技術試験隊斯ク戦ヘリ 作:ザクスキー2世
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今回で、ルウム戦役は終わりになります。
前回変なところで区切ってしまったので、こちらは長くなっております。
暗黒の宙域に、再び破滅の閃光が迸る。
死者の情念を強靭な意志でねじ伏せたアスカから、次なる空間座標データが送信された。ミノフスキー粒子の濃密な海を越え、指向性レーザーで届けられたデータを受信し、ヨルムンガンドが必殺の第五射の火を噴く。
極限まで圧縮されたプラズマの槍は、連邦軍の密集陣形の奥深くで艦載機を射出させようとしていたコロンブス級を正確に貫いた。輸送艦の薄い装甲を紙のように溶かし、内部に満載されていた艦載機用の膨大な爆装と推進剤のタンクを連鎖的に誘爆させる。一切の音がない宇宙空間で、コロンブス級は内側から弾け飛び、周囲の空間を真昼のように照らし出す巨大な火球へと姿を変えた。
「よし、命中だ! 早く次弾を装填してくれ! 会戦が終わっちまう!」
宇宙空間にむき出しとなっている制御席で戦果を確認したヘンメ大尉が、興奮も露わに通信回路越しに怒鳴る。ヨルムンガンドの巨大な砲弾クリップは5発装填式であり、今の一撃でクリップは空となっていた。
「再装填作業、急げ!」
ヨーツンヘイムのブリッジからプロホノウ艦長の鋭い号令が飛ぶ。激戦の最中、母艦から宇宙空間へと整備兵たちが総出で飛び出し、機材へと取り付く。複数のスペースランチがヨルムンガンドの周囲を飛び回り、巨大な砲弾クリップをヨルムンガンドの機関部へと押し込む再装填作業が開始された。
その直後だった。
全力で再装填作業をしていたヨルムンガンドとヨーツンヘイムの頭上を、赤い残光をたなびかせた一機のモビルスーツが通常の機体とは比較にならない常軌を逸したスピードで通り過ぎていく。
「対空警戒、何をしていた!」
機影が通り過ぎた数秒後、ようやく鳴り響いたヨーツンヘイムの接近警報に、クリューガー副長が怒鳴り散らす。
赤い機体の放つ強烈なスラスター光の軌跡を追うように、今度は無数の緑色の機影がヨーツンヘイムとヨルムンガンドの周辺を次々と追い越していった。
ジオン公国軍の機動兵器である、ザクIIの編隊群。大艦巨砲主義の象徴たる戦艦同士の砲撃戦から、人型兵器による超近接乱戦へと、ルウムの戦いが歴史的な転換を迎える決定的な瞬間であった。
味方の大部隊が追い抜いていく中、アスカは冷静にヅダの姿勢制御スラスターを吹かし、先ほどの回避機動の際に投棄していた280mm MS用対艦ライフルASR-78をマニピュレーターで拾い直した。
そのまま流れるような動作で機関部をコッキングし、遠方で逃げ惑う標的へと長大な銃身を向ける。彼女の極めて鋭敏なニュータイプの直感が、目標が次に行う回避ベクトルの三次元的な重なりを先読みし、完璧な予測照準を弾き出した。
引き金が引かれる。強烈な反動を金星エンジンの絶妙な推力調整で相殺しながら放たれた大質量弾が、遠方で無秩序な回避運動を行っていたコロンブス級のバイタルパートを次々と粉砕していく。ブリッジと航空爆装保管庫を撃ち抜かれた二隻の空母が、立て続けに光の海へと沈んでいった。
アスカは空になったマガジンを排莢し、左肩の可動式シールドの表面にマグネット固定していた予備マガジンを装填する。これで、残る予備マガジンは1つとなった。
そのすぐ直後、接近警報が鳴る前に背後からプレッシャーを感じ振り返る。
凄まじい速度で後方からやって来た赤いザクがヅダの正面で急制動を掛けて止まり、指向性のレーザー通信を開いてきた。
「こちらシャア・アズナブル中尉。そこのモビルスーツ、我々に戦場を譲られたし。これは作戦計画に基づいた行動である」
「こちらアスカ・ナカノミヤ少尉、了解致しましたシャア中尉」
