草もまばらな荒野を、砂を食い込んだ風が鳴く。
砂混じりの風が、地平線を削りながら駆けていく。
ハルは目を細め、荷物を乗せた走鳥―駝鳥のような生物―の背に身を伏せた。
「見てハルちゃん」
「風が止むまで伏せてろ、目が潰れるぞ」
慣らされた道を行く人の中に、外套を羽織った少女が二人で話している。
諌められたもなお声を上げた少女はハルに寄り添って左手で指を指す。
「あれ街でしょ? …結構遠かったね」
「あぁ、ここらへんで一番大きい街だ。」
日が昇る前から森を歩き、それ抜けて、荒野の一本道をただただ歩いてきた。
街に入る人の末尾についたとき、ハルと呼ばれていた背の高い少女は相方の顔を覗き込んだ。
「カディナ、疲れたよな?」
「ん…大丈夫だよ、今日はまだやることあるんだもんね」
カディナはハルの労いにわかりやすい強がりで返す。
「ねぇハルちゃん」
「ん」
「街に入れたら、何食べたい?」
強がりのあと、カディナは明るいであろう先のことを話し始める。
「……なんでもいい」
「ずるい。わたしはね、パンがいいな。焼きたてのやつ」
笑うカディナの横顔を見ながら、ハルはほんの少しだけ口元をゆるめた。
しかし、慣れたハルとは違いカディナはこんな移動は初めてなのだ。
いたわる意味でも、ハルも希望を話した。
「あの街でお父さんのことが分かるといいな」
「うん。ハルちゃんの友達のこともね」
カディナの笑顔が、冷たい風にやわらかく滲んだ。
その光景だけで、ハルの胸に小さな灯が戻る。
自身の辛さより、話しかけた自分のことを気遣うカディナの健気さに、ハルも自然と笑顔になった。
話をしているうち、列の先頭まで進む。
「子供…? 誰だろうと関係ない。身分証を見せろ」
「…前の村で作ってもらった証です」
門番の兵士に身分証を求められ、2人は木でできた証を見せた。
兵士は渋い顔をして二人に目を配せる。
「渡りか…。街に何の用だ?」
「ボクは狩人だ、籍なんて持ってても無駄だし渡りをしている。依頼を受けに来た。」
ハルの淀みない答えに男は鼻を鳴らし、次にカディナを見た。
「そっちは?お前みたいにナタも弓も持ってないだろうに」
「わ…わたしは…」
不安の色を隠せない少女をかばうようにハルが被せる。
「北の国で魔族が暴れてんのは知ってるだろ、この子はそこで街を焼かれたんだ。」
「難民だな、まさか中に入れようとしてないよな?」
「渡りが住むとか汚れが移っちまうよ」
後ろから出てきた衛兵と同じ鎧を着た兵士に罵声を浴びせられる。
「しない。ボクらはネストに戻るし、近いうち次の街に渡る。」
ハルの目は動かない。
しかし奥底は火が灯ったような熱を持ち、衛兵たちを見た。
「…フン。 日が落ちるまでには街から出てネストに戻れよ。中で宿なんて取ったらガキだろうととっ捕まえるからな」
「はい。」
凄む兵士にハルは慎ましく会釈した。
―この街でやること。
兵士の前を通り過ぎたハルは頭を上げ、都市の大通りを見つめながら考えた。
まずはこの街で冒険者として登録をする。
冒険者になると、渡りに課せられている制限がなくなるからだ。
―冒険者になれればカディナに、少しはいい思いをさせてやれる。
ハルは目だけでカディナを見た、鳥を撫でながらカディナは前を向いていた。
―カディナの父親について、なにか聞ければなおいい。
次に、冒険者になるもう一つの理由は情報のやり取りだ。
二人にはそれぞれ、探し人がいる。
カディナは唯一消息不明ながら親である父親だ。
もし彼が生きているなら、カディナに逢わせてやりたい。
そして、ハルもまた人を探している。
―友達か。
ハルはカディナの出会う前に行動をともにした渡りの少女を探している。
彼女を友達と呼べるのか、ハルにはわからない。
ただ、年の半分をともにした仲間であり、動けなくなった自分に置いて一人旅に出た彼女と、ハルはもう一度会いたいと思っていた。
城壁から朝の日差しが街に差し込む。
