技術試験隊斯ク戦ヘリ   作:ザクスキー2世

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今回で、ルウム戦役は終わりになります。
前回変なところで区切ってしまったので、こちらは長くなっております。


第6話

 ヨルムンガンドの第五射が、連邦艦隊の奥へ伸びた。

 アスカは左手で観測を続けている。膝へ押しつけた右手を戻すと、指先がまだ操縦桿の上で震えた。握り直す間にも、送信中のコロンブス級が画面の中央へ近づいてくる。

 

 発進口から戦闘機が離れた。その後ろで船体が白く光り、開いた扉ごと内側へ潰れる。艦の側面を走った爆発が後部へ達すると、追跡していた輪郭は二つに折れた。

 アスカは撃沈を報告し、広がる破片から目を外す。喉の奥が引きつったが、今度は送信を切るまで声を抑えられた。

 

「よし、命中だ!早く次弾を装填してくれ!会戦が終わっちまう!」

 

 ヘンメの声が射撃回線に響いた。制御席の残弾表示は零。5発装填のクリップを使い切り、砲尾では最後の射撃を終えた機構が停止していた。

 

「再装填作業、急げ!」

 

 プロホノウの号令を受け、ヨーツンヘイムからスペースランチが離れる。新しい砲弾クリップを運ぶランチに、作業員を乗せた機が続いた。

 砲尾へ取り付いた整備兵が空のクリップを外す。搬送中のクリップへ誘導灯を向ける者と、受け側の固定具を開く者が別々に動いていた。

 

 ヘンメは装填口の映像を見て、また前方へ顔を戻した。次に狙える艦はまだいる。砲術科の兵士が隣で照準値を更新していたが、砲は撃てなかった。

 

 その頭上を、赤い機影が抜けた。

 ヘンメが見上げた時には、背面の推進器が遠ざかっている。ヨーツンヘイムでも先に窓外の機影へ気づいた者がいて、遅れて接近警報が鳴った。

 

「対空警戒、何をしていた!」

 

 クリューガーの叱責に、オペレーターが味方の識別信号を読み上げる。さらに機影が現れた。緑色のザクIIが編隊を組み、作業中のランチを越えて前へ出ていく。

 連邦艦隊へ向かう光は、後から後から続いていた。

 

 アスカはその頃、MS用バズーカA-2型を背面ラックへ戻していた。観測画面の隅に、投棄した280mm MS用対艦ライフル ASR-78の追跡表示が残っている。

 表示へ機体を寄せると、長い銃身がゆっくり回っていた。ヅダの右手で支持部を掴み、回転に合わせて腕を引く。銃を胸元へ収めてから、一発を残した弾倉を外した。

 

 シールドから5発入りの予備マガジンを取り、新しく装填する。外した弾倉を放すと、予備の取り付け位置には一つだけが残った。

 前方では、発艦途中のコロンブス級二隻が針路を変えようとしている。その周囲へ戦闘機が戻りかけ、別の機は艦から離れていく。まだ指示が揃っていない。

 

 アスカは一隻へ照準を置き、二発を送った。銃口を次の艦へ移す間、最初の艦の推進器が光を強める。彼女はその動きを追いながら、もう二発を放った。

 反動で流れる機体を噴射で支え、残弾表示を確かめる。一発。今は交換せず、命中を待つ。

 

 一隻目の艦橋付近が崩れ、その後に船体の奥で爆発が起きた。発進口の縁から扉が飛び、近くにいた戦闘機が進路を逸らす。

 二隻目も中央部から破片を噴き出した。船尾の光はしばらく残っていたが、やがて船体から離れ、回りながら遠ざかっていく。

 アスカが二隻の撃沈を伝えた時、背後から近づく気配があった。

 

 警報より先に振り向く。赤いザクが噴射を絞り、ヅダへ速度を合わせていた。相手から通信の要求が入り、アスカは回線を開いた。

 

「こちらシャア・アズナブル中尉。そこのモビルスーツ、我々に戦場を譲られたし。これは作戦計画に基づいた行動である」

 

「こちらアスカ・ナカノミヤ少尉、了解致しましたシャア中尉」

 

 アスカは銃口を下げた。前方の識別表示に、既にザクの編隊が入り始めている。

 

