おねショタ渡り鳥銀河を征くスターエイジ・ローヴァーズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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#06

 宇宙港ブロックの空気が凍り付く。

 前方には黒服の男達。

 後方には戦闘ロボット部隊。

 左右は閉鎖された整備区画。

 逃げ場はどこにもない。

 完全な包囲網だった。

 

 そして、ゼンダの顔には余裕があった。

 勝利を確信した者の表情。

 狩人が獲物を追い詰めた時の顔だった。

 

「抵抗は無意味ですよ、シズルさん」

 

 ゼンダがゆっくりと言う。

 

「その子を渡していただければ、命までは取りません」

 

 もっとも、と彼は笑う。

 

「その保証を信じるかどうかは別ですがね」

 

 黒服達が嘲笑する。

 シズルは答えない。

 視線だけで周囲を観察する。

 人数。配置。遮蔽物。射線。脱出経路。

 サイボーグ化された脳髄と繋がった脳が高速で戦況を分析していた。

 だが結論は芳しくない。

 前後からの挟撃。

 しかも背後のロボット部隊は重武装だ。

 単独なら突破も可能だろう。

 

 しかし今は違う。

 ユウを守りながら戦わなければならない。

 それが状況を一気に難しくしていた。

 

『マスター』

 

 シーサン・ポーの声が響く。

 

『ロボット部隊の武装起動を確認。射撃シーケンスへ移行しています………!』

「分かっている」

 

 シズルは静かに答える。

 その時だった。

 赤い光が一斉に点灯した。

 戦闘ロボット達の照準センサー。

 無数の赤い光線がシズル達へ向けられる。

 まるで獲物を狙う肉食獣の目だった。

 そして、次の瞬間。

 

 ギギッ!

 

 機械音が鳴る。

 ロボット達の砲口が火を吹いた。

 

 ダダダダダダダダダダダダッ!!

 

 激しい発砲音。

 無数の銃弾が嵐のように放たれる。

 宇宙港ブロックの空気が震えた。

 金属製の床に薬莢が散る。

 火花が飛ぶ。

 普通の人間なら反応すらできない速度だった。

 

「ユウ!」

 

 シズルは咄嗟に叫ぶ。

 考えるより先に身体が動いていた。

 ユウを抱き寄せようとする。

 自らの身体を盾にしようとする。

 

 サイボーグ化された肉体なら数発程度は耐えられる。致命傷にならない場所で受ければいい。

 とにかく少年を守る。それだけだった。

 

 だが。

 その瞬間。

 ユウが震えながら顔を上げた。

 赤い瞳が大きく見開かれる。

 幼い身体が恐怖で強張る。

 そして反射的に。

 本当に反射的に。

 小さな両手を前へ突き出した。

 

「……っ!」

 

 声にならない悲鳴。

 そして、世界が止まった。

 正確には。

 銃弾が止まった。

 

「……なに?」

 

 シズルの目が見開かれる。

 発射されたはずの銃弾。

 数十発。いや百発近い弾丸。

 それら全てが空中で静止していた。

 まるで時間が凍結したかのように。

 シズルの目の前で。

 ユウの手前で。

 無数の銃弾が宙に浮いている。

 

 あり得ない光景だった。

 誰も動けない。

 黒服達も。ゼンダも。

 ロボット部隊ですら。

 一瞬何が起きたのか理解できていなかった。

 

『えっ』

 

 シーサン・ポーが間の抜けた声を出す。

 

『ええっ!?』

 

 通信回線越しに混乱が伝わってくる。

 

『な、なななななな何ですかこれ!?』

 

 シズルも同じ気持ちだった。

 目の前の現象が理解できない。

 物理法則を無視している。

 まるで、そこに何か見えない壁が存在しているようだった。

 

 だが。

 そこで終わらなかった。

 

 ユウの身体は震えている。

 呼吸も荒い。

 小さな肩が上下している。

 それでも。

 彼はゆっくりと手を動かした。

 右から左へ。まるで何かを払うように。

 小さく。弱々しく。

 しかし確かに、その手を振った。

 

 瞬間、静止していた銃弾が動く。

 いや。

 弾き飛ばされた。

 

 ドッ!!

 

 空気が爆ぜる。

 無数の銃弾が一斉に向きを変えた。

 発射された方向とは逆へ。

 ロボット達の方へ。

 凄まじい速度で。

 

「なっ!?」

 

 ゼンダが叫ぶ。

 次の瞬間、金属音が連続した。

 

 ガガガガガガガガッ!!

 

 銃弾の嵐がロボット部隊へ突き刺さる。

 装甲は貫通できない。

 だが問題はそこではない。

 狙われたのは赤く光る光学センサーだった。

 

 バンッ!!

 ガシャッ!!

 ボゴッ!!

