だからこそ、歩み続けるしかない 作:もちもちおもち
──上手く出来ているといいな。
月に一度、私は森に身を投じる。
ここはいつも暖かく、ゆっくりと過ごすには最適な場所であろう。ただ、初見の場合少々迷いやすいのは難点であるが。私も本当の初見は迷ってしまっていたが、今はもうすっかり慣れたため、足を止めることなく先へ進める。
ここは妖精王国の郊外にある、獣人という種族が集落を形成し住まう場所。
獣人は狩猟採取で食料を確保しており、良くも悪くもかつての妖精のように閉じた環境で生活をしているようであった。
かつての妖精と獣人の関係性は、互いに干渉しない隣人であった。妖精は妖精で生きてきた、獣人は獣人で生きてきた。もし見かけたりすることがあっても、そこで終わり。深く干渉はせず、互いに別々の暮らしをしてきた。
だけど、それではダメだ。
私はこの世界が創作の世界であることを知ってる。具体的にどういう話なのかは知らないけれど、創作であるならばとんでもないトラブルが起こってもおかしくない。
それこそ、世界が壊れるなんてこともあるかもしれない。
考えすぎと思うことだって出来るかもしれない。だけど、この思いを後押しする出来事がある。
──世界樹の崩壊。
魔法の才が誰よりもあったその者が残した未来の言葉。その者とは関係のない誰が残したのか分からない文献。それらから出てきた共通の内容。
当時は世界樹の管理が何一つされていない状態だったから、このままだと何が起きるか分からないという警鐘の意味での予言だったのかもしれない。
だけど、無視できる要因ではないのは確かだ。現実だけど、創作された世界だ。何が起こってもおかしくない。
もし近いような出来事が起こったら、妖精や魔女、エルフだけでは何も出来ないだろう。
故に必要なのだ。
すべての種族と、獣人と交流を深めておくことは。
「──あ、妖精の女王さん!」
歩を進めて行く最中、こちらのほうへやってくる気配が一つ。
その者は私に気がつくと手をブンブン振ってくれた。手元で小さく、私も振り返す。
「お久しぶりですね、バターさん」
「えへへ、久しぶりです! そろそろくると思ってたけど、あってました!」
「おお、すごい。ぴったりですね」
「はい! ここ最近毎日きててよかったです!」
「……」
この子はバターさん。この森に来て初めて出会った獣人。物凄く人懐っこい性格のようで、元気な幼子そのものといった感じ。元気すぎて、誰か保護者がついてないといけないのではと心配になるくらい。
「そうだ、お土産です。お一つどうぞ」
「やったぁ! おやつ大好きです! いただきます!!」
渡したのは妖精王国で製造しているお菓子。ここへ来た時に毎回渡しているもので、出来るだけ甘さを抑えたものに絞って持ってきている。妖精基準だとどうしても甘さが強くて他の種族が好まさなそうだからだ。
「へへ~、女王さんはおやつをくれるから好きです!」
「ふふ、ありがとうございます。では、今日も村長殿のところまでご案内していただけますか?」
「はい!」
毎回のことだけれど、本当においしそうに食べてくれる。妖精基準にしなくて本当に良かった。
実は毎回味を変えている。獣人の好みを知っておければという思いがあるためだ。
今のところ、これは嫌だと明確に言われたことがない。全部好みだったりするのかな。バターさんが特別でなんでも食べてくれるだけかもしれないけれど。
「最近の村はどんな感じですか?」
「最近ですか? 毎日楽しいですよ!」
「あら、そうなんですね」
「そうです! この前コミーと一緒に遊んでたら──」
バターさんの直近であったほほえましいエピソードを聞きつつ、獣人の間であまり大きな変化はなかったことに安心する。
一応、別の情報網があるので、ある程度獣人の間で何があったかの概要は把握しているつもりだけど、現地の方の話は事実だけじゃなくて思いも聞けるのでかなり重要。
よく話す獣人の方々はあまりいないので、こうして話をしてくれるバターさん、そして村長
……それにしても、バターさんのお友達らしいコミーさん、はちょっと変わってる方っぽいのかな?
