Fate/Divine Brush──桜花浄界── 作:一般ガス会社社員
戦闘描写ムズカシイ
柳洞寺の石段に、白い神狼が足を置いた。
その瞬間、山の空気が変わった。
前に来た時、士郎が感じたのは重さだった。
霊山全体に張られた結界が、セイバーの力を押さえつけ、サーヴァントという異物を拒む重い圧力。空気そのものが濃くなり、足元の石段が術式の一部に変わったような感覚。
だが、今は違う。
柳洞寺の結界は、ライダーを押さえ込もうとしているのではない。
拒んでいる。
山の霊気がざわめき、石段に染み込んだ魔力が、白い神狼の足元から逃げるように揺れる。キャスターの工房へと続く湿った魔力は、ライダーの神気に触れることを嫌がるように、不自然に歪んでいた。
ライダーの背の神鏡が淡く光る。
夜の山に、朝の気配が落ちたようだった。
「セイバーの時と反応が違う……」
凛が低く呟く。
「押さえ込んでるんじゃない。弾こうとしてる。でも、弾けてない」
アーチャーが石段の上を見据える。
「異物として拒絶しているのだろう。だが、拒絶できるだけの力が足りていない」
ライダーは、二人の言葉を聞いているのかいないのか、ただ前を向いていた。
白い毛並みが夜風に揺れる。
赤い隈取が、闇の中で静かに浮かんでいる。
士郎はその背中を見た。
今朝、桜がその背を送り出した。
ここに来ているのは、ただの戦力ではない。
桜が自分の意思で送り出した、守るための神狼だ。
「行こう」
士郎が言う。
セイバーが頷いた。
凛が宝石を握り直す。
アーチャーは周囲を警戒したまま、霊体化せずに後方へついた。
ライダーが石段を上がる。
一歩。
また一歩。
その足跡の周囲だけ、湿った魔力が薄れていく。赤い糸の残滓が石段の隙間から伸びようとしたが、白い足が近づいた瞬間、朝日に晒された霜のように消えた。
凛が息を呑む。
「罠が起動する前に消えてる……」
「これが、ライダーの神気ですか」
セイバーの声にも驚きがあった。
ライダーは振り返らない。
ただ、石段の上にある山門へ向かって進んだ。
山門には、もう剣士の影はない。
佐々木小次郎。
セイバーが越えた剣士。
そこにあった気配は、今は静かに消えている。
だが、門そのものにはキャスターの術式が残っていた。赤い糸が門の柱へ絡みつき、通る者を感知しようとしている。前回は見えなかった細い罠が、凛の補助を受けた士郎の視界に浮かび上がる。
「門にまだ線がある」
士郎が言った。
「分かってる」
凛が宝石を構えようとした。
だが、その前にライダーが山門をくぐった。
赤い糸が一斉に動く。
白い神狼を絡め取ろうと、柱から床へ、床から空中へと伸びる。
しかし、届かなかった。
ライダーの神鏡が一度だけ光る。
赤い糸は、その光に触れた瞬間、音もなく焼き切れた。
燃え上がる炎ではない。
強い衝撃でもない。
ただ、そこに存在することを許されなかったかのように、糸が消える。
士郎は思わず立ち止まった。
「すごいな……」
「感心してる場合じゃないわ」
凛はそう言いながらも、目はライダーを見ていた。
「でも、正直すごい。キャスターの術式が、完全に嫌がってる」
山門を越える。
境内が見えた。
石畳。
灯籠。
本堂の影。
前回、士郎たちを絡め取ろうとした魔術の線が、あちこちに張り巡らされている。
だが、その線は前回よりも乱れていた。
ライダーがいる。
それだけで、工房全体の気配が不安定になっている。
柳洞寺の奥で、キャスターの声が響いた。
「本当に来たのね」
境内の影が揺れる。
ローブをまとった女が、本堂の前に現れた。
顔は影に隠れている。
だが、その声にははっきりとした嫌悪が混じっていた。
「白い荒神」
ライダーは静かにキャスターを見た。
唸らない。
