灰燼は冬木の雪に   作:其為右腕

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1話

自由の象徴(レイヴン)』の名を背負い戦い、恩人を殺した先に相棒の声を聴いた。

 

 

 

レイヴン

あなたは私の思いに…我儘に応えてくれた

 

――そんなことはない、いつだって私は自由に飛んでいただけだ。 むしろ振り回されたのは君の方だろう。 …君が望む未来に果たして導けただろうか。

 

今度は…あなたの選ぶ未来が見てみたい

 

――私が選ぶ未来、か。 …自由に縛られた私にとって、それは少し荷が重いかな。

 

何が待っていても私が…あなたをサポートします

 

――ああ、ありがとう。あとこれからもよろしく、エア

 

 

 

 

企業も戦友も相棒も星も、全てを焼き払ったその先に恩人の声を聴いた。

 

 

 

 

621

 

――ハンドラー

 

お前を縛るものはもう何もない

 

――僕は…貴方に…

 

これからのお前の選択が…

お前自身の可能性を広げることを祈る

 

――可能性… こんな結末しか辿り着けない私の可能性なんて… …いや、ありがとうございます、ハンドラー・ウォルター

 

 

 

何度も、何度も繰り返した。

安寧はない。

裏切り、騙し討ち、奇襲、買収、世の中で後ろ指を指されることは全部やった。

殺しもすれば殺されもした。

自身の前に立ちふさがる者なら例外なく。

企業、封鎖機構、解放戦線、独立傭兵、AI、誰であろうと引き金を引く。

果たしてそこに信念はあったのか。

かつて戦友に危惧された自身の癌性。

一回だけならまだ耐えられただろう。

だが繰り返しが必定の人生、次第に人格も感情も擦り切れていく。

朽ちていく。

そこで初めてここまで成り果てた筈の自身の中に未だ人間らしさと呼ばれるものが在ったのだと気づいた。

でも気づいたときにはもう遅かった。

いや、遅くなんてなかった。

私は逃げたのだ。

罪から、重圧から。

逃げれば逃げるほどあの流れに意識を持っていかれそうにもなった。

その度に恩人の、相棒の、あの最後の言葉を生きている彼らの声を介して思い出し踏みとどまった。

何たる侮辱、何て愚弄。

今を生きる人々に対し私は最低な思考を以て戦場に留まっていたのだ。

戦場に残るのは罪と罰と2人の労いだけ。

一体どうすればよかったのだろうか。

彼らの声を聴くと自然とそうしてしまう。

本当に彼らが私に望んでいることに気づいているくせに。

見て見ぬふりして逃げてきた。

いつしかその罪悪感すら無くなっていき、遂には――――

 

 

 

 

 

目覚めたのですね、レイヴン

 

――エア

 

コーラルは私たちを乗せ…星々に伝播しました

 

――そうか

 

だから、そう…私たちはもう…いつでも、どこにでもいる

 

――そっか

 

レイヴン

 

――なぁに?

 

ともに、新たな時代を…

 

――うん、じゃあウォルターもいっしょに、

 

 

 

 

 

 

“メインシステム、戦闘モード起動“

 

 

 

 

 

――そうだ。

 

――戦闘だ。

 

――それが、それだけが、私を私たらしめてくれる。

 

 

 

 

コーラルは可能性を伝う。

それに果ては無く。

灰塵の叫びはやがて、一人の少女が孕む嘆きへと――――

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

少女――間桐桜は自室の床に描いた召喚陣の前に立ち、詠唱を紡ぐ。

右手の甲には数日前に浮かんだ令呪。

触媒はない。

彼女に召喚のいろはを教えた臓硯の戯れか、彼は子孫たる間桐の人間に微塵も期待していない。

精々自身を少しでも嗤わせることをしでかせばいいと考える程度である。

ともかく触媒なき召喚において何が英霊を呼び出す贄となるか。

例えば周りにある本や装飾が触媒になることもあるだろう――事実、彼女の姉がそうであったように。

こと今回に限っては物質的なものでなく、彼女の長年の怨嗟――憧れの少年や実姉も、自身ですら気づくことがなかった叫びだろうか。

未熟ゆえに原始に近く、原始は時に可能性の塊となる。

ならば究極の一を成した英雄が呼ばれる道理はない。

どんな偶然か。

道筋だけなら彼女は誰よりも憧れの彼に近くて――――

召喚の儀は、完遂された。

 

 

 

「ここは…」

 

詠唱を終え、目の前にいたのは赤い人。

その人の瞳のように鉄の冷たさが部屋の空気を支配し、私の肌を刺す。

だけど、蟲蔵の湿った空気とは真逆の、落ち着く冷たさ。

服装もいわゆる近現代の兵士のそれに分厚いコート、本来肌が見えるはずの手足や顔には包帯が巻かれており辛うじて表情は察せられる。

彼か彼女か、声からも風体からも分からない人物は辺りを見回したあと初めて私に目を向けた。

その瞳を見たとき、いくつもの死や生、あるいは諦念や憧憬、そして僅かな彼(彼女?)の人格の断片が私に一気に押し寄せた――ような気がした。

 

「…貴方が、私のマスターですか」

「…」

 