「……見事な手際だったな少尉、それに大蛇とやらも案外役に立つようだ」

 

 シャアは連邦艦隊の方へ機体を向けた。

 

「あとは我々の出番だ」

 

 赤いザクの推進器が光を増す。アスカが了解を返す間に、機影は前方の艦列へ小さくなっていった。

 ヅダの脇を次の編隊が追い越す。その中に、黒と紫に塗られた三機がいた。

 

「なんだぁ?あのツギハギヤロウは。好き放題抜け駆けしやがって」

 

「あれはザクとコンペに負けたモビルスーツじゃないか?」

 

「お前ら、回ってきた映像で見てただろう。技術試験隊の連中だ。オンボロ兵器と前時代の遺物でよくやった方だろう」

 

 オルテガとマッシュへそう言ったガイアが、先頭に出た。黒い三連星は間隔を詰め、ほかのザクと共に艦隊の中へ消えていく。

 アスカは何も返さず、観測画面へ向き直った。先ほどまで敵艦だけを囲んでいた照準枠の間を、味方の識別表示が横切っていた。

 

 ザクの接近に合わせ、連邦艦の対空砲が射線を振る。艦橋の陰へ入り込んだ機体が見えなくなり、次にはその艦橋から破片が飛び出した。

 別のザクはサラミス級の船尾へ回り、バズーカを撃っている。艦砲を向けようと回頭したマゼラン級の腹へも、下方から二機が取り付いた。

 

 アスカは拡大する位置を決められなかった。どこを見ても砲火があり、艦の形が崩れていく。背中を座席へ押しつけた時には、もう息が吸えなくなっていた。

 

ーーまだ、中にいる。

 

 目を閉じても艦内の様子が見えるわけではない。ただ、誰かを置いていけないという焦りが胸に残った。そこへ逃げ場を失った恐怖が重なり、別の怒りに押し流される。

 

「う、あ……っ」

 

 唾を飲もうとして喉が詰まる。アスカは口元へ手を上げかけ、バイザーへ指を当てた。吐いてはいけない。顎を引き、込み上げたものが下がるまで息を止める。

 観測枠が目標を外れていた。直そうと操縦桿へ手を戻したが、指がうまく掛からない。

 

「メテオ01、まだヨルムンガンドの再装填が終わらない。そのまま現場で待機を続けてくれ」

 

 マイの声だった。アスカは了解と答えたつもりで、送信表示を見た。声を出せていない。

 

「……こちらメテオ01。……了解」

 

 今度は短い応答が返り、彼女は送信を切って両腕を腹へ寄せた。手を動かす用事がなくなっても、震えは止まらない。

 

 連邦軍主力艦隊の側方に、新しい艦列が現れた。

 ティアンム率いる前衛艦隊を引き離していた、ドズル麾下の巡洋艦群だった。ザクへの対処で向きを乱した連邦艦へ、横合いから艦砲射撃が加わる。

 正面を向け直そうとする艦と、僚艦の残骸を避ける艦が互いの進路を塞いだ。アナンケから撤退命令が発せられ、残存艦は各個の判断で戦場を離れ始める。

 

 その一団が、ヨーツンヘイムの監視画面に入った。

 

「敵艦隊接近!マゼラン級1隻、サラミス級4隻、レパント級ミサイルフリゲート4隻からなる分艦隊が、こちらへ向かってきます!」

 

 九隻はまだ隊列を保っていた。主戦場から離れる針路の先に、再装填中のヨルムンガンドがある。作業員の灯火が動く砲尾を見て、プロホノウは艦長席から身を起こした。

 

「メテオ01、直ちに敵艦隊の対処にあたれ!」

 

 モニクが通信へ割り込む。アスカの画面にも接近する艦の位置が送られてきた。彼女はその印を見つめ、一度読み損ねた距離を確かめ直した。

 自分とヨルムンガンドは離れている。九隻の針路を横から押さえるには、今すぐ動かなければならない。

 

「ヨルムンガンドの放棄を提案する」

 

 プロホノウはモニクへ顔を向けた。返事を待つ間にも、クリューガーへランチの収容位置を確かめさせる。

 

