第1話
見渡す限りの大砂漠。
その果てなき砂の海の境界に位置する砂塵の街バルバレは、今日も命の熱気に満ち溢れていた。
巨大な撃龍船をそのまま街のシンボルとしたその場所は、世界中から一攫千金を狙うハンターや、珍しい素材を求める商人たちが行き交う旅の拠点だ。
テントの天幕が乾いた風にパタパタと揺れる中、ギルドが営む大酒場からは、ジューシーに焼き上げられた肉の香ばしい匂いと、大樽の麦茶を酌み交わすハンターたちの豪快な笑い声が途切れることなく響いてくる。熱気と活気に満ちたその酒場の一角、木製の丸テーブルを囲む三人の少女たちの姿があった。
「へへん! 見たかよリグル、ルーミア! ここがバルバレの街だぞ!」
テーブルの特等席で、まだあどけなさの残る顔に自信満々の笑みを浮かべ、少年のようなやんちゃな口調で声を張り上げたのはチルノだ。
鮮やかな青い髪を後ろで短く結ったショートポニーテールが、彼女が動くたびに元気よく跳ねる。
「バルバレは砂の上に船があるんだぜ? すっげーだろ! あたい達の最強っぷりを見せつけるには、これ以上ない最高の舞台ってわけよ!」
そう言って、すっかり一流ハンター気取りの彼女が、小さな胸をドンと叩いた。
身に纏うのはユクモ一式だが、彼女のものはどこか特注の雰囲気を醸し出す、深い紺色と鮮やかな橙色を基調としたお洒落なカラーリングだ。
小柄な彼女には少し大きめに見えるその和風装束の脇には、自身の身長の倍はあろうかという、重厚な木と鉄でできた『ユクモの大剣』が誇らしげに立てかけられている。
「そうだね。確かにすごい活気だ」
その向かい側で、チルノの暴走の気配を敏感に察知し、早くも眉を下げている少女がいた。
帽子から覗くのは、新緑を思わせる鮮やかな緑色のショートヘア。
機能性を重視した革製の『レザーシリーズ』の装備をきっちりと着こなしている彼女はリグルだ。
そんな二人のやり取りを他所に、ひたすら目の前の幸福に没頭している三人目の少女がいた。
ふんわりとした金髪を横で結んだショートのサイドテールに、トレードマークである鮮烈な赤色のリボンがちょこんと揺れている。
「……ん。お肉、おいしい」
彼女の名前はルーミア。禍々しくも美しい青緑の『ジンオウガシリーズ』の甲殻鎧に身を包み、身なりだけなら、三人の中では一際異色な存在感を放っていた。
足元には不釣り合いなほど荒々しい『ジンオウガの太刀』を転がしているが、今の彼女の興味は武器よりも目の前の肉だった。
掴みどころのない独特の雰囲気を纏ったルーミアは、自分の顔ほどもある巨大な骨付き肉に猛烈な勢いで噛みついている。
「ルーミア、そんなにガッツリ食べるの大丈夫? お腹壊さない?」
リグルが苦笑しながら注意すると、ルーミアは肉を咥えたまま、大きな瞳をパチクリとさせて片言で返した。
「……だいじょぶ。お腹空くと、狩りできない。……もぐ。ね、チルノ?」
「あったりまえだ! ハンターたるもの、飯を食わなきゃ始まんねえよな!」
我が意を得たりとばかりに豪快に同意するチルノ。
――だが実を言うと、テーブルに並んだ料理を前に、三人の中で一番小食なのは他ならぬチルノ自身であった。
そんなことはおくびにも出さず、チルノは不敵にニヤリと笑う。そして、懐からおもむろに一枚の分厚い紙を取り出した。
バンッ!
音を立てて木製のテーブルに叩きつけられたその紙には、ギルドの公式な赤い刻印と、バリバリと電撃を放つような猛々しい雷狼竜の紋章が刻まれていた。
チルノはこれ以上ないほどのドヤ顔で、二人を見下ろすように言い放つ。
「ふふーん、見ろよこれ! あたい達にピッタリのクエストを取ってきたぞ!」
リグルはルーミアを一瞬横目に見てから、目の前のクエスト用紙を二度見した。
「……えっ? ジンオウガ? この地域にも出現したの?」
討伐目標であるモンスターの素材で作られた一式を身に纏う当の本人は、我関せずといった様子で目の前の骨付き肉を平らげている。
「これ、どこからもらってきたんだ?」
訝しげに尋ねるリグルに、チルノは胸を張った。
「なんか、クエストボードの一番上に貼ってあったんだ。どうだ、あたい達にピッタリだと思わないか?」
「確かに、この地域のジンオウガがどんな感じなのかは、僕も気になるけど……」
リグルは再び、密かにルーミアの反応を観察した。
しかし、当の本人は相変わらずテーブルの上に並んだ料理の攻略に専念している。特に反対する様子もなさそうだ。
(……まあ、いっか)
リグルは小さく息を吐き、覚悟を決めたように視線をクエスト用紙に戻す。
「僕たちにとっても簡単な相手じゃない。やるなら、しっかり準備しないとね」
「おう! 任せたぞ!」
待ってましたとばかりに両手を胸の前で組み、チルノが満面の笑みを浮かべる。
「あんたもやるんだよ!」というリグルのツッコミが酒場に響いた、まさにその時だった。