「…見事な手際だったな少尉、それに大蛇とやらも案外役に立つようだ」
ルウムの闇に映える赤いザクを駆るシャア中尉は、アスカの神業的な狙撃と大蛇の戦果を淡々と、しかし確かな敬意を含んだ声で称賛した。
「あとは我々の出番だ」
そう言い残し、赤いザクはメインスラスターの強烈な光を放ちながら、連邦軍艦隊の戦列のど真ん中へと向かって猛スピードで去っていく。
主役の座を譲り、ヨーツンヘイムからの指示待ちでその座標に待機を続けるアスカのヅダの横を、さらなるザクの編隊がすれ違っていく。その中に、黒と紫のパーソナルカラーに塗られた3機の姿があった。
「なんだぁ? あのツギハギヤロウは。好き放題抜け駆けしやがって」
「あれはザクとコンペに負けたモビルスーツじゃないか?」
「お前ら、回ってきた映像で見てただろう。技術試験隊の連中だ。オンボロ兵器と前時代の遺物でよくやった方だろう」
黒い三連星、オルテガ、マッシュ、そしてガイア。彼らの侮蔑と評価の入り混じった無遠慮な近接通信をすれ違いざまに傍受しながら、アスカは無言で戦場の奥へと視線を向けていた。
主力部隊のザク編隊が連邦軍の戦列へと突進して間もなく、暗黒の宇宙の至る所で無数の閃光が瞬き始めた。
艦船の鈍重な防空砲火を易々とすり抜けたモビルスーツたちが、巡洋艦のブリッジを正面から叩き割り、剥き出しの機関部へと容赦なくバズーカの弾頭を撃ち込んでいく。巨大なマゼラン級やサラミス級が、次々と火球となって連鎖的に膨れ上がり、溶けた金属と艦内の空気、そして乗組員を宇宙空間へと撒き散らしながら塵と化していく。
その瞬間、数百数千という人間の命が、一斉に弾け飛んだ。
死の恐怖、絶望、怒り、そして声にならない断末魔。戦場から決壊した生々しい感情の暴風雨が、極めて鋭敏なニュータイプであるアスカの脳髄へと直接叩き込まれる。
「う、あ……っ」
ノーマルスーツの下で全身の毛穴が開き、耐え難い悪寒と強烈な吐き気がアスカを襲った。胃袋が不快にせり上がり、喉の奥から鉄の味が込み上げてくる。彼女はコックピットのシートに背中を押し付け、痙攣しそうになる指先を自らの腕で抱え込みながら、必死に荒い呼吸を整えようとする。大規模戦闘がもたらす精神負荷の濁流が、彼女の神経系に深刻なデバフを与え、機体の操作系から一瞬だけ意識を遠のかせた。
「メテオ01、まだヨルムンガンドの再装填が終わらない。そのまま現場で待機を続けてくれ」
ヨーツンヘイムのマイ中尉から通信が入るが、アスカは血が滲むほど奥歯を噛み締めて呻き声を殺し、声を絞り出して返答した。
「…こちらメテオ01。……了解」
戦局は、連邦軍にとってさらに絶望的な方向へと傾いていた。
モビルスーツの蹂躙によって大混乱に陥り、陣形が完全に崩壊した主力艦隊の横合いから、ティアンム提督率いる前衛艦隊を釣り出してから行方をくらませていた、ドズル中将麾下の巡洋艦艦隊が突入してきたのだ。
内からの機動兵器による破壊と、至近距離からの容赦ない艦砲射撃。完全に挟み撃ちとなった連邦軍の戦線は、ここに事実上の崩壊を迎えた。
万策尽きた連邦軍総旗艦アナンケは、残存する全艦艇に向けて最後の命令を発する。各個の判断にて撤退を開始せよ、と。
だが、その壊走の連鎖が、技術試験隊に思わぬ危機を招き寄せることとなる。
「敵艦隊接近! マゼラン級1隻、サラミス級4隻、レパント級ミサイルフリゲート4隻からなる分艦隊が、こちらへ向かってきます!」
ヨーツンヘイムのブリッジで、レーダーを監視していたオペレーターが声を上げた。
総旗艦の撤退命令を受け、MSの被害を受ける前に一目散に戦線を離脱した連邦軍の分艦隊。彼らが死に物狂いで逃げてくる直線上には、再装填作業のために整備兵たちが宇宙空間へ放り出されている完全無防備なヨルムンガンドが存在していたのだ。
「メテオ01、直ちに敵艦隊の対処にあたれ!」
