風の千雨   作:掃き捨て芥

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第9話 修学旅行2日目 ~ 3日目

「いただきます」

 

「「「いただきまーーす」」」

 

 朝の食事の時間だが、昨夜の活動のせいで少し眠い。欠伸が出る。

 

「ふぁ」

 

 見るとガキ教師や神楽坂達も眠そうにしている。

 

「せっちゃん何で逃げるんーー」

 

「刹那さーーん」

 

 ガキ教師と近衛から桜咲が逃げている。何だ、あいつまだ近衛と近づけてないのか。

昨日、あの後に駆けつけた桜咲と近衛の間でやりとりがあったのだが、それでもあいつは近衛に

近づく気がないらしい。

 

(何でなんだろうな? 護衛ってんなら傍に付いているのが普通だと思うんだが)

 

 疑問だ。だがまあ別にいいだろう。敵の狙いが近衛一人だというなら、こっちも近衛に絞って

守れば良いだけだ。今後は常に風の精霊を使って近衛の周辺を見張っている事にしよう。

 

「ネギくん 今日ウチの班と見学しよーー」

 

「わーーっ」

 

「ちょっ まき絵さんネギ先生はウチの3班と見学を!」

 

 ガキ教師を取り合って佐々木や雪広が発奮している。……あんなガキのどこが良いんだろうな? 全く分からん。

 

「あ……あのネギ先生(せんせー)!!

よ よろしければ今日の自由行動……私達と一緒に回りませんかーー!?」

 

「え えーと。あの……わかりました宮崎さん! 今日はぼく宮崎さんの5班と回る事にします」

 

 おお、あの引っ込み思案な宮崎が勝つとはな。でもあのガキ教師にそんな甲斐性ある訳ねーか。どうせ狙われてる近衛と神楽坂、桜咲がまとまってる班だから選んだんだろうな。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 奈良公園にやってきた。クラスの皆はのんきに観光しているが、私は逐一風で近衛を中心とした

一帯を警戒している。くそ、なんだか一人だけ割をくってるような気がするぞ。大体このクラスには私以外にも春日とか魔法生徒やそれに準じた奴がいるのに何故私だけが。……まあそんなに

ぼやいていても状況は変わらないんだけどな。

 

 

 

 奈良公園では特段、襲撃などなかった。それは良かったのだが……。

 

「ううー……でも……。あああーーどうすればー親書のこともあるしー」

 

 奈良公園から旅館に戻ってきたらガキ教師が身悶えていた。なにやってんだ?

 

「ネギ先生どうされたんですの?」

 

「昼の奈良公園で何かあったの? ネギ君」

 

 こういう時に動くのは決まって雪広と佐々木だな。あいつらもマジなのか?

 

「い いやあの別に何も……。誰も僕に告ッたりなんか……」

 

「え!? 告った!?」

 

「えーーそれホントネギ君!? 誰からされたのー」

 

 何だ、宮崎の奴にでも告白されたのかあのガキ教師。……お前らは平和でいいな。こっちは常時気を張ってるから疲れてしゃーねーよ。

 

 

 

 それから暫く経った時だった。近場で風の精霊が行使された気配を察知した。

 

(何だ? また誰か術者が襲ってきたのか?)

 

 その現場をくまなく探査したところ、宙を飛んで着地した車が目に入った。その傍には杖を

持って猫を抱いて「よかった無事だ……」などと言っているガキ教師の姿が。まさかまた魔法を使ったのかあのガキ教師。いや前後の状況からすると猫を助ける為にやむなくって所なんだろうが、いや、でも、うーん。そう考え込んでいると私の風は同時にガキ教師を影から見ている朝倉 和美の姿も捉えていた。やばいな。

 

(おい! ガ……いやネギ先生。あんた今朝倉に見られてんぞ)

 

 私は指向性の風でガキ教師だけに声を届けてやった。

 

「ああーーっ。朝倉さんっ!?」

 

「マズいバレてるぜ! 記憶を消しちまえっ」

 

 傍についているオコジョが素早く助言する。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル――消えろーーーっ」

 

 ガキ教師は反射的に即座に動いて朝倉の記憶を消す魔法を使った。

 

「あ、れ……」

 

 朝倉は魔法をしっかりと食らって記憶が失われたようだ。私としては魔法で記憶を消す事に思う所はあるが、魔法に、裏の世界に関わらせない為に記憶消去はやむを得ないと思っている。

 

 その後、ガキ教師は気を失った朝倉を旅館に担ぎ込んだ。何とか魔法バレはしなかったらしい。良かった良かった。神楽坂に次いで朝倉までなんて冗談じゃねーよ。

 

