CyberPunk: EDGE CASE   作:エネーロ

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遅くなりました


#13 Eye in the Sky /信頼

鼓膜を震わせる爆音と、アダム・スマッシャーの禍々しい咆哮が、分厚いコンクリートの壁を隔てて遠のいていく。

 

極限の死地から脱出したローグは、張り詰めていた糸が切れたかのようにガクンと膝を折った。すかさず、横にいたクリスピン・ウェイランドがその逞しい腕で彼女の身体を担ぎ上げる。

 

「ローグ、しっかりしろ! ……クソッ、あのイカレたロッカー野郎に感謝だな」

 

血と硝煙に塗れた薄暗い通路を急ぎながら、ウェイランドは沈痛な面持ちで後ろを振り返った。

 

「奴が単身で囮になって残らなきゃ、俺たち全員あのスクラップ・メーカーのミンチにされてた。……まさか、あんな潔い最期を選ぶとはな」

 

だが、肩に担がれたローグは、痛みに顔を顰めながらも、フッと短く鼻で笑った。

 

「……最期? 犠牲? 馬鹿言うんじゃないよ、ウェイランド」

「は……?」

「スパイダー。撤退ルートの状況は?」

 

ローグがローカル通信を開くと、ノイズの向こうからスパイダー・マーフィーの余裕すら感じさせる声が響いた。

 

『ばっちりよ。追手のシステムは絶賛欺瞞中。私たちがばら撒いた偽のログを追って、アラサカの警備部隊は今頃サウスナイトシティの反対側を走り回ってるわ。このままセーフハウスまで一直線よ』

「上出来だ」

 

淡々と次の一手を確約する二人の女に、ウェイランドは怪訝な顔をした。

 

「……おい、どういう意味だ? 相手はあのアダム・スマッシャーだぞ。いくらジョニー・シルヴァーハンドでも、あんなバケモノ相手に一人で残って生還できるわけが……」

 

「ジョニーはただのロッカーボーイだ」

 

ローグはウェイランドの言葉を冷たく遮った。

 

「特大の銃と反骨心だけで動いてるイノシシさ。戦場を支配する本物のトップ・ソロじゃない。そのジョニーがこないだ、アラサカの非公式暗殺部隊――ニンジャを二人、スクラップにして、のこのこ帰ってきたんだ。あのイノシシ野郎が単独でそんな真似、できるわけがない。……それがどういう意味か、アンタなら分かるだろ?」

 

その言葉に、歴戦の傭兵であるウェイランドはハッと息を呑んだ。

あの暗殺部隊は、精鋭のソロですら分隊規模で瞬殺される企業最高の暗殺兵器だ。それを、あの無軌道なロッカーボーイが単独で退けたというのか。

 

「あのアホの手を引いて生還させた『腕の持ち主』が、今もべったりと張り付いてるんだ。……死ぬわけがない」

 

ローグの言葉に、ウェイランドは己の視覚インプラント(オプティクス)の端に視線をやった。

先ほどまで、自分たち凡百の傭兵を「神がかったトップ・ソロ」に変貌させていた、あの常軌を逸した精度の『戦術支援HUD』。それが、いつの間にか自身の視界から完全に消え失せていることに、彼は今更ながら気がついた。

 

あの『幽霊』は、撤退する自分たちから演算リソースを完全に切り離したのだ。

今、その途方もないバックアップの全ては、スマッシャーと対峙するたった一人のロッカーボーイのためだけに注ぎ込まれている。

 

「アタシはまだ、あの『幽霊(ヴォイド)』の本気ってやつを見たことがない」

 

ローグは暗闇の先を見据え、氷のように冷たく、しかしどこか底知れぬ期待を込めて呟いた。

 

「だが、相手がこの時代における『暴力の頂点』であるアダム・スマッシャーなら……アイツの、本当の化け物じみたスペックが見られるかもしれないね」

 

『同感ね』

 

スパイダーが通信越しにカラカラと笑う。

 

