おねショタ渡り鳥銀河を征くスターエイジ・ローヴァーズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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#17

 宇宙は本来、静寂に満ちた場所である。

 だが今、このカタクリ星系の一角にあるこの宙域だけは違った。

 レーザーが飛び交う。

 推進機関の光が乱舞する。

 爆発の閃光が次々と咲き誇る。

 まるで戦争だった。

 いや、実際に戦争より酷いのかもしれない。

 ここには戦線もなければ規律もない。

 賞金目当てのならず者。

 暴走族。

 裏社会の住人。

 そして殺意を抱いた暗殺者。

 それらが同じ空域に集まり、好き勝手に武器を撃ち合っているのだから。

 そんな混沌の中心で、二機の戦闘機が激しく火花を散らしていた。

 

 白と赤の機体。

 サーペントピアス。

 そしてその背後にぴたりと食らいつく三角翼の改造機。

 ミラージュダート。

 

 両者はすでにレースなど忘れたかのような激しいドッグファイトを繰り広げていた。

 

「くっ!」

 

 シズルは操縦桿を引いた。

 サーペントピアスが急上昇する。

 だが直後。

 その回避先を読んでいたかのようにレーザーが飛来した。

 青白い光線がコックピット横をかすめる。

 あと数十センチずれていたら直撃だった。

 

「読まれている……!」

 

 思わず唇を噛む。

 カルライトの射撃精度は異常だった。

 偶然ではない。

 勘でもない。

 彼はシズルの回避行動そのものを分析し、その先へ撃ち込んでいる。

 ベテラン同士の空戦ではよくある話だ。

 しかしその精度が常軌を逸していた。

 まるで未来を見ているかのようだった。

 

『右後方から来ます!』

 

 シーサン・ポーが叫ぶ。

 直後。

 レーザーの雨が降り注いだ。

 サーペントピアスが横転するように回避。

 さらに急降下。

 デブリの陰へ滑り込む。

 だが。

 ミラージュダートはそれすら読んでいた。

 巨大な船体残骸の向こうから飛び出してきた瞬間、再び銃口が火を吹く。

 レーザーが空間を裂く。

 

「っ!」

 

 警告音。

 機体が揺れた。

 

『被弾! 左舷装甲損傷!』

 

 シーサン・ポーの悲鳴が響く。

 

『マスター! 被弾しました!』

「分かっている!」

 

 シズルが怒鳴る。

 だが怒鳴ったところで状況は変わらない。

 むしろ悪化していた。

 サーペントピアスは確かに高性能機だ。

 シズルの操縦技術も一流だった。

 しかし今は完全に押されている。

 攻撃する余裕がない。

 撃てばその瞬間を狙われる。

 だから回避するしかない。

 避ける。

 避ける。

 ひたすら避け続ける。

 だがそれは時間の問題でもあった。

 永遠に回避し続けることなど不可能なのだから。

 レーザーが再び迫る。

 サーペントピアスがロールする。

 その際だった。

 機体が大きく揺れた。

 

 ギギギギギッ!!

 

 機体全体から嫌な振動が伝わる。

 

『エンジン負荷警告!』

 

 シーサン・ポーの声が震える。

 

『これ以上の無理な機動は危険です!』

 

 実際、サーペントピアスは悲鳴を上げ始めていた。

 高出力エンジンは限界近くまで酷使されている。

 急上昇。

 急降下。

 急旋回。

 宙返り。

 スラスター全開。

 常識外れの操縦を何分も続けているのだ。

 機体が耐えていること自体が奇跡だった。

 だが。

 それでもカルライトは追ってくる。

 少しも離れない。

 まるで死神のように。

 

『マスター!!』

 

 シーサン・ポーが半ば悲鳴を上げた。

 

『もう十分です!!』

「何がだ!」

『レースです!!』

 

 AIとは思えないほど感情的な声だった。

 

『こんなもの放棄してください!!』

 

 また警告音。

 また被弾。

 今度は右翼だった。

 レーザーが掠める。

 白い装甲片が宇宙へ散る。

 

『翼端損傷!!』

 

 シーサン・ポーは完全に取り乱していた。

 

『逃げましょう!今すぐ離脱してください!レースなんかどうでもいいでしょう!?ユウ君も待っているんですよ!?こんな所で撃墜されたら元も子もありません!!』

 

