おねショタ渡り鳥銀河を征くスターエイジ・ローヴァーズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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#13

 カタクリ星系外縁部。

 航路図の端に小さく記されているだけの未整理宙域。

 そこは銀河連合の管理がほとんど及ばない場所だった。

 かつて資源採掘が行われていた小惑星帯の残骸。

 放棄された作業ステーション。

 事故で漂流した宇宙船の残骸。

 そして戦争によって生まれた無数のデブリ。

 そうした宇宙ゴミとも呼ぶべきものが長い年月をかけて集まり、一種の危険地帯を形成している。

 当然ながら一般人が好んで近づく場所ではない。

 宇宙船乗り達の間でも、

 

 ――近寄るな。

 ――ロクな連中がいない。

 ――何かあっても誰も助けてくれない。

 

 そう噂されているような宙域だった。

 だが逆に言えば、そういう場所だからこそ好む人間もいる。

 銀河連合の目を嫌う者。

 後ろ暗い仕事をしている者。

 法より暴力を信じる者。

 そうした連中にとっては都合の良い隠れ家になるのだ。

 その宙域の中心。

 大小様々なデブリに囲まれるようにして、一つの巨大な人工構造物が浮かんでいた。

 

 旧銀河連合軍宇宙基地。

 本来なら別星系の防衛拠点として運用されていた軍事施設だった。

 全長数キロメートル級。

 艦隊運用を前提とした大型基地。

 軍縮計画によって放棄された後、解体される予定だった代物である。

 しかしそれを目敏く見つけた者達がいた。

 

 ホワイトスター。

 

 ロッタリア周辺を荒らし回る宇宙暴走族である。

 彼らは解体予定だった基地を買い取り、タグボートや輸送船を総動員して、この未整理宙域まで曳航してきた。

 そして自分達の根城へと改造したのである。

 その結果、現在の基地は軍事施設とは思えない姿になっていた。

 元々灰色だった装甲板には派手な塗装が施されている。

 赤。

 黒。

 黄色。

 紫。

 原色を惜しげもなく使ったペイントが至る所に描かれていた。

 巨大な流れ星。

 炎。

 髑髏。

 サソリ。

 意味不明なスローガン。

 落書き同然のグラフィティ。

 もはや軍事基地だった頃の威厳など微塵も残っていない。

 外壁には違法増設されたホログラム広告がぎっしり並び、宇宙空間へ向けて派手な光を放っている。

 違法改造パーツ。

 非正規武器。

 闇金融。

 賭博業者。

 まともな企業の広告などほとんど見当たらない。

 裏社会向けの商売ばかりだった。

 まるで巨大な歓楽街そのものが宇宙空間へ飛び出してきたような有様である。

 

 そして今日。

 その基地は普段以上の熱気に包まれていた。

 ホワイトスター主催。

 年に数回開催されるバトルレース大会。

 その前夜祭が行われていたからだ。

 巨大格納庫を改装した会場には、人、人、人。

 見渡す限り人で埋め尽くされている。

 耳をつんざくような電子音楽。

 腹の底まで響く重低音。

 ネオンライト。

 レーザー照明。

 煙。

 酒。

 怒号。

 笑い声。

 歓声。

 あらゆる音が混ざり合い、一種の騒音となって空間を支配していた。

 

「飲めぇぇぇぇ!」

「今年は俺が勝つぞ!」

「お前じゃ無理だ!」

「賭けろ賭けろ!」

「メア・ゲビンに一万!」

「馬鹿か!オッズ低すぎるだろ!」

 

 怒鳴り声が飛び交う。

 酒瓶がぶつかる。

 誰かが机の上で踊っている。

 誰かが喧嘩を始めている。

 それを見てさらに周囲が盛り上がる。

 治安という概念がどこかへ消し飛んだような空間だった。

 会場中央には巨大なステージまで設置されている。

 そこでは派手な照明を浴びながらダンサー達が踊っていた。

 音楽に合わせてネオンが明滅し、会場全体がまるで巨大なクラブのようになっている。

 この騒ぎだけでも相当なものだったが、本当に恐ろしいのは別の場所だった。

 

 賭博エリアである。

 会場の三分の一近くを占める巨大なスペース。

 そこには無数のモニターが並び、レース参加者達の情報が映し出されていた。

 優勝予想。

 撃墜数予想。

 脱落順位。

 途中棄権。

 生存率。

 考えつく限りあらゆる項目に賭けが成立している。

 テーブルの上にはクレジットチップが山のように積まれていた。

 一回の賭けで数万。

 数十万。

 中には百万単位のチップも見える。

 一般市民なら目を疑うような金額が平然と飛び交っていた。

 シズルは壁際に立ちながら、その様子を冷静に眺めていた。

 

(なるほどな……)

 

