃破している。その際に生じた左手首の破断は4-2に記した通りである。
左手首を固定した後も市街地での射撃と右手による斬撃を続け、整備拠点ではゴッグ隊と共同して敵車両を制圧した。これは機体に残った機能を用いた戦闘であり、損傷前と同じ任務遂行能力を保っていたわけではない。
この新型ガンタンクの装甲が射撃に耐えた事実は確認できるが、その材質や構成を機内映像だけで特定することはできない。搭乗者から装甲回収の要請が出ており、回収物が得られた場合は改めて調査したい。刀身が装甲に止められた状態の記録は、手首の再検証にも使用する。
新型ガンタンクとの交戦は、連邦軍が従来想定より堅固な装甲目標を投入できることを示している。敵MSの構造や材質は未確認であるが、今後同程度に堅固なMSが出現する可能性も考慮する必要がある。
5-2. エルサレムでの大型陸戦艇攻撃
エルサレムでは、味方陸戦艇の砲撃によって移動を阻止されたビッグ・トレーへ、ザク及びグフと共に突入した。接近中は僚機と機関砲座を分担して攻撃し、短い噴射と地形を使って射線を外しながら前進している。
本機は車体側面から甲板へ上がり、機関砲座を破壊した後、主砲塔の上面へ移ってヒートソードを使用した。4-3に記した荷重を抑えた操作によって主砲塔を停止させ、他のMSによる主砲及び艦橋への攻撃と合わせ、陸戦艇の撃破に寄与した。
ビッグ・トレーの撃破は、味方陸戦艇の砲撃と他のMSによる兵装及び艦橋への攻撃を含む共同戦果である。大型の目標へ接近し、甲板上で武器を扱えた記録には価値があるが、突入には援護と射線調整を要し、友軍にも多数の損害が出ている。一般部隊の標準的な攻撃方法として提示するには、今回の条件と損害を含めた軍側の検討が必要となる。
5-3. 部隊行動及び現地整備
先遣隊では、歩兵の前進、工兵の通路啓開及び補給車両の到着に合わせて行動した。本機が越えられる溝でも後続車両が止まる場合があり、機体単独の機動力だけで部隊の進撃速度が決まるものではなかった。
整備車両が随伴し、弾薬、推進剤及び冷却剤の補給と点検を行えたことは、継続運用を支える条件となった。右膝の固定確認、出力制限及び左手首の野戦修理にも人員と作業時間を要している。整備工数と交換部品の集計前に、本機の整備負担が軽いとは評価できない。
納入先でも同じ支援を用意できるとは限らないため、技術者が常時随伴しなければ判断できない事項を減らし、部隊整備員が確認する箇所と、使用を止めて技術部門へ照会すべき状態を明確にしたい。
5-4. ナカノミヤ少佐からの主な所見と要望
作戦終了後の聞き取りでは、機動力について、スラスター出力が高く速度に不足を感じなかったとの評価を得た。地上機として大きな推力を持ちながら推進剤の消費が過大でない点も好評だった。これは今回の実戦運用に基づく搭乗者の評価であり、一定条件で測定した最高速度や航続距離を示すものではない。
固定武装については、歩兵及び軽装甲車両等の軟目標へ、携行火器を持ち替えずに対応できる機関砲を求められた。R6キットの固定武装を例に、腕部や胸部へ設ける口径20mmないし30mm程度の機関砲が候補として挙げられている。火器とヒートソードで両手が塞がる場面でも使用できる点を重視した要望である。
格闘時の信頼性に関しては、腕や脚で1度打撃を加えただけで不具合が出るようでは、実戦での継続運用に耐えないとの指摘を受けた。右脚で発生した異常を踏まえ、腕による打撃も含めた耐久性の確認を求める内容だった。
また、新型ガンタンクのような堅固な敵に対し、装甲を切断又は貫通する以外の方法で内部へ損傷を与える手段があれば有用ではないかとの意見があった。候補はワイヤー式のヒートロッド又は電撃を与える補助兵装であり、本機でその効果を実証したものではない。
6. 納入機への改修反映及び他機種への展開
6-1. 各関節及び接続構造部材の再設計
新型ガンタンクとの交戦で生じた損傷を踏まえ、同程度に堅固な敵MSの出現にも備えるため、現行の構造強度設計を見直す必要がある。破断した手首部品の交換や右膝の締め直しだけでは、納入機への対策として十分でない。手首、肘、肩、腰、股関節、膝及び足首について、これらをつなぐ構造部材まで含めて荷重の伝わり方を再計算する。新型流体パルスシステムの駆動力に加え、打撃、着地、切り返し及び兵装が拘束された際の反力を設計条件へ反映する。
