Fate/Divine Brush──桜花浄界──   作:一般ガス会社社員

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Cutting the Swallow

 

 葛木宗一郎が、キャスターの隣に立っていた。

 

 士郎は、しばらく言葉を失っていた。

 

 見間違えるはずがない。

 

 穂群原学園の世界史教師。

 

 生徒会の顧問。

 

 一成が信頼し、藤ねえも職員室で普通に話している、あの葛木先生。

 

 学校の廊下で何度もすれ違った。

 

 授業で何度も声を聞いた。

 

 無駄なことを言わず、いつも淡々としていて、けれど決して生徒を雑に扱う人ではなかった。

 

 その葛木宗一郎が、夜の柳洞寺で、キャスターの隣に立っている。

 

 足音もなく。

 

 気配もなく。

 

 まるで最初からこの闇の一部だったように。

 

「どうして……先生が、ここに」

 

 士郎の声は、自分でも驚くほど弱かった。

 

 葛木は答えない。

 

 その代わり、キャスターが微笑んだ。

 

「紹介するわ。私のマスター、葛木宗一郎様よ」

 

「マスター……?」

 

 凛の声が掠れた。

 

「葛木先生が……キャスターの、マスター……?」

 

「ええ」

 

 キャスターは当然のように頷く。

 

「何か不思議かしら」

 

「不思議に決まってるでしょ……! 葛木先生に魔術師の気配なんて、今まで一度も……!」

 

「彼が魔術師である必要はないわ」

 

 キャスターは穏やかに言った。

 

「私のマスターである。それで十分よ」

 

 凛が息を呑む。

 

 士郎には、まだ整理できなかった。

 

 マスター。

 

 葛木先生が。

 

 自分たちと同じ学校にいる教師が。

 

 聖杯戦争に関わっていた。

 

 その事実が、頭の中でうまく形にならない。

 

「先生」

 

 士郎は一歩、前に出かけた。

 

「何で、キャスターと一緒にいるんですか。慎二をどうするつもりなんですか」

 

 葛木は、静かに士郎を見た。

 

 学校で授業をしている時と、同じ目だった。

 

 怒っていない。

 

 焦っていない。

 

 ただ、目の前の状況を見ている。

 

「衛宮」

 

 葛木が初めて口を開いた。

 

「下がれ」

 

 それは、学校で生徒に注意する時の声と同じだった。

 

 だが、ここは教室ではない。

 

 士郎の背筋に冷たいものが走った。

 

 アーチャーが干将・莫耶を構え直す。

 

「下がれ、士郎」

 

「アーチャー」

 

「奴は人間だ。だが、ただの人間と思うな」

 

 その言葉が終わるより早く、葛木が動いた。

 

 足音はなかった。

 

 踏み込みの気配もない。

 

 肩も、腰も、視線も、予備動作らしいものを見せなかった。

 

 ただ、次の瞬間には、葛木の拳がアーチャーの間合いに入っていた。

 

 アーチャーが黒い干将で受ける。

 

 鈍い衝撃。

 

 人間の拳とは思えない重さが、双剣越しに響いた。

 

 アーチャーの腕がわずかに沈む。

 

 葛木の二撃目が来る。

 

 それはまっすぐではなかった。

 

 拳の軌道が途中で折れたように変わる。双剣の隙間を縫うように、ありえない角度からアーチャーの胸元へ入ってくる。

 

 アーチャーは身を引いた。

 

 だが完全には避けきれない。

 

 拳が赤い外套を掠め、アーチャーの体勢がわずかに崩れた。

 

「……なるほど」

 

 アーチャーの目が細くなる。

 

「人間の動きではないな」

 

「人間よ」

 

 キャスターが微笑んだ。

 

「ただし、あなたたちが知る“普通”ではないだけ」

 

 葛木は止まらない。

 

 踏み込む。

 

 拳。

 

 掌底。

 

 肘。

 

 その全てが、普通の格闘技の流れから外れていた。

 

 読めない。

 

 殺気がない。

 

 攻撃の直前に身体が告げるはずの気配が、ほとんど存在しない。

 