 ホワイトスターが生き残る理由が少し分かった気がした。

 ロッタリアで好き放題暴れ回っている連中だ。

 普通なら銀河連合に徹底的に潰されてもおかしくない。

 だが実際にはそうなっていない。

 理由は単純だった。

 金だ。

 莫大な金が動いている。

 武器商人が儲かる。

 整備業者が儲かる。

 賭博業者が儲かる。

 違法改造屋が儲かる。

 運び屋が儲かる。

 裏社会の様々な人間がこのレースによって利益を得ている。

 つまりホワイトスターは単なる暴走族ではない。

 裏社会の経済圏の一部になっているのだ。

 だから簡単には潰れない。

 潰せば困る人間が多すぎる。

 そういう構造になっていた。

 シズルは小さくため息をついた。

 

(面倒な連中だ)

 

 賞金首というものは大抵厄介だが、ここまで大勢を巻き込んでいるとなると尚更である。

 視線を巡らせる。

 周囲にいる人間達も一癖も二癖もありそうな者ばかりだった。

 顔に大きな傷を持つ男。

 機械義眼を光らせる女。

 全身の半分以上をサイボーグ化している傭兵。

 どう見ても堅気には見えない運び屋。

 違法改造パーツを身につけたチンピラ達。

 この場に集まっているのは、銀河社会の裏側で生きる者ばかりだった。

 もっとも。

 シズル自身も賞金稼ぎである以上、完全な表社会の住人とは言えない。

 だからこそ目立たずに紛れ込めているのだが。

 白い戦闘スーツにヘルメット。

 参加者登録証。

 それだけで周囲は自然に彼女をレーサーの一人だと思い込む。

 誰も正体には気付いていない。

 気付かれては困る。

 今回の目的はレースに勝つ事ではない。

 賞金首ダンテオール・ドンタックを捕まえる事だ。

 そのためには余計な注目を浴びるべきではなかった。

 

(さて………)

 

 シズルは腕を組みながら会場奥を見る。

 そこには一段高くなった特設ステージが設置されていた。

 豪華なソファ。

 専用テーブル。

 警備役らしい男達。

 明らかに幹部専用の席だった。

 だがまだ主役の姿はない。

 ホワイトスターのリーダー。

 今回の獲物。

 いずれ姿を現すだろう。

 シズルは焦らず待つ事にした。

 

 ネオンが瞬く。

 下品な音楽が響く。

 酒に酔った無法者達が騒ぎ続ける。

 まるで銀河社会の裏側を凝縮したような光景の中で、ただ一人。

 白い戦闘スーツの賞金稼ぎだけが冷静な視線を保ち続けていた。

 獲物が姿を見せる、その瞬間を待ちながら。

 

『お待たせしたぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 突如として、それまで流れていた音楽が止んだ。

 会場全体の照明が一斉に落とされる。

 ざわり、と空気が揺れた。

 数百人規模の観客達の視線が、自然と会場中央の巨大ステージへ集まっていく。

 そして次の瞬間。

 爆発音にも似た効果音と共に、ステージの縁から大量の火花が噴き上がった。

 赤。

 青。

 紫。

 無数のネオンが一斉に明滅する。

 観客席から歓声が上がった。

 

『野郎どもぉぉぉっ!!』

 

 甲高いマイク音声が響く。

 司会者らしい男がステージ中央へ飛び出した。

 派手なジャケット。

 星型のサングラス。

 無駄に大きな身振り手振り。

 明らかに観客を煽ることだけを目的にしている人間だった。

 

『今年もこの日がやって来たぜぇぇぇぇぇっ!!』

「うおおおおおおっ!!」

『銀河一イカれた連中が集まる!銀河一危険で!銀河一無茶苦茶で!銀河一儲かるレース!!ホワイトスター・バトルグランプリだぁぁぁぁぁっ!!』

 

 歓声。

 口笛。

 怒号。

 酒瓶を打ち鳴らす音。

 まるで嵐のような熱狂が会場を揺らした。

 司会者はさらに煽る。

 

『そしてぇぇぇぇ!!そんな最高の祭りを仕切る男と言えば誰だぁ!?』

「ダンテオール!!」

「ダンテオール!!」

「ダンテオール!!」

 

 観客達が一斉に名前を叫ぶ。

 まるで宗教儀式のような光景だった。

 司会者は満足そうに笑った。

 

『そうだ!!銀河連合の追跡を何度も振り切り!賞金稼ぎ共を返り討ちにし!ロッタリア周辺を我が物顔で駆け回る!!ホワイトスター総長!!宇宙の暴走王!!ダンテオォォォォル・ドンタァァァァァック!!』

 

 轟音。

 火花。

 爆発音。

 そしてステージ奥のゲートが開く。

 現れた。

 

 ダンテオール・ドンタック。

 

 スキンヘッド。

 首筋まで伸びるサソリの刺青。

 筋肉質な巨体。

 革ジャンを無造作に羽織り、堂々とした足取りでステージへ歩いてくる。

 まるで自分がこの宇宙の王だと言わんばかりの態度だった。

 その後ろには複数の幹部達。

 そして一際目立つ女がいる。

 

