風の千雨   作:掃き捨て芥

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第14話 天才少女の完全勝利

 

「わ わ わ な ななななな……何じゃこりゃああ~~!?」

 

 私は今、マクダウェルの持つ魔法球、通称「別荘」に来ていた。しっかしよぉ……。

 

「スゴイッ広いッ」

 

「スゴイでござるなー」

 

「これどこの魔空空間よ!? 不思議時空!? 暑いッ。夏じゃんかココ♡

ええーーっ!? プールにスパもあんのッ!? いたれり尽くせりじゃんっ。そりゃもー泳ぐしかっ」

 

 その別荘には長瀬、(クー)、そして宮崎、綾瀬、そんでもって早乙女まで来ていた。……いい加減にしろよクソガキ!

 

「ネギ先生! ちょーっとお話いいですかぁ!?」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「はい、はい。すみません。すみませんでした。」

 

「ホントに分かってるんですか!! この状況は問題ですよ! も・ん・だ・い!!」

 

 私は今ガキ教師に説教していた。説教なんてホントはやりたくないんだ。だがこの状況じゃそうも言ってられない。

 

「スイマセンじゃなくてあんたの問題だろーがあああああ!!」

 

 私は烈火の如く怒っていた。ガキ教師は平謝りするばかりだ。パートナーである神楽坂も早乙女を連れ込んだ事は問題視している。

 

「ヤバイじゃんかッ!! あんたオコジョの話はどーなったのよッ!? もうオコジョよ あんた!! もうほとんど70%位オコジョよーーー!!」

 

「ひいいーーーースイマセンーーーーッ」

 

 あまり怒ってばかりいても話が進まないか。私は少しクールダウンする事にした。

 

「……ネギ先生。真面目な話をしますけどね。私は少し前からちょっと悩みがあったというか、

それでネギ先生の魔法バレも看過していたような所があります。でもね、これはちょっと行きすぎでしょう。尋常じゃないですよこの状況は」

 

「はっはい、すみません本当に」

 

「それで? ネギ先生はどれだけ覚悟しているんですか?」

 

「覚悟……ですか?」

 

 キョトンとした顔をするんじゃねえよ。

 

「この際だから告白しておきますが、私がこの世界に足を踏み入れたのは、魔法使いの

事情に巻き込まれたからです。その時の事件で私は……両親を失っています。死んだん

ですよ私の両親は。魔法使いの、事情に、巻き込まれて!!」

 

「…………」

 

 ガキ教師は青ざめている。そりゃ当然か。私だって他人にこんな話されたら顔色悪く

するよ。

 

「私は、それ以来魔法使いの事情に一般人を巻き込む事を絶対に許せない事として

きました。マクダウェルが一般人の佐々木達を巻き込んだ時に怒ったのもそれが理由です。

そして、半分くらいは魔法使いの世界に足を突っ込んでましたが、京都で近衛が狙われた

時に動いた理由もそれです。後は先日の悪魔野郎ですね。あいつは那波を巻き込みました。なので申し訳なかったですが、先生達をおとりにして那波だけを助けさせて貰いました」

 

 私はその場にいるマクダウェルと近衛を見ながら言葉を紡ぐ。ガキ教師は黙って聞いている。

 

「千雨ちゃん……」

 

 神楽坂や近衛が複雑そうな顔をしてこちらを見てくる。両親の事とかも一気に話した

からな、引かれたのかも知れない。だが構っちゃいられない。

 

「ネギ先生、貴方は危険な、死ぬ事があるかも知れない自分の事情に生徒を巻き込んで

いるんですよ。もうバレてしまった事は仕方ありません。ですがその事に覚悟はあるんですか?」

 

「……覚悟。はい、確かにその通りです。僕は自分の未熟さで生徒の皆さんを巻き込みました。

それは許されない事だと分かっています」

 

 そこで、神楽坂があまりに私が責める論調なので気を使ったのだろう。ガキ教師にフォローを

入れてきた。

 