 その日の夜、見回りに出るガキ教師が桜咲から貰った身代わり符を書き損じて複数人のガキ教師が旅館を徘徊するという混乱が起きたが、私の定点攻撃で事なきを得た。その日の夜は警戒して、桜咲と私と神楽坂で、交代で寝ずの番をしたが、敵の襲撃などは無かった。……眠い。

 

 それはそれとしてガキ教師が宮崎に告白の返事をするというイベントもあったのだが、割愛させて頂く。綾瀬の奴が足を宮崎の足に引っかけて二人がキスしたとか色々あったが、魔法に関係無い出来事なので無視だ無視。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌日、眠い目をこすりながら私達は集まっていた。その時オコジョから仮契約について説明があった。

 

「出し方はこう持って来れ(アデアット)って言うんだ」

 

「え~~? やだなあ」

 

 仮契約(パクティオ―)カードか。私も詳しくはないが一通りの事は知っている。

神楽坂がカードを持って合い言葉を言うと、手に持ったカードがハリセンに変化した。

 

「しまう時は去れ(アベアット)だぜ」

 

 仮契約について説明を終えたオコジョは私や桜咲にも仮契約を勧めてきたが断った。

別にこだわりがある訳じゃないが私は風術師だからな。魔法使いに組み込まれるつもりはない。

 

「よーし。皆も自由行動だし今日こそ親書を渡しに行けるぞーー」

 

 ガキ教師は3日目の今日、自由行動の時間を利用して、関西呪術協会の総本山に出向くつもりだ。近衛のガードは私や桜咲が担当する。旅館を出た当初こそ生徒達に捕まってしまったようだが、途中から神楽坂とオコジョと共に抜け出て行動した。……あ。

 

(おいネギ先生! 神楽坂! 宮崎が後つけてるぞ!)

 

 二人の姿を見逃さなかった宮崎が後をついて行こうとしている。なので二人に注意を

促した。二人は後ろに注意を配り、宮崎を巻いた。ふう、危ない危ない。また一般人を

巻き込む所だったな。……やっぱあのガキ教師含め麻帆良の魔法先生は一般人に対して

かなり負担をかけている気がする。

 

 その後、近衛のガードを行っていると、桜咲から連絡があった。どうも式神を放ってガキ教師の元に配置しておいたようだが、その式神から連絡があったらしい。ガキ教師達は無間方処の咒法だとかいうものに閉じ込められてしまったらしい。あっちを狙って来たか、しかし結界に閉じ込められたというならこちらから助ける事は出来ないだろう。中に居る二人で何とかするしかない。ガキ教師に活躍して貰うとしよう。

 

 ……しばらくして、また式神から連絡があった。どうやらガキ教師達は負けてしまったらしい。相変わらず閉じ込められている二人を置いて、私達は知恵を出し合った。その結果、桜咲の式神で関西呪術協会の本山と連絡を取る。んでもって助けを寄こして貰うのだ。何とも他力本願な方法

だがこれしか方法がない。

 

 またしばらく時間が経った後、二人は結界の中から助け出された。どうも敵とは限りなく引き分けに近い負けだったらしく、救助はスムーズに済んだとの事。

 

 そんな風に連絡を取り合っていたらこちらにも敵がやってきた。敵の攻撃は桜咲が防いでくれているがマズいな……。しばらく走ってシネマ村についた桜咲は何かを考えついたらしい。班の仲間である綾瀬と早乙女に声をかけて、シネマ村の中に入って行く。

 

(これだけ人がいれば襲ってはこれないでしょう)

 

確かにかなりの人出だ。これならそう簡単に襲撃してはこれまい。一般人を巻き込まないのは東も西も変わらないしな。

 

「せっちゃんせっちゃん~~♡」

 

「はい?」

 

「じゃーん♡」

 

「わあっ!?」

 

 近衛が着物姿になっている。貸衣装屋で貸して貰ったらしい。

 

「お お嬢様。その格好は!?」

 

「知らんの? そこの更衣所で着物 貸してくれるんえー。えへへ。どうどう? 

せっちゃん」

 

「ハッ……いえっそのっ。おキレイというか何と言うかですね……」

 

「キャーーー。やったーー」

 

 ……てめえら。私は朝からずっと風で警戒してるってのに随分とのんきじゃねーか!

 

「ホレホレせっちゃんも着替えよ♡ ウチが選らんだげるーー」

 

「えっ いえ。お嬢様っ。私こーゆーのはあまり……ああっ」

 

 もう好きにしろよ。もう。

 

「なぜ私は男物の扮装なのですか? 夕凪が死ぬほどそぐわない……」

 

 桜咲は新選組の紛争をさせられている。その後も二人して写真を撮ったりしている。もうなんか私は疲れたよ。

 

 そこに人力車が近づいて来た。

 

「お……お前は!?」

 

「どうもーー神鳴流です~~」

 

 神鳴流? って事は剣士か!? 

