風の千雨   作:掃き捨て芥

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 最終話です。残す所はエピローグのみ。


第17話 祭りの後

「御苦労じゃったな、千雨ちゃん」

 

「いえ……」

 

 私は今学園長室に来ていた。既に事件の首謀者である(チャオ)と葉加瀬の身柄は渡してある。龍宮もしばらくの間抵抗していたが、超が敗れたと知って抵抗をやめた。「契約主が敗れたのならば私も引くべきだろう」とは彼女の弁だ。

 そう、超は私の風の前に倒れた。風を使った定点攻撃で葉加瀬と超の頭を全くの同時に撃ち抜いたのだ。超の奴はタイムマシンを持っていたのでそれで躱される事も想定していたが、こちらに

言葉をかけてこようとする甘さにつけ込んで一撃で仕留めさせてもらった。

 

「本当に、御苦労じゃったな。クラスメイトと戦うのは辛かったじゃろう」

 

「…………。魔力も気も使えない葉加瀬に風を打ち込んだのはきつかったですね。あの感触は

しばらく手を離れそうにありません」

 

「う……む」

 

 沈黙が場を支配した。事件を起こした側だろうと、一般人である葉加瀬を攻撃した事はやはり

辛かった。学園長もそれを認識してくれているのだろう。結局、千雨は一般人に魔法を使うのを

止める為に、「自分が」一般人に精霊術を使う事になったのである。葉加瀬を完全な一般人と見るのかどうかは意見が分かれるだろうが。

 

「学園長。超の処罰はどうなりますか? 彼女は、彼女の言葉を信じれば未来人という事になりますが……」

 

「ふむ……そうじゃな。難しい問題じゃな」

 

 超を本来彼女が存在しない、今の時間で裁く事になれば色々と問題も出て来るだろう。だが

だからと言って未来の人間だからと言って野放しにするのもそれはそれで問題だ。

 

「学園長、私の希望を言ってもいいですか?」

 

「ふむ? 希望とな?」

 

「私の希望を言わせてもらえれば……超はこの時間で、私達のルールで裁いて欲しいです」

 

 それが、私の希望だ。超はこの時間で罪を犯した。ならこの時間で裁かれるべきだろう。問題はその罪が公式に認められた法律ではないという事だ。

 

「理由を……聞いてもいいかの?」

 

「はい。超は未来ではなくこの時間で罪を犯しました。ならこの時間で裁かれるべきだと思います」

 

「ふむ。確かにのう。じゃが問題もあるじゃろう。彼女をこの時間で拘束するという事は、世界樹の魔力を使った時間移動が出来なくなるという事でもある」

 

 そう。それも問題なのだ。例えば今から少しの間超を拘束したとしよう。すると超は

この期間での世界樹の発光、22年ぶりの魔力で未来に帰る事が出来なくなってしまうのだ。

だけど……。

 

「それに関しては問題ないんじゃないでしょうか? 超は計画が成功していればこの時間帯に

留まるつもりだったのでしょう。ならこの時間である程度拘束して、22年後まで帰れなくなってしまっても彼女の元の予定とはそう違わないハズです」

 

 自分でも詭弁を言っているな、と自覚する。超自身がそれを受容していたからといって、他者が強制的にこの時間に拘束させるのはまた次元の違う話だ。

 

「本音を……言ってもいいですか? 私が超を許せないと感じているのは自分に置き換えて考えているからです。もし私がタイムマシンを使えたら。使ってあの日に戻れたら、あの事件が起きる前にあの男を『私が』殺したとします。過去の私じゃなくて。そうしたらあの事件は起こらない訳ですが……その場合私は過去で行った殺人で、その時間で裁かれるべきだと思います。だからです」

 

「……なるほどのう」

 

「まあ、それもこれも一人の魔法生徒としての勝手な意見です。最終的には学園長が裁定を下す事だと思うので、後は好きにして下さい。どんな結果になろうと私はそれを受け入れます」

 

「いや、彼女らを捕らえた第一功の君の意見じゃ。参考にさせてもらおう」

 

「……よろしくお願いします」

 

 そうして、私は学園長室を後にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 麻帆良は学園祭の後という事で、僅かばかりの騒がしさを残していた。だがこの喧噪ももう少し経てば完全に収まるだろう。学園祭は終わったのだ。

 その中で、私は超の言った言葉を、色々な事を考えていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 学園祭から一週間経った。超一味への処罰も既に決定した。超はオコジョとなり魔法使いのオコジョ収監所で禁固刑。葉加瀬は……最初は記憶消去が検討されたらしいが、2年以上前から絡繰の作成などで魔法を知っていたので、魔法に関する記憶を消せば影響が大きすぎるという事で魔法

使いに対する無料奉仕に決まった。龍宮も同じく無料奉仕だ。金の亡者であるあいつにはことさら良く効く処罰だろう。絡繰は無罪放免だ。ロボである以上自分を作ったマスターには逆らえない

だろうからな。だが監視は付けられる事になっている。

 

 そして今日、私はわがままを言ってマクダウェルの別荘を使わせてもらっていた。魔法使い関係の集まりを開きたかったので、絶対に一般人が入り込めない場所が欲しかったのだ。マクダウェルには借りが出来たな。

 

「それで? 話って何ですか長谷川さん?」

 

 ネギ先生が聞いてくる。この場にはネギ先生、神楽坂、近衛、桜咲、宮崎、綾瀬、早乙女、(クー)、長瀬、そしてマクダウェルと絡繰が居る。あ、あと私な。

 

「ん。みんなも超達に下された処罰はもう聞いているだろう?」

 

「それは……」

 

 私がその事に触れるとネギ先生と古が特に渋い顔をした。彼らにとっては納得できない処罰

だったのだろう。特にネギ先生にとっては魔法バレという事なら自分もしてる事だからな。

 

