おねショタ渡り鳥銀河を征くスターエイジ・ローヴァーズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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#11

 ロッタリア周辺宙域。

 本来であれば、そこは穏やかな交通路だった。

 交易船が行き交い、貨物船が荷物を運び、整備用のダートポッドがコロニーの保守点検を行う。

 銀河社会のどこにでもある平和な日常。

 少なくとも数年前までは、そうだった。

 だが今、その日常は爆音と共に踏み荒らされていた。

 

「ヒャッハー!」

「道を開けろぉ!」

「ホワイトスター様のお通りだぁ!」

 

 通信回線越しに下品な歓声が響く。

 ロッタリア周辺を飛び回っているのは、宇宙暴走族ホワイトスターの機体群だった。

 

 ブラッドレイダー。

 

 民生用宇宙戦闘機イータレイダーを違法改造した機体である。

 エンジンを増設したもの。

 武装を過剰搭載したもの。

 装甲を削り速度だけを追求したもの。

 どれ一つとして同じ形はない。

 だが共通しているのは、どれも派手な塗装と無茶苦茶な改造が施されていることだった。

 真っ赤な機体。

 毒々しい紫色の機体。

 炎のペイントが描かれた機体。

 髑髏のエンブレムが刻まれた機体。

 まるで悪趣味な展示会だった。

 そして連中は、その機体で好き放題暴れ回っていた。

 大型貨物船のすぐ横を高速でかすめ飛ぶ。

 観光船の進路を横切る。

 通信回線へ大音量の音楽を流し続ける。

 さらには。

 

 ドドドドドドドドドッ!

 

 レーザーバルカンの発射音が宇宙空間へ響いた。

 赤い閃光が貨物船のすぐ近くを通過する。

 もちろん狙って当ててはいない。

 だが威嚇としては十分だった。

 

「うわぁぁぁぁっ!」

「撃つな!撃つな!」

「進路が塞がれている!」

 

 民間船の通信回線には悲鳴が飛び交う。

 それを聞いたホワイトスターの構成員達は大笑いしていた。

 

「ビビってやがる!」

「腰抜けどもめ!」

「もっと泣かせてやれ!」

 

 まるで子供の悪戯だった。

 ただし、宇宙船という兵器を使った悪質極まりない悪戯である。

 やがてその暴走行為を見かねた者達が動いた。

 ロッタリア周辺コロニーの自警団である。

 数機の武装ダートポッドが飛来した。

 本来は作業機械であるダートポッドに簡易装甲とレーザー機銃を搭載した即席の警備機だ。

 戦闘機相手では心許ない。

 だが何もしないよりは遥かに良い。

 先頭のダートポッドが通信を開く。

 

「ホワイトスター!直ちに飛行を停止しろ!」

 

 年配の男の声だった。

 

「これ以上の危険行為は見過ごせん!」

 

 レーザー機銃の銃口が向けられる。

 

「止まらんと撃つぞ!」

 

 しかし。

 一瞬の沈黙の後。

 通信回線の向こうから爆笑が返ってきた。

 

「ははははははは!」

「聞いたかよ!」

「撃つぞだってよ!」

「作業ポッドが何言ってんだ!」

 

 完全に舐められていた。

 それも当然だった。

 ダートポッドは所詮作業機械。

 ブラッドレイダーは戦闘機。

 性能差は歴然である。

 

「おい見ろ!」

「逆に追い回してやろうぜ!」

「面白そうだ!」

 

 次の瞬間。

 数機のブラッドレイダーが一斉に加速した。

 自警団側も発砲する。

 赤いレーザーが宇宙空間を走る。

 だが当たらない。

 ブラッドレイダーは蛇のような機動で回避する。

 そして。

 

 ドドドドドドドドッ!

 

 反撃。

 レーザーバルカンが火を吹いた。

 直撃は避けている。

 しかし機体の周囲を狙うだけでも十分だった。

 装甲が削られる。

 作業アームが吹き飛ぶ。

 センサーが破壊される。

 

「ぐわっ!」

「機体損傷!」

「制御が――!」

 

 自警団機は次々と戦闘不能に追い込まれていく。

 パイロットを殺してはいない。だが徹底的に痛めつけていた。

 ホワイトスターの連中は、それを見て大笑いする。

 

「弱ぇ!」

「弱すぎる!」

「もっとマシなの連れてこい!」

 

 そして誰かが叫んだ。

 

「次はロッタリアだ!」

「行くぞ!」

 

 歓声が上がる。

 ブラッドレイダー隊は一斉に方向転換した。

 目指すのは宇宙ステーション本体。

 ロッタリアだった。

 

 

 ***

 

 

 ロッタリア内部。

 広大なショッピングモール区域。

 本来なら家族連れや買い物客で賑わう空間だった。

 しかし今。

 そこへ轟音が響き渡る。

 

 ゴオオオオオオオオオオオッ!!