『あたしも、アイツが使ってるサイバーデッキの構造、未だに1ミリも理解できてないのよね。スマッシャー、あのイカレたスクラップをどう料理するのか……後でジョニーのオプティクスからログを引っこ抜くのが楽しみ』

 

彼女たちは、ジョニーの死など微塵も考えていなかった。

いや、ジョニーの生存を信じているというよりは、その後ろで糸を引く『幽霊』が、自分たちの想定し得る敗北の範疇をとうに超えていると確信しているのだ。

 

ウェイランドは背筋に氷をねじ込まれたような寒気を覚えた。

 

(あの鉄面皮のランナー……一体、何者なんだ……)

 

知り合ったばかりの、感情の一切読めない無表情な男の顔が脳裏を過る。彼がただの優秀なネットランナーなどではなく、このナイトシティの理(ことわり)から完全に逸脱した、底知れぬバケモノであることを悟り、ウェイランドはヘルメットの下で冷や汗を拭った。

 

 

*

 

互いの殺意が臨界点に達し、引き金が引かれるコンマ数秒前のことだった。

アダム・スマッシャーの脊髄に埋め込まれたサンデヴィスタンが起動し、世界が泥に沈んだような極限の遅延状態へと移行する。 常人の認識を置き去りにする超加速。スマッシャーはその圧倒的な脚力でジョニーの正面から消失すると、瞬きすら許されぬ時間の中で背後へと回り込み、その無防備な首筋へオートショットガンの巨大な銃口を押し当てようとした。

 

(終わりだ、ドブネズミ)

 

確信と共に引き金を絞ろうとした、その刹那。 ジョニー・シルヴァーハンドは、背後を一度も振り向くことなく、左手の銀腕《シルバーハンド》ごとマロリアン・アームズを真後ろへと突き出していた。

 

「な……!?」

 

スマッシャーが驚愕するよりも早く、ジョニーは手首のスナップだけで正確無比なバックショットを放った。 放たれた大口径の徹甲弾は、スマッシャーがオートショットガンを構えようとしていた手首の関節部に直撃し、強烈な衝撃で銃口を完全に明後日の方向へと弾き飛ばした。

偶然ではない。ジョニーの視覚インプラントには、スマッシャーが加速して移動する「コンマ数秒後の未来の位置」と「射撃角度」が、幽霊(ヴォイド)の演算によって鮮明な赤いマーカーとして表示されていたのだ。

 

「チィィィイイイイッ!!」

 

必殺の一撃を素人のようなバックショットで防がれたスマッシャーは、機械の奥底から激しい怒気を噴出した。 だが、彼は歴戦の傭兵だ。怒りに身を任せつつも、戦闘回路の根底にある冷徹な理性は決して失わない。 銃火器による確実な死の宣告を諦めたスマッシャーは、再びサンデヴィスタンを全開で駆動させた。今度は予測不能なデタラメな軌道を描きながら、巨体の質量そのものを乗せた「鋼鉄の拳」で、ジョニーの頭蓋骨を直接粉砕すべく猛然と肉薄する。

視界を埋め尽くすほどの死のプレッシャー。

ジョニーの額に冷や汗が伝う。だが、彼はマロリアンの銃口をスマッシャーではなく、己の足元のコンクリートへ向けて連続で引き金を絞った。

 

 

 

恐怖からの盲目的な乱射ではない。

 

ジョニーの視覚インプラント(オプティクス)には、幽霊(ヴォイド)の解析によって暴かれた『巨大クレーンへ電力を送る地下の極太高圧ケーブル』の正確な座標が、鮮明な赤いマーカーとしてハイライトされていた。

 

マロリアンから放たれた大口径徹甲弾が分厚いコンクリートを抉り、地下に埋設されたケーブル群を物理的にぶち抜く。同時に、ヴォイドがシステム側から限界突破の過負荷《オーバーロード》を掛けたことで、地下から凄まじいプラズマの火柱とコンクリートの破片が爆発的に吹き上がり、スマッシャーの眼前に青白い灼熱の壁を作り出した。

 

