毒蝶と巨躯   作:kamiomiya

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12話 継子羽化

ジャックは噛み潰され、折れ曲がり、球体となった、

コインの欠片から視線を外し、ゆっくりとカナヲを見上げた。

 

声は低く叱責でも嘲笑でもない。

ただ――現実を突きつける声だった。

 

「……しのぶの継子としてな」

 

一拍。

 

「その庇(ひさし)の下での加護もぼちぼちと、お終いだ」

 

食卓の空気がぴたりと止まる。

ジャックに噛み潰され、折れ曲がり、球体となったコイン。

それはもう選択を肩代わりする道具ではない。

 

「コインも、こうなった」

 

指先で金属片を軽く弾く。

 

「お嬢さん…」

 

その呼び方だけは、変えない。

一歩も近づかない。

だが言葉は、逃げ場を塞ぐ。

 

「自分の足で歩け、」

「自分で選べ、」

「自分で決めろ、」

「自分で背負え!」

 

カナヲの胸が強く上下する。

 

「しのぶの後ろに立つだけの継子でいるならそれでもいい」

 

視線が鋭くなる。

 

「だが――」

 

一瞬の沈黙。

 

「後継者として名乗るなら話は別だ!」

 

しのぶの名を初めて重く置いた。

 

「柱になる覚悟を、そろそろ決める時期じゃねえのか」

「いつまでも、しのぶの後ろにいるのは居心地がいいだろうがな…」

「自分の名で柱を名乗る覚悟を持て!」

 

しのぶは、口を開かなかった。

その瞳は、ただ静かにカナヲを見つめていた。

止めない。 肯定もしない。

――選ばせている。

 

炭治郎は息を詰めたまま、カナヲを見つめる。

 

庇の下は確かに安全で居心地がよかった。

選ばなくても、生きられた。

 

だが。 それは同時に、

誰かの背中の影でしかないということでもある。

 

カナヲは震える手で折れ曲がり、球体となったコインを拾い上げた。

 

痛い。指先が切れる。血が滲む。

――それでも、離さない。

そして、顔を上げた。 涙は残っている。

だが、目は逃げていない。

 

(……選ぶ)

(……怖い)

(……でも)

 

胸の奥で今まで聞こえなかった音が鳴る。

自分の意志が、動く音。

 

ジャックは、それを見逃さなかった。

 

「……いい貌だ!」

 

短く、そう言った。

 

「その貌だ」

「それが、選んだ証拠になる」

 

一歩、引く。

 

「覚えとけ」

 

低く、静かに。

「庇を出た瞬間から誰もお前を守っちゃくれねえ!」

「だが!!」

言葉はそこで終わらなかった。

 

「――だからこそ!」

 

ほんの一瞬、笑ったようにも見えた。

 

「誰かに、コインに、選んでもらった道なら、」

「迷った時、間違った時には人のせいにできるがな…」

「自分で選んだ道なら、最後まで自分で歩け!」

「それが、強くなるってことだ!!」

 

カナヲは、

折れ曲がり球体となったコインを握りしめたまま、

迷わず、己が意思で立っていた。

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