みーつけた、をもう一度。   作:虚憂

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コウモリ女と、吸血鬼(コウモリ)の少女

「禁忌「レックレスバレット」……あはははは! どこまで耐えられるのかな、お姉さん!」

「……さて、呆気なく壊れてしまうかもしれませんよ?」

 

 

 直後、逃げ場のない地下室の闇を、狂気的なまでの熱量を孕んだ紅い魔弾が埋め尽くしました。壁を、床を、天井を縦横無尽に跳ね回り、触れるものすべてを微塵切りにせんと迫る、無謀なる破壊の嵐。

 浴びれば一瞬で塵芥。そんな絶望的な光の網を前にして、私は動かない右腕の激痛を意識の彼方へと追いやり、掲げた左手に、一枚の不確かな光の札を宿らせました。

 

 

「ええと、本当に。苦手、なんですけどねぇ……白符「ホワイトフェイス」」

 

 

 ふわり、と。

 私の呟きと共に、掲げた左手から、あるいは私の存在そのものから、境界を侵食するような『真っ白な光の波紋』が、怒涛の勢いで地下室へと広がっていきました。

 それは、ただの弾幕の形を借りた、私という怪異の『本質』の開帳。

 迫り来る紅い魔弾の軌道が、その白い波紋に触れた瞬間にことごとく「ゆらぎ」、まるで歪んだ鏡の中を突き進むかのように、私を避けて明後日の方向へと滑り落ちていく。

 

 

「あはは! なにこれ、弾幕が曲がっちゃう! 面白い!」

「……ふふ、お嬢さん。私の顔(ホワイトフェイス)を覗こうとするから、視界が狂ってしまうのですよ?」

 

 

 激しく弾け飛ぶ紅と白の光の火花。

 どこを向いているかも分からない白い影が、狭い密室の中で、破壊神の猛攻をすり抜けるための奇妙で美しいステップを刻み始めるのでした。

 

 

 白い波紋が広がる空間の中、私の放つ弾幕もまた、彼女へと向かって進んでいきます。

 それは、目を見張るような速度も、視界を埋め尽くすような物量もない、ただ、ゆらゆらと頼りなく空間を漂うだけの、遅い、白い弾幕です。

 

 ――ですが、私の『ゆらぎ』は錯覚を与える力。

 そこに浮遊する白い光球の「見えている位置」と「実際の位置」は、私の力でデタラメに歪められています。

 まだ遠くにあると思って「掠り」を狙おうと近づけば、距離感を誤認したまま実際にはすでに肉薄していた弾幕に激突する。そんな、近づく者すべてを殺すための、私なりの最高に意地の悪い小細工。

 

 ですが――。

 

 

「あはは、おっそーい!」

 

「……でも、不用意なことはしちゃだめだもんね?」

 

 

 楽しげな声と共に、彼女の身体が夜の蝙蝠のように軽やかに翻りました。

 破壊の化身たるお嬢さんは、その歪んだ距離感の罠に一切足を踏み入れることなく、最初から私の弾幕そのものを、余裕を持って遥か遠くへと避けられたのです。

 

 

「おや、弾幕ごっこの醍醐味である、ぎりぎりを競わなくてもよろしいので?」

「ふふふ、お姉さんってば頭いいからね。わざわざそっちの土台に乗ってあげる必要はないのさ!」

 

 

 ――おやおや、これは、本当に困りましたねぇ。

 無邪気な狂気の裏にある、怪物としての圧倒的なまでの戦闘直感。

 私の張り巡らせた「距離感の誤認」という搦め手を、彼女はその恐るべき野生のセンスで、初めからすべて見抜いて、安全圏から悠々と眺めている。

 

 仕掛けた罠が最初から通じないとなれば、いよいよ本格的に打つ手がありません。

 この狭い地下室で、私はこの『破壊神』の猛攻を前に、一体どれだけの時間、形を保っていられるのでしょうか――。

 

 

「あ、そうだ!」

「?」

 

 

 初手の距離感の小細工を完璧に見透かされてしまい、動かない右腕の重みを感じながら、次の一手をどうしようかと逡巡していた、その時でした。

 お嬢さんが、何か最高にいいことを思いついたかのように、ぱぁっとその幼い顔に邪気のない笑みを浮かべます。

 

 

「ふっふっふ〜、こうすればもっと面白いよね!」

「ええと……どのような企みで?」

「……すぐに壊れちゃわないでね、お姉さん」

「禁忌「フォーオブアカインド」」

「わ」

 

 

 そう唱えた瞬間、彼女の姿が万華鏡のように激しくゆらぎ、そして……。

 

 

「あははは!」

「わー、驚いてる驚いてる!」

「どうしちゃおっか?」

「この状態でキュッとしたら壊れちゃうのかな?」

「……まじですか?」

 

