おねショタ渡り鳥銀河を征くスターエイジ・ローヴァーズ 作:アイアイホイホイおさるさん
ロッタリア周辺宙域。
本来であれば、そこは穏やかな交通路だった。
交易船が行き交い、貨物船が荷物を運び、整備用のダートポッドがコロニーの保守点検を行う。
銀河社会のどこにでもある平和な日常。
少なくとも数年前までは、そうだった。
だが今、その日常は爆音と共に踏み荒らされていた。
「ヒャッハー!」
「道を開けろぉ!」
「ホワイトスター様のお通りだぁ!」
通信回線越しに下品な歓声が響く。
ロッタリア周辺を飛び回っているのは、宇宙暴走族ホワイトスターの機体群だった。
ブラッドレイダー。
民生用宇宙戦闘機イータレイダーを違法改造した機体である。
エンジンを増設したもの。
武装を過剰搭載したもの。
装甲を削り速度だけを追求したもの。
どれ一つとして同じ形はない。
だが共通しているのは、どれも派手な塗装と無茶苦茶な改造が施されていることだった。
真っ赤な機体。
毒々しい紫色の機体。
炎のペイントが描かれた機体。
髑髏のエンブレムが刻まれた機体。
まるで悪趣味な展示会だった。
そして連中は、その機体で好き放題暴れ回っていた。
大型貨物船のすぐ横を高速でかすめ飛ぶ。
観光船の進路を横切る。
通信回線へ大音量の音楽を流し続ける。
さらには。
ドドドドドドドドドッ!
レーザーバルカンの発射音が宇宙空間へ響いた。
赤い閃光が貨物船のすぐ近くを通過する。
もちろん狙って当ててはいない。
だが威嚇としては十分だった。
「うわぁぁぁぁっ!」
「撃つな!撃つな!」
「進路が塞がれている!」
民間船の通信回線には悲鳴が飛び交う。
それを聞いたホワイトスターの構成員達は大笑いしていた。
「ビビってやがる!」
「腰抜けどもめ!」
「もっと泣かせてやれ!」
まるで子供の悪戯だった。
ただし、宇宙船という兵器を使った悪質極まりない悪戯である。
やがてその暴走行為を見かねた者達が動いた。
ロッタリア周辺コロニーの自警団である。
数機の武装ダートポッドが飛来した。
本来は作業機械であるダートポッドに簡易装甲とレーザー機銃を搭載した即席の警備機だ。
戦闘機相手では心許ない。
だが何もしないよりは遥かに良い。
先頭のダートポッドが通信を開く。
「ホワイトスター!直ちに飛行を停止しろ!」
年配の男の声だった。
「これ以上の危険行為は見過ごせん!」
レーザー機銃の銃口が向けられる。
「止まらんと撃つぞ!」
しかし。
一瞬の沈黙の後。
通信回線の向こうから爆笑が返ってきた。
「ははははははは!」
「聞いたかよ!」
「撃つぞだってよ!」
「作業ポッドが何言ってんだ!」
完全に舐められていた。
それも当然だった。
ダートポッドは所詮作業機械。
ブラッドレイダーは戦闘機。
性能差は歴然である。
「おい見ろ!」
「逆に追い回してやろうぜ!」
「面白そうだ!」
次の瞬間。
数機のブラッドレイダーが一斉に加速した。
自警団側も発砲する。
赤いレーザーが宇宙空間を走る。
だが当たらない。
ブラッドレイダーは蛇のような機動で回避する。
そして。
ドドドドドドドドッ!
反撃。
レーザーバルカンが火を吹いた。
直撃は避けている。
しかし機体の周囲を狙うだけでも十分だった。
装甲が削られる。
作業アームが吹き飛ぶ。
センサーが破壊される。
「ぐわっ!」
「機体損傷!」
「制御が――!」
自警団機は次々と戦闘不能に追い込まれていく。
パイロットを殺してはいない。だが徹底的に痛めつけていた。
ホワイトスターの連中は、それを見て大笑いする。
「弱ぇ!」
「弱すぎる!」
「もっとマシなの連れてこい!」
そして誰かが叫んだ。
「次はロッタリアだ!」
「行くぞ!」
歓声が上がる。
ブラッドレイダー隊は一斉に方向転換した。
目指すのは宇宙ステーション本体。
ロッタリアだった。
***
ロッタリア内部。
広大なショッピングモール区域。
本来なら家族連れや買い物客で賑わう空間だった。
しかし今。
そこへ轟音が響き渡る。
ゴオオオオオオオオオオオッ!!