吠えない。
ただ、その目だけがキャスターを捉えている。
キャスターの指が動いた。
石畳の黒い染みが膨らむ。
影の兵が立ち上がった。
一体、二体、三体。
前回よりも数が多い。キャスターはライダーを止めるために、工房の魔力を惜しまず使っているのだろう。
影の兵は刃のような腕を伸ばし、士郎たちへ向かってくる。
セイバーが前へ出ようとした。
だが、その横を白い影が駆けた。
ライダーだった。
地面を蹴る音は軽い。
だが、動きは速い。
白い毛並みが夜の境内に光の尾を引く。
影の兵が腕を振るう。
ライダーはそれをかいくぐり、神鏡を一閃させた。
光が走る。
影の兵の中心が焼ける。
影は形を保てず、黒い霧となって散った。
再形成しない。
もう一体が背後から襲う。
ライダーは体を捻り、尾を振るようにしてかわす。そのまま爪で石畳を蹴り、神鏡の光を横へ流した。
二体目も消える。
三体目は士郎へ向かっていた。
士郎は反応できない。
だが、その前にライダーが割り込む。
影の刃が白い毛並みに触れる前に、神気に焼かれて崩れた。
ライダーは士郎を一瞥した。
大丈夫か、とでも言うような目。
「あ、ああ」
士郎は頷く。
「助かった」
ライダーは軽く鼻を鳴らすと、再びキャスターへ向き直った。
キャスターの表情が歪む。
「忌々しい……」
その声は、以前よりも冷たかった。
「術式を解析しているわけでも、魔力で押し潰しているわけでもない。ただ在るだけで、私の術を穢れとして祓うなんて」
キャスターが手を広げる。
今度は地面ではなく、空中に赤い糸が走った。
境内の灯籠から本堂の柱へ、柱から木々の影へ、蜘蛛の巣のように糸が張られていく。地面に触れればライダーの神気に焼かれる。ならば、空から絡め取る。そういう意図が見えた。
「上!」
凛が叫ぶ。
赤い糸が一斉に降り注いだ。
士郎たちを絡め取り、ライダーを包み込もうとする。
ライダーの神鏡が強く光った。
その瞬間。
世界から音が消えた。
風が止まる。
赤い糸が空中で止まる。
凛が叫びかけた姿勢のまま、髪の先まで動かない。
セイバーの剣にまとわりつく風も、アーチャーの外套も、落ちかけていた木の葉も、全てが止まっていた。
柳洞寺の境内が、墨で描かれた一枚の絵になっていた。
白と黒。
わずかな朱。
そこにある全てが、動くものではなく、描かれたものになる。
その静止した世界の中で、動いているものがあった。
筆。
どこからともなく現れた、巨大な筆。
それは誰かの手に握られているわけではない。けれど、確かな意思を持って空を走る。
ライダーの神鏡が光る。
神の筆が、空中へ一本の線を引いた。
一閃。
赤い糸を断つための、ただ一本の墨の線。
次の瞬間、音が戻った。
風が戻る。
凛の叫びが遅れて響く。
そして、空中に張り巡らされていた赤い糸が、一斉に断たれた。
糸はばらばらに崩れ、神気に触れた端から消えていく。
士郎は、息をするのを忘れていた。
「今……」
何が起きた。
赤い糸が迫っていた。
それが、次の瞬間には断たれていた。
斬ったというより、世界に線を引いた。
そんな感覚だった。
「今、止まったのか?」
士郎が呟く。
凛も、すぐには答えなかった。
彼女の目は、ライダーの背の神鏡を見ている。驚きと警戒、そして魔術師としての興味が入り混じった目だった。
「時間停止……とは違うと思う」
「違う?」
「ええ。たぶん、時間そのものを止めたんじゃない。ライダーの神域の中で、世界を一瞬だけ“絵”として固定したのよ」
凛は慎重に言葉を選んだ。
「動いている世界を、墨絵の一枚にする。その上に筆を入れる。現実に戻った時、描かれた結果だけが残る。そういう力なんだと思う」
士郎はライダーを見る。