 

 思わず、お上品な店番としての仮面を保つことすら忘れて、素の呟きが漏れてしまいました。

 

 何せ、目の前で七色の羽を輝かせていたお嬢さんが、一瞬の不確かな揺らぎの後に、寸分違わぬ姿のまま**『四人』**に増えてしまわれたのですから。

 

 一人を相手にするだけでも、右腕を潰されて世界の隙間に逃げ込むのが精一杯だったのです。それが、狭い地下室の四方を完全に囲む形で、等価の破壊神が四倍の暴力となってそこに佇んでいる。

 四つの方向から注がれる、純粋で、残酷で、きらきらとした好奇心の視線。

 

 ……え、待ってください。本当に、これ冗談抜きで詰んじゃいましたかね、私?

 

 

「あなたの血は美味しいのかな?」

「そもそも妖怪の血って飲めるの?」

「えーわかんなーい」

「うーん……じゃあ、目の前のお姉さんで試してみよっか!」

「「「さんせーい!!」」」

「……どういう会話なんです?」

 

 

 四方から楽しげに重なり合う、鈴を転がすような愛らしい声。

 それが紡ぐ凄惨極まりない内容に、私はついに、顔布の上から片手で顔を覆ってしまいました。

 お上品に弾幕で踊るどころか、このお嬢様たち、完全に私を「本日のおやつ(試飲用)」として処理する気満々ではありませんか。

 吸血鬼の、それも一切のブレーキを持たない無垢な怪物の本能が、四倍になって私の一挙手一投足を見つめている。

 冷たい地下室の空気が、彼女たちの放つ圧倒的な妖気でじりじりと焼け焦げていくのが分かります。

 四人が同時に掌を『きゅっ』と握れば、あるいはその牙を剥いて飛びかかってくれば、私の『ゆらぎ』の隙間ごと、この存在そのものを噛み砕かれて吸い尽くされるでしょう。

 

 ですが、まぁ……。

 

 

「ふふ、私はお茶菓子ではありませんので」

「?」

 

 

 掲げた左手をすっと横に引き、私は顔布の奥で、静かに、けれど絶対に折れない笑みを湛えました。

 四人の視線が、私のその不敵な態度に釘付けになります。

 

 

「せっかくの美味しいお菓子、それを私なんかの血で汚させたりはしませんよ」

 

 

 ――ええ、そうですとも。

 私はおばあちゃんから、大切な注文を預かってここへ来たのです。

 お嬢様方がそれを召し上がる前に、館を汚し、お菓子を台無しにするような無粋な真似、この店番の意地にかけて絶対に許すわけにはいきません。

 

 四倍の破壊神がもたらす『フォーオブアカインド』。

 ならば、こちらはその四つの視線すべてを同時に欺く、本当の『ゆらぎの極致』をお見せするまでのこと。

 

「お嬢さん。あなたに、本当の『かくれんぼ』の恐ろしさを、少しだけ教えて差し上げます」

 

 

 私の影が、真っ白な『ホワイトフェイス』の波紋と共に、四人の目の前で同時に、無数にブレるようにゆらめき始めました。

 

 私がそう言い放った瞬間、地下室の濃密な殺気が、ほんの一瞬だけ、奇妙な静寂へと裏返りました。

 四人の破壊神が同時に首を傾げ、私という「壊れないおもちゃ」の次なる挙動を凝視する。

 その、わずかな隙。

 私は掲げた左手を、まるで水面に指先を浸すように、優雅に、そして鋭く、空間の「隙間」へと振り下ろしました。

 

 

「無相「コウモリ女の紡ぐ甘言」」

 

 

 私の唇から漏れたのは、歌うような、あるいは囁くような、不確かな吐息。

 

 

「……惑わされないでくださいね、お嬢さん」

 

 

 瞬間、地下室を満たしていた真っ白な『ホワイトフェイス』の波紋が、一斉に反転し、無数の「言葉の裏返り」となって四人の耳元へと収束していきました。

 

 それは、五感すべてを『歪曲』させる最悪の甘言。

 右に見えるものが左に、遠くにあるものが近くに、そして――目の前にいる私の本体が、まるで「自分自身の分身」であるかのように錯覚させる、認識の万華鏡。

 四人のフランちゃんたちの視界の中で、私の輪郭がドロリと溶け、お互いがお互いを「あのお姉さん」だと誤認するような、歪な運命の糸が絡み合っていく。

 

 

「あれ……? お姉さん、どこ行っちゃったの?」

「そっちにいるよ!」

「ううん、そっちじゃないもん!」

 

 

 ――さあ、神の御手を持つお嬢さん方。

 四人がかりのその強大な力、お互いに握り潰し合ってしまわないよう、せいぜいお気をつけあそばせ?

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