だからこそ、歩み続けるしかない   作:もちもちおもち

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──『エルフィン』を奪ってしまって、ごめんなさい。



エピソード1 「なってしまったからには」

「──報告、ご苦労。内容は理解した。詳細の必要書類等は後程わらわのほうで確認しておく。では、本日はここまで」

 

 あたりに響く、私の解散を告げる声。その声と共に、皆が謁見室から去っていく。必ず、退室される前に私に一度礼をするのを忘れずに。

 

 誰もいなくなったこの謁見室で、ふぅと一息。女王となってから週に必ず一回あるこの謁見だけど、いつまでも慣れない。上手くやれてるか、いつも不安だ。

 

「女王様」

「! ネル」

 

 少し身体を伸ばしていると、声をかけてきたのは、この国の根幹となっている『世界樹教団』の司祭長ネル。

 つまり教団のトップであり、一緒にこの妖精王国──エルフィンランドを運営してくれてる一人でもあり……私、『エルフィン』の育ての親でもある。

 

「お疲れ様でした。素晴らしいお仕事ぶりでしたよ」

「……そう、かな。えへへ」

「ええもう! 毎週のことながら、とても女王様としての風格がありましたから!」

「ありがとう、ネル」

 

 必ず、ネルはこうして褒めてくれる。それがなんもと照れくさくて、でも嬉しくて、やっぱりちょっぴり恥ずかしい。

 

 ──だけど、きっとここで満足してはダメなんだ。

 なぜなら私は……本物のエルフィンではないのだから。

 

『トリッカル』の『エルフィン』となって、多分200年くらいは経った。

 でも実は『トリッカル』はやったことがなく、どんな作品なのかも知らない。知っているのは、もちもちほっぺなキャラクターたちが出てくるということと、『エルフィン』が中心人物的ポジションだったということ。

 

 妖精という種族をまとめる王国の女王様がこのエルフィンというキャラクターなのだ。王というからには、それらしいキャラクターであったに違いない。何せ、双子のベリータお姉さまはそういう感じの性格だったのだから。

 

 だから、私はおそらく原作でもそうであったであろう、素晴らしい女王となるために、必死に頑張っている。

 

 そしてそれが、この身体を奪ってしまったことに対する贖罪でもあるんだ。

 

「朝からお疲れでしょう? そろそろおやつの時間にしませんか? 今日はいちごケーキですよ」

「っ!……いや、いいわ。さっきの謁見で言われた資料の確認をしなきゃだし、その後は()()のところに行くから」

「ですが……お腹、空いていないですか?」

 

 ネルから問われた内容が内容なだけに、少し動きが止まってしまった。

 空腹感。正直今もかなり感じてるし、なんなら減りすぎて、苦しいまである。というか、女王となってからずっとこんな感じかもしれない。思い出せば、ここ数十年満腹になったことはないかもしれない。

 なら、少しくらい食べてもよいかも……と、甘い考えが過る。

 

 その考えはすぐに振り払った。

 こういうのは一度食べたら中々止まれないもの。下手すれば、王国の財源を多く使ってしまう。きっと本物のエルフィン女王は、欲望に負けるようなことはしないはずだ。

 

 この苦しさも、きっと身体を奪ってしまったことの罰なのだ。

 

「まだ大丈夫。ごめんね、用意してもらったのに」

「……分かりました。後で食べられるようにしておきます。夜ごはんのデザートで召し上がってくださいね」

「ありがとう」

「その……ご無理はなされないでくださいね?」

「分かってるわ。でもまだまだ頑張らないとなのよね。これくらい軽くこなさないと、理想の女王にはなれないから」

 

 本当なら、本当のエルフィンがもっと効率よく、もっと簡単に物事を成し遂げていくはずなんだ。でも魂が転生してきた私だから、きっと出来てない。それではきっと『エルフィン』じゃない。だから、頑張って食らいついていかないと。

 

「じゃ、そろそろ行くわね」

 

 背伸びもほどほどに。席を立ち、執務室のほうへ歩きだす。

 少しして、なんとなく振り向いた。なんかずっとネルが、こっちを見ていた。

 

「……ネル? どうしたの?」

「──っ! い、いえ、なんでもありません」

「そ、そう? それならいいけど……」

 

 ぼーっとしてたのかな……? ネルにしては珍しい。そういえばネルはいつ休みを取ってるんだろう?

