おねショタ渡り鳥銀河を征くスターエイジ・ローヴァーズ 作:アイアイホイホイおさるさん
宇宙空間を無数の光が駆け抜ける。
レーザー。
推進機の尾光。
爆発の閃光。
そしてレース参加者達の欲望。
ホワイトスター主催のバトルレースは、既に中盤へ差し掛かろうとしていた。
その中で、サーペントピアスは苦しい戦いを強いられていた。
『逃げんなって言ってんだろぉぉぉ!!』
チョコの甲高い怒鳴り声が通信回線に響く。
その直後。
複数のレーザーが宇宙を切り裂いた。
サーペントピアスが機体を傾ける。
青白い光線が機体表面を掠めて通過する。
さらに別方向から射撃。
回避。
直後にミサイル。
再び回避。
まるで四方八方から殴りつけられているような状態だった。
『マスター!』
シーサン・ポーの声が響く。
『現在順位二十三位!先ほどまで十位台だったのにどんどん落ちています!』
「分かっている!」
シズルは短く返した。
実際、状況は良くない。
ダンテオールを追おうとしたところをチョコ率いるブラッドレイダー隊に足止めされている。
その間にも他の参加者達は先へ進んでいるのだ。
もちろんシズルにとって順位自体は重要ではない。
目的は賞金首の確保。
だが。
ダンテオールから離されるのは問題だった。
『キャハハハハハハッ!!どうしたのぉ!?もう追いつけないんじゃない!?ダンテは遠くに行っちゃうよぉ!?』
チョコが笑う。
明らかに楽しんでいた。
獲物を追い詰める肉食獣というより、気に入らない玩具を壊そうとしている子供に近い。
そして厄介なことに、部下達もそのノリに完全に付き合っていた。
『姐さん!右行きました!』
『逃がすなぁ!』
『撃て撃てぇ!!』
レーザーの雨が再び降り注ぐ。
サーペントピアスが急降下。
その頭上を光線が通り抜ける。
直後に機首を引き起こす。
今度は下方から撃ち上げられたレーザーを回避。
普通のパイロットならとっくに撃墜されていてもおかしくない状況だった。
しかし。
シズルの目が細くなる。
「……そろそろだな」
『え?』
シーサン・ポーが聞き返した。
「十分付き合った」
操縦桿を握る手に力が入る。
「これ以上は時間の無駄だ」
その瞬間だった。
サーペントピアスが急加速する。
『あっ!?』
『逃げたぞ!』
ブラッドレイダー隊が追う。
だが。
それこそがシズルの狙いだった。
「今だ!」
操縦桿を引く。
サーペントピアスが信じられない動きを見せた。
急上昇。
そしてそのまま大きく宙返り。
機体が完全に上下逆さまになる。
さらに推進機を全開。
慣性を利用して一気に反転した。
『なっ!?』
『何だその動き!?』
追撃していたブラッドレイダー隊が驚愕する。
既に遅い。
サーペントピアスは隊列の背後へ回り込んでいた。
「狩る側と狩られる側が逆だ」
シズルが呟く。
照準固定。
ロック完了。
引き金を引く。
レーザーバルカンが火を吹いた。
青白い光線が宇宙を貫く。
『ぎゃあああああっ!?』
一機目が爆発した。
続けざまに二機目。
回避しようとしたところへ追撃。
推進機を撃ち抜かれ火球になる。
『姐さん!?』
『助け――』
三機目も沈む。
シズルの攻撃は正確だった。
無駄がない。
迷いもない。
戦闘機同士の戦いでありながら、まるで射撃訓練の的を撃ち抜いているかのようだった。
『くっそぉぉぉぉ!!』
『散れ散れ散れぇぇぇ!!』
残った部下達が反撃する。
だが動揺している。
隊列も崩れている。
そこをシズルが見逃すはずがない。
レーザー。
爆発。
レーザー。
爆発。
短時間のうちに次々とブラッドレイダーが宇宙の塵へ変わっていった。
そして、気付けば残っているのは一機だけだった。
チョコのブラッドレイダーである。
『よくも!!』
通信回線に怒声が響く。
『よくもウチの仲間を!!』
先ほどまでの余裕は消えていた。