「……仕方ありません。すでに大戦果を上げ、評価試験もクリアした。ヨルムンガンドは放棄しても良いと判断します」

 

「ヨルムンガンドの放棄を宣言する!作業中の全整備兵と砲兵は、直ちにランチに乗って撤退せよ!」

 

 作業回線の声が一度途切れた。装填口にいた整備兵が身を離し、ランチへ手を振る。その向こうでは、クリップを運んできたワシヤが機体の向きを保っていた。

 

「もう少しで装填が完了するんだ!どうせ向かってくるなら、コイツで撃って少しでも数を減らしたほうがいいだろうが!」

 

 ヘンメが怒鳴った。ワシヤの目の前で、クリップの端がまだ固定位置から浮いている。押し込みを止めれば、やり直す時間はなかった。

 

「そこの人、離れて!もう一回押す!」

 

 整備兵が退くのを待ち、ワシヤはランチの推力を上げた。緩衝部を介して押しつけたクリップが、僅かに奥へ動く。最後の固定具が閉じた時、ランチの船体へ硬い振動が返ってきた。

 

「装填完了!」

 

 ヘンメの操作盤で表示が切り替わる。大尉は装填状態を確かめ、隣の砲術科の兵士へ顎を向けた。

 

「お前らはランチへ行け。急げよ」

 

「大尉は」

 

「こっちは俺がやる」

 

 兵士が立ち止まる。ヘンメは返事を待たず、照準器へ顔を寄せた。退避を呼びかけるワシヤの声が入り、兵士は手すりを掴んで制御席を離れる。

 座席が一つ、また一つ空いた。作業員を収容するランチへ向け、最後の兵士がアームを伝っていく。

 

「ヘッヘッ、早く来ないと全部食っちまうぞ。お嬢ちゃん」

 

 アスカはその声を聞いて、スロットルへ手を掛けた。

 着任の日、名乗ってすぐにパプアを救えなかったことを謝った。あの時も、もう少し早ければと考えた。今、画面の端で味方のランチが動いている。そのそばにヘンメがいる。

 また、間に合わなかったと報告するのか。

 

「私はッ!」

 

 レバーを押し込む。金星エンジンの振動が座席へ伝わり、アスカの背中を押した。胸の苦しさは消えなかったが、目の前の艦影だけは捉え続ける。

 針路を斜めに取り、敵の側方へ回り込む。ヅダの接近を知らせる表示が、ヨーツンヘイムの戦術画面にも伸び始めた。

 

 マイは新しい観測情報を受け、砲へ渡す。アスカの機体位置も更新されていた。彼女は突入しながら、先頭のマゼラン級を追っている。

 

「観測データを受け取った!第六射、撃つぞ!」

 

 ヘンメが射撃を開始した。

 発射の直前、マゼラン級が艦首を振る。プラズマは船体の中心を外れ、右舷を掠めて後方へ抜けた。赤熱した装甲から破片が剥がれ、右舷の砲座がその中に隠れる。

 

 後方にいたレパント級は避け切れなかった。

 側面が削れた直後、ミサイル発射区画で幾つもの光が弾ける。艦体が内側から割れ、飛び出した構造物が船首を横へ押した。次の爆発で、フリゲートの形は失われた。

 回頭を続けるマゼラン級の脇を、残る小型艦と巡洋艦が前へ抜け出していく。

 

「敵、増速!各艦、散開しています!」

 

 ブリッジからの報告を聞き、ヘンメは照準を先行するサラミス級へ移した。砲の次弾は既に送られている。冷却の完了を待つ表示だけが、操作盤に残っていた。

 

「次弾装填済みだ!続けて撃つぞ!」

 

「待って下さい大尉!冷却途中で速射すれば、照準通りに飛ばなくなる可能性があります!」

 

「馬鹿野郎!そんな悠長なこと言ってられるか!状況判断だ!!」

 

 制止が終わる前に、ヘンメは第七射を放った。

 砲身が後退し、制御席を支えるアームまで揺れた。ヘンメは足を踏ん張り、照準器から離れかけた顔を戻す。

 観測画面のサラミス級は、艦首に穴を開けていた。後部から抜けた光が遠ざかり、船体が膨れる。隣の艦が横へ逃げる間に、爆発が全体を覆った。

 