街への進入を許されたハルは、走鳥の手綱を強く握り直した。
「すごく大きい街だね、工廠国の首都みたい…」
「ここノルデンブルグは、人もものも基本的には拒まない街だからな」
道を歩きながらきょろきょろするカディナに、ハルは知っていることをできる限り話す。
「ノルデンは北部の穀倉地帯を治める領主の街だ。この国・ユンニアラには、こうした大都市があと五つある。」
「ハルちゃんは今まで、全部旅したの?」
「まさか。この大陸でも北と東しか行ったことない。」
だよね、とカディナはぱっと明るく笑う。
パン屋から焼けた香りが漂ってきた。
「いいにおい…」
「あぁ、小麦の街、ノルデンブルグらしいな」
とハルが言った。
「パン…絶対美味しいよね」
待機列からパンの話をするカディナに、ハルは空気を冷やすような視線をくれる。
「…やっぱ疲れてるのか?」
「ううん、でもお腹は空いたかも」
カディナは外套下の、顕になった腹部を触りながら照れたように笑った。
「ここから先、なんか賑やかだね」
「ノルデンは作物と、他の食い物も自ずと集まるから街の半分が市場なんだよ。」
人が行き交う通りには入らず、ハルは2階建てのレンガづくりの家の前で立ち止まる。
「市場、気になるだろうけど。今日の用はこっちだ」
市場を見ようとするカディナを止め、ハルは生垣のない無骨な敷地に一歩足を踏み出した。
「冒険酒場…」
鉄で作られた看板の文字を読むカディナの目は丸くなる。
「もしかして冒険者になりに来たの?」
「あぁ、ここなら登録ができるはず」
敷地の庭に走鳥をつないだハルは扉に手をかけた。
扉の先は酒場と、酒場には似つかない掲示板があった。
「すごいお酒の匂い」
「主は酒場だからな。それであの掲示板をみて依頼を探せばいいけど…今日は受付に行くぞ」
そう言うと、ハルは受付だけを見ながら歩く。
「…なんか強そうな人たち」
「冒険者は魔獣とか魔物も相手する。獣しか狩らないボクよりよっぽど強いと思うよ」
酒場に入ってもカディナの目線は定まることを知らない。
「マント来た人がいっぱいいる」
「マントじゃなくて魔法着(ローブ)。ユンニアラは魔法の研究も進んでるから、魔法使いも多いんだよ」
「いらっしゃい」
二人が他愛のない話をしていると奥には対面式の机から、小太りの男が出迎える。
靄のかかったような声が、この酒場の空気のようでカディナはハルに一歩寄り添う。
机に肩と頭だけだしたハルは、男に問いかけた。
「ボクは渡りの狩人をしている。冒険者になりたいから、依頼をくれ」
「…きみ、年は?」
男はハルを見るなり問う。
「…13、」
「んー…なるほどね…まあ、狩人ってことだからとりあえずこれだけ依頼はあるよ。」
五枚ほどの依頼書を一枚一枚丁寧に並べる男に、ハルは書を見ず曇りなくこう答えた。
「一番困ってるのはどれだ、それをやる」
男は悩むような姿勢を長いこと取ると、真ん中の書を指す。
「それなら、このオニヘラジカだね。やったなら冒険者登録考えなくもないよ。」
「わかった、明日には狩ってくる」
ーこれをやれば、冒険者になれる。
ハルは動かない表情の底でそう考えていた。
―翌朝。
夜から日が登るまで酒の匂いと人が耐えない冒険酒場だが、その日は雰囲気が違った。
「おいみろよ、オニへラジカだぜ」
「この街の近くにこんなおおきいのが居るなんて…」
通りがかる冒険者は一様に感嘆の声を上げる。
獣畜係留所兼前庭の中央には目を瞠るほどの大きなヘラシカの体が足を縛られたまま置かれている。
「にしてもでかいオスだね、角からして十年は生きてるんじゃない?」
「だよな、こんなのに頭突かれたらどうなっちまうんだろうな…」
「街の城壁も壊れそうっすね…!」
成熟したオスになると人間の背丈はあるだろう頭に幾重にも別れた角をつけた、鬼のような獣。
そのオニヘラジカは常に目を剥き動かない。
それが睡眠や麻痺でないことは明らかであるが、体は頸部に一点の血のシミがあるだけで獣は事切れていたのだ。
