チルノのモンスターハンター⑨   作:椎名深夜

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第2話

「ふふ、活気がいいのは結構だけれど。ずいぶんと身の程知らずなルーキーたちがいたものね」

 

鈴を転がすような、けれど傲然とした高い声が、チルノたちのテーブルのすぐ横から降ってきた。

 

ハッとしてリグルが顔を上げると、そこには異様な威圧感を放つ二人の少女が立っていた。

 

先頭に立つのは、気品ある薄紫の髪を揺らすレミリア・スカーレット。

 

彼女が身に纏うのは、不気味な白と妖艶な紫が入り混じる『ネブラシリーズ』の装備だ。

どこかゴシックドレスを思わせるその防具は、彼女の高飛車な美しさを引き立てつつも、周囲のハンターたちを気圧すような冷たいオーラを放っている。

 

そのすぐ後ろには、彼女と酷似した顔立ちながら、どこか危うい笑みを浮かべた妹のフランドールが控えていた。

 

金髪のサイドポニーを揺らす彼女の装備は、燃え盛る溶岩の如き赤と黒の甲殻で覆われた『アグナシリーズ』。

 

「なんだ? あんたたち」

突然話に割り込んできた二人の少女に、チルノはあからさまに眉をひそめ、訝しげに睨み返した。

 

レミリアはふっと鼻で笑うと、テーブルの上のジンオウガの依頼書を、手袋に包まれた指先でツンと突いた。

 

「新参者のあなたたちには、そのクエストは重すぎるって言っているのよ。ジンオウガは、あんたみたいなおバカさんたちが生身で挑んでいい相手じゃないわ」

 

「おバカさんってあたいのことかよ! バカいうやつのほうがバカって、レディが言ってたぞ!」

子供の口喧嘩のような台詞で、チルノは負けじと小さな胸を張り裂けんばかりに突き出す。

 

「へえ、言うじゃない」

フランがアグナの籠手がついた腕を組み、狂気的な笑みを深めた。

「お姉様、この子たち、自分がどれだけ脆いか分かってないみたい。ちょっと壊してみる?」

 

「待って、二人とも!」

一触即発の空気に、リグルが慌てて二人の間に割って入った。

 

「……確かに、僕たちはバルバレに来たばかりです。でも、クエストはチルノがギルドのボードから取ってきたもので――」

 

「そこが、あなたたちの無知なところよ」

レミリアはトントン、と自分のギルドカードを指先で叩いた。そこには燦然と輝く上位ハンターの証がある。

 

「現地のギルドを舐めないことね。バルバレの受付嬢は、実績のない新参者にそんな危険な上級クエストの出発許可なんて出さないわ。そこにある依頼書は、ただの『紙切れ』よ」

 

「えっ……!?」

チルノとリグルが、ガタッと同時に目を見開く。

 

「というわけで、その依頼書は私たちが有効に使ってあげる。……フラン」

 

「はーい!」

 

フランがスッと、テーブルの依頼書を電光石火の早業でひったくった。

 

これ見よがしに依頼書を指先で弄びながら、意地悪な笑みをチルノに向ける。

 

「そういうことで。大人しくお留守番しな。ちび」

 

「ああん!?」

 

チルノの口から、およそ少女らしからぬガラの悪いドスの利いた声が飛び出した。

 

無理もない。

目の前に立つレミリアとフランの二人組は、どう見てもチルノ自身と大して体格が変わらないのだ。

自分と同サイズの奴から「ちび」呼ばわりされて見下されたとなれば、自称・最強のプライドが黙っているはずがなかった。

 

そんなメンチを切るチルノを完全に無視して、レミリアは優雅に背を向ける。

 

しかし、フランはその場を動かず、先ほどからきょろきょろとこちらを見ていたルーミアに目を落とした。

 

このギルド内にいる数多のハンターの中でも、やはりルーミアが身に纏う鮮やかな青緑の鎧――ジンオウガ一式は一際目を奪う。

 

「あんただけ、見込み有りそうだね」

フランは手に入れた依頼書をルーミアの目の前でゆらゆらと見せつける。

 

「どう? 試しにあたしと姉様と組まない?」

 

「はにゃ?」

 

ルーミアは目をパチパチとさせながら、フランが差し出す手を見つめた。

 

「はっ!」

 

次の瞬間、ぱっかと満面の笑顔になったルーミアが、何かを思い出すように自分のカバンをガサゴソと漁り、中から小さなものを取り出した。

 

「これ……つまらないものですが」

 

「はあ?」

 

差し出されたフランの手のひらに、ぽつんと置かれたのは『ハチミツ』の詰まった小さなガラス瓶だった。

フランは眉をひそめる。

 

「なにこれ。おちょくってんの?」

 

「あ、挨拶だよ! ルーミアの実家は養蜂場だからね、出会い頭にハチミツを配るのが彼女の習慣なんだ!」

 

すでに目が完全に笑っていないフランの様子を察し、リグルが冷や汗を流しながら素早くフォローを入れる。

 

ハチミツの価値を知るハンターにとっては、これ以上ない実用的な贈り物なのだが、同時にハンター界隈において「ハチミツを要求する地雷ハンター」を揶揄する、悪いノリのスラングでもある。

 

ルーミア自身は100%善意なのだが、フランからすれば「新参者の地雷ハンターから、逆におちょくられた」と受け取っても無理はなかった。

 

「ああ、やだやだ。装備が良くても、強くても、かわいくても、話が通じないやつはいらない。あんたはもういい」

怒りを通り越して、完全に呆れ果てたフランはハチミツの瓶を突き戻して鼻を鳴らした。

 

「こっちからごめんだ! ルーミアは渡さないぞ!」

チルノがルーミアを背中に隠すようにして猛抗議する。

 

「もういいわ、フラン」

見かねたレミリアが、今度こそ優雅に背を向けた。

 

「悔しかったら、実力を証明することね。まずはフィールドの探索クエストでも地道に進めて、ギルドに認められなさい。……行くわよ」

 

「べーだ」

フランはチルノたちに向かって小生意気に舌を出すと、ぐるりと反転してテーブルを離れた。

 

二人は優雅に、そして圧倒的な存在感を残したまま、クエストカウンターへと歩き去っていった。

 

 

 

「赤い人たち、行っちゃったね」

嵐が去った後のようにポカーンと放心していたチルノとリグルに、ルーミアが何事もなかったかのように話しかける。

 

一拍置いて、チルノの怒りが頂点に達した。

「なんだあいつら! ムカつくー!!」

 

地団駄を踏むチルノの横で、リグルはほっと胸をなでおろしながらも、現実的な判断を下した。

 

「……でも、あの人の言う通りだ。僕たちはまず、フィールドの探索から始めてバルバレ周辺の生態系を調べよう。前から気になるところがあんるだ」

 

チルノは奪われた悔しさに拳を強く握り締めながらも、「今に見とれよー!」と酒場の天井に向けて負け惜しみの咆哮を上げた。

 

三人は残った料理を急いで片付けると、武器と最低限のアイテムを携え、熱気あふれるバルバレの酒場を後にするのだった。

 

 

 

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