Fate/Divine Brush──桜花浄界── 作:一般ガス会社社員
無力
衛宮士郎は、ほとんど眠れなかった。
目を閉じるたびに、赤い槍が浮かんだ。
月光を裂いて伸びる穂先。桜へ届くかもしれなかった一撃。それを止めたのは、白い神狼の背にあった神鏡だった。金色の光が広がり、槍を受け、桜を守った。
士郎ではない。
ライダーが守った。
その事実が、夜の間ずっと胸の奥に残り続けていた。
それでも朝は来る。
台所に立ち、米を研ぎ、味噌汁の鍋に火をかける。包丁を握り、大根を切る。いつもと同じ動きのはずなのに、手元が少しだけ重かった。刃がまな板に当たる音が、妙に遠く聞こえる。
「……」
士郎は手を止めた。
昨夜のランサーの動きが頭から離れない。
速かった。
ただ速いだけではない。殺すための動きだった。自分がどうにかできるものではない。目で追うことすらできなかった。もしライダーがいなければ、もし神鏡の光が間に合わなければ、桜はどうなっていたのか。
考えたくなかった。
「先輩?」
声がして、士郎は顔を上げた。
台所の入り口に桜が立っていた。昨日より顔色は良いが、まだ疲れは残っている。無理をさせるわけにはいかないと思っていたのに、いつもの癖なのか、桜は自然と台所へ来ていた。
「桜。まだ寝てていいんだぞ」
「いえ、もう大丈夫です。それより、先輩の方が……」
「俺?」
「顔色、あまりよくありません」
士郎は苦笑した。
「寝不足なだけだ」
「昨日のこと、ですか」
桜の声が小さくなる。
士郎はすぐには答えられなかった。
誤魔化しても仕方ない。桜は、思っているよりずっと人の変化に敏感だ。特に、誰かが無理をしている時には。
「ああ。少し、考えてた」
「……すみません」
その一言に、士郎は包丁を置いた。
「桜が謝ることじゃない」
「でも、私がここに来たから、先輩を巻き込んでしまいました。ランサーが来たのも、ライダーさんがいるからで……それは、私がマスターになってしまったからです」
士郎は桜を見る。
桜は俯いていた。
右手の令呪は包帯で隠してある。だが、そこにあることを二人とも知っている。その刻印が、桜を聖杯戦争に繋ぎ止めていることも。
「違う」
士郎は言った。
「俺がここにいていいって言った。桜が戻りたくないなら戻らなくていいって言った。だから、桜が謝ることじゃない」
「でも」
「それに、昨日ランサーが来たのは桜のせいじゃない。あいつが勝手に来たんだ」
昨日も同じようなことを凛に言った気がする。
向こうから来た。
それは事実だ。
だが、それだけでは足りなかった。
向こうから来た敵に対して、自分は何ができたのか。
その問いが、士郎の中に残っている。
桜は小さく息を吸った。
「先輩は、無理をしないでください」
「桜?」
「私、先輩が傷つくのは嫌です」
その声は、震えていた。
「先輩はすぐ、自分のことを後回しにします。昨日だって、私の前に立ってくれました。でも、ランサーは……サーヴァントは、人間がどうにかできる相手じゃありません」
士郎は言葉に詰まった。
桜の言う通りだった。
昨日、士郎は桜を庇うように立った。だが、もしランサーが本気で士郎を殺すつもりだったなら、士郎は何もできずに倒れていただろう。庇うという行動に意味があったのかさえ分からない。
それでも、体は勝手に動いた。
動かない方が正しいと言われても、きっとまた同じことをする。
「俺は」
士郎はゆっくりと言った。
「守れるようになりたい」
桜が顔を上げる。
「昨日、何もできなかった。ライダーがいたから桜は無事だった。遠坂とアーチャーが来たから、ランサーは引いた。でも、俺は何もできなかった」
「そんなこと……」
「あるんだ」
士郎は桜の言葉を遮った。
