風の千雨   作:掃き捨て芥

8 / 20
 エヴァアンチがあります。苦手な方はご注意を。
 また、後書きにおいて若干不適切な表現があります。同様にご注意下さい。



第7話 後始末

「厳罰を求めます」

 

「…………」

 

「……いや、あのね。千雨君」

 

「厳罰を求めます」

 

 一同は学園長室に介していた。ただしネギ先生と、神楽坂の二人は橋の上で高畑先生に

諭されて学生寮に帰っている。

 

「マクダウェルは一般人に手を上げました。それは魔法使いのルールでも違反に当たる筈です。

厳罰を求めます」

 

 正直に言えば、女子学生達に噂になるくらい話が広まっているのに、調査が不十分だった、

事件の犯人を特定、拘束などをしなかった学園側にも言いたいことはある。

 だが私も被害者女子達と同じ寮に住んでいて何も気づかなかったのだ。私に学園を糾弾する

資格はないだろう。

 

「ふむ……確かに千雨ちゃんの言う事も最もじゃ。しかしな」

 

「しかしじゃありません。厳罰を求めます」

 

 即答する。今回はあのガキ教師の時のように妥協するつもりはない。

 

「……ふぅ」

 

 学園長がため息をつく。私は扱いにくい人間に思われているんだろうな。それでもここは引けない。

引いちゃいけない。

 

「確かにエヴァは罪を犯した。じゃがそこに至る経緯というものがある。情報酌量の余地はあると思うがのぉ」

 

 それは。

 

「マクダウェルが麻帆良に閉じ込められている事ですか」

 

「そうじゃ。彼女を閉じ込めたのはサウザンドマスターと呼ばれる魔法使いじゃ。じゃが彼は10年前に亡くなっておる。彼が力任せに呪いをかけてしまったが為に彼女はもう15年もの長きにわたり学生生活を強いられておるのじゃ。その境遇から今回の事件を起こしてしまったのじゃろう」

 

 学園長がマクダウェルに目を向ける。奴は温情をかけられた事が気にくわないのかふいっと

そっぽを向いた。

 

「その話は私も知っています。でもそれは理由になりませんよね?」

 

「むぅ」

 

 マクダウェルの奴が自分にかけられた呪いを解く為に、術者であるサウザンドマスターの血縁、子供であるガキ教師の血を吸おうとした。そして戦いになった。それが事の顛末だ。だがその事に襲われた女子生徒達は関係ない。

 

「ネギ先生と戦う為に魔力が必要。だから桜通りで一般人から血を吸って魔力を集めてたって言うじゃないですか。無関係な人間を巻き込んでいる時点で情状酌量なんて甘過ぎます」

 

 私はそこで、話を聞いていた明石教授の方を向いた。

 

「明石教授。貴方はどう思いますか。自分の娘がネギ先生と戦う為の燃料にされたって聞いて」

 

「…………確かに君の言う通り。気分の良い話じゃないですね。私もエヴァンジェリンに厳罰を

与える事に賛成です」

 

「明石先生!」

 

 高畑先生が声を上げるが無駄だろう。たった一人の自分の娘を半吸血鬼化されたんだ。許せる筈がない。

 

「それでも、じゃな」

 

 私は更に言葉を重ねようとしている理事長に向かって自分の考えを述べた。

 

「……例え話をしましょうか? 成人男性が夜道で佐々木達女子を誘い込んで暴行したとします。思いっきりぶん殴って傷も出来るし血も流れるんですよ。殴られた女子は多大な恐怖を感じるでしょうね。それをですね、魔法で傷を治して『なかった事』にしてしまうんですよ。血は失って

しまいますがそれは吸血したものとして扱います。そして感じた恐怖も記憶を魔法で操作する事によって『なくしてしまう』んです。それがマクダウェルのやった事です」

 

 私は自分でも若干きついと感じる言葉でマクダウェルを糾弾した。こいつのやった事はとても

許される事じゃない。

 

「千雨君! それは……!」

 

 高畑先生がまた声を上げた。だがそこで止まってしまう。私は自分の言っている事が間違って

いるとは思わない。私の言っている事は正論だと思う。だからこそ生半可な擁護の言葉なんて

言えないのだろう。

 

「……ふん。確かに貴様の言う通りだな。私は一般人を――佐々木 まき絵達を巻き込んだ。否定はせんよ。だがな、私が黙って罰など受けると思うか?」

 

 マクダウェルはこちらに挑発的な視線を向けてくる。それは虚勢か、それとも脅しか。

 

「てめーが大人しく罰を受けないってんなら私が力ずくでも受けさせてやるよ」

 

「ほう? 人間の小娘風情が言うじゃないか。貴様の攻撃程度が私に通じると思うのか?」

 

 私達はお互い睨み合い、一触即発の状態になる。

 

「やめんか!」

 

 学園長が机を叩いて私達を止める。学園長に言われちゃ仕方ない。ここで諍いを起こしても仕方ないからな。

 

「それで……マクダウェルにはどんな罰を与えるんですか?」

 

「…………」

 

 そこから暫くその場は静寂が支配した。魔法使いの世界に縁遠いとはいえ、千雨でも知っている。魔法使いの世界では賞罰などが整備されていないのだ。普通の社会であれば警察や裁判所などの機関が存在するが、魔法使いにはそういったものがない。魔法使い独自のルールで裁くしかないのだ。

 

「ここはやはり……魔力封印の刑が適当かのう」

 

 しばらく話し合いが行われた後、学園長が結論を口にした。魔力封印、か。直接の罰を与えて欲しい所だが、普通の社会であれば禁固こそが刑罰になるのだが、マクダウェルは既にその罰を受けているようなものなので、扱いが難しいのだ。人をオコジョに変えるオコジョ刑も検討されたが、学校に通っている手前、別の生き物に変えるのも難しいとなった。それ以前に不死身の吸血鬼

であるマクダウェルってオコジョに出来るのか? 

