だからこそ、歩み続けるしかない 作:もちもちおもち
気が付けば、彼女──魔女の王国の女王ベリータの隣にはいつも妹がいた。
同じ花から生まれ、同じようにネルに育てられ、同じ勉強に励み、同じ生活する。彼女の生活は、エルフィンと共にあった。
その様子を、ベリータはいつでも思い出せる。
ベリータにとってエルフィンは少しだけ、ほんの少しだけ理解するのが遅かった。これまでの教団の歴史や教団の聖書などの勉強をしている際、ベリータはどんな書物も一度読めば内容を把握出来ていたが、エルフィンはそうではなかった。
だけど、エルフィンは一度たりとも諦めたりはしなかった。
分からないことを分からないままにすることはなく、何度も何度も読み込んだり、ベリータやネル、その他教団の者へ聞いたりして、一つずつ確実に理解を深めていっていた。
無論、勉強以外のことに関しても同様である。エーリアスの常識を中々身に着けられなかったエルフィンであったが、覚えようと、身に着けようと努力していた。
そんな一生懸命に努力するエルフィンを見て、ベリータはどこか愛おしく感じたのだろう。もしくは、一生懸命過ぎてどこか危なっかしい妹を放っておくことが出来なかったのかもしれない。いつの間にか、ベリータはエルフィンの手助けをするようになった。
しかし、ただ手助けするのではない。エルフィンがある課題に直面し、中々解決の目途が立たなさそうな時に力を貸すようにしていた。まずは己で考えさせ、それで出来なさそうなら介入するというスタンスであった。
……ただし、幾度か力を貸したいがまだ早すぎるという理由で隠れて、その時今か今かを窺うこともあったようだが。
こんな風に、ベリータにとって幼きエルフィンは手のかかる妹のようなものであった。しかし、それだけではないのも事実である。
エルフィンは努力の鬼である。先述したように、理解できないことを徹底的に潰すよう努力している。ベリータがこれまで歩んできた旅路の中で、エルフィンほど努力家はいないと断言できるだろう。だがこれは逆に、危うさにもつながっている。己の事を、何一つ顧みないという意味にもなってしまうからだ。
事実、エルフィンは努力しすぎるあまり、食事や睡眠の時間を削っていたこともある。少なくない頻度で。
どうしてそこまで頑張るのかベリータには理解が出来なかった。本人に聞いても、「この王国の女王候補だから」という風な回答しかもらえておらず、一応理解は出来たが納得はしていなかった。何故なら、努力する意味は理解できるが焦らなくてもよいと考えていたためである。
当時の妖精王国には、強力な指導者はいなかった。強いて言うなら世界樹教団の司祭長ネルが一番の権力者であったが、政治はほどほどという形でしか扱われておらず、民も割と自由に暮らせていた。
そう、暮らせていたのだ。ネルが受けた世界樹からの啓示を受けて自分たちが育てられているとはいえ、急いで女王を立てて行かないといけないほどにこの国は、教団は貧しくない。なんならこれから先、女王などいなくてもこの国自体は回そうと思えば回せるだろう。
つまり、何も焦る必要などないのだ。仮に今とあることが出来なくてもいずれ出来ればいいし、極論出来なくたって誰にも強い文句は言われないだろう。
なのに、現実としてエルフィンは焦っているように見える。何故なのか、理由が分からなかった。
当初、ベリータは自分がいるからそうなのではないかと感じた。客観的に見て、ベリータは優秀である。エルフィンが時間をかけて習得することを、ほぼ一瞬で習得する(運動技能を除いて)。エルフィンは己と比較して劣等感を感じているから頑張るのではないかと感じたのだ。
だがそれにしては、エルフィンがベリータを敵視していなさすぎる。若干それらしき目線を送ってくることがないわけではない。しかし、普段は普通の家族としての目で話してくれるし、なんなら素直な尊敬の念が混じっているのではないかというほど。加えて、この尊敬の眼差しは強すぎるものでも、弱すぎるものでもなかった。