悲鳴が上がった。
「何だ!?」
「まさか!」
「また来たぞ!」
天井付近の搬入口ゲートから数機のブラッドレイダーが突入してきたのだ。
通常なら侵入できない。
だがホワイトスターは警備の穴を熟知していた。
慣れたものだった。
ブラッドレイダーは巨大モールの通路を猛スピードで飛び抜ける。
人々が逃げ惑う。
警報が鳴る。
店員達が悲鳴を上げる。
「どけどけどけぇ!」
「最高だぜ!」
「今日は人が多いな!」
機体が通過する度に衝撃波が発生した。
商品棚が倒れる。
看板が吹き飛ぶ。
積み上げられた商品箱が宙を舞う。
衣料品店では服が散乱し。
雑貨店では商品が床へ転がり。
飲食店ではテーブルと椅子がひっくり返る。
まさに台風だった。
誰も殺してはいない。
だが被害は甚大である。
「逃げろー!」
「またホワイトスターだ!」
「警備隊は何やってるんだ!」
混乱が広がる。
その様子を見ながらホワイトスターの連中は楽しそうに笑っていた。
彼らにとっては娯楽なのだ。
人々の迷惑も。
恐怖も。
生活も。
全てが遊びだった。
数分後。
十分に暴れ回ったところで先頭機から通信が入る。
「よし!今日はこの辺にしとくか!帰るぞ野郎ども!」
歓声が上がる。
「おおおおおっ!」
「また来週な!」
「ロッタリアの皆さん元気でなぁ!」
最後に爆音を撒き散らしながら、ブラッドレイダー隊は搬入口から離脱した。
そのまま宇宙空間へ飛び去っていく。
後に残されたのは静寂だった。
いや。
正確には静寂ではない。
あちこちから聞こえる悲鳴と怒号。
散乱した商品。
壊れた設備。
泣き出す子供。
頭を抱える店主達。
平和な商業ステーションの一日を、ホワイトスターはほんの数分で滅茶苦茶にして去っていったのである。
「………ひどいな、これは」
『まったくですね』
「………………?」
そして、その被害を目の当たりにしたシズルもまた、この騒動へ関わることになるのだった。
***
ホワイトスターの暴走行為が終わってから、一時間ほどが経過していた。
ロッタリア内部では、ようやく混乱が収まり始めていた。
――もっとも、元通りになったわけではない。
破壊された店舗。
散乱した商品。
倒れた棚。
傷付いた設備。
ホワイトスターが残していった爪痕はあまりにも大きかった。
あちこちで店員達が片付けを行っている。
床に散らばった商品を拾う者。
壊れた什器を運ぶ者。
保険会社や管理局へ連絡している者。
誰もが疲れた顔をしていた。
「またかよ……」
「今月だけで三回目だぞ……」
「勘弁してくれ……」
そんな声も聞こえてくる。
怒りよりも諦め。
憤りよりも疲労。
それがロッタリアの住民達の本音だった。
ホワイトスターは今日に始まった問題ではない。
何年も前から続いている。
だからこそ余計にたちが悪かった。
被害を受ける側も、いつしか怒る気力すら失ってしまうのだ。
その頃。
シズル達はモール内の飲食エリアにいた。
幸運な事に、ホワイトスターの被害をほとんど受けなかったハンバーガーショップが一軒だけ営業を続けていたのである。
窓際の席。
シズルは大きなハンバーガーを片手に持ちながら外を眺めていた。
ユウはというと、小さなハンバーガーとポテトを前にしている。
「……」
きょとん。
相変わらずそんな顔だった。
どうやらハンバーガー自体が珍しいらしい。
まず眺める。
匂いを嗅ぐ。
ひっくり返す。
また眺める。
そして恐る恐るかじる。
「……!」
目が少し大きくなった。
美味しかったらしい。
シズルは思わず笑ってしまう。
「気に入ったか?」
「……うん……」
もぐもぐ。
小さな口で一生懸命食べている。
その姿は年相応の子供そのものだった。
少なくとも一斉射撃を手を翳すだけで防ぐ超能力者には見えない。
そんなユウを見ながら、シズルは飲み物へ口を付けた。
「しかし酷いものだな」
窓の外にはまだ片付けを続ける人々の姿が見える。
「銀河連合は対処しないのか?」
賞金稼ぎである以上、シズルは銀河連合の事情も多少は知っている。
だがそれでも不思議だった。
これだけ堂々と迷惑行為を繰り返している犯罪集団だ。
