余命わずかな銭ゲバ令嬢が、無自覚に周囲を曇らせるまで   作:初手ごちそうさまはあまりにも基本

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父に追われながら暗殺者を追う

 前世での俺は、まさしく破天荒な人物として知られてきた。

 人生の終盤はホームレスとして幕を閉じたが、それまでは数え尽くせないほどの経験をしてきたもんだ。

 

 大学はあまり偏差値の高くないところに入学した。

 勉強をガチっても良かったんだが、まあ色々あってな。

 小学生からの同級生――いわゆる〝腐れ縁〟というやつだ――と同じ大学に行くことにした。

 

 もちろん、その時から俺のモットーは決まっている。

 余計なことを考えず、今が良ければそれでいい。

 日本は不景気だの何だの散々言われていたが、十年後、二十年後のことなんて、誰にもわからないからな。

 

 先の見えない未来を不安がるよりも、今を熱烈に楽しんだほうがいい。

 

 そうした信念のもと、大学時代は色んなことに手を出した。

 

 風俗やギャンブルを満喫したかと思えば、好みの女を見つけてボランティアサークルに入ってな。文字通り爆速でゴミ拾いをしていると、せっかく拾った傍から大量のゴミを捨てた奴らがいたんだ。

 

 しかもそこは、俺が拾った場所じゃない。

 前述の〝好みの女〟――彼女が頑張ってゴミ拾いを終えた場所に、無遠慮にゴミを捨てやがったんだ。あれは昼間のことだったが、全員酒が入っているようだったからな。飲酒して良い気になって、コンビニ袋の中身を一気にぶちまけたんだろう。

 

 笑っちまうよな。

 本音を言えば、俺はこうした〝品のない行動〟をやっている側の人間だった。

 

 ゴミ拾いはおろか、ボランティアなんてやったこともない。

 だが、傍で女が切なそうにしている顔を見て……俺はカチンときた。

 

 ――こらてめぇら、ゴミくらい自分で捨てやがれ!――

 

 だから俺は奴らに啖呵を切った。

 飲酒しているとはいえ、相手は総勢で六名くらい。しかもそれなりに体格も良かったので、言ってしまえば無謀だったんだけどな。

 

 だが、俺のモットーは『余計なことを考えず、今が良ければそれでいい』だ。

 

 隣で悲しそうに泣いている女を見て、どうしても俺は放っておくことができなかった。

 

 ああ、もちろん喧嘩になったよ。持ち前の根性でぶっ飛ばすことには成功したが、俺もそれなりの傷を負った。大学はしばらく休むしかなかった?

 

 女?

 あの時甲斐甲斐しくお礼を言われたが、それっきりだったな。

 

 ボコボコになった俺を見て、すげぇ悲しそうな顔をしててな。連絡先を交換しようと言われたが、こんな大事な時に限ってスマホを忘れてたんだ。ははは。

 

 こんな感じの人生を歩んでるもんだから、いつしか俺こと《飯田清志》は破天荒すぎる人物として名が馳せていった。

 いわく、ナイフで刺されてもピンピンしていた男。

 いわく、殺されたくらいでは死なない男。

 いわく、地球の重力の中心にいる男。

 いわく、金のことになると一時間で世界を一周しかねない男。

 

 そんな生き様が、地元の大物議員の目に留まっちまったようでな。

 たしかジーミー党だが地味党だかの、何度かニュースで見たこともある男に気に入られたんだ。

 

 ――この時勢でも、君のように度胸ある人間がいるとはな! 好きな女のために突っ走るその胆力、実に気に入った!――

 

 よくわからんが、俺はその大物議員の第二秘書としてスカウトされた。

 

 年収はだいたい600万から700万。そこから出世して第一秘書になれば1000万も見込むことができる。

 

 偏差値の低い大学に進学しちまった俺にとって、まさにこれは渡りに船。

 その頃行きつけのキャバクラに可愛い女が入ってきたばっかりだったし、その子の気を惹く意味でも、年収は多いに越したことはないと考えた。

 

 ……ああ、意外にも秘書の仕事は向いてたよ。

 

 事務所にけしかけてきた癖の強い後援会長を、持ち前のコミュニケーション能力を使って黙らせ――否、仲裁したり。かと思えば大物議員の代わりに出席した地元の祭りで、地域の人々と必要以上に打ち解けたりな。

 

 だから楽しかったっちゃ楽しかった。

 俺のモットーである、『余計なことを考えず、今が良ければそれでいい』とも割と噛み合っていたからな。

 

 転機が訪れたのは、俺が三十代になって、第一秘書に任命された時か。

 

 舞台は国会議事堂。

 大物議員が答弁するためのサポート要員として、俺は大量の資料を持って大物議員の椅子の後ろに控えていた。

 

