おねショタ渡り鳥銀河を征くスターエイジ・ローヴァーズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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#19

 ロッタリアの一角。大型商業区画の賑やかな通路から少し外れた場所に、その古着屋はあった。

 新型のホログラム看板や派手な広告映像が並ぶモールの中にあって、その店だけは時代に取り残されたような雰囲気を漂わせている。

 木目調の棚。

 手書きの値札。

 年季の入ったショーケース。

 入り口の上では小さなベルが吊られ、誰かが入店する度に軽やかな音を鳴らす。

 店主であるモン・ソイダーは、そんな店のカウンターで椅子に腰掛けながら、のんびりと湯気の立つカップを傾けていた。

 最近は少しだけ客足が増えている。

 理由は単純だった。

 ホワイトスターがいなくなったからだ。

 以前ならば、いつ暴走族が現れて店を滅茶苦茶にするかわからなかった。

 そのせいで客も寄り付かず、商売は散々だった。

 だが今は違う。

 モールを歩く人々の顔には余裕が戻り、子供達が走り回り、商人達も安心して店を開けるようになった。

 以前のロッタリアが少しずつ戻ってきている。

 そんな平和な昼下がりだった。

 入り口のベルが鳴る。からん、と。

 どこか懐かしい音が店内に響いた。

 

「いらっしゃ――」

 

 モンが顔を上げる。

 そして穏やかに目を細めた。

 

「おや」

 

 店に入ってきた人物を見て、小さく笑う。

 

「これはこれは」

 

 そこに立っていたのはシズルだった。

 今日は戦闘スーツではない。

 黒いジャケットにパンツスタイルという比較的ラフな格好だ。

 それでも長身で整った体格は隠せず、人混みの中でも目立つ存在感を放っている。

 その隣には小さな少年。

 白髪と赤い瞳を持つユウが、相変わらずきょろきょろと店内を見回していた。

 

「こんにちは」

 

 シズルが軽く手を上げる。

 

「以前は世話になったな」

「いえいえ」

 

 モンは笑った。

 

「こちらこそ。店があんなことになってしまって申し訳ありませんでした」

「あれはあなたのせいじゃないさ」

 

 シズルは肩をすくめる。

 

「暴走族が勝手にやったことだ」

「そう言っていただけると助かります」

 

 モンは苦笑した。

 あの日の惨状は今でも覚えている。

 店内を飛び回るブラッドレイダー。

 吹き飛ぶ商品。

 倒れる棚。

 逃げ惑う客達。

 思い出すだけで胃が痛くなるような光景だった。

 だが、それも今では過去の話だ。

 

「今日は買い物ですかな?」

「ああ」

 

 シズルは頷く。

 

「前に買い損ねたものをな」

 

 そう言って店内へ足を進める。

 ユウもその後ろをちょこちょこと付いていく。

 棚に並ぶ服を見ながら、シズルは内心ほっとしていた。

 思い起こせば、戦い続きだった。

 賞金首。

 ガルダ党残党。

 宇宙戦。

 追跡。

 逃亡。

 そういったものとは無縁の時間が、今は少しだけ心地良い。

 静かな店内。

 古い服の匂い。

 遠くから聞こえるモールのざわめき。

 どれも平和そのものだった。

 

「しずる……」

 

 ユウが服を指差す。

 子供用のパーカーだった。

 

「気に入ったのか?」

「うん……」

 

 小さく頷く。

 シズルは少し考えた後、

 

「じゃあそれも見てみるか」

 

 と言った。

 ユウの顔が少しだけ明るくなる。

 以前ならほとんど感情を見せなかった少年だ。

 そんな変化を見られるだけでも、シズルとしては嬉しかった。

 しばらく店内を見て回った後。

 シズルは以前目を付けていた子供服をいくつか手に取った。

 動きやすいズボン。

 丈夫な上着。

 肌触りの良いシャツ。

 宇宙船生活でも困らないような実用品ばかりである。

 そして。

 

「あったな」

 

 棚の上。

 以前見つけた防寒マントがまだ残っていた。

 深い青色の生地。

 フード付き。

 宇宙船や寒冷惑星での生活を想定した作りになっている。

 サイズも子供向けだ。

 ユウにぴったりだった。

 

「試してみるか?」

 

 シズルが聞く。

 ユウはこくりと頷いた。

 マントを羽織らせてみる。

 すると。

 すっぽりと身体を包み込み、小さな白髪の頭だけがちょこんと覗く形になった。

 まるで絵本に出てくる旅人のようだった。

 

「……似合うな」

 

 思わずシズルが呟く。

 ユウは自分ではよくわからないらしく、首を傾げていた。

 その様子にモンも笑った。

 

「坊やにはぴったりですな」

「だな」

 

 シズルも同意する。

 

「これにしよう」

 

 結局、子供服数着と防寒マントを購入することになった。

 支払いを済ませる間も、二人は世間話を続けていた。

 

「しかし本当に平和になりましたな」

 