もっと大規模な掃討作戦があってもいい。
すると腕時計型通信機からシーサン・ポーの声が聞こえた。
『する気が無いわけではないんですよ』
「ほう」
『ただ優先順位の問題です』
シーサン・ポーは少しだけ困ったような声を出した。
『銀河連合も万能ではありません。海賊退治もあります、テロ組織対策もあります、各地の紛争もあります、惑星間犯罪組織もあります。しかし、予算も人員も有限です』
淡々とした説明だった。
『結果として、こういう辺境寄りのコロニーは後回しになりがちなんですよ』
「なるほどな」
シズルは頷く。
理解はできた。
納得はできないが。
治安維持というのは常に人手不足だ。
銀河規模ともなれば尚更だった。
その時。
『ちなみに』
シーサン・ポーが続ける。
『ホワイトスターのリーダーについても調べてあります』
「仕事が早いな」
『ワタクシですから』
少し得意げな声だった。
『ダンテオール・ドンタック』
シズルの表情が僅かに変わる。
賞金稼ぎとしての顔になる。
『男性。ホワイトスター創設者。暴走行為、威嚇飛行、器物損壊、公務執行妨害その他諸々。何度も逮捕状が出ていますが、いまだ確保されていません』
モニター代わりのホログラムが腕時計の上へ投影される。
そこにはスキンヘッドの男の顔写真が表示されていた。
鋭い目付き。
首筋まで入った刺青。
いかにも荒くれ者という風貌である。
「典型的だな」
『ええ』
「賞金は?」
『かかっています』
シーサン・ポーは一拍置く。
『ただし』
「ただし?」
『安いです』
表示された金額を見てシズルは思わず眉を上げた。
「……安いな」
『安いですね』
本当に安かった。
凶悪犯罪者というほどではない。
かといって一般犯罪者よりは危険。
そんな中途半端な位置付けなのだろう。
賞金首としては低額だった。
以前確保したカデームなどとは比べ物にならない。
だが。
シズルは少し考える。
視線は自然とユウへ向いた。
白いシャツ。
それしか持っていない。
あの古着屋の服。
防寒マント。
靴。
その他色々。
子供一人育てるとなると意外と金がかかる。
「……」
賞金額をもう一度見る。
そして計算する。
「まあ」
ぽつりと呟いた。
「小遣い程度にはなるか」
『マスター?』
「いや」
シズルは肩をすくめる。
「何でもない」
しかし頭の中では既に計算が終わっていた。
あの賞金が入れば。
服が買える。
防寒マントも買える。
多少の生活用品も揃う。
大金ではない。
だが無駄金でもない。
そんな金額だった。
その時だった。
『そういえば』
シーサン・ポーが何か思い出したように言う。
『ホワイトスターには変な習慣があるそうですよ』
「習慣?」
『定期的に宇宙戦闘機レースを開催しているとか』
「レース?」
『はい』
シーサン・ポーは情報を表示する。
『非合法レースです。周辺宙域をコースにして飛び回り、勝敗を競うそうです。ホワイトスターの構成員だけでなく、外部参加者もいるとか………』
「へえ」
『ちなみに今週開催予定です』
シズルは黙って話を聞いていた。
『本当に迷惑ですよねぇ』
シーサン・ポーは心底呆れたように言う。
『騒音問題、航路妨害、事故多発、近隣住民から苦情多数………どうしてわざわざ問題を起こすのでしょう』
「さあな」
シズルは短く答える。
だが。
その視線はテーブルの上ではなく、少し遠くを見ていた。
宇宙戦闘機レース。
外部参加者あり。
ダンテオール本人も参加する可能性が高い。
そして。
賞金首。
「……」
シズルはストローを口に運ぶ。
何気ない仕草。
だが頭の中では別の計算が始まっていた。
わざわざ追い回す必要はない。
向こうから人前へ出てくるなら話は別だ。
レース。
参加者。
賞金首。
その三つの単語が一本の線で繋がる。
シズルは何も言わない。
ただ静かに飲み物を飲みながら、ある考えを胸の内へしまい込んだ。
その横では。
「……おいしい……」
ユウが幸せそうにハンバーガーを食べていた。
そんな姿を見ていると、ますます防寒マントくらいは買ってやりたいな、とシズルは思うのだった。