使用材料についても、剛性に加えて永久変形や破断に対する強度、繰り返し荷重に対する耐久性を見直す。その結果に基づいて部材断面、支持部、締結方法及び接合部を再設計し、特定の関節だけを補強した結果、隣接部に過大な荷重が集中しないようにしたい。
右膝では、左右の組付け条件と部品寸法を比較し、固定の緩みが生じた原因を確認する。設計変更による重量増加は機動力と推進剤消費に影響するため、その量も併せて評価する。必要な強度を定める前に、新たな一律の剛性倍率だけを目標として示すことは差し控える。
現地で施した出力制限は、損傷後の継続使用を目的とする処置である。この設定を納入機の標準仕様に移すだけでは、本来予定した近接能力を満たしたことにはならない。
6-2. 手首、兵装保持部及び荷重制御
破断した支持部の確認に加え、把持位置、手首の角度及び刀身の当たり方によって荷重がどのように変わるかを調べる。斬撃後の返し、刃先が止まった際の押込み、刀身を抜く際の荷重を分け、左右それぞれで試験する。
必要な保持力と強度を確保した上で、警告の出る時機と搭乗者が操作を戻せる余裕を検討する。制御上の制限だけで接触時の荷重を全て避けることはできず、構造上の対策を省く理由にはならない。
また、手首の保持力を高める場合も、腕を止めた際の揺れや兵装の取り回しへの影響を確認する。単に硬くするだけで初期試験に見られた切っ先の揺れが収まるかどうかは、現時点では判断していない。
6-3. 軟目標用固定機関砲
納入予定機の頭部バルカン砲で要望に応えられるかを確認し、腕部又は胸部へ機関砲を設ける案と比較したい。グフ用バルカン砲等の既存装備を流用する案も候補とし、砲本体だけでなく給弾装置、弾倉及び整備用の空間まで含めて検討する。流用の可否は機体側の取付部と射界を確認した上で判断する。
腕部は指向しやすい一方、武器の保持姿勢や被弾の影響を受ける。胸部は腕の状態に左右されにくいが、狙いを変える際に機体の向きを合わせる必要がある。携行火器との併用試験により、配置ごとの利点と制約を確認したい。
軟目標への射撃を固定火器で受け持てれば、携行火器の弾薬を装甲目標へ回せる。各火器の担当目標と必要な搭載弾数も併せて検討する。
6-4. 堅固な装甲目標に対する補助兵装
ワイヤー式ヒートロッド等の電撃兵装について、効果と搭載条件を調べたい。刃先を強く押し込まずに敵の機能を損なえるのであれば、近接戦闘の選択肢は増える。ただし、効果は敵の絶縁、接地状態及び内部機器の保護によって変わるため、装甲の材質や構成を問わず有効とは断定できない。
試作に当たっては、給電能力、収納及び巻取り機構、自機への電気的影響、ヒートソードや携行火器との干渉を確認する。補助兵装を設けても腕や手首に掛かる荷重がなくなるわけではなく、構造強度の改修は別途必要となる。
6-5. 納入装備及び操縦設定
0号機に装着していない頭部バルカン砲と肩・肘のスパイクについては、装着状態で武器の持ち替え、抜刀、腕の返し及び狭所での動作を確かめる。0号機で干渉がなかった動作も、装備後に改めて確認する。
搭乗者ごとの調整は必要となるが、基本的な強度、許容荷重及び故障時の扱いは共通事項として整える。個別の操縦設定によって補った部分は記録に残し、それを機体共通の改善と取り違えないようにする。
6-6. 廉価版新型流体パルスシステムの当社製MSへの展開
駆動系の出力向上と費用面の利点を活かすため、本機に用いた廉価版は今後も当社製MSへの搭載を進めるべきと考える。適用に当たっては、増加した駆動力に対応した構造を併せて整える必要がある。
関節と支持部の許容荷重に加え、流体系統の配置、冷却能力及び制御設定を確認する。第一設計局を含む関係部門へ試験資料を提供し、この廉価版を既存機へ組み込む改修と、新規設計機への採用をそれぞれ検討したい。必要な強度を確保できる機種から進める方針について、ご検討をお願いする。
7. 開発体制、費用及び軍への説明
既定の8機に先立ち、0号機を当社負担で製作しており、改修の追加が会社及び納入計画の負担となることは承知している。可能な作業は現有部品と設備を用いて進めたいが、支持部の強度確認と必要な交換部品まで省くことはできない。
改修費については、0号機の復旧、原因調査、構造部材の材料試験及び再設計、納入機への反映を分けて見積もる。追加製作を要する部品と所要日数も、現地で処置できる範囲と工場で作業すべき範囲に分けて示す。固定火器と電撃兵装の検討費も区分し、共通構造の改修に必要な費用が不明確にならないようにする。納入予定機に既に組み込まれた部品がある場合は、その確認及び手直しに要する工数も含める。費用と納期への影響は、必要な作業の範囲を確認した上で報告する。
