風の千雨   作:掃き捨て芥

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 今回はネギま! だけを知っている人向けに、精霊術の説明をします。
千雨の扱う風術とはどんなものなのか。それを知って頂けたらと思い書きました。



第2話 風術、精霊術

 あれから、千雨の日常は一変した。まず変わった事として、家族の事がある。父親と母親を失った自分を、近衛学園長が引き取ってくれたのだ。近衛学園長が自分の保護者となり、彼と一緒の家で過ごす事になった。学園長――おじいちゃんと呼べと言われるが頑なに学園長と呼んでいる――は両親を失った自分に優しくしてくれる。だたその優しさを素直に受け取れない自分がいる。

 

 彼を家族と呼ぶ事、彼の家から学校に通う事、共にまだ慣れない。だが慣れていくしかないのだろう。両親を失ってしまったのだから。

 

 次に変わった事が魔法使いの世界を知った事だ。麻帆良は魔法使いが住む街。この世界には魔法があり、気と呼ばれる力があり、精霊術もある。そこで聞いたのだが、どうも自分の持つ精霊術というのは特殊な力らしい。

 

 精霊術とは、今より遙か昔に栄えた体系の力らしい。千年以上昔、この国では精霊術が妖を退治する力として用いられていたらしい。妖、妖怪と呼ばれるものも確かに存在するのだと、初めて知った。その妖怪を退治する為の力として精霊術はあったらしい。理事長が言うには、精霊術は妖怪と反する力らしい。退魔の力として精霊術は一級品、との事だ。だが今日本を含めた世界では、精霊術は廃れてしまっている。魔法の方が汎用性が高いからだ。

 例えば、火の精霊術を使える者がいるとする。その者は火の力を操り「燃やす」事に特化した術者となる。妖怪退治でも火で燃やす攻撃が主体となる。だが逆に言えば火を灯す以外の事ができないのだ。千雨で言えば風を使えるが、風しか使えないという感じだ。

 

 魔法は違う。使う者の適性にもよるが、何かを燃やす事、水を出す事、空を飛ぶ事、妖怪を退治する攻撃を行う事、人の傷を癒やす事、念話で遠くの人と会話する事、様々な事が一人の人間に出来るようになる。汎用性があるのだ。

 

 それに比べると精霊術はその力そのものの特性(火・水・風・地)や、妖怪を退治する力に特化していると言っていいだろう。千雨の扱う風術は、主に補佐に特化した力と言われる。風によって遠くまで声を届けたり、空を飛んだり、精霊の力の流れを調べたり、風を操って打撃や斬撃の攻撃を行ったりできる……らしい。まだ本格的に習っていないので良く知らないのだ。

 

 それで、これからその力の使い方を学ぶという訳だ。

 

 

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「さて、これから貴方は風術の扱い方を学んでいく訳だけど、最初に覚えて貰いたい事がある。精霊は便利に使える使役獣なんかじゃない。あくまで力を貸して貰える対象だという事を」

 

 風術の先生、師として招かれた人物は開口一番そう言った。

 

「私達はあくまで力を貸して貰うだけ。だからその力を自分の物だと勘違いしてはいけないよ。私達が操る力は精霊に貸して貰った力だけ。決して自分の力なんかじゃないんだ」

 

 そう言ってこちらを見据えたその人物は、中国から招かれたという(ファン)一族という風術師の大家から来た人だ。自分に術を教える為だけに来てくれたらしい。真面目に学ばなければ。

 

 風術の鍛錬は苦難の連続だった。まず、自分に超常の力があるというのを正しく認識しなければならなかった。自分に「特別な力」がある。そんな事を考えた事は一度もなかった。だというのに自分には力があると言われた。しかも何やら特殊な力らしい。そんな事を考えるのは自分で思う以上にストレスとなった。

 

 次に、風の精霊を捉える、認知する事から修行は始まった。これにかなり苦労した。というのも一番最初に自分が力を発現させた時は無意識だったのだ。無意識に振るった力を意識的に使って見せろと言われても、どうすれば良いのか分からなかった。

 

 風の精霊を認識できるようになったら次はその力を操る事に腐心した。千雨はどうやら師匠曰く「才能の塊」との事で、精霊と交信する事にはさほど苦労しなかった。だが精霊と意思を通わせる事が出来たとしても、細かい技術は別物だ。文字通り針の穴をも通すような繊細なコントロールを要求された。また、全ての精霊に話しかけ、お礼を言うのも忘れずに行う。力は借りているだけなのだ。感謝の気持ちを忘れない。

 

 最初に習ったのは風を操って遠くに声を届かせる訓練だった。風を操り、試しに学園長に声を届けてみた。次に細かいコントロールを行い、特定の人物に「だけ」声を届かせる方法。その次は逆に風を操って遠くの音を聞く練習。プライバシーという言葉が裸足で逃げ出すような練習ばかりする事となった。