「首だけ狙って仕留めたのかな…眉間くぼんでる。気絶させてからやってるね」
弓使いの女が獣の頭部を触りながら考察をする。
「これだけできるんだから相当な射手だな、一体どんなやつがやったんだろうな」
男女の冒険者が戸を見ると、中から何事かを叩きつける音が聞こえた。
「……! どうしてだめなんだ!!」
前庭の屍に人だかりが出来始めたその時、扉の先から甲高い怒号が響く。
「……」
怒号への好奇心から、冒険者の数名が酒場の戸を開けた。
酒場奥の受付には、受付の机で肩が切れるほどの上背の子どもが2人いた。
対面する酒場の長は両手を互いに握りながら猫なで声で説明を始める。
「お客様ぁ、そんな怒鳴られましても規約違反でしてね…」
「アンタがこの依頼をやれば冒険者にしてくれるって言ったんだろ!」
激昂する銀髪の子どもが再度大きな音を立てる。
音は丸めた依頼の紙を叩きつけるときに鳴っているようだ。
握った手をほどいた小太りの男は転がってきた依頼の紙を広げながら話す。
「とはいってもねえ、冒険者になるには15歳を超えるって規定があるんですよねえ。ヘラジカ狩りはすごいけど、君たち13歳って言ったじゃない」
子どもから転げてきた紙に判をついたあと、それを再び丸めた男はそばにいた女の受付にそれを渡した。
「それは…」
「ハルちゃん…」
顔を曇らせた銀髪の子どもを、褐色肌の子どもが心配そうに見つめる。
「まあ16って言っても信じなかったけどね。冒険者になりたいならあと三年待つことだね」
「それじゃ間に合わないんだ、おねがいだよ!」
男に断られようと、ハルと呼ばれた子どもは食い下がらない。
奥から出された袋を受け取りながら小太りの男は大きなため息をついた。
「まったく、冒険者にするなんて言ってないよ。考えるとは言ったけどね。年を偽るようなら憲兵に突き出す気だったけど…渡りはこれでも受け取ってネストに帰りなよ」
男はハルに銅貨の詰まった袋を投げつけるように渡した。
「!」
顔めがけて飛んでくるそれを、ハルは顔の手前で受け止める。
袋の奥にいる男に、先程までの笑顔はない。
客席で座っている客たちは2人を見てまばらにくすくすと嘲笑うような音を投げかけるのだった。
「くそ…」
拾い上げた銅貨に、油と酒の匂いがこびりついていた。
それを払うように、ハルは強く指を握る。
「規約は読んでおくれよ、あ、渡りは文字なんて読めないね」
男の大声での皮肉に、酒場からはひときわ大きな嘲笑が湧く。
恥ずかしさと腹立たしさと自分の拙速さに、ハルは褐色肌の子どもを連れてこの場から立ち去ろうとしたその時だ。
「おいおい、ガキ二人がそんなにお金が欲しいのか?」
酒場奥の机から筋肉質の男が受付まで歩いてくる。
男は仰々しく足音を立て、二人を見下すように、舐め回すように凝視している。
「へへ、こっちは育つもんは育ってんじゃねえか」
小声で呟いたあと、男は褐色肌の子どもの手首を力任せに掴んだ。
「いた…! やめて、ください!」
「金がほしいんだろ、なら冒険の依頼より楽でキモチのいいことでたんまり払ってやるよ」
「待て!」
そのまま外へと連れ出そうとする男の体を、ハルは掴んだ。
「い…やです!」
子どもは精一杯抵抗をするが相手は冒険者であり、筋肉自慢の荒くれである。
「なにするんだよ! カディナを放せ!」
ハルは食って掛かった。
この行動は純粋にカディナを守ろうとする行動だ。
しかし、ハルもまた子どもである。
「うるせえガキだな…、黙ってろ!」
荒くれとの力の差は歴然だった。
カディナを掴んでいない手でハルの肩を掴んでいとも容易く放り投げた。
「グ…!」
宙を舞った体は空の木箱に背中から着地し、彼女の乗った箱は爆音を立てて砕けてしまった。
箱や地面からの衝撃にハルは腹から声を上げる。
「ちょっとケネスさん…やりすぎですよ」
「あぁ? んだよ?俺に逆らうのかあ?」