 アーチャーは干将・莫耶で受け、流し、時には双剣を投げて距離を取ろうとする。

 

 だが、葛木はその一歩外へ出る。

 

 アーチャーの剣が戻るより早く、間合いを詰める。

 

「身体強化……!」

 

 凛が呟いた。

 

「キャスターの強化が乗ってる。でも、それだけじゃない。動きそのものがおかしい」

 

「強化は魔女のものだ」

 

 アーチャーは葛木の拳を双剣で受け止めながら言った。

 

「だが、この軌道は奴自身の技だ。気をつけろ。近づけば、こちらが落ちる」

 

 士郎は、ただ見ているしかなかった。

 

 葛木先生が戦っている。

 

 アーチャーと。

 

 人間であるはずの教師が、サーヴァント相手に拳を届かせている。

 

 その異常さに、思考が追いつかない。

 

 だが、見なければならない。

 

 逃げるだけでは駄目だ。

 

 士郎は凛に補助された視界で、葛木を見た。

 

 葛木の体そのものに、強い魔力はない。

 

 だが、その腕と脚に、薄い紫の線が絡んでいる。

 

 キャスターの魔力。

 

 それが葛木の動きを補強している。

 

「遠坂!」

 

「何!」

 

「葛木先生の腕と脚に、紫の線が絡んでる! キャスターから流れてる!」

 

 凛の目が変わった。

 

「強化の供給線……!」

 

 葛木の拳がアーチャーの防御を崩す。

 

 その隙を狙って、紫の鎖が凛へ伸びる。

 

 士郎は動きかけた。

 

 だが、前へ出ない。

 

 代わりに叫ぶ。

 

「右、足元!」

 

 凛は即座に飛び退いた。

 

 鎖が石畳を砕く。

 

「見えてるなら、もっと早く言いなさい!」

 

「無茶言うな!」

 

 凛は文句を言いながらも、宝石を一つ取り出した。

 

「アーチャー、一瞬だけ押さえて!」

 

「簡単に言う」

 

 アーチャーは干将・莫耶を交差させた。

 

 葛木の拳がそこへ叩き込まれる。

 

 重い。

 

 だが、アーチャーは踏みとどまった。

 

 黒い剣を引き、白い剣を滑らせるように使って、葛木の腕の軌道を外へ流す。

 

 その一瞬。

 

 凛の宝石が飛んだ。

 

 狙いは葛木本人ではない。

 

 葛木の腕に絡みつく、キャスターの紫の線。

 

 宝石が弾ける。

 

 強化の供給線が、一瞬だけ乱れた。

 

 葛木の拳の重さが、わずかに落ちる。

 

 アーチャーはそこを逃さなかった。

 

 干将で葛木の腕を弾き、莫耶で胴の前へ切り込む。

 

 葛木は後ろへ下がった。

 

 足音は、やはりない。

 

 キャスターの表情がわずかに冷えた。

 

「遠坂の娘。目障りね」

 

「お互い様よ」

 

 凛は息を切らしながら言った。

 

「やっぱり強化線は切れる。先生本人の動きは止まらないけど、威力は落とせる」

 

「ならば続けろ」

 

 アーチャーが言った。

 

「こちらも長くは持たん」

 

 士郎は拳を握った。

 

 見える。

 

 なら、伝えろ。

 

 今の自分にできることをしろ。

 

 その時、本堂の奥からかすかな声が聞こえた。

 

「……桜……」

 

 慎二の声だった。

 

 士郎の体が反応する。

 

 けれど、足は動かなかった。

 

 ここで動けば、全部崩れる。

 

 慎二は奥にいる。

 

 まだ救えていない。

 

 でも、さっき声は届いた。

 

 なら、今ここで焦るな。

 

 凛が士郎を横目で見た。

 

 士郎は小さく頷く。

 

「大丈夫だ。行かない」

 

「よし」

 

 凛は短く言った。

 

 キャスターは、それを見て笑みを薄めた。

 

「本当に、学ぶのが早いのね」

 

「何度も同じ手は食わない」

 