 私としては普通の牢屋などに入れて監視して欲しいのだが、魔法使いの世界がそのようなルールを持たない以上、一魔法生徒である自分がどれだけ主張してもそれ以上の刑罰を受けさせるのは

厳しいようだ。

 結局、マクダウェルに課せられる刑罰は魔力封印の刑になった。現在でもかなりの量の魔力を

封印されているマクダウェルだが、それでも微量の魔力は保持している。それすら完璧に封印し、そこらの一般人未満にしてしまおうというのがその刑だ。

 

「千雨ちゃんも、それで納得してくれるかのぉ」

 

「納得するもしないもないですよ。私は所詮、一魔法生徒でしかありませんからね。マクダウェルの処遇に口を挟める立場じゃありませんし。……それでも希望を言えばもっと厳しい罰を下して

欲しい所ですが」

 

「これ以上の罰というと、それこそ家の一室に閉じ込めて常時監視するくらいしかないのぉ。それも監視する人手などを考えれば現実的ではないしのぉ」

 

 これが一般の社会であればその刑罰を受けさせる所だが。魔法使いのルールは違う。

 全ては魔法使いのルールに則って決められる。魔法使いのルールで定められていない事はどうしようもないのだ。

 

「分かりました。それで納得しますよ。それじゃあ私はもう寮に帰りますがいいですか?」

 

「むぅ。千雨ちゃん。ちょっと待ってくれるかのぉ。魔法先生の皆も聞いてくれぬか」

 

 学園長はそう言って皆に向き直った。

 

「今回の事件……勿論事件を起こしたエヴァ本人に問題がある事はたしかじゃ。しかしのぉ、

今までエヴァの問題を他人事として捉えていたわし達にも問題があるんではないかと思うのじゃ」

 

 私達にも、問題?

 

「今までわしはエヴァの窮状を知りながらも最大限に力を尽くそうとはしておらなんだ気がするのじゃ。それは心のどこかでサウザンドマスターがいつか来てくれると思っていた事でもあるのじゃが。しかしこの事件が起きて改めて思うのじゃ。わしは困っているエヴァの為に何かしてやれたのかと」

 

 マクダウェルの為に、何か。

 

「わし達は心のどこかでエヴァの問題を他人事として考えていたのではないかのぉ。いつか誰かが何とかしてくれる、という風に。そんなわしらの無関心さが、今回の事件を招いた部分も少なからずあるのではないかのぉ」

 

 私達が、この事件を招いた……か。擁護の言葉を向けられたマクダウェルは相変わらずそっぽを向いていて、そのまま口を開いた。

 

「おいじじい。なめるなよ。私は中途半端な同情などいらんぞ」

 

「そうじゃな。中途半端な同情などは何の意味もないものじゃ。しかし中途半端でなければ

どうじゃ? 本気でおぬしの事を心配し、心を砕くものが現れたら……」

 

「……ふん。そんな奴など現れはしないさ」

 

 どこか寂しそうに、マクダウェルは言った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 私は学園長室から退室し、学生寮までの道を歩いていた。風術を使って空を飛んだりはしない。それは魔法使いのルールに反するからだ。

 

(私達にも問題はある、か)

 

 その道中で、先程の理事長の言葉を思い出す。

 

「わし達は心のどこかでエヴァの問題を他人事として考えていたのではないかのぉ。いつか誰かが何とかしてくれる、という風に。そんなわしらの無関心さが、今回の事件を招いた部分も少なからずあるのではないかのぉ」

 

 私達の無関心さが、マクダウェルを追い込んだ、か。確かにそう言う部分もあるのかも知れない。

 

(でもだからってあいつのした事を許すかどうかは別問題だ)

 

 そう思いながらも、心のどこかで良心が疼くのを感じていた。私は中学一年の時から

マクダウェルとクラスメイトだった。魔法生徒扱いとなった事でマクダウェルの事情も

聞いていた。だけど、『何もしなかった』

 

(私は……)

 

 マクダウェルのした事を許せない。しかしそれと彼女が囚われている事は別問題だ。

 

(私は、マクダウェルに何かしてやれるのだろうか)

 

 そんな風に、これから先の自分とマクダウェルの関係に思いを馳せ、帰路につくのだった。

 




 作中で千雨は言葉を濁していますが、つまりは「そういう事」です。成人男性の魔法使いが、
10代の女子に「そういう行為」をし、怪我をさせ血を流させ、身も凍るような恐怖を与えたとしましょう。その後に治癒魔法を使って傷を治すのです。怪我は治ります。流れた血は吸血されたものとして扱います。そして感じた恐怖などの感情は魔法で記憶を消す事で対処します。それでその女子は襲われる前とほとんど変わらない状態に戻ります。つまり、「何もなかった事」になる、
できるんです。
 こんな事を言うとそこまで言う事ないだろ! と言われるかも知れませんが、エヴァのやっている事ってつまりそういう事ですよね? だから私はこの事件に関しては全面的にエヴァが悪いと思っています。
 エヴァが酷い状況に追い込まれていると言っても、人を傷つけたら加害者です。
 被害者からしたら加害者が辛い状況にあったんだ! と言われてもそれがどうしたってなもんですよ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。