嫉妬。怒り。屈辱。
そうした感情が混ざり合っている。
『殺す!!絶対殺す!!アンタだけは殺すぅぅぅぅ!!』
チョコ機が突撃してくる。
完全に冷静さを失っていた。
直線的。
単純。
感情任せ。
危険ではあるが、読みやすい。
「悪いが」
シズルは静かに言った。
「その程度では私には勝てない」
サーペントピアスが横へ滑る。
チョコ機の突撃を回避。
そのまま側面へ回り込む。
照準。
固定。
発射。
レーザーが走る。
直撃。
『あああああっ!?』
チョコ機の右翼が吹き飛んだ。
火花。
爆炎。
機体が大きくバランスを崩す。
『うそっ!?まだだ!!まだ終わってない!!』
それでもチョコは諦めない。
残った推進機を吹かし、再び向かってこようとする。
執念だった。
ある意味では見上げた根性かもしれない。
………だが。その瞬間。
宇宙の彼方から一本のレーザーが飛来した。
鋭く。
正確に。
迷いなく。
それはチョコ機へ吸い込まれるように進み――直撃した。
『え?』
チョコの間抜けな声。
次の瞬間。
爆発。
ブラッドレイダーが火球へ変わった。
シズルの攻撃ではない。
明らかに別方向から飛来した一撃だった。
「何だ?」
シズルが眉をひそめる。
チョコを狙った?
それとも。
偶然か?
『マスター!』
シーサン・ポーが叫んだ。
『新規高速接近反応!後方です!』
警告音が鳴り響く。
シズルが振り返る。
レーダー画面に一つの光点。
異常な速度。
異常な加速性能。
そして。
灰色の機体。
鋭角的な翼。
どこか軍用機を思わせるシルエット。
レース参加者の派手な機体とは明らかに雰囲気が違う。
まるで獲物を狙う刃物だった。
その機体が、一直線にサーペントピアスへ向かってきていた。
「……あいつか」
シズルの目が細くなる。
パーティ会場で感じた視線。
レース前から気になっていた存在。
そして今。
チョコを撃墜した謎の戦闘機。
灰色の機体は何も言わない。
通信もない。
ただ静かに加速する。
その沈黙こそが不気味だった。
次の瞬間。
灰色の戦闘機の翼がわずかに持ち上がる。
照準が合う。
『マスター!来ます!!』
シーサン・ポーの警告と同時に。
謎の機体が発砲し、青白い閃光が宇宙を裂いた。
シズルは反射的に操縦桿を引き、サーペントピアスを急上昇させる。
直後。
先ほどまで機体がいた空間を、何本ものレーザー光が通過していった。
「っ!」
背中に冷たい汗が流れる。
チョコ率いるブラッドレイダー隊との戦いも決して楽ではなかった。しかし、今の一撃はそれとはまるで質が違った。
相手は感情に任せて撃っているのではない。
狙いが正確すぎる。
撃つべき位置を理解した上で、回避先まで予測して撃ち込んできている。
もし反応が一瞬遅れていたら。
もし操縦が少しでも鈍っていたら。
今頃サーペントピアスは火球になっていただろう。
「なんだ、あいつは……!」
シズルが振り返る。
背後。
無数の戦闘機が入り乱れるレース空域の中を、一機だけ異様な速度で接近してくる機体があった。
三角形の翼。
鋭利なシルエット。
通常のダートファイターをベースにしているのは分かる。
しかし明らかに別物だった。
推進器の出力。
機体反応速度。
旋回性能。
どれも通常機の範疇を超えている。
まるで猛禽類が獲物へ襲い掛かるような動きだった。
その機体が再び銃口を向ける。
次の瞬間。
奴のレーザー機銃が火を噴いた。
無数の光線が空間を埋め尽くす。
「ちっ!」
サーペントピアスがロールする。
横へ回避。
さらに急降下。
だがレーザーは追ってくる。
まるでこちらの行動を読んでいるかのようだった。
機体の側面を光がかすめる。
警告音が鳴り響く。
『被弾判定軽微!装甲表面を焼いただけです!』
シーサン・ポーの声が響いた。