 士郎は言った。

 

 キャスターは返事をしなかった。

 

 代わりに、工房の術式がさらに強く光る。

 

 影の兵が再び立ち上がった。

 

 葛木が無音で踏み込む。

 

 アーチャーが双剣で迎える。

 

 凛が供給線を狙う。

 

 士郎が線を見る。

 

 その連携は、少しずつ形になっていた。

 

 だが、それでも不利だった。

 

 ここはキャスターの工房。

 

 山門ではセイバーが孤立している。

 

 慎二は奥に下げられたまま。

 

 葛木の正体も、まだ掴みきれていない。

 

 凛は歯を食いしばった。

 

「駄目ね」

 

「遠坂?」

 

「今夜はここまで。これ以上は押し切れない」

 

 士郎は本堂の奥を見た。

 

 慎二がいる。

 

 まだそこにいる。

 

 けれど、凛の判断が正しいことも分かっていた。

 

 ここで無理をすれば、今度こそ戻れない。

 

 慎二を助けるどころではなくなる。

 

「……分かった」

 

 士郎は言った。

 

「今は退く」

 

 凛は一瞬だけ士郎を見た。

 

 それから頷く。

 

「アーチャー、退路を作って!」

 

「了解した」

 

 アーチャーは干将・莫耶を投げた。

 

 黒白の双剣が弧を描き、影の兵の核を貫く。

 

 戻ってきた剣を掴むと同時に、アーチャーは弓へ持ち替えた。

 

 投影された弓が夜に浮かぶ。

 

 矢が放たれる。

 

 境内の端に張られた術式の一つが砕けた。

 

 凛が宝石を重ねる。

 

「退路を開くわ。走れる?」

 

「走る」

 

 士郎は答えた。

 

 キャスターが手を上げる。

 

「逃がすと思う?」

 

 紫の鎖が一斉に伸びる。

 

 葛木が動く。

 

 アーチャーがその前に立った。

 

「行け」

 

「アーチャー!」

 

「振り返るな。山門へ向かえ。セイバーと合流しろ」

 

 凛が士郎の腕を掴む。

 

「行くわよ!」

 

 士郎は走った。

 

 背後で、アーチャーと葛木がぶつかる音がした。

 

 いや、音はなかった。

 

 葛木の足音も、踏み込みもない。

 

 ただ、アーチャーの双剣が衝撃を受ける音だけが夜に響いた。

 

 山門へ向かう。

 

 境内を抜ける。

 

 凛の宝石が術式を砕き、士郎が見えた線を叫び、二人は罠を避けて走った。

 

 だが、山門にはまだアサシンがいる。

 

 そこを抜けられなければ、退路はない。

 

 ◇

 

 山門では、セイバーとアサシンの剣が再びぶつかっていた。

 

 アサシンは静かに息を整えていた。

 

 セイバーもまた、剣を構え直す。

 

 互いに大きな傷はない。

 

 だが、戦いは確実に削り合いになっていた。

 

 柳洞寺の結界が、セイバーの力を抑えている。

 

 アサシンの長刀は、激しい打ち合いの中で、ほんのわずかに歪みを生じていた。

 

 普通なら気づかない。

 

 戦闘中ならなおさらだ。

 

 だが、セイバーは見ていた。

 

 不可視の剣を通して、刃と刃が触れ合うたびに伝わる感触。

 

 長刀の軌道。

 

 燕返しを放つ前の構え。

 

 その全てから、わずかな狂いを感じ取っていた。

 

「……完全ではない」

 

 セイバーが呟く。

 

 アサシンの目が細くなる。

 

「気づいたか」

 

「あなたの秘剣は完璧です。ですが、その刀が、わずかに追いついていない」

 

「ふ」

 

 アサシンは笑った。

 

「この長物も、よく保った方だ。騎士王の剣を相手に、ここまで折れずにいたのだからな」

 

 アサシンは長刀を構える。

 

「だが、歪んでいようと、この一刀が最後まで届くならば、それでよい」

 

 セイバーは不可視の剣を構えた。

 