 次から次へと言葉が飛んでくる。

 普段冷静なAIがここまで狼狽するのは珍しかった。

 それだけ危険な状況なのだ。

 客観的に見れば正論だった。

 賞金首を追うのも結構。

 ガルダ党残党を止めるのも結構。

 だが死んでしまえば終わりである。

 逃げられるなら逃げるべきだ。

 普通ならそう判断する。

 だが。

 

「まだだ」

 

 シズルは短く呟いた。

 

『マスター!?』

「まだ終わっていない」

 

 視線は前を向いたまま。

 指先は操縦桿から離れない。

 額には汗が浮かんでいる。

 心臓も速い。

 カルライトが強敵であることは認める。

 おそらく今まで戦った相手の中でも上位に入る。

 だが。

 勝てないとは思わなかった。

 

「必ずどこかにある」

 

 シズルは低く呟く。

 

「人間にも機械にも癖はある」

 

 レーザーが飛ぶ。

 回避する。

 また飛ぶ。

 避ける。

 その繰り返しの中で。

 彼女は戦っていた。

 銃ではない。

 剣でもない。

 頭脳で戦っていた。

 カルライトの動き。

 射撃の間隔。

 加速のタイミング。

 旋回の癖。

 視線の誘導。

 全てを観察する。

 全てを記憶する。

 全てを分析する。

 今は攻撃できなくていい。

 今は耐える。

 耐えて。

 見抜く。

 相手の弱点を。

 逆転の糸口を。

 必ず存在するはずの突破口を。

 

 その時だった。

 無数の戦闘機が入り乱れる前方空域で、一機のブラッドレイダーが爆発した。

 爆炎。

 残骸。

 飛び散る破片。

 その向こうでミラージュダートが再び銃口を向ける。

 カルライトは追撃を止めない。

 冷酷に。

 機械のように。

 確実に殺そうとしてくる。

 だがシズルの目は死んでいなかった。

 むしろ鋭くなっていく。

 全神経が研ぎ澄まされていく。

 攻撃の嵐。

 迫る死。

 機体の悲鳴。

 シーサン・ポーの叫び。

 その全てを聞きながら。

 シズルは操縦桿を握りしめた。

 

 ――まだだ。

 ――まだ負けない。

 ――必ず逆転の一手はある。

 

 その一瞬を掴むため。

 彼女は襲い来るレーザーの豪雨の中へ、再びサーペントピアスを躍らせた。

 

「――見つけたぞ」

 

 シズルは小さく呟いた。

 その声は興奮でも焦りでもない。

 獲物を仕留める直前の狩人のような、静かな確信に満ちていた。

 サーペントピアスのコックピットには警告音が鳴り続けている。

 左翼損傷。

 外装被弾。

 推進機関高負荷。

 各種アラートが次々とモニターへ表示されていた。

 だがシズルの視線はそれらを見ていない。

 彼女が見ているのはただ一つ。

 前方を飛ぶミラージュダートだけだった。

 カルライト・エコー。確かに強敵だった。

 射撃は正確。

 操縦も一流。

 感情に流される様子もない。

 おそらくセントクルセイダース時代から幾度となく実戦を経験してきたのだろう。

 だが。

 どれほど優れた兵士でも癖はある。

 どれほど高性能な機体でも弱点はある。

 そして。

 どれほど冷静な人間でも予想外の事態には対応が遅れる。

 シズルは何度も攻撃を回避しながら、それを観察していた。

 カルライトは常に相手の回避先を読む。

 そしてその先へ先回りして撃つ。

 つまり。

 相手が動く事を前提に戦っている。

 ならば――。

 

「そこだ!」

 

 シズルは操縦桿を押し込んだ。

 サーペントピアスが前進する。

 ミラージュダートもそれを追う。

 レーザー機銃が火を噴いた。

 青白い光線が迫る。

 その瞬間だった。

 シズルはエンジン停止スイッチを叩いた。

 

 ゴンッ!

 

 鈍い振動。

 次の瞬間。

 サーペントピアスの推進炎が消えた。

 宇宙戦闘機としては自殺行為にも等しい操作だった。

 

『マスター!?』

 

 シーサン・ポーが絶叫する。

 

『何をやっているんですか!?』

 

 だがシズルは答えない。

 サーペントピアスは推進力を失い、その場で慣性飛行へ移行した。

 突然速度を失った機体。

 通常ならあり得ない挙動。

 カルライトも予測できなかった。

 ミラージュダートの照準がわずかにずれる。

 そして。

 両機の距離が一気に縮まった。

 

「な――」

 