モニク大尉が通信機を握りしめ、吐き気に苦しむアスカへと迎撃の指示を飛ばす。
だが、補給していないたった一機のモビルスーツで、9隻からなる艦隊の足を止められるとは到底思えなかった。
「ヨルムンガンドの放棄を提案する」
メインスクリーンを見つめたまま、プロホノウ艦長が苦渋の決断を下す。
「…仕方ありません。すでに大戦果を上げ、評価試験もクリアした。ヨルムンガンドは放棄しても良いと判断します」
モニク大尉もまた、己の感情を殺して冷静にその提案を支持した。もはや弾を撃ち尽くした巨大な鉄筒を守るために、有能なパイロットや技術者たちの命を散らす理由はない。
「ヨルムンガンドの放棄を宣言する! 作業中の全整備兵と砲兵は、直ちにランチに乗って撤退せよ!」
艦長が全艦へ向けて退避命令を発した。
だが、その命令に真っ向から噛み付く男がいた。
「もう少しで装填が完了するんだ!どうせ向かってくるなら、コイツで撃って少しでも数を減らしたほうがいいだろうが!」
ヘンメ大尉が通信回路を通じて怒鳴りつける。大砲屋としての意地と、大艦巨砲主義の遺物と呼ばれた巨大兵器への執念が、彼に逃亡という選択肢を許さなかった。迫り来る9隻の艦影を前にしても、彼は一歩も引く気配を見せない。
「装填完了!」
ヘンメ大尉の怒声に間髪入れず、スペースランチで装填作業にあたっていたワシヤ中尉の声が響き渡った。宇宙空間でランチの機体そのものを直接押し付け、巨大な弾薬クリップを強引に押し込むという、死と隣り合わせの最後のひと押しを決めたのだ。
暗黒の宙域に、再び破滅の閃光が迸ろうとしていた。
距離はまだ十分にある。だが、一切の回避機動も取らずに一直線に向かってくるのならば、大蛇にとって的にするには比較的容易かった。
ヘンメ大尉は血走った目で照準器のスコープを覗き込み、迫り来る連邦軍分艦隊の旗艦へとヨルムンガンドの狙いを合わせた。宇宙空間に剥き出しとなった開放型制御室には、ヘンメ大尉の荒い呼吸音だけがヘルメットの内側に反響している。
「ヘッヘッ、早く来ないと全部食っちまうぞ。お嬢ちゃん」
通信回路越しに響くヘンメ大尉の強がりに、アスカはコックピットの中で強く奥歯を噛み締めた。
開戦直後に轟沈した補給艦パプアの光景が、アスカの脳裏に鮮烈なフラッシュバックとなって蘇る。あの時は、あと少しのところで手が届かなかった。目の前で失われていく命を、ただ見つめることしかできなかった。
だが、今度は違う。今度は絶対に守り抜いてみせる。
ルウムの宙域に満ちた数万の死者たちのパニックと断末魔が、ニュータイプとしての鋭敏な感応力を持つアスカの脳髄に直接流れ込み、胃袋を激しく締め付けるような強烈な吐き気を引き起こしている。だが彼女は、その耐え難い悪寒を超人的な精神力と執念で強引にねじ伏せた。
「私はッ!」
ヅダのスロットルレバーを限界まで押し込む。
背面に搭載された大推力エンジンが悲鳴にも似た駆動音を上げ、爆発的な加速力がアスカの華奢な体を強引にシートへと沈み込ませた。暗黒の宇宙に、閃光のように鋭いスラスターの軌跡を引きながら、アスカのヅダは単機で連邦軍分艦隊へと決死の突撃を開始した。
極限のG負荷で視界が狭まる中、アスカはヅダで得た座標データをヨーツンヘイムへと送信し続ける。そのデータを受け取ったヘンメ大尉が、即座に大砲の照準を微修正し、トリガーを引き絞った。
「観測データを受け取った!第六射、撃つぞ!」
巨大なヨルムンガンドの砲口が、六度目の閃光を放つ。
一直線に陣地へと向かってきていた先頭のマゼラン級は、暗闇の奥で不気味に瞬いた光芒を視認した直後、艦長の絶叫に近い号令のもとで急激な変針による回避機動を取った。間一髪、射出までの数秒の差で直撃こそ免れたものの、プラズマビームが艦の至近を掠めたことで、磁場などにより発生した引力に巻き込まれる。