「大尉!これ以上の速射は強制冷却プロセスが働き、余計に次射まで時間が掛かります!それに、熱膨張で砲身そのものが歪んでしまう!」

 

「クソッ!分かったから、とにかく冷却を急がせてくれ!」

 

 ヘンメは操作盤を叩きかけた手を止め、温度表示へ目を落とした。数値は下がっている。だが、敵の接近はそれより早く見えた。

 前方の艦影を倍率を変えずに追えるようになっている。小型艦の船体には、ミサイル発射口の列まで判別できた。

 

 ヨーツンヘイムには、ランチから収容状況が届いていた。砲術科の兵士も乗り込み、制御席に残るのはヘンメだけだという。

 

「砲術長!もういい、早くランチに乗って退避したまえ!」

 

「十分戦果もデータも取れました!もうヨルムンガンドに拘らなくても!」

 

 モニクは通信機を握ったまま返事を待った。ヘンメの画面には、俯いたヘルメットの上部が映っている。

 

「アンタらの方がさっさと回避運動を取れ!もう時代は大砲から、モビルスーツに変わる。たとえここでヨルムンガンドが大戦果を上げたって、その歴史の流れは免れねえ」

 

 プロホノウは窓外へ目を向けた。ヨルムンガンドのそばで、最後のランチが待っている。船体を砲へ向け直そうとしたその機へ、ヘンメが帰れと怒鳴るのが聞こえた。

 

「ならば……その幕引きくらいは、俺の腕でさせてくれ!」

 

 艦長の手が肘掛けを掴んだ。敵の針路と帰投中のランチを見比べ、クリューガーを呼ぶ。

 

「ランチは本艦の退避針路へ誘導しろ。収容後、全速で離脱する」

 

 副長は一瞬だけ艦長を見て、命令を復唱した。

 ヨーツンヘイムが回頭を始める。窓の外を砲身が横へ流れていき、モニクはコンソールへ拳を落とした。もう一度ヘンメを呼ぼうと通信機を持ち直すが、声が続かなかった。

 

 マイは席を離れず、レーザー通信の追尾状態を確かめていた。母艦の向きが変わる間も、アスカからの情報と砲への送信を繋ぐ。

 受信欄に新しい座標が並ぶと、マイはそれを送り、射撃可能の表示が戻るのを見た。

 

 ヨルムンガンドが第八射を放つ。

 レパント級と、その後ろに重なったサラミス級を光が貫いた。だが、フリゲートの両舷からは、命中する前に幾つもの小さな光が離れていた。

 艦体が崩れても、それらは針路を変えない。ヨルムンガンドへ向かうミサイルだった。

 

 アスカはその発射を見ていた。

 ヅダはようやく敵艦の側面へ近づいている。別のレパント級でも発射口が開く。彼女は残っていた一発をその側面へ撃ち込んだ。

 発射口の縁がめくれ、船体の内部から爆発が連なった。先に飛び出したミサイルはそのまま進み、残ったものは艦内で誘爆する。

 

 残弾表示が零になった。アスカは空の弾倉を抜き、シールドに残る最後のマガジンを掴ませた。敵艦の対空砲がこちらを追っている。噴射を続けたまま弾倉を押し込み、銃を前へ戻した。

 装填完了。五発。

 

 残るレパント級の発射区画へ一発を送る。艦の側面が破れ、続いて艦首の向きが崩れた。これでミサイルフリゲートは全て沈んだ。

 だが、先に撃たれたミサイルは後方へ進み続けている。アスカの位置から追いついて撃ち落とせる距離ではない。

 

 サラミス級二隻が砲塔を向ける。

 アスカは機体を傾け、飛来する光条の下へ潜った。次の射撃に合わせて噴射を変えながら、先行艦の艦橋下部へ一発。艦橋が根元から傾き、船体の向こうへ外れていく。

 その艦への追撃を止め、もう一隻へ銃口を移した。機関部を狙った弾が船尾へ消え、推進器の間から光が噴き出す。後部を失った巡洋艦は、回りながら爆発の中へ沈んだ。

 

 残弾は二発。マゼラン級はまだ前へ進んでいる。

 アスカがそちらを捉え直した時、後方の通信に警報が割り込んだ。

 