であれば、「自分も頑張らないと」というポジティブな意味で努力を続けているのだろうか? けれどそれにしては、努力するエルフィンはベリータから見てどこか苦しそうに見えていた。きついなら辞めてしまってもいいはずなのに、決してその選択を取ることはない。ならば、何か別の理由があると考えるのが自然であろう。
結局、ベリータは今の今までエルフィンが努力を続ける理由を知らない。考えても考えても納得できる理由はないため、一旦考えることを止めた。
とはいっても、過剰気味な努力をし続けるエルフィンを放っておくことはできない。そこで、ある策を打った。
案としては非常にシンプル。『やりすぎとベリータが判断したら、中断させ無理やり休憩させること』である。これがかなり効果的であった。最初は少々手間のかかっていたが、続けていく内に無茶な努力はしないように、適度な休憩を挟むようになっていたのだ。それこそ最終的にはベリータが直接見に行かずとも、である。
効果が出たことでベリータは安心した。理由はわからずとも、とりあえず無理はしないようになったからである。まぁ、まだ少々見てあげていた方が安心できるとも考えていたようだが。
これによりさらに余裕が生まれ始め、年月とともにベリータの関心は徐々に内側から外側へ移っていった。
抱いた関心は二つ。
『ツノ付き妖精と翼付き妖精同士の対立問題』と『世界樹の管理について』であった。この二つは独立した問題ではなく、関連している内容である。
同じ妖精でありながら、ツノ付き妖精と翼付き妖精ではほぼ別種族というように、姿と知能、性質に差があった。姿は名称の通り片方はツノを持ち、もう片方は翼を持つ。知能はツノ付き妖精の方が高い傾向だった。性質として、ツノ付き妖精は少々気荒いところがありつつ探求心が強めであり、翼付き妖精は温厚で楽観的でありつつ保守的傾向がある等々。不思議と互いに正反対な特性を持っていた。
そんな妖精らが対立している理由が、第二の問題である『世界樹の管理について』である。
当時、世界樹は世界樹教団によって聖なるもの、触れられざるものとして扱われていた。触られることで汚れてしまい、力を失ってしまうことを恐れていたためである。これは従来からの伝統であり、教団はこれを規則によって徹底していた。破った者にはかなり重い罰則を与えるほどに。
しかし、それは世界樹の管理が誰によっても行われていないことを示していた。きちんと育っているか、何か異常はないか、魔力は正常であるかなどの確認は誰によっても行われていなかったのだ。
それはよろしくないのでないかと考えて声を挙げていたのが、ツノ付き妖精の上位者である。伝統は理解できるが、世界樹の管理だけは最低限でも行うべきではないかと主張していたのだ。これにツノ付き妖精の賛同者が多く集い、主張を繰り広げていた。
これに、翼付き妖精は反対。いきなり始める管理によって世界樹が汚れてしまったらどうするのだ、と変化を嫌う状態になっていた。
これが、長年続く対立の構造。両者世界樹のためを思っていることであるため、表立っての対立は起きていないものの、にらみ合いが続いているという状態であった。
ベリータはこの問題に関心を抱いていた。ツノ付き妖精側の立場として、である。
自身もツノ付き妖精であるから同じ結論に至った、というわけではない。そもそも幼い頃から受けてきた教育の中で、疑問に思っていたことであったのだから。
世界樹はエーリアスを創り、支えている。これは教団の教えに傾倒しているから来る考えでなく、実際に外に出て、目で見て魔力を感じて、改めてそうであると認識したものである。元来、そのような教えやフィールドワークが無くても、生まれてからなんとなくそうであると感じてはいた。これはベリータだけでなく、エーリアスで生まれた者全てが持つ共通の思考だ。
そのため、世界樹に異常が起きればすぐに対処できるようにしようと考えることが自然なことであろう。
翼付き妖精としても、世界樹が万一枯れてしまうのは本意でないはずである。ならば、どこか落としどころがあるはずであると考えていた。