見えない力に引っ張られるように姿勢を崩したマゼラン級は大幅に推進ベクトルの速度を落とした。それだけでなく、プラズマが通過した右舷の分厚い装甲の表面は、数万度の超高温に晒されて赤熱化し、外部の兵装等に深刻なダメージを負っていた。
だが、マゼラン級が巨体をよじって回避したその代償は、無慈悲にもその後ろを追従していた小型艦へと牙を剥いた。
最後衛に位置していた全長180mのレパント級ミサイルフリゲートが、マゼラン級がかわしたプラズマの奔流に側面を撫で切られたのだ。強固な重装甲を持たないフリゲート艦の艦体は、右側面を削り取られた瞬間に強烈な力でねじ曲がった。そして、内部のVLSに格納されていた残存のミサイルが、急激な熱量に耐えきれず次々と連鎖的な誘爆を起こす。
音のない宇宙空間で、レパント級は一瞬にして紅蓮の火球と化し、無数の破片を周囲に撒き散らした。
想像を絶する大砲の破壊力を目の当たりにし、足の速い残りのレパント級3隻とサラミス級4隻が、狂乱したかのようにメインスラスターを全開にして増速する。もはや陣形も何もない。護衛もなく立ち止まっている巨大な大砲と、その母艦であるヨーツンヘイムを力任せに排除すべく、殺意を剥き出しにして一気に距離を詰めてきた。
「次弾装填済みだ! 続けて撃つぞ!」
ヘンメ大尉が大声で叫び、次なる射撃プロセスを強引に起動する。
「待って下さい大尉! 冷却途中で速射すれば、砲身内に残ったプラズマの熱で照準通りに飛ばなくなる可能性があります!」
「馬鹿野郎!そんな悠長なこと言ってられるか!状況判断だ!!」
ヨーツンヘイムのブリッジから、マイ中尉が技術士官としての冷静な制止の声を上げる。だが、ヘンメ大尉はそれを怒声で叩き斬り、独断で第七射のトリガーを引いた。
砲身内からプラズマ励起したガスの残滓が荒々しく吹き出し、巨大な反動で後退したヨルムンガンドの砲身を強制的に定位置へと引き戻す。再び暗黒の宇宙を引き裂いた第七の閃光は、僅かなブレを生じながらも、全速で突っ込んできたサラミス級1隻の艦首を真正面からぶち抜き、後方まで完全に貫通して暗黒の彼方へと消え去った。
一秒の沈黙の後、サラミス級は内部から急激に膨張し、粉々に吹き飛んで光の海に沈む。
「大尉!これ以上の速射は強制冷却プロセスが働き、余計に次射まで時間が掛かります!それに、熱膨張で砲身そのものが歪んでしまう!」
マイの悲痛な警告に対し、ヘンメは喉の奥で獣のような唸り声を上げた。
「クソッ!分かったから、とにかく冷却を急がせてくれ!」
戦場にはすでに高濃度のミノフスキー粒子が散布されており、連邦軍のミサイルやメガ粒子砲のレーダー照準を著しく妨害している。だが、それはあくまで長距離戦での話に過ぎない。間もなく敵艦隊は、レパント級に搭載されたミサイルの物理的な有効射程距離に到達しようとしていた。無誘導でも真っ直ぐに撃ち込まれれば、自力でまともな回避運動が取れないヨルムンガンドはひとたまりもない。
「砲術長!もういい、早くランチに乗って退避したまえ!」
「十分戦果もデータも取れました!もうヨルムンガンドに拘らなくても!」
プロホノウ艦長とモニク大尉が、通信越しに悲痛な撤退命令を叫ぶ。だが、ヘンメ大尉は頑なに開放型制御室の射撃装置に張り付いたまま、顔を上げることはなかった。
「アンタらの方がさっさと回避運動を取れ!もう時代は大砲から、モビルスーツに変わる。たとえここでヨルムンガンドが大戦果を上げたって、その歴史の流れは免れねえ」
ヘンメ大尉の痛切な言葉に、プロホノウ艦長は何も言い返すことができなかった。
「ならば……その幕引きくらいは、俺の腕でさせてくれ!」
大砲屋としての最後の意地。そして、己のすべてを懸けた兵器への愛。それを聞いた艦長は、血の滲むような苦渋の表情で深く頷き、クリューガー副長へとヨーツンヘイムの全速離脱を命じた。モニク大尉はやり場のない感情に顔を歪め、ブリッジのコンソールを力任せに叩きつける。