 

 悲鳴が上がった。

 

「何だ!?」

「まさか!」

「また来たぞ!」

 

 天井付近の搬入口ゲートから数機のブラッドレイダーが突入してきたのだ。

 通常なら侵入できない。

 だがホワイトスターは警備の穴を熟知していた。

 慣れたものだった。

 ブラッドレイダーは巨大モールの通路を猛スピードで飛び抜ける。

 人々が逃げ惑う。

 警報が鳴る。

 店員達が悲鳴を上げる。

 

「どけどけどけぇ!」

「最高だぜ!」

「今日は人が多いな!」

 

 機体が通過する度に衝撃波が発生した。

 商品棚が倒れる。

 看板が吹き飛ぶ。

 積み上げられた商品箱が宙を舞う。

 衣料品店では服が散乱し。

 雑貨店では商品が床へ転がり。

 飲食店ではテーブルと椅子がひっくり返る。

 まさに台風だった。

 誰も殺してはいない。

 だが被害は甚大である。

 

「逃げろー!」

「またホワイトスターだ!」

「警備隊は何やってるんだ!」

 

 混乱が広がる。

 その様子を見ながらホワイトスターの連中は楽しそうに笑っていた。

 彼らにとっては娯楽なのだ。

 人々の迷惑も。

 恐怖も。

 生活も。

 全てが遊びだった。

 数分後。

 十分に暴れ回ったところで先頭機から通信が入る。

 

「よし!今日はこの辺にしとくか!帰るぞ野郎ども!」

 

 歓声が上がる。

 

「おおおおおっ!」

「また来週な!」

「ロッタリアの皆さん元気でなぁ!」

 

 最後に爆音を撒き散らしながら、ブラッドレイダー隊は搬入口から離脱した。

 そのまま宇宙空間へ飛び去っていく。

 後に残されたのは静寂だった。

 いや。

 正確には静寂ではない。

 あちこちから聞こえる悲鳴と怒号。

 散乱した商品。

 壊れた設備。

 泣き出す子供。

 頭を抱える店主達。

 平和な商業ステーションの一日を、ホワイトスターはほんの数分で滅茶苦茶にして去っていったのである。

 

「………ひどいな、これは」

『まったくですね』

「………………?」

 

 そして、その被害を目の当たりにしたシズルもまた、この騒動へ関わることになるのだった。

 

 

 ***

 

 

  ホワイトスターの暴走行為が終わってから、一時間ほどが経過していた。

 ロッタリア内部では、ようやく混乱が収まり始めていた。

 ――もっとも、元通りになったわけではない。

 破壊された店舗。

 散乱した商品。

 倒れた棚。

 傷付いた設備。

 ホワイトスターが残していった爪痕はあまりにも大きかった。

 あちこちで店員達が片付けを行っている。

 床に散らばった商品を拾う者。

 壊れた什器を運ぶ者。

 保険会社や管理局へ連絡している者。

 誰もが疲れた顔をしていた。

 

「またかよ……」

「今月だけで三回目だぞ……」

「勘弁してくれ……」

 

 そんな声も聞こえてくる。

 怒りよりも諦め。

 憤りよりも疲労。

 それがロッタリアの住民達の本音だった。

 ホワイトスターは今日に始まった問題ではない。

 何年も前から続いている。

 だからこそ余計にたちが悪かった。

 被害を受ける側も、いつしか怒る気力すら失ってしまうのだ。

 

 その頃。

 シズル達はモール内の飲食エリアにいた。

 幸運な事に、ホワイトスターの被害をほとんど受けなかったハンバーガーショップが一軒だけ営業を続けていたのである。

 窓際の席。

 シズルは大きなハンバーガーを片手に持ちながら外を眺めていた。

 ユウはというと、小さなハンバーガーとポテトを前にしている。

 

「……」

 

 きょとん。

 相変わらずそんな顔だった。

 どうやらハンバーガー自体が珍しいらしい。

 まず眺める。

 匂いを嗅ぐ。

 ひっくり返す。

 また眺める。

 そして恐る恐るかじる。

 

「……!」

 

 目が少し大きくなった。

 美味しかったらしい。

 シズルは思わず笑ってしまう。

 

「気に入ったか?」

「……うん……」

 

 もぐもぐ。

 小さな口で一生懸命食べている。

 その姿は年相応の子供そのものだった。

 少なくとも一斉射撃を手を翳すだけで防ぐ超能力者には見えない。

 そんなユウを見ながら、シズルは飲み物へ口を付けた。

 

「しかし酷いものだな」

 

 窓の外にはまだ片付けを続ける人々の姿が見える。

 

「銀河連合は対処しないのか?」

 

