風の千雨   作:掃き捨て芥

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学園祭事件編
第13話 学園祭


 麻帆良学園に学園祭の季節がやってきた。最近まで落ち込んでいた私も今はクラスの出し物の

準備に追われている。3-Aの出し物はお化け屋敷だ。本物の幽霊が出るという騒動もあったり

したが、準備は概ね問題なく終わった。徹夜で作業をやったりした気がするが気のせいだ。

学生の徹夜は禁止されているしな。

 学園祭が近付いた事で、世界樹伝説の伝達、6箇所の魔力溜まりでの見張り作業などが課せられた。まあ私も一応魔法生徒というくくりだからな。任せられた分の仕事はするさ。

 そんなこんなで、麻帆良祭の当日になったのである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 麻帆良祭の当日を迎えるに当たって、一つの出来事があった。私自身もまだ上手く整理出来て

いないので、こうして考える事で考えを整理したい。

 

 それは前夜祭の夜の事だった。

 

「で? 私に話って何だよ(チャオ)

 

「いやーハハハ。まずは落ち着いて座ってくれないカナ」

 

 私は同じクラスの超 鈴音に呼び出されていた。超は確か……危険人物として魔法教師などから認定されていたはずだ。魔法の存在に踏み込む女。……まあ、前情報だけで人を判断するのも悪い事か。私はとりあえず勧められた席に座ると飲み物を注文した。

 

「話というのは他でもない、私に協力してくれないカ? という事ネ」

 

「協力……って一体何の話だよ」

 

「ふふ。複雑なようで実はとても簡単な話ヨ。世界に散らばる『魔法使い』の人数、私の調べた所によると……東京圏の人口の約2倍。全世界の華僑の人口よりも多い……これはかなりの人数ネ」

 

「………………それで?」

 

 魔法使いの事をおおっぴらに話している事に突っ込まずに話を促す。まあこんな喫茶店の一室での話なんて漫画かゲームの話でもしているんだろう、で終わるからな。

 

「心配しなくても大丈夫ヨ長谷川。一般人に迷惑をかけるようおなことはしない。私の

目的は――彼等『魔法使い』総人口 6千7百万人。その存在を全世界に対し公表(バラ)す。それだけネ。……ネ? たいした事ではないヨ♡」

 

「は、はぁあ!? そ、そんな事したら……!!」

 

 驚きだ。まさか超がそんな事を考えていたとは。だが……、

 

「……超てめぇ、何を考えてやがる?」

 

「何を……とは?」

 

「私は腐ってもこの麻帆良学園の魔法生徒って扱いだ。その私の前で一般人への魔法バレを促すような事を言うなんて、自殺行為じゃねーか」

 

「長谷川には説得の切り札があるからネ」

 

「切り札?」

 

「一般の人全てに魔法の知識があれば、魔法使いの都合に巻き込まれる一般人は減らせるのでは無いかな?」

 

「…………」

 

「全ての人が魔法の知識を備えるようになれば、今のような密かに魔法使いが暗躍する事はなくなる。一般人と魔法使いの間に置かれる境界線、それがハッキリとした形で示されれば、魔法使いの都合で犠牲者が出ることも少なくなるのではないかネ?」

 

「それは……」

 

 確かに、そうかも知れない。魔法使いという特別な存在が居るのだと、ハッキリとした形で示されれば、無力な一般人は魔法使いに無闇に近付こうとしなくなるだろう。だが……。

 

「そして何より、魔法使いと一般人の境目が明確になっていたならば、麻帆良という土地はこのような魔法使いの街にはなっていなかただろうネ。そして麻帆良がこのような街になっていなければ……長谷川の両親が亡くなる事もなかたのではないかナ?」

 

「――! …………それ、は」

 

 それは確かにその通りだ。魔法使いと一般人の境目がハッキリとしていれば、あの事件は起こらなかった。だけど、

 

「そんな事! 今更言ってもどうしようもねえ事だろうが!」

 

 そうだ。全ては後の祭りだ。何を言った所で、何をやった所で、両親は帰ってこない。あの時の自分は救えない。

 

「とと、落ち着いて欲しいヨ長谷川サン。私は別に貴方を怒らせるつもりはないヨ」

 