「千雨ちゃん、ネギも悪気があってやってる訳じゃなくて……」

 

「ああ、それは私も分かってるよ。ネギ先生が悪意を持って生徒を巻き込んでいるんじゃないって事は」

 

「……ふむ、長谷川 千雨、少しの間ぼーやを借りるぞ」

 

「え、おい!?」

 

 そう言うとマクダウェルはガキ教師をひっつかんで連れて行ってしまった。そうしてしばらくの間、ガキ教師はマクダウェルにしごかれたらしい。つーか今更だけどガキ教師はマクダウェルの

弟子になってるんだよなぁ。私がぼーっとしている間にそんな事になってるなんてな。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「みなさん、千雨さん! 僕の話を聞いて下さい!!」

 

 復帰したガキ教師はそう言ってみんなの注目を集めた。

 

「僕は……僕は、当面の目標として、先生として(チャオ)さんを止めます! みんなの力を僕に貸して下さい!!」

 

 マクダウェルと話して吹っ切れたのか、ガキ教師はそう言った。

 

「ネギ先生、それはここにいるみんなを巻き込む覚悟を決めたって事ですよね」

 

「はい、僕は覚悟を決めました。みんなを仲間として認め、力を借りたいと思います!」

 

 ガキ教師――ネギ先生の顔は晴れやかだった。本当に吹っ切れたのだろう。なら私から言う事はもうない。

 

「分かりました。ネギ先生。貴方が覚悟を決めたというなら私はそれを止めたりしません。神楽坂が貴方のパートナーとなった時も思った事です。本人が危険を承知で『踏み込んで』いるなら、

私にそれを止める権利はないでしょう。ただし!! いいですか!! 『これ以上』は

絶対にダメですからね!!」

 

「は、はい。もちろん分かってます。が、頑張ります」

 

 分かった。それならこの話はこれで終わりだ。その後、私達は超の事に話を移した。

 

「ええッ!? し……子孫!? かか 火星人!?」

 

 話を聞いた神楽坂――高畑先生に失恋した痛手で別荘に籠もっていたらしい――は

そんな反応をした。そりゃそーだよなぁ。普通に話を聞けばそうなるよなぁ。

 

「馬鹿げて聞こえますが、全て先程本人が言った事です」

 

「ちょ ちょっと待つヨ。お話多くて分からなくなったネ。整理してもらえるアルカ?」

 

 古がそう提案する。確かに一度整理してみるか。つーか今気づいたけどここにいる

メンバー成績が悪いバカ四人衆が揃ってんぞ。

 

「えと……超さんは百年以上先の未来から来た火星人で……」

 

「しかもなんとネギ君の子孫!?」

 

「目的は航時機(タイムマシン)による歴史の改変。その為に魔法の事を世界にバラそうとしてて」

 

「学園祭3日目にそれを行動に移す……でござるか」

 

 私達はそれぞれ発言して現状を整理した。しかし、

 

「世迷い言だな……」

 

「確かに酔っ払いの戯れ言以下という感じですが……」

 

「やはり全て嘘と考えた方が良いでしょうか」

 

 つーか火星人とか未来人とか かぶってんだろ。子孫とかネタ多すぎんだよ。世迷い言にしてもどれかに絞っとけっつーの。

 

「…………。でも さっきの超さんはまるっきりの嘘を言っているようには……僕には

見えなかったんです。それに全部嘘だったとしても……この……超さんからお借りした

タイムマシンは本物です」

 

 それな。どうもネギ先生はマジモンのタイムマシンを超にもらっていたらしい。それも神楽坂達を巻き込んで作動させて時間を巻き戻すという経験もしているらしい。とても信じられなかったが、みなが口を揃えて本当だと言うので信じざるを得なかった。まあ魔法の世界にいるのに何を今更って話だよな。

 

「先程の話が全て本当だとしてそれでも疑問点が2つあります。一つは『魔法をバラす』事が何故『歴史の改変』という話に繋がるのか……。もう一つはそもそも 何故超さんはわざわざ百年も先の未来から来てまでそんな事をしようとしているのか」

