技術試験隊斯ク戦ヘリ   作:ザクスキー2世

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お久しぶりです。
お待たせいたしました。
第二章が書き上がりましたので初投稿です。
沢山の高評価とお気に入り登録ありがとうございます!!
更新するために久しぶりにアカウント開いたら、びっくりしました笑

せっかくの二次小説なので、オリジナル兵器や既存の試作兵器なんかも評価試験する回を今後も作って入れてみたいと思っています。
では、第二章も引き続きお楽しみ頂けたら幸いです。




第2章 キメラの産声
第8話


 

 

 宇宙世紀0079年1月30日

 

 

 ルウム宙域を血と硝煙で染め上げたあの激戦から2週間が経過していた。私たちが所属する第603技術試験隊の母艦、試験支援艦ヨーツンヘイムは、まるで世界の喧騒から取り残されたかのように、静かな慣性飛行を続けている。

 

 現在、ジオン公国軍の本国と地球連邦軍の上層部は、地球の南極大陸において終戦に向けた和平交渉を行っていた。連邦の総司令官であるレビル大将を虜囚とし、主力艦隊の大部分を壊滅させた我が軍の圧倒的な勝利によって、戦争はこのまま幕を閉じるのではないか。本国のメディアはそんな楽観論を連日のように垂れ流し、前線の兵士たちの間にも、どこか弛緩した空気が漂い始めている。

 

 その影響は、開発と評価を主任務とする私たちの部隊にも明確に現れていた。取り急ぎとして試験評価を下すべき新たな兵器の支給がなく、技術者たちもパイロットも、完全に暇を持て余してしまっていたのだ。

 

 そんな日々の中で唯一の、そして形ばかりの軍事行動といえば、私の操縦するヅダを連邦軍の主戦力戦闘機であるFF-3Fセイバーフィッシュに見立てた、ヨーツンヘイムの対空監視および対空射撃訓練くらいのものだった。

 

 金星エンジンが特有の咆哮を上げ、ツギハギのチタン装甲に包まれたヅダの機体が、暗黒の空間を滑るように加速する。コックピットを襲う強烈なGに耐えながら、私は機体の推力を微妙にコントロールし、母艦の周囲を不規則かつセイバーフィッシュの出せる最高速度で駆け抜けた。ヨーツンヘイムの各所に配置された対空砲座が、私を捉えようと必死に砲身を動かしているのが、伝わってくる感情の波を通じて手取るように伝わってくる。

 

 けれど、その照準の動きはあまりにも遅く、鈍かった。死線を超え、私の五感と完全に同調しつつあるヅダに対して、いくら戦闘機の取れる機動に制限していたとしても、旧式の輸送船を改造してポン付けしただけの対空システムでは、掠り傷一つ負わせることも不可能なのは明白だった。

 

 訓練を終え、熱を孕んだヅダをカタパルトデッキへと着艦させる。コックピットから降り立ち、無重力空間の壁に設置されたハンドルを掴んで身体を固定した私を待っていたのは、パイロットスーツに身を包んだワシヤ中尉だった。

 

 彼もまた、私と同じモビルスーツパイロットである。本来ならば、彼も自分の機体を駆ってこの訓練に加わり、宇宙の風を感じているべきだった。

 

 しかし、軍上層部の判断は冷酷だった。ルウム戦役において絶大な戦果を挙げ、少尉から大尉へと異例の二階級特進を果たしたトップエース、アスカ・ナカノミヤ。その私が専用機のヅダと共に技術試験隊に留まっている。ならば、その一機が存在するだけで、前線から外れた技術試験隊の護衛戦力としては必要にして十分である、というのが上層部の見解だったのだ。

 

 結果として、ワシヤ中尉に与えられるべき新型のザクIIはおろか、旧型のザクIさえもこの部隊には回されてこなかった。最前線の部隊へ優先的に戦力を配備するため、という御題目は立派だったけれど、私はその裏に、未だに私への嫌がらせを続けているジオニック社の陰湿な思惑を感じずにはいられなかった。ツィマット社の息がかかったこの部隊に、これ以上の戦力を与えたくないという政治的な立ち回りが、一人の優秀なパイロットの牙を奪っているのだ。