「……それはいい。私の事はどうでもいい。それよりお前の計画の事だ。相当の混乱が

起きるだろうな、それに……魔法使いの力を求める一般人というのも出てくるだろう?」

 

「世界中に起きる混乱は私の力で押さえ込むヨ。……私には、秘策があるのヨ♡」

 

 

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 それから数日、私は……私は未だに超に対する態度を決めかねていた。超の言葉が頭をよぎる。

 

 

 

「両親が死んだその日……もしもその日に戻れるとしたら、不幸な過去を変えてみたいとは

思わないカナ?」

 

 

 

「う~~~! …………!!」

 

 

 頭をかきむしる。どうする。どうすればいい。あいつの行動を見過ごしていれば全世界に魔法使いの存在がバレる。それは麻帆良の魔法生徒である私にとっては防がなければならない事態だ。

だが、長谷川 千雨個人としては……。止めるべきなのだろうか。それとも見過ごすべきなのか。私は迷ったままでいた。

 

「ご来場の皆様お待たせ致しました!! 只今よりまほら武道会第一試合に入らせて頂きます」

 

 まほら武道会、超が主催者となったその大会も、ただ見ていた。調査は主に高畑先生がやっていてくれる。私が動く必要はないと言えばない。だが今の私は魔法生徒として背任行為をしているようなものだ。迷いを断ち切り、早めに態度を決めないと……。

 

 そんなこんなで迷っていると高畑先生が地下に閉じ込められたと知った。犯人はやはり超だ。そしてまほら武道会も進行している。その大会では参加者が盛大に魔法を使っていやがる。それを見て私は心が疼くのを感じていた。一般人の前で魔法を使ってんじゃねーよ。いつものような思考、それで私は少しだけ自分を取り戻していた。

 そうだ、私はいつも一般人への魔法バレを防いでいたじゃないか。いつも、いつも、いつも。

規則だからじゃない。無力な一般人が巻き込まれるのが嫌だったからだ。

 

 私は、まほら武道会が終わった後の超の前に立ちふさがっていた。私がというより魔法先生達のオマケだけどな。

 

「やあ高畑先生。これはこれは皆さんもおそろいで……お仕事御苦労様ネ。長谷川サンも♡」

 

「職員室まで来て貰おう超君。君に幾つか話を聞きたい」

 

 高畑先生が勧告する。

 

「何の罪でカナ?」

 

「罪じゃないよ。ただ話を聞きたいだけさ」

 

「高畑先生! 何を甘い事を言っているんです。要注意生徒どころではない、この子は

危険です!! 魔法使いの存在を公表するなんて……とんでもない事です」

 

 超の奴、自分の目的を魔法先生達にバラしたのか。ならもう私だけが悩まなくても良いのか。

 

「フフ……古今東西。児童小説 漫画でも魔法使いはその存在を世間に対し秘密にしている……というお話は多いネ。何故カナ? 私から逆に聞こう。何故君達はその存在を世界に対し隠しているのかナ? 例えば……今大会のように強大な力を持つ個人が存在する事を秘密にしておく事は人間社会にとって危険ではないカ?」

 

 それは。それは、確かにその通りだ。

 

「な……それは逆だ! 無用な誤解や混乱を避け現代社会と平和裏に共存する為に我々は秘密を守っている! それに強大な力を持つ魔法使い等というのはごくわずかだ!!」

 

 魔法先生が反論する。それも、一理ある。

 

「……と とにかく多少強引にでも君を連れて行く」

 

「ふむ……できるかナ?」

 

「捕まえるぞ。この子は何をしてくるか分からない気をつけろ!!」

 

 魔法先生達が超を捕らえようと動く。超の奴は懐に隠し持っていた時計を取り出すと

それを起動させた。

 

「3日目にまた会おう。魔法使いの諸君♡」

 

 その瞬間、超の姿がかき消えた。私の風でも捕捉出来なくなった。

 

「なっ……。き……消えた?」

 

 魔法先生達でも、魔力でも動きをトレース出来なかったらしい。一体どうやって消えたんだ? 私の風で捕捉できなかったという事は、魔法による精霊の行使ではないという事だ。一番可能性が高いのは転移魔法、(ゲート)を開くという方法だが、それは無いと断言できる。転移魔法でも精霊の

行使が感知できるのは、私の修行中に学園長に転移魔法をやってもらって試してある。だから超は転移魔法を使っていない。となると……、考えられるのは、魔法を使わない瞬間移動……か? 

