ジンオウガの背中から目も眩むような青白い光が溢れ出した、まさにその刹那――。
ヒュンッ!!
激しい放電のノイズを切り裂き、鋭い風切り音が響く。遠方から放たれた一筋の矢が、正確無比な軌道を描いてジンオウガの眉間へと突き刺さった。
「ガッ!?」
クリーンヒットに、大放電を放とうとしていたジンオウガの巨体が、わずかに、しかし確実に揺らいだ。
「あっ、リグルだ」
ズサッ!
金色の弾丸がレミリアとフランの横を猛然と駆け抜ける。
突入したルーミアが、手にした『王牙刀』で、ジンオウガの首元へ容赦のない一撃を叩き込んだ。
これによりジンオウガの重心が大きく崩れ、背中の上で必死にしがみついていたチルノの身体が、一気に宙へと放り出された。
「どわあああああっっ!?」
チルノが落馬したのとほぼ同時に、限界まで溜め込まれていたジンオウガの全方位大放電が、ついに大爆発を起こした。
エリアの空気を焼き尽くすほどの雷光が荒れ狂う。
バリバリバリバリッ!!!
だが、ルーミアは突進の反動を利用して後方へ鮮やかにステップ。宙を舞うチルノの身体を強引に巻き込みながら、放電の有効射程のわずか外側へと滑り込んでいた。
チルノの後を追うようにして、いつの間にかレミリアの隣に滑り込んでいたリグルが、アルクセロ弓を構えたまま呼吸を整えている。
「あんたたち……確か、あの青いのの仲間よね」
レミリアが横目でリグルを睨む。
「ハァ、ハァ……」
一息ついてから、リグルは力強く再び弦を引き絞った。
「また仕掛けてきそうです。気を付けて!」
レミリアも鋭く得物を構え直し、視線を再度ジンオウガへと戻す。
予想通り、大技をスカされたジンオウガが激昂し、その強靭な前脚を大きく振り払った。
信じられないことに、その巨体が想像を絶する俊敏さで宙へと躍り、大きな弧を描いて空中三回転。
その凄まじい遠心力と共に、背中から数個の歪な光の塊――雷光虫弾を撒き散らしてきた。
飛来した雷光虫弾は、あまりにも奇妙で不規則な軌道を描いていた。
あらかじめ軌道図を見せられれば簡単に理解できる動きかもしれないが、いざこの渦中に身を置けば、それがどれほどハンターを混乱させる猟奇的な軌道であるかが嫌というほど分かる。
意思を持っているかのように、うねり、曲がり、迫ってくるのだ。
「うおえっ!?」
「くっ!」
「ッ」
「ほぅ!」
「えい!」
遮蔽物のない今、五人全員に「避ける」以外の選択肢はない。
正確に言うならば、レミリアとフランは盾を構えることができる。しかし、身体が芯までびしょ濡れになっている今、防いでも盾越しに何が起こるか分かったものではない。
弾が尽きるまで、エリア全体で命懸けの過酷なドッジボール大会が開催されたかのような光景がしばらく続いた。
「はっ!」
しかし、不条理な一弾の軌道を読み切れなかったフランが、着地際、脚のつま先に掠めるような被弾を喫した。
元より重装備の二人にはステップを連発する戦法は不向きだったが、不幸にも、無情なる最後のひと弾は、わずかに動きの遅れたフランの元へと正確に吸い込まれていく。
「フラン!!」
助けようとレミリアが叫ぶが、流石に距離がありすぎる。
「くっ……!」
フランは仕方なく、正面にアグナの盾を強固に構えた。
衝撃に備えて身を硬くした、着弾の、わずかコンマ数秒前。
フランの背後からすり抜けたルーミアが、あろうことか、構えていた太刀を地面に力任せに突き刺し、空いた片手の掌を前方へと力強く突き出した。
「ルーミアぁ!」
全員が驚愕に目を見開く。
「クオッ!」
ドガァァァァンッ!!
激しい衝撃音と共に青白い雷光が炸裂した。
だが、ルーミアはその数万ボルトの雷弾を、自身の片手の掌だけで完全に受け止め、その場に力任せに握り潰して霧散させてしまったのだ。
ジンオウガの猛烈な電力を吸い込んだルーミアの鎧が、まるで歓喜を上げるようにバチバチと緑色の電火を散らす。
衝撃が去った彼女の手のひらには、焦げたような跡が残っているだった。
「なっ……!」
まさか、自分より格下のはずのルーキーに窮地を救われ、借りを作ることになるとは。
フランの目には、明らかな感嘆の色彩が浮かんでいた。
連続で大技を出し尽くしたジンオウガも、流石に体力が堪えているのか、低く唸りながら肩を上下させている。
両陣営が一度に息を整える、静かで、しかし張り詰めた緊張感のある対峙。
「あの子……」
フランの無事を確認して安堵したレミリアだったが、その注意力は今やジンオウガよりも、目の前のルーキーへと完全に吸い取られていた。
「あんな止め方は、ルーミアにしかできない芸当です。……絶対に真似しちゃダメですからね、死んじゃうので」
リグルは汗を拭いながら、再び弓を引き絞る。
「言われなくても、あんな野蛮な真似しないわ」