 

 綾瀬が簡単にまとめてくれる。こいつ頭は良いんだよな。学校の成績がアレなだけで。

 

「え ええ、そうです……。それに……僕……超さんがやろうとしている事が本当に悪い事なのかどうか……」

 

 ネギ先生は単純に超を悪人とはみなしていないのか。魔法バレは魔法使いにとってあっちゃ

いけない事なんだが……ああそうかこの先生秘匿の意識とかゼロだったっけ。

 

「何言ってんのよ。超さんは高畑先生を拉致監禁してたのよ? 悪い事してるって

いうのはもう確定済みでしょ!」

 

 神楽坂が怒っている。愛する高畑先生に酷い事をされたとあっちゃ許す訳ないか。その会話の合間にも私達はネギ先生と仮契約(パクティオー)した奴らのアーティファクトなどをチェックしている。戦力を確認するのは大事だよな。こっちの陣営は回復役の近衛に、近接攻撃ができる神楽坂、桜咲、長瀬、古だ。後方支援は宮崎、綾瀬、早乙女、それと私……か。この非常識なメンツと行動を共にするとか正直言ってかなり寒気がするのだが。

 

「そんな事言うなよ。そうだ!! ちさめっちも仮契約しねえか?」

 

「するかバカッ!!」

 

「いいじゃん千雨ちゃん♡ やっちゃおーよ仲間じゃーん♡」

 

「いつ私がお前らの仲間になったんだッ!! 私に抱きつくんじゃねぇええ」

 

 抱きつくなバカ早乙女!

 

「私は一切手を貸さんからな。頼るなよ」

 

 マクダウェルは協力してくれないのか。まあ前の事件のように封印が解けていないならそこまで強力な味方にはなってくれないもんな。

 む、ネギ先生の様子が優れないな。超と戦う事をそこまで吹っ切れてないのか?

 

「まあまあ 兄貴。超の奴も級友(クラスメイト)(タマ)を奪るって話までにゃならねーよ。心配すんなって」

 

 なんだ、超の攻撃と超に対する生徒達の攻撃を気にしてたのか。

 

「しかし問題は超殿でござるな。超殿の術の正体が分からなければいくら人数が揃っても……」

 

 長瀬が問題を指摘する。聞いた話じゃ、まほら武道会を準優勝した先生も、桜咲と長瀬も同時にかかったが煙のようにかき消えるような現象を起こして攻撃を回避・対処されてしまったらしいからな。しかし私の予想じゃ……。

 

「確証はありませんが……超さんは僕が何とかできると思います。僕に任せて下さい」

 

 ネギ先生は少しだけ自信ありげにそう言った。タイムマシンを持ってるネギ先生が。

やっぱりネギ先生も気づいたか。そうだよな。それしかないよな。

 その後、生徒達はユニット名なるものを決め始めた。お前らの脳天気さがうらやましいよ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「お……おおお……。ススス スゲェッ!! スケブに描いたテキトーな落書きが

モリモリ動いてるッ」

 

 早乙女が発奮しとる。ネギ先生と仮契約をしてアーティファクトを生み出したからだ。私としては仮契約もさせたくはなかったのだが、本人が望んで踏み込んだなら私はどうこう言わない。これが私のスタンスだ。

 綾瀬のはどうやら「魔法使い初心者セット」と同じものみたいなものみたいだ。まあそう簡単に

役立つ道具なんて選んで得られるもんじゃないよな。

 その夜、私達は別荘に泊まった。別荘の中は時間の経過が一致していない。別荘の中では一日

過ごしても、外では一時間しか経過しない。それを利用して別荘の中でたっぷり休息を取ろうと言う訳だ。

 

「みなさんゆっくり休めましたか?」

 

 ネギ先生がみんなに聞いて回る。私達は十分に休息を取れた。大丈夫だ。

 

