おねショタ渡り鳥銀河を征くスターエイジ・ローヴァーズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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#15

 ホワイトスター主催のバトルレースが始まってから十分ほどが経過していた。

 無数の宇宙戦闘機はスタート地点を飛び出し、カタクリ星系各地へ向けて広がりながら進んでいる。

 だが、その光景は「レース」という言葉から一般人が想像するものとは程遠かった。

 順位を競う競技ではない。

 速さを競うスポーツでもない。

 これは武装したならず者達による大規模な戦闘行為であり、そのついでにチェックポイントを回るだけの暴力的な祭典だった。

 

 レースルート上に設定された宙域では、今日も多くの民間船が通常通り活動している。

 鉱石を運ぶ貨物船。

 コロニーへ食料を届ける輸送船。

 整備会社の作業艇。

 個人所有の小型宇宙船。

 彼らにとって今日は何でもない一日だった。

 少なくとも――ホワイトスターの戦闘機群が現れるまでは。

 

「こちら貨物船アルマジロ号!前方に高速接近反応多数! 何だあれは!?」

 

 中年の船長がモニターを見ながら声を上げた。

 レーダー画面には大量の高速反応。

 数十。

 いや百近い光点が凄まじい勢いで接近している。

 その直後だった。

 窓の外を数機のブラッドレイダーが流星のような速度で通過する。

 赤。

 青。

 黒。

 派手な塗装を施された機体が貨物船のすぐ横を掠めて飛び抜けた。

 

「近い近い近い近い!!」

「船長!あれホワイトスターです!」

「何でこんな航路を飛んでやがるんだ!」

 

 クルー達が悲鳴を上げる。

 その時。

 さらに後方から飛来した一機がレーザーバルカンを発射した。

 狙いは前を飛ぶライバル機だったのだろう。

 だが撃った本人は周囲など見ていない。

 青白いレーザーが貨物船の脇を掠めて飛んでいく。

 あと少しズレていたら直撃だった。

 

「うおおおっ!?」

 

 船長は反射的に操縦桿を倒した。

 貨物船が大きく傾く。

 積荷固定警報が鳴り響く。

 

「ふざけるな!」

「こっちは仕事中だぞ!」

「連合に通報しろ!」

「もうやってます!」

「繋がるまで生きてりゃいいがな!」

 

 悲鳴と怒号がブリッジに飛び交った。

 しかしそんな民間人の怒りなど、暴走族達に届くはずもなかった。

 彼らにとって一般市民は背景でしかない。

 むしろ驚き慌てる様子すら娯楽の一部だった。

 

『どけどけぇぇぇぇぇっ!!』

『ホワイトスター様のお通りだぁぁぁ!!』

『ヒャハハハハハ!!』

 

 通信越しの笑い声が響く。

 その直後。

 別の場所で爆発が起きた。

 一機のブラッドレイダーがミサイルを発射し、前方の機体へ直撃させたのである。

 閃光。

 爆炎。

 機体の残骸が四散する。

 

『おおっとぉぉぉぉぉ!!』

 

 司会者の興奮した声が全体通信へ流れる。

 

『ここで一機脱落だぁぁぁぁ!!レース開始十分!既に二十機以上がリタイアしております!!』

『最高だぜぇぇぇぇぇ!!』

 

 歓声が上がる。

 誰かが死んだかもしれない。

 だが観客達は気にしない。

 むしろ盛り上がる。

 狂っている。

 それがこのレースだった。

 先頭集団ではさらに激しい戦闘が展開されていた。

 

『死ねぇぇぇ!!』

『邪魔だボケ!!』

『うおおおおおっ!!』

 

 レーザーが飛ぶ。

 ミサイルが飛ぶ。

 戦闘機同士が互いを撃ち合いながら前進していく。

 ある機体は翼を吹き飛ばされる。

 ある機体は推進器を失う。

 ある機体は味方同士で衝突する。

 チェックポイントへ向かう最短ルートは既に火薬庫と化していた。

 

 そして。

 その混沌の中心に一機の機体がいた。

 黒い機体。

 大型化された翼。

 赤い光を放つ推進機。

 サーベルティガー。

 ダンテオール・ドンタック専用機である。

 

『ヒャハハハハハ!!遅ぇぞテメェら!!』

 

 ダンテオールが笑う。

 通信越しでも分かる。

 心底楽しんでいる。

 彼にとってこれはレースであり、遊びであり、狩りだった。

 前方から二機のブラッドレイダーが接近する。

 

『ダンテを落とせぇ!!』

『賞金は俺達のもんだ!!』

 

 左右から挟み込む。

 レーザー発射。

 だが。

 サーベルティガーは一瞬で加速した。

 赤い推進光が長く伸びる。

 まるで獣が飛びかかるような機動だった。

 