強い口調ではなかった。けれど、自分でも思ったよりはっきりした声が出た。
「俺は、桜がここにいていいって言った。戻らなくていいって言った。なら、守れるようにならないといけない」
桜は苦しそうに眉を寄せた。
「私は、先輩に傷ついてほしくないです」
「分かってる」
「分かってません」
桜の声が少しだけ強くなった。
士郎は驚いて桜を見た。
桜自身も、自分の声に驚いたようだった。けれど、すぐに俯かず、士郎を見返した。
「先輩は、分かっていません。自分が傷つくことを、いつも軽く考えています。私のためだと言って、先輩が傷つくのは……私は、嫌です」
台所に沈黙が落ちた。
鍋の中で味噌汁が小さく音を立てている。
士郎は何も言えなかった。
桜の言葉は、ただの心配ではなかった。もっと切実なものだった。自分のせいで誰かが傷つくことへの恐怖。助けられることさえ怖いと思ってしまうほどの、深い不安。
士郎は、その不安をすぐに消してやれる言葉を持っていなかった。
「……ごめん」
それだけ言うと、桜は首を横に振った。
「先輩が謝ることでも、ないです」
二人の間に、ぎこちない沈黙が残った。
その沈黙を破ったのは、庭の方から聞こえた短い鳴き声だった。
ライダーが縁側の近くにいた。
朝の光の中で、白い毛並みが柔らかく光っている。紅い隈取は、士郎たちにははっきり見える。背の神鏡は穏やかに輝き、尾の炎のような毛は風に揺れていた。
ライダーは士郎と桜を交互に見て、ふん、と鼻を鳴らした。
まるで、二人とも考えすぎだと言っているようだった。
桜は少しだけ目を丸くして、それから小さく笑った。
「ライダーさん……」
士郎も苦笑した。
「朝飯、食べるか?」
ライダーは首を傾げた。
神霊級サーヴァントが食事を必要とするのかは分からない。だが、藤ねえが昨日置いていった焼き魚の残りには、少し興味を示していた。
その日の午前、遠坂凛が衛宮邸を訪れた。
制服姿ではなく、普段着の上にコートを羽織っている。昨夜の疲れが残っているのか、少しだけ目元が重い。それでも歩き方はしっかりしていた。
アーチャーは霊体化しているらしい。姿は見えないが、ライダーが一度だけ門の方を見たので、近くにいるのだろう。
「昨日の確認に来たわ」
凛は茶の間に座るなり言った。
「結界の乱れは朝方には落ち着いていた。ランサーが再び来た気配はなし。ただ、向こうに衛宮邸の場所とライダーの存在は完全に知られたと考えていい」
桜の肩が小さく震える。
士郎はそれに気づき、拳を握った。
凛は士郎を見る。
「それと、衛宮くん。昨日あなたが飛び出さなかったのは正解よ」
「……そうか」
「ええ。ランサーを追って学校に戻ったり、戦闘に割り込んだりしていたら、たぶん死んでた」
容赦のない言葉だった。
だが、士郎には反論できない。
「でも、あの場で何かしたいと思ったのも分かる」
凛は少しだけ声を落とした。
「目の前で大事な人が狙われて、自分だけ何もしないでいられる人間の方が珍しいわ。けど、それでも現実は変わらない。今のあなたが動けば、桜を守るどころか、ライダーの足を引っ張る」
士郎は黙った。
桜が何か言いかけたが、士郎は首を横に振った。
凛の言葉はきつい。
けれど、必要なことだった。
「だから確認する」
凛は士郎を真っ直ぐ見た。
「あなた、魔術を少し教わったって言ってたわよね。何ができるの?」
「強化なら、少し」
「少し?」
「成功率は高くない。けど、物の構造を見て、魔力を通して、少しだけ補強するくらいなら」
凛は眉をひそめた。
「実際に見せて」
「今か?」
「今よ。あなたが聖杯戦争に関わり続けるなら、どの程度危険なのか見ておかないと困る」
士郎は少し迷った。