 

 毎日機体を操縦して宇宙を舞う私と、母艦のブリッジで指揮を眺めるだけの日々を強いられているワシヤ中尉。なにより、年下で後輩であったはずの私に、階級において完全に追い抜かれてしまったという事実は、彼の男としての、そして軍人としてのプライドに深く、目に見えない傷を負わせているに違いなかった。

 

 私の高い感応力は、彼がどれだけ快活に笑っていても、その奥底に澱のように溜まっている焦燥感と不甲斐なさを、痛いほどに敏感に拾い上げてしまう。だからこそ、私は彼と接する時、細心の注意を払わなければならなかった。

 

「いやはや、本日の大尉殿も実に素晴らしい機動でしたね!こちらの対空砲座の照準システムなんて、まるで子供騙しのように置き去りにしてしまう。これでは訓練の甲斐がありませんよ」

 

 ワシヤ中尉はいつものように、勤めて明るい声を響かせながら、冗談めかして私に絡んできた。その言葉の端々に含まれる微かな負い目の気配に、私の胸が小さく痛む。私はヘルメットを小脇に抱え直し、直立不動の姿勢を取って彼を真っ直ぐに見つめた。私の方が上官という立場になってしまったけれど、私はこの先達に対して、絶対に敬語を崩すつもりはなかった。

 

「ワシヤ中尉、お願いですからその大尉殿という呼び方はおやめください。私はただ、あの戦場で幸運の巡り合わせが良かっただけの若輩者に過ぎません。……中尉の前では、どうか今まで通りナカノミヤと呼んでいただきたいのです」

 

 私の少し硬い、けれど真摯な言葉に、ワシヤ中尉は一瞬だけ目を丸くした。それから、困ったように頭を掻きながら、ふっと柔らかい苦笑を浮かべる。

 

「あはは、そうはいきませんって。軍隊という場所は階級が絶対ですからね。それに、あのルウムで挙げた戦果が、ただの幸運だなんて誰も思いやしません。俺だって、一人のパイロットとして、大尉殿の腕前には感服しているんすから」

 

「ワシヤ中尉……。モビルスーツの支給の件ですが、私からも再度、本国の宇宙攻撃軍に強く掛け合ってみます。中尉のような優秀なパイロットに機体を与えず、ただ母艦に待機させて留めておくなど、公国軍全体にとっても大きな損失です」

 

 私が一歩踏み込んでそう告げると、ワシヤ中尉の感情の波が、一瞬だけ激しく揺れ動いた。作られた笑顔が消え、一人の男としての、生々しい切なさと感謝の念が混ざり合った視線が私に注がれる。

 

「ナカノミヤ大尉……」

 

 彼は私の名前を階級と共に呟き、それから小さく息を吐き出した。

 

「お気遣い、本当にありがとうございます。ですが、あまり無理はしないでください。俺なら大丈夫ですから。今は大尉の背中を完璧に守れるよう、このヨーツンヘイムで見張りでも極めることにしますよ。俺の専用機が届くまで、閃光の踊り子の相棒役は、お預けということにしておきます」

 

「ええ、楽しみに待っています。中尉の機体が届いたその時は、私の右翼は必ずあなたに任せますから」

 

 私が微笑みながら右手を差し出すと、彼は一瞬驚いた後、力強くその手を握り返してきた。彼の内側から焦燥のトゲが消え、穏やかで確固たる信頼の感情が流れ込んでくるのを感じて、私は心の底から安堵した。

 

 その日の午後、私はマルティン・プロホノウ艦長とエーリッヒ・クリューガー副長に呼び出され、艦長室での小さな集まりに同席することになった。

 重厚な木目調のテーブルの上に用意されていたのは、合成の代用品ではない、地球から取り寄せたという本物のアッサムティーだった。上品で深みのある芳醇な香りが、狭い室内に心地よく満ちていく。その香りを胸いっぱいに吸い込むだけで、戦場で張り詰め続けていた私の神経が、じんわりと優しく解きほぐされていくのが分かった。