「みなさん僕の話を聞いて下さい!! 超さんは学祭最終日、つまり今日 大変な作戦を実行しようとしています。目的は『魔法』の存在を全世界にバラすこと。作戦の詳細は分かりませんが、もし この目的が達せられれば、世界中が大混乱……少なくとも大騒ぎになってたくさんの人に迷惑がかかったり色々な問題が起こる事が当然予想されます」

 

 そうだな。それは私も同意見だ。たくさんの人に迷惑がかかる、それは止めなきゃならない事だ。

 

「まあ『魔法』だしねぇ。世界にバレたらどうなることか」

 

「バレたらどうなるんやろ~世界中みんな魔法使いになったり?」

 

 想像したくもねぇな。

 

「ただ正直言って……超さんの最終目的が本当に悪い事なのか僕には分かりません。でも……」

 

「何言ってんのよあんたまた!! 悪いに決まってんでしょ!! 脱がされたのよ、私達ロボに」

 

 迷っているネギ先生に神楽坂がまた怒る。どうやらネギ先生の迷いは完全には消えなかったらしい。

 私は……私は一般人の前で魔法が使われたまほら武道会と、ネギ先生の魔法バレで心は決まった。いや、正確には夜眠るときに寝付けなくて考えをまとめていたのだが、それで私は決断した。超のする事はもしかしたら多くの人に恩恵をもたらす事なのかも知れない。でも私は魔法使いの勝手な事情で――超も立派な魔法使い側だ――一般人に迷惑をかけるのは、巻き込むのは認められない。それが私が決めた、私の答えだ。

 

「最後まで話を聞いて下さいアスナさん。でも 超さんはその過程でタカミチを地下に

閉じ込めたり悪い事をしていますし、まず話し合いを という僕の呼び掛けにも応じて

くれず、作戦を強行しようとしている事。また良し悪しに関わらず作戦成功時の影響が

これ以上ないほど甚大である事などから……僕には先生として超さんを止めなければ

いけない責任があると思います。例え力ずくでも……僕は……先生として超さんを

止めます。みんなの力を僕に貸して下さい!!」

 

 おっと。どうやら迷いながらもネギ先生の心は決まってくれたらしい。それなら私は

それに協力するまでだ。

 

「任せといてよっ!!!」

 

「改めて頼まなくてもいーってのバカネギ」

 

 先生のパートナーとして戦闘などもこなした神楽坂と違い、早乙女……お前は仮契約でアーティファクトを得ただけの人間だろ。あんまり自分の力を過信するのは……。私は奮起している早乙女、綾瀬などの戦闘の経験が薄い人間に危惧を覚えた。

 私は風術を学ぶ過程で、常に客観的な自己評価を心がけろと教えられていた。無意味な虚勢や

過大評価がどれほどの危険を呼ぶか、過去の経験からいやと言うほど学んでいたからだ。

 

 

 その後、私達は別荘を出たが超は午後まで動かないと行っていたので、午前中は何も

出来る事がないかも……という事で一時解散になった。まあ私はそんな敵の言葉を信じたりしてねーがな。午前中も、自分に出来る範囲で風の探査を行う予定だ。

 ネギ先生はなんとのんきにも村上の舞台を見に行くらしい。ぶ、舞台て。いやネギ先生は曲がりなりにも正式に配属されている教員な訳だから、生徒一人一人を無視する訳にもいかねーのかも

知れないが、それはあまりに気を抜きすぎだろう。だが言っても今更このガ……ネギ先生の意識が変わるとは思えなかったので好きにさせといた。その分私が頑張りゃーいいだけだした。

 

「なあなあアスナはどー思う? 超さんの作戦の話♡」

 

「世界に魔法をバラすって話?」

 

「うん♡ ウチ ちょっとそーなってもえーかなって思うんよ」

 

「え!?」

 

 何で!? な、ななな急にどうした近衛。いきなり身内から裏切りかぁ!?

