ロボットが着地する少し前、バーサーカーが士郎たちの前に姿を見せると同時、遥か遠くの塔にアーチャーは移っていた。
マスターの命令さえあればすぐにでもバーサーカーを射抜ける位置。
ゆえに乱入者の存在にいち早く気づいていた。
「――――!」
遥か上空。
闇夜を裂く病的な赤。
こんな芸当ができるのは、この地に於いてただ一つ。
「凛、新手のサーヴァントがそちらに向かっている」
自然現象、現代兵器の類ではないと彼の目が既に看破している。
――人型兵器。
未来を生きたアーチャーでも、あのような見た目の兵器は記憶にない。
だが神秘の時代の兵器かと言われると、無骨にも見える、人の手で造られただろうデザインからその線は薄いか。
ならば自身よりも遥か未来の英霊か、或いは――
「悪いが、射ち落とす」
――――
手には弓矢、構えは流動に、その美しさたるや。
既に狙いは定まった。
魔力が唸り、そして収束する。
――――
「
矢は放たれた。
サーヴァントを認識してからこの間、秒に満たない。
標的も未だこちらに気づいた様子はない。
尋常ではない魔力を込めた矢はミサイルのようにロボットに吸い込まれて――――
「…何?」
直後、機体が加速する。
それだけでない。
後ろに目でもついているのか、死角から放たれたはずの矢が避けられる。
鋼鉄の兵器が人体が如く挙動を以て教会に降り立つ。
「気をつけろ凛、見た目以上に奴は機敏だ」
撃墜には失敗した。
だからと言って手を止める理由にはならない。
マスターに念話にて忠告を送った後、すぐさま2射目の構えをとる。
ランサーと言い、腐っても聖杯戦争、一筋縄ではいかぬものか。
幸いこちらの位置を逆算する余裕も向こうにはないと見える。
ならば、まだ好機はある。
決着をそう急くことはない。
戦いはまだ始まったばかりなのだから――――
ーーーーーー
突如として空から飛来してきたロボットは睨み合っていた三つの陣営の間に立つ。
巨人と形容して相違ないバーサーカーを遥かに凌ぐ大きさに、その場にいる全員の警戒度が跳ね上がる。
右手にライフル、両肩にはミサイルとバズーカか、左手の武装に目立ったものはないがゆえに何かがあると思わせる。
「バーサーカー!」
最初に動いたのはバーサーカーだった。
斧剣を振りかざし、兵器に叩きつけんとする。
ロボットも二連バズーカで応戦する。
が、全弾命中とはいえバーサーカーは止まらず。
回避行動に移ろうとも、間に合わず一撃をもらう。
爆撃音、金属音がほぼ同時に教会一帯に響く。
直後、ロボットが空へと飛ぶ。
「動くか!?」
――間違いない、サーヴァントだ。
バーサーカーの斧剣も決して軽いものではない。
証拠としてロボットにも傷跡は見え、無傷とは決して言えない。
だが、現代兵器ならば間違いなく破壊されるだろう、最強の一撃。
それを受けても大きなダメージが見られない。
ならば、サーヴァントと考えるのがこの夜の常識か。
全員の警戒がまた一段と跳ね上がる。
機体は上空に飛んだ後、ライフルでバーサーカーを撃つ。
射撃は外れることなく、バーサーカーも斧剣で撃ち落としているとは言えどうしてもあのロボットを意識せざるを得ない。
その僅かな隙は、果たして致命傷なりうるのか。
「はあ!!」
セイバーがバーサーカーに仕掛ける。
万全とは言えないコンディションではあるがそこは最優のサーヴァント。
一息で相手との間合いを詰め剣を振るう。
バーサーカーも反応が遅れ、三太刀の内二つをもらう。
だが目立った傷はなくそのままセイバーへのカウンターを決めようとするが――――
「■■■■■■■■■――――!」
ロボットのミサイルがバーサーカーに直撃する。
先のライフルとは比べ物にならない威力に思わずバーサーカーも動きを止める。
余波も凄まじく、流石にセイバーも足を止める。
折角の好機を生かすことができない。
焦るセイバー、だが彼女は一人ではない。
何かを察知したのか、構えを解きその場を離れる。
――――瞬間、視界が光に包まれる。
先ほどの硝煙の匂いが鼻を突くものではなく、言わせれば魔術によるもの。
アーチャーの射た矢がバーサーカーを穿ち、魔力暴走による爆破を起こしたのだ。
威力も並のそれではない。
だが土煙が晴れた先には、それでも五体満足に佇むバーサーカー。
すかさず斬りかかろうと駆けるセイバー。
が、いつの間にか、バーサーカーの背後にはあのロボット。