ところどころでバターさんがコミーさんにからかわれてるっぽいエピソードがお出しされていて、ちょっとどころかかなりバターさんが心配になる。純粋すぎて。
一応、何か困ったことがあったら相談してほしい旨を伝えておくようにした。なんか毎回やってる気がしなくもない。
と、そうこうしているうちに到着した。もうすっかり見慣れたお家に。
「あ、着きました! ディアナ村長のおうちです!」
「ありがとうございます。おかげで無事につけました。これ、お礼です」
「あ、またおかし! ありがとうございます!! じゃあ、あたし行きますね!」
「えぇ、今日もありがとうございました」
バターさんへのお礼用のおかしを渡し、別れも済ませてディアナ村長の家の扉の方へ。
3回ほどノックをし、反応をうかがう。
『はーい?』
「お久しぶりです、ディアナ村長。エルフィンです」
『あら、もうそんな時期ですか。少し待ってくださいねぇ』
数秒、その場で待機。その後、扉ががちゃりと開けられた。
「どうも、エルフィン女王さん。毎月来てくださってありがとうございますねぇ」
「これは我々妖精の……いえ、私のわがままですから」
「ふふ、さぁどうぞ上がっていってくださいな」
「失礼します」
ディアナ村長。このあたりで一番大きい集落の長をしている者。獣人の中では一番といっていいほどに賢い方だと思っている。
最初、獣人はバターさんの印象が強くてどこか幼いものだと認識していたため、このように『大人』な獣人と出会ったときは少々困惑した。まぁでも、長であるからには『大人』でなきゃできないとも思い、すぐに納得もしたけれど。
「こちらにかけてくださいねぇ。飲み物はいつものでよいですか?」
「はい、お願いします」
案内された席に腰かけしばし待つと、カップを二つ持ってディアナ村長はやってきた。
私の向かいの椅子に座られ、机を挟み対面する形へ。そしてカップの一つを私の近くへ置いてくれた。
「どうぞ、召し上がってくださいねぇ」
「いただきます」
中身は牛乳。妖精王国にも牛乳はあるが、自国のものよりも甘さが控えめのものにはなるが、その分コクが深いものになっている。
「……うん、おいしいです。やはり格別ですね」
「ふふ、そうですかぁ。女王さんが毎回美味しそうに飲んでくれるので、これが他の妖精の好みではないというのが本当ではないんじゃないかと思ってしまいますねぇ」
「うふふ。でも本当なのですよ。他の妖精からしたら、この牛乳は甘さ控えめ過ぎると評されちゃいます。私からすれば非常に好みなのですけれども」
「気に入っていただけているのは嬉しいですねぇ」
さて、アイスブレイクもほどほどに。
一度カップを置いて、改めてディアナ村長のほうへ。そして深く頭を下げる。
「毎月のことにはなりますが、お忙しい中このような場を設けていただきありがとうございます」
「いえいえ、獣人と妖精の仲を深めたいという思いは同じですから。むしろ毎回来てもらってありがとうございますねぇ」
「こちらからしても、おもてなしをしてくださりありがとうございます。こうしてお話させていただけること、大変嬉しく思います」
毎回のように伝えている、いつも通りになってしまったこの感謝の言葉。だけど、伝えないわけにはいかない。この時間は相手の時間をもらっているわけであるから。
「それでは、いつも通り情報共有をさせていただければと思います。ここ1か月で発生した大きな出来事はありましたか?」
「いえ、特に大きなことは起きていないですねぇ。いつも通り平和でした」
「──それは何よりです。平和が一番ですから」
抱いた感情は安堵。毎月同じ答えをもらっているが、毎回同じ感情が発生している。
妖精を頼ってもらえていないのではなく、妖精に頼るほどのことがまだ発生していないからだと思えるから。
こんな感じで、資料ベースであったエルフとの会合とは異なり、獣人の長との交流は会話ベースだ。
あくまで進捗確認の場ではなく、会話して交流を深めていくための場であるためだ。
基本的に互いの種族のことをざっくばらんに話をしていき、大体1時間ほどで毎回終了する。
「妖精王国の方はいかがでしょう?」
「王国の方も特に……いえ、まったく変化していないわけではないですね。つい最近ですが、『劇場』を立てる計画がスタートしまして」
「ふむ……『劇場』、ですか?」
「えぇ。
「ほう、エルフの……」
