ジャックは噛み潰され、折れ曲がり、球体となった、
コインの欠片から視線を外し、ゆっくりとカナヲを見上げた。
声は低く叱責でも嘲笑でもない。
ただ――現実を突きつける声だった。
「……しのぶの継子としてな」
一拍。
「その庇(ひさし)の下での加護もぼちぼちと、お終いだ」
食卓の空気がぴたりと止まる。
ジャックに噛み潰され、折れ曲がり、球体となったコイン。
それはもう選択を肩代わりする道具ではない。
「コインも、こうなった」
指先で金属片を軽く弾く。
「お嬢さん…」
その呼び方だけは、変えない。
一歩も近づかない。
だが言葉は、逃げ場を塞ぐ。
「自分の足で歩け、」
「自分で選べ、」
「自分で決めろ、」
「自分で背負え!」
カナヲの胸が強く上下する。
「しのぶの後ろに立つだけの継子でいるならそれでもいい」
視線が鋭くなる。
「だが――」
一瞬の沈黙。
「後継者として名乗るなら話は別だ!」
しのぶの名を初めて重く置いた。
「柱になる覚悟を、そろそろ決める時期じゃねえのか」
「いつまでも、しのぶの後ろにいるのは居心地がいいだろうがな…」
「自分の名で柱を名乗る覚悟を持て!」
しのぶは、口を開かなかった。
その瞳は、ただ静かにカナヲを見つめていた。
止めない。 肯定もしない。
――選ばせている。
炭治郎は息を詰めたまま、カナヲを見つめる。
庇の下は確かに安全で居心地がよかった。
選ばなくても、生きられた。
だが。 それは同時に、
誰かの背中の影でしかないということでもある。
カナヲは震える手で折れ曲がり、球体となったコインを拾い上げた。
痛い。指先が切れる。血が滲む。
――それでも、離さない。
そして、顔を上げた。 涙は残っている。
だが、目は逃げていない。
(……選ぶ)
(……怖い)
(……でも)
胸の奥で今まで聞こえなかった音が鳴る。
自分の意志が、動く音。
ジャックは、それを見逃さなかった。
「……いい貌だ!」
短く、そう言った。
「その貌だ」
「それが、選んだ証拠になる」
一歩、引く。
「覚えとけ」
低く、静かに。
「庇を出た瞬間から誰もお前を守っちゃくれねえ!」
「だが!!」
言葉はそこで終わらなかった。
「――だからこそ!」
ほんの一瞬、笑ったようにも見えた。
「誰かに、コインに、選んでもらった道なら、」
「迷った時、間違った時には人のせいにできるがな…」
「自分で選んだ道なら、最後まで自分で歩け!」
「それが、強くなるってことだ!!」
カナヲは、
折れ曲がり球体となったコインを握りしめたまま、
迷わず、己が意思で立っていた。