左手にはレーザーブレードだろうか。
大きさだけでもバーサーカー以上を誇る脚でバーサーカーを蹴飛ばす。
たまらず姿勢を崩したバーサーカーをすぐさまブレードで斬りつける。
「…あれは」
あれは剣なのだと。
確かに剣として運用できる機構を備えている。
構造も思い当たらない部品がほとんどだが、基本は変わらない。
結局は人殺しの道具だ。
最も、兵器に取り付けられた剣など、人殺しの範疇などとうに越しているだろうが。
それでもバーサーカーは倒れない。
今やっと身体に傷を負ったようにも見える。
とんだ化け物だ。
三基の攻撃を諸に受けてもなお倒れることがない。
理性と引き換えに得たのは、尋常でない身体性。
ヘラクレスの名は伊達ではない。
「余所見してる暇があるのかな、お兄ちゃん」
気が付けば目の前に純白のデーゲンの剣先。
すかさず避けて地面を転がるが追撃はない。
少女の表情から面白がっているだけだろう。
バーサーカーがロボットに突進した直後、俺たちマスター同士も戦いが始まった。
流れは劣勢。
遠坂はともかく、簡単な強化魔術しか使えない俺は足手まといでしかない。
今もこうやってイリヤという少女に遊ばれている。
だが、時折アーチャーからの援護があっても圧倒的優位に立っているイリヤでさえ僅かに焦りが見える。
あのロボットだ。
彼女のバーサーカーと比べても遥かに大きいそれは、それだけでも脅威として感じずにはいられない。
今もバーサーカーはロボットを追いかけているが、空中を、時には陸上を俊敏に翔けながらライフルやミサイルを駆使する相手に苦戦を強いられている模様。
だが相手もまたバーサーカーに有効打を与えることはできていない。
セイバーやアーチャーも同じく、戦局は平行線を辿っている。
――――なぜあのロボットはこちらを攻撃しないのか。
ふと、目まぐるしく変わる状況に追い付いていなかった頭が当然の疑問を抱く。
あのロボットは不自然なほどバーサーカーしか狙っていない。
乱入したのも、事前に状況を把握していたのか?
なら、そのマスターは――――
不意にロボットが止まる。
――まずい
あのコア部分にエネルギーが集まっている。
まだセイバーはロボットの近くに――
「セイバー! そこを――――」
――――次に目に入ったのは、赤だった。
比喩なく赤い閃光の奔流はバーサーカーとセイバーを襲う。
突如として、デーゲンが解ける。
見ればイリヤが頭を押さえて呻っている。
すかさずそれを負傷したはずのバーサーカーが抱え戦場を離脱する。
セイバーも掠めただけとは言え、体が痺れているのか、こちらを見て何か叫んでる。
…あれ?
今、おれは。
どうして、世界が遅い。
倒れているのか。
地面が、迫る。
占めるのは、あの日の、この戦争が引き起こしたという、大火災。
あの日の地獄で。
俺の、エミヤシロウの始まりだった。
ーーーーーー
目の前の惨状に遠坂凛は困惑していた。
突如、ロボットのサーヴァントが赤く光ったと思ったら衛宮士郎が倒れて、アインツベルンの少女がサーヴァントと共にこの場を後にしたのだ。
件のロボットもセイバーやバーサーカーの無力化を確認した後、遥か上空に昇ってしまい、遂にはその姿を夜空に消した。
教会一帯に残ったのは荒れ果てた道と自分だけ。
急いで少年の元へ行き、彼の容態を見る。
セイバーも意識はあるがすぐに動くことはできないようで、主人の危機とは言えすぐに動いたバーサーカーに対して更に危機感を募らせる。
「これはこれは、随分と暴れてくれたな、凛」
「…言峰」
いつもなら革靴コツコツと音を響かせ訳知り顔で登場するエセ神父が、前触れもなく姿を見せに来た。
「本来、中立地帯たる教会周辺での戦闘は褒められたものではないのだがな、今回ばかりは深くは言うまい」
「あのロボットのサーヴァントかしら?」
神父は答えない。
今も意識を取り戻さない少年を見据えている。
「何なのよあいつ… 神秘の秘匿の欠片もないじゃない。 あんた、どうするつもりよ」
「幸い夜での戦闘だ。 あれほどの兵器、多少のステルス機能でもついていたのだろう。 光に関しては
「この地を管理する遠坂の人間としてその手の話は気にするに決まってるでしょ。 …ああもう、アインツベルンと言い好き勝手やりすぎだっての」
「それより凛、その男、衛宮士郎の治療、こちらで対処してやってもいいが」
…いまこの男はなんて言った?