受付側にいる大人はうろたえているが、男に凄まれて皆口を閉ざした。
筋肉質の男ケネスは誇らしげにつややかで白い石製のベルトバックルを触る。
「言えねえよなあ、こんな木級の雑魚共の中で、俺はまともに魔物も狩れる石級なんだからなあ…!」
唾液とともに吐き出される言葉はどれも淀みだらけの代物だ。
「カディナを…つれて、いくな…!」
痛みに軋む体を震わせ、ハルは立ち上がりながら叫ぶ。
「しつけえな」
ケネスは乱暴にカディナの手を離すと、叫んだ子どもに向かって向き直った。
「……、」
ハルは男を睨んだまま、腰につけたナタに手を伸ばす。
「なんだ、なんでガキが剣なんて持ってやがる」
「アンタには…関係ない」
武器に訴える行動に、男は気を昂らせているようだ。
手に取ったそれは、非力なハルにとって数少ない武器であり力。
その行使も厭わないと思った。
その時だった。
「ちょっと待っておくれ、というかやめてほしい」
ハルは落ち着いた声を聞き、いかる男の肩を摑む手が見えたのだった。
「なんだ?俺に指図すんな…!」
声の方に向き直ったケネスはすかさず腕を振り上げた。
「…ってえ、いてててて!!!!」
が、その腕を容易くひねられたのだった。
「やめてくれるかい?」
腕を抑えてうずくまったケネスの影から、浅緑色のローブをまとった細身の男が立っているのが見える。
男は黒く長い後ろ髪を束ねていて、首からは数本のネックレスをつけていた。
そのネックレスに交じるように光沢のある長方形の証が見え隠れしている。
「おい、あれ金属の証だぜ」
「銀級、ソロ冒険者なら最高位じゃん…なんでノルデンブルグなんかに」
高級の冒険者という存在に、酒場の冒険者はどよめいた。
男は脇でカディナを守りながらハルの元へゆっくりと歩いてくる。
周囲の声のなか、心が乱れる感覚をハルは覚えさせられた。
「なんで…」
「ソロの銀級ってまさか…魔導師のソウガじゃねえか」
ハルの問いは、冒険者の一人からとんだ声にかき消される。
「え…?麗しのソウガ様!?」
「二年で銀級になった…? やば、珍しいもん見てる!」
「聖騎士仕草かよ…けッ、いけすかねえ」
「銀にとっちゃ石も石ころだよなあ…」
銀級は石級より圧倒的に強い冒険者であると言っていい。
冒険者たちの複雑な反応も、高名な存在だからだろうとハルは感じた。
ソウガという名前が聞こえた男は、痛みでふらつくハルに手を差し伸べる。
「平気かい?あ と武器から手を離してくれると助かる。」
「…なんで、」
男の手を頼りながら立ち上がったハルは再度尋ねる。
助けてくれたのか、ハルの言葉を待たずに男は受付の男を呼んだ。
「マスター済まない、この子達は私が補助員として迎えようと思った渡りなんだよ」
「なんと! そうなのですか!?」
この場での男の言動に、大きく驚いたのはハルとカディナだ。
「私が買い物してる間に獲物を持って来てしまったようで。騒がせてしまったようだね」
「いえいえ滅相もない、ソウガさんのお連れ様に私共もご無礼を働いてしまいまして」
二人を気にすることなく、大人たちは話を進める。
否定を挟もうにも、場はソウガしか見ていないような状況だ。
「えっと、あった。冒険者補助員。級に応じて雑用、弟子等の事由で12歳以上16歳未満の子どもを冒険者の随伴者にすることができる…マスター、銀級は何人だい?」
ソウガは受付に置かれている規約のページをめくり、開いたままの規約を机においた。
「三人でございます!」
マスターと呼ばれる男は自身の手をこねる体制に戻す。
男が奥の女性に数枚の書類様式を持ってこさせた。
「ありがとう、えっと女性二人で名前はカディナと…」
細かい文字で紙いっぱいに項目が書かれた書面にソウガは淀みなく筆を進ませていく。
「ただソウガ様、補助員は三ヶ月ごとに更新確認ありますのでご留意くださいね」
「あぁ、わかってるよ。ところでマスター、例の依頼は解決したかい?」
