だからこそ、歩み続けるしかない 作:もちもちおもち
──どうしたら、『エルフィン』になれるの?
エーリアスには、妖精王国以外の国がある。厳密には国というか、種族の集落的な意味合いが近いところもあるかもしれないけれど、国として成立してるところは成立している。それこそ、この国以上に。
例を挙げれば……魔女の王国、モナティアム(これはどちらかというと『市』のようだが)がある。
多分だけど、表面上だけでも良い関係性を保っていないと、平和は実現できない。困ってたら協力するとかを視野に入れて貰わないと、何か起きた時に団結できない。
この世界には『死』がないから、記憶にあるような戦争みたいに生存を賭けた争いは起き得ないと思ってるから、良い関係を作ることに障壁となることはあまりないと考えてる。
だから、国交を結んだ。
そんな国の一つ、『魔女の王国』の支配者である──ベリータ女王が今日、妖精王国にやってきた。
「遥々ご足労いただき、感謝申し上げます」
「いや、ちょうど良い運動となった。たまには運動くらいせねばと考えてたところだ」
案内したのは会議室のような部屋。日常の中では滅多に使うことはないこの部屋だけど、他の種族との話し合いをするときによく用いてる。
「それにしても……妖精王国は活気がある。これも一重に、女王がよき政治を敷いているためであろう」
「ふふ、ベリータ女王も世辞が上手い。そのように清らかな言葉を口に出来るからこそ、偉大な魔女の女王として君臨し続けていらっしゃるのでしょう」
今話している私たちは実の双子の姉妹。だけど、繰り広げられる会話の距離感はどこか遠い。
こちらは敬語で、向こうはタメ口。でも上下関係があるようには感じさせないようにしてる。きっと、ネルやベリータ女王と一緒に来たフリックルも、ここに上下があるとは思っていないだろう。
それはそうだ。今はそれぞれの国の女王同士として会話しているのだから。
「さて、ここからは……ネル」
「はい、女王様。フリックル様はこちらへ」
「ええ」
ベリータお姉さまはそのままに。フリックルのみをネルに連れさせる。近衛兵も下げさせた。
これでこの場には、私とベリータお姉さましかいなくなった。
「……誰もいなくなった。その仰々しい口調はもういいだろう」
「──そう、ね。正直に言うと、慣れなくて」
「あぁ、エルフィンはその感じの方が自然でいい」
口調こそ同じだが、どこか表情が柔らかくなったベリータ女王……いや、お姉さま。
互いに着席。そして、対面する。
「さて、本題の方から終わらせようか」
「そうね。じゃあ、情報共有から」
亜空間から、紙の資料を数枚取り出す。エシュール先生から学んだ魔法の一つ。魔力の波長さえ合えば、どの場所からでもアクセスが出来るというもの。
実例がこれ。昨日執務室で仕上げた資料。その日の内にこの亜空間へ入れておいて、今こうして取り出している。これのお陰で大分便利になった。仕事の面でも、戦闘の面でも。
「各種族の動向についてね。現状、前のこの会議からどの種族も大きな動きはないわ。エーリアス……世界樹に大きな影響を及ぼしそうなことは起きてない」
「それはありがたいな」
この会議は妖精王国と同盟を結んでいて、地下で世界樹の管理に注力している魔女の王国に、地上の状況を伝えるための場。または、世界樹に影響が無いかの現状を共有してくれるための場。
妖精王国は世界樹教団を国教としており、その教義には『世界樹は神聖であるため、むやみやたらに触れるべきでない』というようなものがある。
触ったりしないと、調子を確かめることはできない。だから妖精王国では徹底した管理は出来ない。教義に反してしまうから。
当時──まだお姉さまが地上にいた頃、それでは世界樹が安全に育つための管理が出来ないと思ったみたい。
だから、世界樹が安定し続けるために根を管理するべく地下へ下ることを決意したみたいだ。
当初は教団および地上が荒れていたことを覚えてる。教団の教義に反していると。
だけどそこで、私が女王の権威で教義に無理矢理例外を作った。