 カルライトの口から初めて動揺が漏れる。

 サーペントピアスが目前に迫る。

 そのままでは衝突する。

 宇宙戦闘機同士の正面衝突。

 そんなものになれば双方無事では済まない。

 反射的に。

 本能的に。

 カルライトは操縦桿を切った。

 ミラージュダートが回避行動に入る。

 横へ。

 大きく。

 避ける。

 その判断自体は間違っていなかった。

 だが。

 それこそがシズルの狙いだった。

 

「もらった!」

 

 サーペントピアスのエンジンが再起動する。

 轟音。

 推進炎が爆発する。

 停止状態から一気に加速。

 宇宙空間では慣性が支配する。

 だからこそ。

 一瞬停止した機体は予測不能な動きを生み出す。

 カルライトが回避した時にはもう遅かった。

 ミラージュダートはサーペントピアスの真正面から逃れた。

 だが同時に。

 自ら背後を晒していた。

 

「っ!?」

 

 ヘルメットの奥、カルライトの目が見開かれる。

 モニターが警告を発した。

 敵機接近。

 敵機接近。

 敵機接近。

 その表示が意味するものを理解した時には。

 もう全て終わっていた。

 サーペントピアスは完全に背後を取っていた。

 距離は至近。

 回避不能。

 逃げ場なし。

 ターゲットスコープが赤く染まる。

 ロックオン完了。

 照準中央。

 そこにはミラージュダートが映っていた。

 シズルは静かにトリガーを握る。

 

「終わりだ」

 

 レーザーバルカンが火を吹いた。

 

 ドドドドドドドドドドドドッ!!

 

 青白い閃光が連続して宇宙を貫く。

 至近距離から放たれた無数のレーザー。

 ミラージュダートに逃げる時間はない。

 避ける時間もない。

 装甲が砕ける。

 翼が吹き飛ぶ。

 推進器が爆発する。

 機体全体が次々と穴だらけになっていく。

 まるで紙を撃ち抜くようだった。

 

「ぐっ……!」

 

 カルライトが呻く。

 初めて苦痛の声を上げた。

 だがもう遅い。

 機体各部が連鎖的に爆発を始める。

 燃料系統。

 動力炉。

 武装区画。

 全てが限界を迎えていた。

 そして。

 ミラージュダートは巨大な火球となった。

 

 轟ッ!!

 

 宇宙に咲く爆炎。

 赤い光が闇を染める。

 破片が四方へ飛び散る。

 カルライト・エコーの乗る機体は、そのまま爆散した。

 シズルは爆発を見届けながら息を吐く。

 

「……危なかった」

 

 心からの本音だった。

 あと少しでも判断を誤れば。

 今頃爆発していたのは自分の方だった。

 

『マスター!!』

 

 シーサン・ポーが叫ぶ。

 

『無事ですか!?』

「ああ」

『ああじゃありません!!』

 

 モニターの四角い顔が半泣きになっている。

 

『機体各部損傷!エンジン高負荷!右翼損傷!推進器出力低下!』

 

 まるで怒涛の勢いだった。

 

『あんな無茶苦茶な機動をしたら壊れますよ!?サーペントピアスだって機械なんですからね!?ワタクシ、本気で肝が冷えましたよ!?』

 

 次々飛び出す文句。

 だがその裏にある心配も伝わってくる。

 シズルは苦笑した。

 

「すまない」

『本当に思っていますか!?』

「少しは」

『少しなんですね!?』

 

 シズルは笑う。

 久しぶりに少しだけ肩の力が抜けた。

 だが。

 それもほんの一瞬だった。

 彼女の視線が前方モニターへ向く。

 レース空域。

 その遥か先。

 先頭集団がまだ飛んでいる。

 黒い機体。

 赤い光。

 大型化された翼。

 サーベルティガー。

 ダンテオール・ドンタックの機体だった。

 

「……まだだ」

 

 シズルは呟く。

 

『え?』

「まだ終わっていない」

 

 操縦桿を握り直す。

 サーペントピアスのエンジンが唸る。

 損傷した機体が震える。

 それでも飛べる。

 まだ飛べる。

 なら十分だ。

 

「賞金首が残っている」

『まさか………』

 

 シーサン・ポーが嫌な予感を覚えたような声を出す。

 シズルの口元が僅かに吊り上がった。

 

「行くぞ」

 

 サーペントピアスが加速する。

 傷だらけの機体が再び宇宙を駆ける。

 その先には。

 ホワイトスターの首領。

 ダンテオール・ドンタックが待っていた。

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