 

 次々とレンズが砕け散る。

 監視カメラが破裂する。

 測距センサーが吹き飛ぶ。

 照準装置が損傷する。

 まるで熟練狙撃手が精密射撃を行ったかのような正確さだった。

 ロボット達が混乱する。

 

 ギギギッ!

 ガガガガッ!

 

 異常警報が鳴り響く。

 センサーを失った機体同士が衝突する。

 一機が横転する。

 別の一機が壁へ激突する。

 さらに別の一機は味方へ誤射を始めた。

 宇宙港ブロックは一瞬で大混乱に陥る。

 

『未確認現象!』

 

 シーサン・ポーが叫ぶ。

 

『戦闘ロボット部隊の光学系統が次々破壊されています!どうなっているんですかこれ!?』

 

 誰にも分からない。

 理解できない。

 だが一つだけ確かな事があった。

 

 この現象は偶然ではない。

 シズルはゆっくりと視線を落とす。

 そこにはユウがいた。

 小さな身体。白い髪。震える手。怯えた赤い瞳。

 その姿はどう見ても普通の五歳児だ。

 だが、目の前で起きた現象を説明できる存在は一人しかいない。

 シズルは息を呑んだ。

 脳裏に依頼内容が蘇る。

 ガルダ党。

 研究施設。

 コールドスリープ。

 ゼンダが欲していた「何か」。

 そこまで考えて。

 彼女はようやく結論へ辿り着く。

 

「まさか……」

 

 信じられないものを見るような目でユウを見る。

 

「君の力なのか?」

 

 ユウの肩がびくりと震えた。

 まるで怒られると思った子供のように。

 少年はゆっくりと顔を上げる。

 赤い瞳が揺れている。

 不安そうに。怯えながら。助けを求めるように。ユウはシズルの方を向いた。

 そして何も言えないまま、小さな身体を震わせ続けていた。

 

「な、何だ今のは!?」

 

 最初に叫んだのは黒服の一人だった。

 宇宙港ブロックは混乱の渦に包まれていた。

 数秒前まで絶対的な優位に立っていたはずの彼らは、今や状況を理解できず狼狽している。

 戦闘ロボット部隊は半数以上が機能不全。センサーを破壊された機体は壁へ激突し、味方同士で衝突し、警報音を鳴らしながらその場を右往左往している。

 赤い非常灯が明滅する中、火花が飛び散り、金属が軋む音が響き渡る。

 まるで制御を失った工場のようだった。

 

「サイキッカーだと……?」

「そんな馬鹿な!」

「記録では聞いていたが……!」

 

 黒服達が口々に叫ぶ。

 彼らもガルダ党残党だ。

 サイキッカー………そう呼ばれる存在そのものは彼らも知っていた。だからこそユウを求めていた。

 だが、実際に目の前でその力を見せつけられると話は別だった。

 常識が通用しない。理解を超えている。

 それが恐怖を生む。

 

「な、なるほど………想像以上に高性能ですね」

 

 その中央で、ゼンダだけはまだ冷静さを保っていた。

 もっとも、その表情は先ほどまでの余裕に満ちたものではない。

 頬が引きつっている。額には汗が浮かんでいる。

 予想外の事態だったのだろう。

 だが彼はすぐに表情を引き締めた。

 こんな所で逃がすわけにはいかない。

 何年も追い求めてきた存在なのだ。

 ユウは単なる子供ではない。

 ガルダ党再興の切り札。

 失われた勢力を取り戻すための希望。

 その執念が彼を突き動かしていた。

 

「………落ち着け!」

 

 ゼンダが怒鳴る。

 その声に黒服達が振り向く。

 

「相手は子供一人だ!」

「しかし……!」

「力を使った直後だ!今なら押さえ込める!」

 

 ゼンダの声は苛立ちを帯びていた。

 

「撃て!」

 

 右腕を振り上げる。

 

「制圧しろ!!」

 

 命令が飛ぶ。

 黒服達の目が変わった。迷いが消える。

 彼らもまた狂信者だった。

 上からの命令に従う事に慣れている。

 一斉に自動小銃を構える。

 銃口がシズル達へ向けられる。

 安全装置解除。照準固定。発砲準備。

 

「………!」

 

 だが。

 その時には既にシズルは動いていた。

 彼女はしゃがみ込み、震えるユウを抱き上げる。

 ひょいと持ち上げられた少年は驚いたように目を瞬かせた。

 シズルは左腕で彼を支えながら言う。

 

「しっかり捕まっていろ!」

 

 強く。だが安心させるような声だった。

 ユウはびくりと肩を震わせる。

 そして小さな手を伸ばした。

 

 ぎゅっ。

 

 シズルの首へしがみつく。

 細い腕が必死に回される。

 離されたくない。

 そんな気持ちが伝わってきた。

 シズルは僅かに口元を緩める。

 

「よし」

 

 そして前を見る。

 黒服達、十数人。

 全員武装済み。

 普通なら正面突破など自殺行為だった。

 だがシズルは賞金稼ぎである以前に戦士だった。

 しかも身体能力強化済みのサイボーグ。

 人間の常識は当てはまらない。

 

「撃てぇっ!!」

 

 黒服の叫び。

 次の瞬間、銃火が閃いた。

 

 ダダダダダダダダダダダダッ!!