廉価版の新型流体パルスシステムを他機種へ適用する費用は、これらと分けて見積もる。装置費のほか、取付部、冷却及び制御の変更費も含める。
作戦中は現地での点検と補給を優先し、設計検討を十分に進められなかった。本局内で記録解析と部品検査を担当する者を確保し、生産部門にも締結及び組付け条件の確認をお願いしたい。試験、設計及び生産の担当者が記録を照合し、納入機への反映内容と日程への影響を技術開発本部へ提出する。第一設計局から提供された動作記録は引き続き参照するが、歩行機である本機の荷重検証は本局の責任で行う。
軍への説明では、実戦で得られた成果と、右脚の出力制限及び左手首の野戦修理を併記する。納入先から求められる操作に制限が生じる場合は、改修内容と合わせて事前に知らせる必要がある。対外説明の時機と窓口は技術開発本部及び軍需営業部門に判断を仰ぐが、技術資料から損傷や使用条件を外すことはできない。
今回の結果には、本機の近接戦闘能力を裏付けるものがある。一方、通常の部隊整備で信頼性を保てるか、また、その費用がどの程度になるかは検証が残るため、これを基に増産や広範な配備を積極的に提案する段階ではないと考える。
8. 次段階の試験と移行判断
まず軍側と機体の使用予定を調整し、0号機の右膝及び手首を分解検査できる時間を確保する。野戦修理の状態と損傷箇所を記録し、部品の検査結果を警告が発生する前後の操作及び荷重記録と照合する。エルサレム戦で被弾した胸部、左腕及び肩部も併せて点検する。
次に、損傷原因の検討と各関節及び接続構造部材の荷重再計算に基づき、使用材料、改修部品及び組付け条件を定め、部品及び組立状態での荷重試験を行う。膝では打撃後の荷重支持と反復動作、手首では速い返しと刃先が拘束された状態の双方を確認する。改修前の問題が再発しないことに加え、周囲の部品へ新たな不具合を生じさせないかを調べる。
部品段階の確認を終えた後に実機試験へ移り、歩行、停止、切り返し、跳躍、武装の併用と近接動作の順に使用範囲を広げる。現地の応急処置で得た結果だけをもって、出力制限の解除や改修完了とはしない。
基本動作の確認後は、ナカノミヤ少佐以外の搭乗者による評価もお願いしたい。通常の操作で生じる過大修正、持ち替えの難しさ、負荷警告への気づきやすさを確認し、少佐の操作で補われていた箇所を抽出する。納入先の個別調整は、共通する問題への対策を終えた上で行う。
また、砂塵下での継続運転、補給、点検及び部品交換を通して、整備工数と交換頻度を記録する。部品の交換周期を定めるには、長期使用の記録をさらに蓄積する必要がある。
機動試験では、搭乗者が評価した速度と推進剤消費の釣り合いが補強後も保たれるかを確認する。消費量は歩行、噴射を伴う走行、跳躍及び待機に分け、記録と補給量を照合する。一定条件での測定を終えるまでは、最高速度、無補給行動時間及び高負荷運転を継続できる時間について確定値を示さない。
固定機関砲は軟目標への射撃と携行武装との併用を試し、電撃兵装は効果及び自機への影響を確認した後に搭載の可否を判断する。新型流体パルスシステムを他機種へ適用する際にも、同様に駆動力と構造強度を合わせて評価する。
納入仕様への移行判断には、右膝及び手首の対策確認、その他の関節及び接続構造部材の強度確認、実装する兵装を含めた干渉確認、使用可能範囲の明示並びに補給・整備手順の整備を必要と考える。未解決の事項が残った場合は、日程と費用への影響を含めて改めて報告する。
9. 結論
MS-08TX-Pは、火器と近接兵装の併用、機動力及び動力伝達の面で成果を得た。一方、近接戦闘で生じた関節部の不具合は、納入前に対策を要する問題である。搭乗者の技量と応急処置によって帰還できたことだけでは、部隊運用に必要な信頼性が備わったとは判断できない。
0号機で得た結果を納入機へ反映するため、構造強度の再検討と必要な改修を優先したい。固定火器及び補助兵装の検討、新型流体パルスシステムの他機種への展開も、それぞれの技術上の条件を確認しながら進める。
納入に向けた準備が進む中で追加の検証をお願いすることになるが、同じ箇所の修理を各部隊に委ねるよりも、今の段階で原因と対策を明らかにする必要があると考える。前記申請事項につき、ご検討をお願いする。
以上
ツィマット社 第二開発局
主任技師 ヴァルター・シュペーア
これで第5章は終了です。
次回更新予定は来年一月になります。