 

「世界中の人がウチみたく治す系の魔法覚えはじめたら、今よりもっとたくさんケガや

病気の人治せるやろ?」

 

 あー。確かにな。それはあるかもな。だが近衛。その言葉は私にとって毒だ。あまり

聞かせないでくれ。せっかく昨日の夜に決心を固めたというのに心が揺らぐじゃねーか。

 

「しかし お嬢様この問題には良い面だけでなく負の側面も……」

 

 桜咲は慎重な心向きのようだな。なんだかちょっと安心した。

 

「それにみんなホーキやじゅーたん乗って飛んだりしてたらスゴイ楽しそーやん♡ カモくんとかゼロちゃんみたいのが たくさんいたり……」

 

「私はイヤだね。超の奴はどう言葉を取り繕うが魔法使い側の人間だ。そいつの勝手な

事情で一般人を巻き込む? 論外だね。それは私にとって認められない事だ」

 

 超の側に幾ばくかの正義があるのは認める。近衛が言うように有用な面も少なからずあるのだろう。だがその作業をやるのだったら、一般人に、本当に、最低限度の迷惑しかかからないように

細心の注意を払いながらやるのでなければ認められない。魔法使いの犠牲になる人間をみすみす

見過ごすつもりはない。巻き込まれる一般人なんて出しちゃいけないんだ。

 

「……?」

 

 なんだ? 何か周囲の様子がおかしい。

 

「でもさーーやっぱ世界に魔法がバレるのはヤバイよ。」

 

「あん アスナもそー思うん? 何でーー」

 

「まあまあお嬢様、いずれにせよ超さんを止めなければ学園祭は大騒ぎですし……」

 

 おかしい。風の探査に引っかかる周囲の人間が少なすぎる。やっぱりこれは……。

 

「オイ桜咲。オイ! 聞け桜咲!」

 

私は桜咲の頭に軽くチョップしてやった。何度も呼んでるんだ。気づけ!

 

「えっ……? 長谷川さん」

 

「意外にヌケててカワイイな あんた。周りを見てみろ」

 

 私は言葉を切って、続ける。

 

「よく見ろ。これは……学祭最終日の風景じゃねぇ」

 

 学祭の最終日にしては人が少なすぎる(・・・・・・・)。最終日である事を考えれば、もっと人出があってしかるべきだ。だが周囲には全く戸言っていいほどそのざわめきが感じられない。

 

 そこに、綾瀬達3人が新聞を持ってやってきた。

 

「はああぁ!? 今日が学祭の一週間後ーーッ!!?」

 

「駅前のテレビで朝のニュースの日付も見てきました。間違いありません」

 

 神楽坂はだいぶ混乱している。その間に私はカフェのPC端末を借りて日付を確認した。

 

「確かに間違いねぇな。今日は6月30日だ。世界中どこ見ても」

 

「え“うっ……。で でもでも何で? エヴァちゃんの別荘が故障しちゃったとかそーゆー……?」

 

 いや、これはもしや……超の仕込みか!?

 

「いや……恐らく故障などではないでござる。我々は 超殿の罠に落ちた……と 考えるのが妥当でござろう」

 

 長瀬がその可能性を指摘する。やっぱりそうか。

 

「わ わ 罠ってどーゆーこと!?」

 

「状況から推察するにエヴァ殿の別荘の出入りの時に何か仕掛けがあったのでござろう。拙者達は 学祭最終日に超一味と一戦交える覚悟だった訳だが、勢い込んで別荘を出てみればそこは一週間後……。つまり、戦わずして我々は超殿に負けたという事でござるな。拙者の推測が当たっていればの話でござるが」

 

 つまり、超の作戦は労せずして成功しちまった……という事なのか!?