 

 ネルは世界樹教団の運営をしながら、この国の運営も手伝ってもらってるんだ。大変なんだし、休む権利がある。今度無理矢理女王の権力でネルを休ませようか、なんて考える。

 

「ネルも無理はしないでね。じゃ、今度こそ行くわ」

「……ええ。お気をつけて」

 

 再び執務室のほうへと歩きだす。思考を切り替えて、この後待ってる仕事を想像しながら。

 

「……女王様」

 

 ──その間も、ネルがこっちを見続けていることなんて、気がつかずに。

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

「──ということで、この亜空間を使った魔法はこんな理論で出来ているってわけです」

「……うんうん、なんとなく分かってきたわ」

 

 午後19時。妖精王国にある、もう今日は閉店したとあるベーカリーのお店──の、奥にあるちょっとしたスペース。いつもみたいにそこを借りて、魔法の授業をしてもらっている。

 

 魔法。それは妖精であれば当たり前のように使える技術。言ってしまえば、息をする、歩く、食べる、寝るというように、誰にも教えられなくても出来るもの。

 でも、私は正しい『当たり前』を知らない。どうすれば効率よくなるのか、その理論はどうなのか等の知識や技術を持っていない。『本物』の女王じゃないから。

 

 女王ならば、国を引っ張る者として、全ての妖精の模倣になれる存在でなきゃいけない。知識も技術も。

 きっと『本物』のエルフィンは誰にも教えられずともそうなっていたはず。対してまだまだ未熟者だから、身につけていかないと。

 

 そういったことで、この国で一番魔法に詳しく、先生となることを快く引き受けてくれたエシュール先生に、色々と教えてもらっている。

 これが中々に面白い。理解するのはかなり大変だけど、何度も学んで、復習していけば定着してくれる。ただ一言『魔法』というだけでも多くの種類があり、理論を学んで、実践して、復習していって……。すると、段々と出来ることが増えていく。時間はとてもかかるけど、着実にものになってくれてるのがすごく嬉しい。

 

 ちなみに、最初は敬語で話していたんだけど、『流石に女王様から敬語を使われるのは畏れ多い』ってことだったから、普通の感じで話してる。でも先生は敬語で、生徒はタメ口なのはちょっと変な感じがするけどな……。

 

「はい。今日の範囲はここまでですね。今日やったことで何か質問とかありますか?」

「……んー、現状ないわ。でもいつもみたいに多分復習してると出てくるだろうし、明日もまた質問の時間もらってもいい?」

「もちろん! というか毎回言ってる気がしますが、女王様なんですから遠慮しなくていいんですよ?」

「でも、先生もお店こともあって忙しいじゃない?」

「お店よりも女王様が優先ですよ。それに私としても、こうして魔法学校で女王様の先生をさせてもらってますし、加えて色々と援助してもらってるので、もしお店が回らなくても生活には困らないんです」

 

「こうして女王に教えられることが何よりも嬉しいのですから」と先生は締めた。

 元々、先生は魔法学校をやりたかったらしい。でも妖精は大体生まれたときから魔法が使える。だから生徒なんて集まることはなく、でも夢は手放せないために施設の家賃を納めるため、趣味であったパン作りで生計を立てていたとのこと。

 

 でもそこに、私が声をかけた。授業料込みで諸々援助するから、私に魔法を教えてくれないか、と。

 最初はあんまり信じていなかったっぽい先生だったけど、私の魔法に対する姿勢を見て信じてくれたみたいで、今じゃこうして毎日のように時間を取って教えてくれている。

 

 なおお店について、それはそれでやりがいを感じてたらしく、のんびり続けてくれている。

 とてもありがたい。実際、先生の作るパンはとても美味しくて、民たちからも好評だ。それこそ、宮殿としてパンを定期購入するくらいには。

 

「じゃあ、一旦質問もないみたいですしここまでですね。女王様、この後はどうされるのですか?」

「んー、まだやり残した仕事もあるし、明日の用意もしなきゃだし、今日の復習もしておきたいし……」

「……えっと、いつものことながら大変ですね?」

「まぁ、そうかもね。でもこの程度で根を上げたらダメなの。私はまだまだ未熟な女王だから」

「……っ」

 

 今勉強してる魔法は、実務でちょっと役立つものから、戦闘になったときに使えるものまで、かなり幅広い。今のところ戦闘らしい戦闘はあまりないしたことがないから、戦闘の魔法は役に立たないかもしれないけど、この世界が『ゲーム』の舞台なら絶対いつか戦闘になるはず。なら、覚えておいて損はない。

 

 キリのいいところまで復習用のメモとかを書き終わったら、荷物を纏めて、帰る準備。この後の仕事とか復習のことを考えると、あまり時間を無駄にしたくないから。

 

「じゃあ、帰るわ。今日もありがとう先生、また明日」

「……あ、女王様! こちらを」

 

 外に出る直前、手渡される袋。すごくいい匂いがする。

 中身はパン数個。相変わらず、とても美味しそう。

 

「あぁ! ……いつも悪いわね。お店の商品なのに」

 

 先生は毎日帰るとき、いつもこうしてパンをくれる。お願いしたわけじゃないから、いつでも止めてもいいのに。でも、仕事しながら食べられるものをもらえるのは、素直に嬉しい。そろそろ空腹感を我慢出来なくなる時間帯になるから。

 