 ヨルムンガンドは姿勢制御スラスターを吹かしていた。長い砲身が少しずつ傾き、ミサイルの広がりから離れようとしている。

 ヘンメは制御席で手すりを握った。着弾までの間に砲が動いた距離は、照準画面の中ではほとんど変わらなかった。

 

 砲尾の近くで光が弾けた。

 続いて別のミサイルが爆発し、散った破片がアームと操作盤を叩く。ヘンメの身体が横へ折れた。何かに突かれたと感じた直後、腹の脇に焼けるような痛みが走った。

 

「ぐ、おおおおっ……!」

 

 手を当てると、裂けたスーツから空気が漏れていた。ヘンメは応急パッチを引き出し、手袋を濡らす血の上から押しつける。

 縁を押さえなければ浮いてしまう。片手を傷口に残し、もう一方で操作盤へ身体を寄せた。呼吸のたびに脇腹が痛み、足を踏ん張る力が抜けていく。

 

 ヨーツンヘイムでは最後のランチの収容が終わり、機関出力が上げられていた。マイはヘンメの映像を拡大する。大尉の手が操作盤へ伸びるところは見えたが、顔は俯いたままだった。

 

「ヘンメ大尉、応答してください。被害の状況は」

 

 返事の代わりに、荒い呼吸が入った。

 ヘンメは照準器を覗こうとして、片目を閉じた。二重に見えた艦影が一つになる。近づいているのは分かる。だが、操作盤へ掛けた指が思ったところまで動かない。

 腹を押さえていた手を離し、身体を引き寄せる。その勢いで照準が流れたことに気づくより早く、第九射の引き金を引いていた。

 

 光はマゼラン級の横を抜けた。

 艦体はまだ繋がっている。右舷に焼けた跡を残したまま、戦艦はヨルムンガンドへ向かっていた。

 残った砲塔が斉射する。回避で乱れた姿勢を修正しながらの砲撃は、砲身の脇を通り過ぎた。ヘンメはその光を横目で追ったが、首を戻すだけで息が切れる。

 

「大尉ぃぃぃっ!」

 

 アスカがマゼラン級へ追いついた。

 艦の側面に沿ってヅダを進め、280mm MS用対艦ライフル ASR-78を構える。残る二発のうち一発が機関部へ入り、推進器の間から破片を噴き出させた。

 続けて燃料タンクへ撃ち込む。船体の裂け目が広がり、後部で爆発が起きた。推進器の光が消える。

 

 止めた、と思いかけた。

 それでもマゼラン級は前へ進んでいた。エンジンを失った船尾から噴出が広がるだけで、ヨルムンガンドへ向かう針路は変わらない。

 距離表示が減っていく。アスカは空になったライフルを引き寄せ、砲尾の制御席を探した。そこへ向かおうにも、戦艦の大きな船腹が前を塞いでいる。

 

「ダメ、止まれ……止まれえぇっ!」

 

 ヅダを艦の外側へ振り、機首を砲尾へ向ける。操作盤にはもうライフルの射撃可能表示が出ていなかった。

 別の武器へ持ち替えるより、ヘンメのところへ行かなければならない。アスカは前方の破片を避け、噴射を強めた。

 

「お嬢ちゃん……観測データ、ありがとよ……」

 

 ヘンメの声に、アスカは送信を開いた。

 

「大尉、今、そちらへ」

 

「おかげで……人生の終わりに、最高の戦果が上げられた。……あとは、頼んだぜ」

 

 最後の言葉が息に混じった。

 ヘンメの前では、照準器いっぱいにマゼラン級が広がっている。細かく狙う必要はもうなかった。操作盤へ体重を預け、感覚の薄れた指を引き金に掛ける。

 砲弾クリップには一発だけ残っていた。

 

 第十射。

 

 至近距離のマゼラン級へ、プラズマが正面から突き込まれた。

 艦首が裂け、その奥から光が抜ける。アスカの画面を船体の破片が横切り、ヨルムンガンドの制御席が見えなくなった。

 彼女は機体を傾け、広がる破片の外へ逃れた。肩のシールドに衝撃が続く。映像が戻っても、マゼラン級の艦影はどこにもなかった。

 