「どのようなものが完成するのか、の計画についてはすべて目を通して、変なところがないかについては確認してます。完成され次第、ディアナ村長含めた各村の長殿を招待する想定です。もしそこで抱いた感想などを、村に住む方々へお伝えいただければと思います」
「おやおや、それは楽しみですねぇ。エルフが作るものとのことで少し思うところはありましたが、女王様がみていらっしゃるならば問題はないでしょうねぇ」
「ありがとうございます」
外来種である『エルフ』を警戒することは、原住民としては正常だ。
だけどこの世界に来た以上意味があるはず。強めの思想を抱いている節はあるけれど私が徹底管理もしているしで暴走することはないため、各種族から見たら穏やかに見えるはず。しかも問題解決に対してエルフが関わらせている。
そのため、エルフと各種族間の関係もある程度よくなってほしいという狙いもあるのだけれど、まだまだ時間はかかりそうだ。
「そうだ、『アニマル缶』の方はいかがでしょう?」
「あぁ、そうですね。何かあった際の非常食として、常に保管させていただいておりますよ」
獣人の暮らし方は狩猟採集。木々や鉱物から肉や魚を取って、それを食べて生活しているみたいなのだが、自然に依存するため、中々取れないときもあるのだそう。加えて、弱肉強食の世界でもあるようで、せっかく取れたとしても他の獣人から肉や魚を取られてしまい、食べるものがないということになる事象もなくはないのだとか。
その課題を受け、私がエルフと協力して提案・作成したのが『アニマル缶』。ほとんどの獣人の好みに沿うような味に設計していて、容量も一般的な獣人のお腹を満たすのにちょうどよい量のご飯が入っている。味については、各村ごとに違う可能性もあるため、各村の長たちに協力して研究したものになっている。
ただ、むやみやたらに配るわけではなく、いつ誰に渡すのかというところについては、各村の村長たちに任せている。想定しているのは、本当に食べるものがなくて村長の家に住民が訪ねてきたときに村長から提供される状況とか、災害が発生した場合の食糧難の際に各村の住民に渡される状況とかである。
各村に食糧庫はもちろんあるが、保存期間に関してはアニマル缶がかなり勝っているため、十分差別化はできていると思う。
またアニマル缶を村長殿から住民らへ提供する際、住人には出来るだけアニマル缶という名称も伏せてもらい、村長の家にある食料がない時の最終手段として認識してもらうようにもした。
理由としては、村長の家に行けば簡単にアニマル缶が手に入るということを学習してしまえば、獣人の狩猟採集文化がなくなってしまい、自然のサイクルが崩壊して、最悪の場合村が崩壊するという可能性を防ぐためだ。
「それは何よりです。実際にご利用をされたり等は?」
「えぇ、幾度かありますよ。やはり時期によって依存しますからねぇ」
「ふふ、それであるならば、お役に立てているようで何よりです」
余計なお世話じゃないのか、と思うときもあったから、実際に役立ててるようでうれしい。
こんな雰囲気で、情報の共有やそれに関連したちょっとした雑談をし続けた。
ディアナ村長は獣人の中ではトップクラスに頭が回る方なので、言葉選びに関しては正直エルフの時よりは慎重に行わなきゃいけないから、変に失言してしまいそうで怖い。だけど今のところそういったことはしていないようだし、順調に交流を進められているようで、ほっとしている。
「──と。おや、そろそろお時間ですかね」
「あら、もうそんな時間でしたか。時が過ぎるのは早いですねぇ」
「えぇ、私もそう思います。名残惜しいですが、そろそろ戻りますね」
「今月もありがとうございますねぇ。またお願いします」
「こちらこそ。とてもおいしい牛乳も、ごちそうさまでした」
立ち上がって軽く身支度を済ませ、ディアナ村長の家を後にしようとする。
今月も乗り切ったと、ほっとして帰路に就こうとしたとき、「あぁそうだ」と止められた。
「次回は、後継者候補の子をこちらに連れてきてもよいでしょうか?」
「後継者候補、ですか?」
言われてから再認識したが、ディアナ村長は大分歳を取っているようだった。事実、杖をつき、腰は丸まっている、まさにご老人のよう。エーリアスにいるため死の概念はないため、勝手にこの村の長はディアナ村長から変わることはないのかなと思っていたけれど、そうではなさそうだ。
もしかしたら、獣人は他種族と違い、老いが早いのかもしれない。