返事ができない。

先ほどの思念と言うべき何かが、私の体を縛っている。

これもマスターになるために必要なことなのだろうか。

お爺様とはまた違った抑圧。

結局、どうなっても私は同じなのだろうか。

ああ、もう、どうなっても――――

 

「やめろ」

「――え?」

「サーヴァントなんだ、ある程度はお前の事も分かる」

 

そういった人の瞳に初めて意志と呼ぶべきものが見えた――気がした。

でも自分なんかにそんな高尚なモノが果たして理解できるのかと言われると、困る。

意志は汚れた自分からは遠いもののはずだ。

だから私はあの人に――――

 

「…お前は、この屋敷が好きか」

「――――」

 

今度は言葉が出ない。

私と屋敷。

私と間桐。

私は――何?

頭の中には祖父、兄、父親、叔父。

でも、遠くにはあの少年、先生、姉、両親。

誰にも話せなかったものも、この人なら。

私は、もっと、遠くへ。

そう口にしようと―――

 

「――呵々、これはこれは、随分と妙なモノが紛れ込んだみたいじゃな、桜よ」

 

気が付くと、部屋の入口には祖父――間桐臓硯がその顔をしわくちゃに歪め立っていた。

体内の蟲から察知したのか、それを使わずとも目の前のサーヴァントの存在感ゆえか。

それはそれは楽しそうに、くつくつと肩を揺らし、サーヴァントを見やる。

 

「しかし、よりによって近現代の英霊とはな。 雁夜と言い間桐の家の者はサーヴァントは恵まれぬものよな」

 

彼の装備からか、彼の生まれを判断し何やら「不幸」だと嗤っている。

私自身、魔術の事はよく知らないが、古ければ古いほど優れていると聞いたことがあった。

なぜなのかは未だ分かってはいないが。

そして侮辱されただろうと分かるはずなのに、この人は指一つ動かさない。

ただ、可笑しそうに嗤う祖父を見ている。

まるで、獲物を見定める猛獣かのような目つきで。

 

「まあよい、出来の悪い貴様らにさして期待などしておらん。 しかして桜よ、お主、()()()()()()――――」

 

――――突如として、銃声が屋敷に響いた。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

一週間前を境に、桜は姿を見せなくなった。

藤ねえ曰く学校にも出席していないらしい。

慎二に話を聞こうとしたがあいつも一週間前から学校だけでなく、街でも見かけたやつはいないらしい。

あまりに心配になったので昨夜、間桐の家にも行ったが二人は、滅多に姿を見せないPTA会長である祖父を含め誰一人として気配はなかった。

二人とも誰にも言わずにどこか行くような兄妹ではないはずだが。

ただの体調不良ならまだいいが、屋敷に誰もいないとなると話が違ってくる。

そうした不安を抱えたまま、俺はある戦争に巻き込まれた。

巻き込まれただけならまだいい。

だがそれが魔術が絡む事件――しかも一般人にも危害が出るものなら話は別だ。

頭によぎったのは――最近見ていなかった、桜の顔。

彼女もまたこんな馬鹿げた戦争に巻き込まれたのではないか。

そう懸念するのは、隣にいる彼女――遠坂凛も同じらしい。

今俺たちはあの胡散臭い神父――言峰綺礼の教会からの帰り道、そうしたこともあって同盟について、結ぶ流れで話が落ち着いた直後に、それは起こった。

 

「――――ねえ、お話は終わり?」

 

丘を見上げればついこの間すれ違いざまに何やら不吉なことを言い残していった、人形のような美しさを持つ白い、白い少女がいた。

その背後には、巨人。

彼女は自身をイリヤスフィールと称し、背後の偉丈夫をヘラクレスと言った。

その自信たるや、だがそれに見合った風格がないと言えば嘘になる。

この子もまた聖杯戦争の参加者なのか。

こんな小さな子ですら、殺し合いをさせる戦争。

ナニカが体を突き動かそうとするが、今はこらえる。

そうこうしているうちに彼女が動かんとする。

セイバーも構え、アーチャーも狙撃のためか遠くに向かっている。

 

「やっちゃえ、バーサーカー」

 

そうしてバーサーカーが吼え、突進する直後。

 

「衛宮くん、避けて!」

「マスター!!」

 

遠坂が俺に叫んだ後に、セイバーが俺を突き飛ばす。

突如、俺たちがつい先ほどまで居た場所いにとてつもない風が舞う。

少し吹き飛ばされたその地で、顔を上げるとそこには――――

 

「――――ロボット?」

 

およそ魔術とは相容れない、科学の結晶とも言える兵器が地に足つけて立っていた。

だが、ロボットはテレビやゲームの中の存在ではないのか。

ある意味、魔術よりも不可思議な存在が冬木に降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

それは一人の人間の、欠けたはずの物語。

 

果てなき人間の、最果てへ駆ける英雄譚。

 

自身を灰塵に帰した人間の、それでも翔け続けた記録。

 

そして、一人の少女の、悲しくて、優しいお話。

 

 

 

 

 

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

 

 

 

 

 

 

――――火を点けよう。

 

――――もう一度、燃え残った自分自身に。

 

 

 

 

 




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