 山門の下から、凛の声が微かに聞こえた。

 

「セイバー!」

 

 士郎の気配も近づいている。

 

 撤退してきている。

 

 ならば、ここを抜かなければならない。

 

 マスターを通すために。

 

 仲間を帰すために。

 

 この剣士を、越える。

 

「アサシン」

 

 セイバーが言った。

 

「あなたの剣、見事でした」

 

「まだ終わっておらぬぞ」

 

「ええ。だから、次で終わらせます」

 

 アサシンは笑った。

 

 嬉しそうに。

 

「よい。ならば、最後の燕を見せよう」

 

 空気が止まる。

 

 再び、秘剣の構え。

 

 セイバーは逃げない。

 

 真正面に立つ。

 

 アサシンの全てが一点に収束する。

 

 そして、長刀が走った。

 

「燕返し」

 

 三つの刃が来る。

 

 上から。

 

 横から。

 

 斜め下から。

 

 セイバーの甲冑が裂けた。

 

 風の結界が乱れる。

 

 刃が肌を掠める。

 

 それでも、セイバーは踏み込んだ。

 

 完全ではない。

 

 わずかな歪み。

 

 三つの斬撃の重なりが、ほんの一瞬だけずれる。

 

 その隙間へ、セイバーは身を滑り込ませた。

 

 不可視の剣が振り抜かれる。

 

 一瞬、月明かりが砕けたように見えた。

 

 金属音。

 

 アサシンの長刀が、半ばから折れる。

 

 セイバーの剣は、その先に届いていた。

 

 アサシンは動かなかった。

 

 静かに、自分の折れた刀を見た。

 

 それから、セイバーを見る。

 

「見事」

 

 その声には、悔しさよりも満足があった。

 

 セイバーは剣を下げた。

 

「あなたの剣も、見事でした」

 

「門番としては敗れた」

 

 アサシンは薄く笑う。

 

「だが、剣士としては、悪くない夜だった」

 

 夜風が山門を抜ける。

 

 アサシンの姿が、少しずつ薄れていく。

 

「騎士王よ。よい剣だった」

 

「佐々木小次郎。あなたも」

 

 アサシンは最後に、楽しげに笑った。

 

 そして、山門の影へ溶けるように消えた。

 

 その直後、士郎と凛が石段へ駆け込んでくる。

 

「セイバー!」

 

 士郎が叫んだ。

 

 セイバーは振り返る。

 

 鎧には裂け目があり、腕には血が滲んでいる。

 

 だが、立っていた。

 

「マスター、道は開きました」

 

「セイバー、お前……」

 

「後で構いません。今は退くべきです」

 

 凛が息を切らしながら頷く。

 

「その通り。急いで!」

 

 アーチャーが少し遅れて境内から後退してきた。

 

 干将・莫耶を構えたまま、背後を警戒している。

 

 その奥には、キャスターと葛木がいた。

 

 キャスターは山門の方を見て、表情をわずかに歪めた。

 

「……アサシンが落ちたのね」

 

 セイバーが一歩、士郎たちの前に出る。

 

 葛木がそれを見る。

 

 セイバーもまた、葛木を見た。

 

「人間……?」

 

 セイバーの声には、警戒があった。

 

 アーチャーが低く言う。

 

「油断するな。そいつは人間だが、近づけば危険だ」

 

 葛木は何も言わない。

 

 キャスターは葛木の隣で微笑んだ。

 

「追いますか、宗一郎様」

 

 葛木は静かに首を横に振った。

 

「必要ない」

 

「よろしいのですか?」

 

「門番は失った。ここで深追いする意味は薄い」

 

 キャスターは少し不満げだった。

 

 だが、すぐに微笑む。

 

「宗一郎様がそう仰るなら」

 

 士郎は拳を握った。

 

 慎二はまだ中にいる。

 

 でも今は戻れない。

 

 セイバーが道を開いた。

 

 アーチャーが退路を作った。

 

 凛が撤退を選んだ。

 

 なら、その全てを無駄にしてはいけない。

 

「行こう」

 

 士郎は言った。

 