自分の魔術を人に見せる機会は、ほとんどなかった。切嗣に習った後は、ほとんど独学だ。まともな魔術師である凛に見せれば、未熟だと笑われるかもしれない。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
「分かった」
士郎は立ち上がり、物置から古い木刀を持ってきた。
藤ねえが昔振り回していたものだ。今は端が少し欠けている。強化の練習にはちょうどいい。
凛は腕を組んで見ている。
桜は心配そうに士郎を見つめている。
庭のライダーも、縁側の近くで伏せたまま、じっとこちらを見ていた。
士郎は木刀を手に取る。
深呼吸。
いつものように意識を集中する。
体の奥に、一本の線を通す。
魔術回路を作る。
その瞬間、背筋に鋭い痛みが走った。
「っ……!」
士郎は歯を食いしばる。
慣れた痛みだ。
神経に熱した針を通すような感覚。体の内側に無理やり別の器官を作るような違和感。だが、これを越えなければ魔術は使えない。
木刀の構造を視る。
繊維。重心。ひび。欠けた部分。
そこへ魔力を流す。
「同調、開始」
小さく呟く。
木刀に魔力が通る。
ほんのわずかに、質感が変わった。軽い補強。強化としては成功に近い。
だが、その瞬間、凛の顔色が変わった。
「ちょっと待って」
凛が鋭く言う。
士郎は集中を切った。
「何だよ」
「今、何をしたの」
「何って、強化を」
「違う。その前」
凛の声が硬い。
「回路をどうやって起動したの」
士郎は首を傾げた。
「どうって……いつも通り、体の中に作って」
「作って?」
凛の目が据わった。
「まさか、あなた」
凛は立ち上がり、士郎の腕を掴んだ。
「もう一度、魔術回路を動かそうとしないで。そのまま。今の感覚だけ思い出して」
「え、ああ」
士郎は戸惑いながら頷く。
凛は士郎の腕を通じて魔力の流れを見ているらしい。数秒後、その表情が本気で険しくなった。
「……信じられない」
「遠坂?」
「あなた、毎回こんなことをしてたの?」
「こんなことって?」
「魔術回路を起動してるんじゃない。毎回、神経を無理やり回路みたいに作り替えてる。こんなの、魔術以前の問題よ。死ぬわよ、それ」
茶の間の空気が凍った。
桜が息を呑む。
「死ぬ……?」
士郎は逆に困惑した。
「いや、でも親父にはこれしか教わってないし」
「教わったっていうか、ほとんど教わってないんでしょうが!」
凛が本気で怒鳴った。
士郎は少し身を引いた。
「あなた、自分がどれだけ危ないことをしてるか分かってるの? 普通の魔術師は、生まれ持った魔術回路を起動するの。あなたがやってるのは、魔術回路の代わりに体を壊しながら無理やり魔力を通してるようなものよ」
「でも、今まで平気だったぞ」
「平気じゃない!」
凛は珍しく感情を露わにした。
「平気だったんじゃなくて、たまたま壊れなかっただけ! そんなやり方を毎晩続けるなんて、普通ならとっくに廃人になってるか、死んでるわよ!」
士郎は言葉を失った。
桜は顔を青くしている。
「先輩……」
「いや、俺は」
大丈夫だ、と言いかけて、やめた。
桜にさっき言われたばかりだった。
自分が傷つくことを軽く考えている。
その言葉が、今になって胸に刺さる。
凛は大きく息を吐いた。
「……ごめん。怒鳴った」
「いや、俺が悪いんだろ」
「悪いというより、知らなすぎるのよ。切嗣さん、何を考えてたの……」
凛は頭を抱えた。
その時、壁際に気配が生まれた。
アーチャーが姿を現していた。
赤い外套の男は、士郎を見ていた。表情はいつも通り落ち着いている。だが、その目に一瞬だけ、何かがよぎった気がした。
凛が気づく。
「アーチャー。何か分かったの?」
「いや」
アーチャーは短く答えた。