 ヘンメは着弾を見届けなかった。

 照準器から額が離れ、身体が固定帯に凭れた時には、もう呼吸が止まっていた。引き金から外れた手が、操作盤の縁に触れている。

 

 砲身へマゼラン級の破片が降り注いだ。支持部の一つが折れ、アシスト・インジェクターの周囲で小さな爆発が続く。

 速射で熱を溜めていた砲は、損傷した箇所から次々と光を漏らした。長い砲身が途中で曲がり、先端が元の射線から外れていく。

 ヨルムンガンドからの数値が、マイの画面で止まった。

 

「大尉。ヘンメ大尉」

 

 アスカは何度も回線を開き直した。

 砲の姿勢制御の噴射も消えている。呼びかけに返るのは途切れたノイズだけで、あの大きな声は聞こえなかった。

 

 目の縁に溜まった涙が視界を歪めた。瞬きをすると雫が離れ、ヘルメットの内側へ張り付く。

 前方へ目を戻した時、サラミス級が見えた。艦橋を撃ち落とした一隻が、まだ船体の形を残して漂っている。

 

 アスカはそちらへヅダを向けた。

 空のライフルを脇へ退け、シールド裏からシュツルムファウストを外す。艦橋の跡は黒く抜けていたが、船体の側面には灯火が残っていた。

 ヘンメの制御席には、もう何の表示も返ってこない。それなのに、あの艦は残っている。

 アスカは船体へ照準を合わせた。

 

「……こ……くする!こちら……サラミス級……降伏する!」

 

 遭難信号の帯域から声が入った。

 指は引き金へ掛かったままだ。声が途切れると、アスカは照準枠の中央を見直した。艦は回避しない。撃てば当たる。

 

「砲撃を中止する!こちらは……降伏する!」

 

 聞こえている。

 アスカは奥歯を噛み合わせた。通信機の向こうで誰かが同じ言葉を繰り返している。止めてくれと頼む声に、苛立ちが募る。

 こちらも止めてほしかった。ヘンメへ向かうミサイルも、最後まで砲へ進んでいった戦艦も。

 

 右手の指を曲げかけ、止める。

 照準枠が僅かに揺れた。アスカはそれを艦の中央へ戻そうとして、自分がまだ狙いをつけ直していることに気づいた。

 息を吐いても胸が痛む。もう一度吸い、指を引き金から外した。握り直せばまた掛かりそうで、伸ばしたままにしておく。

 

「……直ちに武装解除し、動力炉の火を落とせ」

 

 返事を待ちながら、シュツルムファウストを下げた。

 サラミス級から了解の声が届く。艦の灯火が一部消え、残った砲塔も動かなくなった。アスカはその様子を確かめ、ヨーツンヘイムへ投降を知らせた。

 マイが受信を返し、プロホノウがその艦の監視を命じる。アスカは短く答えた。

 

 モニターの端にヨルムンガンドが残っていた。

 曲がった砲身の向こうで、制御席を支えるアームがゆっくり回っている。アスカはそちらへ映像を寄せかけ、監視中のサラミス級へ戻した。

 敵艦に変化はない。

 

 報告を終えても、ヘンメとの回線を切れなかった。

 受信欄を残したまま、アスカは操縦桿を握っていた。

 




長文の読了ありがとうございました!
ヨルムンガンドを活躍させきれたのではないかな?と思います。

次回は、マイの評価報告書とルウム戦役で活躍したパイロット達の受勲式をちょろっと書いて、第二章に移って行きたいと思っています。

スタックが無くなってしまったので、第二章は全部書き上がってから投稿したいと思います。
第二章の投稿は少し遅くなってしまうかも知れませんが、ご勘弁願います。

それと、第二章は三人称の時は名前の後ろの階級は取って表記しようかなと考えています。
ちょっと長すぎちゃいますしね…
他のメンバーは名字なのに、モニクだけ名前なのはそっちの方が短くて書きやすいからなので、気にしないでください。

みなさまのご感想等お待ちしております!

登場させるとしても大分先になりますが、ジークアクスのキャラを出すのはアリかナシか。(出るならニャアン)

  • アリ
  • ナシ
  • どっちでも良い
  • 早く書け
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