確かにこいつは神父だし、街でも評判だし、一聖職者としては信頼している。
だがこの男は言峰綺礼だ。
言峰綺礼だ。
むしろ表には干渉せずに陰でこそこそ暗躍してそうなこの男が善意で人を助ける?
何が何だか、私は悪い夢を見ているのではないか。
「どうした、鳩が豆鉄砲を食ったような顔でもして」
「…ええ、ごめんなさい。 でも一体どういう風の吹き回しかしら? アンタがマスターを助けたらそれこそ中立的な監督役の立場としてまずいんじゃないの?」
「なに、ただの気まぐれだ。 この少年がどんな人物であれ、教会内で死なれても困るからな」
最もらしい理由をつけているがこの男のことだ。
何かあるのではとつい勘ぐってしまう。
そう言ってこちらの返答も聞かずに言峰は今も目覚めない彼の前にかがむ。
「私の専門は外来だが、治癒魔術であれば一通り扱える。 最もサーヴァントが絡んでいる以上、確約はできんがな」
そうやって衛宮くんに触れて魔術を行使する。
本来聖職者は魔術の使用はご法度なのではないか、でもこいつ協会にも属してるしなー、と凛は先ほどの悪寒は何も間違ってはいないのだと再確認した。
遅れてやってきたセイバーに事情を説明すると監督役だからか、割とすんなり納得した。
「――――――――!」
「……? 士郎に何かあったのか、神父」
「……いや、治療に関しては抜かりない」
その後、応急処置が完了したと言って言峰は教会へと帰っていった。
こちらとしても今日だけで色々あったので心身ともに休みたい。
セイバーに衛宮くんを任せ、各々の帰路についた。
まだ身体には硝煙の香りと破裂の音が僅かに残っている。
ーーーーーー
思わぬ収穫だった。
初めは気紛れだった。
目の前で倒れている少年――衛宮士郎を助けようとしたのは。
衛宮切嗣の義理の息子だから、ではない。
僅かに残っていた良心でもなく、神父としての義務、それが近似だろうか。
ともかく治癒を行った、瞬間、世界が赤く染まった。
頭の中には、あの女、私の妻だ。
彼女が、見せた、紅く、美しい――
幸い即座に意識を取り戻すことはでき、治療は終わった。
凛やセイバーには気づかれていないようだが、なるほど。
あのサーヴァント―――ライダーの最後の閃光が原因だろう。
否、本質は
触れて初めて分かった。
危険だ。
恐らくあれはライダーの魔力代わりの燃料であり、そして魔術にも干渉できる物質。
推測の域を出ないが、聖杯戦争で持ち込まれたものは大抵碌なモノがない。
下手すれば、あの泥よりも手に負えない代物やもしれん。
だからこそ、私は――――
見届けよう。
変動する事実に明確な答えはない。
可能性が不可能性に変わる、価値なき者の叫びを問おう。
私自身の願いのために。
魂に、嘘はつけない。
魂には須らく、安息の場が必要なのだから。
ーーーーーー
息が、詰まる。
思わず、頭に繋がるデバイスを乱暴に取り払う。
意味のないはずのえずきにただ身を任せる。
――苦しい
――辛い
何よりも――先が見えない
もう後戻りはできない。
あの夜、引金を引いたからには。
贖罪でなく、罪と共に生きるための道。
少女が、私は、歩くために、一人で。
今はただ、火の粉が、私を。
「あの
彼女にこんな姿は見せられない。
だってあの人は――ウォルターは、いつでも頼もしかったから。
だから今だけは、せめてコアの中では、どうか苦しませてほしい。
――――夜がこんなにも長かったなんて知らなかった。
今回の機体構成は初期アセン+SONGBIRDS、ブースターはBUERZEL/21D、FCSはFC-008 TALBOT、ジェネレーターは軽い方のコーラルジェネです。
性能よりロマン、ロマン=つおい
アンケートの少年少女は士郎や桜と同世代想定です。
評価、感想お待ちしております。
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