白い神狼は、何事もなかったかのように立っていた。だが、背の神鏡は淡く光り、空中にはまだ、断ち切られた糸の余韻が残っている。
「世界を、絵にする……」
士郎は呟いた。
それは、今まで見てきたライダーの行動に繋がっていくような気がした。
桜を救った時。
衛宮邸を清めた時。
士郎の傷をなぞった時。
ライダーは魔術式を作っていたのではない。
何かを描き、その描いた形を現実にしていた。
「つまり、ライダーは術式を壊したんじゃなくて……世界を絵にして、そこに線を引いたのか」
凛が少しだけ士郎を見る。
驚いたような顔だった。
「……感覚的には、たぶんそれが一番近いわ」
凛はすぐに視線を戻す。
「魔術じゃない。少なくとも、私たちが扱う魔術とは根本から違う。神域の中で世界を一瞬だけ固定して、そこへ干渉する神の奇跡。外から見れば時間が止まったように見えるけど、たぶん本質はそっちよ」
キャスターの表情が歪んだ。
「本当に、不愉快な神気ね」
その声には、明確な嫌悪があった。
「術式を解析しているわけでも、魔力で押し潰しているわけでもない。ただ世界を絵として扱い、私の糸を不要な線として消したというの?」
キャスターの指先が震える。
怒りではない。
警戒だった。
「理屈ですらない。魔術師を馬鹿にしているわ」
ライダーは低く鼻を鳴らした。
キャスターの怒りなど、知ったことではないと言わんばかりだった。
だが、キャスターはすぐに術式を切り替えた。
地面の術式が赤く光る。
境内の灯籠。
本堂の柱。
石畳の隙間。
木々の影。
そこに、赤い糸と紫の魔力が絡み合った結び目が浮かび上がる。
それらは工房全体を支える節だった。
赤い糸を一本斬られても、別の線で補う。影の兵を祓われても、別の場所から生み出す。キャスターは工房を蜘蛛の巣のように組み替え、ライダーの神気に対抗しようとしていた。
「単純に斬られるなら、編み直せばいい」
キャスターの声が冷える。
「あなたの筆がどこまで届くのか、試してあげるわ」
術式の結び目から、赤い糸が再び伸びようとする。
ライダーはその一つを見た。
神鏡が光る。
また、一瞬だけ世界が墨絵へ変わる。
だが、今度の筆は線を引かなかった。
空白に、丸を描いた。
小さな円。
その端に短い線が一本
墨で描かれたそれは、現実へ戻った瞬間、白く輝く玉となって石畳の上に落ちた。
輝玉。
次の瞬間、爆ぜた。
轟音が境内を揺らした。
石畳が砕け、赤い糸が千切れ、術式の結び目が光ごと吹き飛ぶ。爆風が灯籠を揺らし、舞い上がった土煙の中で影の兵がまとめて消し飛んだ。
「ちょっ、寺!」
士郎が思わず叫ぶ。
砕けた石畳の破片が転がり、柱の一部にもひびが入っている。
凛も一瞬だけ目を見開いたが、すぐに表情を引き締めた。
「ただの爆発じゃない。神気の玉だわ。物理的に吹き飛ばしてるけど、狙いは術式の節。範囲は絞ってる」
「でも壊れてるぞ!」
「壊れてるわね!」
凛も叫び返した。
それでも、ライダーは慌てていなかった。
爆発の余波で乾いた木片に小さな火がつく。
火は柱の方へ移りかけた。
ライダーの神鏡が再び光る。
世界が一瞬だけ墨絵になる。
今度は、筆が丸ではなく、流れるような線を引いた。
次の瞬間、風が走る。
疾風。
境内を吹き抜けた神風が、燃え広がる前の火をまとめて押し潰し、煙だけを夜空へ散らした。
士郎は呆然とした。
「……火まで消した」
凛が額に手を当てる。
「本当に反則みたいな神様ね……」
アーチャーは短く息を吐いた。
「破壊し、消火もする。必要なら修復も可能ということか」
「修復?」
士郎がライダーを見る。
「壊した分は、後で直せるのか?」
ライダーは背の神鏡を軽く光らせた。
それだけで、士郎には何となく分かった。
「……直せるってことか」
凛が呆れたように息を吐く。