ヨーツンヘイムが回頭し離脱を始める中、ブリッジでマイ中尉だけがコンソールに張り付き、アスカから送られてくる観測データの中継送信を必死に継続していた。
冷却を終えたヨルムンガンドが第八射を放つ。
射線上に一直線に重なったレパント級1隻とサラミス級1隻を、極太のプラズマが正面からまとめて串刺しにする。
だが、それとほぼ同時だった。完全に射程内へと入り込んだレパント級が、轟沈の直前、最後の足掻きとして無数のミサイルを無誘導のままヨルムンガンドの陣取る宙域へ向けて乱れ撃った。
漸く到着し、勢いそのままに敵陣のど真ん中へ突入したアスカのヅダは、超高速で直進しながら280mm対艦ライフルASR-78の引き金を引いた。残る最後の1マガジンから放たれた大質量弾が、ミサイルを撃ち尽くす前のレパント級のVLS側面を極めて正確に撃ち抜く。内部で誘爆を起こした大量の子弾が装甲を内側から食い破り、レパント級2隻を立て続けに爆沈させた。
これで分艦隊の残る戦力は、小破したマゼラン級1隻と、サラミス級2隻のみ。
側面から突撃してくるヅダに対し、残存するサラミス級がすべてのメガ粒子砲を向けて直接照準による一斉射撃を加える。宇宙を焼き焦がす光の雨がアスカを襲う。しかし、アスカは直進しながらも機体のAMBACとスラスターの推力方向を小刻みに変化させる狂気的なジグザグ機動で、飛来するビームの奔流をすべて回避していく。
そのまま直進の恐るべきエネルギーを乗せたASR-78の一撃が、サラミス級1隻の艦橋下部に直撃した。分厚い装甲がめくれ上がり、艦橋構造物が根元から吹き飛ぶ。指揮系統を完全に失ったサラミス級は激しい衝撃で進路を変え、宇宙空間を力なく漂流し始めた。アスカは残っているサラミス級のバイタルパートを的確に撃ち抜き、轟沈させる。
その直後だった。
ヨルムンガンドの周辺で、巨大な閃光と衝撃波が連続して弾けた。
使用可能な姿勢制御スラスターを懸命に吹かしてミサイルの射線から逃れようとしていたヨルムンガンドだが、その絶望的なまでの質量に対して推力があまりにも貧弱すぎる。本当にゆっくりとしか動けない巨体の周囲で、到達した無誘導ミサイル群が無慈悲に爆発したのだ。
ミサイルの外殻や装甲の破片が散弾となって降り注ぎ、フレキシブルアームで保持されただけの開放式制御室を激しく叩き据える。
「ぐ、おおおおっ……!」
制御席に立っていたヘンメ大尉の体を、鋭利な金属片が容赦なく貫いた。
分厚いノーマルスーツが裂け、真空の宇宙へと空気と真っ赤な血液が吸い出されていく。ヘンメ大尉は激痛に顔を歪めながらも、震える手で急いでスーツに開いた穴へ応急パッチを押し当てた。だが、傷は臓器に達するほど深すぎた。大量の出血によって急速に視界が白く霞み始め、指先の感覚が失われていく。己の命が、もはや助からないことを大砲屋は静かに悟る。
それでも、ヘンメ大尉は血まみれの手でメインコンソールのトリガーを握り込み、第九射を放った。
しかし、意識が朦朧としている状態では正確な照準など望むべくもない。放たれたプラズマの槍は、赤熱した装甲を引きずりながら全速力で突入してくるマゼラン級の横を虚しく通り過ぎていった。
メガ粒子砲の有効射程にヨルムンガンドを捉えたマゼラン級が、残存するすべての砲塔を一斉に火を噴かせる。だが、宙域に高濃度で散布されたミノフスキー粒子が致命的に偏差を乱し、放たれたメガ粒子砲はすべてヨルムンガンドの巨体を掠めて宇宙の闇へと消えていった。
「大尉ぃぃぃっ!」
血を吐くような絶叫を上げ、アスカのヅダが猛然とマゼラン級へと肉薄する。
残る2発を装填したASR-78を構え、ヅダは真っ直ぐに突進しながら連続して引き金を引いた。大質量弾が、マゼラン級の機関部と燃料タンクを完璧にぶち抜く。爆発が起き、機関部が完全に沈黙してマゼラン級は推進力を失った。