「速い……」

 

 後方から見ていたシズルが思わず呟く。

 

『確かに速いですね』

 

 シーサン・ポーも珍しく感心したように言う。

 

『ワタクシの計測では通常のブラッドレイダーを大幅に上回っています』

 

『改造費だけで輸送船一隻買えそうですね』

「賞金首らしい金の使い方だ」

 

 シズルは淡々と答える。

 その間にも戦闘は続いていた。

 サーベルティガーが敵機の射線をすり抜ける。

 反転。

 背後を取る。

 

『なっ――!?』

『速っ!?』

 

 レーザー発射。

 一機爆散。

 さらにもう一機。

 回避しようとしたところへ追撃。

 再び爆発。

 僅か数秒。

 二機撃墜。

 圧倒的だった。

 

『ヒャハハハハハハ!!どうしたぁ!?そんなもんかぁ!?もっと俺を楽しませろよぉ!!』

 

 ダンテオールの高笑いが響く。

 まるで猛獣である。

 挑んでくる相手を片っ端から噛み砕く肉食獣。

 周囲の暴走族達も熱狂していた。

 

『さすがダンテだぁ!!』

『最強だぜぇぇぇ!!』

『連合なんざ屁でもねぇ!!』

『ぶっちぎれぇぇぇ!!』

 

 歓声。

 怒号。

 笑い声。

 混沌の中でサーベルティガーは先頭へ躍り出る。

 誰も追いつけない。

 誰も止められない。

 

『誰だぁ!?』

 

 ダンテオールの声が全体通信に響く。

 

『俺を止められる奴ぁ!?いるなら出てこいやぁぁぁ!!』

 

 その挑発に歓声が上がる。

 しかし。

 後方を飛ぶサーペントピアスのコックピットで、シズルだけは冷静だった。

 先頭を走る黒い機体を見据える。

 確かに強い。

 操縦技術も高い。

 判断力もある。

 ただのチンピラではない。

 何度も銀河連合の包囲網を突破してきた理由も理解できる。

 

「なるほどな……」

 

 シズルは静かに呟いた。

 

「思った以上に腕はあるらしい」

『ですが賞金首です』

 

 シーサン・ポーが返す。

 

『捕まえれば子供服も防寒マントも買えますよ』

「そうだな」

 

 シズルは小さく笑った。

 そして操縦桿を握る手に力を込める。

 視線の先にはダンテオール。

 さらにその向こうにはチェックポイント。

 だがシズルのそもそもの目的は優勝ではない。

 賞金首の確保。

 ただそれだけだ。

 

「さて――」

 

 サーペントピアスの推進器が唸りを上げる。

 

「そろそろ追い上げるとするか」

 

 白と赤の戦闘機が加速する。

 混沌と化したレース宙域の中へ。

 黒き王者を狩るために。

 

『キャハハハハハハハッ!!』

 

 直後、甲高い笑い声が全体通信へ響き渡った。

 戦闘機同士の銃撃戦。

 爆発。

 悲鳴。

 怒号。

 そんな混沌の中でも、その笑い声だけは妙に耳に残る。

 

『見つけた見つけたぁ!アンタさぁ、さっきからダンテのこと見すぎじゃない?ウチ、そういうの嫌いなんだよねぇ!』

 

 シズルが眉をひそめた次の瞬間だった。

 警報音がコックピットに鳴り響く。

 

『警告! 高エネルギー反応接近!左方よりレーザー攻撃!』

「っ!」

 

 反射的に操縦桿を倒す。

 サーペントピアスが急旋回した。

 その直後。

 青白いレーザーが機体の脇を通り抜ける。

 さらに二発。

 三発。

 四発。

 まるで機体を包囲するように光線が襲い掛かった。

 

「何だ!?」

『新規敵機を確認!』

 

 シーサン・ポーの声が響く。

 

『ブラッドレイダー五機!いえ、六機です!こちらへ向かっています!』

 

 モニターに赤いマーカーが並ぶ。

 高速接近。

 完全に狙われていた。

 サーペントピアスはロールしながらレーザーを回避する。

 左へ。

 右へ。

 上へ。

 下へ。

 曲芸飛行のような機動で次々と射線を外していく。

 だが攻撃は止まらない。

 

『逃げんなよぉ!』

『キャハハハハハ!』

『女ぁ!』

『そこで爆発しちゃいなよぉ!』

 

 先頭を飛ぶ一機。

 派手なピンク色のブラッドレイダー。

 機首には星のマーク。

 側面には落書きのようなペイント。

 明らかに他の機体とは雰囲気が違う。

 

『マスター』

 

 シーサン・ポーが言った。

 

『ホワイトスター幹部チョコ・キークです。ダンテオール・ドンタックの交際相手ですね』

「なるほど」

 