 

「現在、南極で行われている連邦との交渉だが……このまま何事もなく、平和的に戦争が終わってくれれば良いのだがな」

 

 温かいティーカップを大きな両手で包み込みながら、プロホノウ艦長が遠い目をして静かに呟いた。その横顔には、艦長として多数の命を預かっている責任者としての深い疲労と、乗組員たちをこれ以上死なせたくないという、父親のような慈愛が滲み出ている。

 

「ええ、本当に。これ以上の血が流れる前に、すべてが収まることを祈るばかりです」

 

 クリューガー副長も、静かに紅茶を口に含みながら同意の言葉を述べた。

 

 二人の言葉は、この艦にいる全員の切実な願いそのものだった。しかし、私はカップの中で揺れる琥珀色の液体を見つめながら、内心で冷ややかに首を振っていた。

 

 地球連邦という巨大な組織が、ルウムの一戦で大打撃を被ったとはいえ、国力において数十倍もの圧倒的な差を持つ怪物が、そう簡単に膝を折るはずがない。彼らの本質は、宇宙に住む私たちを管理し、支配する側なのだ。一度の敗北でそのプライドを捨て去り、全面降伏に応じるような甘い相手ではないことを、私は本能的に察していた。

 

 けれど、そんな冷水を浴びせるような現実的な考察を、この穏やかなお茶の席で口にする必要はどこにもない。私は顔を上げ、お二人に向かって艶やかな令嬢としての微笑みを向けた。

 

「無事にこの交渉がまとまり、戦争が終結いたしましたら、第603技術試験隊の皆様を、ぜひ私の実家へご招待させてください。サイド3でも指折りの古いセラーから、父が大切に隠し持っている最高級のワインを開けさせます。皆様で、心ゆくまで良いお酒を飲みましょう」

 

 私の提案に、プロホノウ艦長もクリューガー副長も、それまでの硬い表情を崩して破顔した。

 

「ほう、それは素晴らしい。名門ナカノミヤ家のワインコレクションとなれば、這ってでも伺わねばならんな」

 

「ええ、それを楽しみに、これからの任務を乗り越えましょう」

 

 笑い声が室内に響き、凍りつきかけていた時間は、ひとときの温もりを取り戻した。

 

 

 

 宇宙世紀0079年1月31日

 

 

 

 私が胸の奥底で恐れていた不穏な予感は、最悪の形で現実のものとなって世界に突きつけられた。

 

 ルウムの決戦において黒い三連星の手で捕らえられ、我が軍の監視下に置かれていたはずの連邦軍最高司令官、ヨハン・イブラヒム・レビル将軍がいつの間にか脱走していたのだ。何者かの手引きによって無事に地球連邦の勢力圏へと逃げ延びた老将は、即座に全宇宙へ向けて、徹底抗戦を呼びかける声明を電波に乗せた。

 

 ヨーツンヘイムのブリッジに設置されたメインモニターに、その老将の姿が映し出される。白髪を蓄え、鋭い眼光を失っていないレビル将軍は、力強く、そして冷酷に我が軍の最大の弱点を暴露していった。

 

『ジオンに兵無し』

 

 画面の向こうから放たれたその一言は、ブリッジにいた全員の息を止めるのに十分な破壊力を持っていた。

 

 その言葉は、悲しいかな、紛れもない真実だった。ルウム戦役での大勝利と引き換えに、ジオン公国軍もまた、多くの戦闘艦艇を大破、あるいは喪失している。なによりも痛手だったのは、開戦時のブリティッシュ作戦からルウムにかけての連戦で、それなりの歳月をかけて徹底的に訓練を積んできた、貴重なモビルスーツパイロットを少なくない数失ってしまったことだ。

 

 絶対的な人口基盤が限られているコロニー国家である以上、どれだけ工場をフル稼働させて最新鋭の兵器を生産したところで、それを戦場で動かすマンパワーそのものは、急激に増やしようがない。レビル将軍は、我が軍がすでに人的資源が消耗していることを見抜いたのだ。

 