 金髪。

 派手な化粧。

 頬には星型のフェイスペイント。

 露出の多い服装。

 ホワイトスターのナンバー2。

 チョコ・キークだった。

 

「キャハハッ!」

 

 チョコは観客へ向かって手を振る。

 歓声がさらに大きくなる。

 

「チョコちゃーん!!」

「愛してるぜー!!」

「俺と付き合ってくれー!!」

 

 野次が飛ぶ。

 チョコは中指を立てて返した。

 さらに歓声が上がった。

 どうやらそれすらファンサービスらしい。

 シズルはその光景を見ながら小さくため息をつく。

 

(酷い集団だな)

 

 心の底からそう思った。

 だが周囲の熱狂ぶりを見る限り、ここではそれが英雄扱いなのだろう。

 ダンテオールはステージ中央へ進み出る。

 司会者からマイクをひったくるように受け取った。

 そしてニヤリと笑う。

 

「よぉ、クズ共」

 

 第一声がそれだった。

 だが観客は怒るどころか大歓声を上げる。

 

「うおおおおおっ!!」

「総長ォォォォ!!」

「待ってましたぁぁぁ!!」

 

 ダンテオールはさらに笑う。

 

「景気良さそうじゃねえか。酒は足りてるか?女は足りてるか?金は足りてるか?」

 

 ゴクリ。息を呑むならず者達。ダンテオールはニヤリと笑い、高らかに宣言する。

 

「足りねえなら明日のレースで稼げ!」

 

 歓声。

 怒号。

 拍手。

 会場が揺れる。

 

「聞いた話じゃあよぉ」

 

 ダンテオールは肩を回しながら言った。

 

「最近は真面目な連中が増えてるらしいな」

 

 客席からブーイング。

 

「お仕事頑張ります。法律守ります。秩序が大事です」

 

 わざとらしい口調で真似をする。

 会場中が爆笑した。

 

「くだらねえ!」

 

 ダンテオールが叫ぶ。

 

「人生なんて好き勝手やったもん勝ちだろうが!」

 

 歓声。

 

「誰かに許可なんか取る必要ねえ!やりたい事やれ!欲しいもん奪え!気に食わねえ奴はぶち抜け!」

 

 会場が熱狂する。

 酒瓶が振り回される。

 椅子の上へ飛び乗る者までいる。

 

「そして明日は!」

 

 ダンテオールが腕を広げた。

 

「銀河一イカれたレースだ!!ビビってる奴なんざいねえよなぁぁぁ!?いるわけねえ!!俺達はホワイトスターだぁぁぁ!!」

「うおおおおおおおっ!!」

 

 会場が爆発したような歓声に包まれる。

 その様子を見ながらシズルは静かに腕を組んだ。

 

(演説と言うには下品すぎるな)

 

 眉を僅かにひそめる。

 

(口も悪い)

 

 政治家の演説でもなければ軍人の訓示でもない。

 ただの扇動だ。

 だが、こういう人間だからこそ支持されるのだろう。

 理屈ではなく感情を煽る。

 無法者達にはそれで十分なのだ。

 もっとも。

 シズルにとって重要なのは人気の有無ではない。

 目の前の男が賞金首だという事実だけである。

 視線を向ける。

 距離。

 護衛。

 脱出経路。

 周辺配置。

 自然と頭の中で情報が整理されていく。

 

(見つけたぞ、ダンテオール)

 

 賞金額は安い。

 だがロッタリアの人々は困っていた。

 少なくとも捕まえる理由としては十分だった。

 あとはタイミングを見極めるだけだ。

 

 その時だった。

 不意に。

 背筋に微かな違和感が走る。

 視線。

 誰かが見ている。

 

(誰だ?)

 

 シズルは表情を変えないまま周囲を探る。

 賞金稼ぎとして生きてきた経験が警鐘を鳴らしていた。

 ただ見られているだけではない。

 観察されている。

 獲物を値踏みするように。

 あるいは狙いを定めるように。

 そんな視線だった。

 

 シズルはさりげなく会場の反対側へ目を向ける。

 人混みの奥。

 ネオンの明滅する暗がり。

 そこに一人の人影が立っていた。

 宇宙服姿。

 金魚鉢のような丸いヘルメット。

 表情は見えない。

 男なのか女なのかも分からない。

 ただ一つだけ確かなのは――

 その人物が周囲の熱狂に一切興味を示していない事だった。

 

 皆がダンテオールを見ている中。

 その人物だけは違う。

 じっと。

 まるで狙撃手のように。

 シズルだけを見ていた。

 

 ネオンが明滅する。

 一瞬だけ光が消える。

 そして再び灯った時には、人影は群衆の中へ紛れていた。

 

「…………」

 

 シズルは僅かに目を細めた。

 何者だ。

 ただの参加者か。

 それとも――。

 騒がしい音楽はなおも鳴り続ける。

 ダンテオールの演説に酔う無法者達。

 熱狂する会場。

 だがその喧騒の裏側で、もう一つの視線が静かに動き始めていた。

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