 シズルは短く答える。

 

「厄介なのに目を付けられたな………!」

 

 レーザーが飛ぶ。

 回避。

 さらにミサイル。

 サーペントピアスが機首を振り上げる。

 ミサイルが機体下方を通過して爆発した。

 衝撃波が機体を揺らす。

 

『あれぇ!?避けた!?キャハハハッ!結構やるじゃんアンタ!』

 

 チョコが楽しそうに笑った。

 その声には明確な敵意が含まれている。

 まるで獲物を見つけた肉食獣だ。

 

『でもさぁ!ウチ知ってんだよねぇ!』

「何をだ」

『アンタずーっとダンテ見てたじゃん?』

「……何?」

『何って?』

 

 チョコが笑う。

 

『惚れたんでしょ?ダンテにさぁ!』

 

 一瞬。

 シズルは意味が理解できなかった。

 

「……は?」

『だからぁ!ダンテ狙ってんでしょ!?色目使ってんでしょ!?分かるんだよねぇ女の勘で!』

 

 シズルは思わず黙った。

 数秒ほど。

 本当に数秒。

 頭の中が真っ白になる。

 その隙を狙うようにレーザーが飛来した。

 

「っと!」

 

 急上昇。

 光線が機体下方を通り過ぎる。

 危なかった。

 だが今の攻撃以上にチョコの発言が衝撃だった。

 

「……違う」

『あ?』

「違うと言っている」

 

 シズルは呆れた声を出した。

 

「私は賞金首を追っているだけだ」

『へぇ?』

「ダンテオール・ドンタックだろう?銀河連合から賞金がかけられている。だから捕まえようとしている。それだけだ」

 

 事実である。

 恋愛感情など欠片もない。

 むしろ初対面だ。

 だが。

 

『キャハハハハハハハ!!』

 

 チョコは大笑いした。

 

『嘘つけぇ!そんな言い訳通じると思う!?ウチ馬鹿じゃないんだから!』

「……」

 

 シズルは無言になった。

 どうやら話が通じないらしい。

 

『ダンテはウチの男なんだよねぇ!だからさぁ!横から手ぇ出そうとする女は嫌いなの!超嫌い!めちゃくちゃ嫌い!だから死んでぇぇぇぇ!!』

 

 ブラッドレイダー部隊が一斉射撃を開始した。

 六機。

 四方から。

 レーザーが雨のように降り注ぐ。

 

『警告!被弾予測!被弾予測!』

 

 シーサン・ポーが叫ぶ。

 

「分かっている!」

 

 サーペントピアスが旋回する。

 ロール。

 急降下。

 急上昇。

 推進機が悲鳴のような音を上げる。

 だがシズルの操縦技術は一流だった。

 機体はまるで生き物のように動く。

 レーザーの隙間を縫う。

 爆発を掠める。

 攻撃の網をすり抜ける。

 しかし敵の数が多い。

 一機なら問題ない。

 二機でも対処できる。

 だが六機。

 しかも周囲では他の参加者達も撃ち合っている。

 状況は複雑だった。

 

『逃げるなよぉ!』

『女ぁ!』

『キャハハハハハハ!』

 

 チョコの笑い声が追いかけてくる。

 まるで悪夢のようだった。

 

「……面倒だな」

 

 シズルは小さく呟いた。

 本来の標的はダンテオールだ。

 賞金首本人。

 先ほどまで視界の先にいた黒いサーベルティガーは、今も先頭集団を駆け抜けている。

 だが今は追えない。

 チョコ達が邪魔をしている。

 しかも理由が酷い。

 賞金首を追っていたら恋敵認定された。

 賞金稼ぎとして長く生きてきたが、こんな理由で命を狙われるのは初めてかもしれない。

 

『マスター』

 

 シーサン・ポーが言う。

 

『大変失礼ながら………かなり理不尽ですね』

「ああ」

 

 シズルは深々とため息を吐いた。

 

「私もそう思う」

 

 レーザーが飛ぶ。

 回避。

 ミサイルが飛ぶ。

 回避。

 再びレーザー。

 回避。

 サーペントピアスは激しい機動を続ける。

 今は反撃よりも生存が優先だった。

 シズルは操縦桿を握りながら前方を見る。

 先頭にはダンテオール。

 背後にはチョコ。

 左右には混戦状態のレース参加者達。

 そしてレースそのものは容赦なく進行している。

 

「まったく……」

 

 彼女は呟いた。

 

「賞金首を追うだけでも面倒なのに………」

 

 機体を捻る。

 

 レーザーが掠める。

 

「………余計な障害が増えたものだ」

 

 その言葉と共に、サーペントピアスは再び光の奔流の中へ飛び込んでいった。

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