世界樹の管理を担うのは『魔女』のみとする、と。
そうすることで、教義に従っていないわけではなくなる。これで一先ず落ち着いた。
「ただ、相変わらずエルフには注意し続けて欲しいわ。前にも話したように、世界樹の近辺の採掘はまだあきらめてないみたい。睨みは利かせてるけど、警戒はし続けて損はないと思うわ」
「了解した。引き続き、警戒態勢は維持しておくようにする」
「ええ、お願い。あと、細かいことだけど──」
お姉さまたち魔女は、種族全体で世界樹の管理を徹底して行ってくれている。その中で基本的に自給自足らしき文化が出来てしまったようで、地上への関心が種族全体でみるとそこまで無くなってしまったよう。
故に、誰も地上に出ず、結果として地上の状況を誰も把握していない。それでは良くないと思ったので、この場で共有するようにした。地上で何かが起きた時、お姉さまたち魔女の力が借りられないのは、ダメだと思ったから。多少でも関心を持ち続けて貰わないと、それが実現出来ないから。
「──という感じね。今月共有できるのはこれくらい」
「助かる。では、こっちからの共有事項としては──」
お姉さまも資料を取り出して、説明してくれる。
先に述べたように、現状世界樹の管理が出来るのは魔女だけ。
故に、世界樹側で何か起きた時、それをいち早く知れるのは魔女だ。魔女内だけで解決できるならいいが、そうじゃないときは私たち妖精や獣人や精霊たちも巻き込んでいかないといけないはず。その状況を知るために、こうして共有してもらっている。
聞く感じ、異常はなさそうだ。世界樹の魔力も安定している様子。とりあえずふうと一息。今月の懸念事項の一つは無くなった。
「わらわからも、以上だな。引き続き監視は続けていくこととするよ」
「いつもありがとう、お姉さま。世界樹の安定はお姉さまたちのお陰といっても過言じゃないと思うわ」
「いや、こちらこそ中々知れない地上のことを知れて助かる。他種族の動向に関しては一朝一夕で得られるものではないからな」
「役に立ててるなら嬉しいわ」
内容としては以上のようだ。なら、この場としても切り上げるべきだろう。お姉さまも忙しいはずだから。
「じゃあ……今日はこんなところかしらね? かなり時間は余っちゃったけど、ここまでに」
「待ってくれエルフィン。時間はまだあるだろう? じゃあ、少し話をしようじゃないか」
「話?」
「そう、女王同士としてではなく、ただの姉妹として、話をしたい」
「……」
珍しい。そんな気がした。
いつもはここで終わって、見送りになるのに。まぁいつもより議論する内容も無かったし、いつも以上に時間は余ってるし……気分、だったのかもしれない。
「そう、ね。中々そんな風に話すことも、なくなっちゃったものね」
立ち上がろうとした姿勢を元に戻し、お姉さまと対面する。
戻ってきた私を見たお姉さまは、どこか嬉しそうだった。
「近況報告から入ろう。エルフィン、最近はどうだ?」
「ぼちぼち、かしらね。女王としてやることはやってるつもりよ。お姉さまは?」
「同じさ。大きいことは起きていないが、少々手を焼く出来事もある。まぁ、退屈はしないな」
「……さすがね」
日々の仕事に少しの楽しさを見出だしている様子のお姉さまを、私は素直に尊敬する。私は日々の業務に追われていて、そういうのを感じる余裕がないから。
更に慣れていったら、成れるのかな。お姉さまみたいに。
──『エルフィン』女王みたいに。
「実際、ここ最近は普段はどう過ごしてるんだ? こうして話すのも久々だろう。あれからどうなったのか、出来れば教えて欲しい」
「そうね……でも、ほぼ変わってないわよ? あまり面白いものじゃないと思うけど……」
実は前にも、こうしてただの姉妹としてお姉さまと会話したことはある。でも大分前だ。多分100年以上前。
それから変わってるかどうか、気になるのも分からなくはない。でも、本当につまらないと思っている。
でも、お姉さまは静かに首を振って告げた。
「いや、わらわとしてはそういうのが知りたい。姉としてエルフィンがどう過ごしているかが気になるんだ」
