私、それと近衛と神楽坂は仕立てて貰った着物を着て共に歩いていた。
「わー 夜桜綺麗ねー」
「うん ここ、結構 遅くまで咲いとるんや」
神楽坂はぼーっとしている。さっきの話を考えているんだろうな。
「どうかしたんアスナ?」
「えっ ううん。何でもっ……。……あ、あの……さあ、このか……」
「何? アスナ」
「……あ ううん。何でもない」
おい、いくら何でも挙動不審だぞ、神楽坂。
「? 変なアスナやなーー。せっちゃん何の話やろねーー千雨ちゃん」
「さーな。何だろな」
多分魔法に関する事を洗いざらい話すんだろうな。
「あた」
その時、神楽坂が扉から突き出た棒のような物に頭をぶつけた。
「え……」
良く見るとそれは……石像だった。
「な……何よコレ……。せ……石像? こんなのあったっけ?」
まさか!?
私は屋敷の中に入って気を抜いていた。急いで風の精霊を集めて探査する。その間
神楽坂は
「ア……アスナー何があったん?」
近衛が不安そうな声を上げる。
「このか……。……このかよく聞いてね。悪い人達がここに来てあんたのこと狙ってるの」
「わ……悪い人って 昼のシネマ村の人……?」
「そうよ。でも大丈夫、安心して。私達が守るから。
神楽坂は仮契約カードを手に持つと、合い言葉を告げて自分の武器――ハリセンを
具現化させた。私も風の精霊を集めてすぐに対応できるよう準備する。
「周囲の警戒は任せろ。神楽坂、あんたは近衛の傍についていてくれ」
「うん、わかった。このか、私の後ろにいてね」
その時だった。私の風が近衛と神楽坂の後ろに出現した敵を捉えた。
「ふっ」
スパァンと音を立てて神楽坂が反射的に後ろに振り返りつつハリセンで敵の頭を殴りつける。と同時に私も風で敵の体を打った。
「すごい。訓練された戦士のような反応だ。でも お姫様を守るには役者不足かな。君も眠って
貰うよ」
敵――白髪の少年はそう呟くと呪文の詠唱をし始めた。させるかっ! 私は負けじと風で攻撃を加える。すると少年の周囲から煙が立ち上った。
(この煙、地の精霊だ! 石化の呪文か!? こいつが本山の皆を石化させたのか!?)
私は慌てて風を使って煙を吹き飛ばした。
「……君のその能力はやっかいだね」
ズン
その言葉を聞いた次の瞬間には、少年の拳が私の胸に突き刺さっていた。
「か……は……!」
「少し眠っていて貰うよ」
「千雨ちゃん!」
私は、気を失った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「長谷川さん! 大丈夫ですか長谷川さん!」
ガキ教師の声で目が覚めた。……どうやら気絶していたらしい。私が気絶している間に、近衛はさらわれてしまったらしい。くそっ。私は気を失っていた間の事を聞くと体勢を立て直した。……気を失っている間に石化させられなかっただけでも儲けものと考えるしかないか。
「アスナさんはここで待っていて下さい。このかさんは 僕が必ず取り戻します」
「とにかく追いましょうネギ先生! 気の跡をたどれば……ぐっ」
「刹那さん大丈夫ですか!? 見せて下さい軽い傷なら僕にも治せます」
ネギ先生が簡単な傷の治療が出来ると言うので、桜咲と私の傷を治して貰った。その後、仮契約を勧めるうるさいオコジョを黙らせて、私達は敵を追いかけた。
「待て!! そこまでだ。お嬢様を放せ!!」
「……またあんたらか」
私達は屋敷の傍に居た敵を首尾良く発見できた。捕らわれている近衛を見る。近衛っ!
今助けるぞ!
「天ヶ崎 千草!! 明日の朝にはお前を捕らえに応援が来るぞ。無駄な抵抗はやめ投降するが
いい!」
桜咲のその威勢の良い言葉に、敵の女性は冷笑を返してきた。
「ふふん……。応援が何ぼのもんや。あの場所まで行きさえすれば……。それよりも……あんたらにお嬢様の力の一端を見せたるわ。本山でガタガタ震えてれば良かったと後悔するで」
天ヶ崎は近衛に符を貼り付けると文言を唱え始めた。
「させるかよっ!」
私が放った風術は白髪の少年に防がれてしまった。くそっ。近衛が。近衛が!