「ただ、あまりにも不器用だと思っただけだ」
「それだけ?」
「ああ。それだけだ」
凛は疑わしそうにアーチャーを見たが、それ以上は追及しなかった。
士郎もアーチャーを見る。
なぜか、その視線が気になった。
自分を見ているのに、自分ではない何かを見ているような目だった。
庭のライダーが、静かに立ち上がった。
士郎を見る。
その背の神鏡が、わずかに光った。
鏡面に、何かが映る。
士郎は一瞬、それを見た。
剣。
いや、剣のような影。
無数の刃が重なったような、奇妙な光景。
だが次の瞬間には消えていた。
「……今の」
士郎が呟くと、ライダーは何もなかったように首を傾げた。
桜が不安そうに聞く。
「ライダーさん?」
ライダーは士郎を見ている。
言葉はない。
けれど、士郎には少しだけ分かった。
ライダーは、自分の中に何かを見た。
それが何なのか、士郎には分からない。
凛は気を取り直すように言った。
「とにかく、衛宮くん。しばらく一人で魔術を使うのは禁止」
「禁止?」
「禁止。少なくとも、私が最低限の起動方法を教えるまでは。あなたのやり方は危険すぎる」
「でも」
「でもじゃない。桜を守りたいなら、まず自分を壊さないこと。分かった?」
士郎は反論しかけて、桜の視線に気づいた。
桜は何も言わない。
ただ、不安そうにこちらを見ている。
士郎は小さく息を吐いた。
「分かった」
凛は少しだけ表情を緩めた。
「よろしい」
その後、凛は聖杯戦争の現状について簡単に整理した。
ランサーはこちらの拠点を知った。マスターは不明。目的も不明。ただし、昨夜の様子からして、すぐに全面戦争を仕掛けてくるタイプではない。とはいえ、油断はできない。
衛宮邸はライダーの清めと凛の結界で守られているが、絶対ではない。
桜は外出を控える。
士郎は不用意に夜出歩かない。
ライダーは桜を最優先で守る。
アーチャーは周囲を警戒する。
凛は一つずつ確認し、最後に士郎を見た。
「あなたは、焦らないこと」
士郎は何も言えなかった。
凛たちが帰った後、衛宮邸には静かな時間が戻った。
桜は茶の間で、士郎が淹れた茶を両手で包むように持っていた。ライダーは縁側の近くで伏せている。昼間の陽射しが、白い毛並みを柔らかく照らしていた。
「先輩」
桜が口を開いた。
「魔術、しばらく使わないでくださいね」
「遠坂にも言われたしな」
「私も、言っています」
士郎は苦笑した。
「分かった」
「本当にですか?」
「ああ」
桜は士郎をじっと見た。
その目は、どこか疑っているようでもあり、心配しているようでもあった。
「先輩は、約束しても無理をしそうです」
「信用ないな」
「あります。でも、そういうところは信用できません」
士郎は言い返せなかった。
桜は茶を見つめる。
「先輩が守りたいと言ってくれたことは、嬉しいです」
その声は静かだった。
「でも、私は先輩に守られるために、先輩が傷つくのは嫌です」
「桜」
「私も、ちゃんと考えます。ライダーさんに守ってもらうだけじゃなくて、自分がどうしたいのか。何を選ぶのか」
士郎は桜を見る。
昨日まで、桜はどこか自分の意思を小さく隠していた。けれど今は違う。まだ弱々しい。怖がっている。迷っている。それでも、自分で考えようとしている。
それが士郎には眩しかった。
「じゃあ、俺も考える」
「先輩も?」
「ああ。俺に何ができるのか。何をすれば、本当に守ることになるのか」
桜は少しだけ不安そうにした。
「無茶は、しないでください」
「分かってる」
そう言いながら、士郎は自分でも分かっていた。
まだ、何も分かっていない。
守るとは何か。
力を持つとは何か。
自分がどうすればいいのか。
答えはどこにもなかった。
その夜、士郎はまた眠れなかった。