「そう? なら、そうね。朝は──」
前にもした記憶がある──いや、前よりも少しだけ大変になってきている日常について、話していく。
……勿論、お姉さまに心配をかけさせるような言葉は丸々除いて。
お姉さまは、妹のことを大切に思っている。私のことではあるけれど、その私は本来『エルフィン』が受けるはずだったその想いを奪ってしまっている。
つまり本来、私はその愛を受ける資格はないのだ。だから、お姉さまからの想いを感じる度に、どこか苦しい。
でも、お姉さまからの想いは否定したくない。否定することは、『エルフィン』の受けるべき愛がなくなってしまうから。本来あるべきものがないことにもなるから。
だから、受け取る愛は必要最低限にする。無駄に心配させないようにする。間違いなく、これが最適解だろう。そもそも、こんな私のことに優秀過ぎるお姉さまのリソースを使ってほしくないというのもある。
「──って感じ。ちょっとは忙しくなったけど、お姉さまもこんなものじゃない?」
「そんなことはないさ。流石エルフィンだ」
「……ありがとう。そう言ってもらえるとまたこの後からも頑張れるわ」
「そこまでか」
お世辞だとしても、そう言ってくれるのはかなり嬉しい。
「じゃあ、お姉さまはどう? やっぱりお姉さまも忙しいのかなって」
「む、そうだな。ならわらわの方はだな──」
次はお姉さまのターン。シンプルにどういう生活をしていくんだろう、マネできるところがあったら取り入れていこうと思って聞いたこの問い。
「──……まぁ、こんなところか。エルフィンと共通している箇所もなくはないが、やはり主としている分野が異なるせいか、結構違うものだな」
「そうね。お姉さまはお姉さまで大変そうだなってことがよくわかったわ。いつも本当にありがとう」
「……おぉ。なるほどな、さっきのエルフィンの言ってることがよく理解できたよ。お陰でこの後も頑張れそうだ」
「ふふ、一緒ね」
聞いてる限り、やっぱり大変そう。世界樹の監視に注力してもらってるとはいえ、その監視が大変っぽいし、魔女の国も治めるのに一苦労してるっぽい。どこも大変なんだな。私ももっと頑張らないと。
それから、少しの間色んな話をした。実際に起きた事件やその後始末についてだったり、私がエシュール先生から教わってる魔法のことだったり。きっとお姉さまからすれば基礎の基礎だろうけど、楽しそうに聞いてくれてたと思う。
気が付けば、定例会の終了予定時刻になろうとしていた。
「……あ、そろそろ時間もいい頃合いね。名残惜しいけど、ここまでかしら」
「む、もうそんな時間か。あっという間だな」
「楽しい時間は一瞬で過ぎるというものね。また時間が出来たらこうして話しましょ?」
「そうだな……っと、最後に一つ聞いてもいいか?」
「? なに?」
ネルたちを呼びに行こうと立ち上がり、会議室から出るために扉の取っ手に手をかけた直後、お姉さまから問われた。
「エルフィン。今、幸せか?」
一瞬、ポカンとしてしまった。お姉さまから、そんな質問が飛んでくるとは思っていなかったから。
「なぁに。もしかして、何かの勧誘だったりする?」
「いや、至って真剣さ。何よりも、一番気になることだからな」
「そうなの? でもうーん、そうね……」
ガチャリ。扉を開けた後、お姉さまの方に向かって、言った。
「勿論、幸せよ」
『エルフィン』になったのだから、そうでなくてはならない。
例え、まだ『エルフィン』のようになれていないとしても。『エルフィン』が『エルフィン』のままなら、全てを完璧にこなすはずの『エルフィン』ならば、きっとこういう風に言うはずだから。
「……わらわには、そう見えないよ」
会議室を出る直前、お姉さまが何かを言っていた。多分、気のせいだろう。そんな気がした。
偽エルフィン
定期の情報交換で、世界樹の情報を得ている。何かあったときの手段はある程度用意してるらしい。
姉のことは尊敬している。姉のようになれれば、きっと『エルフィン』に近づけるはずと信じているから。
魔女の女王ベリータ
ただただ、エルフィンが心配。