「たぶんね。士郎の傷をなぞって安定させた時の力と同じ系統なら、壊れた輪郭を描き直すこともできるはずよ」
「そんなことまでできるのか」
「できるんでしょうね。というか、今さら驚くのも変だけど」
凛はライダーを見た。
「本当に、魔術師からすると反則みたいな存在ね」
だが、凛はすぐに顔を引き締めた。
「でも、慎二くんに絡んだ糸には駄目よ。建物なら壊れた輪郭を描き直せばいい。でも、人間に食い込んだ術式を爆破してから直すなんて、危険すぎる」
士郎は頷いた。
壊れたものは直せるかもしれない。
火も消せる。
でも、慎二には使えない。
敵の術式と救いたい人間が絡み合っている場所では、強すぎる力は危険になる。
キャスターが歯噛みするように言った。
「
別の結び目が光る。
ライダーは駆けた。
白い影が石畳を走り、神鏡が再び光る。
もう一つ、空中に丸が描かれる。
輝玉が現れる。
術式の節に落ち、轟音と共に弾ける。
赤い糸が引き千切れた。
影の兵がまとめて吹き飛ぶ。
石畳が砕け、灯籠の一つが大きく傾いたが、ライダーはすぐに風を走らせ、粉塵と火種を散らした。
境内の湿った魔力が、確実に薄れていく。
キャスターが手を振る。
空中にまた赤い糸が生まれる。
だが、今度は単純な糸ではなかった。
何重にも編み込まれ、紫の魔力と黒い影が混ざっている。ライダーに切られることを前提に、構造を複雑にしているのだ。
赤い糸と影の兵が同時に動いた。
セイバーが前へ出る。
アーチャーが弓を構えた。
ライダーは身を低くする。
その時、葛木宗一郎が本堂の影から現れた。
足音はない。
気配も薄い。
葛木はキャスターの前に立つのではなく、横を抜けるように動いた。
狙いはライダーではない。
凛だった。
凛が気づくより早く、葛木の体が間合いを詰める。
アーチャーが反応した。
干将・莫耶を投影し、葛木の前に立つ。
だが、葛木の拳は双剣の隙間を縫うように伸びた。
アーチャーが身を捻る。
拳が赤い外套を掠める。
そのまま葛木は足音もなく着地し、凛の死角へ回り込もうとした。
「遠坂!」
士郎が叫ぶ。
凛が振り向く。
遅い。
葛木の腕が伸びる。
その瞬間、白い影が横から割り込んだ。
ライダーだった。
葛木の拳が、ライダーの背の神鏡に当たる。
低い音が鳴った。
金属音ではない。
石を叩いた音でもない。
神域に、異物が触れた音。
葛木の拳に絡んでいた紫の強化線が、ライダーの神気に触れた瞬間、大きく乱れた。
凛が叫ぶ。
「葛木先生への強化が乱れてる! ライダーの近くじゃ、キャスターの補助が持たない!」
葛木は表情を変えない。
拳を引き、即座に体勢を変える。
今度は士郎の方へ。
士郎は反応できない。
だが、ライダーがすでに動いていた。
白い神狼が士郎の前へ飛び込み、葛木の進路を塞ぐ。
葛木の拳が来る。
ライダーはそれを真正面から受けるのではなく、神鏡で受け流す。拳の軌道をずらし、体を低くして葛木を横へ弾いた。
葛木は空中で体勢を整え、音もなく石畳に降りる。
士郎は冷や汗をかいていた。
ライダーがいなければ、今の一撃で終わっていた。
「人間相手でも油断できないな……」
士郎が呟く。
「だから言っただろう」
アーチャーが双剣を構え直す。
「奴は人間だ。だが、ただの人間ではない」
キャスターは葛木の腕に再び強化をかける。
だが、その紫の線は、ライダーが近づくたびに揺らぐ。
キャスターの顔に、苛立ちが見えた。
「本当に邪魔ね、その神気」
ライダーは低く唸った。
初めて、明確な敵意を含んだ声だった。
神鏡が光る。
キャスターの足元に集まっていた術式の塊が、ライダーの視線を受けて震えた。
ライダーが一歩踏み出す。
キャスターの工房が軋む。
凛が叫ぶ。
「ライダー、待って!」