 

 激しい銃声が宇宙港に響く。

 無数の弾丸が飛来する。

 普通なら回避不可能。

 だが………直後、シズルの姿が消えた。

 

「なっ!?」

 

 黒服達が目を見開く。

 高速移動。

 強化脚部が爆発的な推進力を発揮する。

 金属床を蹴った瞬間、彼女の身体は横へ跳んでいた。

 弾丸が空を切る。さらに一歩。もう一歩。

 左右へ。前へ。低くわ、高く。

 まるで忍者、今やフィクションの中にのみ存在する古代の超人のようだった。

 

 銃弾の雨の隙間を縫うように進んでいく。

 予測。

 反射。

 経験。

 強化された神経系。

 全てが噛み合っていた。

 

 弾丸が頬を掠める。

 装甲に当たる。

 火花が散る。

 だが止まらない。

 

「速い!」

「捕らえろ!」

「撃ち続けろ!」

 

 黒服達が叫ぶ。

 しかし既に遅い。

 シズルは懐へ飛び込んでいた。

 背中へ手を回す。

 硬質ブレードが、銀色の刃が、鞘から抜き放たれる。

 

 キィン――。

 

 鋭い金属音。

 宇宙港の照明を受けて刀身が光る。

 次の瞬間、シズルは振るった。

 斬る。

 だが人間を両断するためではない。

 武器を奪うためだ。

 

 ガギンッ!!

 

 一人目の小銃が真っ二つになる。

 

「うわっ!?」

 

 二人目の銃も切断。

 三人目は手首を叩かれて武器を落とす。

 四人目は腹部へ蹴り。

 五人目は肩へ体当たり。

 まるで嵐だった。

 黒服達が次々と吹き飛ぶ。

 倒れる。武器を失う。悲鳴が上がる。

 だがシズルは止まらない。

 目的は殲滅ではない。

 脱出だ。

 進路を切り開く。

 ただそれだけ。

 

「どけ!」

 

 一喝。

 最後の黒服を蹴り飛ばす。

 男が床を転がる。

 その先、見えた。

 

 コフィン号。

 

 宇宙港に停泊している愛機だった。

 円盤型の機体が静かに待機している。

 その姿を見た瞬間、シズルはさらに加速した。

 

「逃がすな!!」

 

 ゼンダが怒鳴る。

 黒服達が再び銃を向ける。

 だがもう遅い。

 シズルはドッキングブリッジを駆け抜ける。

 そして、コフィン号のハッチへ飛び込んだ。

 同時に叫ぶ。

 

「シーサン!」

『はい!』

「緊急発進だ!」

『待ってました!!』

 

 シーサン・ポーの声が弾む。

 直後。

 コフィン号内部の警報が鳴る。

 エンジン起動。推進炉点火。

 機体各部へエネルギー供給開始。

 振動が船体を走る。

 ハッチが閉鎖される。

 固定アーム解除。

 係留クランプ解除。

 そして………轟音。

 コフィン号は宇宙港を飛び出した。

 加速。

 加速。

 さらに加速。

 基地から離脱する。

 巨大な宇宙基地が後方へ流れていく。

 戦場の残骸が漂う宙域へ飛び出し、コフィン号は闇の中へ消えていった。

 

 宇宙港ブロックでは、ゼンダがその光景を見上げていた。

 拳を握り締めている。

 歯を食いしばっている。

 その顔は怒りと悔しさで歪んでいた。

 

「……あと少しだった」

 

 低く呟く。

 何年も追い求めてきた力。

 ようやく手の届く場所まで来た。

 それなのに。

 また逃げられた。

 しかも目の前で。

 彼はゆっくりと振り返る。

 黒服達が怯えたように立っていた。

 

「連絡しろ」

 

 冷たい声だった。

 

「各地の同志達へ」

 

 その目には狂気が宿っている。

 

「ユウを確保する。生死は問わん」

「いいんですか………?」

「必要なのはあくまで遺伝子だ」

 

 黒服達が息を呑む。

 ゼンダはさらに続ける。

 

「艦を出せ。追跡部隊を編成しろ。奴らはまだ遠くへは行けない」

 

 そして。

 ガルダ党の残党達へ向けて命じた。

 

「必ず捕らえろ。今度こそ、あの力を我らの手にするのだ」

 

 憎悪に満ちた目で宇宙を睨みながら。

 ゼンダは静かに言い放った。

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