だが、宇宙空間において質量が持っている慣性モーメントは、止められない限り決して消滅しない。機関を破壊されたマゼラン級は、全速力の速度を保ったまま、一直線にヨルムンガンドへと突進を続けていた。
「ダメ、止まれ……止まれえぇっ!」
慟哭するアスカの耳に、通信回路からノイズ混じりの、微かな、だがとても穏やかな声が届いた。
「お嬢ちゃん……観測データ、ありがとよ……」
息も絶え絶えな、ヘンメ大尉の声だった。
「おかげで……人生の終わりに、最高の戦果が上げられた。……あとは、頼んだぜ」
次の瞬間、クリップに残された最後の1発、第十射が至近距離から放たれた。
砲口から押し出された超高熱のプラズマが、激突寸前まで迫っていたマゼラン級を真っ向から完全に串刺しにする。直後、マゼラン級は内部から膨れ上がり、周囲の空間すべてを飲み込むかのような圧倒的な火球へと姿を変えた。
ヘンメ大尉は、己の愛した兵器が放つその眩い光を見届けることなく息絶えた。
至近距離で爆発したマゼラン級の膨大な破片が、ヨルムンガンドの砲身を激しく叩く。さらに、限界を超えて速射を繰り返したことで熱を溜め込んでいたアシスト・インジェクターが連鎖的に小爆発を起こし、大蛇はその巨体を無残にひしゃげさせて、完全に沈黙した。
静まり返った宇宙空間。
ヘルメットの中で、アスカの涙が大粒の球となって漂う。
行き場のない猛烈な怒りと悲しみが、彼女の感情を激しく支配する。アスカは血が滲むほど唇を噛み締め、艦橋を喪失し漂流しているサラミス級へとヅダの機首を向けた。左肩のシールド裏にマウントされたシュツルムファウストを向け、その引き金を引こうとした。
まさにその時だった。
ノイズ混じりの遭難信号帯域から、途切れ途切れの通信がヅダのレシーバーに飛び込んできた。
「…こ……くする!こち…ミス級レパ……降伏…る!」
それは、満身創痍のサラミス級からの、降伏を告げる悲痛な音声だった。
アスカの指が、トリガーの上で硬直する。
撃ちたい。この手で、ヘンメ大尉を奪った連邦の艦を粉々に消し去ってしまいたい。その強烈な衝動がアスカの脳を焼き切らんばかりに暴れ狂う。荒い息を吐きながら、彼女は照準器の中で無防備に漂う敵艦を睨みつけた。
だが、震える歯を力一杯噛み鳴らし、自らの内に渦巻く撃沈への衝動を、血を吐くような思いで腹の底へと押さえ込んだ。降伏して来た相手に向かって引き金を引けば、自分はただの殺人鬼になる。軍人としての矜持が、彼女を踏み止まらせた。
「……直ちに武装解除し、動力炉の火を落とせ」
冷たく、かすかに震える声で通信を返す。
こうして、人類史上最大規模の大会戦であったルウム戦役は幕を閉じた。
ヨルムンガンドは当初の予想を遥かに超える絶大な戦果を挙げた。しかし、暗黒の宇宙を見つめるアスカの胸には、エースパイロットとしての誇りや達成感など微塵も存在しなかった。
ただ、鉛のように重く冷たい、後悔と無念だけが残されていた。
長文の読了ありがとうございました!
ヨルムンガンドを活躍させきれたのではないかな?と思います。
次回は、マイの評価報告書とルウム戦役で活躍したパイロット達の受勲式をちょろっと書いて、第二章に移って行きたいと思っています。
スタックが無くなってしまったので、第二章は全部書き上がってから投稿したいと思います。
第二章の投稿は少し遅くなってしまうかも知れませんが、ご勘弁願います。
それと、第二章は三人称の時は名前の後ろの階級は取って表記しようかなと考えています。
ちょっと長すぎちゃいますしね…
他のメンバーは名字なのに、モニクだけ名前なのはそっちの方が短くて書きやすいからなので、気にしないでください。
みなさまのご感想等お待ちしております!