ライダーが振り返る。
「慎二くんに繋がる糸がある! 一気に祓うと反動が行く!」
士郎の視界にも見えた。
本堂の奥。
慎二へ続く赤い主線。
その周りに、何重にも糸が絡まっている。
外側はキャスターの呪い。
内側は慎二の魔力の流れ。
さらに、その奥には慎二自身の感情が燃料として結びつけられている。
単純に焼けばいいものではない。
「斬撃でも、爆弾でも、慎二くんに直接絡んでるところには強すぎる」
凛は早口で言った。
「外側の結び目なら斬れるし、吹き飛ばせる。でも、中まで一気に弾けさせたら、慎二くんが持たない」
ライダーの神鏡が低く光る。
理解したようだった。
「ライダー、あの線だ」
士郎は指差す。
「でも、全部は駄目だ。俺にもまだ全部は分からない。外側だけ、慎二に触れてないところだけだ」
「焦らない」
凛が言った。
「まず私が結び目を見る。士郎は流れを追って。ライダーは、私が指示した外側だけを祓って」
ライダーは凛を見た。
それから士郎を見る。
最後に、本堂の奥を見る。
慎二がいる方角。
ライダーは短く鼻を鳴らした。
了承。
凛は宝石を取り出す。
「やるわよ。ここで少しでも慎二くんへの支配を剥がす」
アーチャーが前に出る。
「葛木は私が止める」
セイバーも剣を構えた。
「影の兵は私が引き受けます」
士郎は赤い糸を見た。
凛の補助を受け、ライダーの神気で乱れた工房の線が、前よりはっきり見える。
外側の呪い。
内側の流れ。
絡まった結び目。
見ろ。
焦るな。
助けるために、間違えるな。
士郎は息を吸った。
「遠坂、右の赤い線は慎二に繋がってない。外側だけだと思う」
「確認する」
凛が宝石を床へ当てる。
赤い線が浮かび上がる。
「合ってる。ライダー!」
ライダーの神鏡が光った。
再び、世界から音が消えかける。
だが、今度は一瞬だけだった。
キャスターが術式を複雑に編み直しているせいか、完全な墨絵にはならない。世界が揺れ、絵として固定される前に、赤い糸が形を変えようとする。
それでも、神の筆は走った。
短い一線。
外側の呪いだけを断つ線。
音が戻る。
赤い糸の一部が消えた。
本堂の奥で、慎二の苦しげな息が聞こえる。
だが、さっきより少しだけ楽になったようにも見えた。
「通った!」
凛が叫ぶ。
「もう一ついける!」
キャスターの顔が険しくなる。
「させると思って?」
赤い糸が慎二の周囲で一気に締まった。
士郎の背筋が冷える。
慎二が小さく呻く。
「慎二!」
「これ以上近づけば、この少年が先に壊れるわよ」
キャスターの声は冷たかった。
ライダーが低く唸る。
神鏡が強く光る。
だが、凛が手を上げて止めた。
「駄目。挑発よ」
「キャスター……!」
士郎は拳を握る。
キャスターは微笑む。
「来なさい、白い荒神。けれど忘れないことね」
紫の魔力が葛木へ集中する。
葛木の腕に、これまでよりも濃い強化線が絡みついた。
同時に、慎二へ繋がる赤い糸がさらに複雑に編み込まれていく。
キャスターはライダーを見据えた。
「あなたの光は、救うものだけを選べるのかしら」
夜の柳洞寺に、重い沈黙が落ちる。
ライダーは神鏡を光らせたまま、キャスターを見据えていた。
士郎は赤い糸を見る。
凛は宝石を握る。
セイバーとアーチャーは前に立つ。
強い光がある。
だが、ただ照らせばいいわけではない。
闇を祓うだけでは、慎二を救えない。
絡まった糸を、間違えずにほどかなければならない。
白い神狼の背に、太陽の神威が燃える。
魔女の工房は、その光を拒むように軋んでいた。
戦いは、次の一線で決まる。
そんな予感が、士郎の胸に重く沈んでいた。
今までしてこなかった筆しらべについての描写説明をできて良かった
皆さまの感想をお待ちしております!