 

 その次に習ったのは風の精霊を操り、精霊の動きを調べられるようになる事だ。この世には火・水・風・地の四大精霊が存在する。自分が操る風以外の精霊の動きを探査出来るように訓練を重ねた。

 

 そこまで習得した所、師匠から認められて空を飛ぶ訓練が始まった。空を飛ぶのは風術の基本ではあるが扱いが難しいので、習い始めたばかりの初心者が手を出すと痛い目を見るとの事。なんでも調子に乗って落ちてしまう者も多いのだとか。

 

 空を飛べるようになった事で、師匠から風術師を名乗る事を許された。これだけ出来れば上出来との事。次に習ったのは中級の技術で、物理法則から解き放たれる事だ。どういう事かというと、精霊術は物理法則に従わず独自の法則で発現させる事が可能らしい。

 

 分かりやすく説明してみよう。火の精霊術師がいたとする。火を燃やすには酸素が必要、とは小学生でも知っている事だ。火の精霊術師も基本的にはその物理法則に従って火を燃やすのだ。だが、一定以上の力量を持つ精霊術師であれば、酸素がない場所でも火を燃やす事が出来るようになるらしい。同じように風術師でも物理法則を超越して風を操れるようになれ、と言われた。かなりの無茶ぶりではあったが、何とかこの技術もものに出来た。全く風が吹く事のない場所で風を起こす事が出来るようになったのである。

 

 精霊術に必要なもの、それは強い意志だ。魔術とは、「原初の法則」に自分の意思を

割り込ませ、新たな法則を便宜的に創り出す事によって事象を操る行為を言う。「世界」というシステムにハッキングし、プログラムを書き換えるという表現も出来るだろう。つまり、物理法則で風が起きない状態だったとしても、強い意志で物理法則を否定すれば、物理法則を超越して風を起こす事が出来るのだ。具体的には、千雨が「風を起こす」という強く念じる事で、物理法則を超える程の念を込めなければならない。それが出来た時、千雨の意思は物理法則を凌駕するのだ。

 

 そこまで習った所で、初めて攻撃する為の術を習う事が出来た。主に妖怪などを退治する際に使う術だ。だがこの術を習う事には抵抗があった。力に目覚めた事件が事件だけに、人や何かを攻撃する術など習いたくなかったのだ。

 

「甘えるな。千雨」

 

 師は言った。何かを為すには力が必要だと。自分の意思を押し通すのにも力が必要なのだ。手にした力で無闇やたらと人を傷つける必要はない。ただ大切なものを守る為に力を振るう事もあるだろう、と。

 

 その時に、魔法使いに対しての優越についても習った。魔法使いは汎用的な力を扱えるが、必ず呪文を唱えて、幾ばくかの時間を要しなければならない。それに対して精霊術は意思を働かせるだけで発動するのだ。同じ力量の魔法使いと精霊術師がいたら、必ず精霊術師の方が先に術を発動できるのだ。これは大きなアドバンテージだ。更に、千雨の使う風術は威力こそ低いものの、速さに関しては四大随一だ。千雨は同じ年の魔法使いや学園長との模擬戦を行う事によって、自分の能力の優れた部分、劣っている部分を正確に把握した。

 

 様々な術を操れるようになり、千雨は風術師になった。

 

 

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「千雨ちゃんや、君も来月から中学生になる。その前に話しておくべき事がある」

 

 中学入学を控えたある日、学園長から話をされた。なんでも麻帆良の学校には魔法生徒というくくりがあるとの事。千雨も精霊術師という特殊な分類ではあるが、その区分けに入るので注意して欲しいと言われた。ちなみに中学からは全寮制だ。近衛学園長との生活もこれで終わりになる。

 

(そんな事言われてもな)

 

 正直、困る。元々自分は力が欲しかった訳でもないのだ。

 

(そこん所、私は魔法生徒とか先生なんかとは違うんだよな)

 

 魔法使いや、その見習いである魔法生徒は自分から魔法を使いたいと思ってそうなった人達ばかりだ。だが千雨は違うのだ。まず力があり、その使い方を学んでいっただけなのだ。

 

(まあ適当にやるさ)

 

 そんな事を思い、中学生になった。

 

 




 なるべく早く原作に突入したかったので、小学生の千雨が修行するシーンはこれで終了です。次回は中学生になった千雨です。
 風術の説明、特に重要なのは速さですね。精霊術は意思を働かせるだけで発動できます。特に千雨の扱う風術は速いです。魔法使いに対してこれ以上ないほどの優越になります。その所はこれからの話の中で、戦闘があればお見せする事になるでしょう。

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