 モンが言う。

 

「最近は客も戻ってきました」

「それは良かった」

「ええ」

 

 老人はしみじみと頷く。

 

「皆、安心して買い物できるようになりましたから」

「辺境じゃそういう当たり前が案外難しい」

 

 シズルが言う。

 

「誰かが守らないとすぐ崩れる」

「まったくですな」

 

 モンは静かに笑った。

 そして。

 その言葉の意味を少しだけ噛み締める。

 守った者達がいる。

 ロッタリアが平和になったのは偶然ではない。

 だがシズルはそのことを自分から語ろうとはしなかった。

 賞賛を求める性格ではないのだろう。

 だからモンも聞かない。

 聞く必要もなかった。

 やがて買い物を終えたシズルが袋を受け取る。

 

「世話になったな」

「また来てください」

「ああ」

 

 シズルは頷いた。

 ユウもぺこりと頭を下げる。

 

「ばいばい……」

「はい、またね」

 

 モンが優しく手を振る。

 二人は店を出ていった。

 ベルが鳴る。

 からん、と。

 静かな音だった。

 店の外へ歩いていく背中を見送りながら、モンは小さく目を細めた。

 長身の女性。

 その隣を歩く白髪の少年。

 どこにでもいる旅人に見える。

 だが。

 老人は知っていた。

 いや、正確には確信していた。

 ホワイトスター壊滅の裏にいたのが誰なのか。

 ロッタリアを救った者達が誰なのか。

 あの日の騒動。

 その後に流れた噂。

 そして今目の前を歩いている二人。

 全部を繋げれば答えは自然と見えてくる。

 だが、あえて口にはしない。

 賞金稼ぎには賞金稼ぎの事情がある。

 旅人には旅人の事情がある。

 それを詮索するほど野暮ではなかった。

 だからモンはただ静かに呟いた。

 

「よい旅を」

 

 二人の背中へ向けて。

 祝福するように。

 願うように。

 その言葉だけを送った。

 シズルは振り返らない。

 だが、ほんの僅かに片手を上げた。

 それが返事だった。

 老人は微笑む。

 そして再び店内へ視線を戻した。

 平和になったロッタリアの午後は、今日も穏やかに流れていた。

 

 

 ***

 

 

 ロッタリアでの買い物を終えたシズルとユウは、宇宙港区画へと戻ってきていた。

 大型商業ステーションであるロッタリアには数え切れないほどの宇宙船が停泊しているが、その中でもコフィン号はどこか異質な存在感を放っている。

 円盤状の船体。

 軍用輸送船として作られた頑丈な構造。

 そして長年使い込まれた外装。

 決して最新鋭でも豪華でもない。

 だが、シズルにとっては何よりも落ち着く場所だった。

 タラップを上がり、船内へ入る。

 気密扉が閉まり、外界の喧騒が遮断される。

 それだけで少し肩の力が抜けた。

 

「ただいま」

 

 シズルが言う。

 

『お帰りなさいませ』

 

 すぐにスピーカーから聞き慣れた声が響いた。

 

『マスター。ユウ君もお帰りなさい』

「………ただいま」

 

 ユウも小さな声で返事をする。

 ブリッジのモニターには、いつもの四角いロボット顔が表示されていた。

 シーサン・ポーである。

 その顔は普段通りだったが、どこか言いたいことを我慢しているようにも見えた。

 シズルは嫌な予感がした。

 

「何だ?」

『別に何でもありません』

「その言い方は絶対何かあるな」

『何でもありません』

「あるだろう」

『あります』

 

 即答だった。

 シズルは苦笑する。

 

「言ってみろ」

 

 するとシーサン・ポーは待っていましたと言わんばかりに声を上げた。

 

『サーペントピアスの修理費ですよ!』

「ああ」

『ああ、じゃありません!』

 

 モニターの顔が怒ったような表示に変わる。

 

『誰のせいでエンジンブロックの交換が必要になったと思っているんですか!誰のせいで主翼フレームが歪んだと思っているんですか!誰のせいで冷却系統が悲鳴を上げたと思っているんですか!』

「私だな」

『そうです!』

 

 びしりと断言された。

 ユウがきょとんとしている。

 シズルは頭を掻いた。

 レースでカルライトとの戦闘を行った結果、サーペントピアスはかなりの損傷を負っていた。

 もちろん修理は済んでいる。

 だが問題はその費用だった。

 

『ホワイトスター壊滅の功績に対して銀河連合から謝礼金が支払われました、そこまでは良かったんです。ですが修理費が予想以上に高かったんですよ!』

 

 シーサン・ポーが嘆く。

 

『結局足りなくなって借金まで発生しました!借金ですよ借金!ワタクシは賞金稼ぎの船で借金という単語を聞きたくありません!』

「大げさだな」

『大げさではありません!』

 

 シーサン・ポーはますます騒ぐ。

 