凛には一人で魔術を使うなと言われた。
桜にも無理をするなと言われた。
頭では分かっている。
それでも、体の奥に残った焦りは消えなかった。
ランサーの槍。
桜の震える声。
ライダーの神鏡。
凛の言葉。
覚悟だけじゃ足りない。
士郎は布団の上で目を開けたまま、しばらく天井を見つめていた。
やがて、静かに起き上がる。
家の中は静かだった。
桜は休んでいる。ライダーは縁側の近くにいるはずだ。アーチャーの気配は分からない。凛の言う通りなら、周辺のどこかで見張っているのだろう。
士郎は廊下へ出た。
冬の夜気が足元を冷やす。
魔術を使うつもりはない。
少なくとも、凛に禁止されたような無茶なやり方をするつもりはない。
ただ、眠れなかった。
考えたかった。
自分が何者なのか。
自分に何ができるのか。
足は自然と土蔵へ向かっていた。
庭を抜ける途中、士郎は視線を感じた。
縁側の影に、ライダーがいた。
白い神狼は静かにこちらを見ている。
「……起こしたか」
士郎が小さく言う。
ライダーは何も言わない。
止めもしない。
ただ、じっと士郎を見ている。
「魔術は使わない。少し、考えるだけだ」
言い訳のように言うと、ライダーは耳を動かした。
信じたのか、見張ることにしたのかは分からない。
士郎は土蔵へ向かった。
扉を開ける。
中は冷えていた。
古い道具、木材、使われなくなった品々。士郎にとっては見慣れた場所だ。ここで何度も鍛錬をしてきた。失敗して、痛みに耐えて、それでも繰り返してきた。
だが、今は少し違って見える。
凛に言われたからだ。
死ぬわよ、それ。
今まで当然のように続けてきたことが、実は危険だった。自分はそれを知らなかった。知らないまま、毎晩続けていた。
士郎は土蔵の中央に座った。
手を見る。
何もない手。
ランサーの槍を止められなかった手。
桜を守ると言ったのに、何も掴めなかった手。
「……守るって、何なんだろうな」
呟きは、土蔵の中に落ちた。
答えはない。
士郎は目を閉じる。
魔術回路を起動しない。
無理に体を作り替えない。
ただ、呼吸を整える。
ランサーの槍を思い出す。
アーチャーの双剣を思い出す。
ライダーの神鏡を思い出す。
桜の声を思い出す。
私は、先輩に傷ついてほしくないです。
士郎は唇を噛んだ。
傷つきたいわけではない。
死にたいわけでもない。
ただ、目の前で誰かが傷つくのを見ているだけの自分が嫌だった。
守りたい。
その思いだけが胸の奥に残る。
その瞬間だった。
土蔵の床に、光が走った。
「……え?」
士郎は目を開けた。
見間違いかと思った。
だが、床には確かに、一瞬だけ古い線が浮かび上がっていた。円。幾何学的な紋様。魔法陣のようなもの。けれど、次の瞬間には消えている。
士郎は息を止めた。
「今の……」
手を伸ばそうとして、やめる。
何かがいた。
いや、何かがいるわけではない。
けれど、土蔵の奥に、何かの気配が眠っている。
剣。
そう思った。
理由は分からない。
ただ、今の一瞬、士郎の頭の中に剣の影が浮かんだ。
◇
土蔵の外で、ライダーが顔を上げた。
白い神狼の背の神鏡が淡く光る。
その鏡面に、月ではない光が宿った。
ライダーは土蔵の方を見つめている。
警戒ではない。
敵意でもない。
何かを待つような、静かな視線だった。
遠く離れた夜のどこかで、アーチャーもまた、わずかに目を細めていた。
士郎は土蔵の中で、消えた光の跡を見つめていた。
見間違いだったのかもしれない。
疲れているだけかもしれない。
そう思おうとしても、胸の奥に残った感覚は消えなかった。
まだ見ぬ剣の気配が、夜の底でかすかに震えていた。
凛さん毎日衛宮家に通ってるな……
皆さまの感想をお待ちしております