 

「い いえ、学園側には使い手が何十人もいます。私達がいなかったとしても 簡単には……」

 

「どうかな……」

 

 私はのぞき込んでいる端末で表示した動画を見て青ざめた。

 

『おっ出て来た。たった今 麻帆良中2-D 佐倉メイさんが学生寮から出てきました。メイさんちょっと宜しいですか』

 

『ひゃああ!? 何ですか あなた達はーーッ』

 

『まほらTVです。このまほら武道会の映像ですが、突然あなたの手にほうきが出現したように

見えます。これこそが今ネットで話題の魔法と考えて宜しいんでしょうか!?』

 

 その後も魔法生徒、佐倉 メイがてんやわんやでその場から逃げる様子が動画に映し出された。

 

「もう……5日前の映像だ。少なくともこの麻帆良学園内じゃバレバレらしいな」

 

 こうしていても仕方ない。私達はネギ先生も異変に気づいている筈だと言う事で集合場所であるマクダウェルの別荘に戻る事にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「げげげっ。何じゃあこりゃあっ」

 

 別荘に戻った私達を迎えてくれたのは、別荘のミニチュアに貼られた私の勝ちネ♡ と

書かれたビデオメッセージだった。

 

「ぬぬぬぬぬ。しょ 勝利宣言~~!?」

 

「超さんの書き置きですね」

 

「大胆でござるなー」

 

 悔しがる早乙女に対して桜咲と長瀬はそこまで慌ててはいないらしい。冷静な人間が

いるというのは助かるな。

 

「じゃ じゃあ マジで私達 負けちゃったって訳!? まだ何もしてないのに」

 

 だから落ち着け、早乙女。

 

「あ 私コレ知ってる。魔法使いの手紙よココを押すとSF映画みたく立体に動画が……」

 

 神楽坂が操作すると超の3D映像が浮かび上がった。ホログラフ……だな。

 

『やあ 元気カナ? ネギ先生とそのお仲間達。スマナイがこれで……君達の負けネ。

いささか納得のいかぬ敗北ではあろうガ……。だが 最も良い戦略とは戦わずして勝つ事。

悪く思わないで欲しいネ。油断した君達が悪い』

 

 確かに納得のいかない敗北だが……してやられたのはこっちだ。素直に負けを認める

しかない。

 

『こんなこともあろうかと、元々 ネギ坊主に貸した航時機には 時限式の罠を仕掛けさせてもらていたヨ。君達に最終日が訪れないようにする罠がネ……。ネギ坊主が味方になてくれれば解除するつもりだたが。さて……見事私の罠にハマた君達は、なんとビックリ歴史改変後の未来にいるハズヨ。もう今までの君達の日常には戻れないがネ。……ようこそ諸君、我が新世界へ』

 

 その後、超は細かく自分の計画について語ってくれたので、それを簡単にまとめてみた。

 超は、膨大な世界樹の魔力を利用して、全世界に対して「強制認識魔法」を行使した。学園最終日、6月22日 午後7時37分。超は世界樹の魔力が最も増大するこの時間を狙って6箇所の「魔力溜まり」を大量のロボット兵器群を用いて占拠。直径3キロの魔法陣と世界樹の魔力で発動した「強制認識魔法」は更に地球上に12箇所存在する麻帆良と同等の「聖地」の魔力と共振・増幅され、3時間後には全地球を覆い尽くす事になった。

 

 全世界に拡散した「強制認識魔法」の内容は、人々の 魔法等超現実存在へのハードルを下げるというごく簡単な催眠術程度の威力に留まったらしいが、何しろ規模が違った。超の計画にはそれで充分だったらしい。

 

 また、超はインターネット上に魔法使いについての情報をバラまいていた。表向きはまほら武道会のトンデモバトルのネタ映像として流布しているが、興味を持って検索すれば魔法使いについての様々な情報、果ては魔法界(マギアニタース)についての情報にまで行き当たるようになっていた。

 

 魔法先生達はこの一週間、事態の収拾に努めていたが、超の高度なプログラムによって守護され拡散し続けるそれらの情報を消去し尽くす事は不可能だった。もう既にかなりの人間が世界の真相に迫っているだろうとの事。最初は知る人ぞ知る世界の秘密だったが、一週間が経ち学園の住人はそのほとんどが信じ始めている。一ヶ月後には先進諸国各国の人間が信じ始める事になるだろう。……ごく自然に、自発的に。半年が経つ頃には、世界全ての人間が魔法の存在を自明のものとして認識する事となる。