そんな事がありえるのか?

 私達は超が消えてしまったその場所で立ち尽くした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その後、私は風の精霊を総動員して探査に力をいれた。だがそれからしばらくの間、近辺を

探しても、超は見つからなかった。そうして頭が割れそうになりながらも風の精霊を行使していると、携帯電話にメールが入った。超のお別れ会をするから準備してくれ、との事だった。私は訳が分からなかったが、とにかく超に会えるならとその場に急行した。その途中で私は感知した。超 鈴音の存在を。

 

「ようこそ。超りんお別れ会へ!!」

 

「お……」

 

 超はさすがに度肝を抜かれたような顔をする。そこにいたのは3-Aの生徒達……多数の一般人だった。

 

「ちゃおちゃおーっイキナリお別れなんて 突然すぎるよーーっ」

 

「その服 何!? コスプレ!? カッコイー♡」

 

「何で何も言ってくれなかったの!? てゆーか転校するってホントにホントなの!? 超!!」

 

 まさか超に対してこんな手段をとるとはな。予想もつかない事だったらしく、超も目を白黒させている。……私もまた準備で大工作業をやらされたしな。 

 

「な……む……。話はほんとネ。どうしようもない 家の事情でネ……」

 

「そっかーホントかー……」

 

「家の事情じゃ仕方ないねー……」

 

 超が全世界への魔法バレという暗躍をしようとしていたのは聞いていたが、転校するという話は聞いていなかった。まあ普通に考えればそれは当たり前の事ではあるのだが。

 

「てことはもう格安激旨肉まんは食べられないってこと!? 死活問題ッ」

 

「ハハハ五月(さつき)に頼めば大丈夫ヨ」

 

 風で把握した所、ガキ教師と超の奴は激突していた。そこに長瀬と桜咲が割って入って、上手いこと謀ってやった訳だが、さてここからどーする?

 

「それでは委員長である私から、乾杯の言葉を……」

 

 その後、委員長が長くて湿っぽい挨拶をしたがそれはさておき。

 

「カンパーイッ!!」

 

「今日も朝までブワーーッと騒ぐよーー!」

 

「これが……奥の手……ですか?」

 

「しかし楓姉さん思い切ったなー。超が血迷って実力行使でもしたらどうするつもりだったんでい」

 

 おいそこのガキ教師、普通に使い魔を喋らせてるんじゃねえよ!

 

「ハハハ あの聡い超殿に限ってそれはないでござるよ。彼女にどんな事情があるにしても……

学園を去るという話が本当ならば、級友達(クラスメイト)とのこのような席は必要でござろう。彼女も……2年を共にした拙者達のクラスメイトでござるからな。もっとも この場に連れて来れば彼女も下手に動くまいという打算もあったでござるが」

 

 長瀬がそんな事を話している。この場はあいつが用意したもんか。クラスメイト……か、確かにそうだな。私にとっても超はクラスメイトだ。

 

「ほにゃらば緊急特別企画!! 旅立つ超りんへプレゼントターーイムッ!!」

 

「何!?」

 

 超が驚いているが私もだよ!? 急な事だから何も準備してねーぞ。

 

 その後、宴会は楽しく続いた。委員長の雪広はまた胸像なんてもんを用意していやがったが。超の涙を拝ませてもらおうと、エロいくすぐりなどがあったりもしたが、まあいいだろう。あいつ

世界中に魔法使いの存在をバラそうとしてるような奴だし。

 

「イヤイヤヒドイ目にあたヨ」

 

「ハハハ。まーまー」

 

「超……」

 

(クー)……」

 

 超の前に古が立つ。この二人はことに仲が良かったからな。

 

「私からも餞別(プレゼント)があるネ。コレ……わが師からもらた双剣ネ。超にやるアル」

 

「何ト? そんな大切なモノは頂けないネ……古」

 

「超の故郷は遠くて 会うのはもう……難しいアルネ? だから超にもらてほしいアル」

 

 遠い……ね。超の故郷か。どこなんだ?