 賞金稼ぎである以上、シズルは銀河連合の事情も多少は知っている。

 だがそれでも不思議だった。

 これだけ堂々と迷惑行為を繰り返している犯罪集団だ。

 もっと大規模な掃討作戦があってもいい。

 すると腕時計型通信機からシーサン・ポーの声が聞こえた。

 

『する気が無いわけではないんですよ』

「ほう」

『ただ優先順位の問題です』

 

 シーサン・ポーは少しだけ困ったような声を出した。

 

『銀河連合も万能ではありません。海賊退治もあります、テロ組織対策もあります、各地の紛争もあります、惑星間犯罪組織もあります。しかし、予算も人員も有限です』

 

 淡々とした説明だった。

 

『結果として、こういう辺境寄りのコロニーは後回しになりがちなんですよ』

「なるほどな」

 

 シズルは頷く。

 理解はできた。

 納得はできないが。

 治安維持というのは常に人手不足だ。

 銀河規模ともなれば尚更だった。

 その時。

 

『ちなみに』

 

 シーサン・ポーが続ける。

 

『ホワイトスターのリーダーについても調べてあります』

「仕事が早いな」

『ワタクシですから』

 

 少し得意げな声だった。

 

『ダンテオール・ドンタック』

 

 シズルの表情が僅かに変わる。

 賞金稼ぎとしての顔になる。

 

『男性。ホワイトスター創設者。暴走行為、威嚇飛行、器物損壊、公務執行妨害その他諸々。何度も逮捕状が出ていますが、いまだ確保されていません』

 

 モニター代わりのホログラムが腕時計の上へ投影される。

 そこにはスキンヘッドの男の顔写真が表示されていた。

 鋭い目付き。

 首筋まで入った刺青。

 いかにも荒くれ者という風貌である。

 

「典型的だな」

『ええ』

「賞金は?」

『かかっています』

 

 シーサン・ポーは一拍置く。

 

『ただし』

「ただし?」

『安いです』

 

 表示された金額を見てシズルは思わず眉を上げた。

 

「……安いな」

『安いですね』

 

 本当に安かった。

 凶悪犯罪者というほどではない。

 かといって一般犯罪者よりは危険。

 そんな中途半端な位置付けなのだろう。

 賞金首としては低額だった。

 以前確保したカデームなどとは比べ物にならない。

 だが。

 シズルは少し考える。

 視線は自然とユウへ向いた。

 白いシャツ。

 それしか持っていない。

 あの古着屋の服。

 防寒マント。

 靴。

 その他色々。

 子供一人育てるとなると意外と金がかかる。

 

「……」

 

 賞金額をもう一度見る。

 そして計算する。

 

「まあ」

 

 ぽつりと呟いた。

 

「小遣い程度にはなるか」

『マスター?』

「いや」

 

 シズルは肩をすくめる。

 

「何でもない」

 

 しかし頭の中では既に計算が終わっていた。

 あの賞金が入れば。

 服が買える。

 防寒マントも買える。

 多少の生活用品も揃う。

 大金ではない。

 だが無駄金でもない。

 そんな金額だった。

 その時だった。

 

『そういえば』

 

 シーサン・ポーが何か思い出したように言う。

 

『ホワイトスターには変な習慣があるそうですよ』

「習慣?」

『定期的に宇宙戦闘機レースを開催しているとか』

「レース?」

『はい』

 

 シーサン・ポーは情報を表示する。

 

『非合法レースです。周辺宙域をコースにして飛び回り、勝敗を競うそうです。ホワイトスターの構成員だけでなく、外部参加者もいるとか………』

「へえ」

『ちなみに今週開催予定です』

 

 シズルは黙って話を聞いていた。

 

『本当に迷惑ですよねぇ』

 

 シーサン・ポーは心底呆れたように言う。

 

『騒音問題、航路妨害、事故多発、近隣住民から苦情多数………どうしてわざわざ問題を起こすのでしょう』

「さあな」

 

 シズルは短く答える。

 だが。

 その視線はテーブルの上ではなく、少し遠くを見ていた。

 宇宙戦闘機レース。

 外部参加者あり。

 ダンテオール本人も参加する可能性が高い。

 そして。

 賞金首。

 

「……」

 

 シズルはストローを口に運ぶ。

 何気ない仕草。

 だが頭の中では別の計算が始まっていた。

 わざわざ追い回す必要はない。

 向こうから人前へ出てくるなら話は別だ。

 レース。

 参加者。

 賞金首。

 その三つの単語が一本の線で繋がる。

 シズルは何も言わない。

 ただ静かに飲み物を飲みながら、ある考えを胸の内へしまい込んだ。

 その横では。

 

「……おいしい……」

 

 ユウが幸せそうにハンバーガーを食べていた。

 そんな姿を見ていると、ますます防寒マントくらいは買ってやりたいな、とシズルは思うのだった。

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