ベリータはツノ付き妖精らの元へ行き、話をするようにした。最初は教団から来たというところでそこまで信頼されていなかったが、ベリータの持つ素晴らしい話術、そのカリスマ性により、気が付けば指導者のような立場になっていた。
同じ考えを持つ者同士と会話し、やはり世界樹には管理が必要であると結論づけたところで、最初はエルフィンに話した。理解は示してくれたが、中立の立場になることを選んだようだった。出来れば同士になってほしかったようだが、それも一つの道だろうとしてこれ以上の言及しなかった。
次に、司祭長ネルと会話する機会を設けた。議題は勿論、世界樹の管理についてである。これが出来るようになれば、妖精同士の対立の要因も消える。世界樹も安定しやすくなる。良いことずくめである、とベリータはこれでもかとアピールした。何せ、当時この王国の実権を握っているのはネルであったから。
『……えぇ、理解しました』
『あぁ、ありがとう。ネルならば理解してくれると思っていたよ』
『はい。そうですね。理解はしました。……しかし、頷くことはできません』
けれどネルから返ってきた返答は、否定であった。
『ど、どうしてだネル!? 理解したんだろう? なら、断る理由なんて……』
『そう、ですね。管理することで世界樹は長く存続しやすく、これによって長年続いてる争いを止める事にも繋がる。とても良い手だと思います。……
『ッ、そうか……!』
『はい……司祭長としては、
司祭長とは、多くの司祭、さらに言えば教団の頂点にいる者。つまり、教団全体の意志である必要がある。そのため司祭長の決定は、大きな責任が伴う。簡単に物事を動かすことは中々に出来ないのである。
……それこそ、教団の殆どが納得している状態でなければ。
『……ごめんなさい、
『……いや、理解はしている。いきなりネルに行くのではなく、徐々に行くべきだった。この時間をもうけてくれて、感謝する』
『いえ、気にしないでください。……大きくは言えませんが、応援しておりますから』
『それで今は十分だ』
そう、時間はあるのだ。ゆっくり時間をかけて徐々にこの考えを浸透させていき、翼付き妖精らの考えを改めさせればよい。最終手段としてベリータ自身が妖精王国の女王となり、権威の元に管理体制を進めればよいのだから。
まぁ、ベリータ自身は直接管理することに対して関心が強く、妖精王国の女王となればそれが出来ない可能性の方が高いためあまりやる気はなかったが。また、その頃は超優秀になってきており妖精女王になることの関心が強いエルフィンもいるし、何より無理矢理政策を進めることは更なる対立を招きかねない。本当に最終手段でしかなかったが。
──だが、そうもいってられない事態がベリータ……だけでなく、ツノ付き妖精の上位者らに直面する。
未来の予言。これが妖精王国に眠る古い文献から発見され、さらにそれを知らない少々特殊な能力を持つ者も、文献と同じことを言い始めたのだ。
『いずれ世界樹が崩れはじめ、そのままエーリアスが滅びる』と……。
最初はあり得ないと断じられた。しかしその文献は今辿っているエーリアスの歴史を何故かほぼそのままなぞらえているし、言葉を発した者はこれまで多くの事を言い当てているし、皆を不安にさせるようなことを言ってふざけるような者でもなかった。
またその時は世界樹が管理されていないため、その崩れがいつ来るか分からない。文献にもその者も、明確な時期は不明とされていた。
エーリアスが滅びるという根拠としては限りなく弱いが、早く管理体制を作った方が良いという意見はこれを受け活発化した。
ベリータ自身は時間を掛けていくべき考えていたが、急ぐべきと声を挙げる者の意見も理解していた。どうすればよいのかをずっと考え続けていた。
だが良い考えはまとまらず、現状維持となってしまっていた。
そのうち、段々と妖精同士の争いも酷いものとなっていた。
ただのにらみ合いであったのが、一部の恐怖心を煽られたツノ付き妖精によって声を大きく挙げられてしまい、それに呼応するように一部の翼付き妖精が反応する。