超加速状態《サンデヴィスタン》にあったスマッシャーの電子頭脳は、その予期せぬ致命的な環境ハザードを回避すべく、反射的に急ブレーキを掛け、たまらず一歩だけ後方へとステップを踏んだ。

 

その「一歩下がった先」こそが、ヴォイドが緻密な物理演算の果てに導き出した、完全なる死の領域(キルゾーン)の中心(X地点)だった。

 

だが、相手は歴戦のバケモノだ。

スマッシャーは後退した直後、すぐさま左腕でプラズマの火炎を強引に払い除け、今度こそジョニーを確実に挽肉にするべく巨大な鋼鉄の拳を振りかぶった。

 

『――残り2秒。耐えろ』

 

オプティクス越しに響く、ヴォイドの冷え切った声。

コンテナの物理ロックを完全に解除し、数百トンの質量がスマッシャーの頭上に到達するまでの絶対的なタイムラグ。

 

ジョニーは迫り来る死の暴風を前に、一歩も引かなかった。

マロリアンをだらりと下げ、無防備に両手を広げると、鋼鉄の死神に向かって銀腕《シルバーハンド》で中指を立ててみせた。

 

「さあ来いよ、ポンコツ」

 

狂っている。スマッシャーの脳髄はそう断じた。

絶望からの諦めか。ならば、その傲慢な顔面を一番苦痛に満ちた方法で砕いてやろう。スマッシャーの加虐心が、コンマ数秒だけその拳の軌道を大振りなものへと歪ませる。

 

(……遅えぞ、空っぽ野郎!)

 

視界を完全に覆い尽くす、死の質量。額を嫌な汗が伝う。

 

1秒。泥のように感じられる刹那の中で、ジョニーの心臓が早鐘を打つ。

 

拳がジョニーの鼻先数センチまで迫り、その圧倒的な風圧が彼のサングラスを吹き飛ばそうとした、まさにその時――。

 

 

 

2秒。

 

 

 

頭上の暗闇から、鼓膜を圧殺するような重低音が響き渡った。

 

スマッシャーの全センサーが、致死性の危険警報《アラート》を絶叫する。

見上げれば、港湾施設で運用されている数十トンクラスの超質量軍用コンテナが、己の頭上へ一直線に落下してくるところだった。

 

今日一番の驚愕と共に、スマッシャーは振り下ろそうとした拳を無理やり引き戻し、搭載された全スラスターを吹かして後方へと決死の跳躍を試みた。

 

数十トンの巨塊がコンクリートの地面に激突し、周囲の空間そのものが爆発したかのように砕け散る。凄まじい土煙と衝撃波が吹き荒れた。

 

スパイダーによって機能不全を起こし、退避がわずかに遅れたスマッシャーの右腕は、超質量のコンテナの下敷きとなり、無惨に圧し潰されていた。

 

ひしゃげた装甲から火花が散り、右腕部喪失と出力低下を示す警告表示がスマッシャーの視界を真っ赤に染め上げる。しかし、この鋼鉄の死神は苦悶の絶叫を上げることはなかった。警告表示を強引にシャットダウンし、極めて冷徹な演算回路を回し始める。

 

濛々と立ち込める土煙の中で、スマッシャーは忌々しい銀腕のテロリストを睨みつけた。

 

(……ただのロッカーボーイに、これほどの盤面は描けん)

 

強固な軍用回線を遠隔操作でハッキングし、タイミングを見計らってトラップを起動する離れ業。なおかつ、自分という強者のサンデヴィスタン起動時の挙動すら完全に計算し尽くしてジョニーを誘導した「何者」かが、確実にあの男の背後にいる。

 

スマッシャーの排気口から、沸点を超えた高熱の蒸気が吐き出される。

怒り、屈辱、そして自分を出し抜いた未知の存在に対する、純粋な殺意。

 

「……ネズミがもう一匹、壁の裏に潜んでいるな」

 

ひしゃげた電子音声が、地を這うような重低音となって夜の港湾に響いた。

 

「貴様を糸で操っているハッカーはどこだ、シルヴァーハンド。……そいつの脳髄を引きずり出し、生きたまま電子の海で千切ってくれるッ……」

 

