「――きて、ねぇ、――ってば。」
体を優しく揺さられ、耳元から聞こえる天使のような囁き声に、目を覚ます。だけど、揺れが逆に揺りかごのようで、目を開けるのが難しい。二度寝してしまいそうだ……。
「起きて、ねぇ、災禍ってば!」
「んぅ、んん……。」
今までよりも一層強い揺れと、大きな声に、目を開けた。すると、そこには……朝日が後ろから照らし、その長い髪がきらきらと輝かせながらこちらを見る、少女がいた。
「由美香……?」
「……私はお姉ちゃんじゃないよ。」
「え……?あ、穂香。おはよう。」
「おはよう、災禍。」
茶色の長い髪は幻覚で、普段より少し長い(恐らく結ってないからだろう)茶色の髪をした、僕の今のところ仮の《絆双刃(デュオ)》の、冬木 穂香(ふゆぎ ほのか)だった。
「ねぇ穂香……。今、お姉ちゃんって……。」
「……気のせいだよ。」
そう言われて、寝惚けていた僕は、気のせいだと納得してしまった。
「さ、朝御飯食べに行こう?」
いつも通りの笑顔で僕を誘う穂香。
「うん、少し待ってて。すぐいくから。」
「は~い。」
それにたいして、いつも通りの返事をする僕。果たして、いつまでいつも通りでいられるのか……。なんて一抹の不安を、僕は胸によぎらせた。
――――
入学三日目。今日の一時限目は、新入生全員の細かなプロフィールにリストを手渡された。どうやら、この中から正式な《絆双刃》の候補を見つけろということらしい。
「ふんっ、僕のメガネに叶うものがいるといいのだがな。」
「「トラが言うとそのまんまだよな。」」
「ダジャレではない!!ていうか、声を揃えるな!!」
トラを透流とからからうと、そのまま透流はトラに《絆双刃》の誘いを始めた。
一方、こちらは……。
「う~ん…。」
リストを片手に頭を悩ませていた。僕には、目標がある。由美香を見つけて、連れ返すという。そして、そのためにはあの老人がかなり深く関係しているだろう。だから、老人とかを見つけたいんだけど……今しばらくは無理そうだ。
「ねぇ、災禍。」
「……ん?」
少し考えてたので、穂香の問いに少し遅れる。
「もしよかったら、私と組まない?」
「穂香と?……確かに、それはいい提案かも。」
穂香とは気が合うし、明るいから普通に過ごしていても邪魔にはならない。むしろ、とてもありがたい存在だ。ただ、穂香の《焔牙(ブレイズ)》って一体……と、リストに視線を動かすと……。
「ね?いいでしょ?」
「あ、うん。そうするよ。ただ、まだ正式になってはいないから、Maybeだけど。」
「Maybe?」
「英語の勉強しようよ……穂香……。」
「シ、シテマスヨー。」
「泳ぐ視線と棒読みが正に証拠だ!!」
「異議ありっ!!」
「認めません。」
「酷いっ!?」
……と、少し騒がしい一時限目を終えて、その後の三、四時限目はマラソン大会……もとい、体力強化訓練だったんだけれど、穂高がまた遅れたので、「みやびって才能ないよな。」という声と、汗で下着が見えてしまった穂香に殺られかけたのがとても印象に残った。
――――
入学四日目の朝。僕は寝汗をかいたので風呂に入ると、中に仄かに朱が差した瑞々しい肌を見せて湯船に浸かる穂香と鉢合わせして、顔を真っ赤にしながら首を絞めてきて、僕は同じく顔を真っ赤にしながら抵抗して、何とか許しを得た。ただ、どこか控えめというか、女の子らしかったのは気のせいだろう。……殺そうとしてる時点で女の子らしくないかもだけど。
――――
《無手模擬戦(フィストプラクティス)》、それが今日から追加される自由組手だ。以前の橘とユリエは既にやってしまっているが、あれだけではまだまだだろうし、訓練ではないから、これからのは本当の《無手模擬戦》ということになる。
が、やはりというか、ユリエと橘は目まぐるしい戦闘を繰り広げていた。息もつかせぬ連撃を舞うように繰り出すので、皆が驚嘆とする。対してユリエはヒットアンドアウェイとユリエのスタイルらしい戦い方をしている。
「橘流十八芸……。」
「ん?トラどうしたの?」
「あぁ、古武術を主体に様々な武芸に通じている流派だ。生で見るのは今回が初めてだがな。」
「へぇ~。それは是非とも手合わせを……したくないや。」
絶対ラッキースケベが発動しちゃう。そうなった日には大変だ。僕は目標半ばで穂香に殺られてしまうだろう。あらぬ誤解を残して。それだけは避けねばなるまい!!
「……お前も、苦労してるんだな……。」
「うん、ありがとう、透流……。」
?という顔をするトラに変わって透流が共感してくれた。ありがとう、透流……。
「さて、どうしようかなぁ~……。」
透流は相手が見つからなかったユリエとやるようだし、穂香は男子とやるようだ。……男子、と?
「おいあんさん。僕と血反吐が出るまで殴り合いしないか?」
「ご、ごめん!」
僕のえもいわれぬ恐怖を感じてか、男子は逃げていった。まぁ、それもそうだろう。
満面の笑みで肩を捕まれ、そして目が据わって薄い目で見られて怖がらない人はそういないだろう。
「あ、あのさ、災禍。」
「ん?」
「もしかして……妬いてくれたの?」
「えっ!?い、いや、そういうわけじゃ……なくなくも……。」
しまった。いつのまにか彼氏のような行動をとってしまった。僕は恋愛はしないって……由美香を見つけるまでしないって決めたのに……。(出来ない訳じゃないよ!!)
あれ?今思ったけど、どうして僕はここまで由美香に執心するんだっけ……。確かに色々な理由はあるけど、僕は、見つけて、連れ返して、どうしたいんだ……?
「ふふっ、おかしな災禍。でも大丈夫。私は、絶対に離れたりなんかしないから。」
「え、あ、ありがとう……。」
物思いに耽っていたから、返事がつぎはぎになってしまった。これでは、まるで緊張してるみたいだ……。気にしすぎなのかな、とも思うけど。
「さ、早くしないとうさ先生に怒られちゃうよ?私たちでやろ?」
「うん。わかったよ。」
そうして、僕は穂香と《無手模擬戦》を始めたのだが、その途中で穂香の女の子らしい一面や、女の子らしい部分に触れてしまい、穂香に気付かれて気まずい空気が流れてしまって恥ずかしい思いをするのだった……。
因みに、うさ先生というのは、月見先生のあだ名だ。ウサギ耳つけてるしね。……ただ、あそこまで極端に明るいのには、何か理由があると僕は思うんだけど、その何かがさっぱりわからないから、あぐねているんだ。
――まぁ、もうすぐでその何かを知ることになるとは、このときは思いもよらなかった…。
――――
どうでしたか?と、毎回同じことを聞いてすみません、遠山tsunです。
今回は、物語が一気に数日進むので、少し早足になってしまいました。ごめんなさい、次回はようやく正式に《絆双刃》を組む回になるかと思われます。それについて詳しく書こうかと。
ここで一つ相談が。この『復讐者と探索者と挑戦者』ですが、
《新刃戦》で終わりにしようかと思っています。理由はきりがいいのと、物語的にもいいというメタイ面からの理由です。
次回作は考えておりませんが、もし次回作をだしてほしいとか要望や誹謗、中傷があればコメントまで。
毎度長々と後書きに付き合わせて申し訳ないです…。
では、また次回。じゃあの!!