 

「そうか……わかたネ」

 

「皆に内緒と言ッてたのに悪かったアルネ。超はこーゆーお別れ会みたいのは苦手だた

アルよネー」

 

「いや……自分でも意外だが……嬉しかたヨ。ありがとネ……古」

 

 さて、お別れ会も終わりに近づいた。

 

「さて それでは旅立つ超さんから言葉を頂きましょうか」

 

 超がお別れの言葉を言おうとした時、それは起こった。世界樹がさらに発光したのだ。

 

「さらに光った!!」

 

「電気消して」

 

「んーー♡ 22年に一度の大自然の神秘が見られるなんてラッキーだね♡」

 

「コホン……んーー……何とゆーか。正直 入学した当初このクラスは脳天気のバカチンばかりで どーかと思てたが……」

 

「何だとー」

 

「どーせバカだよー」

 

 全くその通りだが……。

 

「この2年間は思いの他楽しかたネ。それにこんな会まで開いてくれて……今日はちょと感動してしまたヨ。……ありがとうみんな。私はここで学校を去るが……みんなは元気で卒業してほしいネ」

 

 そうして、超の挨拶は終わった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ねぇねぇねぇ。さっきの 故郷が遠くて会えないってどーゆーこと?」

 

 む?

 

「……私の故郷が知りたいカ? いやーーしかしこれは私にとても最重要な……何と

ゆーかネタバレでネ」

 

「ええーー何だよソレ教えろよーーッ」

 

「超の故郷って中国じゃないの!?」

 

「いや もっともっとずーーーーっと遠い場所ネ。……どうしても知りたいカネ」

 

「うん!!」

 

「そうか……わかた。特別に教えるネ。みんなにはかなわないネー」

 

「実は私は……何と火星から来た火星人ネ!!」

 

「うおおおーーいっ!!」

 

「またそれか貴様ーーッ!!」

 

 クラスメイト達から壮絶なツッコミが入る。あの固い桜咲までツッコミしてるよ。

 

「いやいや火星人ウソつかないネ。今後百年で火星は人の住める星になる……私は未来からやって来た、ネギ坊主の子孫ネ」

 

 ガキ教師の……子孫? なんだそりゃ。そして超は意味ありげにガキ教師の方を向いた。その目は確かに真実を言っているように思えた。

 クラスメイト達はその後も騒ぎ続けた。だが連日の準備日からの徹夜がたたったのだろう、すぐに眠りについてしまった。そして超と私達裏の人間の時間がやってきた。

 

「……。さっきの話アレは……本当の……?」

 

「ハハハ。あまりに突飛だと信じてくれないものネ。私は……『君達にとっての未来』

『私にとっての過去』つまり『歴史』を変えるためにここへ来た。それが目的ネ」

 

「え……れ 歴史って超さん……イ、イキナリお話が大きく……」

 

「世界樹の力を使えば それだけのロングスパンの時間跳躍が可能ネ。そんな力を持てたとしたらネギ坊主ならどうする?」

 

 世界樹の力!? それにロングスパンの時間跳躍……だと!? どういう事だ。

 

「父が死んだという10年前……村が壊滅した6年前……不幸な過去を変えてみたいとは思わないカナ」

 

 それは。わたし、は……。

 

「……今日の午前中はまだ動かない。また会おうネギ坊主」

 

「あっ……。まっ 待って下さい!!」

 

 ガキ教師が引き留める言葉を放つ。だが超はまた消えてしまった。まただ。風の精霊でも把握

できない瞬間移動。まさか……本当に?

 

 その後、また超の居場所を捕捉できなくなった私は、奴がこだわっていたガキ教師の傍にいる事にした。




 まほら武道会全面カット。まあ原作との相違点が千雨だけの本作では、ほぼ原作通り
ですしおすし。一般人の前で魔法が使われる事に反応する千雨さんは相違点ですね。
 超の千雨説得のターン。一般人が魔法に巻き込まれる事が最大の禁忌な千雨にとって、世界中に魔法使いの存在を知らしめる。魔法使いと一般人の境界線を明確にする、というのはそれなりに
効力のある説得だったようです。少なくとも魔法が世間一般に広まっている世界なら両親は死なずにすんだハズですしね。それを思うと……。

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