 結果として、南極での終戦交渉は決裂した。結ばれた南極条約は、核兵器の使用禁止などを定めた最低限の戦時条約へと形を変え、世界は再び、終わりなき泥沼の戦闘へと引き戻されることとなった。

 

 とはいえ、現時点において宇宙の主要な宙域のほとんどは、すでにジオン公国軍の圧倒的な制宙権の下に収まっている。地球軌道上に浮かぶ連邦軍最後の拠点ルナツー、その遙か後方に位置する未完成のコロニー・サイド7、そして中立を維持し続けているサイド6。それらを除けば、大規模な艦隊戦が起こる余地などはなく、残された任務といえば各地に散らばった連邦軍残存部隊の掃討やハラスメント攻撃を加えてくる少数艦隊くらいのものだった。

 

 状況が再び激しく動き出した以上、前線から外されていた私たち第603技術試験隊にも、必ず新たな命令が下るはずだ。私はメインモニターの砂嵐を見つめながら、静かに拳を握り締めた。

 

 

 

 宇宙世紀0079年2月1日

 

 

 

 本国の技術本部から、ヨーツンヘイム宛にデータ通信が入った。予想通り、私たちの部隊に与えられた新たな任務の通達だった。

 

 ブリーフィングルームのホログラムスクリーンに映し出されたそのデータの内容を前にして、私は思わず息を呑み、目を見張った。

 

 そこに立体映像となって浮かび上がっていたのは、見慣れた、けれど奇妙に変貌を遂げた一隻の宇宙艦艇の姿だった。それは、あのルウムにおいて、私がヅダのASR-78対艦ライフルを叩き込んで艦橋を正確に破壊し、無力化の末に降伏へと追い込んだ、連邦軍のサラミス級巡洋艦だった。

 

 送られてきた技術本部の報告書によれば、本国へ回されていたその鹵獲艦の技術解析が、すべて無事に終了したとのことだった。そして、ここからが技術本部の、いや、資源不足に苦しむ我がジオン公国軍の真骨頂だった。

 

 技術本部は、失われていたサラミス級の艦橋部分を平坦に均し、そこにルウムの戦場で大破棄却されていた味方のムサイ級軽巡洋艦から回収した艦橋ブロックを、そのまま強引に接合・溶接して修復を完了させていたのだ。さらに、火力強化としてサラミス本来の単装メガ粒子砲はすべて撤去され、ムサイ級の連装メガ粒子砲へと換装されている。

 

 連邦の直線的な船体に、ジオン特有の滑らかな曲線を持つ艦橋がそびえ立つ、その異様極まるツギハギのキメラ艦のシルエットに、ルーム内の全員が言葉を失っていた。

 

 今回の私たちの新しい仕事は、この損傷した廃棄艦や鹵獲艦艇を戦力として再利用するための「技術評価試験」を行うこと。連邦とジオンの全く異なる規格のジェネレーターや照準器を強引に同期させたシステムが、実際の宇宙空間でどれほど機能するのかを評価するのだ。

 

 そして、データの最下段には、私の胸を激しく高鳴らせる、軍令の文言が付け加えられていた。

 

『本技術評価試験が終了した暁には、当該艦の仮称を排し、アスカ・ナカノミヤ大尉の指揮下に編入。第603技術試験隊の専属護衛艦として配備運用するものとする』

 

 仮称、鹵獲実験艦01号

 

 輸送船に毛が生えた程度の武装しか無かったヨーツンヘイムに、ついに私たちだけの、独自の護衛艦が与えられる。新たな戦いの季節の訪れを告げるその辞令を前にして、私は静かに、けれど深く、冷徹な軍人としての息を吸い込んだ。

 




第二章は、一章で鹵獲したサラミスの改造艦の章です。
ピンときた方もいらっしゃるかもしれませんが、鹵獲実験艦01号のモデルは第百二号哨戒艇(クレムソン級駆逐艦スチュアート)になります。
良かったら、数奇な運命を辿ったスチュアートのことも調べてもらえれば幸いです。
なお、当小説に登場するマゼラン級とサラミス級の艦影については、ジオリジン版のもの想定しております。
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