「私は……私達は、超の計画を止めた。あいつを否定したんだ。それであいつらは処罰を受ける事になった訳だが……、私達には私達の責任があるんじゃないかと思うんだ」

 

「私達の……責任?」

 

 神楽坂が不思議そうな顔をする。みんなもいまいちピンときていない様子だ。

 

「私は、魔法をバラした方が幸せになる人も居る、という超の論理は認められると思うんだ。実際に、超の計画が上手くいった状態で、今より幸せになれる人がいた場合、私達はその人達の幸せをたたき壊した事になる。私達が、私達の手によって」

 

「そんな……!」

 

「千雨さん。それは確かにその通りかも知れませんが、それは私達にはどうしようもない事では

ないですか?」

 

 綾瀬が反論してくる。確かにな。

 

「確かに。私達にはどうしようもない事で、どうにかする必要もない事かも知れない。私達が超の計画を止めたからって、その計画が成功していた時の事まで考えてやる必要はないのかも知れない。でもな? 思うんだ。それでも私には、超を止めた私には、あいつらの計画を止めた責任があるんじゃないかって」

 

「千雨殿……しかしそれは……少しばかり考えすぎではないでござるか?」

 

「ああそうだ。考えすぎだし、気の回しすぎかもしれねえ。でも私は思っちまったんだよ。超が

救おうとしていた人間、その十分の一でも助ける事はできねえかってな」

 

「フン……」

 

 マクダウェルが冷笑する。馬鹿な奴だと思われてるんだろうな。

 

「で、でもでも。責任って言っても何をどうするんですかー?」

 

 宮崎が聞いてくる。それに対する答えはもう用意してある。

 

「私が今考えているのは、超がやろうとしたような性急なものじゃなく、一般人に魔法を知らしめる事が出来ないかって事なんだ。もちろん普通にやったら魔法バレって事でオコジョ刑になっちまうから、まずは魔法使い側の体制に届け出とか申請とかをして、活動を認めてもらってから動かなきゃならないだろうがな」

 

「一般人に、魔法を知らせる。ですか」

 

 桜咲が驚いた様子で頷く。

 

「まず魔法使い側に、限定的ではあるが魔法バレについて認めてもらう。次に一般人の側に少しずつ魔法の事を教えていく。そして最終的には穏やかに、長大な時間をかけて、魔法を世界中に知らしめる。超がやろうとした事をもの凄い時間をかけてやろうって訳さ。これが、私が考えた、超の計画を止めた私の責任の取り方だ」

 

「長谷川さん……」

 

 ネギ先生が僅かに微笑んでいる。賛同してもらえるだろうか? 私の、このバカな企みを。

 

「このメンバーを集めたのは、手始めに活動する為のメンバーになって欲しいからだ。私は繰り

返し責任って言葉を使ったけど、別に重荷に思わなくていいし、遠慮とかもいらない。本心で参加したいと思ってくれた場合だけ、参加してくれればいいからさ」

 

 私はみんなの顔を見回した。肯定的な顔、迷ってる顔。様々な表情がそこにあった。

だけど私の心はもう決まっていた。超を止めた者として、超の計画を引き継ぐ。例え時間がかかっても、一般人に、世界に魔法使いを認識させる。さーて、大変な大仕事だぞ。

 

 




 まずは前話の解説から。超あっさりやられすぎじゃね? という感想があるでしょうが、これは千雨の能力が特異すぎる事が原因です。千雨の使う風術は意識の上で「攻撃する」と考えただけで発動します。数十メートル、数百メートル離れていても定点攻撃できます。超がこれを防ごうと思ったら、千雨が考えたように葉加瀬の体に覆いかぶさって、抱きつくような形になり、なおかつ魔法の障壁を発動しなければなりません。だけど超は基本魔法を使えないというね。
 つまり……千雨が十全の状態で超の居る飛行船上に現れた時点で、超側は詰んでいたのです。第12話で、超が千雨だけを個別で説得しようとしているシーンがあったかと思います。何故超が千雨だけを説得しようとしたか、それは彼女が敵になると高い確率で計画が失敗すると分かっていたからです。
 抑えとして真名やロボ軍団を配置していましたが、真名は楓が抑え、ロボ軍団は千雨によって蹴散らされました。頼みの時間跳躍弾も千雨の風の結界(障壁)の前では通用しなかったのです。
 カシオペア(タイムマシン)はどうした? と思われるでしょうが、タイムマシンを使うにもある程度、超が「考える」意識する時間が必要です。その時間すら許さず定点攻撃で狙撃された、
頭を撃ち抜かれたのでした。
 

 話を16話に移します。原作を読んでいる時から不思議だったんですよね。未来人であろうと、過去に来て罪を犯したなら、過去で裁かれるべきじゃないか? 逃げるように未来に帰るのは卑怯じゃないか? と思ったのです。
 そして千雨の提案。原作では魔法世界編まで行くと結局世界中への魔法バレは行われるんですけどね。だけどそういう「結果的に」じゃなくて、超の計画を阻止した時点で、学園祭終了直後に、こういう事を言い出す人が一人くらい居てもいいんじゃないかなーと思ったので千雨に提案させました。ネギ辺りは賛同してくれるような気がします。
 超の計画を止めたのに超と同じ事をするのか? と思う方もいるでしょうが、あくまで千雨がこだわったのは魔法使いが一般人に(強制認識)魔法を使う事と、短時間でそれを行う事によって魔法使いの事情で一般人に多大な迷惑がかかる事です。もし超が、長大な時間をかけて、ゆっくりと事を行い。誰にも迷惑をかけないような方法を選んだなら千雨も賛同したと思います。

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