……ネルも、いつか老いるのかな。内心一瞬考えてしまったが、一旦考えないようにした。
「差し支えなければ、お名前の方をお伺いしても?」
「『ティグ』といいます。まぁ、今はあの子も幼いですし、教えることもまだまだありますので、しばらく引退は出来ませんがねぇ」
「そうなのですか。ディアナ村長がお選びになっているのですから、とても素晴らしい方なのでしょうね」
「……そうだとよかったんですがねぇ」
最後だけぼそりと呟かれたので聞こえなかったが、重要層ではなさそうなのであまり気にしないことにする。
「とまぁ、来月連れてきますので、挨拶をさせてください。いずれはこの村を背負うことになるでしょうからねぇ」
「楽しみにしておきます。では、私はこれで。また来月訪問いたしますね」
「えぇ。帰り道もお気をつけて」
ディアナ村長の方へ一礼し、そのまま元来た道を行く。不思議と帰り道で迷ったことはない。最初のバターさんの案内がきっとよかったのだろうと思う。
今日の本命は無事終了。だけど帰ってからも沢山やることが残っている。ある意味これからが本番といえるかもしれない。
本物の『エルフィン』ならば、きっとこんな悩みは持っていないのだろうな。全部やり切ってから今日の会談に臨んでいるはずだから。私はまだまだだから、今日みたいな外出する日とかはネルに大きな負担を負わせている。そこはどうにかしたいと思っているけど、中々思いつけない。
「おい」
突如、声がかかる。
思わず振り向くと、そこに佇むのは白い虎の獣人。
「お前、たまにババアの家に来てる変な奴だろ」
「……」
一瞬理解ができなかったが、すぐに納得した。
私は獣人ではない。部外者のため変な奴と認識されるのは仕方ないのかもしれない。
それにしてもババアとは……ディアナ村長のこと? ちょっとそれはよくない気がする。
「お初にお目にかかりますね。私はエルフィン。隣国、妖精王国の女王を務めております」
「妖精? あぁ、あの甘ったるい匂いのする奴らか。それで何の用でここにきてんだ」
感じる視線は警戒そのもの。獣人との交流について、村の長だけに絞って行っていたから私を知らない者が出てきたのだろうな。これは私の落ち度だ。
「お隣同士、交流を深めようと思いまして。同じエーリアスで暮らすものですから、仲良くしたいのです」
「思った通りの答えだな。知っているぜ? それ、『ウソ』なんだろ?」
「はい……?」
予想外の返しに思わず聞き返してしまう。
「ルポが言ってたぜ。ババアを懐柔して、この村を乗っ取ろうとしてるってな! 証拠に、『アニマル缶』っていう変なやつをババアに売りつけてんだろ!」
「? えっと、それは」
「うるせぇ! つまり、お前は悪ってわけだ! 獣人の英雄、この
「! ティグって──おっとッ!」
さっき聞いた覚えのある名前について考えたのもつかの間、目の前に刃が来たため回避。若干髪が切れた。
後ろに下がって少し距離を取る。
二刀流。そして素早い。
あぁ、これは『強者』だ。
「ハッ! 本性を現しやがったか。けどまだまだこれからだッ!!」
「ッ!」
激しい攻撃。
剣だけでなく、柔軟に脚なんかも使ってきて隙がない。
加えてここは獣人の村。彼女のホームグラウンド。近くの木々をも使って、絶えず攻撃を仕掛けてくる。
私はなんとか耐えていた。かわしたり、杖の持ち手部分で受け流したり。反撃はなしで。
元々は有事の際に力になれるよう鍛えていたのだけれど、エルフの時然り、竜族の時然り、ちょっと変なところで生きてしまっている気がしてならない。
「オラオラどうしたッ! そんなもんかッ!!」
ここからどうすればいいのだろう。本当に困っている。
正直攻撃が激しくて反撃のタイミングが中々ないってのもあるけれど、あまり目の前の獣人の傷つけたくないという思いがある。
なぜなら、この獣人がディアナ村長の後継者である可能性を否定できないからだ。
ここでもし反撃して傷一つつけようものなら、ディアナ村長の村との、延いては獣人全体との関係が悪化するかもしれない。
せっかく仲を深められてきたかなと思ったところで、零どころかマイナスになってしまうのが最悪だ。
もちろん、暴力を振るって傷つけたくないというそれだけの理由もあるけれど。
「──っあ」
からんからん。
持っている杖が剣で叩き飛ばされ、防御手段が一つ減った。少し考えすぎてしまったのかもしれない。
「ふ、これでもう守れないだろ」