最初はただの喧嘩であった。しかし徐々に、見てられない内乱へと発展していってしまったのだ。
ベリータは争いを収めようとした。ネルも同様である。
しかし、それぞれ立場がはっきりしている者たち。逆に火種となってしまっており、争いはさらに激化してしまっていた。
最早手が付けられなくなったこの争い。誰にも止めることが出来ないのか──と、思われていたその時。
『──聞きなさいっ! 民たちよっ!!』
争いがぴたりとやんだ。その声の主の方へ、皆が顔を向けた。
『宣言するっ! この国──妖精王国をはただいまを持って『エルフィンランド』と命名し、このエルフィンが治めるっ! そしてこの争いは、妾の名のもとに終結とするっ!!』
エルフィンだ。その頭には王冠があり、非常に凛々しく、とても勇ましい。
『そして、女王として宣言しよう。教団の規定に"例外"を加えるっ!』
告げた改正案は、『世界樹の管理は"ツノ付き妖精"の一部のみとする』ことであった。
ただし、対象の"ツノ付き妖精"が誰なのか、どのような手法で管理するのか、については事前に教団および王国(女王)の同意を得る必要があり、定期的に結果を報告し秘匿される情報はあってはならない、という条件付きで、だ。
そして仮に何かあれば、全ての責任を"エルフィン"が担うことも、合わせて告げられた。
誰も、その発言に逆らうことはなく、静かにその様子を見ていた。
受け入れていた。
『──以上っ! 皆、武器を捨て日常へ戻ることっ!!』
それを告げた後、くるりと翻して姿を消した。
その後一人、また一人が武器を捨て、これまでのいつも通りへと戻っていく。
ベリータは、その光景を夢ではないかと少しの間考えていた。さっきまで激化の一途をたどっていた争いがぴたりと止み、求めていた日常が返ってきたのだから。なんならむしろ、目に見えた対立は消えており、平和に戻ったと言ってもいい。
少ししてこれが現実だとようやく理解したベリータは、エルフィンの元へ駆けた。
姿を消したエルフィンは、物陰にて壁に寄りかかっていた。かなり疲労していた。
その後すぐにネルも来たため、二人でエルフィンを支えるようにして、教団本部への歩みを始めた。
『……ありがとうエルフィン。お陰で、やる必要のない無駄な争いが終わった』
『私からも言わせてください。本当にありがとうございました』
『そう……? よかった……。ごめんね。あんなのはじめてだったからかなりきんちょうしてたみたいで、ちょっとつかれちゃったみたい……』
まだ若干、肩で息をしてるエルフィン。
ベリータは、ただ誇らしかった。とても嬉しかった。かつて手がかかって、無茶するような子であったにも関わらず、ここまで立派になったのだから。
『もっと、はやくこうするべきだった。ごめんなさい』
『謝る必要なんてどこにもない。結果的に争いは終わった。それでいいじゃないか』
『でも、もっとはやくすればおねえさまやネルがケガをしなくてすんだ』
誰も悪くない。ただ、諸々重なった結果だ。それで済ませられる話だ。
そう告げようとした際、重ねるように、エルフィンは"宣言"した。
『でも──もう、間違えない。これから女王としてやっていくから。だからお姉さまは、管理の方に注力して? この国は、私がなんとかするから』
『……あぁ』
力強い宣言。その宣言を聞いてしまえば……もう、迷いは無くなった。
エルフィンはもう大丈夫。自分は、自分のやるべきことをやり始めてよいのだ、と理解できた。
そこからは早かった。世界樹の管理の計画と、世界樹の管理を行える者──『魔女』の選定。
結果報告の方法まで、完璧に提案資料を作成し、無事に教団、およびエルフィンからの承認を獲得。承認を得た後、『魔女』らは妖精王国を離れ、より世界樹の根本を管理すべく地下に拠点を築いた。そして拠点の名を、魔女の王国『ベリティエン』とし、新たに別の王国としてスタートしたのだ。
諸々課題はあったものの安定していき、当初の目的であった世界樹の管理も、徹底して行えている。
そして、内容を定期的に妖精王国へと報告、という今の形が実現していったのである。