「本当に気にしないでください! 女王様に食べていただけて、きっとパンも嬉しいでしょうから!」

「……ありがとう。大切にいただくわね」

 

 手放さないようにしっかり抱えて、再び外の方へ。流石に遅い時間だからなのか、街頭しかついていないように見える。

 

 ネルは……まだ仕事中かな。ネルが頑張ってるなら、私はそれ以上に頑張らないと。あるべき姿はそうなのだから。

 

「女王様!」

 

 城の方へ歩き始めたその時、後ろから私を呼ぶ声。先生だ。

 

「……どうしたの?」

「あ……えっと、その……」

 

 何か言いづらいことでもあるのか、言葉に詰まってる様子。でも私を引き留めたってことは、私の耳に入れてほしいことのはずだ。

 

「何か困り事? なら遠慮なく言ってほしいわ。何でも言ってちょうだい。私に出来ることなら出来る限りの対応はしたいから」

「いえ、その……」

「もっと、この国をよくしたいの。きっと先生の悩みもそれに大きく繋がってくると思うから、教えてほしいわ」

「……わかり、ました」

 

 少し息を吸ったのち、まっすぐと私を見つめて、告げてくれた。

 

「女王様は、私たち国民にとてもよくしてくださってますよね」

「……ええ、そうね。それが女王のあるべき姿だから」

「だとしても皆、感謝してるんです。妖精って皆かなり自由だから、色んな問題が毎日起きます。それに対してまっすぐ向き合って解決を図ってくれる女王様のことを、皆慕ってるんです」

「えっ……?」

 

 いきなり褒められて、照れると同時に驚く。そんな風に思ってもらえてたなんて、思っても見なかったから。

 

「でもそんな女王様が、もし苦しそうにしてたら、きっと皆悲しみます」

「……先生?」

「なのでもう少し……もう少しだけ、ご自愛してくれませんか……?」

「……」

 

 言いたいことは分かる。きっと、心配してくれているんだろう。

 どうやら、先生から見れば私は無理をしているように見えたらしい。頑張りすぎてると、そう見えたらしい。

 

 でも、この『エーリアス』には『死』の概念がない。ここで生まれた皆はそれを知らない。

 つまり、過労死なんてものはないのだ。なら、無限に頑張れることに等しい。

 

 理想に近づいてる途中でしかないのに、なんで足を休ませられるんだろう。

 

「ねぇ、先生。気持ちは嬉しいわ。心配してくれてるっていうのはすごく伝わった」

「! なら」

「でもね、こんなところで止まっちゃいけないの」

 

 思い描く、理想──もとい、本物であろう『エルフィン』の姿。

 

「私にはね、『理想』があるの」

「理想……?」

「ええ。誰もが認めていて、魔法も勉学も政治も、なんでも軽く成し遂げてしまう、そんな君主」

 

 私のような不純物さえ入らなければ、きっともっと良くなったはずなのに。

『エルフィン』にも、この世界にも、本当に申し訳ない。

 

「まだまだ私は、『その人』に届いてない。だから届かせないといけないの。それが私の"償い"でもあるんだから」

「……『その人』? "償い"? あの、女王様。一体何を」

「……ごめんなさい、喋りすぎちゃった。その、気にしなくていいわ。私の問題だから」

 

「とにかく」と私は続ける。

 

「まだまだ道の途中だから、足を止めちゃダメなの。それが、私の使命だから」

「女王様……?」

「あ、もう行かなきゃ! また明日ね、先生!」

 

 時間が結構経ってしまった。やるべきことはまだまだある。少し駆け足気味に、城のほうへと戻る。

 

「……でも、あなた以外に……誰がいるんですか」

 

 別れる直前、先生が何か言っていた気がしたけど、分からなかった。きっと気のせいだろう。




偽エルフィン
『エルフィン』の身体を奪ってしまったと思い悩み、自分にできることは何かを考えたときに、本物に成ることだった。
本物は知らないが、きっとこうだろうと思い描き、それに向かって日々努力してる。
もちろん本物のエルフィンが超生意気な教主たちの愛娘であることなど、知りもしない。
お腹はずっと空いてる。

司祭長ネル
理想の女王に育ってくれたのはすごくうれしく、誇らしい。
……はずなのに、常に何かを抱えてるけど平気な顔をしている偽エルフィンが何よりも心配。
というか頑張りすぎだから休んでほしいと思ってるっぽい。食べ物で釣ってみるが、釣られなかった。
空き時間ができれば、世界樹へ女王様の安寧について祈りをささげている。

教師エシュール
女王様に魔法を教える人。最初は疑ってたが、女王様の学ぶ姿勢で本気と確信し、熱意を込めて日々教えてる。
でも仕事を多く抱えてることは知ってるため、無理はしないでほしいと思ってる。
偽エルフィンの自己肯定感の無さを見抜いてるがゆえ、褒めてから問いかけてみたが、だめだった。
女王様のいう「その人」は誰も知らない。
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