修学旅行が終わった後、それぞれに色々な事があった。ガキ教師が父親の持っていた
地図を調べたりだとか、それに綾瀬・早乙女・宮崎の図書館探検部が付き合わされたり
とか、ガキ教師が戦った相手のマクダウェルに弟子入りしたりとか。
だがそれらの事に私の心が動かされる事は無かった。あのガキ教師の事も今はもうどうでも
いい。天ヶ崎 千草を斬った手応えも今はもう消えつつある。だが私の心は渇いたままだった。
笑ってしまう。私は結局過去の自分、幼い頃の私を救いたかっただけなんだ。そして
それは絶対に叶わない望みなんだ。それに気づいてしまってから、全てが虚しく思えて
しまっていたのだ。だからガキ教師の父親探しに綾瀬と宮崎が巻き込まれてしまった
としても、止める気力がわかなかった。本人が望んでいるなら好きにすりゃー
いいじゃねーかと思ってしまったからだ。
そう思えてしまうのは近衛が魔法使いへの道を歩き出した事が大きい。結局私は近衛が魔法を
知るのを少しばかり遅らせただけで大した事は出来なかったと思ったからだ。そう思ってしまうとな。
(虚しい……)
クラスの奴らは雪広がリゾートに連れて行くというイベントに沸き立っていたが、私の心は冷めていた。どうでもいい。もう全てがどうでもいい。好きにしたらいいじゃないか。
やけになっているな。それを自覚しつつも心は全く動かなかった。
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「ネギ君疲れてるってゆかヤツれてない?」
そんな声を聞きつつ、欠伸をかみ殺す。
「……くぁ……」
眠い。昨夜は考え事をしていて眠いのだ。ガキ教師の事なんてどーでもいいよ。
それは雨が降る雷雨の日だった。やたら風が騒がしい事が気になっていた。
(何だ? やたら風の精霊がざわめいてやがる)
私は良くない兆候を感じ取った。ここ数ヶ月ろくでもない事件が続いている。万が一の事があるかも知れないから、風を使った探査を試みた。
(なんだあ? この気配?)
やたら強大な気配を感じて、私の嫌な予感は更に高まった。そこで私は禁じ手の、音の収集を
試みた。
「やあ早かったね。ネギ・スプリングフィールド君」
「!? な……那波さん!?」
「て てめえは!?」
「その人を離して下さい」
「うむ。君の仲間と思われる7人を既に預かっている。無事返して欲しくば私と一勝負
したまえ」
「え……!?」
「何だと!?」
「学園中央の巨木の下にあるステージで待っている。仲間の身を案じるなら助けを請う
のも控えるのが賢明だね……」
「あっ待て……」
私は、声を、拾った。それで分かった事は、ガキ教師を目的とした敵が麻帆良に侵入
したという事。既に神楽坂ら7人の仲間が
那波 千鶴が攫われたという事だ。私は……窓に足をかけると外に飛び出した!
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「来たでおっさん!!」
「みんなを返して下さい!!」
ガキ教師と京都で敵対したガキ……「ガキ共」で十分だな。はとにかく敵と相対している。私は適度に離れた位置に毎度おなじみ風を使った隠形で身を隠している。大気密度を操る事で、光の
屈折率を変えて透明化しているのだ。全ては相手の虚を突く為に。
ガキ共は楽しそうに敵に向かって行く。神楽坂が何かされているらしいな。何やら特殊な状況におかれているようだ。まあでも助けないがな。神楽坂はもうガキ教師の従者、パートナーだ。
自分の危機ぐらい自分で何とかしてくれ。
私は那波を助け出す事に集中するだけだ。…………良し。今だ! 私は風の刃を降り降ろした。不可視の刃が、空気分子すら切り分けながら、那波ちづるを捕らえていた水牢を真っ二つに断ち斬った。
「むっ」
敵の老人が反応を示すが遅い。私は割り開いた水牢から那波を助け出すと、風に乗って一緒に
飛び始めた。
「待ちたまえ。それはいささか無粋ではないかね?」
知るか。一般人を巻き込むようなクソ野郎相手に手加減するつもりは一切無い。私は本気の攻撃を放つとガキ教師にだけ
「那波は私が助け出した。後は好きにしてくれ――」
とだけ伝えてその場を立ち去った。後の相手はガキ共がしてくれるだろう。それが私への追撃を防ぐ役目を担ってくれる。我ながら悪辣だとは思うが、那波を助ける為だ。許して貰おう。