全て順風満帆だった。世界樹の管理が開始され、現状まで問題らしい問題は起きていない。
妖精王国との仲も良好。エーリアスに住む各種族の動向も、魔女の王国で調査した内容以上のものが共有されており、仲は非常に良好を保っているおかげでほぼ対策案を立てなくてもいいし、立てるとしてもほぼエルフィンが求める対策案を持ってくる。ベリータとしては一応内容を聞いて了承するだけになっている。
ただ唯一の気がかりは──やはり、残してきた妹のエルフィン。
女王としてもう大丈夫だとあの時から分かってはいるものの、やはり肉親であるため、心配になるのも必然。定期的な報告及び交流の場で会うことは出来るが、とはいえ毎日見ているわけではない。正直大丈夫だろうとは思っているが、一応確認しておきたいと考えていたのだ。
そのため無理矢理一日休みをもぎ取り、エルフィンの様子を見に行く機会を設けた。
ただし、妖精王国側の誰にも言わないでのことであった。やっぱり大丈夫だということが確認できれば、それで帰るつもりであったから。
変装し、こっそり王宮(旧教団本部の一部)に入り、エルフィンを探した。
九割九分、問題はないと考えていた。何せエルフィン自身がそう言っていたのだし、特に報告も聞いていない。そのため、今の自分のように、日々書類に追われつつも楽しく生活しているのだろう、と。残り一分はする必要のない心配。これで確認できれば、ようやく肩の荷を下ろして妖精王国を任せられるだろう、と。
そう思っていた。
扉が開いていた執務室内で、苛立ちの混じった何かをブツブツ呟きつつ、頭を抱えながら書類に向かっていたエルフィンを見かけるまでは。
肩は重力に負けたように落ち、背中は椅子へ沈み込む寸前まで丸まっている。時々両手で頭を抱えることもあり、深く息を吐いていた。かなり、呼吸は荒く聞こえる。
この光景に、ベリータは見覚えがあった。なんならその時より苦しそうに見えた。
これは、『何か』に怯えて焦りながら無茶をするエルフィンだ。
何がエルフィンを"こう"させているのか、皆目見当は付かなかった。なにせ、全てが上手く行っていた。何も悪いことなどなかったのに。何一つ問題などないはずなのに、どうしてそんなに辛そうなんだと。
『エルフィンッ!!』
『! だ、え、お姉さまッ?!』
こちらへ向いたエルフィンの顔もかなりひどいものであった。酷い隈が出来ている。肌もどこか荒れており、食事をまともにとっていないことが窺えてしまうほどに。
『あ、やば、顔が』
『エルフィン、なんで、そなたは、なんで……ッ!?』
『お、落ち着いてお姉さま! こ、近衛兵! 近衛兵っ!! お姉さまがいらっしゃったわ! 客室へ案内して頂戴!!』
すぐに近衛兵がやってきて客室に案内されるまで、ベリータは少々冷静でなかった。
少し強引に連れて行かれ客室で一人になり、やっと少しだけ落ち着いた。
『失礼します。お久しぶりです、ベリータ様』
『ネル……ッ!』
だがネルを見た瞬間湧き上がる怒りと悲しみ。
思わず詰め寄ったベリータ。衝動に任せた結果、胸ぐらをつかんでいた。
『ネル、そなたがいておきながら、何故エルフィンは……ッ!!』
『
……ひどく、重たい声だった。そこにある感情は怒りではなかった。
『……すまない。少々取り乱した』
『……お気持ちはわかります。私も同じですから』
『エルフィンは』
『キリがよくないそうで。すぐ来るとおっしゃっておりましたが、少しかかるかと』
『……そうか』
空気は重い。だが、問いかけるしかない状況。
『……教えてくれ、ネル。わらわが地下へ行った後のことを』
『……はい』
そこで、聞かされてしまったのだ。
そして気が付いた頃には、そんな無茶をするエルフィンがいなければ、回らなくなってしまっていることを。
『私としても、どうにかしたいのです……! しかしそれでは、もう王国が、エーリアスが……ッ!』
『……あ』
ぐらり、と身体が揺れる感覚を覚えるベリータ。
"無茶していることが察せられにくい工夫をしつつ"。何故エルフィンはこんな技術を身につけられたのか?