ただのロッカーボーイの背後に立つ『得体の知れない幽霊』の存在にようやく気付いたアダム・スマッシャーは、真の憎悪を爆発させ、夜の港湾に狂気の咆哮を轟かせた。

装甲越しでも肌を刺すような絶対的な死のプレッシャーに、ジョニー・シルヴァーハンドは背筋に冷たい汗が伝うのを感じた。

 

だが、恐怖に飲まれればそこで終わりだ。ジョニーはひきつった頬を無理やり吊り上げ、マロリアンの銃身を軽く肩で叩きながら不敵な軽口を叩いた。

 

「ハッ、どうしたポンコツ。見えない幽霊にでも怯えてんのか? コーポのブーツを舐めすぎたせいで、ついに電子頭脳にカビでも生えたんじゃねえか」

 

『……3秒ジャスト。見事な時間稼ぎだった』

 

ローカル回線越しに、ひどく冷え切った、それでいてどこかジョニーの狂気に付き合うような幽霊(ヴォイド)の声が響いた。先の致死のチキンレースを生き延びた狂犬への、彼なりの不器用な称賛だった。

 

『右へ跳べ。次のポイントへ誘導する』

 

ヴォイドの言葉と同時に、ジョニーの視覚インプラント(オプティクス)に新たな赤い誘導マーカーが次々と浮かび上がる。

スマッシャーは怒りに任せ、自身の重装甲にモノを言わせて一直線にジョニーへと突進してきた。彼らを追い詰めたここは、港湾施設の外縁部。遮蔽物のない海沿いの開けたコンクリート地帯であり、スマッシャーの戦術AIはここを「逃げ場のない袋小路」だと認識していた。

 

だが、それは完全な誤りだ。

 

見上げれば、頭上には夜空を覆い隠すほどの巨大な無人コンテナ用クレーンが幾基も立ち並び、何千トンもの金属の箱がワイヤーで吊るされている。

ネットワークの深淵に座すヴォイドにとって、この巨大な港湾施設はただの背景ではない。システムを完全に掌握した彼にしてみれば、頭上の全てが「都合のいい質量兵器」であり、この外縁部そのものが無数のキルゾーンが重なり合う『極上の狩場』に他ならなかった。

 

「上等だ! 最高のステージじゃねえか!」

 

ジョニーは哄笑を上げながら、マーフィーなら絶対に選ばないような無鉄砲な軌道でコンテナの山を駆け抜ける。

その常軌を逸した狂気的なステップと、ヴォイドが弾き出す緻密すぎる物理演算。水と油のように思えた二人の異質な個性の、奇跡的なまでの噛み合い。

 

背後から迫る死神の残った左腕が、空気を焼き焦がす絶大な火線を放つ。だが、必殺のテックキャノンがジョニーの背中を貫くコンマ一秒前、ヴォイドが遠隔操作した別のクレーンが空のコンテナを絶妙なタイミングで射線上へと落下させた。分厚い鋼鉄の塊がジョニーの背後で強固な盾《シールド》となって爆砕し、致命の砲撃を完全に遮断する。

 

「チィィィッ! 姑息な真似をォォ!!」

 

回避不能のタイミングで放たれる落下物、射線を遮る絶妙な障害物の配置。スマッシャーがどれほど理不尽な暴力を振り回そうとも、全てがジョニーを素通りし、あるいはあと一歩のところで阻まれていく。

まるで、世界そのものが「ジョニー・シルヴァーハンドはここで死ぬべき運命ではない」と宣告しているかのような、圧倒的な幸運と全能感。

 

ジョニーが息を呑むようなアクロバットで巨大なコンテナの上に飛び乗ったその時、ヴォイドはジョニーの視覚を通して、足元で怒り狂う鋼鉄の怪物を見下ろした。

 

(……チェックメイトだ)

 

ヴォイドの意志がネットワークを駆け抜け、施設内の巨大な外部スピーカー群を一斉にジャックする。

そして、夜の港湾に、一切の感情を排した冷徹で残酷な宣告が響き渡った。

 