「お嬢様!!」
「このか……っ……!?」
「近衛っ!!」
文言が唱え終わると、その場に100体くらいの鬼が出現した。
「あんたらにはその鬼どもと遊んでてっもらおか。おとついのおかえし 出血大サービスや。
ま ガキやし殺さんよーに
ふざけやがって!
「逆巻け春の嵐。我らに風の加護を――
その時、ガキ教師が盛大な風の障壁を張ってくれた。これなら鬼どもに攻め込まれる
心配はないだろうが、こんな障壁数分ともたねーだろ。
障壁が消えるまでの間、私達は作戦を話し合った。その結果、二手にわかれる事となった。
桜咲と神楽坂の前衛コンビが鬼どもを引きつけ、空を飛べる私とガキ教師が近衛を奪還しに行くというものだ。分の悪い賭けだが他に代案はない。その際ガキ教師と桜咲が緊急事態という事で
仮契約……キスをした。こんな時になんだが、あのオコジョにはどうにも良くない波動を感じる。
「
ガキ教師が餞別とばかりに放った雷の魔法で、鬼どもを蹴散らしつつ進む。
「兄貴!! 感じるかこの魔力!! 奴ら何かおっ始めやがったぜ!? 急げ!!」
私には感知できないが、どうやら近衛の魔力を使って何かをやらかそうとしているらしい。
させるかよっ。
「見えた!! あそこだ!!!」
私にも風で見えたし感じ取れたぜ。近衛があそこに居る。
「むぅ!? こ この強力な魔力は……!? 儀式召喚魔法だ!! 何か でけえもんを呼び出す気だぜ!! 兄貴 急げ。手遅れになる前に!!」
その時、地上から私達めがけて攻撃が飛んできた。ガキ教師は防御に失敗して弾かれた。だが私は防御ではなく回避を選択したので何とか避ける事が出来た。地上に落ちたガキ教師は……
何やら同じガキに格闘戦を申し込まれているらしい。……知るかっ! 私はガキ共を無視すると
近衛の方向に飛んで行った。
私は今空を飛んでいる。上から祭壇のある場所が見える。近衛が捕らわれている。近衛がっ! まだ魔法を知らされていない一般人の近衛が。……許せねえよなぁ。とても許せねえ!
私は、覚悟を決めた。
「千雨、お前は良い弟子だ。私の教えた事を素直に吸収して、短期間の内にここまでの
風術師になった。だがな、そんなお前にも教えられない事がある」
「教えられない事……ですか?」
「ああ。私はお前に攻撃の為の術を教えた。だがその術を実際に人や妖怪などに使えるかは、お前が実戦の場に出た時でないと分からない。お前が覚悟を決めて攻撃出来るかどうかは」
「…………」
「まだ実戦に出ていないお前に言える事は唯一つだ。“その時”になったら
私が躊躇えば、近衛が、死ぬ。敵の目的は分からないがどうせろくでもない事なんだ。それに
近衛を巻き込む訳にはいかない。私は覚悟を決めた。心を、意思を、最大限まで研ぎ澄ませた。
私に出来る最大の攻撃。極限まで研ぎ澄ませた風の刃。それを、放った。
ザンッ
そんな物騒な音と共に、敵――天ヶ崎の腕に斬撃がたたき込まれた。そして、腕が、飛んだ。
私が、天ヶ崎の、腕を斬り落とした。その事を知覚する。天ヶ崎は自分の体に起こった事をろくに認識出来ないようだ。私は風を操って祭壇に居る近衛の体をさらうと、自分の手元に引き寄せた。白髪の少年を警戒していたが、どうやら気を取り直したガキ教師が引きつけてくれているようだ。
「近衛! 近衛! 目を開けろ!」
「……あれ。千雨ちゃん。へへ……また助けにきてくれたん?」
「近衛、どこか痛む所なんかはないか?」
「いや……大丈夫やよ。平気や」
そうか。私は安心して気が抜けかけた。おっといけない。ここはまだ敵の懐だ。気を抜いちゃ