『そもそもあのエンジン停止戦法が無茶なんです!宇宙戦闘機であんなことをする人がどこにいますか!普通はやりません!』

「でも勝っただろう?」

『結果論です!』

「賞金首も捕まえた」

『結果論です!』

「ロッタリアも平和になった」

『結果論です!!』

 

 完全に意地になっている。

 シズルは思わず笑った。

 

「まあいいじゃないか」

『よくありません!』

「仕事を一つ二つこなせば返せる額だろう?」

『それはそうですが………』

「なら問題ない」

 

 シズルは肩を竦める。

 

「賞金稼ぎなんてそんなものだ」

『だからこそ心配なんです!』

「心配性だな」

『マスターが無茶ばかりするからです!』

 

 そんなやり取りを聞いていたユウが、二人の顔を交互に見ていた。

 そして不意に呟く。

 

「おかね………だいじ………」

 

 その一言で。

 船内が妙な静寂に包まれた。

 シズルとシーサン・ポーが顔を見合わせる。

 数秒後。

 どちらともなく吹き出した。

 

「ははは」

『ふふふっ』

 

 ユウは何が面白かったのかわからず首を傾げている。

 その様子がまた少し可笑しかった。

 ひとしきり笑った後。

 シズルはソファへ腰を下ろした。

 するとふと、別のことを思い出す。

 

「そういえば」

『何でしょう?』

「ユウの力の話だ」

 

 モニターの中のシーサン・ポーの表情が変わる。

 ホワイトスターとの最終局面。

 ロッタリア目前でサーベルティガーが突如停止した一件。

 あれはシズルも直接見ていたわけではない。

 戦闘中だったため、後からシーサン・ポーに聞かされたのだ。

 

「結局、あれは何だったんだ?」

『わかりません』

 

 珍しく即答だった。

 

『センサー記録を解析しましたが原因不明です。外部からの妨害信号もありません。重力兵器の類も確認できません。ですが、サーベルティガーは確かに停止しています』

 

 シズルは腕を組む。

 視線を向ける先にはユウがいる。

 新しく買った服を広げながら遊んでいるところだった。

 とても世界を揺るがすような力を持っているようには見えない。

 だが実際。

 基地では銃弾を止めた。

 ロボットを無力化した。

 そして今回は宇宙戦闘機を停止させた。

 偶然では説明できない。

 

「ガルダ党の連中は言っていたな」

『ええ』

「サイキッカー」

 

 シズルは呟く。

 

「ひねらずに言うなら超能力者だ」

『超能力ですか』

「そういう意味だろう」

 

 もちろん。

 科学技術が発達した銀河社会においても、超能力という言葉は半ば伝説扱いだ。

 映画や小説には出てくる。

 だが現実には存在しない。

 少なくとも一般的にはそう考えられている。

 

「調べてみたんだろう?」

『はい』

 

 シーサン・ポーは頷く。

 

『銀河ネットワークのデータベースも、学術論文も、軍事資料も、過去のニュースも、調べられる範囲は一通り調べました』

「結果は?」

『それらしい話は見つかりませんでした』

 

 少し間を置いて続ける。

 

『少なくとも公的に確認された事例は存在しません。超能力者の存在を証明する資料もありません』

「そうか」

 

 シズルは小さく息を吐く。

 謎は深まるばかりだった。

 ユウとは何者なのか。

 ガルダ党はなぜ彼を欲しがったのか。

 そしてあの力は何なのか。

 考えれば考えるほど疑問は増える。

 だが。

 

「まあ」

 

 シズルは立ち上がった。

 

「今考えても仕方ないな」

『マスター?』

「わからないことは後回しだ」

 

 そう言ってブリッジへ向かう。

 今は答えがない。

 なら無理に悩んでも意味はない。

 目の前のことを一つずつ片付けるしかないのだ。

 操縦席へ座る。

 コンソールが起動する。

 エンジン系統良好。

 航法システム正常。

 気密維持確認。

 すべて問題なし。

 

「シーサン」

『はい』

「出発するぞ」

『了解しました』

 

 船内アナウンスが流れる。

 エンジンが低く唸る。

 コフィン号の船体がわずかに震えた。

 宇宙港の誘導灯が点灯する。

 係留アームが解除される。

 そして。

 円盤型輸送船はゆっくりとロッタリアを離れていった。

 窓の外で宇宙ステーションが遠ざかる。

 平和を取り戻した商業都市。

 人々の暮らしが続く場所。

 やがてそれも小さな光となり、闇の中へ消えていく。

 前方には無限の星々。

 無数の航路。

 そしてまだ見ぬ仕事と事件が待っている。

 シズルは操縦桿に手を置いた。

 その隣ではユウが窓の外を眺めている。

 モニターの中ではシーサン・ポーが相変わらず何かぶつぶつ言っていた。

 賑やかではない。

 だが一人旅だった頃よりは少しだけ騒がしい。

 そんなコフィン号は静かに加速していく。

 やがて主エンジンが光を放ち――。

 小さな輸送船は、星々の海へ向かって飛び去っていった。

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