そこで思い出してしまう。かつて、エルフィンが無茶しないように行った対策を。
『っあ、あ』
効果は、絶大だった。見かけでは分からないくらいに。
──もし、それがただ"隠されていた"だけだったら?
『わらわの、せいだ』
言葉に出してしまえば、もう意識せざるを得なかった。
『わらわが、そうさせたんだ。わらわが、わらわが……!』
『お姉さまが、どうかしたの?』
顔を上げれば、知っている顔色のエルフィン。これも、多分魔法。
『来るなら言ってくれればもてなししたのに。今日はどうしたの? ……もしかして、何か世界樹に問題が?!』
『いや! ……なんでもない。なんでもないんだよ、エルフィン』
そうだ。なんでもないはずだったのだ。エーリアスは平和で在り続けているんだ。
妹を犠牲にして。
『エルフィン、教えてはくれないのか。何がそなたをそうさせているのか。わらわじゃ、ダメなのか』
『……えっと、なんのこと? お姉さま疲れてるんじゃ』
『とぼけないでくれ! さっき見たぞ、あの顔はなんだ。なんでそんなになるまで』
『そんなのあったかしら。だってほら、今なんともないわ』
『それは!!』
『ベリータ様ッ!!』
止められてしまった。まさかの、ネルに。
『……女王様がお困りです』
『! ネル……!』
悔しそうな、表情だった。
『……多分、疲れてるのねお姉さま。あと本当に申し訳ないけど、まだちょっとやることが残ってるから、私は抜けてしまおうと思うの。ネル、後は任せてもいい?』
『……はい。わかりました』
『ありがとう! じゃあお姉さま、ゆっくりしていってね!』
立ち去るエルフィン。どちらも、動くに動けないでいた。
『……ネル』
『女王様は、今のように在ることをお望みです。それに、現状の方がエーリアス全体は平和であり続けます』
『だからといって』
『ベリータ様、ここからは、ただのネルとしての言葉です』
静かに、そして懇願するように。ネルは告げた。
『女王様がベリータ様とお話される際、ほんの少しだけやわらかくなります』
『!』
『女王様が何をお考えになっているか、何を思って動かれているのか、私には分かりません。ですが、女王様には幸せでいて欲しい。だから女王様の在り方は否定したくない。なので……私に出来ることは、お願いだけです』
ベリータの方へと向いたネル。数滴、しずくが落ちていた。
『姉妹として接する時間をたまにつくっていただけませんか。それが、女王様には必要だと思います』
数秒の沈黙。その後に、ベリータは声を出した。
『わかった。それが、エルフィンの望む形なら』
──────
「時にだ、フリックル。エルフィンをどう思う」
「女王エルフィン様ですか。……言うまでもありませんが、非常に卓越したお方かと」
「そうだろうそうだろう。エルフィンは凄いんだ。それこそ、わらわ以上にな」
「! ベリータ様より上はあり得ません! 並んでる……ことは、認めますが」
「ふふ、ありがとうフリックル。……さて、そろそろ妖精王国だな」
一人、ベリータは思う。
今日は、ただ話せるだけの時間があるかなと。あるなら、話したいことはいっぱいあるんだ……と。
以下、作者コメント
今更ですが、今回は独自解釈・独自設定を多く積んでおります。
不快な思いをさせてしまった場合は、大変申し訳ございませんでした。