 国会中継のテレビを見ていても、議員の後ろに官僚や秘書が待機していることがあるよな。あそこに俺も混じっていたわけだ。

 

 もちろん、俺はあくまで大物議員のサポートをするだけ。

 あまり目立ったことをするべきじゃないのはわかっていたんだが、そこで答弁していた総理大臣の態度がなんとも気に喰わなくてな。

 

 その時はたしか大きめな地震が発生して、日本全体が大混乱に陥っていた状態。

 当時の総理大臣は神妙な顔をしているだけ。

 いくら国会内で突っつかれても、官僚の差し出されたペーパーを淡々と読み上げているのみだった。行動も明らかに遅い。

 

 実はこの時、俺は大物議員から愚痴を聞かされていた。

 やれ対策本部の設置が遅いだの、マスコミから隠れるようにして豪勢なディナーを楽しんでいるだの……。

 

 その時、俺はふいに思ったんだ。

 

 ――こんな奴に国のトップを任せたくはない。

 ――余計なことを考えず、今が良ければそれでいい。

 

 気づいたら身体が勝手に動いていた。

 

「え~ですから、先ほどからも申し上げている通り……げぽあぁぁっ!」

 

 そして答弁する総理大臣の背後に回り込み、とっておきの超必殺技――カンチョーを見舞ってやったのである。

 

「おげぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 と尻の穴をおさえながら悶絶している姿は、()()()()()だった。

 

 それをきっかけに、俺は表向き大物議員の職を辞めさせられることになった。だが大物議員はえらく喜んでいたよ。マスコミの前では君を褒めることはできないが、君を秘書にして良かったとね。

 

 希望するなら、これからも経済的支援をしようかと大物議員に提案された。

 

 だがそれは断っておいた。

 表向き、俺は大物議員に勘当させられた身。そこから何かしらの不手際で金銭的な結びつきが続いていたと思われると、今度こそ大物議員の立場が怪しくなるからな。

 

 金は欲しいが、こう見えて塩梅はちゃんと見極めているのである。

 これまで世話になった大物議員にこれ以上迷惑かけたくない、という思いもあった。この一件で大物議員が辞任することはないまでも、批判の的にされているのは確かだし。

 

 総理にカンチョーしたあと、国会がどうなったのかはここでは置いておくとして……。

 俺はその後、ある意味で有名人になった。

 

 なにしろ総理にカンチョーした当事者だし、国会中継でそれが放映されていたからな。

 

 もちろん批判する者も中にはいたが、あの時の総理に怒っていたのは俺だけじゃない。だから俺の行動を賛辞する者が多く、後ろ指を差されることは基本的になかった(注!:でも良い子は決して真似しないでね!)。

 

 そういうこともあって、俺は色んな仕事にスカウトされた。

 インフルエンサーの動画に出演することもあったし、パチンコ業界の裏側を見るために店員になったこともあったし、自動車工場の期間工になったこともあったし、高級ホテルのホテルマンになったこともある。

 

 そんで「足が臭すぎる」と言われたことを最後に、ホテルマンもクビになったんだったか。

 

 まあ色々と端折っているところもあるので、まだまだ不足している点もあるけどな。

 

 けれどまあ、これが俺の人生。

 公爵令嬢になったくらいで、俺の人生は変わらない。

 余命が一年になったところで、俺の人生は終わらない。

 

 ――いわく、ナイフで刺されてもピンピンしていた男。

 ――いわく、殺されたくらいでは死なない男。

 ――いわく、地球の重力の中心にいる男。

 ――いわく、金のことになると一時間で世界を一周しかねない男。

 

 俺はただ、自分の好きなように生きるだけ。

 状況に振り回されることもないし、ただ悲観しているだけってこともない。

 余計なことを考えず、今が良ければそれでいい……。

 

  ただ、それだけだ。

 

ゆえに今回、凄腕の暗殺者を倒そうとしているのも――今そうしたほうがきっと楽しいから。それが理由でしかない。

 

 幸いにして、俺には前世の漫画知識がある。

 ホームレス時代、暇だからと何度も読み込んできた甲斐もあり、ストーリー内容そのものは頭に入っているからな。

 

 ゆえに暗殺者ウォルフのいる場所はわかっているんだが――。

 

「待てぇぇぇぇぇぇいい! 大事な娘を暗殺者と戦わせてなるものかぁぁぁぁ!」

 

「……あの親父、まだ追ってきてんのかよ」

 

 背後には元中将の父ギウスが、大声をあげながら迫ってきている。

 

 父に追われながら暗殺者を倒そうとしているとか、これもうわかんねぇな。

 

 ともあれ、ウォルフがいる場所は――。

 

「おらぁぁぁぁぁぁあああ! 懸賞首よこせぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!」

 

 目的地に向けて、俺は全速力で走り続けるのだった。

 

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