ダメだ。私は再度気を引き締めると、風を使って一気に後方へ飛んだ。ガキ教師と桜咲、神楽坂には風で声を届けて撤退を促す。私達も屋敷に戻る。
「千雨ちゃん。ウチ、空を飛んでるんか?」
「へ? あーいやこれはだな。その……」
私が答えに窮していると、
「へへ。何か千雨ちゃん、天使みたいやなー」
天使、か。そんないいもんじゃないよ。私は先程の天ヶ崎を攻撃した手応えを思い出していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後の顛末を少しだけ語ろう。桜咲と神楽坂が相手をしていた鬼どもは、綾瀬の連絡を受けた龍宮と
途中で出て来たガキは長瀬が、白髪の少年は限定的に封印を解かれたマクダウェルが
京都まで転移魔法で来て撃退してくれた。
そんな中、私と近衛は二人してゆっくりと関西呪術協会の屋敷に戻っていた。屋敷の人間は皆、白髪の少年の魔法で石化していたが、次の日の昼に応援に来た呪術協会の面々が治療して事なきを得た。それまでは近衛が長に張り付いて大変だった。そりゃ自分の父親が石化していたら冷静で
いられないだろうし仕方ない。
石化が解けて、戦闘の傷も癒えた後、3-Aの旅館に飛ばした私達の身代わり紙型が大暴れしているという連絡を受け、私達は急いで旅館に戻ったのだった。
その後、マクダウェルの京都観光だとかガキ教師の父親の別荘を見て回るとかあったが、私は
辞退した。そんな気分ではなかったからだ。呪術協会の長からは天ヶ崎 千草は厳罰を持って処する事になると聞いている。傷の治療は行われたが、完全には繋がらなかったらしい。……そんな事を聞いて気軽に観光などに行く気持ちにはなれなかったのだ。
それ以外にも思う事があった。結局近衛はこちら側の世界に足を突っ込む事となったのだ。
私のした事は無駄とまでは言わないが、意味のないものとなった。私は事件の最中、必死に近衛を守ろうとしていた。その理由が分かった。気づいたのだ。
私は、自分を守りたかったのだ。かつて魔法使いに両親を殺された自分。魔法の世界に強制的に引っ張り込まれた自分。そんなかつての幼い自分を守りたかったのだ。近衛は言ってみれば幼い
自分の代わりだったのだ。
そして、私は気づいていた。近衛を守った所で、幼いあの頃の自分を救う事など出来はしないのだと。代償行為など何の意味も無いのだと。更に言えばその代償行為すら完璧に出来なかった。
結局近衛は魔法の事を知ってしまったからだ。
私は麻帆良までの帰りの車中で、そんな事を考えていた。
千雨ちゃんまさかの油断。まあ2日目ずっと風でこのかを見張ってて、夜は交代で寝ずの番を
して、3日目も変わらずずっと見張って……とかやっていたので、本山に到着した後気を抜いたのは仕方ないね。
その後の戦闘では純粋に技量負けです。タカミチにも勝てないこの千雨では、フェイトの相手は荷がかちすぎていました。
成り代わり系主人公千雨の本領発揮。なんとせっちゃんとこのかの仲直りイベントをぶち壊してしまいました(汗)で、でもしょうがなかったんですよ、空を飛べて即時攻撃可能な人間がいると、シミュレーションすると簡単にこのかを取り戻せちゃうんですよ。私もせっちゃんのイベントを潰してしまうのは心苦しいのですが。「制作者の都合で登場人物を動かす」というのが大嫌いなので、泣く泣くそのままに。
Q:このかと仮契約してないけどネギは大丈夫なの? A:このかを奪還した千雨からの連絡で素早く撤退し始めていたので石化魔法食らわなかったのです。
そして千雨が自分の望みを知ったようです。ですがそれは絶対に叶わない望みなのです。