プロローグ 始まりの風
その日、長谷川 千雨は失った。
「うあああぁあぁぁあぁぁあああああーっ!!」
叫んだ。ただ、叫んだ。
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その日、長谷川 千雨はご機嫌だった。父と母、二人の親と一緒に出かけられたからだ。両親に手を引かれて歩いている彼女の機嫌は絶頂だった。そんな時だ、「何か」を感じたのは。
「…………?」
「それ」を感じ取れたのは千雨だけだった。それが幸か不幸かは分からない。ただ彼女は感じ取った。感じ取って、しまった。
「…………!」
感じ取った先を知りたくて、千雨は走った。その時両親の手と千雨の手が離れていなかったら、走り出す事は無かっただろう。そうして走った先に待っていたのは――
「……? 何だ? 子供? 何故気づける」
そこにいたのは「鬼」だった。子供でも分かる赤い色の肌に生えた角、高さが分からない程の
巨躯。どう控えめに見ても鬼だった。その肩に一人の男を乗せている。
「気づけた? そうか……貴様『魔法使い』だな!」
鬼の肩に乗っている男は何かに気づいた風で、怒りの感情をあらわにした。その一連の流れを
千雨は見ていた。ただ、見ていた。何が起きているか全く分からなかった。
「え? ……え? え?」
「死ねぇ!」
男は鬼をけしかけて目の前に居る少女――千雨を殴ろうと、殺そうとした。だがそうはならなかった。
「千雨!」
千雨の後を追いかけてきた父親が彼女を庇ったからだ。
「ぐふぅぁあっ」
鬼の巨体に殴られた父親の事も、ただ見ていた。呆然と、見ていた。
「お、とうさ」
「お父さん! 千雨!」
その時後方から母親が駆けて来た。鬼に殴り飛ばされた父親に体を寄せる。
「邪魔だぁああ!」
鬼は新しく現れた母親にもその爪を伸ばした。
「きゃあああ」
父親の体は、鬼の巨体に殴り飛ばされて「潰れて」いた。母親の体はその鋭い爪によって「切り裂かれて」いた。
「お、かあさ、え? え?」
両親の体から出た血が、千雨の顔を染める。目の前で両親を殺された。その事実が静かに千雨の脳に浸透していく。死、ぬ。死ぬ?
「邪魔者はいなくなった。次は貴様だぁあぁああ」
その日、長谷川千雨は失った。
「うあああぁあぁぁあぁぁあああああーっ!!」
叫んだ。ただ、叫んだ。そして、風が吹いた。
びゅぉううう。びゅおう。激しい音と共に風が吹いた。その風はやがてうねりを上げて回転し、大きな竜巻となった。
「な、にぃいい!!」
男は目の前で起こった現象の奥にある精霊の動きを見てとり、一瞬の空隙が生まれた。己が使役する鬼に指示する事も忘れ風に飲み込まれた。
「―――――――――!!」
千雨はまだ叫んでいる。風の中心で。
その日、長谷川 千雨は失った。その代わりに得た物。風の精霊と和す
それが世界の分岐点となった。
短すぎる導入。短いのは分かっていますがここが切りの良い所だったのでここで切りました。これから彼女がどうなって行くのか。見守ってあげて下さい。