書類を書きながら、ソウガは小太りの男に本題を投げかける。
「いえ…強い冒険者パーティに頼むと見つからず、弱い方々は帰らず…まだ焦げ付いております」
マスターは暗い表情で頭を振る。
「そうだと思ったよ。今日はそれを受けようと思ってね、こうしてここまで来たんだ」
「左様でございますか…! それは心強い!」
暗い男の顔が、ソウガの一声で明るい笑顔に変わった。
ソウガは笑い返しながら目だけ今は席に戻ったケネスに目を向ける。
「冒険者の行き来が難しいから、あんなのが幅を利かせるのだろうし…このままではいやだろう」
「おっしゃるとおりです。」
歓談をしながら書き終えた書類を、ソウガは微笑みながら横に控える女性に渡す。
女性ははにかみながらそれを持って奥へと走っていった。
「だから、礼にはおよばないよ。こっちも君たちの力が必要なん…あれ?」
ソウガが話をしながら客席側へ向き直ると、子どもたちの姿はなくなっていた。
「ちょっとハルちゃん! 待ってよ!」
ノルデンブルグ市場の大通りで、カディナはハルの腕を掴んでいた。
鳥を伴い街の出口へ向かうハルの歩みを阻むのだった。
「…、冒険者になれないってことはわかったし。長居しても仕方ないだろ」
「でも、ソウガさん…だっけあの男の人。わたし達を助けてくれたのにお礼もしないのはどうなのかなって」
カディナの言葉に、ハルはわかりやすく顔を曇らせる。
「そもそも誰だよあいつ、それで都合よく補助員…? 冒険者にしてやるって? 裏があるに決まってるだろ」
カディナがでも、と言いかけたとき、ハルは不意に体を触られる感じを覚えた。
「裏はないよ、今からお話するからね!」
それとほぼ同時に、聞き覚えのある声が背中から聞こえた。
「っ!?」
肩に置かれた手を全力で払い除けながら、ハルは背後にいた男から大きく飛び退いた。
「ひどいなあ、置いていくことないだろ」
「ひどくない。アンタ誰なんだよ。」
ソウガを睨みつけたまま、ハルは口を動かし続けた。
「知らないおっさんがいきなり仲間ですとか、おかしいと思わない方がどうかしてるよ」
「ハルちゃん…おっさんって」
カディナの方にはソウガの手が置かれたままだ。
自分が手も足も出なかった男を、片手で捻り上げたソウガに挑んでも勝てる見込みはない。
ハルも頭ではわかっているからこそ、言葉にできない理不尽やままならなさが口をついた。
「助けてとも、冒険者にしてくれとも、ボクがアンタに言ったか? 言ってってないだろ!」
いつになく声を荒げるハルに、ソウガは息を吸い込んで答えた。
「ならなんだい?「君はあそこでごね続けていれば冒険者になれていたとでも?」」
「!」
ふと、ハルは目を丸くする。
一瞬、男の言葉にある日の少女の声が混じって聞こえたのだ。
「…」
ハルはそのまま静かに、男の顔を見た。
しかし、そこにいるのは先程あったばかりの男だ。
少女とは似ても似つかない大きな体をしている。
「私の顔になにか付いてるかい?」
「何でもない。」
目頭を押さえながら、ハルは小さく否定の相槌を打つ。
―何だ今の…言いかたが似ていたのか?
そしてハルは顔をしかめる。
再び男への反論を始めた。
「冒険者になることは手段であり目的じゃない…別にならなくたって僕はどうにか出来ていた! 赤の他人が、勝手なこと、すんなよ!」
淀むことなく口から出てきた、一言一言がハルの本心なのだろう。
「ハルちゃ…」
カディナが歩み寄ろうと名前を呼んだその時、ハルの腹が鳴る。
沈黙。
……カディナがくすっと笑った。
「どうにか出来ていた…ね。出来たとして、きみがその子を守れたとは、私は思わないよ。」
「…ッ」
ハルは睨みつけていたが、顔を額から顎先まで真っ赤にしている。
図星を突かれ、目から涙がこぼれそうだった。
「情けないと思うなら、一度でいいから力を貸してくれないか…渡すものもあるし、場所を変えよう。」
ソウガはそう閉めると、二人を飲食街へと促した。