 

『……以上が私の作戦の全容ネ♡ 今後5年から10年は混乱が続くだろうし君達にも幾らか迷惑をかけると思うが、何 実際過ごしてみればそれほど悪い世界ではないハズヨ。では……また会おう(・・・・・)諸君』

 

「……なるほどな。奴がこの時代を選んだのは丁度インターネットが普及し終わった時代だったからかもしれねえな。色々ツッコミたいのは置いといて」

 

 私はそんな自分の言葉をどこか他人事のように聞いていた。

 ……くそっ……!! 冗談じゃねぇぞ。そこに、更に悪い知らせがオコジョによってもたらされた。

 

「ネ……ネギがオコジョにされる……!?」

 

「ああ今回の責任をとってな。今は地下に閉じ込められてる」

 

「な 何でよ!? 今回の事ネギが悪い訳じゃないでしょ!?」

 

 神楽坂はパートナーがそんな目に遭う事が認められないようだ。反対にオコジョは

比較的冷静らしい。

 

「……これだけの事件だ。それも当然さ。兄貴にも確かに自分の言葉への責任がある。兄貴はまだ10歳だしな……オコジョの刑は数ヶ月で済むかもしれねえが、本国に強制送還されるのは間違いねえだろう。下手するともう……二度と会えねぇかも」

 

 その言葉に宮崎などはショックを受けている。いや……まあネギ先生が本国へ強制送還されるのは私としてはそこまで反対する事じゃないのだが。今は目前にあるこの大問題を何とかしないと。

 

「は 話し合いは出来ないのですか?」

 

「どうかな頭の堅い連中だしな。それにあいつらはあいつらで 責任を負う事になるハズなんだ……追い詰められてんのさ」

 

 綾瀬の提案にもオコジョは冷静に返す。

 

「そんなの知らないわよ。うだうだゆ―なら私がブッ飛ばしてやるわ」

 

「まあ待て神楽坂。おい 小動物。お前の持ってるそのタイムマシンはどうなんだ。それを使って もう一度最終日に戻れば超の作戦を止められるんじゃねぇのか?」

 

「おおっ!!」

 

「……それなんだが……このか姉さん航時機の説明書を」

 

「う うん」

 

 オコジョはその小さい体を使って目一杯に説明書を広げた。

 

「……やはりか。この航時機は世界樹の魔力充ちる学祭期間中しか使えねぇ。見ろ 針が動いてねぇだろ? これじゃただの懐中時計としても使えねぇぜ」

 

「ええええっ!?」

 

「こいつぁ 起動に世界樹の魔力も触媒として必要としていたんだ。そうそう便利な道具は

ねぇってこったな……」

 

「じゃ……じゃあ世界は本当にこのまま……? ど どうすんだよ……」

 

 頭のてっぺんから血の気が引いていくのが分かる。きっと今の自分は真っ白い顔をしているのだろう。

 

「まあ待てあせるんじゃねぇよちさめっち。まだ何か……まだ何か打つ手があるハズだ!」

 

「とにかくネギを助けに行こうよ!! 話はそれからでいいでしょ!!」

 

「しかし アスナさん。魔法先生と対立するのは、もう少し考えてからでも」

 

「待て 刹那。考える時間はなさそうでござるよ。どうやら……向こうから出向いてきたようでござる」

 

 私は慌てて風の精霊を集める。気配を感じなかったので油断していた。これからは常に気を

張っていないと……!

 そして二人の人物がログハウスの前に姿を現した。

 

「魔法先生……! 刀子さん……」

 

「な……なぜです?」

 

「うむ……ここはエヴァ殿の別荘でござる。超殿の仲間と疑われたか、ネギ坊主の仲間だからか……どうする? 話し合うか、それとも……」

 

 魔法先生達と戦う……!? マジかよっ。

 




 ずっとアンチ路線で来たこのSSもついに和解(?)する時がやって参りました。賛否両論は
あるでしょうが、本人が良いと言っている以上、他人が口出しするのは野暮というものです。

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