身を守るための魔法を使うという手もある。エルフの攻撃を無効化した『幽体化』とかではあるが。
だけどあれは非常に消耗が激しい。まだまだ終わらないだろう攻撃より先に魔法が切れてしまう気がしている。他も同様。
それに、魔法を使ったという事実が反撃と思われる可能性だってある。
だから、かわしきるしかない。相手が満足するまで。
……ちょっと、本気で集中しないと。
「いくぜぇ!!」
動きが一段階ギアが上がった。
多分、私の動きを学習している。
かわした先に攻撃があることが増えてきた。
でも、まだ対応できる。
結構苦しいけれど。
「くっ、なんで当たんねぇんだよ!!」
焦りからなのか、少し攻撃が雑になり始めてきた。かわしやすくなってきている。
──そろそろかな。
いや割と本当に疲れてきたから、そろそろ終わってくれないとこっちも不味いのだけれども。
そんな時だった。
「ティィグゥゥ!!」
「げ、ババア……!」
攻撃がぴたりやんだ。……助かった、のかな。
いつの間にかティグさんが接近していたディアナ村長に連れられ、お説教っぽいのをされている。
ようやく一息つけて、肩の力が抜けた気がした。思わず腰が地面に落ちてしまう。
「妖精の女王さん、大丈夫ですか?」
「あ、バターさん。バターさんが呼んできてくれたんですか?」
「はい! 村長さんを呼んできました!」
傍に来てくれたのは今日も行きの案内をしてくれたバターさん。
この騒ぎを見て、ディアナ村長を呼んできてくれたようだ。
「ありがとうございます。とても助かりました」
「えへへ、どういたしまして、です!」
本心からの感謝を伝える。呼んできてくれなきゃ、ちょっと大変だったかもしれないので。
「でも、女王さんすごかったです! ティグの攻撃をひょいひょいかわしてて! あたし、もう一回見てみたいです!」
「あ、あはは……」
純粋なキラキラした目を向けられ、ちょっと恥ずかしい。
でももう一回は出来れば止めてほしい……かな。
「女王様」
ディアナ村長からの声掛け。
立ち上がって、対面する。
「この度はティグが攻撃を仕掛けてしまい申し訳ございません。なんとお詫びしたらよろしいのか……」
「あぁいえ、気にしないでください。獣人の村に獣人以外がいたら疑って当然でしょうから」
「ですが……」
「なぁ、お前」
今度はティグさんからの声掛け。一瞬黙らせようとするディアナ村長であったが、私がそこを抑えた。
「なんで、やり返さなかったんだ?」
純粋な疑問のようだった。
「わかるぜ。お前、強いんだろ。でも、やり返さなかった。なぁ、なんでだ?」
敢えて反撃をしていないことが、ばれていたらしい。
だけど、こういう質問がされた時に答える内容は、いつでも変わらない。
「仲良くしたいから、ですね。仲良くしたい相手に、暴力は振るわないでしょう?」
「……あれ、本気だったのか?」
「えぇ、もちろん」
打算はあるけど、本心だ。
「なので、あなたとも仲良くなりたいのです」
持ってきたお菓子の一つをティグさんに差し出す。
「こんなものではい仲良し、とは言えないです。ですが、せめてもの気持ちとして受け取ってもらえますか? バターさんにおいしいと言っていただいてますので、変な味はしないはずですよ」
「……」
ただ、ティグさんは黙ってお菓子の袋を見つめてた。
……これ以上、変に声掛けしてしまうのは逆効果かな。
「では、ディアナ村長。また、来月もお願いします。できれば牛乳を次回はもっと多くいただけると嬉しいです」
「……わかりました。お待ちしてますね」
「女王さん! またね!」
「えぇ、ではまた」
一悶着あったけど、なんとかまとまったみたいだ。なんとか終わって安心。
じゃあ、帰ってもうひと頑張りしないとな。
今月も、無事に森から帰還した。
──妖精王国に帰った後に、国民や近衛兵たち、特にネルから髪が切れてることについてかなり心配されたけど、そこは別の話。
偽エルフィン。
ディアナ村長含めた獣人の村との交流をしている。
打算こそあれど、仲良くしたいという思いは本心。
ディアナ村長。
最初は警戒していたが、驚くほど善性でしかも話がめちゃくちゃ通じるし、他の村からの評価も似たようなもので、徐々に警戒を薄めていってる。
しかも村の課題も自身のことにように考えてくれて、提案までしてくれる偽女王を尊敬しつつ、少し別の意味で不安視しているところもあるそうな。
バター。
おいしいお菓子をくれる女王様がお好き。
ティグ。
今日、初めて女王を知る。