『――悪いが、ここから先は俺の領域だ』

 

その宣告を合図に、スマッシャーの頭上に位置していた三基の巨大クレーンが、同時に物理ロックを強制解除《パージ》された。

総重量数百トンを超える軍用コンテナの群れが、逃げ場のない鋼鉄の怪物に向かって、死の雨となって降り注ぐ。

 

 

港湾施設の地面そのものが大きく陥没し、鼓膜を破壊するような轟音と共に濛々たる土煙が夜の暗闇を覆い尽くした。

 

「ハッ……! ざまあみやがれ、コーポの犬が!」

 

ジョニー・シルヴァーハンドはコンテナの山から少し離れた足場に降り立ち、マロリアンの銃身を肩に乗せて鼻で嗤う。 いかに分厚い装甲を誇るバケモノであろうと、これだけの質量に押し潰されて原型を留められるはずがない。誰もがそう確信する絶対的な死の領域。

 

だが、土煙が少しずつ晴れていく中で、ジョニーの視覚インプラントが瓦礫の底で蠢く「熱源」を捉えた。

軋む鋼鉄の音。重なり合ったコンテナの一部が内側から強引に弾け飛び、ひしゃげた装甲の隙間から、血のように赤い片側の光学センサーが爛々と輝きを放つ。

 

「……冗談だろ。あんなモン食らってまだ動くのかよ」

 

底知れぬ狂気を見せつけられ、流石のジョニーも顔を引き攣らせて素の悪態を漏らした。 絶死の質量攻撃の直前、スマッシャーはそのバケモノじみた反応速度で急所である頭部と駆動コアへの直撃だけは辛うじて逸らしていたのだ。下半身はコンテナの下敷きとなって完全に潰されながらも、残された巨大な腕の油圧を唸らせ、這いずってでもジョニーの喉笛に喰らいつかんとするその姿は、もはや執念という言葉すら生ぬるい。

 

ジョニーは反射的にマロリアン・アームズを構え直し、その息の根を完全に止めようと銃口を向けた。だが、オプティクス越しに幽霊(ヴォイド)の冷徹な警告が響く。

 

『やめておけ、シルヴァーハンド。マロリアンの大口径徹甲弾でも、奴のメインコアの分厚い装甲は抜けない。致命傷には至らない』

「ならどうする! ここで完全にスクラップにしねえと、また湧いて出てくるぞ!」

『時間切れだ。港湾の異常を検知したアラサカの増援部隊――重武装のAVが3機、こちらへ向かっている。到着まで残り40秒。ここを離脱するぞ』

 

ヴォイドのシステムが弾き出したカウントダウンが、無情にもジョニーの網膜で点滅を始める。 ジョニーは舌打ちをし、ひたすらに自身を睨みつけて這いずろうとする鋼鉄の死神を見下ろした。

 

「……クソッ、せっかくの最高なステージだったのによ!」

 

彼は苛立たしげに吐き捨てたが、ヴォイドの計算が絶対的であることをすでに理解しているため、未練を断ち切るように背を向けた。

 

「あばよ、鉄屑! その不細工なツラ、二度とストリートに見せるんじゃねえぞ!」

 

踵を返し、夜の闇へと姿を消していく銀腕のテロリスト。

瓦礫に縫い留められたアダム・スマッシャーの爛々と輝く光学センサーが、遠ざかる憎き男の背中と、その背後に影を落とす『見えざる敵』の熱源を網膜に深く焼き付ける。

 

「……調子に乗るなよ、ジョニーボーイ」

 

激しいノイズの混じる合成音声が、地鳴りのように夜空を震わせる。そこに込められていたのは、怒りや屈辱を超越した、純粋で暴力的な殺戮への執着だった。

 

「いつか必ず、お前の息の根を止めてやる。このナイトシティのどこに逃げようと無駄だ。……貴様も、背後のネズミも、必ず俺が探し出し、生きたままその脳髄を引き摺り出してやる……!」

 




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