『ですが危険です!非常に危険です!あの相手、チョコさん達とは比較になりません!』
「見れば分かる!」
シズルは歯を食いしばる。
サーペントピアスを左右へ振る。
だが敵機はぴたりと食らいついてきた。
振り切れない。
それどころか距離を詰めてきている。
レース参加者達も異変に気付いたらしい。
近くを飛んでいたブラッドレイダーが慌てて回避を始める。
「な、なんだあいつ!」
「速すぎる!」
「化け物かよ!」
通信に悲鳴が混じる。
そして。
一機のブラッドレイダーが進路を塞ぐ形になった。
敵機は躊躇しなかった。
レーザーが走る。
ブラッドレイダーのコックピットが貫かれた。
爆発。
機体は火球となり、宇宙の闇へ散っていく。
「邪魔するなら容赦なしか……!」
シズルが眉をひそめる。
ホワイトスターの構成員など、単なる障害物としか見ていない。
その冷酷さに寒気を覚えた。
『解析完了しました!』
シーサン・ポーの声が響く。
『あの機体の正体が分かりました!』
「何だ!」
『ミラージュダートです!』
「ミラージュダート?」
『旧ガルダ党軍特殊部隊、セントクルセイダースの一部精鋭部隊に配備されていた強化型ダートファイターです!』
モニター上にデータが表示される。
『反応速度向上改修済み!出力増強済み!レーザー機銃も強化型!通常のダートファイターとは性能が別次元です!』
「なるほどな……」
シズルの目が細くなる。
「やっぱり来たか」
予想はしていた。
グランドスラム級を沈めた。
ユウを奪った。
ガルダ党残党が黙っているはずがない。
そして今。
その刺客が姿を現した。
「レース参加者に紛れて近付いてきたわけか」
『恐らくそうでしょう』
シーサン・ポーが答える。
『あの男は最初からマスターを狙っていたと考えるべきです!』
「面倒な奴だな……」
シズルが呟いた瞬間。
通信着信を知らせる表示が現れた。
ピコン、と電子音が鳴る。
『外部通信です』
「繋げ」
短く答える。
数秒後。
無機質な男の声が流れた。
『聞こえるか』
感情がない。
抑揚もない。
機械音声のようですらある。
『私はカルライト・エコー』
その声は淡々と名乗った。
『ガルダ党の命により貴様を始末する』
シズルは鼻で笑う。
「ご丁寧に名乗ってくれるとはな」
『質問する』
カルライトは続ける。
『サイキッカーの少年をどこへ隠した』
その言葉にシズルの表情が僅かに険しくなった。
サイキッカー、という言葉の意味はわからないが、少年と言うからにはユウの事だろう。
やはり狙いはユウだった。
「答えると思うか?」
『……』
「悪いがな」
シズルは操縦桿を握り直す。
「私も賞金稼ぎだ。依頼人の情報も守るし、保護対象も守る」
『そうか』
カルライトの声は変わらない。
怒りもない。
焦りもない。
ただ事実を確認しただけのような口調だった。
そして。
『なら貴様を撃墜した後に調べる』
シズルの眉がぴくりと動く。
『貴様の母艦をな』
静かな声。
その一言に。
シズルの目が鋭くなった。
「……ほう」
怒りが滲む。
ユウだけではない。
今度はコフィン号まで狙うつもりらしい。
『通信終了』
プツリ。
回線が切れた。
「勝手な奴だな」
シズルが吐き捨てる。
『マスター……』
「分かってる」
カルライトをここで止めなければならない。
絶対に。
その瞬間だった。
ミラージュダートが急加速する。
まるで瞬間移動したかのような速度。
推進炎が閃く。
距離が一気に縮まった。
「速い!」
シズルが叫ぶ。
同時に。
通信が切れたはずの回線から、最後の一言だけが流れてきた。
『オーラは最も偉大なり』
祈るように。
念じるように。
狂信者そのものの声音で。
カルライトは呟いた。
そして。
ミラージュダートの銃口がサーペントピアスへ向けられる。
無数のレーザー砲口が青白く輝いた。
決戦の距離まで。
あとわずかだった。