 その神鳴流の剣士は劇に見せかけて衆人環視の中堂々と近衛を攫おうとしているようだった。

 

「このか様をかけて決闘を申し込ませて頂きますーー30分後。場所はシネマ村正門横

『日本橋』にて――」

 

 神鳴流の剣士は月詠と名乗った。30分後に決闘を申し込まれた。桜咲は覚悟を決めた顔をしている。私は風を使って桜咲に言葉を届けた。私は群衆に紛れているから注目されていない。

 

(桜咲、向こうは立ち会う人間がお前だけだと油断してるだろうから、その隙をついて私が攻撃する)

 

(……それは)

 

(剣士であるお前としちゃ抵抗があるかも知れないが、近衛を守る為だ。我慢してくれ)

 

(……はい)

 

 向こうには一昨日の夜に襲撃してきた術者がいるだろうから、私の存在も伝わっているかも知れないな。それでも常に見えない角度から攻撃されるかも知れないというのはかなりの負担になるだろう。それで桜咲が優位に事を運べれば十分だ。

 

 そして戦いが始まった。何を勘違いしたのか雪広達一般人も立ち会ってしまったが、それは敵の放った式神で相殺されている。……まあ、無闇に傷つける類いの力じゃなければ助けてなくても

いいな。式神達は着物の裾をまくったりとセクハラめいた事をしている。

 

(長谷川さん。このかお嬢様を連れて安全な場所へ退避して下さい)

 

 攻撃するより近衛の身の安全が優先か、確かにそうした方が良いかもな。

 

(分かった。無理はするなよ)

 

 私は風の補助を使って近衛を抱えると、その場を逃げ出した。

 

 

 

「ようこそこのかお嬢様。月詠はん上手く追い込んでくれはったみたいやな」

 

 ち、バレたか。しゃーない。近衛に極力魔法バレせずに撃退してやる。

 

「さあ おとなしくお嬢様を渡して貰おうか」

 

「だーれが! 素直に渡してなんかやるもんかよ」

 

 私は風の精霊を自分の周囲に集めると全力で風を行使し始めた。今私と近衛、それと敵は城の

屋根の上に登っている。敵は体の大きな式神を呼び出して弓矢を構えさせた。

 

「あーーーっ!? 何で射つんやーーーッ。お嬢様に死なれたら困るやろーっ」

 

 敵が矢を射ってきた。だから誰がそんな事させるかよっ! 私は素早く風を操ると式神が射た矢を打ち落とそうとした。だが、

 

 ダンッ

 

「桜咲!」

 

 桜咲がその身を呈して近衛を庇っていた。バッカ野郎! 矢は私の風で簡単に打ち落とせたんだよ。それを……。

 

「せ……せっちゃーん!」

 

 矢に射られてバランスを崩し、城の屋根から落ちそうになった桜咲を追いかけて近衛も屋根から身を投げ出した。……だから私がいれば風で対応出来るんだってば。私は風を操ると敵に牽制を

しつつ、落ちた桜咲と近衛を風ですくい上げてやった。

 

 カッ

 

 その時、落ちた近衛と桜咲を激しい光が包んだ。いや、これは近衛から光りが発せられているのか?

 

「せっちゃん……よかった」

 

「お……お嬢様……。傷が……ない……。お……お嬢様、チカラをお使いに……?」

 

 桜咲の射られた傷が治っていた。あれは近衛の力か?

 

「ウ ウチ今何やったん? 夢中で……」

 

(桜咲! 敵の数も多い、ここは一度引こう)

 

「……お嬢様。今からお嬢様の御実家へ参りましょう。神楽坂さん達と合流します」

 

「え……」

 

 桜咲に抱えられた近衛はポカンとした顔をした。 

 

 




 朝倉に魔法バレするも即時記憶消去が成功。ネギま二次としては珍しい展開ではなかろうか。原作でもネギ先生は記憶消去しようとするのですが、事件の後で少し時間をおいた朝倉に対応されてしまっているのです。ですがこの作品では即時行動したので成功しました。なので原作2日目の夜に行われたキッス大作戦も無しです。
 基本省エネ執筆を目指しております。本屋ちゃんとネギ先生のキスは原作通りですが、カモが
対応しきれなかったので仮契約も無しです。本屋ちゃんがアドバイスしないので本気の小太郎に
ネギは負けました。別にネギを負けさせようというアンチ精神がある訳ではないのですが、風術を使える千雨がいると、こうするだろ、そうなるとああなってこうなるよね。とシミュレーションすると自然とこんな感じになりました。

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