学生寮に戻ってきた。私は抱えたままの那波を下ろす為、彼女の部屋に向かった。部屋には村上 夏美がいた。私が那波を抱えて現れたので驚いている。
「ちづ姉!」
「村上……悪かったな。私らの事情に那波とあんたを巻き込んじまった。本当にすまない」
私はこんなことじゃとても慰めにはならないと思ったが、謝った。意味はないかも知れないけれど。
「長谷川さん!? ど、どうして長谷川さんが?」
「この部屋に乗り込んで来た男が居ただろう。そいつらと私は……言わば同じ穴のムジナなんだ。だからあいつに那波が攫われたのが許せなかった。だから私は那波を助け出してきたんだ」
「長谷川さん……」
気を失っている那波をベッドに寝かせると。私はしばらくその部屋に留まった。敵の相手はガキ共だけじゃなく、学園長にも風を使って報告してあるので魔法先生が対応してくれるだろうが、
万が一という事がある。事態が収まるまで私は那波と村上の部屋に居座らせて貰った。村上はこちらに何か聞きたそうにしていたが、私が話しかけて欲しくない雰囲気を出していたので聞いてこなかった。
そうして、その事件は終わった。
事件の顛末は後で学園長に聞いた。なんでもガキ共じゃあの悪魔(モノホンの悪魔だった
そうだ)を倒しきれず、魔法先生が駆けつけて何とか事なきを得たらしい。まあそんな事は
どうでもいい。それよりも那波や村上への対応を私は聞きたかった。
「あの二人……記憶を消したりするんですか?」
「いや……今回の事件、あの二人は完全な被害者じゃ。わしらの事を黙っていてくれる
なら記憶の消去という手段は取らない予定じゃよ」
それを聞いて安心した。魔法使いの事情に首を突っ込ませるのも気が引けるが、記憶を消去するというのも、それはそれで心が痛むからな。
「学園長……私の話を聞いてくれますか?」
「話……か。わかった。いいじゃろう」
「私は……この前の修学旅行の一件で気づいてしまったんです。自分の望みに」
「自分の望み、かのう」
「はい。私はマクダウェルの事件が起きた時、一般人を巻き込んだマクダウェルに怒りを感じました。同じ様に一般人の近衛を巻き込もうとした修学旅行の事件でも私は憤りを感じました。その
理由が分かったんです」
「……ふむ。その理由とは一体なんじゃったんじゃ?」
「その理由ってのは……私は、自分を救いたかったんです。幼い頃の、魔法使いの事件に巻き
込まれた自分を」
「…………」
学園長は、静かに聞いてくれている。
「あの事件に遭った自分を救いたくて、私は目の前の『魔法使いの都合に巻き込まれる一般人』
を救おうとしていたんです。その事に、気づいたんです」
「うむ、じゃがそれは別に悪い事ではなかろう」
「はい。悪い事だとは思ってないです。でも、無意味じゃないですか。昔の自分を救いたいだ
なんて。そんなのただの代償行為です」
「代償行為、か」
「その事に、私は凄く虚しさを感じていました。修学旅行から帰って来てしばらくは
無気力になっていました。でも……」
「でも?」
「今回の事件で、一般人の那波が巻き込まれたと知って自然と体が動いていたんです。
彼女を助けようって」
「そうか。それは……良かったのう」
「はい。良かった……です。代償行為かも知れないけど、虚しい事かも知れないけれど、私は
やっぱり魔法使いの事情に巻き込まれる一般人を見過ごせません。これからも、そういう人を
見つけたら助けて行きたいと思います」
私は、自分の心情を精一杯吐露してすっきりした気分になっていた。
「学園長。話を聞いてくれてありがとうございます」
「いや、いいんじゃよ。修学旅行から帰って来た君が思い悩んでいる事は知っていた。
じゃが悩んでいる君本人が答えを出さねばならない事だとも思ったので見守っていたのじゃ。
自分なりの答えを見つけられたなら良かった」
「はい」
私は魔法使いの事情で命を落とす人なんて見たくない。私はこれからも、そういった
出来事に抗って行こう。
Q:千雨が攫われなかったのは何故? A:あの後攫われる予定でした。
まあ別に襲撃されるのもいいかと思ったのですが、千雨だと普通に撃退してしまう
でしょうからね。結局は結末は変わらないのでこういう風に書きました。
事態は収束する。のどか(本屋ちゃん)結局ネギパーティー入りしました。行動の源泉がネギに対する恋心だから仕方ないね。本屋ちゃんを魔法から遠ざけたかったら、ネギに惚れる所から
何とかしないと。
千雨一歩前進。ほんの少しだけですが前に進めたようです。