 凛が頷く。

 

 セイバーが前に立ち、アーチャーが後ろを守る。

 

 士郎たちは柳洞寺を離れた。

 

 ◇

 

 衛宮邸に戻った時、夜は深くなっていた。

 

 桜は起きて待っていた。

 

 ライダーも庭で伏せていたが、士郎たちが帰ってくるとすぐに立ち上がった。

 

 白い神狼の神鏡が、月明かりを受けて淡く光る。

 

 桜は士郎たちの姿を見るなり、顔色を変えた。

 

「先輩……! セイバーさん、その怪我……」

 

「大丈夫です」

 

 セイバーは静かに答えた。

 

「深い傷ではありません」

 

「大丈夫って顔じゃないでしょ」

 

 凛が言う。

 

「とりあえず座って。話はそれから」

 

 茶の間に戻ると、士郎たちは今日の出来事を話した。

 

 キャスターの工房。

 

 慎二の意識が少し戻ったこと。

 

 桜は来ていない、と伝えたこと。

 

 慎二が「そうかよ」と答えたこと。

 

 桜はその話を、膝の上で手を握りながら聞いていた。

 

「兄さんが……私のことを」

 

「ああ」

 

 士郎は頷いた。

 

「まだ完全には戻ってない。でも、声は届いた。キャスターの支配も少し弱くできた」

 

 桜は目を伏せる。

 

 安心したような、苦しそうな表情だった。

 

「そう、ですか」

 

 ライダーが桜のそばへ寄る。

 

 桜はその毛並みに触れた。

 

 凛は続けた。

 

「それと、もう一つ。キャスターのマスターが分かった」

 

 桜が顔を上げる。

 

「誰なんですか」

 

 士郎は少しだけ言葉に詰まった。

 

「葛木先生だった」

 

「……葛木、先生?」

 

 桜の目が見開かれる。

 

「学校の……?」

 

「ああ」

 

 部屋の空気が重くなる。

 

 日常がまた一つ、聖杯戦争に侵食された。

 

 学校。

 

 慎二。

 

 そして、教師。

 

 安全だと思っていた場所や人が、少しずつ戦争の中へ引きずり込まれていく。

 

 凛は腕を組んだ。

 

「葛木先生は魔術師じゃない。少なくとも、私にはそう見える。でも、キャスターの強化を受けた状態だと、サーヴァント相手でも近接戦が成立する。かなり危険よ」

 

「アーチャーでも?」

 

「正面から受けられた。でも余裕はなかった」

 

 アーチャーは壁際で腕を組んでいる。

 

「初見ならば危険だ。次があれば、対処は変える」

 

「次……」

 

 士郎は柳洞寺を思い出す。

 

 慎二はまだあそこにいる。

 

 キャスターも、葛木もいる。

 

 アサシンはセイバーが倒した。

 

 だが、敵の本丸は残っている。

 

 凛はライダーを見た。

 

 白い神狼は静かに伏せている。

 

 しかし、その目は凛を見ていた。

 

「次に柳洞寺へ行くなら、ライダー抜きでは厳しい」

 

 桜の手が、ライダーの毛並みの上で止まった。

 

 凛は慎重に続ける。

 

「キャスターはライダーを警戒している。だからこそ、連れていかなかった。でも、今日分かった。セイバー、アーチャー、私たちだけでも戦えはする。でも、慎二くんを助けて、キャスターの工房を崩すなら、もう一手いる」

 

 ライダーの神鏡が、淡く光った。

 

 桜はライダーを見る。

 

「ライダーさん……」

 

 ライダーは桜を見返す。

 

 何も言わない。

 

 けれど、その目は静かだった。

 

 士郎はその様子を見て、息を吐いた。

 

 今日は慎二を助けられなかった。

 

 だが、声は届いた。

 

 アサシンは倒した。

 

 葛木の存在を知った。

 

 次へ進むためのものは、確かに持ち帰った。

 

 夜の衛宮邸は静かだった。

 

 けれど、その静けさの奥で、次の戦いがもう始まっていた。





アサシン撃破

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